旅の終わり、夢は異世界をかけ巡る
アズリたんの放った魔法は物悲しく美しかった。
幸せな夢でも見ているように、カタストロフ、
いやシレイヌスさんを消滅させていく、同時に究極混沌魔法で生み出された巨大隕石もまた重力に逆らうように戻っていく、物理法則は無視だな。
アズリたんはシレイヌスさんを抱きしめたまま、ディダロスさんに命令をした。
「…………創生の卵を投げろディダロス」
言われるがままに、何やらディープパープルの卵をディダロスさんは遠投する。
そしてアズリたんはそれをキャッチ。
そしてそれを握りつぶして消えゆくシレイヌスさんに向ける。
このアイテムは復活アイテムというか、再度産まれ直す転生アイテム……。
「アズリたん……」
「皆の者。願え、余はこの卵よりシレイヌスがまた余の元に戻ってくる事を求む。それが神々とやらの気まぐれだろうとな。産まれてこいシレイヌスよ!」
俺のユニオンスキル、あと何回使える? どんどんアズリたんに魔力を吸われてる。
俺は一度、エルミラシル名付けにおいて確率操作に成功させている。
さらに、神という存在を無理やり言う事を聞かせられる聖女王アラモードとも同盟を組んでいる。
「アズリたん……、お前の力、主導権……俺に預けてくれないか? シレイヌスさんを戻せるかもしれない」
俺のその言葉にアズリたんは冷たい視線を向ける。流石にこれはアズリたんからすれば自分の役目だと思ったのか?
とはいえ、これに関しては俺の方が多分上手く扱えるだろうし、アズリたんを見つめる。
さて、どうなる。
今のアズリたんは少しばかり性格面も感情面も凶暴になっている。
まさに魔王と呼べる今のアズリたんが本当のアズリたんの姿なのか?
モンスターであるアズリたんが成長した姿、ギザ歯にオッドアイ以外は正直滅茶苦茶ウルスラである。
JC化したようなアズリたんの視線はかなりキツい、同盟を組み直したのに下手すれば殺されるんじゃというプレッシャー。
アズリたんは自分の成長した胸に手をふれ、俺の胸にも手を振れる。
そして、まさか…………。
「クハハ! マオマオ、任せたぞっ!」
俺はゆっくり自分の胸に触れる。
おいおい、マジかよ。せっかく呪いが解けたと思ったのに、またしても魔女っ子に……代わりにアズリたんは元の姿に戻った。
いや、この状態の方が魔法力が高いもんな。
しゃーない。これにツッコんでいる暇は残念ながらないわけで、俺はすぐにユニオンスキルを選択する
……確率変動の為、精霊王サマの超加護。
そして、アラモードの神の寵愛……というかほとんどカツアゲみたいな神を無理やり言う事聞かせるアレ。
「……確率変動開始」
「……クハハ! マオマオよ。奇跡を必然にするつもりか!」
「いや、そこまで傲慢な事は言わないよ」
これはフラグか。
これは強烈な自我を持った三人のスキルをハイブリットさせるのだ。
あらゆる事に関して強烈な増強効果を促す精霊王サマ。
本来は神の悪戯や気まぐれという事象を無理やり、引き起こさせるアラモード。
そして……。
「クハハ! 余は余が望む事を好む。それが傲慢というのであればそれも良し!」
魔王アズリたんの絶対的カリスマと超破壊力。
精霊王と聖女王と魔王のスキルが合わさった。
“アプリ起動。アルティメットスキル・運命変換が発動しました。創生の卵による怪鳥種の再誕確率が大幅に底上げされます。約10000倍の強化が実行され、成功確率20%になりました"
素だと0.0002%かよ、どんな奇跡に縋るつもりだったんだ……。
でも……これしかなかったんだよな。
「……クハハ、なんだか分からんがシレイヌスが戻ってくる鼓動を感じるぞ!」
いやいやアズリたん、確率20%って5回の内4回は失敗するって事だからね? 決して高くはないよ?
…………しかしだ。魔王は持っている。
投げた卵は再び再構成されてなんらかの卵が現れた。
“怪鳥種の創生に成功しました。そして魔王アズリタンによる名付けシレイヌスと同一個体を確認、ギフトが送られます。魔王種・怪鳥王“
その卵をアズリたんはキャッチする。
そして優しく撫でると笑った。
うん、なんというかアレだなぁ。アズリたんは主役級だわ。
俺とは違い持っている側の存在だ。しかし今回は本当に良かった。
毎度毎度、イレギュラーな事が起きるけど、良い方にいつも振れてくれるからいいけど、いつか反発しない事を願う限りだな。
アズリたんと俺が地上に降り立つと、そこには結晶化されていた魔物達。
カタストロフの消滅を持ってその効果が無くなったらしい。
アズリたんは…………。
「クハハ! 貴様ら、元気そうで何よりである! シレイヌスもこの通り無事だ!」
アズリたん、南のザナルガランの魔王。
彼女のその声と共に湧く魔物達。
とんでもなく長く感じたこのクーデターは終わりを告げたのである。
そして、アズリたんは卵をウラボラスさんに預ける。
「……クハハ! この度は貴様らに多大な迷惑をかけたぞ! 特にマオマオと凛子、貴様らには褒美を与える! なんでも申すといい。余にできる事であればなんだって与えてやろう! クハハ! 余は魔王であるからな!」
今にして思えば、アズリたんは最初から物理的なクーデターはどうにかできたのだろう。
だが、アズリたんの方法では誰一人失わずに鎮めるという事はできなかった。
……アズリたんは腰に手を当てて笑う。俺と凛子ちゃんに感謝の意を示す
「……アズリたんちゃん。そんなの私、いらないよ! 何か見返りがほしくて助けにきたわけじゃないし……アズリたんちゃんだって何も知らない私がここに来たとき、この国の王様なのに私の手を引いて仲良くしてくれたよね? 友達は困ったら助け合うんだよ! でも、私はまたアズリたんちゃんや……マオマオちゃ、さん達のところに遊びに来たいな! 今度はちゃんと準備してから来たいけどいいかな?」
ほんまに、凛子ちゃん、ええ子やなぁ!
「クハハハハ! 何を言うかと思えば! 凛子よ。そしてバトルモンスター共も余の城に住まうといい! 一緒に住み暮らせばわざわざ遊びに行く事はないであろう! 余は賢いからな! それが一番であろう! なんなら、マオマオ達もこのザナルガランに住んでも構わぬのだぞ! あのデーモン共も皆住めば良い! クハハハ! 愉快だ! みんなで毎日楽しく宴をしながら暮らしていくといい! それが良いぞ!」
パリピ種魔物達。俺たち人間にはその生活は多分一万年早いだろう。
名案を閃いたかのように語るアズリたん。さて、そろそろアズリたんには現実に戻ってもらうとするか、
俺はまだしも、凛子ちゃんは課外学習の事故でここにきた。
そう、彼女には帰る場所があって、それはこの世界じゃない。
アズリたんにどう説明すれば理解するのやら、いや頭では分かっていても心が理解しないタイプだろう。
なんせ、自分の思い通りにしてきたクソガキだからな。
と、俺が困っているところ凛子ちゃんが話し出した。
「……アズリたんちゃん……、お別れだよ。私は帰る場所があるの」
ゆっくりとアズリたんを優しく抱きしめる凛子ちゃん。
アズリたんは笑い顔のまま、妖怪たちも近寄ってくる。
クロネコさんにいたちおさん。よく考えると、この二人も地球に戻してしまっていいのだろうか? そう思った時である。
凛子ちゃんは二人にもこう指示を出した。
「いたちおちゃんにクロネコ君、二人も私に世界に連れてはいけないって先生が言ってたから、アズリたんちゃん、二人をお願いできるかな?」
なるほど、この二人を代わりにと。
妖怪の二人は先に聞かされていたようで既に了承済みらしい。
「奴らをおいてやる事は構わん! が凛子も一緒だ!」
抱き心地の良さそうなアズリたん、どう手入れすればそうなるのかツヤツヤした黒髪が揺れる。
「アズリたんちゃん、私もこの世界でみんなに会えて凄い楽しかった。今まで気にした事がなかった進路とか、少し考えるようになれたし」
アズリたんがこのザナルガランを救う為に必死で右往左往し、そして責任を持って最後まで戦った姿。
次は自分の番なんだとアズリたんの額に自分の額をつけて語る。
さて、ここでアズリたんがワガママを言うのか?
アズリたんは震えて凛子ちゃんにしがみつく。
ウチのアステマやガルン、ワガママを言う魔物と同格かと思いきや、アズリたんはどうやら、こういう局面でも魔王らしい。
考えた結果、アズリたんの出した答え。
「貴様がおらぬのは余は少し寂しい……。しかし、貴様も務めがあるのだな……」
えらいぞアズリたん! アズリたんは凛子ちゃんが元の世界に帰るのを許した。
そしてやはりアズリたんは笑顔だ。凛子ちゃんは泣いてるのに……
そして、アズリたんは名残惜しそうに凛子ちゃんの胸に顔を埋めた。きっとこの相手はシレイヌスさんだったんだろう
そして、アズリたんは凛子ちゃんにキスをした。
「えっ……アズリタンちゃん?」
「クハハ! 友好の証である! 人間はこのように愛を確認し合うのであろう? 余はなんでも知っておる!」
誰だ? アズリたんに間違った知識を植え付けた奴は……。
そういえば、たぬきちさんなんか涎まみれにされてたよな。
アズリたんはギザギザの歯を見せて笑う。今更だけどこいつ凄いキャラしているのよな。
あらゆる主人公要素を併せ持ってやがる。
そして、アホの子である…………。
「ここにいる全員! 余が愛してやろう! クハハ! 光栄に思うといい! そう、貴様もな! シレイヌスよ!」
そう言ってアズリたんは預けていた卵にもキスをする。
魔物がどうやって生まれるのかは知らないが、アズリたんのそれはギフトとして怪鳥の卵に大きな影響を及ぼした。
ピキピキと怪鳥の卵にヒビが入り、そしてそれは孵化したのである。
割れた卵からは黒い、小さなカラスみたいな雛が生まれ、アズリたんを見るや否や飛びついた。そしてそれを抱きしめるアズリたん。
「クハハ! シレイヌスよ小さくなったな! 愉快である!」
元の怪鳥王までどのくらいかかるのだろう。
アズリたんの頭の上に止まるシレイヌスさん。アズリたんも嬉しそうだ。
「闇魔界よ。僕達は凛子の世界についていく事ができない。だが、凛子がいつこの世界に戻ってきても問題ないように拠点が多いに越した事はない。僕たちは道満の屋敷と闇魔界の拠点とをぽーたるなる術で結ばせて欲しい」
クロネコさんの提案。彼らは魔王城に住むつもりはないらしい。
……しかし、ここと蘆屋道満の屋敷をポータルで繋ぐ。
それは……まさにアズリたんとの凛子ちゃんが直接的な同盟関係になるということだ。
「クハハ! 代表してクロネコよ貴様がバトルモンスター達の親である凛子の代わりとなすか! その申し出、喜んで受けよう! 構わぬな? ディダロス! ウラボラス……それにシレイヌス。余の闇魔界三柱共よ!」
「ふふっ。アズリタン様。今までダメだと我が申してそれに素直に従ってくれた事がおありでしたかな? それに我らが闇魔界のアズリタンに意見しようという者はいますまい」
「そうだねぇ……アズリタン様は、このザナルガラン最強にして最高の魔王ですからねぇ……自分も従うねぇ」
役割的にアズリたんに甘いお父さんとお兄さんが了承してくれた。
と、そして。
「……あぢゅ、あぢゅりたんしゃま……あぢゅりたんしゃま、ばんざい! あぢゅりたんしゃま……ちれいぬす。ちゅき!」
シレイヌスさんが喋った。そしてカラスから幼女に進化する。
“怪鳥リトルウィングのシレイヌスが、怪鳥ケイオスウィングにクラスチェンジしました。レベルは45まで上昇、危険度★40の魔物になります“
「クハハ! シレイヌスよ! 黒い羽が灰色に変わってきておるな! また余に美しい白い翼を見せるといい! クハハ! 憂やつよ! 凛子が次にくる時には前よりも美しく育っておるだろうな!」
アズリたんにもみくちゃにされても喜んでいるシレイヌスさん。
さすがガチレズだ。
今度育つときは、どうにかそっち方面に育たないように、俺はたぬきちさんにアイコンタクトを送る。
「……ま、マオマオ様。無理ですよぉ」
お前がやらねば誰がやる!
女の子の教育できる女の子お前しかこの国いないぢゃん!
俺の願いにたぬきちさんはため息。
そんなやりとりを見て一人興奮している人、変態ゴーレムエメスさんである
「前回はヤンデレ気質だったシレイヌス様、今回は獣に調教され、全身がせ……むっマスターを喜ばせるハズがまたしてもジャミング」
そう、こんな馬鹿な考えをする奴に何か吹き込まれる前にちゃんとした教育を。
……マジで。
なんだかんだで、悲しくないお別れになった。本来であれば宴の続きをと行きたいのだろうが、
半壊している魔王城だ……。
「皆々様、魔王城が復興すれば改めて宴を」
ディダロスさんがそう言うので俺は快く承諾。
アズリたんが近くまで見送りをするというが俺は断る事にした。
「アズリたん。今は自分の国の復興と慰問に力を入れなよ。それと、これ、俺たちの商店街のプレオープンの招待状。来てくれよな!」
「クハハ! 招待券か! これはいい! 実に楽しみだぞ!」
遅れは取り戻さないといけないが、色々繋がりやイベント経験はつめた。
「多分、アズリたんでも気にいるような、毎日お祭りしているような街、商店街だからきっと楽しめるよ!」
「クハハ! マオマオが自信満々でいうのであればそうなのだろう! 皆で行くぞ!」
マジか、闇魔界三柱を連れてくるつもりか、まぁ人間に化れるだろう。
むしろ、アズリたん一人より安全か。
それならば、オバキルさんやフリーゼさんにも来て貰おうかな。色々助けてくれたしな。
という事で俺は招待券をもう1組取り出してアズリたんにバンデモニウに届けてもらうようにお願いする。
「クハハ! デーモンのオバキルとフリーゼか! あやつらも共にゆけば喜ぶであろう! 任せておけ!」
俺をみるアズリたんは両手を広げて俺に抱きついた。本当にハグが好きだな。
…………っ?
俺は、アズリたんに不意打ちで唇を奪われた。アズリたんは手を繋ぐくらいの友好の証だと思っているが……。
これはさすがに……ホラァ、二十代の俺と10代前半みたいなアズリたんのを見てちょっと凛子ちゃんに引かれてるぢゃん。
俺たちは名残惜しいけど、俺たちの拠点に戻る為、凛子ちゃんを元の世界に戻す為、ザナルガランを後にした。
「しかし、凄い日々だったな。なんか毎日テンション高い魔物達に囲まれて俺がいかにコミュ障だったかを再認識させられた……凛子ちゃんも、課外学習中に大変だったね? 確か、南の中央寄りの国境付近で迎えの二人が来てるんだったよね? まぁ、本当に凛子ちゃんもお疲れ様、もし機会があったら俺達の商店街にも来てくれると嬉しいな! 色々サービスするからね!」
「マオマオちゃ、じゃなくてマオマオさん。本当にお世話になりました! 男の大人の人だったのはちょっとびっくりしたけど、きっと商店街遊びに行きます!」
ガルーダという大型の魔物で南の国境まで運んでもらったそこには洋服をきた美少女? 美少年? と和服をきた美少女か美少年、ちょっとよく似た二人組。彼らが楽しそうに話しながら待っている様子だった。
凛子ちゃんを見ると手を振るのであれが迎えらしい……先生無しか......
「へぇ、あんたが本当のマオマオなんだ。変な名前っ! ねー雪」
「水無の言う通り、ほんと変な名前、恥ずかしくないの?」
イラつくガキどもだなぁ。
お尻でもぺんぺんしてやりたいが、こいつら……人間の癖にどえらい化け物だとアプリが反応している。
……あれ? でも心なしか傷だらけじゃね
「雪くんに水無くんだっけ? 君ら相当強いだろう? なのに見たところ結構怪我しているけど何があったんだ? ここ南の地域だから相当ヤバいモンスターにでも襲われたのか? その怪我回復しようか? エメス、オロナイン!」
……あれ? めっちゃ睨まれてる。
二人は絆創膏やらを剥がして、殺意を込めた瞳を俺に向ける。どうやら反応したのはオロナインだ。
そして、高そうな洋服を着た水無くんが話し出した。
「凛子をここに向かわせる為に、バケモンの秀貴を抑えてたからだよ。僕と雪二人がかりでもこれだよ……君たちが魔王とか言うのと遊んでいる間に僕らは覇王とかいう奴にボコられてたのっ!」
「くっそ、絶対いつか殺してやる」
「えぇ、雪それいいね! 殺ろう!」
「でしょ? 殺すまでずっと付き纏ってやる」
何この子達。
本当に凛子ちゃんを預けて大丈夫かな?
いや、ヤバいよな。普通に……。
それにしてもこの子達は何者なんだ? 地球からのエージェントか?
「先生のボコられたって、先生は?」
面倒臭そうに着物をきた男の子、雪くんが話す。
「秀貴は変な女を探しているらしいよ。……僕や水無をここまで手玉に取れるクセにその変な女には完全に振り回されてるんだよウケるでしょ? カグヤって男と合流して、その女の足取りを追ってるんだよ絶対また逃げられるって」
セリューを追い詰めるのに、最強コンビが揃ったか。
その件は二人に任せておけば安心かな?
どうやら地球に戻る為のキャンプ地までの凛子ちゃんの護衛に水無くんと雪くんを先生がお使いに出したというのが顛末らしい。
しかし、先生。暴力で言う事をきかすのはどうだろう?
「この世界、飽きはしないよね。妙に相性がいい雪とも出会えたし、みた事ない生き物がそこら中に闊歩してるしさ。一つ問題があるとしたら秀貴がいた事だね。あいつ最悪……昭和の癖に強すぎるんだって……そういうと雪は天正か」
「あはは! 秀貴さ。あいつ懐の中に物どんだけ入ってるんだよって思わない? ウケない?」
心から二人は先生をぶち殺したいらしいが、二人がかりでも勝てないんだな。護衛としては最強クラスだが……ねぇ。
「雪見てよ! こいつ、犬みたいな耳してるよ! ほらほら」
「止めるのダァ! 僕の耳を引っ張るのはやめるのダァー!」
「あはは、ほんとだ。君は犬なの? わん! って鳴いてごらんよ!」
ガルンがもみくちゃにされているのを止めようとしたのは、
妖怪のきつねのさん。それを見て水無くんは目を輝かせる……。
「こっちは狐だよ! 雪! ほら、狐。しかもこいつ男の子だよ」
「や、やめろ! 僕は……マオマオ様の物なんだ! 触るな!」
可愛い男の子同士が絡んでいて喜ぶ人、いや魔物が一人居ますわな?
ゴーレムのエメスさんは腕を組みながらうっとりとした顔でその光景を見つめている。
ほんとおまっ、おまっ! 二人はアステマには興味なしみたいだ。
そのアステマは絡まれないように目線を地面に向けて震えている。ヤンキーが駄弁るコンビニ前を通るへタれみたいだ。
「まぁ、二人ともその辺にしておいてやってくれないかな?」
俺がそう言うと、二人の悪ガキは実に悪ガキらしい顔を俺に向けた。
これダメなやつかな? とか思ったら、あらあら。盗賊的ご一行様を遠くに見つけたらしい。
「おーい! そこの間抜けな人たち、ここだよ! ここ! こっちにおいでよ! 楽しい事しよーよー! ねぇねぇ早くはーやーくー! 」
さて、こいつらめっちゃ地雷だな。ほんと地雷…………てか凛子ちゃんの護衛しろよ。
盗賊的な人たちはやってきて、俺を除き可愛い子が多いわけだ。
「こいつ、犬みたいな耳してるぜ。亞人ってやつか? こっちはキツネだ! 変態どもに高く売れるんだよなぁ! その前に俺たちで楽しむか!」
「やめるのだ! 僕に触るななのだぁ!」
それに雪くんと水無くんは言った。
「「ポチに触れないでくれる?」」
「ユキ! ミナ!」
ガルン、まぁまぁディスられてるんだよ! 君はポチでいいのか?
総勢二十人程の相当レベルの高い盗賊というか、冒険者崩れの傭兵連中ってところか、
強盗、強姦行為が昨今問題になっているとギルドで読んだ覚えがあるぞ。
そして、雪くんと水無くんは地獄を一つ、こしらえた。
「あー楽しかった! じゃあ凛子、行こうか! そうそう! 凛子に食べさせたくて街で美味しそうな果物を買ったんだよ! 秀貴のやつがお小遣いちょっとしかくれないから一個ずつしかないけどさ!」
凛子ちゃんの手を繋ぎそう話す水無くん、この子は年上の女の子が好きなのかな? 盗賊ぶちのめすのに飽きたら凛子ちゃんにべったりだ。
「ちょっと……水無くん急がなくても大丈夫だよ! あと、雪之丞くんも、迎えにきてくれてありがとう! マオマオさん達はこのままガルーダに乗って住んでいるところまで戻るんですよね?」
まぁ、そういう事なのだ。中央を経由して帰るのは遠すぎる。
真逆の場所だもんなザナルガラン。
「うん。まぁ、二人がいる事で道中は安全だと思うけど、あんまり悪戯しすぎないようにね! じゃあ凛子ちゃんの事よろしく!」
俺がそう言って二人に手を差し出したけど、二人は俺を対等の相手とは認めてくれないようで、握手は拒否された。ほんとクソガキだな。
あと別れ際で気づきたんだけど、雪くんはあれかな? もしかして戦国からきた彼女の関係者ではないだろうか?
「マオマオさんだっけ? 何? 僕に見惚れているけどそっち系の人? 困るんだよねー! 昔から男娼のフリとかはしてきたけどさ。僕女の子好きだから、凛子ももう少し年上だとヤバかったかもね」
何故かエメスさんはうんうんと感動したように俺と雪くんのやりとりに喜ぶ、
「いや、知り合いに雪くんの関係者かもって子がいたんだけど気のせいかも。じゃあ秀貴先生とカグヤさんにもよろしくね!」
俺が手を振る。それに舌を出して雪くんと水無くんは手を振ってくれた。
「……マスター、たまらないと我申し付けり!」
まぁ、エメスだけでなく世の中のお姉様方にはご馳走かもしれないな。
美少年ず。
「ほんと異世界って疲れるな…………」
俺たちは北の自分達の拠点に戻る。
ガルーダは何度か背に乗せてもらったけど、ガルンにも慣れて、北の領土まで楽しく空中旅行。
そして自分達の拠点が見えてくると安心で一気に疲れてくる。
「……あぁ、今日は自分の部屋でとりあえず寝て、明日から活動再開でおけ?」
……俺の提案に全員頷く。
“アプリ起動。定期面談依頼のお知らせ、地球・日本人の月沢凛子を保護してくれた南の盟主闇魔界のアズリタン様を来賓として迎えたい。その段取りを犬神猫々様に依頼、日程は追って報告します“
は? えっ? はぁ?




