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今こそ明かそう!有史以来の謎、魔王とは何の魔物なのか!

 そう、俺たちの大ピンチに、凛子ちゃんはあの恥ずかし……いや、魔法少女の格好をして、クロネコさんときつねのさんを連れて現れた。

 

「……お前は……あの人間の娘? 仰々しいのを連れて何をしにきた?」


 何をしにきたも何も俺たちを助けにきたのは言うまでもない。

 未だ身動きが取れないアズリたんの元へ凛子ちゃんは向かいハンカチで顔の汚れを拭いてやる。

 

「アズリたんちゃん、大丈夫? こんなに汚れちゃって……私だけ家に帰ろうとしてごめんね。アズリたんちゃんは一人で頑張ってたんだね? シレイヌスさん、どうしてあんな事しているのか分からないけど、アズリたんちゃんは休んでて! クロネコくん、いたちおちゃん! シレイヌスさんを止めるよ! 力を貸してね!」

「凛子、手出しは無用だ。余は負けておらぬ。そしてあれは余の知っているシレイヌスではない。余が話をつければシレイヌスもどうすべきか分かっているのだ……ぐぐぐ、先ほどの大きな筒、魔法ではない。クハハ……身体の動きがおかしいぞ」


 そんなアズリたんを抱きしめて、凛子ちゃんは言った。

 

「私たちに任せて!」


 そう言う凛子ちゃん、主役級だなぁ。


「凛子だったな? 元々、このザナルガランに人間がいるなど考えるだけでも許し方し事だった。アズリタンが興味を示さなければすぐにでも魔獣のエサにしてやるところ、生かしていたら、相当な魔物を連れて報復にやってくるか……恩を仇で返すという事か、実に人間らしい、卑怯で矮小な事だ。遅くなったが殺してやろう」

「死ぬのはお前だ! 僕は魔王を超える為に生み出された様々な妖怪を道満が調合して生まれた妖怪。そして、今は凛子の相棒だ」



 今、この状況でシレイヌスさんに唯一対抗できそうなクロネコさん。

 

「呪殺結界!」


 クロネコさんは“殺“という印をシレイヌスさんに大量に刻印する。そして印を組むとシレイヌスさんに向けて印を切った。

 すると、“殺“と刻印された部分から大量の出血。いたちおさん、たぬきちさんときつねのさんも立ち上がった。

 

「道満の三式達よ。この邪悪なる者を局所結界にて縛り封印する。裏五芒の陣を張れ。僕がこの邪悪なる者の相手をする! 僕たちはきっと、この日の為に生まれてきたんだ!」


 妖怪達は頷くと、シレイヌスさんの周りに立ち呪力を練った。

 魔法ではない別の力、妖怪の陰陽術。それにシレイヌスさんの表情が歪む。


 物理的な攻撃や、魔法などによる特殊な攻撃ではなく、無効化していく陰陽術。シレイヌスさんの魔法を、身動きを封じていく……。

 

 これはもしかすると勝てるか?


 妖怪達は、アズリたんから名前を呼ぶ資格をもらった事でクラスチェンジしている。アズリたんと戦った時より強いのだ。

 

「ち、力が吸われていく……。魔法も……お前達、何をした? 魔法吸収などではないな? お前達、まさか錬金術師が作った。呪印生物という連中か? デーモン達の仕業か……そうか……そうか、邪魔をするなぁ!」

「弱い犬ほどよく吠えるという。お前がまさにそれだな。僕は静かにただ魔法少女の凛子と共に、お前を静かに消滅させる」

「……はぐれ者の分際で……こんな呪縛の魔法……引きちぎってくれるぅ!」


 シレイヌスさんは、無理矢理結界を破ろうとするが……



「よもや、結界術は完全に決まった。僕の呪印も使いお前を消滅させる準備は既に整っている。卑しく、虚しく、寂しく、消えてゆけ! 魔王アズリタンと戦った事で僕は魔王種の制し方は熟知している。力は殺し、逸らし、そして奪っていく。お前達の弱点は自らの強すぎる力に依存している事だ!」


 クロネコさん、強ぇ! アズリたんと戦った時は若干暴走気味だったが、今は完全に知的キャラだ。

 完全にシレイヌスさんを封殺している。


「これを解けぇえええ! 早く解けぇえええ! こんなところで、私が消滅してなるものかぁ! アズリ……様。アズリ……アズリタンを……あぁ」

「結界はさらにお前を縛る。少しずつ狭くきつく、そしてやがては無へ」


 シレイヌスさんの周りに浮かんでいたバーサークプレートが次々に落ちていく、これはしかし、かなりえげつない呪術らしい。

 シレイヌスさんが油断をしたところから力を削いでいく。


 シレイヌスさんが暴れようものなら、魔王種と渡り合えるクロネコさんがなんとか押し留める。

 

 どうやら陰陽術とやらは、異世界に通用するらしい。

 妖怪やらよく分からない者が蔓延っていた時代、人間はそんな連中を調伏する為に様々工夫し、そしてゆっくりと相手を滅ぼす技を完成させたのだろう。

 正直な話、これは決まれば、アズリたんや、精霊王サマ、それにアラモード相手でも通用するんじゃないだろうか…………

 


 ……………………。

 

 

 頭を垂れるシレイヌスさん。

 


 これはもう勝負は決したかもしれない。シレイヌスさんは翼も下げて、俯いたまま何かをぶつぶつと呟いている。クロネコさんは躊躇しない。

 完全な勝機と思ったのか、さらに呪印の力を解放して、シレイヌスさんを完全に調伏、そして消滅させようと力をこめていく。

 

 

 それに合わせて、他三人の妖怪達もゆっくりとシレイヌスさんに近づいていく。離れているより至近距離の方が結界の縛る強さも大きいのだろう。 シレイヌスさんの体が硬直する。

 ……行けるか?

 シレイヌスさんには悪いが、

 もう倒されてくれるしか方法がない。


「クロネコくん、もうシレイヌスさんを許してあげようよ! ね?」

「魔法少女凛子。それは聞けない命令だ! この者の魔性は極めて凶悪。解放して次に同じ法で縛る事は不可能なんだ。僕の全ての呪印を解放しても多分……それだけの大者だから、ここで終わらせる」


 クロネコさんは容赦なく、トドメの印を組んだ。

 

 今なおふらふらしているアズリたん。

 シレイヌスさんはゆっくりと、幽鬼のような顔を上げた。


「……邪魔をするな……ケダモノ風情が……アズリタンは私の物だ。お前達になんかやるものか! カタストロフ、自爆せよ!」

 

 シレイヌスさんがそう言った瞬間、シレイヌスさんの足元が赤く染まり、そしてクロネコさんは凛子ちゃんを抱きしめた。

 瞬間、シレイヌスさんは自分を中心に大爆発を起こし、近くにいた妖怪の三人は吹き飛ばされる。

 自爆特攻をかけてきた……いや、違う。

 


「……呪印生物……危うく消滅するところだった。まさか、アズリタン以外に魔王としてのランクをあげる事になるとは思わなかった」


 自爆したハズのシレイヌスさん。

 彼女は腹部より下が機械、いやゴーレムなのか?

 

 俺は、倒れている皆に回復をかけながら状況を理解しようとしていた。

 

「さて、どの者から処刑をしようか? 北の死威王か? それともその従者を見せしめにしようか? 私に歯向かった呪印生物共も捨て置けない。その飼い主である人間の女に責任をとらせようか? まぁ、みんな殺せばいいか? アズリタンが目覚めた時の表情が今から楽しみだ」



 シレイヌスさんの独り言にクロネコが叫ぶ、


「……凛子を頼む。……僕がアイツを食い止める……。長くは持たない。だからできる限り早く、北の魔法少女、頼む」


 クロネコさんは巨大化した。

 そして大きな口を開けてシレイヌスさんに突撃。

 爆風から凛子ちゃんを守った為か、酷い怪我をしている。それでも雄叫びをあげ、シレイヌスさんに迫る。

 

 シレイヌスさんは美人の顔を歪ませて笑った。

 そして、金属の羽を飛ばし、襲い掛かるクロネコさんを迎え撃う。

 そして背中からも金属の翼、さらにはミサイルを発射した。

 

 直撃し、ドン! ドン! とクロネコさんを襲う。

 凛子ちゃんの悲鳴。

 慟哭するクロネコさん。

 ウチのもん娘達は死んだフリ……おい!

 クロネコさんはゆっくりとその巨大な体躯を反らせて倒れる。

 絶望的な表情を浮かる妖怪達、代わりに満足そうなシレイヌスさん……。


 そんなところにアズリたんがゆっくりと歩む。


「アズリタン、どうですか? 貴女を大事に思った有象無象達が、こうして蹂躙されていく姿を見るのは? ……もう、貴女を守ろうとする者達はあとしばらくでいなくなります」

「シレイヌス、余に申してみよ。本当のお前の言葉」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「何を言い出すかと思えば、またそれですか? 私の本当の言葉。そうですね。絶望して泣き喚きなさい! アズリタン」

 

 シレイヌスさんの挑発。なんか凄まじく強くなったシレイヌスさん。

 

 このままじゃアズリたんもやられると、そう思った時。

 アズリたんの周囲に無数の亜空間が現れた。そこからこちらを見つめる瞳。


「……最後の抵抗ですか? いいでしょう。もう、貴女の魔法ですら完全に扱いきれる私にはもはや敵はいません。貴女をそうですね。他の魔物同様結晶化して、私の玉座の横にでも置いて飾りましょうか? それはいい! 安心してください。私だけがずっと貴女の側にいますので、最初は少し窮屈かもしれませんが、きっとすぐに慣れます」


 

 そんな独り言のように語るシレイヌスさん相手にアズリたんは、「フィア」と超初級魔法を放った。


 

「今さらそんな火傷程度しかしない魔法を使ってどうするんですか? ……それとも、もうそんな魔法でしか使えないくらいに貴女の心は折れてしまったという事ですか? 魔王とも言われていた貴女が……ふふっ、貴女はもう魔王なんて存在ですらないです。そんな魔法、今の私からすれば、火傷どころか、何も感じずに終わりですよ! さぁ、受けて差し上げま……あぁあああああ! 何、? 何これぇ!」

 

 ……アズリたんの初級魔法フィアは、シレイヌスさんの身体中を駆け巡り炸裂を繰り返す。


「……余の魔法、厄災魔法。シン・フィアだ。クハハ! その炎は闇魔界の炎、容易くは消えんぞ?」

「……や、厄災魔法?」


 アズリたんや魔物が使う魔法は、暗黒魔法と記載があった。

 だが、アズリたんは未知の魔法を使った……。

 シレイヌスさんはなんとかその魔法を打ち消すと、肩で息をする。


 

 アズリたんは指を刺して初級雷魔法を唱える「シン・サンダーアロー」と。

 


「あ、ぁあああああああ! なんなの! なんでそんなに強力な魔法が……」

「これは余が魔王である所以だ。魔王にしか使う事ができない厄災の魔法。余が余であるが為に存在する魔法。これを真っ向から受けられるのは精霊王くらいだ! どうだ! 凄いであろう! クハハハ! シレイヌスよ。いい加減意固地にならずに答えよ! どうして欲しいのだ? 申してみよ」


 初級の雷魔法とは思えない光と威力でシレイヌスさんを襲う。

 

「そんな魔法……コピーして……コピーできない。どうして? どんな魔法でも習得できるハズなのに……ならそんな魔法いらない! 私が習得できない魔法なんていらない! 私にはこれがある! 暗黒火炎魔法・メギド! そして暗黒極炎魔法・ゲヘナ!」


 ……アズリたんはこんな魔法を隠し持っていた。初級の魔法があり得ないレベルで強化されている。

 

 シレイヌスさんは、アズリたんが使った強力な暗黒魔法を完成させるとアズリたんに向けて放つ。

 アズリたんはそれを見つめてから再び、初級の水創造魔法を唱えた「シン・ウォータル」。これは攻撃魔法じゃない。

 なのに、シレイヌスさんの強烈な魔法を相殺させて見せた。



「水を生み出す程度の魔法で……アズリタン、貴女の暗黒魔法最大級の火炎攻撃を凌いだというの? そんな事……そんな……あり得ない」

「シレイヌス、もう良いか?」



 アズリたんは、どうやら最初から何も嘘をついていなかったのだ。俺はようやく理解した。

 この厄災魔法とやらがなんなのか俺には分からないが、この魔法はかなり危険な魔法なのだろう。本来家来に向けるような魔法じゃない。

 倒そうと思えば、いつでもシレイヌスさんを倒す事は可能だった。だが、アズリたんはあえてこの魔法を使わなかったのだ。

 しかし、それでもこの魔法を行使した理由はたった一つだろう。凛子ちゃんを、妖怪達を、俺たちをシレイヌスさんは傷つけすぎた。

 アズリたんは、魔王として……魔物達の王として、責任を持って自分の家来がやらかした事への責任を取ろうとしているのだろう。


 そう、大事なシレイヌスさんに……

 本来使うハズのない強力な魔法を使う事に決めたのが、その証拠だ。


 アズリたんの笑顔は変わらない。

 

「アズリ……タン様……いや、アズリタン、ようやく本気を出したという事ですか? いいでしょう」


 シレイヌスさんはハイパー化したであろうアズリたん相手にまだ余裕の表情を見せた。

 金属、いやゴーレムの半身を持ったシレイヌスさん。

 機械の下半身に、機械の翼、美しかった姿を捨てて手にれた物は……。

 おそらく、キマイラ、いやスフィンクスの方が近いのかもしれない。精霊魔法に神聖魔法に、暗黒魔法まで使うことができる。

 俺のスマホには魔獣という表記でシレイヌスさんが確認されていた。アズリたんが本気でなかったように、シレイヌスさんにもまだ上があるらしい。


 アズリたんの異常強化初級魔法を……、


「アズリタン! もうそんな魔法には惑わされませんよ! 最初から、このバーサークチャリオットを使わせてもらいます。魔法でない以上、貴女にも防ぎようがないでしょう! そしてあの呪印生物達の術です!」

「むっ?」


 アズリたんの体が縛られる。そう、シレイヌスさんを調伏しかけていた結界術……どうして使えるんだ……?

 

「さぁ! さぁさ! どうです? 痛いですか? 熱いですか? 今まで貴女が感じたことのない衝撃でしょう!」


 シレイヌスさんは下半身の戦車のような部分からミサイルを放つ。

 それはクロネコの時のようにアズリたんに直撃して燃える。

 さらに結界術で身動きも取れない。

 

 

「まだですよ! アズリタン! 貴女がこのくらいではびくともしない事くらい私にはわかります。私のそうですね。さしづめ……究極殲滅魔法とでも名付けましょうか? 殲滅魔法充填開始。魔法と違い生成すれば発射できる単純明快な破壊力に、魔法が加われば貴女にダメージを与えられる精霊魔法や神聖魔法の効果をつけてそのまま衝撃に変わります。本気になったようですが、アズリタン。私のこの魔法耐えられますか? ジェノサイド・レーゲン!」

 

 要するに、無差別爆撃攻撃をシレイヌスさんは始めた。

 

 そんな魔法にアズリたんは身動きが取れないのに、

 

「シレイヌスよ。このような魔法、痛くも痒くもないぞ! クハハ! 余にこんな攻撃が効かぬ事、シレイヌスではわかるであろうに! 最初は面白と思ったが、つまらん魔法だ! シレイヌスの普段の風を纏った姿の方が美しいぞ! が、今のシレイヌスはそんなことも分からなくなっているのだろう? そのぬるい炎を凍えさせてやろう! 人間どもや弱小の魔物達が中級というザコ魔法、その厄災化。シン・ダイアモンドハープン!」

 

 炎が氷に消されていく……どういう原理なんだ?

 

 

 そして、アズリたんの言葉に、ダメージを受けたのはアステマだった。

 

「ね、ねぇ主ぃ! アズリたん様。今、ダイアモンドハープンを、ザコ魔法って言わなかったかしら? 私の得意魔法……というか、私の代名詞なのよ! た、確かにアズリたん様からすればザコ魔法かもしれないけどぉ! 使い勝手だっていいし、矮小な人間によっては覚える事だって難しい魔法の一つなんだからね! ざ、雑魚じゃないわよね? ねぇ、あーるーじぃー!」


 ほんと煩いなコイツ、自分の得意魔法が雑魚呼ばわりされたのがそんなに嫌か……


 …………まぁ、アズリたんからすれば、中級魔法……いや上級魔法ですら雑魚魔法だろう。

 ノビスの街に来た時を思い出す。

 ユニオンスキルで強化した魔法を歯牙にも掛けなかったし、

 そして、厄災化した中級魔法の威力は、笑えないレベルだった……。

 シレイヌスさんの機械の身体が撃ち抜かれる。


「……あっ……あ……あぁ……私の至高の殲滅魔法が……アズリタン……ま、負けられないのよぉ!」


 シレイヌスさんはもう一杯一杯のように見える。


「……魔王とは。貴女は私達魔王種とは明らかに違うのでしょうか? アズリタン……さま、お答えください。貴女は、一体なんの魔物なのでしょうか? 私では……精霊王や聖女王、勇者王のように、貴女と並ぶ事は……」


 シレイヌスさんの金属の翼が砕けていく…………。

 

 

 ……………………。


 ようやく終わりになるようだと俺は安堵した。

 

「シレイヌス、余が何かと申すか?」


 

 

 ……………………。


 全員が息を呑んだ。



 確かに、アズリたんは魔物には見えない。

 なんなら、アズリたんはアホの子……異常すぎる魔法力を除けば人間のメスガキにしか見えないのだ。

 

「そうですとも……貴女は、強すぎる。誰もが、人間も精霊も魔物も、貴女を見ればただ一言。魔王と呼ぶでしょう。ですが……誰しもが、貴女は一体、どんな種族の魔物なのか……それを知る者は、側近であった私ですら知らない。そして魔物は皆、必ず貴女が人間なのではないか……と言う疑惑を持っている事をご存じでしょうか? どんな魔物とも一致するところはないのに、人間と一致する部分は数多く見られます。恐れ多く誰もその事を尋ねる者はいなかったでしょう。貴女は……一体何の種族なのですか?」


 

 その質問、俺はもちろん。モン娘達も気になるようだった。

 アズリたんは、魔王アズリタンとして世界に知れ渡っている知名度だが、なんの種族なら彼女と同じ領域に立てるのか、モンスター社会の中でも注目だろう。


「クハハハ! 余の種族だと? 片腹痛い事を申すなシレイヌスよ! 余は魔王である! よって種族があるとすれば魔王という事になるな! クハハハ! 要するに余しか魔王はおらぬという事だ!」

「そんな事! 私だって、怪鳥王として、貴女に引けを取らぬ程の魔王種にございます! こんなところでその冗談は笑えませんよ! アズリタン! どこまで私を愚弄するのか、カタストロフよ……全ての力を解放せよ!」


 怒りで自暴自棄となったシレイヌスさんはそう叫んだ。

 

 金属が幹のように伸び、そしてシレイヌスさんの下半身より下から金属でできたドラゴンのような姿。要するにエルミラシルと聖龍のような複合形態に変わっていく。


 さらに、怪鳥種であったシレイヌスさんの大きな翼も金属として生成された。



「この体は、魔法を受け付けないように進化しましたよ? アズリタン」

「余は、そのような不細工な貴様を知らぬぞ! 貴様の翼は余の次に美しかった。もう良い。どうして欲しいか申してみよ!」

 

 アズリたんはおそらく最終形態に進化を遂げた北の魔王のゴーレムと融合したシレイヌスさんにそう言う。

 

 その言葉を聞いて、機械のドラゴンから神聖魔法が、金属の幹から物理的な排除行動。

 

「それだけじゃないですよ? 私も上位魔王種となり、こんな魔法が使えるようになりました! 混沌魔法・フォーミュラー・デス」

 

 アズリたんに向けて、シレイヌスさんはなんらかの魔法を放つ。それをノーガードのアズリたんだったが、


「ぬ?」

 

 目、鼻、耳、口と全身から血を噴き出した。赤い、人間のような赤い血。

 

「フハハハハハ! アズリタン。ようやく貴女に効果的な魔法が分かりました。三大禁忌魔法、その左下段に座する混沌魔法、私は上位魔王種。大魔王になった事、そしてこのゴーレムとの融合。サイバー・キメラ種となった事で、混沌魔法の素質を得ました。もう何も聞こえていませんか? なんせ貴女はもう何度も何百回も、何万回も死んでいるのですからね?」


 アズリたんはぐらぐらと揺れている。そして時折出血を繰り返している。その様子を見た凛子ちゃん。


「シレイヌスさん、もうやめてぇ! アズリたんちゃん死んじゃうよ!」 

「うるさい人間! お前のような者がアズリタンの名前を呼ぶな! もうアズリタンは死ねばいい。死ねば私の物になるのだから」

 

 アズリたんはどうにか立っているが、一体何が起きているんだ? これやばいだろう。

 

「し、シレイヌスさん……なんか、もうアンタの考えもブレブレですけど、俺も友人であるアズリたんがこのままやられるのは見過ごせないわ」


 俺を見てめちゃくちゃ冷たい目をするシレイヌスさん。

 

「あぁ、そういえばまだいたんだな。北の死威王。お前も殺して二つの地域の魔王を屠ったハクとするか、混沌魔法の火炎で消し炭にしてやろう」

 


「コキュートス・ハープン!」アステマがシレイヌスさんに攻撃魔法を放つが軽々とその上級魔法は蒸発する。

「グレーターデーモン風情が、今私に魔法を向けたのか? 皮を剥いて、日に晒してやろう。なんだその顔は? 震えているのか? 弱い魔物がこんなところにいるという事、死んで償え」


 アステマは泣きながら震えている。俺を……咄嗟に守ろうとしたのか?

 

 アステマの反応、


「ちが、ちが、違うの! ちょっと……虫が……虫がそう! 虫が飛んでいたのよ! だから、シレイヌス様を狙ったわけでは……」

 

 びっくりするくらいカッコ悪いけど、ここは素直に礼だ。

 

「アステマ、サンキュー! 助かった。ガルンとみんなで離れてろ」


 俺がアステマの頭を撫でると「ごわがったあああ!」と泣いてしがみつく。

 今、俺は女なのだが、一応元は男だ。ややこしい。

 女の子の涙を止められるのは、男だけだって相場が決まってんだよ。

 ……どれだけ、行けるか……ここで使うか。

 デーモンとユニオンを組んだことで俺の力でもしばらくは持つだろう。

 

 すっと息を吸って、俺は対抗呪文を唱えた。

 

「ユニオンスキル・グラトニー!」

 




 俺の体に今までにない強力な魔法力が流れ込んでくる。






「…………マジか!」


 俺の横で同じくパワーアップしている少女が一人、凛子ちゃんである。俺と凛子ちゃんは……


“魔女王が二人顕現"


 という事らしい、俺と凛子ちゃんが手を掲げると、そこには古の時代から鍛えられてきたかのような荘厳な魔法の杖。

 

 俺と凛子ちゃんの頭の中には既に幾万という魔法の知識が流れてくる。

 そう、スラスラと数学の問題を解くように、

 俺は凛子ちゃんを見ると、凛子ちゃんは俺に頷いた…………。

 

「マオマオちゃん、分かる?」



 分かる? の意味は俺には分かる。

 目の前の、シレイヌスさんを倒す魔法が一瞬で思い浮かぶ……。


「うん、分かるよ。このシレイヌスさんをやっつけることができる魔法。三禁忌魔法右舷下、神撃魔法」



 今の俺と凛子ちゃんならそれを二人で使える。


 もう、アズリたんが死にかけている中、シレイヌスさんを止める方法はそれしかない。

 使えば、シレイヌスさんの命を奪うだろう。

 分かっているが、俺も凛子ちゃんも、

 合理的なアンサーに従う。

 俺と凛子ちゃんは魔法力を練り、そして詠唱。

 それを見たシレイヌスさんも備えるようだ?


「……魔王種が……二人? 北の死威王に、あの人間……実に憎らしい、それで私を殺すつもりか? ならば、私も混沌魔法にてお前達を絶望的に蹴散らしてくれん!」

 

 シレイヌスさんも大魔王としての強力な魔法。

 

 俺は、ここで打ち合った時の被害が瞬時に頭に入る。

 

 が、凛子ちゃんもその被害より、シレイヌスさん討伐を優先した。


 俺達は精神が人間のそれで無くなっていたのである。


「じゃあ、凛子ちゃん。せーの! で神撃魔法。バルバロイ・チャリオットを放とう」

 

 了承する凛子ちゃん。

 そして俺たちはなんの躊躇もせずにその魔法を放ち、シレイヌスさんもまた俺たちを迎撃する混沌魔法を放った。


 一帯は滅び、ザナルガランが歴史から消える事を知りながら、


 しかし、魔王はいた。

 確かにそこに、

 

「…………クハハ! 面白い事をしているではないか! 余も混ぜろ! クハハ! 痛いぞ! どれほどぶりか? 余が痛みを感じた」





 アズリたん、復活。

 しかし、アズリたんは俺たちのヤバい魔法と、シレイヌスさんのヤバい魔法を受けて、肩の方まで体を抉り取られた。

 しかし、気にもせずにシレイヌスさんに言った。





「シレイヌスよ。どうして欲しい?」


 

 震え、シレイヌスさんは破顔した。


「アズリタン様、助けて!」

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