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後世にそれを超獣戯画として語られる

 そう、それはシレイヌスが生まれた時だった。

 隣には、強烈な生命力、強烈な暗黒、それに生まれたばかりのシレイヌスは泣きそうになった。自分とは領域の違う恐ろしい何かが隣にいると、しかし、その恐ろしい何かは自分の羽をしゃぶり笑った。

 

 魔王アズリエルの後継者にして最強の魔王。

 闇魔界の称号に相応しい、漆黒の美しい髪をした自分の仕える王。

 

 “アズリタン様“

 

 シレイヌスの成長に対し、アズリタンの成長は遅かった。五年を過ぎた頃には成獣となったシレイヌスに対してアズリタンはまだ子供のよう。

 それから七年。アズリタンの姿は変わらない。



 何年、何十年、百年と経とうと、アズリたんの姿はそのままだった。されど、魔法力の方はそうでない。

 もう、南の地域にアズリタンの魔力を受け止められる魔物はいない。

 

 東のティルナノを治める頭の悪い精霊王くらいしかアズリタンの遊び相手はいなかったのだ。


 ……シレイヌスはそれに嫉妬した。アズリタンに並ぼうとは思わない。だが、アズリタンの背中を見失わない距離にはいたかったのだ。

 シレイヌスは、戦って、戦って、あらゆる邪法や禁術を学び、南では知らぬ者がいない魔物となる。

 他地域では接触禁忌の魔物として名が知れ渡っていく。実力至上主義のザナルガラン。

 

 そこでシレイヌスが、魔王種へとクラスチェンジするのに、そう時間は掛からなかった。

 アズリタンの腹心になれるというその誉れ、喜び、眠れない程の興奮を覚えた。


“アズリタン様“

 

 誰よりもその昇格に喜んでくれたのもアズリタンだった。

 怪鳥種として初めて魔王種へと変貌を遂げた事もまたシレイヌスの努力と素質の成せる物だった。

 

 元々、先代アズリエル時代からの腹心であったディダロス、それにウラボラスはシレイヌスに魔軍の大将軍という地位を譲り、実質アズリタンの右腕となる。


 その晩、宴の席でシレイヌスは、空を舞い、歌を披露した。ザナルガランに広がる美声。

 

「クハハ! シレイヌスよ。貴様は風と遊び、夜空と歌う様が美しいぞ」


 もう、死んでもよかった。アズリタンにそこまで言われた魔物がいただろうかと号泣。

 

“アズリタン様“

 

 ……アズリタンの背中を見られる距離ではない。今やアズリタンのすぐ近くに自分はいる。どんな時も何があっても自分が一番なのだ。

 ある日、アズリタンはシレイヌスの寝室に、何かオヤツと枕を持ってやってきた。歯を磨いた後にオヤツを食べようとするアズリタン。

 

 それは、シレイヌスの分も用意されていたのだ。夜空を眺めながら二人で甘い物を食べ、そして眠くなる時に寝る。

 魔物らしいそんなひと時がシレイヌスにとっては大の自慢だった。自分は特別な存在なのだ。

 いつだって、アズリタンの一番は自分で、それはこれからも変わらない。

 

“アズリタン様“


 アズリタンの突然の思いつき、それが全ての歯車が崩れる序章だった。北の魔王と一戦交えてくるとアズリタンは城を空けた。

 錬金術師王を名乗る愚かな人間をアズリタンが八つ裂きにしにいったのだと思っていたが、帰ってきたアズリタンは様子が変だった。

 何やら辛い物、甘い物、食べたことのない美味しい食べ物を食べたという。

 

 そして、結婚しても良いと思える人間がいたと嬉しそうに話す。


「クハハハハ! 知っておるか? 人間は余達の知らぬ事を沢山知っているぞ!」


 信じられなかった。まさか、魔王であるアズリタンが……

 本来、滅ぼすべき多種族である人間を、人間に好意を持ってしまったという事実、そして小さな疑惑を覚えた事。

 

 アズリタンとは、一体なんの魔物の種族なのか?

 

「クハハ! シレイヌスよ! この“ぐらたん“という食べ物、貴様も食してみよ! ルシフェンなる弱小の魔物が考えた料理らしい! 実に美味いぞ! カイザー・デビル達に作り方を教え、今日の宴にはもっと他の食べ物が並ぶと聞く! 気に入ったぞレッサーデーモン!」

 

 超級の魔物しか住まう事を暗黙の了解で許されなかったザナルガランに低級のデーモンがやってきた。

 

 そのデーモンはアズリタンに気に入られるも、独り占めするわけでない。

 

「余を楽しませる為にザナルガランに身を置きたい? クハハ! 許可する! 余は余が楽しい事が大好きである!」

 

“アズリタン様“



 最初は、アズリタンの機嫌取り程度には丁度いいと思ったが……

 

 気がつけば、魔王種であるシレイヌス他三人と並び、アズリタンの腹心として座を共にしていた。

 

「このザナルガランの実力至上主義……恐れ多くも実力とは戦闘力とは似て非ざる物かと」


 アズリタン至上主義法の確立と共に、ゆっくりと変わりゆく国。

 

「クハハハ! 今日の余の世話役はお主か! 良きにはからえ!」


 皆が、アズリタンと関わる。

 その場所は、本来シレイヌスの場所だったのに…………

 されど、アズリタンが喜んでいる。それが、シレイヌスの喜びのハズだった。

 

「クハハハ! 貴様、なんという? 余の食べたい物をあらかじめ用意し、気に入った! 貴様は余の城で働く事を許可するぞ! メイドというらしい」

「こ、光栄ですぅ! アズリタン様ぁ!」


 城には専門職の魔物が増えていく。

 確かに、ザナルガランの国力は驚く程、短時間で上がったのだろう。

 


 …………何かがおかしい。



 シレイヌスは、ザナルガランが栄え、他の魔物達の笑顔が増える状況。

 本来であれば、喜ばしい事のハズなのに、何か違和感を感じている自分がいた。

 

“アズリタン様“

 

 それは、ルシフェンという魔物。この女の魔物はいつからザナルガランにいた? いやそもそも何故ここにいる?

 他魔王種の腹心にそれを話しても、そんな細かい事を気にするのはシレイヌスらしくないとあしらわれる。

 

 独自にルシフェンを疑っていると、ルシフェンの方から擦り寄ってきた。シレイヌスに都合の良い役職を他腹心の前で推薦し、

 アズリタンの作法世話役。


「…………クハハ、余はこういう礼義とかは好かぬぞ?」


 アズリタンの苦言が日々増えているように感じていた。が一緒にいれる時間が増えた為、見て見ぬふりをした。


「アズリタン様、魔王たるもの、支配した暁にはある程度の品位が必要です」


 本当に、魔王にそんな物、必要だったのだろうか?

 自分は一体、何を言っているのだろうか?

 

 自分はルシフェンに乗せられているだけじゃないのか!

 

 ………………そう思い行動しようとした時、最悪のタイミングで人間がやってきた。




「クハハ! 凛子よ! 果物のジュースを飲みにいこうではないか! それに今日の食事はパンケーキとやらをルシフェンがカイザーデビルのメイド共に教えておるらしい! 余は食べた事がない! きっと凛子も初めての食べ物に驚きを隠せぬぞ! ん? 凛子はパンケーキを知っておるのか? クハハ! 愉快である!」

 

 アズリタンと同じような服をきた人間、その人間にアズリタンは夢中だった。それを見て生まれたのは強烈な嫉妬。

 ルシフェンを怪しむという事を忘れてしまうような大炎が生まれた。

 そしてそんなシレイヌスの心を巧みに誘導する低級のデーモン。

 アズリタンを超える魔王にならないか? …………と囁いた。

 

“アズリタン様“

 

「シレイヌス、どうしてしまったのだ貴様?」

 

 どうしたんだろう?

 気がつけばアズリタンに牙を剥き、同胞である同じ腹心を今や、手にかけた。

 

「私は……魔王になりたかったのだろうか?」


 結晶化したザナルガランの魔物達。

 そして、誰も喋られる者はいなくなってしまった。

 アズリタンもそこにはもういない……


「眠ろう、きっとアズリタン様は戻ってきてくれる」


 目が覚めると、身体の一部が自分の感覚から無くなっていた。


「……お目覚めですか? シレイヌス様……ふふっ」


 自分の口が、知らぬ口調で話しかけてくる……

 

 

 自分の意識が書き換えられてくる。

 そう、シレイヌスはルシフェンを名乗る恐ろしい者に語られた。


 

 かつて、異世界の魔物と言われた怪物を今一度この世に復活させようとする者。そしてその異世界の魔物の依代として、このカタストロフを使おうとしている事。

 シレイヌスは程のいい実験体として使われた。


 前回は五大国全てが協力し、なんとか異次元の彼方へと送り返した異世界の魔物に、前回全ての耐性を持たせて復活。

 今、五大国は敵対関係にあり、協力する術はない。こんな状況で異世界の魔物が出現したら……。


 ルシフェンを名乗った者にシレイヌスは世界を破壊させる目的を訪ねた。

 多くは語らなかった。ただ一言、ルシフェンは復讐をすると言った。それがなんの復讐なのか、シレイヌスに知る由もない。


 だが、馬鹿だった自分のせいで、ザナルガランが、大好きなアズリタンに未曾有の危機が迫っている。

 抗った、なんとかカタストロフから離れれば、自分の起こしたことは自分でツケを払うべく、持てる全ての魔法力を展開し……カタストロフに吸われた。

 

 そして、アズリタンやザナルガランを守るという考えが、アズリタンを超える魔王になると書き換えられる。

 アズリタンとの戦いでそれが思い出された。


「……思い出した……。もう、私は元には戻れないんだ……もう、アズリタン様の隣を歩く事はできないんだ……あんな奴の言う事を聞かなければ良かった……でも、ルシフェンが意識から消えた今なら、まだザナルガランとアズリタン様の事はお救いできる。もう一度、アズリタン様のそばにいたかったなぁ……滅ぶのは嫌だなぁ……だけど、最後の最後にこんなに迷惑をかけた私でもまだできることがある。私は、怪鳥王シレイヌスだ!」

 

 アズリタンは混沌魔法をノーガードで受ける。

 そして笑う。

 その度に胸が締め付けられる思いだった。混沌のカウントダウンは止まらない。アズリタンはその全てを自らで受け止めるつもりなのだ。シレイヌスが助けてとお願いしたから……。


 

 アズリタンは魔物達の真なる王である。どんな魔物達ですら、家来になったとあらば全力を持って守ってくれる。

 そこには、魔物の種族や、ランクなど……いや、魔物であるかどうかも。

 アズリタンには関係ないのだ。


「……アズリタン様……。覚えておられますか? 昔は、貴女様と一緒に野をかけ、私の背をお貸しさせていただき、空を飛び、様々な事を日が暮れるまで遊び回った物です。私にとってはアズリタン様は世界その物でございました。誰よりも特別で、何よりも大切で、私にとってはアズリタン様こそが生きる意味でございました。私は誰よりもアズリタン様の寵愛を受けられる物だと……愚かな考えに支配されておりました……ですから、アズリタン様……」


 近くにいるのだ。目の間にアズリタンが

 

「……シレイヌスよ……。貴様は余にとっては、特別な存在であった。生まれ時から隣におったのだからな……」


 シレイヌスはアズリタンに抱きしめられる。柔らかく、いい匂いがする。

 そんなアズリタンをシレイヌスも抱き返す。

 

“アズリタン様“

“アズリタン様“


「アズリタン様、そうか……私は幸せだったんだ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 アズリタンは黒い炎に焼かれ、見るに耐えない。

 そのダメージ量はもう想像ができない状況だった……なのに。

 

「……クハハ、あと一発、二発であろう? シレイヌスよ。余には効かぬ! さぁ、続きを! げふっ!」

 

 再び大量の吐血、ギザギザの歯から滴る血、ドラキュラみたいに見える。


「……アズリタン様、もうやめてぇ……それ以上私の為に傷つかないでくださいまし……アズリタン様……こんな事ならディダロスと、ウラボラスを……そうだ。二人なら……北の死威王、貴様は今アズリタン様と同盟、同等の関係。さすれば、ディダロスとウラボラスを結晶化から状態回復できるハズ」

 

 なるほど、あのエルミラシルの時みたいにな。

 現状、アズリタンの家来であるディダロスさんとウラボラスさん。

 俺の方が位が上だからユニオンスキルが通じる。


「よし……乗った! 俺よりも間違いなく二人の魔王種の方が役に立ちそうだ。ガルン、アステマ、エメス。二人の結晶をここに運んできてくれ! 二人を精霊王サマスキルとアラモードのスキルで復活させる! 時間がないから早く!」

 

 エメスは一人でウラボラスさんを、アステマとガルンがでっかいディダロスさんを運ぶ。


「……クハハ! マオマオ、それにマオマオの従者のガルン、アステマ、エメスよ! 余計な事をするでない! 余が一人でできると言えばできるのだ! 邪魔をするなら後で酷い事になると覚えておくがいい! クハハハ!」

 

 それにビビるガルンとアステマ、泣きそうだ。

 エメスはフリーズしかけ、

 

「アズリタン。本当にいい王様、魔王ってのは、しっかり家来を働かせるもんだと俺は思うぜ」



 今の俺は女の子の姿のわけだが、いつもより堂々としている。

 女になって分かった事なんだが、精神面というか度胸面は女性の状態の方が強いかもしれない。

 母は強しはあながち間違ってないな。



「むっ……他ならぬ、同じ魔王であるマオマオが言うのであれば……そうなのだろうな! クハハ! 良い、手伝う事を許す!」

「よしきた! 精霊王スキル、超加護・からの、アラモードのユニオンスキル。オールエンド・ヒーリングだ!」

 

 そう、俺はアズリタンの家来だからと、あまり考えないようにしていた。

 魔王種を二人、復活させる。俺のスマホが、アズリタン襲来時と同じ危険アラームを鳴らす。

 暴獣王ディダロス。凶蛇王ウラボラス。闇魔界三強の二柱が復活した。優男に見えるウラボラスさんは巨大な蛇に、大男のディダロスさんは巨大な狼に。

 そして二人は俺を見てこう言った。

 

「…………死威王様、助かりました。話は結晶化していても聞き申した」

「末妹みたいなシレイヌスだからねぇ。手加減してたんですが、もう容赦はねーです」

 

 二人の魔王種が本気を出した。というか、アズリタンもそうだが、魔物は最初手加減しなければならないルールでもあるのだろうか? ウラボラスさんが吐いた氷のブレス。

 ディダロスさんが突進し、カタストロフの巨人の体に殴りかかり一撃で粉砕するその破壊力。

 神聖魔法も精霊魔法もカタストロフ程度の模倣では致命傷にならない。

 

「…………二人ともすまない……愚かな私を処してくれ」


 …………シレイヌスさんは死を懇願した。


 それにディダロスさんは少しだけ悲しい顔をして、ウラボラスさんは真顔、二人は彼女の願いを聞き入れたらしい。

 

 アズリたんの回復を待つ間に、もしかすると終わってしまうかもしれない。二人の破壊力はアズリたん級だ。ヤバすぎる。

 

 ウラボラスさんの氷の魔法はアステマの魔法がカスに思える程。

 案の定、アステマが落ち込んでる。

 北の魔王シズネ・クロガネの最高傑作であるカタストロフの対魔法装甲が無理やり引き剥がされ、そこに規格外の魔法を叩き込まれる。

 巨人の形を模っていたカタストロフをシレイヌスさんが囚われている胸部以外破壊し尽くした。


 …………瞬間風速だけならこの二人、アズリたん以上じゃねぇのか?


 巨人の体を破壊し尽くすと、ウラボラスさんが人型に戻り、伝説級の武器を召喚、そのナイフでシレイヌスさん救出を行うのだろう。

 

 この二人を復活させた事は大正解だった。無駄なく無理なく確実に仕事をこなしてくれる。最初に感じたアレは間違いなかった。


 邪魔なカタストロフの破片を取り除き、ウラボラスさんは頷く。

 しかし、現実は残酷だった。

 

「シレイヌス……お前、身体が……そのゴーレムと同化しているじゃないか……お前、それを分かって俺やディダロスに……」

 

 シレイヌスさんはカタストロフのパーツの一つになっていた。

 下半身から下が、鉱物に……。

 

「……自分の身体の事だ。もう元には戻れない事は分かっている……私がこのカタストロフのコアとして作用しているらしい。早くしないと復元が始まる」


 シレイヌスさんの言葉通り、二人が破壊した筈のカタストロフの破片は再びシレイヌスさんの元に戻ろうとしている。


「シレイヌス。最後に何か言いたい事はあるか? 闇魔界の御方の手を煩わす前に、我らが貴様を我らの闇魔界に送ってやる」

 

 ……狼姿のディダロスさんの台詞。

 

 もう助けるという事を完全にやめたのだろう。

 アズリたんは今なお傷を癒している最中。そしてシレイヌスさんにトドメを刺すことくらいは二人には容易いらしい。

 瞬時に魔法力を練り込む、二人はアズリたんが使った強力な魔法。

 ゲヘナを放つつもりらしい。


 二人は容赦なく、そして際限なく魔法力を高めていく、一度手加減をしたアズリたんのゲヘナをシレイヌスさんは耐え切るタフネスを誇っていた。

 それを知り、一撃で確実にシレイヌスさんを滅ぼすのか…………。



 魔王種二人の手加減無視の最大魔法。

 アズリたんにはなく、この二人にあるのはこの非情さなんだろう。シレイヌスさんも安心している。

 

 アズリたんに自分を殺させるというトラウマを受け付けず済むと。


「……ディダロス、ウラボラス。アズリタン様の事。あとの事。よろしくたのむ。今後、愚かであった私のような者が生まれぬように、新しい腹心を選ぶ際はお前達に任せる。私の言いたい事はない。が、凛子様、そして、死威王よ。苦労をかけた……その、私が言えた義理ではないが、アズリタン様とこれからも仲良くしてくれ」

 

 凛子ちゃんは泣いてしまっている。

 俺は、三人にダメ元で聞いてみた。

 

「何か、助ける方法はないの? なんか奇跡的な何かで!」


 自分で言って、そんな都合の良い事があるわけないことくらいは……


「死威王様……。残念ながら、ゴーレムとなった別種を分離し、取り除く方法は。ゴーレムを生み出した北の魔王シズネ・クロガネですら不可能だと語っていた。ならば神ですら不可能な事だろう……ここからは魔物の領域」


 くそっ、今ほど俺は自分がチートを与えられない現実に心が折れそうだ。

 

 そうこう言っている内に、ディダロスさんとウラボラスさんの魔法が完成したようだ。これは凄まじいぞ。

 空高く人工太陽のように揺らめくその強烈な魔法。

 

「凄まじいな、これが闇魔界二強の魔法力か、これなら死ねる」


 目を瞑るシレイヌスさん、それに二人は魔法を放とうとする。

 その瞬間、シレイヌスさんが目を開けて叫んだ。

 

「二人とも、早くそれを放て……止まっていない。混沌のカウントダウン1。放たれる光と闇。ケイオス・ディザスター!」

 

 黒い太陽、そう表現すればいいだろうか? ディダロスさんとウラボラスさんの二人の魔法と同出力。

 

 それに二人は迷わず、二人分の暗黒魔法ゲヘナで迎え撃った。

 

 上空……。

 相当な高度でぶつかったと言うのに。

 ディダロスさんとウラボラスさんは何重にも障壁の魔法を張る。

 それだけでは足りず、二人は巨大な魔物の姿に戻って衝撃に備える。

 

 

 

「……嗚呼……そんな。混沌の最終エンゲージ。究極混沌魔法。魔法力が充填開始される……ディダロスも、ウラボラスも衝撃に手一杯か」

 

 俺たちは、シレイヌスさんの元にカタストロフのパーツが戻るのを見届けるしかない。

 それは巨大なカラスに……。

 まさか、推定40メートルほどの機械の鳥が。

 羽ばたいて浮遊する。金属の翼、その羽の一枚一枚がバーサーク・プレート。

 

「止まらない……もう止められない……今のカタストロフは魔王種のメギドですら受け切れる」

 

 悲痛そうなシレイヌスさん、どうやら、究極の混沌魔法とやらは、先ほどまでカウントダウンで使っていた魔法とは次元が違うらしい。

 

 そもそも、アズリたんにこれだけのダメージを通すことができる魔法、それよりも異次元の威力だとすれば……

 それはもう、アラモードの聖龍化した時と同等の絶望的な展開が予想されるわけだ。

 シレイヌスさん自身の体の部分がどんどん失われていく。

 カタストロフのパーツとして……シレイヌスさんの同化が進んでいる。腕も取り込まれ胸の部分まで鉱物のように……。



 カウントダウン1の混沌魔法を凌いだ二人。

 ディダロスさんと、ウラボラスさんが疲弊した状態で魔法を放つ。

 

「「暗黒魔法・メギドぉ!」」

 

 最強破壊魔法であるゲヘナは使えないらしく、一段下とはいえ二人分だ。

 魔王種の本気を出した魔法に対してカタストロフは羽を閉じる。眩い光と共に、表面を少し溶かした程度……。

 魔法がダメなら当然物理攻撃に転じる二人。

 巨大狼ディダロスさんの拳、巨大蛇のウラボラスさんの尻尾による叩きつけが放たれる。


 

 それを受け止め、二人にカタストロフは置き土産を残す。









「ぐぁああああああ! 我の拳が……」

「冗談きついぜぇ……シレイヌスよぉ」



 二人は金属の羽に貫かれ……。

 その羽はダメージを与えるだけでなく、どうやら二人の魔法力を吸っているらしい。

 二人は人型に戻ると、膝をついた。すぐさま俺と凛子ちゃんで羽を抜いて、俺の回復魔法。

 傷は癒せても、魔王種クラスの魔法力を回復できるアイテムなんてない……エルミラシルの破片はアラモードに使っちまったし……

 

 俺は何か二人の魔法力を戻せる方法がないかと考えたが魔王種である二人にウィルオーウィプスは使えない。


 絶体絶命というやつなのだ。シレイヌスさんは苦しそうに、逆にカタストロフは元気よく羽ばたく。


「ダメだ……混沌の魔法が始まってしまう……南が無くなってしまう」

 

 シレイヌスさんはもう争う事も動くこともできないような姿。

 ただただ、悔やみ、涙を流し、悲痛な叫び声を上げる。

 この状態、もう頼れる者は一人しかいないのだ。もん娘達は震えて抱き合っている姿を俺はそっと目を逸らす。

 

 この異常事態をなんとかできるかもしれない者を探すが、俺はアズリたんを見つける事ができない。


 ……あれ? 傷を癒していたハズだったのだが、

 アズリたんは一体どこに行ってしまったのだろうか?

 俺はふと目の前を、シレイヌスさん、カタストロフに視線を移した……。

 

 …………そこには、傷も服も完全に綺麗になったアズリたんが、亜空間より翼を生やしてゆっくりと浮かび上がる姿だった。

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