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ダンジョンで同人誌が落ちていても気にするな

 さて、ギルドのある街。


 ここは北の王国エリザベルドという傘下にある冒険者達の拠点の街・ノビスというらしい。

 で、俺たちはノビスの街から約30キロ程離れたゴブリン達が出入りしているダンジョン近くに身を潜んでいた。


「お前らさ、そのベコポンはダンジョン中で腹と喉の渇きを満たす物って分かってる?」

「当然なのだご主人! 今やダンジョンの前で斥候なのだ! ならばもうダンジョン攻略をしていると言っても過言ではないのだ!」


 なんでこういう時だけそういう屁理屈が出るんでしょうね……最近の若者は……


「まぁいいや。見るからにゴブリンたちの姿は見えないけど、そろそろ突入を開始しようかと思いますよ? 俺は今回の為に習得してきた魔法障壁。ガルンは高速移動。そしてアステマは俺達全員に透過の魔法をかける。モンスターに見つかりにくくなるらしいけど、遭遇時は戦闘を避ける。まず何がいて、何があるのか、持ち帰りたという物が見つかればそれを目的にする。無理に一回で持って帰らずにここに戻ってきて何度かトライ。安全にかつ確実にお宝を回収。複数あればその分繰り返す……って聞いちゃいねぇ」


 二人はようやく腹が満たされたのか、興味を持ったダンジョンに向かって丸ごしで近づいていく。

 俺の説明という物が意味なかったかもしれないことはまぁいい。昔から仕事の相手は大体話を聞いてない。


「……あのダンジョン。不思議な匂いがするのだっ! いざぁ! ご主人、あのダンジョン制圧するのダァ!」

「斥候の意味絶対知らないだろ……静かにしろよ! 絶対今のでなんらかのモンスターに気づかれたぞ。あとアステマ。透過の魔法!」


 俺はややイラつきながら、先ほど冒険者っぽく説明した作戦を一から十まで話しなおしてアステマに透過魔法を使わせる。

 

 ようやく俺たちはダンジョン攻略開始なわけだが、食糧は用意した半分以上開始前に消費し、作戦もほとんど聞いちゃいねぇ……

 そりゃ、ゲームみたいに万全の状態で進めるとは微塵も思ってはいないけど、自分が思い描く妥協点にも届いていないというのが……

 そして何の自信があるのかガルンとアステマはズンズンと進んでいく。恐れを知らぬというべきか、いや馬鹿なんだろう。


「主! 何も目ぼしい物はないわね。このあたりの壁を爆破して探索をしてみましょうか? 私の魔力目当てなわけでしょ? いいわよ。グレーターデーモンになった私も最高威力で魔法を一度使ってみたいと思っていたところよ!」

「うん、その意気やよし! が、少し落ち着け、お前さんのそのテンションがどこからくるのか分からないが、本当に落ち着いて!」


 モンスターが集まってくるだけならまだしもダンジョン崩壊生き埋めエンドとか笑えないわ。


「ならば、ボクが高速移動でこの中を走り回って探索の効率化を図るのだ! これでご主人も安心、ボクも褒められて一石二鳥なのだ!」

「待てっ……」


 俺が止めるよりも早く、ガルンはクイックのスキルを発動して飛ぶようにいなくなった。


「全く、後先考えない子ね」


 あんたがそれを言いますか、本当にモンスター思考回路がぶっ飛んでて怖いわ。


「とりあえずガルンを追うぞ! あいつは何かに遭遇して何かをやらかす事には定評があるんだ。今のところ、ゴブリンも他モンスターも見当たらないし、とりあえずマッピングだけでも持って帰ればそれなりに金になるだろ」


 ダンジョンのマッピングが売られているのを俺は思い出してそう言った。でもよく考えると、あれって攻略し終わっているダンジョンのマップだよな。

 お宝が欲しい! という人には向かないから、特定の物を採取したりするのに役立つんだろうか?

 いや、隠し扉的な物を狙っての宝くじ的な物だろうか?

 異世界謎だわ。俺は考えないことにしていたが、口に出した。


「アステマ、なぁ。ガルンいなくね? ギルドの受付の人が言ってなかった? ある程度進めたら安全なところでキャンプするか、一旦ダンジョン出るかって」

「そうね。コポルト・ガールは走り回る事が大好きだから、それに夢中になって今の目的を忘れているのかもしれないわね。これだからデーモン種以外の魔物は単純なのよ! ふふん。冒険者はそんな魔物を捕まえるトラップを仕掛けて殺害する仕事をしている連中もいるのよ。引っかかってたりしてね」


 アステマはベコポンを齧りながらのほほんとそう言う。


「あのさ……それダメじゃん! 絶対フラグじゃん!」


 俺は自分の身の危険を顧みず大声を出してダンジョン内を走ろうと準備をしたところである。

 これ、日本昔ばなし的な物で幾度となく見た事があるわ。

 

 ガルンは罠にハマって泣きべそをかいていた。

 

「……ごしゅじぃん! ここは危険なのだ! 並大抵のトラップには引っかからないボクが完全にしてやられたのだ。ボクを助けてここから早く脱出するのだぁ! 痛いのだ。怖いのだ!」

「いや、うん。まぁすげぇ痛そうだよな。とらばさみって実際。使用禁止じゃなかったか? 昔話では簡単に外して何事もなく動物は去っていくけど」


 俺はとらばさみを外し、ガルンの痛々しい怪我に回復魔法ヒールを使う。俺の本日使える魔法の回数が三回に減った。

 そしてこのトラップが引き金だったのか、警報的な物が鳴る。

 

『ウー ウー ウー! 北の魔王、別名・錬金術王シズネ・クロガネが残した宝物殿入り口前トラップに反応あり! 繰り返す! 宝物殿入り口前トラップに反応あり、ガーディアン召集。愚かな冒険者達を駆逐せよ!』


 地獄か……ガルンが罠にかかりました。

 その罠を外すことでこの警報がなるという事か……うん。


「これ、流石にヤベェだろ。魔王とか言ってるぞ。魔王の名前がなんか引っかかるけど」


 俺がとりあえず逃げるぞオーラを出しているのに、足の怪我が回復したガルンは俺に抱きつき。

 アステマはポーズをつけて片目を閉じる。


「主。要するに宝物殿の入り口ということでしょ? 今回の目的達成じゃない」


 ……ばか!


「いやお前、警備の人。というかモンスター招集してくんじゃんかよ。ヤベェだろ!」


 なんでこいつらはこんなに冷静なんだ? 馬鹿だからか? ああこいつら馬鹿だ。二人の手を引いて逃げようとした俺だが……


「ご主人、心配しなくても大丈夫なのだ。このダンジョンモンスターの気配がないのだ」

「そうよ主。本来ならガーディアンの前に先兵がいてもおかしくないでしょ? このダンジョン、放棄されたのよ。北の魔王って随分前に死んだって聞くし」

「えっ、そうなん? 魔王って死ぬん? じゃあこの警報ガチで無視していいんだ。にしても冷静になると腑に落ちないな……特にこの警報」


 俺って、自宅で仕事をしていたから、実際現地に赴いて何かをするという事はないけど……

 なんか、この感じ既視感あるんだよな。


「主。北の魔王は異様なくらいの賢人だったと聞くわ、そして無類の男好きだったとか……」


 アステマの話によると、北の魔王。このあたり一体を治めていた魔物の王の一角だったらしいが、なんのかんとあって死んだらしい。

 そのなんのかんのを知らないのが、役に立たないな。

 ほんと……


「ご主人、ほらボクがトラップにかかった先、少し明るくなっているのだ! あそこにきっと北の魔王のお宝があるに違いないのだ! これはボクがわざとトラップにかかったことで扉が開かれたと言っても良いのだ! お宝は全部ご主人の物なのだ! その代わりこの名誉ある負傷と評価されるべきボクの行いに褒めて、よしよしして、あの味付けの肉をたくさん食べさせてもらってもお釣りがくるのだ!」

 

 …………馬鹿だろこいつ。いや、あえて罠にかかったことにしているあたりが少し(さか)しいな。

 腹立つわ。

 

 俺たちは光が漏れているところに向かう。

 そこは祭壇らしい、それも何か手入れが行き届いている。掃除をされ、何かを食べて片付けた跡、そしてボロボロだが武器もある。

 

 なにこれ? なにここって思って俺はその光景を見つめているとアステマが武器を拾って、捨てて話し出した。


「これ、ゴブリンの使っている物ね。確か北の魔王はゴブリンを僕として使っていたと聞くわ。ゴブリンとエルフの少年の組み合わせは神が作り出した芸術だとか言ってて、意味わからないけどね。そもそも魔王なんて大それた存在の考えがわかる魔物なんていないと思うけど、よくしてもらったゴブリン達がその恩を今も覚えていて掃除しに来てるのかしら? これ、魔王の書物ね」

「えっ? なになに……エルフ少年✖️探鉱のゴブリン3……これ」

「ファイアーボール!」


 アステマとガルンが中を見ようとしたので俺はあと三回しか使えない魔法の一回を使ってその書物を燃やした。それは魔王の所有物だった為、価値が高いからもったいないとアステマにブーブー言われたが……

 

 これさ……あれじゃんか……腐った女子が描いたりしてるやつ。

 BL同人誌じゃんかぁ!


 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 さて、発狂しかけた俺だったが、魔王の宝物庫にいるという事を思い出してテンションが持ち直す。


「まぁ、荒らされた後かもしれないけど、何かないか探してみるか、アステマ、ガルンよろしく」


 そして俺たちは魔王の宝物庫の探索が開始された。広さで言えば三十畳程だろか? 確かに豪華なレリーフとかがそれっぽい。

 しかし、何もお宝じみたものは見当たらない。三人であちこちと見て回ったが、もはや荒らされた後だったか、少しがっかりしたが、この場所の報告でもお金になるかもしれない。

 うん、明らかに主張している棺を無視していたのだが……


「ふふん、なかなかやるじゃないガルン。こんな場所を見つけたのはガルンのお手柄ね。さすがはこの私とパーティーを組んでいるだけあるわ。この棺、魔王の遺産じゃない?」

「あっはっは! ボクはお手柄なのだぁ! でもアステマのこの凄い魔法があったから全速力で走り回ることができたのだ! きっとコポルトガールのボクとグレーターデーモンのアステマに恐れをなしてここにいた魔物達は逃げ出したに違いないのだっ! ご主人が魔法を温存してここまでこれたのもボクとアステマの力あってのことなのだ! そして、この棺桶みたいな大きな箱はきっとご馳走や北の魔王の財宝がいっぱい入っているのだ! これを持ち帰ればご主人は大金持ちでボクはたくさん褒められて美味しいものがたくさん食べられるに違いないのだ! さぁ開けよう」

「いやぁ……あのさ……絶対これ開けたらダメなやつだって! ゲームとかだとこれレイドボス戦始まるやつじゃん……なんなのお前達、死にたいの? 魔王の宝物庫守ってるモンスターとか洒落にならんだろ……あとくだらない事に魔法を二回も使ったよ?」

「何? 今更主はビビっているの? ここまできたんだから開けない方が変よ! それにこれを本来守っているのがガーディアンじゃないの?」

「そうなのだ! ご主人、人間はそうやっていつも気弱な態度だからダメなのだ! きっと凄い物が入っているのだ」

「二人とも、大人はね? 危ない橋を渡らないの。無謀な事に勇気とか言って飛び込む少年ハートは俺にはもうないんだよ」


 さぁ、帰ろう! というやり切った男の表情を作ったのも束の間。

 アステマと、ガルン。

 棺を開けやがった。


「ガイスト機関再起動。ブルーティシュ(B)リネージュ(L)高炉エネルギー充填開始。充填完了。各関節部、魔法呪印動作正常。主上、反応確認。北の魔王……認証エラー。魔王なる称号。ワールドブレイカー確認。主上情報更新」

 

 俺達の前で、ぶつぶつと何かを言いながら、棺より起き上がってきた高身長のイケメン女子が俺をじっと見つめる。

 

 ほら、アステマとガルンがビビってる超やばい系のモンスターじゃねぇの?

 

「主上、北の魔王により生み出されし、錬金術の奥義にて秘技の結晶。魔法と魔法遺物により存在証明された擬似生命。ゴーレム。ここに来迎降臨。なんなりとご命令を。ありとあらゆる命令パターンに対応。ヴァージョンアップパックによりその汎用性は無限。北の魔王すらも殺してのけた我、参上」

 

 うっわ、やっベー、こいつゴーレムなんだろうな? 自分でゴーレムって言ってるし、それ以上に一眼でこいつが馬鹿だという事がわかる。

 

 身長は高くて175? いや、俺より少し大きいから180近くくらいありそうだな。そして桃色の髪に切長の瞳。俺でも正直息を飲むくらいのイケメン女子だ。

 こいつが白馬に乗って貴族の服でも着てようものなら姫騎士だろう。

 嫉妬すら虚しくなるイケメン女子。

 しかし、こいつを作った奴が相当な馬鹿なのか、もう関わりたくないくらい馬鹿オーラが出ている。

 残念なイケメンキャラのつもりか?

 ポンコツロボットキャラってまぁ使い古されてきたアレだし、当然俺のストライクゾーンでもない。


 俺はどうすればこいつが再び深い眠りについてくれるかを考えていた。そして思い出した事があったので聞いてみた。


「北の魔王を殺したんだって?」

「状況、北の魔王。シズネ・クロガネは最上級クリエイトスキルの取得。そして妄想と具現化の魔法をクリエイト。BL高炉の創造、そして我を生み出した際、シズネ・クロガネは我を夢の詰まったゴーレムとして構築した際、失敗確率0.00007%の大外れを引いて一つだけ妄想通りにならなかった。受けも責めもできる愛玩青年型ゴーレムではなく、少女型ゴーレムになった。我を使い、美形男子の魔物と絡ませようとした北の魔王の夢は潰えて、列車砲台・福音の起動装置と共に我を封じ、彼女はショック死した」

 

 ははーん。

 凄いどうでもいい話だった。

 そしてこいつやっぱり馬鹿が作った馬鹿だ。あと列車砲台とか言うのは危なそうなのでとりあえず無視しておこう。


 こんなヤバい奴を街に連れて行くわけにはいかない。ここは魔王の宝物庫じゃない。BL脳の魔王。多分、元々地球にいた腐女子の成れの果てが作った世界一存在価値のないゴーレム。その処分場だ


 一刻も早く再び休眠に入ってもらおう。


「ええっと、お前に命令をする」

「我、なんでも可!」

「じゃあ、再び棺桶に入って時が来るまで眠ろうか?」

「御意! 休眠モードに入る」

 

  きたこれ! 

  俺はこの厄介なゴーレムが素直にいうことを聞いてくれた事で、選別に、カバンからバナナを一本取り出すとお供えした。 

  

 そう。忘れてましたわ……ポケットに入っているスマホ。

 その異世界生活アプリが起動した。

 

 “猫々様より、ギフト・完熟バナナが特殊ゴーレムに与えられ、特殊ゴーレムはは犬神猫々様の仲間になり、クラスチェンジが実行されます。自立成長型特殊ゴーレムににクラスチェンジ。危険度計測不明。レベルは擬似生命の為1のままです“

 

 そして、ガバッと棺桶から目覚める特殊ゴーレムは目覚める。


「マスター、我、時が来たりと判断。再起動したれり、起動コードはメス・停止コードはエメス。さぁ、マスター命令を!」

 

 当然停止コード。

 

「エメス!」

 

 “ニックネーム。エメスを設定。そして決定。自立成長型特殊ゴーレムへの名付けに成功。自立成長型特殊ゴーレムのクラスチェンジが実行されます。完成形特殊ゴーレム。魔導機人にクラスチェンジ。危険度計測不明。レベルは擬似生命の為レベル1のままです“

 

 

 こいつ、はかりやがった……俺を騙して、勝手に仲間になって勝手に進化しやがった。

 怖ぇ! 未来からきたサイボーグかよ……


 そう、俺の三人目の仲間、というかまたしても恐るべき足手纏いがついてくることになった。

 

 異世界、こっわ……

 そして気がつくと、ここいらの手入れをしていたゴブリンの群れが俺にひざまづいて面倒だったので虚の森に行ってもらった事は後々思い出すことになる。

三人目の仲間、エメスちゃんです。

マオマオさん、ガルンちゃん、アステマちゃん、エメスちゃんの四人で今後の物語が展開していきます。

是非、今後も応援よろしくお願いします。

次回より毎日1話ずつ公開していきます。

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