魔王 in to the 学校へ行こう
皆さん、犬神猫々です。今回俺はサングラスをして高校に来ています。私学の中高一貫校、一欄台学園にアズリたんが交流留学として、彼女の保護者という形です。
「クハハ! 貴様ら! 余と同じような服装をしている。ガクセイという連中らしいな! くるしゅうない! 余の事を至高の名、アズリタンと呼ぶ事を許する! しかし凛子は何処だ?」
凛子ちゃんはいない。だって学校違うもの。世界を滅ぼせる程の力を持つアズリたんだが、なんと地球においては魔法は使えない。まさに見た目通りのお子様でしかないのだ。
異世界からの留学生に学生達も歓迎ムードである。この学園は海外の生徒も多く、LGBTにも明るい。なんなら女装している生徒や男装している生徒までいる。
日本大丈夫か?
俺が高校を卒業してかれこれ六年。時代は変わった物だな。アズリたんは席を選ばれる。真面目そうな女生徒の隣を先生に指示され席まで案内されている時。
金髪に色とりどりのエクステをつけた女子と目があったアズリたん。
「かわいー! よろー! 私、杏子。きょうこだけど、あんこってみんなに呼ばれるよー。ウケるでしょ!」
日本のギャルのこのコミュニケーション能力の高さよ。それにアズリたんはめちゃくちゃ笑顔になる。
「クハハ! 気に入ったあんこ。余はあんこの隣が良いぞ!」
「えっ、マジ? いいんじゃない? ヨッシー、席かわったげなよー」
「いいよー」
友達ギャルも秒で了承。アズリたんの席は元々のクラス委員の女子から朝日杏子さんの隣になった。
「アズちー、髪サラッさらじゃん! ちょーすげぇ! どんな手入れしたらこんな風になんの?」
「余の髪か? カイザーデビル達がこぞって洗いたがるから奴らに任せておる! あんこも余の城にくるか!」
「まぢ? 城に住んでんの! アズちーお嬢?」
「クハハ! 余は魔王である!」
一応、異世界の魔王だって説明を担任の先生はしているのだが、杏子さんはネイルいじったりしてて全然聞いてなかったのだが、リカバーの仕方がギャルは逸品だった。
「すげーじゃん! アズちー! ほら」
パシャリ!
スマホでアズリたんと撮影。おっと、これダメじゃなかったっけか? どうやらアプリで動物の耳やら鼻やらが追加される写真が撮影できるらしい。
これならギリ、大丈夫かな?
「みてみてぇ! アズちー超かわ!」
「お? おぉ! これは余で、これは杏子か! なんだそのアイテムは! クハハ! 凛子とも一緒にやりたいぞ!」
「えー? 凛子ちゃんってだれだれ? 杏子にも紹介してよー!」
「クハハ! 構わんぞ! しかし、ここには凛子はおらぬのか? マオマオよ! 何故、こっちに来ぬ! 遠くて突っ立っておっては寂しかろう?」
俺は学生ではないので教室に入り学生達と関わる必要はないが、一応来賓であるアズリたんの保護者であり抑止力でもある。
「アズリたん、凛子ちゃんは違う学校で、ここにはいないよ」
「お兄さん、だれ? アズちーのお兄さん? でも全然似てねー! ウケる!」
「えっと、俺は」
アズリたんが余計な事を言ってくれた。
「クハハ! そやつはマオマオ。余の結婚相手よ!」
「違っ……」
「えぇ! マジ? めっちゃ歳離れてんじゃん。すげぇ愛!」
他の生徒達は俺を凄い目で見ている。ロリコンか何かと思われているのだろうか? が、杏子さんはなんか一人感動している。
「クハハ! そうであろう! そうであろう! 挙式にはあんこ、貴様も呼んでやろう!」
「本当に! ちょー嬉しい!」
「クハハハ! マオマオよ! 凛子がおらぬのであれば呼ぶといい!」
そんな無茶な……、一応葛原さんにはアズリたんの希望は連携しているけど……普通の学校ではアズリたんは受け入れが難しかったので、今に至るのだ。
一つ驚いた事、アズリたんは高校生の勉強を語学、理系、音楽と一授業で理解していた事である。アホの子だけど馬鹿ではないらしい。俺の推測でしかないが、魔法の理論は言語翻訳と数々の数式の組み合わせみたいな物なので、学業の基本ができているんだろう。
昼食、アズリたんは学食に杏子さんとその友達らしいギャルの子達とワイワイ食事をしている。俺は、焼きそばパンを購買部で購入し、久方ぶりにエンゲル係数のヤバいパンに舌鼓を打つ。
午後の授業も満足そうにアズリたん楽しんで、あっという間にアズリたんの地球の学校見学は終わる。
放課後、杏子さんがどうしてもアズリたんに連れて行きたいという場所があるとの事で、俺は葛原さんに確認をとり、了解を得た。
その連れて行きたい場所というのが……。
「ケーキバイキングか……これは、アズリたんが喜びそうだ」
二時間で二千円程。アズリたんがはしゃぎながらケーキを選んでいる中……一人の少女が葛原さんと入店した。
「クハハ! その茶色い茶菓子が取れぬぞ! あんこ!」
杏子さんは飲み物を取りに行っている中で、アズリたんが所望するケーキを取ってくれる人物。
「はい、アズリタンちゃん!」
「クハハ! すまぬな! 凛子、凛子ではないかっ! どうしてここにおる!」
葛原さんが無表情で俺に親指を立てる。この人、アズリたんの希望を叶えたわけか、仕事はできるんだよな。腹立たしい事に……。
凛子ちゃんを杏子さんに紹介するアズリたん。大人しい系の凛子ちゃんだが、杏子さんはめちゃくちゃフレンドリーで秒で仲良くなった。
JKはパネぇな。
俺も葛原さんも料金を払って入店しているわけで、
「とりあえず俺たちも、監視がてらケーキでも食べましょうか?」
「そうですね、いただきましょうか」
俺はケーキを二つ。葛原さんもケーキを二つ。そこで驚くべき事が起こった。
「クハハ! クハハ! うまい! うまいぞ!」
アズリたんは速攻でお代わりを、そして凛子ちゃんと杏子ちゃんも別のケーキを取りに行く。それを見て俺はケーキを平らげ、目の前の葛原さんもケーキを食べ終える。
お代わりに……と思ったのだが……
「葛原さん、ケーキ取りに行かないんですか?」
「いえ、実に美味しいケーキでしたので余韻に浸っているだけですよ……犬神さんこそ、取りに行かないんですか?」
「いやぁ……ハハッ」
学生時代はケーキなんて何個でも食べれたような気がしていたのだが……正直もう十分かなとか思っている俺がいて、おそらく葛原さんも同様の状況なんだろう。
だが……
認めたくないものだな。
歳を取るという事は。
「……お代わり行っちゃおっかなぁ……俺、まだまだ甘い物いけますし、しょうみまだ学生いけるんじゃないですかね」
「流石に無理がありますよ。犬神さん、私なら制服を着て彼女達に混ざっても違和感はないでしょうが」
「いやいや、なんの店ですかそれ」
結局俺と葛原さんは最初の二個でギブアップ。大人になると量より質を取ると自分達に言い聞かせた俺たちはなんというか虚しい。
ケーキを楽しむのも一旦落ち着いたようで、杏子ちゃんが盛り上げ、凛子ちゃんのスマホを使ってアズリたんと凛子ちゃんを撮影していた。
遠くからだから分からないが、なんの編集もされていない写真だろう。
「あれって葛原さん……」
「なんでしょう? ケーキのせいか血糖値が上昇しているようで、少し眠たくてですね。何かを見過ごしてしまう事もあるかもしれませんね」
この人は仕事ができるだけでなくて、空気を読む事もできる人らしい。
「……葛原さん」
「ふっ」
俺に無言で親指を立てる葛原さん。
…………いや、待てよ! 俺が異世界に飛ばされる時、こんな人の心を持っていはいなかったはずだ……
「あの……葛原さん」
「おっと、そろそろ時間のようですね。見てください! あちら、美味しそうなケーキですよ」
「えっ? さっきからあるケーキじゃ……」
どうやら、杏子さんがアズリたんと凛子ちゃんと自分を自撮りしているしている様子。本来なら事案なんだろうが、そこを注意するのは野暮だと思ったのだろう。
まぁ、アズリたん。瞳の色が左右で違うだけでごく稀にそういう人は世の中にいる普通の人間に見えなくもない。
「子供には優しいんですね葛原さん」
「まぁ、公僕として異世界に国民を廃棄する仕事をしていると心が病みますからね。未来ある子供達を見て鋭気を養わないと心が死んでしまいますよ!」
ほう、いいことを言っているようでいて、この人、国民の事なんだと思っているんだ……
アズリたんの滞在日程は一週間。世界一有名なネズミの遊園地やら、日本一巨大な水槽がある水族館やらプラネタリウムやら、サファリパークやら修学旅行のような日程が待っている。
が、しかしである。
「クハハ! 余は凛子とあんこがおらぬところには行かぬぞ! どうしてもというのであれば二人を共にするか、他の連中が余のところに来るかだな! クハハハハハ!」
という事である。葛原さんはそれに動き、凛子ちゃんの学校に掛け合い、残りの日数の学校滞在の許可を取った。そして、異世界の魔王アズリたんが行くのではなく、杏子さんとアズリたん、一蘭台学園の生徒二名が交換留学を行うという裏技みたいな方法である。
俺と葛原さんが作った弁当を持参したり、コンビニ飯を買ったり、学生らしい一週間をアズリたんは過ごして大満足だったようだ。
しかし、国のお偉いさんは異世界の王様を思うようにもてなせなかった事でお見送りの時にやってきた。
「クハハ! 貴様ら! 見送りご苦労である! これをあんこにもらったので! 今度は余が二人を招待をする。楽しみにしているといい! クハハハハ!」
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そう、アズリたんは凛子ちゃん達と撮影した写真をプリントアウトした物を見せて、それを持って異世界に帰るのである。本来没収しなければならない物だが、流石にもうそれを言える者は誰もいない。
俺が、葛原さんと共に国の偉い人にクソ怒られる事になるが、正直な話である。
知るか!




