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魔法呪印生物と、その生態について

「アステマぁー、戻ってこーい! おーいアステマさーん!」

 

 俺たちはバンデモニウムの暗黒寺院のてっぺんで体育座りしているアステマを呼ぶ。

 

「クハハハハ! 死天使とは珍しい!」

 

 暗黒寺院には当然俺たちとオバキルさんにフリーゼさんも来ていた。

 死天使というモンスターはかなりレアな災害級モンスターであり、数十年に一回突然現れるとかなんとか……

 

「……魔物のランクとしては、デーモンジェネラルさん達と、トントンと」

 

 


 俺の言葉を聞いてフリーゼさんが、


「ふふふ、死天使とは人間の錬金術師、ドウマン・アシヤが生み出した魔法呪印生物ですからね…………、私たち至高の存在たるデーモン種を前にすれば対したことはありませんよ」

「ハッハッハ! 以前も何匹か湧いた事があったが即殺してやった。しかし、一匹いると三十匹いるのが魔法呪印生物と言われている。ハッハッハ!」

 

 オバキルさんがトドメを刺しにきた。

 そんな台所の黒い悪魔みたいな扱い。


 

「我理解せり、アステマに何者かが、魔法呪印を施し、天変地異を起こそうとしたり! が、それは愚かな対人間用程度の役割しかないと見たり、さらにここにはアズリたん様も顕現せり」

「アステマ強くなったのだ! この町の普通の人くらいになって凄いのだ! スネなくてもボクらは感心しているのだ! 降りてくるのだ!」


 もうやめてやれよお前達。

 まぁ、要するにアステマ、拗ねている。

 

 超進化を遂げたけど、バンデモニウムの一般人くらいなわけで、

 

「アステマさーん! お前すげぇよ! いやほんと、ここじゃなかったらどうしたらいいかわかんねーもん。降りてきて飯にしよう」

「……主、頭の中で私に語りかけてくる声がいるの! 全てを壊せ、全てを殺害しろって……」

 

 なんか、アステマ、それっぽい事になっている。昔ハマった異様に難しいロープレのラスボスがヒロインだった事を思い出す。

 

 だが、現実はアステマである。

 

「あ、主……。私……言ってやったのよ! 頭の中で語りかけてくる声に、この程度の力じゃこの街の人たちに絶対に勝てないから、もっと強力な力を頂戴よって……!」

「お、おう……さすがアステマさん。欲しがりだな。で? その頭の中の声の方はなんて?」

「語りかけてこなくなったわ。もうどうしたらいいか分からないの!」


 うわっ……その自分の意思に反した何かという本来危険な奴にドン引きされてるよ。

 さすがアステマ。

 

「そうか……とりあえずアステマ、とにかく降りて来いって……恥いのはわかるけど」

「嫌っ……だって今、私は主の……ううん。イヌガミマオマオのユニオンにいないのよ! 私だけ、主の……ううんイヌガミマオマオのユニオンスキルの恩恵受けられないのよ」

 

 もう主なら主、イヌガミマオマオならイヌガミマオマオでいいじゃん。

 元々面倒臭い奴なのに尚面倒だなお前さんは。

 要するに、のけもんになったと勝手に思ってるのか……女子か! 女子だ。


「お前が勝手にユニオン抜けた事になってても俺はお前をユニオンから追い出した覚えはないし抜けられても困るよ」


 アステマのアホ毛が二本ピンと立った。ランクが上がるとアホ毛の本数も増えるのか、アホっぽいな。

 

「それに病気かもしれないだろ? とりあえず治す為に戻っておいで」


 きっと、地雷系女子の彼氏や父親ってこんな気持ちなんだろうな。

 ……あぁ、面倒臭すぎて殺意しか湧かない……と思ってたんだけど、普通に相手をすると精神すり減りそうなのでなんも考えなくなっていた。

 そしたらおのずと言葉が優しくなってきて、アステマの反応が良くなる。

 

「俺たちにはアステマが必要なんだって、お前の自信に溢れる発言や態度には何度となく元気をもらったような気がしなくもないよ」

「……ほんと? 主……ほんと?」

 

 ううん、半分は本当。お前が自信過剰を拗らすたんびに俺は何度となくぶん殴りたい気持ちになってきたけど、きっとガルンやエメス。お前のマブダチは元気をもらっていたかもしれないからギリセーフかな?

 そしてここにきてアズリたんが前に出た。

 やめて! いらん事言うなよ!

 

「クハハハ! アステマよ! そんな事で拗ねておったのか! 余の名を呼ぶ許しは消えておらぬだろ! 故に貴様と余達のゆかりは消えておらぬぞ!」

「……あ、あじゅりたんさまあぁああ!」

 

 パタパタと羽を動かしてアステマは降りてきた。そしてアズリたんに抱きついて泣く。よほど恥ずかしかったのと疎外感があったのだろう。しかし、アズリたん、アホだけど魔王だな。

 

 凛子ちゃんとも抱き合い、ガルンとも抱き合う。

 エメスには頭を撫でてもらっている。

 そして俺をみる。

 アステマは俯きながらゆっくりとやってくる。死天使の天使みたいな灰色の翼が申し訳ないがアホっぽさを助長させる。

 

 そしてアステマは手を広げる……


「主……戻ってきたわよ……。今は、主のユニオンから外れているけど。主呼びしてあげるんだから喜びなさいよ! ほら……」


 えっ? なんなん? ハグしたら仲間になるルールが魔物にはあるのか。

 しかし……アステマも見た目10代くらいの女の子なわけで、それとハグは少し恥ずかしい。

 が、しないとまたヘソを曲げるので、するか! 

 俺も今、美少女だし。

 

「よく戻ってきたアステマ……。とりあえずその呪印生物とか言うのをお前から取り除く方法を考えるような……よしよし」


 チラリと寺院のガラスに映る俺とアステマの姿。

 美少女俺と、見た目は美少女のアステマだからまぁ映えるわけだが、本来の俺だった場合即死レベルの黒歴史になるな。

 そして空気を読まないアプリが起動した。

 

“魔法呪印生物との融合を遂げた死天使アステマと主従関係が生まれました。これより死天使アステマは犬神猫々様のファミリアとなりました。これにより、犬神猫々様は即死耐性が付与されます。死天使アステマにニックネームをつけますか?“

 

 仲間じゃなくてペット的な扱いなんだ……。


「……主、どうして私を捨てられた動物の子供を見るような目で見るのかしら? ……やめなさいよ! その目をやめて! なんだか居た堪れないじゃない!」

「おぉ、居た堪れないなんて言葉を覚えたんだな。どうせ、クズ原さんのろくでもない本からだろうけど。よし、じゃあまずはアステマのその呪印とやらの解除を調べるか」

 

 俺の言葉を聞いて、オバキルさんが教えてくれた。

 

「……魔法呪印生物が沸いているところならばいくつか知っているぞ! あやつら潰しても潰しても絶滅せぬからな」

「オバキル! 私を台所に出る黒い醜悪な生物と同じにしないで! 魔力も戦闘力もないのに、スラちゃんを気絶させる恐るべき原生生物なのよ! あの現生生物、殺したのに次の日死骸が消えてるの……アンデット能力も持ってるかもしれないのよ!」

 

 いや、あいつら共食いするんだよ……。


「その魔法呪印生物ってモンスターとはまた違うんですよね? ホムンクルスと同じと考えていいのでしょうか?」

「我らも最初こそそう思っておったが、どうやら違うらしい……」

「マオマオ様ぁ、ホムンクルスとの違いは……存在する生物や魔物に特殊な力を持たせた存在だからよぉ」

 

 フリーゼさんが、簡単にイラストを模して教えてくれたのだが、フリーゼさん、びっくりするくらいイラストド下手だ!

 デーモンでもいるんだなぁ。

 



 ……気になりすぎて頭に入らない。

 要するに、無から生命を生み出すゴーレムの有機生命版がホムンクルス。

 

「……と言う事はモンスターとかになんらかの力を付与、あるいは寄生させたのが魔法呪印生物と?」

「そうねぇ……こればかりは私たちデーモンにも分からないのだけれど、とてつもない力を持ったドウマン・アシヤ。かの者はかつてこの世界全ての者が力を合わせて追い返した異世界からの魔物との戦いにも魔法呪印生物クロネコを連れて参戦しているのぉ! そこで私たちデーモンを見て、私たちよりも強い呪印生物を作ることを目標にここより離れた先にクラフトを作っていたわ」

 

 蘆屋道満だよな? 日本最強の陰陽術師の一人……

 

「と言うことは、デーモンの皆さんよりその魔法呪印生物は弱いと言う事なんですかね? 異世界の魔物襲来時点でのお話なんですけど」

「我らデーモンより強力な存在などいはしない! が……」

「……オバキルの言う通りよぉ! ドウマン・アシヤが連れていた従者の呪印生物達はよくでアークデーモン程度の力しかなかったのぉ。ただし、クロネコは別格だったわぁ! まだ未完成でありながら、シズネ・クロガネの最強ゴーレムと同等以上の出力を持ち、魔法力だけなら、アズリたん様の先代。アズリエル様や当時の精霊王に匹敵する程だったわねぇ」

 

 そんなヤベェのが未完成、そしてその話誰も知らないぞ。

 

「そんな強力な力を持っていたんだったら、王の一人として名乗りを上げてもよかったんじゃねーの? それはどうなったんだ?」

「暴走した」

「……そう、ドウマン・アシヤはどうしてもシズネ・クロガネに追いつきたかったようで、クロネコの強化を戦闘能力特化として自我も何もない状態で、ドウマン・アシヤのホウリキとかいう特殊な魔法力で従わせていたのね。いわば木偶だったのよ……ドウマン・アシヤの管理下から離れたクロネコは大いに暴れたわ。そしてマホウ・ショウジョというウィザードに封印されたの」

「……えっ? なにその話、それマジで言ってるんですか?」

 

 俺は魔法少女というワードに食いついた。

 

「私が嘘をつくと思いますかぁ? マオマオ様ぁ。マホウ・ショウジョは王種と並ぶ魔法力を持つ人間の域を遥かに超えし者。私たちをきっと根絶やす事を考えてますわねぇ!」

「フフ、我らデーモン種の怨敵になり得るだろうな……ふっ、望む所だ。我ら闇の眷属に対してあやつは光の創造主の加護を得ている、滅ぶか、滅ぼすか……面白い!」


 要するに勝手にデーモンさん達は魔法少女にライバル視しているわけだ。

 

 そして、呪印生物の事全く興味ないのな。ほら、アステマさん話題にもならないので泣きそう。


 


「まぁ大体話は分かりましたよ。きっとアステマの首飾りはその魔法呪印生物を作る為の道具なんだろう。確か……セリュー、道具屋から宝玉買ったとか嘘ついてたけど、半分は本当なんだろうな……」


 嘘という物は事実を織り交ぜて話すことで信憑性が上がる。

 セリューの考えなんて俺には分からないけど。

 

 セリューはあらゆる局面において常に先を考えて行動しているんだろう。アステマに渡したこの首飾りもその布石の一つだった。まぁ、俺たちがバンデモニウムにいた事は誤算だったろうが……


「ドウマン・アシヤのクラフト。先行きし者達の館。あそこにはデーモンジェネシス級の魔法呪印生物がいるわよぉ……でも今回は力を貸せないのぉ」

「我々は、ドウマン・アシヤと不戦の約定を交わしておる。バンデモニウム建造に力を借りた故な」

「まぁ……至高の私たちはいないけれどぉ……アズリタン様がいるわねぇ」

 

 ……そうなんですぅ! 魔王がパーティーに今いるんです。

 呪印生物。デーモンジェネル級、本来絶望を覚える危険度。

 出会わないようにただ祈るだけの相手なのだが、

 今や、魔物達の王様が俺たちにはついているので観光くらいの気持ちだ。

 

 今からやるべき事は決まった。

 蘆屋道満の工房、正直な話であるが、俺も男の子だ。

 まぁ、今は美少女なわけだけど?

 

 やはり、陰陽術とかそういうのは胸踊るわけじゃん? 人型とか投げて式神とか使うんかな? 結界術とか使って化生撃滅とかカッケェよな。

 一体何故日本の陰陽術師が異世界に?

 確か蘆屋道満って安倍晴明と戦って式比べに負けるんだよな。



 もしかして、安倍晴明に敗れ非業の死を遂げた道満はこの世界に?


 俺がそんな事を考えているとフリーゼさんがクソ下手くそな絵で道満の工房への地図を書いてくれているけど、全然分からんな。

 フリーゼさん達の話によると、道満の下僕は三匹いるらしい。呪印生物とやらはもしかして、式神の事なのか?


 

 ……アステマがファミリア……あっ! 式神か、マジイラねぇな。



「クハハハ! 話には聞いておる! 王種でもないのに、同等の力を持つ人の作りし魔獣クロネコ。余が欲しいぞ!」


 ペットを探しに行こうってか、この前の森のコカトリスといい。アズリたんはろくに世話もしないのにペット欲しがる子みたいだな。

 まぁでもクロネコはヤベェみたいだからアズリたんに任せよう。


 

「アズリタンちゃん、ちゃんと自分一人でお世話できるの? 生き物を飼うってすごく大変だよ? 餌だって与えないと行けないし、おトイレの世話や散歩もしないt行けないし、時には病気になったりもするんだよ? そういうのを全部投げ出さずにちゃんとできる? もう一度考えてみて?」


 おや? 凛子ちゃんがまさかのアズリたんにペットを飼う難しさを説いている。

 まぁペットというか、すげぇヤバい奴なんだろうけどな。

 

「クハハ! 凛子! 安心するがいい! 余には多くの家来がいるのだぞっ! そ奴らがちゃんとクロネコの世話をするだろう! 餌もトイレも病気もそ奴らがしっかりと見るに違いない! 特にシレイヌスは余の……シレイヌスは、あやつは今どうかしておるからな! だがいつもは余の言う事を一番にしてくれるのだ」

 

 凛子ちゃんはアズリたんが動揺しているのに気づきながら黙って聞いていた。アズリたんは自分のワガママを誰よりも聞いてくれていたシレイヌスさんにクーデターを起こされている。

 それから逃げてここにやってきた事、シレイヌスさんは多分もうアズリたんのいう事は聞かないであろう事。

 

「余は……クハハハハ、余はどうすればいい?」


 普通のJ Kでしかない凛子ちゃんがその言葉を持ち合わせているわけはない。

 だが、凛子ちゃんは俺よりも遥かに大人だった。


「アズリタンちゃん。誰かに任せちゃだめだよ。自分一人でできないなら生き物は飼っちゃだめ! そうじゃないと、そのクロネコさんもアズリタンちゃんもどっちにとってもよくないからね? それでも飼えそう?」

「分からぬ! 余は欲しいものは手に入れるし、今までそうやってきたのだ! クハハ、だから分からぬ!」


 アズリたんにとっては本当に分からない事態なんだろうな。



「……まぁ要するにアズリたん、お前はペットは飼っちゃダメ」

「マオマオ! 何を言っておる! 余は欲しいぞ! 魔王である以上は家来の多さが大事であると皆言っておった! それに精霊王のところも家来が多いではないか! 余はあやつには負けるわけにはいかぬからな! クハハハハ! だから凛子、そしてマオマオよ! 否だ! 余は飼う」


 お、おう……。

 駄々をこねるわけでもなく自己完結しやがった。

 さすがは魔王だな。仁王立ちをして高笑いを上げるアズリたんを誰も止められはしないだろう。



「ちょ! ちょっとアンタ達。アズリたん様の家来を手に入れに行くんじゃなくて、私のこの姿を戻しにいくの! アズリたん様の家来を手に入れに行くのはついでなんだからね? べ、別に私は死天使とかいう今の状態でも別にいいんだけど! でも私以外の力でクラスチェンジしているのが気に入らないから? それに私がユニオン抜けするとあ、主が悲しむじゃない? だから、そのドウマン・アシヤ? とかいう奴にカチコミに行くのよ! ふふん地獄を拵えるわ」

 

 まぁ、俺はアステマが抜けても悲しみはしない。

 でもそう言ったらアステマが悲しむので言わない。

 ……カチコミに行けるのはお前さんが超パワーアップとアズリたんがいるから、調子に乗れるわけで、元に戻ればお前さんは三階級以上降格になる事を忘れるな。

 

 

「まぁ、色々全く決まらないカオスな感じだけど……。俺たちはいつもこんな感じだしな。今回はウチのガルンとエメスに全力の補助をかける。アズリたんとアステマは凛子ちゃんを全力で守ってくれよ。なんなら蘆屋道満の工房でシレイヌスさんに対抗できる力やら……そのアズリたんがペットにしたいというクロネコが仲間になってくれるならそれはそれでアリだしな。バンデモニウムの人々と同じレベルの呪印生物がいるって事だから、マジで気をつけるんだぞ! 本来こんなところ俺たちのレベルでくる場所じゃねぇからな」

 

 デーモンさん達がいかに危険な魔物かを俺が語るので、お見送りのデーモンさん達嬉しそうだ。


 

「ま、マオマオ様! これ……俺たちから! 出店で作った料理を工夫したものと、最高の素材で作った装備を入れてます! アズリたん様と、ガルンたんの分もあります!」

 

 なんだろう……デーモンさんは大体美形。

 その中でもやっぱりいるんだろう。メンデルの法則、劣勢形質を持った……チー牛みたいなデーモンさん。

 不思議な事にこいつら、俺やガルンやアズリたんにやたらと優しい。美形で言えばエメスとアステマだが見飽きているんだろう。どちらかと言えばろりキュンな感じか好きなわけか……。


 とか俺が不敬な事を考えてそれを受け取る。

 こーいう連中は俺の世界でもそうだが、妙に凝るから飯も超美味くてその装備とやらも凄い事この上なし。


「……あのぉ……。僕ら……、魔法の方もかなり研究しているので……。本来であれば一緒に助けてあげれれば……でもドウマン・アシヤ氏とは鉄血の掟で争うことができないので……。せめてもと思って、夜なべして作ったのでどうしても危険だ! という時になったら使ってください。バンデモニウムの資料館で見つけた魔装というかつて超魔道士が攻めてきた時に先祖のデーモン達が生み出した超兵器です。きっとお役に立てるハズです! なんせ、マオマオ様! あの超魔導士に対抗できたんですゾォ!」

 

 近い近い! こういう人、自分の話になると凄い出てくるよな。

 あと、たまに出てくる超魔導士って誰? 

 とりあえずデーモン滅ぼせそうなヤバい奴から助かった武器なんだよな?


「あ、ありがたくいただきますね! えっと、皆さんありがとうございます!」

 

「フォオオオオ! マオマオ様からありがとうございます頂きましたぁ! 敬礼! 皆の衆敬礼! 我々デーモンジェネラルをゆくゆくは率いてくださる魔女っ子……即ち魔法少女のマオマオ様へ! 万歳三唱を送らせていただきます! ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい!」


 いやぁ……ハハッ、おもしれぇなこの人達……。

 

 と思うのは俺は元は男だから、他女子達はかなり痛い目で見ていらっしゃる。

 アズリたんが……


「クハハハ! 気持ち悪い奴らだな! 貴様ら!」

 

 し、辛辣だなぁ。

 

 アステマさん、あからさまに気持ち悪いという態度を出すのやめなさい! 男の子はグラスハートなのよ!





「じゃあ気を取り直して、蘆屋道満の工房へ出発!」

 非常食と秘密兵器は俺が運ぶ事にした。

 今日はタダでさえ大食らいが一人多いのだ。


「クハハハハ! 腹が減ったぞ! おやつはまだか? マオマオ、先ほど何か渡されておったよの?」


 アズリたんとガルンには長く噛んでいられるような硬い干し肉を与えていたはずだったが……。

 ガルンは恐るべき牙があるから分かるとして、アズリたんお前のアゴは一体何でできているんだ?

 バリバリと、お煎餅でも齧るように石みたいな硬さの干し肉を平気で腹におさめていき食べ終えたらしい。


 ……アズリたんは俺の前にきて両手をこっちに向ける。この小さな手に何か食べ物を乗せろという事なんだろう。

 絵面はクソ可愛いんだ。これは間違いない。

 でもこのアズリたんがどんな奴かを考えると少しばかり閉口する。

 

「アズリたん。まだ先は長いんだ。そもそもこれはオヤツじゃなくて非常食と弁当だって、今食べたらみんながお弁当を食べる時、お前さんの分だけないぞ? 泣いても誰も分けてくれないからな? それでもいいのか?」

 

 ……さてどう出る?


 俺の言葉を聞いて、アズリたんは少し考えたんだろう。楽しそうに弁当を食っている俺たちと指を咥えているアズリたん。


「クハハハ! では今から皆で食えばよいではないか! 余は賢いであろう? 二桁の計算ですら容易いからな! クハハハハ!」

「おぅ……そりゃすげぇ計算だな。という事でダメだ我慢しろ!」

 

 アズリたんがぶーたれるがガルンが何かを見つけたらしい。

 この中で一番鼻が効くガルンの様子からして何か美味しい物の匂いを嗅ぎつけたに違いない。

 するとガルンが匂いにつられて走り出した。俺たちはガルンを見失わないようにエメスにアイコンタクト。

 エメスは卑猥な事を口パクで言った後にガルンを追いかける。

 

 ……普通に行動できないんだろうか?

 

「ご主人! ……凄いのだぁ! ご主人! 赤い実が沢山なのだ! 僕も見たことがない物なのだ! 美味いのだ! 美味いのだぁ! この実、もって! 持ってかえりゅうううう! うまいうまい! あっ! うわぁあああ! 落ちたのだ! 木から落ちたのだぁ! 痛いのだぁ! 痛いのだ、うまいのダァ! あの木にある赤い実が全部欲しいのだぁ! もう一度木に登るのだ!」

 

 何度かそんな声を聞き、ドスンと木から落ちる音も何度か聞いた。


 

「なんか分からんけど、ガルン大丈夫か? 何して遊んでんだ?」


 俺たちがガルン達に追いついた時、ガルンは俺と凛子ちゃんがよく知る果物を食べていた。

 赤い実だと言っていたので俺はリンゴ的な何かかと思っていたのだが、俺の知りうる限り日本でしか殆ど見られない果物をガルンは齧っていた。

 猿というより犬であるガルンが何度も木から落ちる。その木に成っている実は紛れもない柿だった。

 果物と見るや否や、アズリたんとアステマも駆け寄っていく。

 

 こいつらの食い意地は底知れないな。

 そしてこの柿、自生しているというより、多分。

 

 蘆屋道満が植えたんじゃないだろうか? どういう経緯かは分からないが。

 

「……このあたり、なんか雰囲気が少しバンデモニウム周辺と違う感じだ。お前達気をつけろ! 何が出てくるか分からないぞ! 凛子ちゃん、アズリたんとアステマの近くに」


 俺の緊張感を無視してみんな柿をむしゃむしゃ。 

 俺はしばらく周囲から何か出てこないかキョロキョロしていたが、一心不乱に柿を食べる女子達を見て、なんだか馬鹿馬鹿しく思えてきた。というかそんなに美味しいの? その柿。

 

 何度も木から落ちて泥だらけのガルンが俺に柿を持ってくる。


「ご主人も食べるのだ! 一個食べるだけで僕は元気一杯なのだ! ご主人にも食べてほしいのだ! ほら! 僕が食べさせてあげるのだ!」


 めちゃくちゃぐいぐい押し付けてくる物だから俺もパクリと一口食べてみた。これは…… 

 めちゃくちゃ美味いというか体力回復してる。



「完全に柿にしか見えないが、これポーションの役割があるな!」


 凛子ちゃんも喉を潤している感じだが、他四人はガシュガシュと食い続けている。そうだった。

 ポーションは依存しやすいんだったか。


「はいはい、その辺で終了。いくつか俺のリュックに入れてくから!」


 俺が止めないとここから離れそうにない四人。


「あぁ! あぁあん! ご主人、もう少し! あと一つだけなのだぁ! 約束なのだぁ!」


 駄々をこねるガルン、アズリたんよりも聞き分けがないなオイ。

 

 いや違うな! アズリたんはもう柿を食べる事に飽きた顔をしてる。

 これがあれか……魔王とタダの魔物の違い。

 柿はアズリたんとしてもかなり美味しかったのだろう。だが、ここに留まって食べ続けるほどではなかったと……。

 

「クハハハハ! ガルンよ! この果物、余は飽きたぞ! ここに止まる必要やなし! さっさと我が家来を捕まえに行こうではないかっ! 余が手を繋いでやろう! ほれ、ガルンよ! 余の手を握るといい! こんな事はザナルガランでは中々にありえぬ事ぞ!」


 なんかアズリたんが姉貴風吹かせ出した。

 柿の果汁がついた指を舐めながらガルンはアズリたんの手を握る。


「……アズリたん様がそういうのであれば、僕はあの赤い果物を食べる事を諦めてついていくのだっ! ……が、我慢するのだっ!」


 おぉ、流石に魔王の言う事は聞くな。


「ガルンちゃん偉いね! それに、アズリタンちゃんもとっても偉いよ!」


 凛子ちゃんマジ天使が、二人の頭を撫でるので、二人の機嫌もすこぶるよくなる。

 

 凛子ちゃんがガルンとアズリたんの二人と手を繋いで先行してくれる。すると、アステマが俺の隣に並んで歩く。こうして歩くと俺の方が少し小さいのな。


「どしたアステマ」

「主、私……ちゃんと戻れるのかしら?」


 今更になってアステマはそこを気にし出すのか。 

 ほんとヘタレだなこいつ。

 最初こそ凄まじい魔法力を手に入れてみたが、バンデモニウムでは普通すぎてあんまりお得感がなかった。

 そして、ユニオンから外れた事のディスアドバンテージ。


「まぁ大丈夫だろ」



 アステマが俺の手に自分の手をちょんちょんつけてくる。

 手を繋いで欲しいなら欲しいって言やぁいいのに。

 

 仕方がないから俺はアステマの手を握る。すると、なぜかアステマは指を絡めて恋人握りをしてくるので、ちょっとビビったけど、これくらいこいつの中では俺たちから離れたくないんだろう。

 今の俺は女の子かも知れないが、アステマ、少しスキンシップが激しい。

 

 アステマは俺を見てはにかむ、


「主、あーるじ! 私がいなくなったら寂しいでしょ?」


 いや、別にそんな事ないけど、どんだけ感情の起伏激しいんだよ。

 何を言いたいのか全然分からんが、めっちゃ笑顔だ。


「まぁ、お前が呪印生物とかいう変な寄生虫に感染しているのはなんというかアレなのでさっさと取り除きたいとは思うわな」


 それがこっちにまで感染してパンデミック起きたらやだし。

 要するに、アステマ菌的な扱いを今受けている事に気づいたアステマは俺の背中を何度か叩いてきた。

 

 痛いって……お前、今デーモンジェネラル級なんだから加減せい!



 して、柿の木があったところからさらに進む。

 

 明らかに雰囲気どころか、この世界観とかけ離れた物ある。

 裏五芒星ってやつだ。これは陰陽術師が使うってどこかで読んだ覚えがあった。要するに道満の領域だ。

 


 さらに進むと門が八つ現れる。八門遁甲って奴じゃなかろうか?

 この中の一つだけが正しい道で、それ以外は罠だったり、危険な場所に続いていたり、最悪の場合死に直結するとかいうアレでだろう。

 

「クハハハ! なんだ門が沢山あるではないか! 余はこの真ん中の門を選ぶとする! 余は真ん中が好きだからな!」

「アズリたん、そんな適当に入るなって!」


 俺の言葉を聞いても尚ズンズンと進んでいくアズリたん。


「クハハ! 魔力のような力に満ちているが、なんともムズムズするな」

「アズリたん、みんな来ちまったけど、これはどれか一つだけが当たりの道なんだって! 適当に入っちゃダメな奴なんだよ! まぁ、もう入ってしまったから仕方がないけど何があるか分からないからしっかりみんな注意しろよ! 凛子ちゃんは全員の中心に! いきなり攻撃を受けるかもしれないし、足元に罠があるかも知れないから、ほんと注意してくれよ!」

「クハハハハ! この場所はつまらん! ハァ!」

 

 アズリたんがそう言ってなんらかの魔法を使った。空間が破裂し、俺たちの前には不気味な館が現れる。後ろを振り返ると、見る影もなく破壊された八門。アズリたんは無理くり蘆屋道満の結界を破ったらしい。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 これは、まぁ話しても話さなくてもいいのだが、アステマが大いに拗ねる前の超進化を遂げた時のお話である。要するに、今に至るまでの状況説明なわけなのだが……。大体10時間くらい前。

 

「おいおいおい! アステマ、俺はユニオンスキルなんて使ってないぞ! なんだそれ? 大丈夫か? えっ? なんだろ……デリケートな部分だからあれだけど……もしかして病気か? なんか病気なのか?」


 アステマの姿は、悪魔の翼が黒い天使の翼に変わり、黒い輪が頭の上に浮いている。大変申し訳ないが、アホの子みたいに見える。

 

「主、だめ……逃げて……この力は私では抑えられない……あぁ! 左腕に何かがうごめている! 全てを破壊しろって頭の中で叫んでるのぉ!」


 厨二病かな? デーモンは進化すると厨二発現するのかな?


「どうしたどうした。病気は病気でも頭の方か? というか、お前すごい魔力量じゃないか……」

 

 俺がようやく事の重大さに気づいた……。

 

「深淵より、目覚めし開闢の先人……世界と共に産声を上げた負の次元よりの使者。巡り巡りて、その名を口にする事すら猛毒なる御方へ、この死天使アステマがここに一つの地獄をかたどらん! それら数えきれぬ生命を糧に、このアステマに一つの託宣を願う! それは絶望の権化、それは形をもちし後悔の魂、災という名の神に今、誓わん! その災の名をフォビトゥン・ブレイズ。厄災の炎!」

 

 アステマが超上級魔法を練り込み始めた。それもとても苦しそうだ。

 

 ……アステマの意思に反しているのか?

 

「……主、逃げて。もう私はこの危険極まりない魔法を使ってしまう」


 アステマは何かに争っているように見える。

 流石に只事ではないのが俺にもわかる。

 

 

「おい、アステマ、まじで大丈夫なのか? 何か、俺のユニオンスキルで、そうだ! ウィルオーウィプス! 強制的にクラスチェンジしてしまったらどうなる? ……あれ? アステマには効果なしだ」

 

 アステマは今やグレーターデーモンではない。なんと、俺のユニオン傘下にいないのである。

 アステマの胸の上で怪しく輝く、宝石、それがアステマの体と一体化している。あれは……セリューからアステマが貰った物だ。

 まぁ、多分ろくなアイテムじゃないだろう。

 

「主……私は、魔族の中でも、突然現れて、生命に等しい死を宣告する死天使となってしまったのよ……こんな力、私は望んでいなかったのに……せっかく、主達と商店街とかいうところで服屋を始められると思ったのに……。主、お願い。まだ私の意識がある内に……私をこの世界から消して……魔王になりたったのに……邪神の尖兵になるなんて思わなかったわ……ふふん、きっと私はリトルデーモンと騙されて生み出されたのね……きっとこの時の為に、通りで私は他のデーモンと違って、あらゆる面で優れていたわけなのよ。ふふん! だってそうでしょ! 主とも出会いはヘカトンケイルだったし」

 

 アステマは強がっているが、ちょいちょい私凄いでしょ? を挟んでくるので、本当にどういう顔をしたらいいのかわからなくなってきた。なんか、やばい魔法は逆にどんどん巨大化していっている。

 あれを落とされたらバンデモニウムも惨事だろ。


 

「ちょ、ちょっと待てアステマ! なんか自分に酔っているところ悪いけど、その魔法は止められないのか? それか、全然違うところにポーンって投げれたりとかしない? それだいぶやばいよ?」

 

 俺の悲痛な叫びに対して、アステマは困ったように首を横に振る。

 

 あぁ、なんかその感じが腹立つが……

 どうすりゃいいんだこれ、俺の命令系統から外れてしまった危険なモンスターと化したアステマ、なんだか我慢していたアステマは艶っぽい顔でその魔法を放った。

 

 ……あっ、これ死んだかも。

 

 超上級魔法が上空より迫る中、俺は手持ちの魔法でどうにもならない事に覚悟した。

 

「クハハ! なんだこの巨大な魔法は! 面白そうではないか! 余のファイアーボールと勝負だ!」

「あぁ、超上級魔法の初歩、フォビトゥン・ブレイズですね。ふふふ、私もデーモン・ジェネシスになった時に最初に覚えたわぁ。今となっては見た目だけなので使うこともない子供御用達の魔法ね」

 

 そう、何事かと見学に来ていたデーモンさん達が一斉にアステマと同じ魔法を放って、空には綺麗な花火……

 

「ちょ、ちょっと皆さん! そろそろやめたげて! ウチのアステマさん、結構すぐに泣いちゃうんで、いや本当、もうお前ら魔法打つの止めろやぁ!」

 

 唯一無二の魔法と勘違いしていたアステマは、顔を真っ赤にして暗黒寺院の頂上に飛び立って行った。

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