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何度でも言おう。彼女が魔王、彼女こそが魔王アズリたん

「アズリたん……」

「アズリタンちゃん……」

「「アズリタン様…………」」

 

 アズリたんは頭上を眺める。遠くから小さな光。

 究極混沌魔法が今この地に放たれようとしている。


「嗚呼、アズリタン様......」


 アズリたんの周囲に亜空間が無数に現れる。闇魔界と呼ばれた空間よりアズリたんの力が放たれるのだろう。


 アズリたんはカタストロフになろうとしているシレイヌスさんを見る。

 

 そしてシレイヌスさんの元へと飛んだ。カタストロフは迎撃の魔法を放つ。

 

 それは、戦艦の無差別全弾発射のようにアズリたんに向けて放たれる。それを亜空間で受けるアズリたん……。

 

「この愚か者は余からシレイヌスを取り上げようという魂胆か、クハハ! 誠に愚か極まりないぞっ! 余の家来を返せっ!」


 アズリたんはカタストロフの迎撃行動に自ら動いた。カタストロフの周りを飛び回り、アズリたんもまた亜空間より、無差別攻撃魔法を放つ。図体がでかいカタストロフは殆ど被弾。

 しかし、魔王種のメギドを受け切るタフネスを持っている装甲である。


 それにアズリたんは目を輝かせると片腕を上げる。メギドの上位魔法、ゲヘナの厄災化。シン・ゲヘナを放つ。


「……ディダロスとウラボラスの魔法は耐えたらしいが、余の至高の魔法であれば壊せるであろ? クハハ! 次々にゆく! シレイヌスよ。少しじっとしているがいい!」


 アズリたんはシン・ゲヘナを連射した。その威力たるや笑えるの一言。

 破壊力一点で魔王種の魔法をも受けきったカタストロフの装甲を砕いているのだ。さらにアズリたんも突進。

 腕を前に、愛と勇気だけが友達とでも言えそうな魔王パンチをカタストロフに打ち込み、当然破壊してみせたアズリたん。


 俺は大きな勘違いをしていたらしい。パワーだけならディダロスさん、制圧力だけならウラボラスさん。

 統率力であればシレイヌスさん的なアズリたんに勝る部分があるが故に腹心を務めているのだと……


 違うのだ。アズリたんに勝る魔物なんてそもそも存在しないのである。瞬間風速のパワーも制圧力も統率力もアズリたん一強なのである。

 

 それが魔王という、魔物達の頂点にして闇魔界という存在なのだろう。

 この世界に物理法則がどこまで通じるのかは知らないが、無限なんて基本ありえない……カタストロフの防御力ももうこれ以上は上がらない。


 ……もしかして勝ったのか?


「アズリタン様……。私以外の部分を破壊しても、すぐにカタストロフは元に戻ります! 私はもうカタストロフの部品になってしまった。もう、いくら周りを破壊しても……ダメなんです」

 

 それはディダロスさんとウラボラスさんで証明されている。

 されどアズリたんは話を聞かない。

 元に戻ろうとするカタストロフのパーツを粉々に破壊して見せる。


 粉のように全ての破片をすりつぶしたアズリたん。これならば復活する事はないだろうと思ったらしい。しかし、砂粒のような破片は集まり復元。

 

「くっ! 粉々にしてくれたというのに、それでも元に戻るというのか! クハハ! つまらぬぞ!」


 アズリたんの機嫌が悪くなる。そして魔素が爆発して再び破壊を始める。

 

「アズリタン様……もうおやめください。手もそんなに怪我をして……」

「黙れシレイヌス!」


 アズリたんがそう怒ったのだ。俺は初めてマジギレしているアズリたんを見た。

 亜空間を使って粉微塵にした破片をさらに攻撃する。

 

 アズリたんは亜空間にオート攻撃をさせながら詠唱する。

 アズリたんが魔法詠唱をしているところも初めて見た。切り札とかとっておきとかそう言うものなのだろうか?


「クハハ! アズリエルの神殺しの呪法。余としては……気に入らぬが、これなら抹消できようぞ! 謳え、闇魔界の盟主。ゲヘナの真名、シン・ファイアーバグ! メギドの真名、シン・ディアボリックサンダー! 混ざれよ! シン・エンド・デス!」



 アズリたんは厄災化した魔法をさらに厄災化させそれらを合わせた。

 言うが易し、行うが難しな合体魔法をこの瞬間に成功させた。

 自らの右手と左手をごつんと合わせ、目に見えない粒子となったカタストロフの破片を全て無にきした。

 神すらも殺す魔王のまさに奇跡なんだろう。


 俺は驚き、凛子ちゃんに魔王種二人は歓喜。

 

 これなら流石にシレイヌスさんだけを救う事ができると皆思ったのだ。だが、すぐに現実を突きつけられる。

 

 嘘だろ......

 

「カタストロフ、コアを持って再構成」


 シレイヌスさんがそう喋り、シレイヌスさんを中心に元に戻る。


 破片は残っているのだ。

 

 そう、シレイヌスさんという大きな破片が……堂々と……残っている。


「アズリタン様、お願いがございます。助けてください」

「わかっておる! 急ぐでない! すぐにな」

「えぇ、私の事も、この南の地も助けてください」

「分からんやつだの! 分かっておると言うておろう。クハハ!」

 


 アズリたんは次はどうすればいいのかと笑いながら考えている。

 アズリたんはシレイヌスさんの言っている事を分かっていないのだ。もう多分シレイヌスさんを倒すしか方法がない。

 

 いや、アズリたんは分かっているのかもしれない、だが他の方法を探している。

 

 もしかすると、凄い長い時間をかければアズリたんなら救えるかもしれない。

 アズリたんの成長スピードは、カタストロフの進化スピードより遥かに早い。時間が味方すれば奇跡みたいな救出ができるかもしれない。


 だが、カタストロフはこの一帯を消滅させる究極混沌魔法を使った。

 遠くに見える光がだんだん大きく見えてくるあれがそれなんだろう。


 

「シレイヌスよ! もう少し我慢すると良い! 余は賢いからな! 貴様の中からカタストロフを取り出す方法を考えておる! いくつかの魔法を組み合わせ、離しを繰り返せばこれは余にはできるぞ!」


 

 アホの子だが、魔法における頭の回転は天才どころかスパコンだ。

 アズリたんはこのゴーレムを作ったシズネ・クロガネでも不可能といった事を可能にしようとしつつあった。

 

 しかし、物凄い速度でトライアンドエラーを繰り返しているアズリタンといえど、神の奇跡に至るのは容易ではない。

 

 多分、時間が足りないんだろう。アズリたん、笑いながら冷や汗をかいている。

 

 今まで、こんなに頭を使う事はなかったのだろう。魔法を見ていても脳筋な破壊魔法しか使っていない。



「アズリタン様、ご覧ください。あれが究極の混沌です」



 月くらいの大きさに見えていたそれは空を覆う程の大きさとして近づいてきている。混沌の魔法、それは超巨大隕石。

 この規模、南の地域どころから、この惑星なのか、世界が滅ぶぞ!


 

 あまりにも巨大すぎる惑星をぶつけるイカれた魔法が究極混沌魔法。炎やら雷やらと違い分かりやすい終わりだ。

 それを見てもアズリたんは余裕。

 気にもせずに魔法生成に思考を戻す。

 つまり、アズリたんには取るに足らないと。

 

 

 いや、これ……嘘だろ。スマホのアプリを確認したのだが、絶望的な表示。

 

“推定直径十四万キロの惑星接近“

“生存確率0%“

“職員への緊急連絡を開始します“


 

 要するに、避難してくださいとかそういう話ではないのだ。もう普通に誰も助からないという最終通告をしてくる。

 お役所仕事だ。職員への連絡は多分滞っていて、通じた頃にはもう俺はというかこの世界はお陀仏だろう…………!

 

「アズリタン様! あの魔法は!」

「あんな物では余は滅びぬ!」


 



 …………いや、お前さんは滅びないだろう。

 



 だが、それ以外となると話は別なのだ。というかちょいちょいアズリたん魔王すぎるだろうが本当。

 そもそもあれでも死なないのか……

 

 早くしないとと焦っているアズリたん。

 魔法が完成したとしても助けるべき家来も国も無くなってしまう。

 目的と手段の優先順位が入れ替わってる……



「…………アズリタン様。アズリタン様はお約束をお破りになられますか? 私を、南のザナルガランを助けてはくれないのでしょうか? そんな出来るかも分からない魔法より、今私達をお救いはしてくれませんか?」


 

 シレイヌスさんがそうアズリたんを煽った。

 それにアズリたんは笑いながら魔素を破裂させて怒る。


 

 今、まさに助けようと頑張っているのに、何故シレイヌスはそんな事を自分に言うのかと思っているのだろう。

 ……が、その怒りがアズリたんの頭を冷やしたらしい。頭上から迫り来る巨大隕石。

 これに潰されたらザナルガランは消滅する。


 



 無意味。

 

 

 

 されど、ディダロスさんとウラボラスさんが隕石に向けて魔法を放ち破壊しようと試みる。


「ぐぐぐっ、どうしてもザナルガランを救えても、シレイヌス、貴様を救う方法が分からないのだっ! どうすれば良い?」


 アズリたんはシレイヌスさんにそう尋ねた。きっと世話役であったシレイヌスさんはいつもアズリたんの話を聞いて的確に答えを返していたのだろう。

 

 下唇を噛むアズリたんにシレイヌスさんは優しく答えた。


 

「アズリタン様……。ザナルガランを、そして私を救う方法はございます。この究極混沌魔法の発動起点はこのカタストロフでございます。そしてこんな物に囚われる事はこの怪鳥王シレイヌス屈辱の極み、アズリタン様であれば私をお救いし、そしてザナルガランをも守れるでしょう」



 アズリたんはそう言われ、何かを言おうとしてやめた。


「うむ。良い。シレイヌスの言う方法が正しいのであろう。余しかこの事態守れぬからな。少し待っていると良い」


 アズリたんは亜空間に包まれ、そして消えていく。

 時間は本当に残されていないが、一体何が起きるのかと思ったのだが、

 

 亜空間から再び現れたアズリタン? は凛子ちゃんやアステマより年下、JCくらいに成長。


「ふむ、余がレベル1にレベルアップしなければならないとはなっ! 闇魔界で救えぬのならば、大殺界の力を使う。安心するといい。もう、余が全てを救ってやろう。シレイヌスよ!」

 

 アズリたんは着ている制服みたいな衣装が夏服から冬服に変わり、ロングマフラーを巻いている。


“アプリ起動、闇魔界のアズリタンのレベルが1上昇し、レベル1になりました。大殺界のアズリタンにクラスチェンジされます“

 


「アズリタン様、お美しゅうございます」


 それは嬉しそうにアズリたんを見つめるシレイヌスさん。

 アズリたんの腕には腕章がついている。

 そこには“魔王“と書かれているのはシズネ・クロガネの趣味だろうか?


 

「マオマオ、凛子。すまぬがディダロスとウラボラスと共に余に魔法力をよこすといい。この体は腹が減るのだ」

「えっと……ちょっと待てアズリたん! 良い方法がある」


 俺がそう言うととても冷たい目で俺を見つめるアズリたん。

 

 おかしい……魔王権限があるのにアズリたんが怖い。

 

「マオマオ、今の余は単独の魔王となっておる。故に闇魔界の余とは違う。して良い方法とは何か? つまらぬ事を言ってくれるなよ?」


 あぁ! あのアステマが呪印生物になった感じと一緒でユニオンから外れてるのか、ならそれはそれでいい!

 

「俺たちが、お前のユニオンと再度同盟する。今はバンデモニウムのみんなもいるから、そこでグラトニースキルを使え!」

「ほぉ、それならばしばらくは魔法には困らぬな」

「じゃあ、いいか? ほれ!」

 

 …………俺が手を出したがっ、

 アズリたんは俺の手首を握りそしてユニオン同盟を締結。

 

“大殺界のアズリタンとのユニオンが締結されました。これにより、魔王権限2を取得“

 

「マオマオよ。下がっておれ、貴様等の魔力をいただこう」

「あぁ、全部使えよ! グラトニースキルはお前さんが本場だろ」

 

 …………今のアズリたん。

 ギザ歯にオッドアイである事を除くとちょっと、ウルスラに似ているのでドキドキするな。

 

 もしかして、ウルスラがアズリたんに似ているのか?


「天上の星屑を砕く力か、余のユニークスキル。ワールドイーター発動である!」



 おっと、グラトニーとかいう暴食スキルじゃないのね。

 

 耳を疑ったけど、世界を喰らう的な事を言わなかったか?



 

 ……やっべ!

 

 俺と凛子ちゃんは魔法少女の姿を保っていられない。

 と言うか、俺に至っては魔女っ子から本当の俺の姿に戻っているではないか! 呪いの魔力すらも吸うアズリたん。

 

 

 うちのもん娘に妖怪達はへばっている。ディダロスさんにウラボラスさんですら相当な魔力が吸われている。



 ちなみに、バンデモニウムにも魔王種がいるのに、そこの魔力も吸い上げている。

 

 アズリたんの髪の色が左側だけ赤く染まる。

 段々と近づいてくる巨大隕石を前にアズリたんは亜空間を呼び出す。

 

 そこからも魔法力をかき集めているらしい…………、

 


 その姿をシレイヌスさんは嬉しそうに見つめる。

 

 ゆっくりと、アズリたんは目を瞑った。

 

 そしてシレイヌスさんの元へ再び近づく。


 迎撃の魔法はアズリたんに直撃する前に亜空間に飲まれ。


「ディダロス、ウラボラスよ。余の玩具箱の中にオヤツとして残していた創生の卵を持ってくるといい。早くせよ。余は魔法詠唱に入るからな! 持ってきたら余に投げる事を許す。……マオマオよ。さすがは余と並び立つ者よ。確かにこれならば南を救えよう。だが、シレイヌスは別だ」


「創生の卵ってアイテムなら助けられるのか?」


 チートレアアイテムきた! と俺は思ったがどうやらアズリたんの様子からそうではないらしい。


「創生の卵は余が生まれた時に神界に先代アズリエルとディダロスにウラボラスが攻め込み、神々の宝物庫から奪ってきた神域魔法アイテムである。物凄い低い可能性で同じ者を生み出す事ができる。貴様達が言う奇跡を起こす事ができる代物である。余でも、今はこれしか方法がなし……クハハ」



 藁にもすがる思いで、それに賭けるわけか。

 

 …………しかし、アズリたん。俺がいるんだぜ。



 俺はアズリたんのその物悲しそうな顔を見て、どうにか少しでも笑顔になって欲しいと思った。

 正直な話、普段のアホの子に戻ってほしい。

 それができるなら、神々とかいう連中とちょっとばかし喧嘩をしてもいいかなって本気で思ったのだ。

 

「アズリたん。どこまで協力できて、どこまで役にたつか分からないけど、俺も協力する!」


 俺の真顔でのその言葉を聞いてアズリたんは笑ったんだ。

 

「クハハ、さすがは余が見込んだだけの事はある。やはりマオマオ、大好きであるぞ!」

「いやぁ……。今のアズリたんにそんな事言われると照れるわ」


 アズリたんは吹っ切れたように………!


「シレイヌスよ。痛みはない。すぐに終わる。安心せよ! しかし、貴様がいなくなるのは......少し寂しい」

 

 シレイヌスさんは、神でも見たかのように泣き、微笑む。



 とはいえどうする?

 もう逃げられない距離まで隕石は近づいている。



 アズリたんはこの状況をひっくり返す魔法を使うらしいが、もう本当に時間がないぞ。

 

 

 アズリたんは手を握ると小さな魔法を生み出した。

 

 本当に小さな杏くらいの大きさの魔法力、力強くもない。


「大殺界、形を持った絶望、そして業のマナ……」


 鳴り交わす暗黒の帳に灼熱なり命喰らう者、光を駆逐せんが為、舞い降りよ。


 魔王であるアズリたんが、正式なスペルを詠唱している。


 空に手をかかげてアズリたんは詠唱を続ける。


 厄災の絶叫を讃え、全ての罪を受けし者、その名を余、魔王。


 

 アズリたんはその小さな魔法力を上空に放り投げる。するとなんという事でしょう! 木星と同等の大きさの惑星をパッと! 止めてしまいました。

 手品でしょうか? いえいえ、これは事実です。

 魔王とかいう者の、ちょっと理解できないとんでも能力なんです。


 究極の混沌魔法を停止させても、その発動装置となってしまったシレイヌスさんをどうにかしなければならない。

 

 アズリたんはそのままシレイヌスさんを抱きしめた。シレイヌスさんの顔に頬擦りする。


「あ、アズリタン様。……ありがとうござまいます……ザナルガランを救っていただき、そして……この愚かだった私の事も……もう思い残す事はありません」

 

 アズリたんは名残惜しそうに。

 

 シレイヌスさんの言葉を噛み締めるように聞いた。


「そして必ず余の元に再び生まれて来い。これは、命令である」

「......許されるのであれば、神などと呼ばれる者の靴を舐めてでも」

「ならん! 貴様は美しく、気高く、余以外の者に遜らず笑って生まれ来い! 笑う者は一番強いのだ! クハハ! 絶対である! 出来ぬのなら神を余が殺しにいく。余に余の可愛い家来殺しをさせた罪はこの世界よりも重いと知れっ!」


 そして抱きしめる力を強くぎゅっと。

 そして、アズリたんは厄災の究極呪文を唱えた。

 

 

「『シン・トゥルーエンド』デスッッッ!」

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