実録、妖怪は存在する! 蘆屋道満とその式神が異世界にきていた!
蘆屋道満の工房、それは明らかに和風の館調だった。
ギィとそれは勝手に開くと、俺たちを誘っているようにも見える。警戒すべきなのだが……
この蘆屋道満の結界を軽々と突き破ったアズリたんが高笑いをあげてテクテク進んでいくのを見るとアホらしくなる。
アズリたんを先頭にエメス、ガルン、凛子ちゃん、俺、アステマだ。
「マオマオちゃん。ここなんだか日本風な場所だよね? それにドウマン・アシヤってなんか聞いたことがあるような?」
流石に今のJKで蘆屋道満とか知ってたら結構な通だと思うよ大体、有名なのって安倍晴明か役行者だもんな。
屋敷の中には数々の術式を試したような跡が沢山残されていた。中にはなんらかの生き物の遺骸とも思える物も。
外から見られる優美さに対して、
中は割とえげつない事になっている。どういう実験をなされていたかは想像に容易い。呪印生物を作る為の生きた実験動物を使ったものだ。
「足元に変な物転がってるけど勝手に触るなよ! ほら! アズリたん。なんかの動物の頭の骨を拾わない! バッチいだろう! 手ふいて!」
「クハハハ! 何者かの行儀の悪い食事あとか? ここは中々に心地よい暗黒が渦巻いておるぞ! クハハハハ! 憎悪、怨恨、呪念が撒き散らされておるが、余が歩くと落ち着いてゆく! クハハ歓迎か!」
マジか、長年の恨みつらみですら、魔王の威圧に耐えられないのか……。
「とりあえずアズリたんがいると、なんか空気が明るくなるのは悪くはないな。これが魔王故なのか、それともアズリたんのもつ魅力なのかは分からないけど、今俺は強くてニューゲームをしている気持ちで一杯だよ。この新ダンジョンでも安心して歩けるもんな」
「お化け屋敷でも、アズリたんちゃんみたいな子がいると、怖さよりもアズリたんちゃんの方が気になっちゃいますよね! ふふっ」
凛子ちゃんとそんな話をしながら俺達は廊下を進んでいると……。
何やら人影。
「クハハ、何かおるぞ!」
アズリたんがテンションを上げてそう言う。
そこは、豪華な襖のある部屋の前、襖を開けて緑色の着物を着た茶髪ショート、たぬき顔の女の子が妖艶に笑う。
そして手招きして襖の奥へと入る。
……まぁ、本来は完全に罠なんだろうけど。
当然警戒もせずにアズリたんが入っていくので、俺と凛子ちゃんはお邪魔しますと一言挨拶。
そこでは、茶菓子を用意した少女が待っていた。
……完全に着物。
…………よく見ると動物の耳に尻尾、たぬき顔なのはたぬきだからか?
「なんなのアンタ? 獣人系の亞人かしら?」
そしてまたアステマも空気を読まずにそう尋ねる。なまら力を手に入れたので調子に乗っ取るわ。
「ここは、蘆屋道満様の術調べの館、何用?」
本来、きっとこの不可思議な場所に似合いすぎているこの少女に不気味さや恐怖を感じてもいいだろう。
がしかし、アズリたん、ガルン、アステマが茶菓子を見つめていて気が散る。
「ここは、呪印剛式を道満様が練り上げる為の儀式の館……そこにやってくるという事は……あの、その茶菓子食べてもいいですよ」
「「「本当に!」」」
流石にこの少女も居た堪れなくなったのだろう。茶菓子でも与えてやらないとまともに話を聞いてくれそうにないと考えたのだろう。
大丈夫ですよ! 俺は少なくとも聞いてます。
この少女は、菓子を食って静かになったことを確認して話し出した。
この場所がデーモンとの契約で蘆屋道満による術の練習場所である。
そして、ここにはその実験過程で生み出された失敗作が沢山いる……。
……それらは時折外に出ていくこともある。
強力な式神の失敗作で、外では呪印生物と呼ばれている事。
そして、それらを饒舌に語ってくれるのが……
「私は、道満様の一番の家来! たぬきち! 安倍晴明との式くらべの時もいたちお、きつねのと共に善戦せし式神」
まぁ、勝ったとは言わないのが、素直な狸娘だな。相手は安倍晴明だもんな。そりゃね……
“アプリ起動。モンスターではない存在の確認。亞人とも違います。かといって人間にも該当するデータベースは存在せず。バンデモニウム及び、この存在が語るに、蘆屋道満……出生不明、伝説上の人物となりますが、その式神、あるいはファミリアのような物と考えられます。異世界探索メンバー達の文献から妖怪という単語も検索に引っかかりました。現在、たぬきちを名乗る存在の危険度は未知数です。大事をとって一旦退避される事を提案いたします。マオマオ様、どうかご検討をお願いします“
「なるほど、妖怪を式神にしていたのが蘆屋道満なんだな。なんかちょっと感動するな……しかしどうしようか?」
たぬきちさんを見てアズリたんが興味津々で近づく。
「そこな邪悪な気配をもつ子供、たぬきちに近づく事は許さない! 警告を無視するのであれば、道満様直伝の札術を持ってして痛い目を見るでしょう! さぁ、帰りなさい。たぬきちはそれを願います」
「クハハハハ! ガルン! 貴様の眷属のような奴だな! 菓子が無くなったぞ! たぬきちよ! もっと菓子を出せい! 持っておるのだろう? 中々に美味であるぞ!」
礼儀という言葉をミリも知らないアズリたんがたぬきちさんに迫る! そしてたぬきちさんは札を取り出した。
「これやこの! かのものを縛る綱なれや! 封呪、えーん!」
たぬきちさんが札を投げるとそれがアズリたんの額にピタリと張り付く。そして同時にアズリたんの動きがピタリと止まった。たぬきちさんはニヤリと笑う。そしてアズリたんは額の札をベリっと剥がす。
「わかりましたか? 招かざれる者よ。これに懲りたら……って私の封呪を普通に剥がした!」
いやぁ、そりゃそうだな。もし、魔王ですら陰陽術でどうにかできればもう少しメジャーであってもおかしくはないだろう。
「クハハハ! キサマ! たぬきちよ! 面白いではないか! その手品! もっと見せてみよ!」
ほら来た産業。魔物のナチュラルに相手をディスってくるの図。
それにたぬきちさんは顔を真っ赤に染めて怒る。たぬきちさん、君が悪いわけじゃないんだ。悪いのはこのイカれた世界さ。
「これやこの! 指し示すは、深淵の脅威! 陰に隠れし封鬼の力よ! 陽に紛れし聖なり獣よ。蘆屋道満の名を持って仕えよ。人の世に巣食う悪鬼羅刹。因果撃滅、この蘆屋道満一番の家来、妖狸のたぬきちに従い邪を討たん! 呪殺! 平安ぽんぽこたぬき寝入り!」
たぬきちさんは眠りについた。……たぬき寝入りという事は寝ていないのか? いや……これ多分、さっき言ってた何かを呼び出して、自分の体に落としてるんじゃあなかろうか? たぬきちさんの姿が明らかに倍化していく。そして巨大なたぬきの化物として見下ろしているのだ……
……本来は怒らせてはいけないやつを怒らせた。
そんな感じで後悔を感じるハズなのだ。ウチのモン娘達はビビって後ろから見ている。
しかし、そこはアズリたん。南の魔王様である。未だかつてこいつが仲間にいる事ほど安心できた事はないかもしれない。
しかし、そんなアズリたんを上回っているシレイヌスさん、どんだけヤバいんだ?
これ、聖霊王サマに力を借りないとやばくないだろうか?
とまぁ、俺ですら、今の状況を危険視していないくらいには予想できる未来が待っているのだ。
「クハハ! でかくなったな! 抱き心地が良さそうである! 余はますます欲しくなったぞ! たぬきちよ! 余の物になれぃ!」
たぬきちさんはその言葉を聞いてか、大木みたいな腕を上げる。
そしてそれをアズリたんに向けて叩き落としたのである。
「蘆屋道満様の調べ屋敷に土足で上がり込んだ罪、幾度の警告も無視した事、死んで償え! 次はお前達だ! 覚悟しろ!」
凛子ちゃんだけが少し、アズリたんを心配。
というか、現役JKが少しだけしか心配していないとい安心感。
「アズリたんちゃん、大丈夫? 怪我とかしていない? それとこんな大きなたぬき持って帰れないと思うよ? 立てる?」
バンソーコとか用意している凛子ちゃん。
ナチュラルにたぬきちさんを煽っているようにしか見えない。
ぐぐぐぐぐと、たぬきちさんの巨大な腕が持ち上がる。なんか布団みたいだな。
それに一番驚くのはたぬきちさん、ペシャンコにした気だったのだろう。
アズリたん。もうそりゃ、目をキラッキラ輝かせて、遊園地にでも連れて行ったらこうなりそうだな。
怪我どころか、傷ひとつついていない。多分、魔王のスキルか。
無傷のアズリたんを見て、たぬきちさんは腕をぶんぶん振る。
本来一撃必殺の破壊力があるだろうその攻撃をアズリたんは受けても嬉しそうな顔をして次の攻撃を受けるのだ。効いていないどころか、楽しんでいる。
アズリたんは物理耐性も信じられないレベルなわけか……さすが魔王だな。今のところアズリたんは反撃しない。
嗤っとるわ。
どう考えてもたぬきちさんではアズリたんには勝てない。
きっとたぬきちさんもかなりのやばい妖怪なんだろう。
しかし、ステージが違いすぎるのだろう。
「聞いてない……でーもんとかいう連中、強すぎる怪異とは聞いていたが、私と同等か少し強い程度だって道満様は言っていた……道満様が私に……嘘をついていたというの? そんな事……」
流石に不憫なので俺はたぬきちさんに教えてやった。
「たぬきちさん、そこにいるのはデーモンじゃなくて……魔物達の王様。南の魔王アズリたんだよ。そりゃ勝てないよ」
俺の話を聞いてたぬきちさんがキョトンとする。少し考えているのだろう。人語も解し、そしてモンスターよりも多分賢い妖怪。
たぬきちさんはアズリたんを指差す。
俺は顔を横に振ってみる。
少し泣きそうな顔をして自分に指を刺すので俺は頷いた。
「ま、魔王とは道満様も言っていた異次元より来れり魔物と共に戦った魑魅魍魎達の首領……クロネコと同等以上の力を持っていたというそれが……このような無邪気な……いいや有邪気なおなごだというのか? 信じられません……このたぬきちの力が及ばないとは……」
まぁ、アズリたんに勝てる可能性があるのは単独では、王がついてる連中だけだろう。そしてクロネコとやらは、名前だけは可愛らしいのに、そんなに凄いのか?
「クハハハハ! もう終わりか? たぬきちよ! 貴様のそのふわふわの大きな手で包まれるのは中々に心地よかったぞ! しかし、余の城にあるベットの柔らかさには劣るがな! クハハハ! 貴様が余の家来になった暁には余の抱き枕になる事を許してやろう! 悪くないであろう?」
アズリたんの容赦なき口撃。遠回しに雑魚扱いされるたぬきちさん。
流石にこの言葉にはたぬきちさんも涙目だ。
もう完全に戦意喪失し姿も元に戻る。
「……ま、まだ道満様には私より強い家来がいるんだからねっ!」
最低限のアズリたんへの対抗なんだろうが、アズリたんに抱きつかれ、たぬきちさんの精神はもうズタボロだろう。可哀想に……
アズリたんにびっくりするくらい懐かれたたぬきちさん。
多分、遊園地の着ぐるみとかが子供に好かれる感じに似ているのだろう。そして本気で連れて帰るつもりだ。
どうしたものか……。
たぬきちさんは心が折れたのか、俺たちをどんどん先へと案内してくれる。お願いもしてないけどな。
一体、どこへいくのかは分からんが。
これが罠とかに嵌めるつもりだったとしても、相手はアズリたんである。その罠すらアトラクションとして楽しむだろう。
本当の意味での招かざれぬ客がやってきてしまった時、人間でも妖怪でもやる事は屈服しかないという事を目の当たりにした。
たぬきちさんにとって一つだけ救いがあるとすれば、この異次元の力が自分に牙を向く事が今のところない事だろう。
「……次の部屋には……いたちおがいる」
きっとたぬきちさんがたぬきなんでいたちおさんはイタチなんだろう。
少しばかり恐ろしそうな顔をしている。
きっとたぬきちさんの先ほどの虚勢。
あれは嘘ではないのだろう。蘆屋道満の使役する妖怪の中で、たぬきちさんよりも上位の妖怪がきっといたちおさんなんだろう。分かりやすいな。
でも多分だが、とてもじゃないがアズリたんは手に負えんだろう。
…………だって、そんな顔をしているものたぬきちさん。
ガルンが、トテトテとたぬきちさんの横まで歩くと柿を差し出した。
「これ、美味いのだ! たぬきちも食べるといいのだ! 君はきっと僕と同じ系列の魔物なのだな! 僕はコポルト・ガールなのだ!」
同族のよしみという事で情けをかけられる。
昔の日本の精神は、情けをかけられる程の方がよっぽど酷なのである。
ブワッと涙が再燃するたぬきちさん。
アズリたんがいるので、アステマすら、調子に乗ってたぬきちさんの耳とか尻尾とかを触って楽しむ。
やめたげてよー! 初めて海外からの転校生が来た時、大体こんな感じでちやほやされるんだよな。
そして、あきられるのも光の速さなのである。びっくりするくらいモン娘達の容赦なさに俺は注意しようと思ったが、
凛子ちゃん、お前もか! いや、確かにたぬき可愛いよ。それもたぬきちさんも美少女だと思うよ。
完全に罠に引っかかって怯えているムジナでしかないたぬきちさん、まぁもう俺が助けられる余地はなさそうなので合掌。
そして俺たちが進んだ先に、新しい襖が見える。
そこをたぬきちさんが開く。
俺たちがそこで出会った存在。
稲穂とかを刈る鎌を持った、真っ白なロングヘアの美女であった。かまいたちかな? きっとこの妖怪らしき人がいたちおさんなんだろう。
俺たちを舐め回すように見つめるいたちおさん。
そして、たぬきちさんを見下したような顔で笑う。
この人は、たぬきちさんよりも残虐そうだ。いたちはウサギ小屋のウサギとかなぶるもんな。
いたちおさんが言葉を発した。
「たぬきちや、これはどういう? 道満様の屋敷に穢れを入れたな?」
それにたぬきちさんは、懇願したように言う。
「いたちお、魔王。この童のような者は道満様がおっしゃっていた魔王です」
たぬきちさんの言葉にいたちおさんは爆笑。
「何をよ迷い事を、道満様の屋敷に穢れを入れた言い訳がそれかえ?」
それにたぬきちさんは、
「違う! この者は私の力も、たぬき寝入りも全く通用せなんだのです。クロネコ、クロネコでなければ……ここがなくなってしまう。いたちの!」
そう、全部事実なのですが、どうやらいたちおさんは信じる気が全くないらしい。
………………友達の言う事は信じた方がいいよ。
流石にアズリたんを初見で見て危険視は無理か。
まぁ、身を持って知ればいいよ。
いたちおさんはアズリたんだけでなく、俺たち全員を見下したような目で見てあくびをする。そしていちじくだろうか?
それを一房とると口を開けて食べてみせる。あぁ、やめときなさいよ…………。
ウチのモン娘、ガルンが、そしてアズリたんが涎を垂らした。
そして恐れを知らぬアズリたんがテクテクといたちおさんに近づく。
その様子にいたちおさんが不快感を示したのだろう。手に持った鎌を投げつけた。
その鎌は一体どうなったでしょうか? 簡単ですね! アズリたんの髪の毛に当たって粉々に砕けましたとさ!
どうなってんだよアズリたん……。
今朝は凛子ちゃんに櫛でといてもらってよな?
「ほぅ……でーもんという連中か、それもかなりの手練れ、たぬきちのヌケサクが遅れをとるのも頷ける。が、約定忘れたか? 道満様と争わないと、違える気か?」
「クハハハハ! 余はデーモンではない! 余は南の魔王アズリタンである! 苦しゅうない! 貴様も中々おもしろそうだ! 余の家来にしてやろう」
そう、この妖怪連中のプライド、道満の家来…………
「抜かしたな小娘」
あぁ、やめておきなさいいたちおさん。
…………いたちおさんはきっと魔法的な? 妖力的な物が溢れる。
……不敵に嗤う。
そしてこう言うんだろう。
「……この妖力を見て慄いたか? でももう遅いからな? この道満様の第一の家来、いたちお」
どいつもこいつも第一の家来を名乗るというのがなんだかなぁ。
いたちおさん、彼女は一対多をするつもりで少し距離をとっている。未知の脅威であるハズのアズリたんを怖れないのは自信の現れだろう。
全員の力を押し測ろうとしているいたちおさん。
鎌はその為の道具でもあったらしい。
ガルンとエメスは凛子ちゃんを守る名目でアズリたんの後ろで構えている。アステマさんは……
アズリたんからたぬきちさんを引き渡され、それを捕まえていた。
多分、今のアステマよりももしかすると強いかもしれないいたちおさん……アステマがヘタレなだけかも……。
「……ふっ、数が多くないと叩けないか? とんだ腰抜け共め、このいたちおがまとめて始末してくれよう。そしてたぬきち、あとで折檻ね」
「クハハハ! いたちお、貴様! たぬきちを折檻する事は余が許さぬ。貴様は大きくはなれぬのか! 見せてみよ!」
アズリたんに名前を呼ばれ不快感を示すいたちおさん。
「あまり話してくれるな……耳障りだ」
そう言っていたちおさんは旋風?
いや、それに鎌の刃の部分だけを乗せた物を投げた。
あれは普通に危ない奴だ。
まぁ、ありがたい事にそれは全てアズリたんに向かっていく。
いたちおさんの小手調らしい。この魔法? 妖術? 謎の攻撃をアズリたんは……無視。
スコンと頭やら体に当たり、落ちた。
そう。枯れ葉が当たって落ちたくらいの感覚でアズリたんはやっぱり無傷のままだった。
……さて、いたちおさんは?
唖然としていた。俺たちはゆっくりと後ろに下がるように指示。狙いをアズリたんじゃなくて俺たちに変えられたらたまったもんじゃない……。
しかし、その考えは稀有に終わったのである……。
いたちおさんは、アズリたんに憎悪したのである……。
きっと、自分の攻撃で思ったようなダメージを通す事が出来なかった事がプライドを傷つけた。
妖怪であるいたちおさんは、周囲に不気味な幽霊のような物を出現させる。
それは、能面の般若のような鬼や髑髏のような何か。
かなり苦しそうな顔をして飛び回っている。
それらを集合させて巨大な化け物を生み出した。
俺のアプリが何度も先ほどから危険信号を出している………!
確かにいたちおさんが言う通り、たぬきちさんよりもかなり力を持った妖怪なんだろう。
アズリたん大丈夫か?
「もう知らん。戦で死した者達の無念、憎悪のそれらを集合させた、大怨霊。これを持ってして、永劫の呪いを持って朽ちていくがいい…………!」
呻き声、生きている者への恨みつらみ。
凄く怖い、凛子ちゃん大丈夫かな?
ガルンとエメスは真顔で……
アステマ、なんでお前がビビる。
「ちょ、たぬきち、アンタの友達でしょ? なんとかしなさいよ! アレ!」
そうは言うもたぬきちさんに抱きつき、離れないアステマ。
「で、できるわけなかろう! 私は仁級妖魔で、いたちおは壱級妖魔なんだぞ」
妖怪的な者にもランクがあるんだな。
「さぁ、怨霊大集合。お前達が喰らうための贄を用意した。……存分に喰らい、辱め、呪いの限りを尽くすがいい。泣き叫び死ねぇ! オンキリキリ・ウンバッサ……」
よく聞く呪文のヤツだ。
怨霊集合体はアズリたんを飲み込む。
「クク……。クハハハ……。こしょばい! クハハハ! これは面白い!」
なんだか叫びではなく、笑い声が響く。
アズリたんは怨霊集合体に包まれながらも、楽しいらしくそのまま両手を突き出す。
……子供が着ぐるみに走るヤツだ。
アズリたんはいたちおさんのこの攻撃をアトラクションと認識した。
「……なんなの。この子供、怨霊集合体が……心なしか、穏やかに、なぜ? 何故……調伏したとでもいうの?」
俺にはモンスターと妖怪に関しての区別はつかないのではあるが、
……怨霊集合体が闇の存在であるのであればと仮定すれば。
その闇の頂点にいるアズリたんを前にすればこうなるだろう。
「……これは面白かったが、もう飽きたな! いたちおよ。他はないのか? もっと面白いヤツだ! クハハ、これはもう良い」
そう言って、自分の周りにまとわりつく怨霊集合体をアズリたんは片手の中に集めるとゴミを捨てるように消し去った。
その状況であるが、それを見たいたちおさん。
「えぇえええええええ!」
どうやらあり得なかったらしい。そして後ずさりながら言った。
「ま、まだこの奥にはきつねのがいる、いるんだから!」
「まだおるのか! 案内せい! そやつも余の家来だ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
俺たちがいたちおさん達に案内される先、そこでは巫女装束に身を包んだきつねの少女……とみまごう少年。
印を組み目の前にある何かの封印を施している。
「道満様の言いつけを守れず、たぬきちといたちおは敵に調伏されたらしい。なぁクロネコ……君ならどうする?」
巨大な岩を前にして独り言を語るきつねの少年。
「君が、誰よりも優しい妖魔だった君が、究極呪印生物となってしまってどれだけ経つ? 僕は君が嫌いだ。三つの呪印しか与えら得なかった僕と違い、君は無数の呪印を持つ」
狐の少年は自分の言葉に酔う。
そして……
「ここに本当に魔法少女がやってくるのか? 道満様が追い求めて、未だ探している魔法少女……誠だろうな? せりゅうとやら」
「えぇ、ええ! えぇ! 事実ですとも、偉大なる陰陽術師の従者たる式妖であり魔法呪印生物きつねの様。ここにやってきますよ。道満法師が異世界から襲来した魔物と戦う為に泣く泣く生み出したという大いなる問題式妖。究極呪印生物クロネコ……それを奪いに」
狐の少年の顔が獣のように変わる。
「………………許すまじ」
両手の甲と額に陰陽術ではない魔法のルーンが浮かび上がる。
……そして陰陽術の印。
ふさ、ふさぁと狐の尾が増えていく、
「あなた様のお力でも……南の魔王アズリタンは手に負えないかと思いますよ。差し出がましい申し出ですが、別の者を狙ってみては?」
ニヤリと笑うセリュー・アナスタシア…...。
ゆっくりと、道満の館から去っていく。
きつねのは、大量の札を用意する。そして目の前の大きな岩をただ真顔で見つめる。
何重にもしめ縄がなされたその大岩、そこに封印されている魔法呪印生物クロネコ。
蘆屋道満の切り札として謳われた最強の式妖。かつて魔王と呼ばれた者と同等の力を持ったというそのクロネコ。
今、ここに向かってきている者もまた魔王。即ち、それに打ち勝つことができたのであらば、きつねのはクロネコに勝ったという証拠。
今まで感じていた劣等感の全てが焼却できる機会。
きつねのは、数々の罠をあえて使うことなく、侵入者達をこの最後の間へと誘導していた。
今日という日をどれだけ待ち望んでいたか。
きつねのは、侵入者に感謝すら覚えていた。
愛すべき、主人である陰陽術師、その壱の家来であるという証明、きつねのが持てる全ての力を使う決意をする。
「……クロネコ、よもや、僕が魔王とやらに打ち勝てば、君は永遠の二番という事でいいよな? 僕の方が術が優れていたのに、魔法とかいう邪法には君の方が向いていた」
陰陽に匹敵するこの世界の力、魔法と呼ばれた謎の力。
「僕は魔法なんて意味不明な物は認めない。君が無数に使えて、僕が三つしか刻むことができなかったのも認めない。絶対は僕だ! 一番は僕だ! 僕が最初に道満様の家来になったんだ。パッと出の君なんかには一番は譲らない。僕が究極の呪印生物なんだ」
印を組むと、大きな水晶の中に侵入者たちの姿を映し出す。こんな術が使えるのもきつねのだけである。
この力を手に入れるのにどれだけ修行をしたのか……
それを瞬きの間に手に入れる魔法。
そんな物、きつねのは認める事はできなかった。
魔法という力に魅了される道満を認めたくなかった。
「きっと……道満様は僕がした事をお許しになってくれる」
“クロネコの封破るべからず“
道満の直筆で書かれた文字に頬擦りするきつねの。
自分が最も尊敬する唯一の陰陽術師。
「超力将来、剛力将来。いかに魔王だろうとなんだろうと……憤怒の神を前には手も足もでまい。敵に捕まり調伏されたたぬきちといたちおは後で処刑するとして、僕の僕すらも知らない自分の力の彼方、魔王とやらならば、見せてくれるのかな? 道満様、あなたの第一の家来、きつねのが、魔王とやらの首、差し出して見せますので……」
その言葉、目の前の大きな岩に小さな傷をつけた。
「クロネコ……動きたいかい? 暴れたいかい? でもダメ……。君は永遠にそこで固くなっていればいい……魔法少女なんて……いるはずがないんだから」
再び強力な結界術を使って大岩に封印を施すきつねの、その瞬間だけ優越感に浸れるようで口元が緩む。
「あの背の高い、女がきっと魔王だろう。澄ました顔、余裕ぶった態度、どう考えても他とは違う。というか他は殆ど子供じゃないか、それもおなごしかいない。あんな連中に遅れをとっただなんて、たぬきちもいたちおも、やっぱりいらないじゃないか……」
魔王と思わしき長身の女性を見つめ、歯軋りをする。
どれだけの力を最初は出そうかときつねのは不敵に笑う。
「ここが、貴様らの最後の獣の仲間がおる場所だな!」
そういう声とともに開かれる。きつねのは酒を盃に入れ、そして頬杖をつきながら長身の魔物を上目遣いに見た。
「魔王殿、よぅきなさったなぁ!」




