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魔王様のパンツを拾った事ありますか?

「クハハハ! このワッカをたぬきちの首輪にしてやろう! 喜ぶといい! 余からのギフトは皆、泣いて喜ぶのだぞ!」

「ま、魔王様……オラ……じゃない。私にそのような装飾品は過ぎた物です……困りますぅ!」

「よく似合っているぞ! クハハハ! それはアズリエルの奴が残していった魔神器が一つ、ロキだ」

 

 凄いなアズリたん。

 本来、あり得ない領域の道具である魔神器。

 それを家来に簡単にあげてしまう。

 日本の武将でも武田信玄とかがそういうのしていたよな。


 アズリエルさんの工房でアズリたんが拾った巨大な王冠?

 最初はそう思ったけど違う。

 多分、巨大な指輪と思われる魔神器を首輪代わりにされているたぬきちさん。


 ……そんな和んだ様子を見ながら俺たちは道満の屋敷に戻ってきた。

 たぬきちさんときつねのさんが、一宿していこうと提案してくれた。食事もできるしありがたい。

 急いでバンデモニウムに帰っても到着するのが深夜に至り、デーモンの方々に迷惑がかかるからな。

 知ってますか? デーモン、夜に寝るんですよ! 夜行性なのに!


 飯の支度をするきつねのさんとたぬきちさんは襷掛けでせっせと働く。

 

「僕も何か手伝うのだっ!」


 早く飯が食いたいからか、ガルンが手伝いを自ら申し出た。

 他の連中は?

 

 アズリたんにお馬さんにされているエメス。流石に魔王相手にはエメスも性的な反応はしていないらしい。ただ真顔で自分は馬、あるいはパイコだと思い込んでいるに違いない。

 そしてアステマ……紙に何かを考えながらデザインを描いているらしい、うん。悪くないんだけどさ……

 

 こいつ、あらゆる行動がなんか腹たつのはもう俺の癖なのかもしれない。


「……なかなかこの建物悪くないわね! インスピレーションとかいうのがどんどん湧いてくるわ! ふふん、私天才かしら?」


 そういうところだ。こいつ異性に嫌われそうだなぁ。


 そして、極め付けは俺と目が合うとウィンクしてくる事だ。そしてやっておいてちょっと恥ずかしそうにする……なんなんだ?

 

「あーるじぃ! ちょっとそこの化け物の偶像の前に立って私に向かって振り返りなさいよ! ノビスの街に戻った時にの為にいろいろ残しておくんだから!」

 

 いやに機嫌がいいアステマ。まぁ、そのくらいならいいか。

 

 こういうの、学生時代に女子とかやってたよな。あいつらすぐ写真撮るんだ。

 俺よりも上の年齢の人は確かフィルムの使い捨てカメラを持ち歩いていたとか都市伝説を聞いた事がある。

 わざわざ現像しにいくのかな?


「……あの先代魔王様の部屋にあったみたいな精巧な絵ってどうやって描くのかしら?」

 

 アステマがそう言うので俺も思い出した。

 

「…………あぁ、アレな? あれは写真って言って絵じゃないんだよ」


 アステマはアホだから説明しても意味わからないんだろうが、なんかキラキラ目を輝かせてから俺の腕を自分の腕で組んでいった。

 

「何それ凄いじゃない! 私も欲しいんですけど!」

「写真、写真なぁ……いや、流石に俺も写真って……いや、プレアデスとかに聞けばなんとかなるのかな? 確かにありっちゃありだよな」

 

 ウチの商店街にくれば写真が撮影できる。

 結構評判かも。








 ガルンが手伝って、俺たち全員の食事の膳が運ばれてくる。


「マオマオ様、僕が隣でお酌をしますえ! どうぞ、ささやかながら宴を一席設けましたので楽しみください」

 

 瓢箪らしき入れ物から俺の盃に……

 

 に、に……に……嘘だろ! 日本酒だ! 

 平安時代にはまだ清酒技術はそこまで発展していなかったのだが。

 この世界の魔法やらの応用でここに至ったのだろうか?

 透き通った水のような透明色に、独特の日本酒の高貴な香り。

 きつねのさんは、紅をつけたらしい唇でかすかに微笑む、それに俺は頷いて一献。

 これは……あれだな……うん、うまっ!

 

「じゃあ、お返しに、きつねのさんもまぁ一献!」


 俺が差し出す盃を受け取ってきつねのさんが一口飲むと頬も少し赤くなる。

 あぁ、これは有りだ! この酒造りも教えてもらおう。


「きつねの! 我にもきつねのの、まだ幼いその我慢……むっ! ノイズ!」

「エ、エメスの姐様……ご、ごしょうです。ぼ、僕はきつねのはマオマオ様の従者であって、エメス姐様の……お酌はさせていただきます故、ご勘弁を、あんなのまたされたら僕……妖狐としてこの先、前を向いて化けて出れません。ですので、僕には触れないで」

 エメスは姐様と言われていたのか、めっちゃ嬉しそうだ。


 上座ではアズリたん。

 山盛りのご飯に山菜や魚の塩焼きをうまそうに食べている。

 お酒を好まないアズリたんには、どうやら甘酒的な物や甘茶的な物を用意されているらしい。

 お子様なアズリたんだが、日本式の宴も喜んでいる。確か、ノビスの街に来た時も歓迎方法は受け入れるパリピだったな。


「クハハ! 実に美味いぞ! 魔物ではないたぬきち、きつねの、いたちおにクロネコ。貴様らに余の名前を呼ぶ事を許す! クハハ! 喜ぶといい!」

 

“妖怪、たぬきち、遠方のいたちおが、魔王アズリタンからのギフトを受け取り上位式神にクラスチェンジしました。魔法呪印生物、きつねの、遠方のクロネコはそれぞれ、究極魔法呪印妖狐、真究極魔法呪印生物へとクラスチェンジしました“


 蘆屋道満の夢、魔王種に匹敵する呪印生物の感性が、宴の席で瞬きをしている間に完成してしまった。

 

「よ、妖力が……満ちるですよ魔王様!」

「……ぼ、僕も今までにない信じられない力を感じます!」

「クハハ! 良い良い! 貴様らは余の城にて余の宴を楽しませる事に決めたのだ! 苦しゅうないぞ!」

 



 アズリたんのザナルガランを取り戻す為の戦力が強化された。さらにバンデモニウムの皆さんんも協力的なので、今回はシレイヌスさん一強という形にはならないだろうとなんとなく俺も安堵していた。

 

 しかし油断はならない。

 アズリたんを一度は退けたのだ。

 アズリたんは負けていないと言い張っているが……

 今も大きく口を開けて大きな態度で笑っているアズリたん。

 彼女は、バンデモニウムでも道満の屋敷でもそうだったが、仲間という者を死ぬ程大事にする。

 

 オツムの方は知らん。

 されど、王様としてはかなりできた王様なんだろう。比例してアズリたんの事を魔物たちも好意的に思ってるし……。


「……ねぇねぇ主ぃ!」


 アステマ、飯食っている時に絵を描くをやめろ! こいつ、デーモンだからちょっと絵が上手いの、めちゃくちゃ腹たつな……実は俺はクソ絵が下手くそでコンプレックスがある。

 

 俺は苦手なことはしない主義である。

 苦手な事より、得意な事を伸ばした方が効果的である。


「おいアステマ、飯食ってる時に絵描くな! 行儀悪いだろうが、アホテマ! お前ウチの会社、もとい商店街の幹部なんだからなお前!」

「今、主。私の事、アホテマって言ったわね! クズハラ賢者の著書の書いてあったわよ! アホとか馬鹿とか言った方がアホとか馬鹿なのよ!」


 そう、そしてそう言う事を言う奴が一番のアホとか馬鹿なんだよ。常識的にな!アホテマさん。


 とりあえずアステマからスケブを取り上げておく。涙目のアステマ。

 しかしすぐに夕食の魚を食べて元気になる。

 おしんこに舌鼓を打つ。やはりアホだな。

 

「ふふん! この食べ物。なんだか私には似合わない地味さだけどそれなりに口に合うじゃない!」


 たぬきちさんときつねのさんはアステマがクソ失礼な言い方だが食事をほめた事に嬉しそうだ。

 妖怪はめちゃくちゃ上品なのは、蘆屋道満のしつけが大したものだったからなんだろうか?

 やっぱり、俺はもん娘三人の育て方を間違えたのだろうか?

 

 ……まだ結婚もしてないのに、なんだこの悩みは……


 俺が陰鬱な顔で飯でも食っていたのだろう。きつねのさんが。

「マオマオ様、お口に合わなかったですか?」

「いやいや、めちゃくちゃ美味しいよ。きつねのさん達の上品さを見て少し凹んだだけ」


 俺は不安そうな顔をしているきつねのさんを安心させる為に、結構お腹いっぱいだったが、ご飯をおかわりして超美味いアピールをしておいた。

 俺がおかわりを所望すると、日本昔ばなしばりの山盛りご飯を凄い嬉しそうな顔で渡してくれる。

 うん、可愛いんだけどさ、きつねのさんは男の子だ。

 そしてもう吐きそうだ。


 俺は食べる振りをしながらガルンの丼みたいな茶碗にご飯をさりげなくご飯を入れる。ガルンは気づかずにバクバクと食べてしまう。

 

 ありがとうフードファイターガルン。


 食事が終わると、たぬきちさんはせっせと薪を運ぶ。

 そして、きつねのさんが狐火でそれに火をつける。

 そう、風呂である。


「マオマオ様、魔王アズリタン様。お風呂の準備ができますので……。ご一緒に一番風呂をお楽しみください! 当、蘆屋道満様のお造りになられた檜に似た木材。でびる・ひのきを見つけ栽培され、風呂桶を僕たちが組み立てましたので……入り心地はお約束します!」


 風呂は俺の趣味の一つである……が。


「そりゃいいな。でもアズリたんと一緒は、そのねぇ」


 パッと見、女の子同士のお風呂タイムに見えるかもしれないが、俺は成人した男である。

 

「クハハ! マオマオ! 余と風呂に入るのがいやなのか? その様な事はあるまい! ザナルガランでは余の風呂の世話役は取り合いであったぞ!」


 いやぁ……うん。アズリたん。

 

「アズリたん。俺は男で、お前はまだ嫁入り前の……あれだ。魔王とは言え娘なわけだ。慎みなさい!」

 

 俺がそう言うとアズリたんは少し考える。

 そして忘れていた事。

 

 思い出して言った。

 

「クハハ! マオマオは余の結婚相手ではないか! 構わぬ! 風呂へ行くぞ!」


 そう、お友達から付き合いましょう的な感じで、先送りにしていたのだが、そういう話で同盟組んだのだ。


 俺の手を引くアズリたん。


「クハハハハ! 余は風呂が好きだ! マオマオよ! 余はルシフェンに渡されたシャンプーハットなるレアアイテムを用いて目を開けて頭を洗う事すら可能になったのだ! が、そのシャンプーハットは今やない! 分かるか? マオマオよ! 余は目を瞑らねばならぬのだ! 一人で風呂に入る事は不可能となった! クハハハ! マオマオが洗わねばならんぞ!」


 魔王様、風呂くらい一人で入れるようになろう。


 まぁ、ぱっと見小学校高学年くらいか? 従兄弟の娘か歳の離れた妹とでも思うか……

 

「アズリたん、まぁ……頭洗うのは手伝ってやるけど、身体は自分で洗いなよ! お前さんは魔王様なんだから、なんでも一人でできてみんなの模範になるような行動を取らないとダメなんだからな! とてつもなく凄いお前さんならなんだってできるだろう? 頭を一人で洗う事だって魔王様であらせられるアズリたんなら余裕さ!」


 と、アズリたんをヨイショしながら一人でなんでもできるように仕向ける。

 

 ……。


 

 小さい子は大体承認欲求が凄いのだ。だから、褒めて伸ばす事で大体言う事を聞かせられる……。

 ソースはごく稀に田舎に行った際に絡まれる親戚の子供。

 

 アズリたんは一応南の暗国・ザナルガランの魔王だが、精神年齢は見た目相当でしかない。だいぶ家来というか、配下に甘やかされている事が窺えるが……効果の程は……。

 

 凄い笑顔だ。


「クハハ! マオマオよ! 余は頭など洗わずとも良い! 体など洗わずとも良いと家来達より言われてきたのだ! 余は魔王なり! 余は力の象徴である物なのだ! 余が強ければザナルガランは無くならぬ! 故に余は強くあらねばならぬのだ! それ故に余はそれ以外のことはしなくても良いと言われてきた! 余は家来たちの言う事を尊重してやるのである!」


 …………ダメだった。

 ……完全に普通の子供とはなんかベクトルが違うわ。スーパーゆとり世代、ここに極まれり、こういう奴が動画投稿サイトとかで色々物議を醸す事を投稿するのだろう。


「あ、そうか……そうか、うん。アズリたん。頭はもう俺がしっかり洗ってやるから、身体は自分で洗おうな? あの俺の北の地域はな? 他人の身体を洗ってはいけない法律があるんだ。流石に決まり事である限り、これに関しては俺もお前さんも従わざるおえんだろう? いやぁ、残念だ!」


 俺の手を引いて風呂場に連れて行くアズリたん……。

 

 ……檜のいい匂いがする。

 でかい風呂だなぁ……。

 やたら銭湯風になっているのはシズネ・クロガネがテコ入れしたのか?

 服を脱ぎ散らかしてアズリたんが、浴室に走って行くので、俺はアズリたんの服を拾って脱衣籠へ……。

 ……魔王様のパンツを拾うとか異世界でもレアなイベントなんだろうな。

 

 俺も服というか、魔女のローブを畳んで脱衣籠に入れて、さぁいくか、


「おーい! アズリたん! 浴室で走るなよ! 転ぶぞ! 俺、昔ガキの頃に転んで頭撃って病院運ばれた事あるんだからな! まぁ、アズリたんは頑丈だから浴室で転んだくらいで怪我はしなさそうだけど……マナーな……」


 そんな俺の注意を無視して大浴場へ飛び込むアズリたん……。

 

 

「クハハ! なかなか心地よい湯であるぞ! マオマオ! 余達の為に風呂にベコポンが浮かんでおるぞ! これは風呂の中で食べるのだろう! たぬきち、余の家来になってから真っ先に良い働きである! クハハ!」

 

 いや、これ多分ゆずとかの代わりに風呂に入れてるやつだよ。


「……アズリたん。これは香りを出すのに入れてんだよ。食ったら風呂汚れるだろ、これは食わないもんなんだよ」


 まぁ、どうせ俺の注意をしても勝手に食うんだろうけどな。次のみんなの為に掃除して出よ。

 

「ほう……これはそういう趣向の物か、余の寝室にも香を炊くからな!」

「あ、あぁ。まぁそんな感じな。あと身体が温まりやすいとかな」

 

 何故かこれは通じた。案外物わかりいいじゃねぇか。

 ……まぁ気持ちよさそうに風呂に入ること。

 まぁ、でもこれはたまらんな?


 アズリたんと裸の付き合いを女の子の10代の体でしていると言うのは、絶対にレポートできんな。

 

 突然、アズリたんがザブンと湯船から飛び出す。


「クハハ! マオマオよ! さぁ、余の身体を洗う事を許す! 本来はたぬきちに行わせる事なのだろうが、奴ら余とマオマオが風呂に入っているのを邪魔できぬらしいぞ! それではマオマオ、貴様が余の身体と頭を洗うと良い! 余は汚れぬのだがな!」

 

「あ、アズリたんさん……とりあえず頭洗おうか? まぁ、身体を洗うのはその後でな! じゃあ、そこの椅子に座って! あと、俺、そんなに頭洗うの上手くないかもしれないからな。怒るなよ! えっと、シャンプー的な物はこれか? ウチで使ってるのより物がいいなこれ、ちょっともらって帰って量産してウチの銭湯でも使おうかな」

 

 アズリたんのめちゃくちゃ綺麗な黒髪にキューティクル、

 

「クハハ! くすぐったいぞ! マオマオ、中々気持ちが良い! クハハ!」


 アズリたんはご満足だ。

 

「そ、そりゃどうも」

 

 さぁ、風呂に浸かって上がるか。

 俺は、アズリたんの髪をタオルで軽く拭いてやると、動物みたいにブルブルと体を振って水気を飛ばす。

 

「さぁ、マオマオ! 次は体を洗うといい! クハハハ!」

「あ、アズリたん。今日は身体洗わなくても良くないか? そんな汚れてないよ」

「馬鹿を言うでない! クロネコと遊んで少々汚れたぞ!」

 

 ……ごもっともですね……はい。

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