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モンスターから見習うべき点! 仲間はずれにしない!

 シレイヌスはゆっくりと目を開けた。

 自分の身体が自分の物ではないような感覚、されどそれは魔王種から大魔王になった証なのだと思った。

 

 結晶化したザナルガラン、魔物たちだけではない。

 同じ腹心であった二柱の魔王種もまた結晶化している。

 

 あの闇魔界と言われたアズリタンに魔力で勝ったのだ。それは少しばかりの優越感と、少しばかりの悲壮感が自分を満たしていた。

 ……少しばかり今のザナルガランは静かだった。それで構わない。あとはここに自分と、

 

 アズリタンがいればいい。



 シレイヌスには分かっていた。

 もう直、ここにアズリタンがやってくるだろう。

 この状況を見て、アズリタンは再び自分に牙を剥くであろう事も。


 それはこの一体が消滅する程の力かもしれない。

 が、取るに足らない事とも思えてしまった。

 自分はもはや、魔王の領域などにはいないという事。暗黒の魔法、神域の魔法、精霊魔法。

 三大勢力の魔法を自分は使用することができるのだ。恐れる者もいないしもはや無敵だった。


 今ならば可能かもしれない。

 

「勇者討伐も……私が?」



 そうすればいい。

 そうなれば、もはやこの地上において誰も、いや、別の領域からの連中ですら今の自分ならば軽々と根絶やしにする事ができるのではないかという力を感じていたのだ。

 この力があれば、シレイヌスは願いが叶う。


 あとはアズリタンがここにやってくればそれでいい。それで世は全てこともなしなのである。

 きっとアズリタンと共にもう一人やってくる。

 取るに足らない力しか持っていないハズなのに王を名乗っている。

 だから、男の尊厳を奪い、魔女に変えてやった!

 なのにそんなにこたえていない…………。

 

 

 

 それどころか…………アズリタンを連れて逃げた。


 自慢の白い翼、その羽の一本一本から怒りを感じる。

 取るに足らない者にアズリタンを連れて行かれた。

 シレイヌスの中で、北のシーイー王は最重要殺害対象に変わる。

 

 


 ふと周りの結晶化したザナルガラン。

 どうしてこうなったのかと思う考えが再び頭をよぎる。

 そうだ! 自分を真の魔王にと擁立した者。

 シレイヌスは「ルシフェン」とその人物の名前を呼んでみた、だが、彼女からの返事はない。巻き込まれ結晶化した魔物達と同じような末路を辿ったのかと探してみるが見つからない…………

 


 ………………。



 ……どうでもいい。


 あんな弱小モンスターどうでもいい!

 今から勝てぬと知ってもアズリタンが戻ってくるのである。

 

 そんなアズリタンに力の差を見せつける。

 そしてようやく自分の物になるのだ。


 今のシレイヌスにはアズリタンの魔法ですら操れる。

 もはや次元の違う魔物にへと自分は変貌を遂げているという確信と自負があった。

 一つ、魔王すらも凌駕した存在を自分は知っていた。

 

 かつて、アズリタンの先代の魔王がいた頃、まだシレイヌスが生まれる前にこの世界に襲来したという各地域の王種全員で戦った者。

 そう、異世界からの魔物。

 

 

 自分は今まさにそれだ。



 何も恐れる事はない。世界ですら滅ぼせる力だ。

 シレイヌスはそう考えながらも何故か、小さな不安のような何とも言えない気持ちが心の奥底にあった……。








 アズリタン様、助けてください! と何故か考えたのだ。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 今朝も道満の屋敷で朝食を頂いた。

 今日はバンデモニウムに戻りオバキルさん達に報告。

 そしていよいよザナルガランに行く事になる。

 俺はそんなことを考えながらご飯を食べる。

 

 梅干し……うめぇなぁ。

 

 

 こんなまともな和食が食べられるここ。

 今回の件が終われば、しっかりこのあたりも契約しよう。

 和風の建物なんかは人気が出そうだし、特に和食は俺が食べていて大変ありがたい。

 

 バンデモニウム観光地その2だな。

 

 食事を終えると俺たちは夕方にはバンデモニウムにたどり着けるように準備をする。凛子ちゃんがいない事にアズリたんやアステマ、ガルンが不満そうにしている以外は何事もない。

 

 

 元々、アステマの呪印を解きにここまでやってきた。

 されど、その副産物は非常に大きかった。

 妖怪という珍しいパワーソースが俺たちのパーティーに加わった。

 そして新しい魔神器ロキ、効果は不明だ。

 決定打としてアズリたんが恐らくかなり強力な魔法を習得した事もあり、今回のクエストは大成功と言えるだろう。

 

 


 バンデモニウムに戻るまでの糧食にきつねのさんは麦が多い麦シャリのおにぎりを沢山用意してくれる。


「うまそうなのだ! うまそうなのダァ!」

 

 ガルンのつまみ食いを阻止しながらきつねのさんはそれを箱に詰める。

 アステマはアステマで大きな鏡の前で色々ポーズを取っている。スマホ持たせたら自撮りばっかりしてそうだな。

 そしてエメスはアズリたんを膝の上に乗せてじっとしている。

 流石に魔王のお願いは断れなかったのだろう。しかし、エメスはきつねのさんの動きをずっと目で追っている。

 

 お弁当もできたみたいなのでそろそろ号令するか……、


「…………じゃあバンデモニウムに戻るか!」

 


 来た道を戻る際、きつねのさんは祝詞を読むと道満の屋敷が消えた。

 

 ここまでやってくる奴はそうそういないのだろうが、見つかってはまずい物が沢山あるので注意は怠らない。


「マオマオよ! 凛子の奴はいつほど帰ってくる?」

「いやぁ……、凛子ちゃん女子学生だから保護されて元の世界に戻るからもう帰ってこないよ。昨日も話したろ?」


 ちょっとちょっと……。

 主空気読んで! という顔で俺をみるガルン。アステマはもうバカなんだからとか言って、エメスはカブトムシみたいな昆虫を見つけて夢中だ……こいつわんぱく小僧並みに昆虫とか好きだよな......


「クハハ! そのような事はない! 凛子は余の事が好きだからな!」


 いやぁ、多分好きだと思うよ。でもそれ関係ない……。


 こいつには何と説明すればいいのかと思うと。


「……………まぁ凛子の奴も忙しいのだろう! クハハ! 良い良い! 余は寛大な心で許す。戻ってきた時は何か褒美でも取らせよう!」


 アズリたんから凛子ちゃん、褒美もらえるってさ! 

 良かったなぁ! というか、アズリたんは凛子ちゃんとザナルガランで暮らすつもりなのか?

 

 とりあえず凛子ちゃんの件は触れないようにしよう。


「いやぁ、しかしたぬきちさんときつねのさん! 妖怪って凄いよな? 魔物ランクで言えばデーモンジェネラル級以上だしさ!」


 俺の言葉に照れるたぬきちさんときつねのさん。

 

 そして、それを見たアズリたんが腕を組む。


「クハハ! 余の家来になれたという誉れ! いずれはバトルモンスターと名乗る事を許すぞ! クハハ!」


 なんかわからんがアズリたんがバカ笑いをあげた。

 

 話題変更に成功……疲れた。


「……アズリタン様、バトルモンスターとは?」

「余の腹心の事だ!」


 ポケのモンみたいなのを想像していたが、結構な幹部クラスだ。


「クハハ! たぬきちよ! 貴様は特に気に入っている。夜はあの巨大な姿になって余の寝所に来る事を許可するぞ!」

「それは光栄ですけど、まさか抱き枕にされるんじゃ……」


 たぬきちさんは驚くくらい察しよく、アズリたんに気に入られた理由もあの巨大たぬきモードのもふり心地だったのだろう。

 不憫だが、アズリたんが寝るまでもふられるといいさ。


「マオマオ様。これからデーモン達の巣窟に向かうのでしょう? おら達妖怪とデーモン達はお互いに不戦の約定があるのですが、のこのこおら達がそこに足を踏み入れて良いものなんでしょうか? デーモンはこの世界の自然の摂理から生まれた者かもしれませんが、おら達妖怪はこの世界の摂理や森羅万象から外れた物です。蘆屋道満様はおら達妖怪はこの世界ではあまりひと目に触れてはいけないと教わっていました。無意味な戦いが生じ、そこに世界の歪みができると」

 

 蘆屋道満、結構まともな人だな。要するに陰陽術は自然科学だから、外来種である自分や妖怪が表立って関わらない方がいいと思ったのかな?

 それに比べて今の地球の政治家は……異世界を姥捨山にしやがって……。




「……いやぁ、それをきつねのさんに言われるとまぁ俺も似たようなもんだし困ったな。ハハっ、もう俺がこの世界に関わりまくって、結構いろんな事件にも巻き込まれてんだ。それに俺はこの世界で大々的に商店街作ろうとしているしね。という事で、今更なんできつねのさんが心配しなくても大丈夫だよ。デーモンさん達も結構みんないい人ばっかりだからさ! たぬきちさんときつねのさんも仲良くなれるって」


 そう言っていると、なんか嬉しそうに歩くアステマ。

 

 デーモンはデーモンでもお前の事じゃねーよと思ったが、アステマも妖怪達とは特に敵対している感じでもないし、友好的かどうかの物差しとしてはアステマでも十分説得力がある。

 俺のその話を聞いたきつねのさんは嬉しそうに微笑む。


「きつねの、我のマスターに懐き、欲情する事は構わないが、その何も知らない無垢な笑顔は我も欲すると宣言せり、我をみる時は怯えた子犬のような顔になる事も悪くはないが、我に全てを委ねるというそういう仕草もたまには……」


 エメスが近づくと俺の後ろに隠れるきつねのさん。

 

 こんなに可愛い妖怪にトラウマ植えつけやがって。


「エメス、一応きつねのさんはウチのパーティーメンバーで、蘆屋道満から預かっている来賓みたいな感じなんだから、いじめんなよ! というかお前、きつねのさんに近づくな。こんな震えて、かわいそうに……。こんな見るからに薄い本に出てきそうな巫女装束の狐なんて……ん?」


 そもそも、巫女装束を着た狐の概念なんて平安時代にあったのか?

 巫女装束自体はかなり歴史が古いので存在はしていたかもしれないけど、このきつねのさん、完全に萌えを全面に出してある。

 他三人の妖怪も格好が今にして思えば……。

 

「……きつねのさん、今着ているその可愛い巫女装束は蘆屋道満にもらった物なのかな?」

「いえ、かつての北の魔王。シズネ・クロガネ様が用意してくださった物です」

「あぁ、やっぱりね。そうだと思ったよ。ほんとヤベェなあいつ」


 不思議そうに俺を見上げるきつねのさん。

 でもこれはほんと可愛いな。頭を撫でてやる。

 するときつねのさんは、嬉しそうにさらに頭を俺の手元に持ってくる。


「マオマオ様は道満様によく似ていらっしゃる。その、何というか妖怪であるウチ達に優しくしてくれる姿なんてそのもののようです。安倍術師から式比べに勝った後、道満様の最も信頼し、最も強いウチら四人をお選び頂きこの世界へとやってきた時も、道満様はウチらが故郷から離れた事に随分、お嘆きされておりました。でもウチらは道満様と一緒にいられるのが嬉しかったのです。そして突然道満様がいなくなり、マオマオ様がウチらをあの館から連れ出してくださった」


 連れ出したのは、俺というかアズリたん?

 

 もうキラっキラした目をしてきつねのさんは語る。


 きつねのさん達は目的を失い、ただただ来る日も来る日もクロネコが目覚めないように封印をしていた。

 いつか戻る蘆屋道満の為に。

 しかし、蘆屋道満が戻ってくる事は結局なかったのだ。


「……きつねのさん。蘆屋道満もまぁ人間だからさ、多分、こういうとアレなんだけどさ。いつかはそういう日が来ると思うんだよね……。まぁきつねのさんさえ良ければさ、ウチの商店街にいくらでもいなよね? 妖怪じゃないけど、モンスターは一杯いるし、ガルン、アステマ……苦手だと思うけどエメスもきつねのさんを仲間はずれにするような事はないからさ」

 

 そう、俺が唯一、モン娘たちを褒めることがあるとすれば、こいつらは仲間意識だけは異様に強い事。

 これは人間が見習うべき習性だ。


「道満様の事は待ち続けるつもりです。……ちゃんと書き置きもしてきましたし、ですがウチはウチ自身の考えでマオマオ様について行く事にしたんです。その変かもしれませんけど……ウチは……妖怪である前に、一匹の雄として……マオマオ様の事が」


 なるほど、うんうん。自分で言うのも何だけど、魔女っ子の姿の俺は結構可愛いと思う。

 俺が男だったという事を知ってしまう。このままでは無垢なきつねのさんの性癖をぶっ壊してしまうかもしれない。

 

 だから、俺はきつねのさんに優しくこう言った。


「きつねのさん、それ以上はいけない」










 …………俺がそう言うと、少し悲しそうにきつねのさんは微笑んだ。

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