第4章最終話 いただきます! そしてご馳走様が言える日常
中央・皇都ヴェスタリア、そこで少年と美女はボードゲームを楽しんでいる。
同じ部屋には、様々な綺麗な服を用意させてそれを着飾り楽しんでいる日本人の少女、そして彼女に付き合う中華系の少女。
甘いお菓子をテーブル一杯に広げて食べている欧米系の少女。
そして、一人。ボードゲームを楽しんでいる少年を睨みつけるように見ている少年。手元には一本の剣を握りしめ。
ここはヴェスタリアの王の寝室、寝具を取り払い多目的室として使っている。
各国のボードゲームや、食べ物に飲み物、そして装飾品だって望めばいくらでも用意することができる。彼ら、彼女らは好んで贅沢をしているわけではないのだ。
彼ら、彼女らはボードゲームを楽しんでいる二人に敗れ、代わりに二人に雇われた勇者パーティーと呼ばれたぶっ壊れた力を持った少年少女達。
……とはいえやる事がない……。
その為、自由に自分の時間を過ごしてくれればいいと、雇い主である女性の方に言われ、今に至るのだ。
この国の全権を持っている女性だが、圧政をするわけでもない。
なんなら、国営に関して優れた重鎮たちを選び、国益を倍増させている。それだけはない。
利益は大きく国民達に還元しているのだ。それに国民達が支持しないわけがない。王と王妃を幽閉している二人を王と国民が認めた。
二人のボードゲーム。
動きがあった。終始優勢だった筈の少年の盤面がひっくり返されたのである。それに驚く少年。
そして、女性は勝負を決めれるところでボードゲームを片付けた。
「アルモニカ、そろそろお夕飯の時間にしましょう! ゲームはお預けにします。もっと面白いゲームを用意しましたので、皆さんも行きましょう」
女性にそう言われ、勇者パーティーは言われるがままについていく、食堂はコース料理のようだった。
今までのご馳走を並べるフードロスに女性の方が提言し、食す分だけの調理に変わった。
テーブルマナーも女性に教わりアルモニカと呼ばれた少年も勇者パーティーである少年少女もどこに出しても恥ずかしくない作法を身につけていた。
「……セリューさん。新しいゲームって、私たちにさせたい仕事と関係あるんやろ? 何か教えてくれる?」
「小早川茉莉さん、いいですね! 四神という神々に愛された貴女が味方にいることの幸運、感謝します!」
そう言って水の入った盃をセリューは掲げる。それにジュースや水の入った盃を皆掲げて乾杯。
アルモニカと呼ばれた異常なくらい整った顔をした少年は食事に必死。
目の色を変えて、食事を食べる。今まで、食事が食べられなかったかのように、少々異質な食事風景であった。
しかし、最初こそ動揺したが、今は誰も気にしない。
「勇者様がいれば戦闘とかは意味なくないですかぁ?」
「そうでもないんですよアニー・シルバニアさん! 貴女の規格外の、超魔導士の再来と言われた魔法力も必要です」
セリューは相手を不快にさせるような事を絶対に言わない。貴族連中だろうと平民だろうと、浮浪者相手にでもある。
子供達からすれば……
面倒臭い説教を言わないので、安心して話ができる。
「……全員。アルモニカも含めて同時に行動が必要という事で間違いないか? セリュー女史」
「さすがシャンフォア・エルダーさん。数多の宝貝を身につけた精神力に洞察力。鋭いですね!」
そんな中、肉料理を静かに食べている少年。
この食事中ですら、剣を傍に置いて何も言葉を発さない彼にセリューは当然話しかける。
「不動郁也さん、よほどお食事が美味しいですか? それとも特に今回の件、お話を聞いておきたい事とかもございませんか? なんでもお答えしますよ? おそらく不動郁也さんの持ち場が一番大変ですからね!」
「なら一つ、その仕事が終わったら、俺は自由だな? アルモニカをぶち殺してもいいんだな?」
ハンバーグに夢中のアルモニカを睨みつけてそう言う。
果物のジュースを飲み終えたアルモニカが、
「いつでもいいよ。不動のおにーちゃん」
その瞬間、手元の剣で不動はアルモニカに斬り込んだ。
それを止めようとした他三人だったが、アルモニカはハンバーグを切っているナイフで剣を止めた。
「不動のお兄ちゃんさぁ……僕にめちゃくちゃに負けたのに、まだやる? 僕ハンバーグのおかわり食べたいんだけど?」
「くそっ! なんなんだよその力!」
不動は自分の手元を叩きつけて叫ぶ。何故自分が勝てないのか。
年端も行かないアルモニカに土をつけられる。
おかわりのハンバーグをを食べながら嬉しそうに微笑むアルモニカ。
それに不動は静かに言う……。
「俺は……。何をしたらいい。教えろよ……」
不動は自暴自棄になったように項垂れる。
その姿を見て、アルモニカはハンバーグに視線を移して再び食べ始める。
ここでは何かを強要するような事はない。
しかし、明確にアルモニカはこの中で頂点に位置する存在であり、そのアルモニカが唯一言う事を聞くセリューは事実上の支配者なのだ。
「剣皇の称号を持つ不動郁也さんには、北の地域を制圧していただきたいと思います」
他国の支配をセリューは依頼してきたのだ。
それには、他の三人の少女達も驚く。そして不動は聞き返した。
「は? ここにいる四人で他の国と戦争しろって言いたいのか? テロリストさんよぉ!」
「いいえ、不動郁也さんは何か勘違いされているようですね。私は、北の地域を郁也さんお一人で制圧していただきたくお願いしております。あっ! もちろん、この中央の兵隊は5分の1は連れて行って構いませんよ!」
一人で、一つの国を落としてこいとセリューは言った。
……そんなありえない事、本来であれば従う事はない。が、不動は普通の少年ではななかった。剣を握る。
そして、嬉しそうに笑った。喧嘩好きな表情をして、先ほどまでアルモニカに勝てない事に嘆いていた彼の姿はない。
不動はセリューに一言尋ねた「やり方は?」その言葉に対してセリューは笑う。
セリューは用意されていたコース料理を丁寧に口に運んでいく。スープも一口分残してパンで拭き取る。
「方法は、不動郁也さんのやりたい方法で構いませんよ! ただし、北の王種、犬神猫々さんは殺してはいけませんよ! 彼に中央への服従させる事が勝利条件です」
殺してはいけない、それを聞いて不動は少し顔を顰める。
彼は剣士としての能力を受けて異世界にやってきた。斬り裂き相手を倒す事に特化した彼の力は、殺さずには適していない。
「…………セリューさんよぉ。そいつ以外は斬っちまってもいいんだよな? じゃねーと一人で国落としなんて無理だぜ?」
それは不動の条件、その人物以外は皆殺しにするという。そんな彼に対して仕方がないなぁという顔をするセリュー。
そして、一言だけ彼に忠告をした。
「……非常に強力な剣豪、いえ剣聖でしたか? 最強と謳われている剣士レキがいらっしゃるみたいなのでお気をつけて!」
セリューにそう言われると不動は嬉しそうな顔をした。
「剣士がいるのかよ! いいじゃねぇーか! ぶち殺してやる!」
やる気満々の不動を見て、セリューは微笑む。
そして……。
「では他の皆様にもお願いをします!」
セリューは終始落ち着いた様子。
ゆっくりと、皆にこれからの計画について語り出した
それは耳を疑う話……。
他の三人もそれぞれ東、南、西の制圧を行い同時に東西南北を攻めると。
流石に、それには不動以外は戸惑った。
「セリューさん、ちょっと待ってや! ウチら四人がかりでアルモニカ君に負けてんで? 北はともかく、他の地域におる連中ってアルモニカ君と同等のバケモンなんやろ? みんなで各個撃破の方が良くない?」
四神に愛された巫女である茉莉の意見に他魔法使いのマリーや格闘家のシャンフォアも同意するように頷いた。
そんな三人にセリューは二つの宝玉を取り出すとそれを見せてから話だした。
「これは生命の宝玉、そしてもう一つは支配者の宝玉です。皆さんに力をお与えしましょう。あなた達は決して弱くありません。アルモニカとは相性が悪すぎたんですよ。皆さん、これはゲームです。ゲームをしましょう」
「「「ゲーム?」」」
セリューはとんでもないゲームのルールを話し出した。東西南北を制し、そこの王になれる事。ただし制圧した順番に序列をつけて下位の者は上位の者に従う事。
要するにこの四人の中で上下関係が出来上がるという事。
「悪くない考えだ。仲良しこよしでいる必要はないからな。しかし、魔王退治か……面白い」
「「!」」
中華系のシャンフォアはセリューの話にのった。上下関係が生まれるとなると……
「ええわ……どのみちアルモニカ君に負けてこの世界での役目なくなったし、聖女王とか言う奴倒したらええんやろ?」
「ふぇえええ! わ、私聖霊王って人ですかー」
全員、勇者パーティーはセリューのお願いを聞くことになった。
それに一人だけ、名前を呼ばれない少年が尋ねる。
「ねぇ、ママ。僕は? 僕だけやることがなくない? それはちょっとつまらないよ。僕もどこかの国を制圧したいよー!」
「ふふふ、アルは今回は情報収集係です! 力を使って勝つばかりでは、それはちゃんとした勇者とは言えません! 戦わない勇気を持ちましょう! いいですね? 本当の勇者とは、椅子に座って指示を出しているだけで、一国を滅ぼせる者の事を言うのですよ」
セリューは幼稚園の先生のようにアルモニカをあやす。
気分屋であるアルモニカ。
だが、セリューの言う事は聞く。
彼女が本当の母親であるハズがないのにくっついて甘える。
「うん! ママがそういうなら、僕は今回みんなが国を落とすまで力を使わずに情報収集をするよ! 北にも行ってみたかったし!」
微笑むセリュー、しかし彼女の視線はアルモニカを見ていない。
ここにいる少年少女達は皆、セリューが世界的なテロリストであると知っている。
「でもセリューさんって、ほんまテレビのニュースとかで報道されている人と全然ちゃうわ! 捕まえた捕虜、公開処刑とかほんまにしてたん? 優しいお姉さん、いやアルモニカ君からしたらおかーさんやな! この東西南北制圧もなんか意味あるんやろーし頑張るわ!」
「公開処刑ですか、あれはパフォーマンスですよ。実際のところ交戦でもう助からない方々を安楽死させた時の映像を細工しました。それにしても皆さんお願いしますね!」
深々と頭を下げるセリュー、それは年上のお姉さんそのもの。
言ってほしい事を言ってくれて、子供扱いをしてこない。
まさに、理想の年上の女性像がそこにはあった。
「…………エージェントとか言う連中はどうするんですかぁ?」
「アニーさん、いいところに気がつきましたね!」
セリューは鼻の頭に指を乗せて考える仕草。
「…………彼らは放置で構いません。その為にアルを残しているとも言えますからね。ゆくゆくは私の存在に気づいてこの皇都にやってくるでしょう」
「アルモニカが負けるとは思えないが、かなりのやり手だろう?」
シャンホアの質問に対してセリューは頷いた。
そして、皆に宝玉に映るまだ製造中の巨大なゴーレムを見せた。
「彼らがもしやってきた時は、ようやく完成した。世界平和をもたらす究極のゴーレムでお相手しようと思います! ご安心を!」
「えぇ! ママ! 僕がそのゴーレムと戦いたい! ねぇ、僕と戦わせてよ! お願い! ママ!」
セリューはそう言っておねだりをするアルモニカをぎゅっと抱きしめる。
嬉しそうなアルモニカ。
そして、セリューは少しばかりキツめの言葉でこう言った。
「先ほど私はアルモニカに力を使わない勇気の話をしました」
「う……で、でも……ううん。ママの言ったとおりだね。僕はママに言われた事を頑張るよ!」
セリューはアルモニカを抱きしめ、全ての盤面が揃った事に目を瞑り歓喜した。
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一言言える事はよく寝た! いや、ホント。
俺はめちゃくちゃ疲れていたらしい。
水差しからコップに水を入れて一口。
鏡を見るとそこには可愛い魔女っ子の姿があった。
……マジか! また俺魔女っ子に……とか焦らない。
これはショタ化と同じ。
メタモルフォーゼスキルだ。
長い事魔女っ子でいたので、寝ぼけて変身したんだろう。
まぁ、ウチの拠点にレズっ子はいないので、エメスの抑止力にもなるしこのままでもいいかなと思うし、放っておいても一時間くらいで元に戻る……。
とりあえず顔洗って、歯を磨いて、朝食食って仕事するか。
三人のもん娘はまだ寝ているらしい。
「ザナルガランで結構頑張ったもんな。寝かしておいてやるか」
……いい朝だ。
朝食前に散歩するか。
元々森しかなかったのにここ切り開いたんだよな。
街とは言えないが、集落ができた。
「改めて見ると、店舗予定の建物も沢山できてすげぇな」
プレオープンは本当に少ない店で開ける。
この商店街をただみんなが楽しめればいいや。
「いよいよ。魔物のみんなをバラす時が来たかな」
まずはプレオープンの成功からだ。
大丈夫。
きっとうまくやれる。俺はこの異世界でのイレギュラーに全部勝利してきた。
地球からこっちに住んでいる人たちはもちろん、スペンス達、魔物と共存できると知っている人間だっているわけだした。
しかし、いざその時になると……
「……俺、結構ヘタレなのな。びびってきたわ」
俺は常に一番悪い状況を想定して生きている。その最悪な状況になった時…………俺より、もん娘たちが耐えられるか?
「……貴女は……もしかしてマオマオ様でいらっしゃいますか?」
振り返るとそこにはスラちゃん。
他のスライムたちと朝の日光浴中だったらしい。そこでうろうろしている不審者……俺を見つけたらしい。
俺は手を振ってスラちゃんの元へと向かう。
スラちゃんは見慣れない俺にと惑いながら。
「……マオマオ様は実は人間ではなく、変身や擬態を得意とする魔物なんでしょうか? いずれも幼い男の子、今はとても可愛い魔女の女の子。人間を油断させて、騙して襲う魔物のパターンにそっくりですね。もしかして、それもマオマオ様の作戦なんですか? あぁ! 理解しました! 襲うのではなく、この商店街の取引をしたり運営するのに、成人した姿では警戒させる事もありますから、その仕掛けの一環なんですね! ふふっ、マオマオ様は実に先手を打つのが上手です!」
スラちゃん、凄い深読みをしてくれるなぁ。
前回も今回もさ。
嫌がらせされた結果ですよ
「あはは! ま、まぁそんなところですかねぇ。それに俺は男ですから……。女性の立場に立って見て物事を考えたり、生活してみたり、便利な事や不便を感じる事をね。処理していき、この商店街の過ごしやすさをより高めたいなと……」
流石に無理があっただろうか? チラりと見ると……いけたっぽい。
「さすがマオマオ様です! どうも人間社会においては不公平な事が多く感じます! 男性のお店に私が買い物にいくと、おまけをたくさんいただけますが、ホブさんは貰えません。逆に女性のお店に私が行くと冷たい対応をされるのに、ホブさんが行くととても明るく対応されるお店もあります。それに関して物申したい気持ちで一杯でしたが、スライムであることがバレないように黙っていました」
街に行くだけでも色々考えてるな。
ウチのもん娘は街に行くのは何かを買ってもらえるか食べられる程度でしか考えてないだろう。
一人に至っては……もう。
少年をウォッチングしに行ってるしな。
“アプリ起動。地球の日本に南のザナルガラン盟主、アズリタン様を招待する件に関して最新情報がございます。確認を行い、必要事項を報告の上速やかに行い、次の指示に従ってください。繰り返します。地球の………“
正直、言いたい事が一杯あるのだ。
こいつら、勝手に異世界に俺を放り込んでおいて、何を言っている?
お願いなら分かるが、なぜこんな事務処理の強制を当たり前と思うのか?
頭おかしいんじゃないだろうか? 俺は国の職員じゃねぇ!
俺がイラついているが、それを不安そうな目で見ているスラちゃんを見て俺は我に帰る。
俺は個人じゃなくて、責任者なのだ。
地球側との付き合いも大事にしないと。
地球からのバックアップは今後も重要になってくるし、この世界の人間より魔物に関して理解がない分寛容だ。
エメスに関してもアレで評価が高かった。
「……ごめんごめん。ちょっと考え事しててさ。ぼーっとしてた」
「…………東西南とマオマオ様は奔走されていますからね。きっとお疲れなんですよ! 今日までお休みされては?」
さぁ、この優秀な右腕に心配かけちゃダメだな。
…………ほんと、天使かな?
「スラちゃんありがと! まぁでも各店舗の資材の搬入も始まっているし、大事な友人達にはプレオープンの招待券も配っているし、ノビスの街に住んでいる人達も来るわけだから、確実に混雑は予想される。できる限り待たなくていい環境を考えたいのよ」
俺は、遊園地に行ってアトラクションに並ぶのが大嫌いだ。
「……マオマオ様はもうそんな事までお考えなんですね! 確かに食事処も銭湯も広さに限りがありますからね」
そうなのである。
お腹が空いたらその時、食べたいし、初めて経験することもその瞬間に行いたいのだ。
できない事もあるが、この世界には魔法がある。
「…………まぁ、元々経験してるからね」
食事処の件は実はプレアデスと検証中だ。
「……さすがマオマオ様ですね。よろしければ、私とホブさんのお店をご覧になりませんか? 皆様がザナルガランに向かわれている間に、少しリフォームと商品の陳列を変えてみたんです。それに、スライムリーダー達の人間へのメタモルフォーゼもかなり上手くできるようになってきたので、それらのご確認もしていただけると嬉しいです! ゴブリンリーダー達は裏方になりますが、とても重要な働き手ですからこちらもぜひお願いします!」
スラちゃんとホブさんはもう完璧だ。
…………本人達はちっとも思ってないんだけどな。
多分、俺なんかより経営とかも向いているだろうし、二人を取締役にした理由はそれだ。
思った以上に、店内に無駄がない。
陳列棚もそれ自体が芸術品のようなお洒落さである。
貴族御用達のお店でもこんなのないぞ。
そして……一番は、スライムリーダーさん達だ。メアリー・アンさんに作ってもらったメイド服が映える。
日常雑貨、冒険道具、武器や武具、この街のお土産。
各種得意分野を分けてお客様に説明ができるようにスラちゃんが研修を繰り返したプロ軍団である。
「凄いな。みんなとっても可愛いですし、それに案内している商品への理解も深くて購入する側の目線だと安心しますね! ゴブリンのみんなも、この店内を作ったのは驚きだよ! この魔物印商店は商店街の顔だから俺も安心してオープンできるね!」
「マオマオ様、お褒めいただきありがとうございます!」
「僕らもこんなにマオマオ様に喜んでもらえるなんて思いませんでした! 人間なのに魔物の僕らにもいつも優しいマオマオ様のお役にてて嬉しいです」
何度でも言おう。スライムとゴブリンはめっちゃいい魔物だ。
魔物商店を後にした俺を待っていたのは、ドラクルさんだった。怪我も治り、彼女もお店を一つ持つのである。
ドラクルさんのお店は、まさかのクリーニング屋さんである。ゴブリンとスライムが手伝ってくれる。
ドラクルさんはドラゴンニュートとして受付と洗濯物を受け取り運ぶ。そこでゴブリンが衣類を分けてスライムが洗濯、ドラクスさんが乾燥、最後はみんなで畳んでアイロン。
ドラクルさんは真顔で手招きする。
練習として、この商店街に住まうみんなの衣類で練習をしているのだが、その出来栄えを確認して欲しいらしい。クリーニング屋のバックヤードに入るとゴブリンとスライムがせっせと畳んでいる。
綺麗に洗濯し畳まれている。新品みたいで、なんだか良い香りがするぞ! まさか、香りつきの柔軟剤的な物か?
ドラクルさんは王種である。彼女のなんらかの固有すきるなのかもしれないが、これは洗濯をお願いしに来る人が増えるぞ!
そこで、俺はドラクルさんに助言をしてみた。
大切な服のクリーニングとメンテナンスも別料金で請け負ってみてはどうかと?
そう……。
精霊王サマの加護があるので、永久に保存することはできないにしても、長く綺麗に保っていられる事は可能だろう。
平民だって勝負服の一つや二つは持っているから、貴族みたいに買い直すよりメンテナンスして使えたら安い物だろう。
あらゆる料金設定は、貴族や平民で変えればいい。誰もが同様に楽しめる街。
そういう物を全部確認する為のプレオープンなのだ。そういう意味では各国の首脳が来てくれるのはありがたい。
ドラクルさんは、なにやら細長い袋を俺のところに持ってきた。
「これを作っていた。巫女の剣を包む袋にと思ってな」
あー! 剣道とかやっている子がこういうのに竹刀入れてたな。
俺はみせてもらって感想を伝える。
「……縫い物できるんですね! これめっちゃかわいいですよ! 小狐さん、なんでも喜ぶと思うけど、剣に関係する物は尚喜んでくれますよ!」
ドラクルさん嬉しそうに口元を緩めた。
「主上、巫女がいないこの地は最初、とても渇いたつまらない場所に感じていた。しかし、今はそうでもない。楽しいな? 人間と、魔物と共に有るという事。生まれてこれほどまでに渇きが癒された事などない。感謝する」
「…………こちらこそ。ドラクルさんや他のみんながいなかったら多分俺は結構腐った生活をこの世界でしてたと思いますよ」
本当に、もん娘達にも感謝しないといけないのかね? 結果あいつらのおかげか……
「……主上は、誠の王だな。魔力も人間並、身体の強さも並。ただそれだけだ。それ以外は、南の魔王も、東の精霊王も、西の聖女王も、もちろんこの竜王よりも優れている」
どこに? 俺が異常すぎるみんなより優れているところかがあるのか。
俺はドラクルさんの話をただただ聞いていた。
「主上は気づいていないかもしれない。戦う事でしか優劣が決められない中、主上は戦わずして、それらに打ち勝って、友としている。誰もできなかった、いやしなかった事である」
まぁ、半分以上勝手に同盟になって行った感じなんですけどね。そういえばドラクルさんもじゃんか……
まぁ、それに関しては素直に褒め言葉として受けとっておこうと思う……!
「主ぃ! なにやってのよー!」
「ご主人、ご主人!」
「マスター、朝から女子の格好でおな……むっ、ノイズ」
俺とドラクルさんを見つけた三人娘。
着替えを終えて朝食を呼びに来たんだろう。
俺と、ドラクルさんは二人の元へと向かう。
今日はシェフがお店を従業員の人に任せて、商店街にやってきて料理を振る待ってくれるのだ。
スラちゃんとホブさんももう食堂に揃っていた。商店街の幹部が全員勢揃いで朝食とか久しぶりだな。
プレオープンは二週間後、これからの事を細々と話をしようかと思っていたけど、朝食を前にして俺は考えが変わった。
たまには、みんなで会話を楽しみながら、ゆっくりと朝食を楽しむのも悪くないかなってね。ようやくここまで来たんだ。もうあとは駆け抜けるだけ。
コポルトに、デーモン、ゴーレム、スライム、ゴブリン、そしてドラゴンと人間の俺。
「じゃあ今日も仕事頑張ろうぜ! 手を合わせていただきます! たくさん食べて楽しく安全にね」
今日の朝食は和風なのである。
葛原さんの本に書いてあるお味噌汁を、お土産の味噌からスラちゃんは練習し、道満の屋敷から分けて貰った食材をシェフの協力の元完成させた。
川魚の塩焼きに、野菜の漬物。
いやぁ、異世界でも日本の和食が食べられるなんてたまらんな。
嫌々やってきた異世界におおよそ一年程暮らして商店街完成。
これだけのハイスピードで業績を上げれる奴が地球にどれだけいる?
まぁまぁやってやれてるんじゃねぇかなと、自画自賛する。
「ふぅ、美味いなぁ」
大勢の食事、美味いんだぜ? そして
「ご馳走様!」
これを言えるのも悪くない。




