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貞操が危ないですよきつねのさん!或いは勘違いが凄いぞ妖怪少年、きつねのさん。

 俺たちがいたちおさん達に案内された襖の先。

 

「……まぁ、そうだろうと思っていたけど狐だね」

「はい。……私もこういう雰囲氣だから、多分狐さんかなと思ったんですけど、想像以上に想像通りに狐さんがいましたね」

 

 凛子ちゃんと俺は、狐と巫女装束の組み合わせを見て、俺たちしか分からない共感を感じていた。

 

「……魔王様、そのご一行、えろうご足労なさったなぁ。ウチが、道満様の()()の家来にして最強の式妖、きつねの」

「クハハ! 偉そうな! ケダモノの獣人であるな! 苦しゅうない! 余の家来にしてやろう! そのどーまんとやらより、可愛がってやるぞ!」

「口を閉じろ童。魔王の前だからとて、道満様を悪くいう口はどれぞ? 潰してやろうか? のぉ、童、狐の呪いは怖いですえ?」

 

 なるほど、このきつねのさん、勘違いをしていらっしゃる。


「「きつねの」」

「だまらっしゃい!」


 たぬきちさんといたちおさんが教えてくれようとしているのに。

 弱者は口を開くなと威嚇する。

 いやぁ、早く勘違いに気づかないと恥ずかしい事になるぞ。


「魔王様……ウチと遊びましょ?」


 魔王様とやらは……エメスか。


「よ迷いごとを発する、獣の魔物と見たり……そのような幼体で色仕掛けとは笑止千万也。マスターの性獣にすらならぬ小物がアズリたん様と遊ぶとはこれは異なことと知り」

 

 そしてエメスさんも魔王が自分の事とは気付いていなかった。


「狐の化生は生きた年月により、力が変わる。ようやく600年の年月を生き、月食の光を数百と浴びたウチは、六尾の力を持つ狐の大妖怪です。いかな魔王様といえど、少しは楽しめるんちゃいますか? あぁ、もしかすると楽しすぎて冥府に落ちてるかもしれませんけどね。ウチは雄、雌の狐よりも強い力ありますからなぁ!」

 

 おや、きつねのさん、美少女かと思ったが、美男の娘だったか。

 これはとてもまずい。

 エメスさんが凄いイケメンの顔をしているではないか。

 逃げて、きつねのさん。

 今まで女の子だと思って全く興味がなくなったが、男の子だと知って興味が尽きないのだろう。

 

 エメスが、非常に不敬な質問をきつねのさんに問う。


「きつねのとやら、我は問う。ついているという事で間違いないか? その方、嘘偽りなどはないと心から誓えると言えり? さすれば我も、全力全開を持ってして最大の礼を持ってして相手をすると誓えり! さぁ! きつねの。いかに? 事実であれば我、きつねのとやらの認識を大幅に変え、我が本気を出して責め、受け合う仲と知る」


 きつねのさんは、ニンマリと嬉しそうな顔をする。絶対分かってない。

 貞操が危ないですよきつねのさん!

 薄い本のタイトルみたいだ。

 

 ……きつねのさんは嬉しそうにブンブンと首を縦に振る。

 

 あぁ、自分だけが魔王に対等と見られたと!

 うわー、どうしよ。勘違いが凄いぞこの妖怪少年、きつねのさん。

 次はラノベのタイトルみたいだ。

 

 俺は頭の中でそんな事を考えていた。

 

 ついていると肯定した。

 その瞬間、エメスの瞳孔が一瞬だけ大きくなった。そして二人はゆっくりと歩き出す。

 きつねのさんは何か印を、そして呪文を唱えながら、エメスはハンドポケットで。

 

 冷静になって二人の力を測ると、エメスはきつねのさんに遠く及ばない。たぬきちさんでもデーモンジェネラル級なのに、それらのリーダー的な妖怪がこのきつねのさんだ。


 エメスはおそらく俺よりも先にこのきつねのさんと自分との能力差が大きくかけ離れている事を演算している筈だ。なのに、きつねのさんと戦おうというのだろうか?

 なんで? 男の娘だからか?

 こいつ、性欲の為に死ぬ気か?

 いや……こいつ何か考えがあるんだろうか?

 実際は相当頭いい筈だからな、何か勝機を見出したか?

 

 俺は少しだけ期待してエメスを見つめていると、エメスは頷く。

 おや? これマジか?

 

「……きつねの……戦い方は我が決める事良いか?」


 自らのリングに誘い込み、そこであればエメスハこのきつねのさんとの戦力差を縮めることができるというのだろうか……


 ……きつねのさん、果たしてこの誘いに乗るだろうか?

 妖怪とモンスターの大きな違いがある。妖怪はモンスターと違って生死よりも誇りを大事にするらしい。






 きつねのさんがその誘いに乗った上でエメスに勝つつもり。

 エメスはそこまで考えた上で戦術演算をしていたとでもいうのだろうか? なんて事は俺は一ミリも考えないし、クソくだらない事を考えているんだろう。


 何故なら、エメスさん。

 めちゃくちゃワクワクして、鼻息が荒いんですよ。

 


 きつねのさんは、エメスの申し出を受け、代わりに条件を出してきた。その条件がまたぁ……負けた方は勝った方の家来になる……。

 

 それは……残念ながらきつねのさん。エメスにしか得がない。エメスを家来にしたとして、エメスは俺の従者なのだ。

 強制に的に俺の傘下に加わる可能性が極めて高い。


 ……そして、エメスにもしきつねのさんが負けようものなら、エメスのマジであかんやろな玩具になる。

 エメスときつねのさんはお互い納得し、これより狐の妖怪。きつねのさんとゴーレムのエメスの戦いが始まる。



 そして二人の戦いが始まる。

 エメスがきつねのさんに何かを呟く。

 すると、きつねのさんは印を切ると何やら亜空間のような場所を生み出した。そしてその中に入っていく。

 エメスさん、いつになく凶悪な顔をして同じ場所に入る。

 この中で戦うのだろう。まぁ、デーモン・ジェネラル級の力であればここが壊れる可能性もあるか。

 それをエメスが考慮してこの空間を作らせた……という事ではない。何かくだらない考えがあるのだろう。


 果たしてこの中で何が行われるのか、俺はなんとなく想像はつくけれど、他のみんなはそうではないらしい。

 エメスを心配そうにするウチのもん娘と凛子ちゃん、きつねのさんを心配するたぬきちさんにいたちおさん。


 アズリたんはあの亜空間に入りたがるので俺が捕まえておく。どれくらい経っただろう? そろそろ決着、あるいは何か動きがあってもおかしくはない。

 時間が経つごとに心配は飽きに変わっていく

 これはモンスターも妖怪も同じである……。


 不思議な事に飽きというものはコミュニケーションを深める。

 俺が作ってやったトランプでババ抜きを始め出した。人数が多い方が面白いので妖怪の二人も参加して仲良くなっている……。

 

「うわぁ! ババなのだぁ!」

 

 匂いでは分からないように作ったトランプだからな。

 ガルンに不正はできず、プレアデスに加工してもらったのでエメスですら識別不可能。

 

「クハハ! 揃ったぞ! 余は残り二枚だ!」

 

 アズリたんもお気に入りのババぬき。ルールが分かった妖怪たちも再ゲームを所望し、ベコポんや柿を摘みながらカードゲームに楽しむこいつら、貴族かお前らは……お互いの代表が戦ってるのに……


「おっ! なんかあの亜空間に動きがあるぞ! なんか、モニョモニョしてる。どうなった?」


 そう言ってもトランプゲームに忙しいモンスターと妖怪達は気にも留めない。次は七並べかお気楽だな。

 終いには妖怪側もお茶菓子とお茶を用意して、敵対していたハズなのに完全に歓迎ムードだ。

 そんな中、ついに亜空間に大きな動きが見られ、流石にみんなそちらを見る。

 

 ズボッと腕が出てきた。

 

 おそらくあの腕はきつねのさんの腕らしい。


「ちょ、君は何を考えているんだ! 魔王と式妖の力くらべじゃないのか? ちょ、変なところを触るな!」


 京の都っぽい喋り方はどうやらキャラ付けだったらしい。

 素で慌てて一瞬出てきたらしいきつねのさんが引っ張られ、亜空間へと引き摺り込まれる。


「きつねの! きつねのが負けそうですよ! いたちお!」


 妖怪組は大変だー! と叫んでいる。

 多分大変なのはきつねのさんの貞操。


 そしてサウンドオンリーで二人の状況がわかる。


「なななな……何を言っているんだ。ヤオイ穴? そんな術は知らない……」

「我を作りし北の魔王が我に与えし力、それは108手なんてヤワな物でなし、万のスキルと言っても過言はない快楽の檻を知るがいい!」

 

 なんだろう、いつもよりエメスが凶暴に見えるのは俺だけだろうか?

 ガルンとアステマが驚いてるよ。

 いや、勘違いさせたままにしておこう。

 

 俺、いやだよ? 二人に保健体育を教える時間を作らないといけないとかさ。マジ勘弁してくれ。

 

 

 どうやら戦局はエメスが完全に優勢らしい。

 条件をつけたきつねのさん。エメスが提示した戦う方法はどうやら、子供達には言えやしないよ! な方法だったわけだ。

 

「あっ……ああん、尻尾は……いやん! そこは……ダメェ!」


 もう、見ちゃおれん。もう助けるしかないだろう。

 だってさ、さっきまで和気藹々とトランプゲームをしていた妖怪達もざわざしている。

 

「あ、あのきつねのが調伏されかかってる……どうしよ?」


 たぬきちさんがいたちおさんにそう言う。

 いたちおさんとたぬきちさんはきつねのさんに絶対的な信頼を寄せていたのだろう。

 

「……な、何を言ってるのよ……あのきつねのが……負けるわけ……ない」

 

 もう泣きそうないたちおさん。


「や、やめれぇ………イク……いやっ、そこは道満様の!」


 ちょっと、本当にエメス、あかん!

 俺は二人の入っている亜空間に飛び込むと、ほとんど素っ裸にされて泣いているきつねのさん。

 それに実に嫌らしい顔をしてエメスさんは何やら歪な形をした棒状の何かをきつねのさんに向けている。

 こいつ、こんなものを作るのに錬金術スキル使えるのか……恐ろしいな。絶対俺の部屋に入れない鍵作ろう。



「おい! エメス。もうやめだやめ! きつねのさん泣いてじゃねぇか、可哀想に、妖怪って元々長年生きた動物とかなんだぞ、いじめんな!」


 俺がエメスを抑え、泣いているきつねのさんを介抱する。

 

「その……きつねのさん、ほんとすんません」


 きつねのさんの中では魔法や妖術での力くらべをする物だとばかり思っていただろうに、蓋を開けたら……ねぇ。


「マスター! この戦いはお互いを賭け性奴……むっ、ここでもまたフィルターかマスターといえども誓いを立てた決闘の邪魔に不服を申す」

 

 凄いな性欲の前では俺への意見すらも行ってくるようになるのか、怖っ。

 エメスの完全に腐ってしまった考えで行われた決闘の無効化を言い渡す。

 代わりにきつねのさんは俺たちに敗北を認め、俺たちの話を聞いてもらう事に了承させた。

 

 きつねのさん、エメスを見るとビビる。


「おー、よしよし、怖かったな? もう忘れた方がいいよきつねのさん……」

「き、貴様。マオマオと言ったか……的であるウチにも優しいのだな……かたじけない」


 そう言ってきつねのさんは俺に抱きついてきた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ということで約束を守ってもらう」

「………目的はそちらの呪印生物から呪印を……ヒィ、こっち見るな!」

 

 きつねのさんは千里眼的なスキルを持っているらしく、俺たちがなんの為にここまできたかを知っていた。

 本来は何それすげぇ! 的なスキルなわけだ。

 

 ……だが。

 そのスキルはオート発動するのかエメスの目的を常時知る事になる。

 というか……、戦う前も知っていたろうに、先ほどまでの目も向けられない責め苦がトラウマになったか、

 

「ま、マオマオ殿! あの者が見ている! うぅ……舐め回すような目で、うわーーん!」

 

 おい、妖怪泣いちゃったじゃないか。俺にしがみついて離れそうにないきつねのさん、可哀想に。

 

「きつねのさん、落ち着いて。あいつは魔王じゃないので先ほどの約定は意味をなさない」

 

 うつらな瞳で俺を見上げるきつねのさん、同じ獣でもガルンとの違い、香りがお花みたいなのである。

 

「ほんと? 本当か? 嘘を妖狐に言ったら、一千年は祟られるんだからね? それにウチは道満様の第一の家来なんだぞ! 呪殺だって得意なんだから」

 

 幼児帰りしそうなきつねのさん、それ逆にエメスさんを喜ばせるからダメよ。ダメダメ。

 

「うん、大丈夫だから、あのアステマのアフォから呪印とやらを剥がす方法教えてくれないかな?」

 

 俺は今、美少女である。

 安心できるのだろう、よってできる限り微笑んでみた。


「呪印を解呪することは、道満様にしかできない。残念ながらウチの力を持ってしてもそれは不可能。だけど、呪印を吸う事ができるクロネコなら……」

「あぁ、確か異世界の魔物が襲来した時に、一緒になって戦ったとかいう蘆屋道満最強の式神だっけか? それって明らかにこの巨大な岩的な物の下に封印している感じだと思うんだけどその認識でおk?」


 ご丁寧に巨大なしめ縄がしてある。

 

 俺が呪術的な事に明るいとわかるや否や、きつねのさんは頷く。まぁ、ほとんど漫画やアニメの知識だけどな。

 見るからに急増でこしらえた感じがする封印、そしてよく見るとそれが暴れたような跡が岩の下に無数に見える……。

 

「『クロネコ』……あれは……道満様が、安倍泰親(やすちか)と式比べをする際に、奴の使う武神と戦う為に遠い異国の地より伝わった魔術という力で作り出された魔獣。式でもなければ犬神でもない。道満様がいない今、あれが暴れ出したら誰も封印できないんだ。力になれなくてすまない」

 

 そう言って悲しい表情を俺に向けるので、きつねのさんを撫でてやる。

 

 妖怪とモンスターの類似点が見つかった。たぬきちさんといたちおさんが羨ましそうにきつねのさんを見つめる。

 ……要するに撫でられるのは、こいつら妖怪も好きらしい。実に可愛い限りだと思う。

 

 そして、どうやらクロネコとやらは、陰陽術の式神ではなく、西洋魔術で生み出されたファミリア的な物らしい。

 しかし安倍晴明ではなく安倍 泰親と戦ったのか……蘆屋道満。

 わざわざ式比べをする為に、こんな危険な物を用意した理由はなんなんだろうか? 単純に憎かったから?

 

「……きつねのさん。さっきの話からして、クロネコは呪印を吸い取る事ができるんだよね? という事はアステマの呪印を吸って元に戻せるって事だ。そしてクロネコが暴れてもなんとかできる存在が俺たちのパーティーには現在存在するんだわ」

「あの魔王という童の事か? どうみても、あの童では……クロネコは……クロネコの強さを誰も知らないから言えるんだ」

 

 相当な物なんだろう、クロネコ。


「その言葉をそのまま返すね? あの魔王アズリたんは見てくれはただのお子様だけど、瞬時にここを地獄に変える程度の力は軽々と持ってる。もし、アズリたんをして止められないような存在なら多分誰も止められないという事だよ。俺を信じて」

 

 きつねのさんは俺に抱きついて頷く、そして指で印を切った。

 うん……ケモナー。気持ちは分からなくはない……

 

「アズリたん! これからとんでもない奴が目覚める。そいつが大暴れするから、それを止めてほしい。多分、たぬきちさんやいたちおさんなんかとは比べ物にならない力を持ってる感じだ。頼むぞ!」


 アズリたん、先ほどまでのアトラクションを思い出す。

 目がキラッキラっと輝き始める。

 そして、目に見える程の真っ黒い魔素を放出する。



 アズリたんの力、シレイヌスさんとの戦いで一旦の底を見たと思うのだが、

 このバカ魔力は、流石に魔王だな。魔力量で言えば、アラモード以上、精霊王サマとエルミラシル二人分はあるんじゃないか?

 

「クハハハ! 先ほどの奴か! 良い! 見せてみよ! ここにおる連中は魔物でも亞人でもない。面白い生き物だ! みんなまとめて余の家来としてやろう! はようだせぃ!」

「ど、どうなっても知らないんだから! 究極呪印生物・クロネコ・解!」


 巨大な大岩に亀裂が入る、そしてしめ縄が黒い炎で燃えていく。


「ちょ、ちょっと主……これやばくないかしら? あのエメス達と同じ……機械王と同じ感じがするんだけど! ま、まぁ! この超魔法を使える私と? アズリたん様がいれば取って事ないんだけど……」

 

 アズリたんがいるからどうって事ないだけな?

 アステマ、屁っ放り腰すぎるだろう。


 

「人間達、クロネコは本当に危ないんだ! あの魔王でも……」

「クハハハ! 確かに面白い力だっ! 余や精霊王達のような魔力ではない。が、その力がビリビリと伝わってくる。余の家来にするのに申し分ないではないかっ! 顔を見せぃ!」


 アズリたんがそう言った矢先、砕け散り、ブチ切れたしめ縄、そこから黒い猫が現れる。その姿にたぬきちさんは失禁しそうなくらいに顔を歪め、いたちおさんも逃げる場所を探す。

 

 きつねのさん、印を切り、クロネコを制御しようとしているのか……


「う、ウチの力でもクロネコを抑え切る事はできないっ! だ、ダメだぁ!」

 

 クロネコは完全に制御下から外れた。小さな猫は長い黒髪の小さな子供の姿に変わる。リアル猫娘? 猫息子? 分からないが、クロネコは咆哮した。

 にゃおおおおおん!

 と、そしてアズリたん目がけて突進。

 

 当のアズリたんは、


「クハハハハ! すごい力だ! ディダロスくらいの力があるではないか! 気に入った! クロネコよ、余の物になれぃ! 余の部屋で遊んでやろうぞ! クハハハ」

 

 クロネコはホーミングする妖術弾をアズリたんに放つ。

 

 ……アズリたんに直撃するがアズリたんにはダメージは通らない。

 

 その様子に妖怪達は顔色が戻る。

 ホーミング妖術弾に対して、アズリたんは炎の魔法で迎撃。





 アズリたんとクロネコとの力比べが始まる。

 クロネコが大きく口を開けるとそこに力が集まる。そして一点集中したレーザーのような攻撃を放つとアズリたんはそれに射抜かれた。

 アズリたんの腹部に向こう側が見える穴が空いた。それにはアステマは気絶しそうで、アズリたんはそのお腹を見て大笑い。

 

 アズリたんにとっては擦り傷程度なんだろうか? 

 

 他の妖怪連中もこれには開いた口が塞がらない。

 

「クハハハ! おもしろし! クロネコと言ったか? ますます欲しくなったぞ! 余の身体に傷をつけたぞ!」


 アズリたんの身体にダメージを通した事はやはり凄い事らしい。アズリたんは回復魔法などを使うわけでもなく、患部に触れ。

 そして何事もなかったかのように修復させた。

 

 とはいえ、普通ならアズリたんに傷ひとつつけられる事もないのに、俺はようやくクロネコのその強さを、ヤバい奴を目覚めさせてしまった事を認識した。

 

 クロネコとアズリたんは見合う。アズリたんは何がおかしいのか大笑いで、クロネコは睨みつけ、


「破壊する」


 クロネコが喋った。


「クハハハ! 余を破壊? その破壊を余が破壊してやろう!」

「呪印より、裏五芒星術式を短縮。高速展開より、破壊神火之家具土をクロネコに憑き落とす……さらに呪印展開、敵性種魔王を結界術で縛り上げる……」


 クロネコはまさかまさかの陰陽術を使う。

 

 クロネコは力がみなぎり、炎に包まれる。吐く息すら真っ赤な炎。あの日本神話における暴君神。

 火之家具土を呼んだと先ほど言っていた。それを自分に落とす事でその力的な物が使えるんだろうか?

 当然、俺の知識は大体漫画やアニメの受け売りだ。


「……クハハ! 炎の魔法か、それもイフリートのような物がおるな!」

「焼却!」


 クロネコは轟々と燃える炎をアズリたんに向けて放った。

 

 アズリたんは再びノーガード。身体の大半を焼き尽くされるが、嗤う。

 そして、アズリたんは炭素化した体を無理やり動かして。

 走った! そして炭素化した自分の身体の中から新しい体が急速復元されクロネコの前に出た。

 


“アプリ起動。盟友アズリたん様に敵性種の物理攻撃が開始されました。アズリたん様は物理無効化、自己復元速度から、ダメージはほぼ0でしょう“


 アプリ曰く、今目の前で大げさにアズリたんがやられているように見えるが、アズリたんには通じていないらしい。

 クロネコの真っ赤に、熱そうな拳をアズリたんは握る。

 アズリたんの手が真っ赤に染まり、焼け爛れているのだが、これ、殆どアズリタンにダメージが通っていない……らしい。

 マジか……怖っわ。


「……火之家具土を超える、大型の魔物。魔王。呪印を九つ使い最速で術式構成開始。怒れる稲妻のマスラオを呼ぶ事に決定。術式完成、素戔嗚の尊を憑き落とす! アーク!」

 

 次にクロネコが呼び出したのは、雷を帯びた。クサナギの剣。それはバチバチと雷が篭っている力に耐えられず爆ぜる。


 クサナギの剣を両手で持って、クロネコは駆けてくる。

 それにアズリたんも駆ける。

 

「魔龍の魂すら滅ぼし尽くした。雷の子、素戔嗚の剣で砕けぬ者はいまい。滅ぶがいい魔王!」

 

 クロネコは可愛い顔でそう言ってトドメを刺そうとする。

 

「クハハハハ! ビリビリするぞ! この余の身体が雷に撃たれるなど、久方降りである。余の魔王権限の前にあらゆる天候は余を避けていくハズなのに、クロネコ。貴様の雷は真っ直ぐにきたぞ! おもしろし! 実におもしろし! このような芸当ができるのは精霊王ぐらいである! クハハハ! 貴様は余が少し力を見せても、壊れぬという事だ! これはいいぞ! クハハハ!」

「ここまで呪印を使って痛手ひとつもなし、道満が恐れていたこれが魔王……さらに呪印を解放する」


 クロネコさんは身体中に魔法のルーンと陰陽術のハイブリット。

 呪印の力をさらに引き出していく……。



 流石と言うべきなのか、伝説の陰陽術師、蘆屋道満。

 彼は、この世界における最強統治者である王を冠する者、それに匹敵する式神を作り出した。しかし、なんとなくあれは危ない力に見える。

 クロネコは呪印を使えば使う程。

 

 自我のような物を失っているように見える……。


 クロネコは呪印の力を引き出した事で腕がありえない大きさに肥大化する。それに伴い人型から獣の姿に変わる。

 俺が少々、妖怪やらに詳しいから言えるのだが、このクロネコ、多分四聖獣に相反する怪物。

 窮奇のような姿に変わっていく。身の丈は五メートル程の巨大な猛獣。

 

 …………。

 

 ……アズリたんはその姿に嬉しそうに嗤う。


「クハハハ! 余の腹心共に似ているな! クロネコ。余も少し力を出すから、簡単に壊れるなっ! これは命令である! 気に入れば余の腹心にしてやろう」


 今まで、初めてアズリたんが構えた。そしてそれと同時にアズリたんからドス黒い魔素が溢れ出るように見に纏う。そしてアズリたんの肩の上の方より黒い暗黒が二つ渦めく。

 

「……呪殺対象魔王。前回目覚めの時より、魔王アズリエルの力と戦い方を模倣し戦算術開始。戦算術終了」

「くははは! 貴様、先代の魔王アズリエルを知っているのか! それは実に良い! 話すといい!」


 おぉ、アズリたんの先代と言う事は母ちゃんか父ちゃんかな? ちょっと俺も興味深いな


 クロネコは笑顔で見つめるアズリたんを怪訝そうに見てから……


「呪印解放結界術展開」


 アズリたんとの質問を無視してアズリたんを法力で縛る。

 アズリたんはそれを縄でも引きちぎるように軽々と破ると笑った。

 ……クロネコにとってこのアズリたんは敵性モンスターでしかないらしい。

 

「恥ずかしがらずとも良いクロネコ! クハハハ、余は先代、アズリエルの事を殆ど知らぬ。北の魔王シズネ・クロガネ曰く。それはそれは強く気高かったと聞いている。誠か?」

 

 ………やはり、親の事は気になるのか?


「アズリエル……蘆屋道満が目指した式妖の頂点。陰陽術における陰、いや闇そのもののようであった。クロネコの呪印を全て解放しても届かない。それが蘆屋道満にはたまらなく納得がいかなかった。だからクロネコにさらに呪印を増やした。異世界の魔物を追い返した時の力は見事だった……」

「クハハハ! アズリエルより余の方が強いであろう? いかに?」

 

 アズリたんはさすが魔王だった。正直先代の事が知りたい訳ではなく、自分の方が強いかどうかの質問だった。


 クロネコはさらに力を貯める。

 アズリたんにはまだまだ余裕がありそうだ。

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