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死ぬ前に俺のTS化の呪いを解いてください、ほんとほんとマジで

 ………………。

 静寂、シレイヌスさんの助けを訴える声。

 


 命乞いをしているわけではないことは俺にもわかる。

 シレイヌスさんは恐らく、操られている。

 身体の大部分を占めている北の魔王が作った巨大なゴーレムに。

 

 ……………………苦しそうだ。

 

 シレイヌスさんは自分を抑えようとしているが、


 頭には反して身体の方は臨戦体制に入る。

 身体の大部分を俺たちとシレイヌスさんの魔法で失ったアズリたん。

 ……痛覚はあるらしい。

 なのに笑っているのだ。

 それも、とても機嫌が良さそうにアズリたんはバカ笑い中だ。

 どうやら、シレイヌスさんが助けを乞うた事が嬉しいらしい……。

 

 俺と凛子ちゃんは物凄く恥ずかしい格好をしており、この気持ちを今、どうしたらいいか考える事をやめている俺、凛子ちゃんは……?

 

 うはw ちょっと恥ずかしそうだ。

 


「良い良い! シレイヌスよ。最初こそは貴様が少し余に反抗していた程度なのであろう。だが、ここに来てからの貴様は貴様と喋っている気がせなんだ! ようやく貴様の声を聞いた。余が救ってやろう! 安心するといいぞっ!」


 シレイヌスさん、めっちゃ泣いてる。


「アズリタン様ぁ……申し訳ございません。もう意識を保っては……」


 シレイヌスさんの下半身から広がる巨大なカタストロフというゴーレムはさらに進化する。

 

 

 巨人、シレイヌスさんを胸部に取り込んだ巨人に変わった。

 さらに変化しようとしている。

 おいおいおいおい! ちょっと待って……

 巨人の手から魔法が放たれようとしているけど?



 身の丈、六十メートル程、アラモードの聖龍と同サイズの巨人が魔法を放とうと?

 

「…………。アズリタン様、このカタストロフはアズリタン様やここにいる他の連中を撃滅せよと私の頭に命令してくるのです……アズリタン様に対抗する為に、身体の構成している物質を魔法を無効化する何かに変えて……私の意識ももう……」

 

 シレイヌスさんの話からすると、カタストロフは対アズリタン形態になった。

 …………魔法呪印生物みたいだ。

 いや、違うな。多分、蘆屋道満の魔法呪印生物はこの北の魔王のゴーレムをモデルに生み出されているんだろうか?


 

 アズリたんは笑う。

 ズタズタに失っていた身体の部分は亜空間とし、

 そして闇魔界なる場所から何かがアズリたんの身体の一部となり定着。

 十分も経つと、アズリたんは元のセーラー服タイプの服に黒いマント、そしてブーツ姿の元に戻る。

 

 

「……アズリたん。俺や凛子ちゃんに何かできる事はあるか? 今、結構俺たちもできる感じなんだけど……てか、なんかしないとその……恥ずい」


 アズリたんは俺に凛子ちゃんを見ると、目を大きく開く。

 

 

 ……プリキュなんとかとか見る女児の目か?

 いや違うか……凛子ちゃんが戻ってきた事がアズリたんは心から嬉しいのだろう。

 アズリたんの真っ黒い魔素が怒っている時は別の感じでバチバチしている。

 本当にアズリたんはその時の気分がわかりやすいな……。

 ……亜空間から翼を四枚広げる。

 そして別の亜空間からは巨大な腕が現れる。

 

 

 アズリたんがマントを広げると、さらに別の亜空間より、斧やら槍やら無数の武器が顔を出している。

 アズリたんは一体どれだけの亜空間を操る事ができるのだろう?

 いや、彼女は闇魔界のアズリタンと呼ばれている。

 この亜空間が闇魔界なのであれば……これもまたアズリたん?

 俺の予想が正しければ、アズリたんの手数は無限なんじゃ?


 

 アズリたんは大きく口を開けて、


「クハハ! 貴様らに何もする事はなし! と申したいところであるが、マオマオ! それに凛子よ! 余の国の者共を安全な場所に運ぶ事を許可するぞ! 余は少しばかり、シレイヌスに寄生しているこやつを叩き壊す事にするとしよう! 良きにはからへ!」


 やる事はないか? と聞いたのは俺だ。

 だから、アズリたんはアズリたんの国の人々を助けることを許可してくれたらしい。

 まぁ、アズリたんは変わりないようで…………。


 アズリたんの手数はさらに増えていく。一体どれだの数で迎え撃つのか。

 俺や俺の拠点のもん娘達は、南はアズリたん一強である意味を嫌でも知らしめられていた。アズリたんは個人で軍隊、要塞、弾薬庫。

 まさに魔王と呼べるにふさわしいスペックを誇っている。



「さて……余がこの状態になるのはいつ以来だったか? 精霊王と本気で戦った時か? クハハ! 精霊王の奴は涼しい顔で受けよったな!」

 

 精霊王様の調子が万全の時ってどんな感じなんだ……これ防いだのか?

 

「あ……あ……あず……アズリタン、アズリタン、アズリタン、貴女を殺して貴女を手に入れる。混沌魔法、二つの永遠が交わる時、魔王すらも飲み込まん。エターナル……エンドレス・レクイエム!」


 アズリたんの全方位魔法攻撃にシレイヌスさんの大技。

 

 …………お互いありえない手数の応酬だろう。

 俺たちは関われるわけもなく、結晶化した魔物たちを安全なところに運ぶ。

 とにかく遠くに、そして頑丈そうな建物の中へと集めていく。



 ……先ほどから、アステマが「あっ!」とか、ガルンが「壊れたのだ」……

 とか聞こえるけど聞いてない事にしよう。

 物凄い強そうな魔物のツノとかが折れてその辺に転がっている。

 これ、後で殺されないだろうな。

 全部……アズリたんとシレイヌスさんのせいにしよう。そうしよう。

 

 俺と凛子ちゃんは恥ずかしいが、魔法少女と化しているので、そのありえない魔法力で結晶化した魔物を運ぶ。

 ガルンとアステマが二人であちこちぶつけながら魔物を運ぶ。


 

 そして……やはりこのザナルガランでもブレないのはウチのど変態番長。ゴーレムのエメスさんですよ。

 そう、エメスは魔物もショタしか運ぼうとしない。



「ふふっ、この挑発的な瞳がたまらないと宣言す」

「おい! 結晶化していたとしても、お前それは犯罪だからな! この世界はどうか知らんけど、俺の地域は俺の生まれた国の法律を遵守するからな!」


 俺の言葉に、エメスはやばい目をしながらショタ魔物を運ぶ。

 ……ご丁寧に他の魔物は置いていく。

 

「いや、ちゃんと運べよ! お前、後でアズリたんに言いつけるからな」


 俺がそう言うと、あからさまに不満げな表情を俺に向けた。


「あ、アズリたん様は我と……クズハラ女史の本に書かれた内容からすればずっと友であり……アズリたん様が我に何かをするという事は考えられなし……しかし、アズリたん様の領民を守る依頼をお与えいただいて……り」

「そうだよ! だからそれが出来なかったらアズリたんブチギレでしょうな?」

 

 地域は違えど、魔物達からすれば魔王というネームバリューは強い。

 エメスは抱きしめるように運んでいたショタ魔物達を運び終えると、ハァとため息をついて大人の魔物達を運び出した。

 

「最初からやりゃーいいんだよ! アズリたん見てみろよ! なんかもう視界入れたくないバトルしてるぞ」

「マスター、ゴーレムに動きあり」


 エメスが下ネタよりも真面目なことを優先する時、ろくな事がない。


「ちょ……。具体的にはどういう感じで動きがあるんだ? わかりやすくよろ」


 遠い目をするエメス。


「あれは成長する兵器、カタストロフ。ウルスラと袂を分つたシズネ・クロガネが引きこもったまま全自動で世界平和を行えるように生み出した禁忌のゴーレム兵器……先ほどのクロネコ達との戦いで呪印生物の特性を学習したり」

 

 うそやろ! あれ、呪印生物の祖かと思ったけど、


「ちょ待て……という事はエルミラシルみたいな動きや、アラモードの聖龍みたいな姿とかもそれらを学習していたって事なのか? というか、シレイヌスさんが神聖や精霊魔法使えるのも?」


 エメスは静かに、頷いてみせた。そうらしい。

 という事はだ……そのゴーレム兵器、カタストロフ。完全に俺達と共にあったという事になるんじゃないのか?

 一体、どこで?

 ……いや、一つだけあるわ……セリューに渡された物肌身離さずつけてアホが一人いたのである……

 俺は心底ガッカリする顔で、ゼェゼェ言いながら結晶化している魔物を運ぶアステマを見た。俺を見ると褒められると勘違いしてすました顔。

 

「マオマオちゃん、アズリタンちゃん、大丈夫かな? エメスさんの言う話だと、どんどんあの巨人強くなっていくんでしょ? 私たち、こんな事してていいのかな?」

 

 これに関して言える事がある。

 多分、大丈夫なんだろう。

 

 俺たちは、一度、シレイヌスさんに関してアズリたんがなんとでも出来ると言うのを信じずに虚勢だと思い込んでいた。


「アズリたんを信じよう。だから、アズリたんが俺たちにこの国の連中運んで守ってくれって言ってるから、俺たちはそれがオーダーだよ」

「そうだよね! 分かった。がんばろ!」


 アズリたんと顔を両手で覆うシレイヌスさんの構図。


「それより……。心配なのはシレイヌスさんだな。アズリたんは助けると言っているけど。シレイヌスさんの上半身と、カタストロフの下半身、あれ同化していないか? …………アズリたんも魔王なわけだから俺たちには理解できない能力であそこから分離させる事ができるかもしれないけど……カタストロフは多分、半分以上が俺の世界の理論で作られた機械。要するにこの世界からすれば未知の技術で作られているから……あそこからシレイヌスさんだけを分離させるなんてかなり難しいと思うんだよな。見るからにアズリたんはシレイヌスさんを傷つけないように手加減してるし……」

 

 

 そんな事はお構いなしにカタストロフはどんどん進化を繰り返している……。


「アズリたんならなんとかしてくれるんじゃないかと思ったんだけど、アズリたん……力技しか出来ないからな」


 圧倒的な力でねじ伏せる事がアズリたんのやり方。

 今も尚、強烈な爆裂魔法を放つ。

 シレイヌスさんの同化部分を狙っているみたいだ。


「雑な分、壊すつもりでいけばどんな者も相手じゃないんだろう。逆に加減をしながらという事に慣れてない」



 万が一である。

 万が一、カタストロフがアズリたんを超えた場合。


「……アラモードの聖龍化とタメを張るやばさだぜ……」


 俺の嫌な予感は、現実味を帯びてきているようだった。

 

 シレイヌスさんから放たれるミサイル、それは魔法力を吸う力が付与されている。


「あぁ! アズリたん様がぁ!」

 

 たぬきちさんの叫びに皆注目する。

 ……アズリたんに次々とミサイルが着弾しているのである。いかに魔王といえどもあれだけ受ければ……


「クハハ……混沌魔法、恐るるにたらずだ! 余の身体に響く程度である! 噂に名高い禁忌の魔法と聞いておったが、この程度か! 所詮は骨董品のような魔法であったという事よ!」

「…………闇魔界、貴女の秘技とも言える厄災の魔法もこの混沌魔法の親戚みたいな物ですよ? そして、これからが混沌のカウントダウンです」

「貴様、シレイヌスではないな? シレイヌスのその顔で、その声でそのような事をするでない! 今すぐにシレイヌスを解放せよ! さすれば余の寛大なる心で許しを与えてやろう! クハハ! 名さばきである!」


 シレイヌスさんの声だが、この喋り方は多分。

 いや、間違いなく、これは地球からきたテロリストだ。

 

 シレイヌスさんは魔法を練る。

 機械巨人の胸の中で手を広げ、機械巨人も手を広げる。

 

 

「……ルシフェンです……まぁ意識だけですけね」

 

 ルシフェン……いや、多分セリューの別名だろう。


「ほう、あの賢しいレッサーデーモンか、余の事を思い、ルールとやらを作り、実のところ誰のことも見ておらず、考えておらず、最初は面白いと思って側に置いておったが……すぎるぞ? わきまえよ!」


 アズリたんは髪をかき分ける。黒いツヤツヤの髪が靡いた。

 申し訳ない程度に僅かに膨らみがある胸を突き出して、アズリたんは腰に手をやっていつもの王者のポーズ。


「……闇魔界、私はどうやら貴女の事を大きく勘違いしていたようです。想像以上に聡明なお方だったんですね……」


 いや分かるわー!

 普段が完全にアホの子だもん。

 なのに、アズリたんの言っている事は大概事実なんだよな。


「クハハハハ! 今更気づいたか! さよう! 余は大変、賢いのである! それが分かればルシフェンよ。よもやここまでであろう? そのような力では余にはなんの痛痒も感じぬし、魔王に至れる程の魔法でもあるまい? 話してみるといい! 貴様の目的とは、願望は何か? 余は魔王であるぞ! 大概の事は叶えてやろう! ご馳走か? それとも宴か?」


 多分、そんなパリピな願いじゃないんだろう。

 

 ……セリュー、案外アズリたん苦手なんじゃ。

 

 ……俺に対しては完全論破してたが。

 

 さぁどうでる?

 ……顔を顰めている。

 ……やはり、苦手か?


「私の目的、そして願いですか? そうですね……それは聡明なる闇魔界でも理解に及ばないことでしょう……あら、まだ争いますか?」



 ……………………顔を突然抑え出すセリュー。

 俺達はザナルガランの結晶化した魔物たちを、魔王種の二人を残して運びきった。そして二人の話に目が離せないその時……。

 

「あ、アズリタン様、私ごと……この巨人を……これは異世界の魔物の依代に……あああああああ!」

 

 シレイヌスさんは何か、とんでもない不吉な事を叫んだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 異世界の魔物の依代。

 

 確かにそう言った。


「貴様っ……私を操れると……! く、こんな辱めを受けるくらいなら……! 本当に魔王種という連中はすごいですね。精神汚染をこれだけしてもまだ抗えるんですか……! ふふっ、いいでしょう。今生の別れになるかもしれませんし、シレイヌス様。貴女の意識はお返ししましょう。最強の魔王。闇魔界にこのカタストロフが通じるのか、混沌のカウントダウンを貴女に仕掛け、私は去る事にしましょう。最後に、とても滑稽でしたよ。シレイヌス様……」

 

 シレイヌスさんは怒りに表情を歪める。まぁ、間違いなくセリューにいいように扱われたんだろう。

 正直、かける言葉は見つからないし、助け方も分からない。

 ……頼みの綱は本当にアズリたんだけになってしまったのだ。頼むよマジで!


 

「アズリタン様……、この身体は混沌の究極魔法を使うつもりのようです。抗えません……万が一の事がございます。今の内に、魔法が発動される前に私ごと、この巨人を破壊してくださいまし! ザナルガランを救うにはこれしか方法がございません……!」

 

 シレイヌスさんは泣きながら笑った。

 覚悟を決めた。

 きっと後悔している。


 どう唆されたのか、もう取り返しのつかない状況に陥っているのだろう。だが、それでも最悪の事態は回避しない。

 

「凛子ちゃん、力を貸してくれないか?」

 

 俺に何ができるのだろう? いや、何かしなければならない…………!

 

 クロネコは負傷し、シレイヌスさんを、アズリたんを救えるのは今、俺と凛子ちゃん以外にはありえない。

 

 魔法少女の魔法はどうやら、他の魔法とは別種の仕組みをしている事は使おうとしてわかったのだ。



「うん、何ができるか分からないけど、私もやってみる! シレイヌスさんを助けたいから!」

 

 凛子ちゃんのそのセリフに、アズリたんは笑い、シレイヌスさんはなんとも言えない悲しそうな顔をした。

 そして「……凛子様……私、私は……」



 アズリたんを人間に取られる事が嫌で、きつい事を言い、態度を取っていた。

 そんな自分を救う必要も義理もないと……

 

「そんな事ないですよ。アズリたんちゃんがシレイヌスさんを好きなように、私も……シレイヌスさんと仲良くなりたいから!」


 凛子ちゃん、ええ子やぁ!


「凛子様ぁ……なんと……なんともうして良いのか……」


 うん、感動しているところ悪いのだが、シレイヌスさんはまず俺に謝罪をして、魔女っ子から元に戻すべきなんだと思うのだけれど?

 

「あのぉ……シレイヌスさん俺を元に戻してくれはしませんか?」

「北の……死威王……か、すまない。見ての通り、何もできないんだ」


 いやぁ……うん、今の状況をして俺もクレームを言う気はありませんよ。


「うん、いや大丈夫ですよ。そこから救えれれば、元に戻れるんですよね?」


 流石に、終わりよければ全て良しなわけで、そういう事ですよね?

 

「……本当にすまない」


 ……は? 何言ってるんこいつ?


「アズリタン様が、お前と結婚したいという物だから、そんなことを絶対にさせないように絶対に解けない呪いをかけた」


 ふむ、で? それはどういう事だってばよ?

 要するに、今の状況をどうこうしようとも、俺は元に戻る事はできないと、そう言いたいらしい……地獄か!

 

 いや、もう正直どうでもいいやとか思い始めている俺がいるけどさ。

 なんかここで駄々こねるのも、大人としてカッコ悪いわな……

 

「ま、まぁ! アステマの呪印の件もあったし……とりあえず何か方法は……探せると思うしなんとかなるよな? ね? ……なるよ……ねぇ?」


 なんかアステマみたいな事を言う俺。



 頭を垂れるシレイヌスさん……やめて……

 


 まぁ割と重大な事実が発覚したと言うのにアズリたんである。

 腰に手を当てて、一件落着とでも言いそうなくらい馬鹿笑いをしている。

 それにもん娘たちは和やかな表情を俺たちに向け……

 なんだろうコレ、ここまで殺意が湧いたのは久しぶりかもしれない…………。


 俺の中で何やら黒いものが渦巻く、あー闇堕ちしそう……。

 

「皆さん、時間ありません。混沌魔法カウントダウン3。ケイオス・クラックダウン!」


 シレイヌスさんに仕掛けられた魔法は発動される。シレイヌスさんと巨人が同じように天を仰ぐ。


 

 さて、この魔法は止められるのか?

 今や俺は魔法少女という不思議な種族になっているわけだが、


 どうやら、この世界ではない次元の風を呼び出したシレイヌスさん……。

 

 俺と凛子ちゃんは魔法少女の謎知識が頭の中で再生されている。そしてこの魔法はこの世界に存在しない物質を風で撒き散らし。

 周囲に破壊を齎すとか……。

 止める為には、愛とか勇気とかをかき集めて……魔法少女物の最終回的なね。

 

 魔法少女の奥義クライマックスマジックで止められるかどうか、


 俺と凛子ちゃんはその魔法を使う準備をする。

 

 世界中の愛やら勇気やらを少しずつ分けてもらう。

 これ、なんとか玉的なやつじゃとか思うけど、大体こういう魔法なんだよな。


「…………クハハ、中々痛いではないか……、余に痛みを与える数少ない魔法である! 愉快だ! シレイヌス、されど貴様の扱う風の暗黒魔法の方が余は好いているぞ! クハハハ! この魔法は雑である! 故に痛いだけ、中々に飽きがくる。されど貴様の魔法は見ていて余は飽きぬぞ。よってこのような力は貴様には不要である! クハハ! シン・メギド!」



 最強クラスの暗黒魔法をアズリたんは厄災化して放った。

 それは俺たちが覚悟を決めて対峙した混沌魔法を。

 軽々と消し去ってしまったわけである。まぁ、魔王だしね。

 問題がある。

 ……俺たちが世界中から集めた愛とか勇気とかどうせいちゅうねん!


 一つ、今まではダメージを受けたらすぐに亜空間のような物が現れてアズリたんは元に戻っていたのだが、今回はそうならない。

 ……要するに、混沌魔法とやらは、アズリたんに唯一効果的な魔法であるという事だろう。笑顔のアズリたんは大量の赤い血を吐いている……。


 

「あぁ……アズリタン様……、そのようにお傷を……、 このシレイヌス、死んでも罪を償える自信がありません……お召し物もそんなに汚れ、破れてしまって……、嗚呼……私の中で、混沌のカウントダウンが始まっています。次の混沌魔法が放たれます……もう嫌っ……」

 

 悔しそうに、苦しそうに、シレイヌスさんは次の魔法を強制的に発動させられていた。多分、先ほどの物より強力な魔法なんだろう。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 やばい事になった。

 アズリたんは血だらけの大怪我なのに、笑い顔は変わらない……。

 

 俺と、凛子ちゃんは先ほど、アズリたんによって、扱いに困っている愛だか勇気だかの使い所について確信した。

 次にシレイヌスさんから放たれる混沌魔法は俺たちが防ぐ番だろう。

 じゃないと、アズリたん、死んじまいそうだ。

 

 全てノーガードで受けてたつアズリたんの弱点はまさに今のような状況。

 

 魔王である威厳なのか、アズリたんは脳筋な破壊力を持った魔法しか使わない。多分、本来魔物達の、魔導の王であるアズリたんは様々な魔法が本来使えるハズだが、使わない。

 

 そう、それが王を冠するアズリたんの生き方なのだろう。自分以外は全て下郎と……。

 アズリたんは、ギザギザの歯を食いしばって、痛みに耐えている。

 回復魔法を使うつもりがないのか、こちらの魔法に関しては使えないのか?

 俺には王種達の事なんて分からないが、アズリたんは次のシレイヌスさんの魔法にも真っ向から挑むつもりだ。

 バチバチと黒い稲妻のようにアズリたんの魔素が爆ぜる。瞬時にとんでもない魔法力をかき集めたアズリたん。


 ゴフッと大量の吐血、これは流石に目を瞑っていられない……

 

 シレイヌスさんは涙を流し、

 凛子ちゃんは、心配そうにアズリたんの元へと飛んでいく。


 実は、何もしてやれないのである。先ほどから俺は精霊王サマのユニークスキルを使って、強化したアラモードのユニオン回復スキルを実行指定のだが、アズリたんだけ回復しない。


「アズリたん、ちょっと休んでろ! 次の魔法は俺と凛子ちゃんでなんとかするから! そのままだと死んじまうぞ!」

 

 俺の叫び、それにアズリたんは腰に手をやり王者のポーズ。

 クハハと笑う。

 時折、血を吐きながら……

 

 ダメだ。アズリたんは退くつもりがない。

 魔王のタフネスや生命力がどの程度かは知らない。

 

 だが、今のアズリたんの負傷は放置していいそれじゃないと思う。


 俺も、凛子ちゃんもアズリたんを止めようと必死だ。

 そして、シレイヌスさんもこれ以上アズリたんがダメージを受けたらと……

 

 ここから逃げてほしいと、しかしアズリたんはザナルガランの王だった。


「クハハ! たわけた事を言うなシレイヌスよ! 言ったハズだ! 余に貴様はなんと申した? 余に助けをすがったであろう? 余の領民るのが魔王の責務である!」

「でも……でも、アズリタン様が……すごいお怪我で、混沌の魔法は三大禁忌魔法……アズリタン様でも」


 確かに、あのアズリたんを軽々と傷つける魔法だ。

 

「このような魔法、児戯に等しいぞ! クハハ!」


 …………嘘だ。

 先ほどから、アズリたんは表情は変わらないが、血を流しすぎたのか? それとも他の理由なのか、フラフラしているのだ……。

 

 進化する北の魔王のゴーレムが、魔王を越えつつあった。

 きっとそれは、シレイヌスさんは元より、俺達も納得がいかない……、


 ノビスの街に単身でやってきて、人々を恐怖と、そしてその後歓喜を撒き散らして帰っていった魔王。

 恐ろしい自我を持ち、されど誰とでも仲良くなる事ができる魔王。そしてもれなく仲間を、家来を大事にしている。

 

 世界中のすべての人が、魔王といえばアズリたんの名前をあげる。

 こんな優しい魔王がどこの世界にいる?


「……いや……嫌です。もう……混沌の魔法なんて打ちたくない!」

「……構わん! シレイヌス、全て吐き出すと良い。それらを余が全て受け止めてやろう。余は最強にて貴様達魔物の魔王だからなっ!」



 なんか、これはダメじゃね?

 アズリたん、死亡フラグ立ててないか? 

 アズリたんはやはり、混沌魔法にノーガードで挑むつもりだ。

 

 そんなの自殺行為以外の何者でもない……。

 くそっ、同盟なのにユニオンスキルが働かない!

 

 俺がそんな事を考え、何か策を、対策をと考えていたが、もう遅かった……

 

「混沌のカウントダウン2 カラミティ・フレア!」

 

 黒い、黒い炎が燃え上がる。混沌の焔か?

 それに対峙しようとした俺と凛子ちゃんをアズリたんが突き飛ばす。

 

 おい!

 

 ……ダメだろ!

 

 クハハハハハ!

 

 両手を広げて、アズリたんは大笑い、しかし真っ黒な炎に焼かれ、苦しそうだ……先ほどのダメージもまだ残っているのに!

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