君達はまだ本当のデーモンの恐ろしさを知らない
ファッションショー開幕前日。
アステマが考えた衣装は出来上がり、準備もいい感じだ。
なんというか、バンデモニウムの皆さんのどうしてものお願いという事で、俺一行とアズリたんに凛子ちゃんも服を着てショーに出る事になった。
……俺の服。完全に魔法少女の感じなんです……死にたい。
「今の主はかなりイケてるので、力作なのよ! ふふん、凄いでしょう!」
「普段の俺が全然イケてないみたいで傷つくから言い方考えろよ」
アステマは嬉しそうに皆の衣装のコンセプトを説明して回る。
デザイナーのアンさんと仲良くなっただけで、こんなにまともに服のデザインとかできるようになる物なの? いや、アステマがモンスター所以だからだろう。モンスター優遇思想が俺の中で出来上がっている。
……にしても、アステマは分かっててデザインしてるんじゃないのか?
セーラー服のアズリたんと凛子ちゃんには何故かブレザータイプの制服を作って、ガルンは着ぐるみ。
エメスは、まさかのイングリッシュメイドスタイルじゃないか……黙ってればコロっといきそうだ。
だがしかし、口パクで俺に卑猥な事を言う彼女を見て現実に戻される俺……
……無視しておこう。そしてアステマさん、意外にもシックに決めてきた。
ガーリーなコルセット付きのスカートにブラウス。
こういう単調な組合わせが似合うのはデーモン所以の美形だからか。
伊達メガネまでかけているのが実に腹立たしい。こいつ、馬鹿だから眼鏡をかけたら頭良くなるとか思っている馬鹿の思考なんだろうな。
模擬ファッションショーまで少し時間があるので凛子ちゃんが提案した。
女子会をしませんか? たそうだ。
聞きましたか? 女子会ですよ。
俺には縁もゆかりもない会です。いや、というか男子会的な飲み会経験もありませんけど!
ガルンとエメスははてなという顔をしているが、女子会に食いついたもん娘が一人、アステマさんである。
小洒落たお茶会とか好きそうだなもんな。これに乗り気なのがもう一人のデーモン。フリーゼさん、メリーゴーランドみたいなケーキスタンド持ってきたよ。
「……フフフ、デーモン式お茶会にはこれがなくては始まりませんよ?」
フリーゼさんの言葉に、アステマと凛子ちゃんが目を輝かせる。
「うわぁ! 素敵なケーキスタンドですね! そういうの私の住んでいる場所では高級なカフェとかホテルのカフェテリアとかでしか見ないので憧れちゃいます。それに名物のフルーツサンドとか乗せても素敵ですね!」
女の子は甘い物が好き。
ガルンがかなりつまみ食いしてからせっせと作り直してバンデモニウム全員分のフルーツサンドを作った。
その中でも形が悪かったりした物を後で試食用に避けていたのでそれや、木の実、ハムサンドなどを作ってケーキスタンドに乗せて、お茶を可愛いポットで淹れると様になった。
見栄えは完璧であるのだが。
女子会って何をするんでしょうか?
二十四年間コミュ障の男子として育った俺には理解がありません。
……ほら、フリーゼさんとアステマさんがさぁはじめなさいよオーラ出してますよ。
……ここはJK凛子ちゃん! と思ったが、
「女子会って何するんでしょうね?」
凛子ちゃん、お前もか! とりあえず楽しくお話ししてオヤツを楽しむ事を提案した俺、羨望の眼差しで見られるが、知らないよ?
女子会なんて
さて魔法少女の一日は忙しい……
今からファッションショーの会場最終チェックへと向かう。
道中で俺は面白い光景を目の当たりにした。俺と同じ……魔女がいるのだ。
「それでは良い子の皆さん! 今日は超上級魔法のおさらいですよ!」
おいおい、完全に学習塾じゃないのだろうか?
俺が覗いていると、魔女は手を振り俺を呼ぶ。
驚いた事だが、学校や塾のような物がバンデモニウムでは普通に行われているらしい。
それも魔法のスペシャリストである魔女が先生だ。……あっ! 俺のこの世界での魔法の先生も魔女だったわ。
魔女に呼ばれ魔女は俺の席を用意してくれると、みんなに簡単に俺を紹介して授業を始めた。
内容は、先ほど盗み聞きした通り、超上級魔法のおさらいに関してだった。そもそも上級魔法の理論も知らんわ。
ただし、そこは俺も理系のFラン大学を出た大人である。
基本魔法の理論、そして拉致された時に覚えた中級理論を持ってして、その応用についてなんとなく理解できた。
超上級クラスになるとどうやら、自分に力を貸してくれるなんらかの存在、この地域であれば魔王アズリたん等との契約である。
これはユニオンとはまた違った物で守護契約というらしい。
「皆さんはザナルガランですので、バンデモニウムの酋長であらせられるオバキル、あるいは闇魔界のアズリタン様、あるいは怪鳥王シレイヌス、暴獣王ディダロス、恐蛇王ウラボラスなどが基本ですよ!」
あー、あの人らそいう通り名なんだ。
「皆さん! 今日、こちらに来て頂いたのは私と同じ魔女で王種、いいえ魔女王となった北の地から来てくださった。イヌガミ・マオマオ様です! 拍手をお願いします! 今日は普段よりも少しピリリと緊張してしまいますね! マオマオ様に皆さんの魔法を見てもらいましょう!」
「いやぁ、俺は……見学させてもらえれればいいので……そんなに……張り切らなくねても……ねぇ、先生……」
俺が魔女に先生と言うと。
「マオマオ様。魔女王の貴女様に先生だなんて……あぁ、でも嬉しい。魔女は随分少なくなっていますので、魔女の魔法を継承していく為に、流浪していたのですが、このバンデモニウムで魔法を教えてみてはと、とあるリトルデーモンに言われ、それが大評判なんです。私の姉なんて、人間を攫って無理やり魔法を教えて人間達に捕まったらしいんですよ」
あー、なるほど。この先生は俺の先生の妹という事か、妹先生の授業。
リトルデーモンやグレーターデーモンの子供達が超上級魔法を次々に放つ様は人間側としては驚異以外のなにものでもない。
俺はこの魔女という存在の魔法を教える上手さは身をもって経験しているので、この塾や学校という物をバンデモニウムの目玉にしてもいいと思った。
バンデモニウムのデーモンさん達は人間の受け入れはオーケー。
そして、魔女という種族は魔法を教える事が三度の飯より好きだ。
そうなれば、後は人間側の認識部分だけか。
「先生、この皆さんに魔法を教えているこのお仕事ですが……もっと大人数、数十人、さらに数百人とかの人数になったとしたら他の魔女さん集めて教えたりってできますか?」
きっと、答えは分かりきっている。種族が絶えようとしている彼女達。
自分たちの学び、得てきた物を継承するという形で残そうとしている。
魔物にあらず、人にあらずで迫害を受けてきた彼女達。
もし、魔物と人間が手を取り暮らしていく事ができるなら…
「マオマオ様、それは……とても興味深いですね。ですが、私の姉が捕まり、さたを待っているように……魔女という存在なは中々受けれがたいものなのです。ですが、魔女でありながら王種となったマオマオ様がいうのであれば」
少しばかり嬉しそうな顔をする先生。
俺は授業を中断してしまった事に謝罪をして、後日、正式にお話をする機会を設ける事を約束した。あとどれだけ力になれるか分からないが現在北の王都で捕まっている先生の姉に関してもできるだけ力になる事を話した。
魔法の学校を開くとして、魔女の講師を集めていく必要がある。どのくらい魔女が生息しているのかも今後調べないとな。
そして自分で話していて、俺は北の王都について実は殆ど知らない事に今更気づいた。いざこざに巻き込まれるのは大体他の地域の連中だったので、自分の生業の領なのに、一度も出向いていない。
今回のアズリたんのお家騒動が終われば考えよう。
「しかし、マオマオ様。その若さと、美しさで、さらに従者も大勢いて、闇魔界のアズリタン様とは盟友、それなのに、私たち闇の眷属が苦手とする精霊王や、魔物の殺し屋と悪名高い、聖女王とまでも交友関係があるだなんて、魔女の底力を見た気がして元気が出ました!」
精霊王サマはアズリたんのライバルだからいいとして……
アラモード、魔物達の中ですごい言われようだな……
「……では、皆さん、最後に北の魔女王マオマオ様に、しっかりとご挨拶をしましょう! デーモンたるもの品位が問われますからね!」
……デーモンの子供達は、ビシッと! 綺麗に並ぶと魔物流の相手を敬う礼をしてくれた。
初めて子供って可愛いんだなって思った反面。
俺はウチのもん娘達の育て方間違えたかなって少し凹んだ。
「授業のお誘いありがとうございました。俺も勉強になりましたよ」
「いえいえ、それではまた先程のお話は後日に」
これはかなりいい感じで事が進む。
「……まぁ、問題があるとすれば」
今が南の地域においてクーデター中であるという事くらいか。そしてよく知る残念なイケメン美女……
「マスター! あの時の薄き書物に関して我、大いに反省したり、結果としてあの書物はまだこの世界において早すぎるアポクリファ(黒聖書)であったと今にして理解したり」
「お、おう。このタイミングで俺の前に現れる君が恐ろしく不気味であるという事、激しく不安を感じるのだけど、こんなところでどうした? 一応、俺はこれから、ファッションショーの会場を観に行くのだけれど、何か様か? 同人誌を作るな、と言わん。俺を題材にした大人向けの同人誌は作るなって言ったんだよ」
エメスは俺をじっと見つめると、黙って何度も頭の上から足元まで見る。
……なんだこれ、コイツ一体何をしているんだ。
さらに魔女っ子になっているハズの俺の頭やら方やらを触って……。
「我はこのバンデモニウムなる地でデーモンやサキュバス種達より、超上級クリエイト系魔法の理論を得たり、これで超高純度の粘土を生み出し、我は1/1、男の魔女っ子マスター初号機の作成を」
「オーケー。その魔法は使用禁忌系魔法とする。今後一切の使用を禁止する」
フリーズするエメス、もしかしてこれは許されると思ったのか? 馬鹿なの?
「……マスター、我の全ての計画は終焉の笛を吹かれた事と知る。闇より生まれし者と魔導より生まれしゴーレムが、夢や希望に浮かれた事こそが大いなる間違いであったと知る。男の子同士のちょめちょめ……むむっ思考にノイズか、それに見た目は女の子なのについている男の子……そんな神々や天使のような者を愛した我々に待つ物は滅び……そんな同士達が集う偶像や書物などが買える店を作ろうとした夢は潰えし……」
「ちょっと待て、エメス。その話、くあしく!」
この無意味に高性能な癖にお下劣な頭脳を持つエメスは、ゆっくりと夢を語った。要するにこのエメスは乙女ロードを作ろうとしていた。
正直、この世界に同人誌はな……いやでもアキバ系文化か……
……俺は大きな決断に迫れていた。
これは……風俗街を作られるより全然マシだろう。
「……エメス。極力18禁は排除しつつ、その計画ちゃんと計画書用意して再提出しろ、全面協力する」
言ったものの少し後悔した。走って御意! と去っていく彼女の姿はなんだかとても生命に溢れていた。
「エメスはあれでクソ頭いいから、やる気を出したらとんでもない計画書持ってきそうだな。というか、確かに神々って神話とかでも変態多いんだよな」
「主! こんなところで何をしているのかしら? ふふん、もしかして待ち伏せ? 私を? エメスがなんだか張り切って部屋に篭ったので何か楽しい事を主から聞いたと思ってせっかく来たんだけど!」
俺が待ち伏せしていたんじゃなくて、このアホデーモンが俺を探していたわけじゃないか……自分で全部言ってるし。
アステマもまたとても楽しそうである。
まぁ、コイツらデーモンの巣窟で、他よりも低ランクだがチヤホヤされて普段よりも調子に乗れてるコイツは上機嫌なのも腹立つな……
「……エメスはカジノと同時並行して別の店の経営企画を認めてやったからそれの企画書考えてんだよ」
「何それずるい! 私も新しいお店作りたいわ!」
コイツ、それ言いそうだなと思ったので当然。
「……いいよ。エメスと同じで俺が納得する企画書千枚用意してこいよ」
「主、三枚でいいかしら? 千枚って……ゴーレムのエメスとグレーターデーモンの私とじゃ……ねぇ?」
何がねぇ? なんなのかあえて聞かないのが俺の教育方針である。
もちろん無視を決め込む。
その反応にアステマはアホなり理解。
「ま、まぁいいわ! 新しいお店を作ったら忙しくて見れないものね」
「あぁ。いたわ。やる前から大成功確信する奴な。ただ一つの仕事に集中するのはいいことだ」
アステマとの会話は終わったはずだがついてくるアステマ。
「で? お前さんは俺にまだ用があるのか?」
「主、今は女の子なんだから俺って言うのはどうかしら? もっと気品を持って女らしくしなさいよ!」
なんだコイツ、喧嘩売ってんのか?
俺は今かわゆすな魔女っ子かもしれない。
だがしかし、俺は二十歳を超えた男であり、女の子の振る舞いなんてできるか!
「いやいや、できるかい! それよりお前なんでついてくるの?」
「ふふん! 主、私が指示した服を着たみんなが立つ場所の出来、私が確認しないと始まらないでしょ!」
あー、なるほど。もう売れっ子デザイナー気取りっすか……
なんというかお花畑だな……。
アズリたんの事は凛子ちゃんが見てくれているの地味にありがたいな。
コイツら我が道を行き過ぎてアズリたんの面倒放棄しそうだし……。
「まぁ、お前さんの気持ちは分からなくはないが、気に入らなくても作り直しとか無理だからな!」
「ふふん、当然見に行くだけよ! 見に行くだけ!」
本当だろうな? ただ、流石に文句言えないか。
相手はアステマより明らかに上位のデーモンさん達ばかりだし
……何を言ってもついてくるだろうし、まぁいいか。
「アステマ、お前さ、この国って住みやすいか?」
「そうね。デーモンばかりというのが居心地がいいわね。リトルデーモンやグレーターデーモンでも住んでいい事もわかったし」
まぁ、でしょうな。
デーモンという種族がこんなに文化的とは俺も思わなんだ。
「……ここにずっとすみたいとか思うか?」
「まぁ、確かにここにずっと住んでもいいかもしれないわね。……いっその事、主の言う商店街とやらをここに作ったらどうかしら? 北よりもここのほうがいいじゃない! そうしなさいよ!」
俺が言いたい言葉をうまく理解していないようだな。なので、率直に聞いて見るとするか……
「じゃなくて、俺たちと別れてここに残りたいという気持ちはあるか?」
俺の率直な言葉を聞いてアステマは少し固まる。通じたらしい。
「な、何? もしかして主、私がここに取られちゃうかもって思ったの?」
めっちゃ嬉しそうにそう聞くアステマ。
……あぁ、腹立つなぁコイツはいつも。
「…………まぁ、そうだな……」
俺がそう素直に言うとアステマさん、なんでか真っ赤に顔を染めて固まる。
おーい、アステマさーん?
「おいどうした? いや、もしもだよ。もしもお前がここにずっと住みたいと言うのなら俺は尊重するけど、まぁ色々やってきたしさ」
俺が何を言ってもアステマは静かに俯いて聞いているのか聞いていないのか。
コイツ、こうやってしおらしくしてたらびっくりする可愛いな。
「馬鹿ね……私が主達と離れるわけないじゃない! 斧だってもらってないよの!」
ふむ、まぁ確かにそうだな。コイツに俺もまだ斧やってないわ。
……耳まで真っ赤だ。
「まぁ、そうだな。……あれだ……これからも宜しくな」
「と、当然じゃない! 私がいないと主もガルンもエメスもみーんなダメダメなんだから! ふふん、私が導いてあげなきゃだめでしょ!」
お前に導かれた事は多分俺はないのだが、お前の中ではあるんだな。
今度その夢の話をじっくり聞こうと思う。
というか、アステマの態度であるが、まぁ多分俺に……ではなく魔女っ子の俺になんか好意抱いているよね? それも友人的なやつじゃなくて、なんというか恋的な?
まぁ、俺が10代のクソガキだったなら、鈍い系男子を装ってもいいんですが、やれやれ系をするには流石に俺も痛い年齢だし。
……それなりに、恋愛経験もあるんですわ。
……だから言えるのだが、アステマはまさかの百合っ子なのか?
いやいや、それならガルンとかエメスに行ってもおかしくないよな。
「アステマさんやい……。少し聞いてみ良いか……な?」
「何? 改っちゃって、どうしたのよ? 主らしくないわね! いつもは私の事好きだからって意地悪ばかりなのに」
あっ、腹立つな。そう、このポジティブモンスター……こういう奴だったわ。
しかしここで目的を失ってはいけない。
「……アステマ……。お前さ? なんか俺の事見る目この南の地域にきてから少し様子がおかしくないか?」
いやこれで、俺の事好きでしたと言われたら最悪だし、魔女っ子になった俺のこと好きでした百合カミングアウトされても最悪だな。
「そ、そうね……その姿になってから主……。凄い魔素を持ってるでしょ? だから……近づくと少しゾクゾクしちゃうのよ」
俺の……魔女っ子の魔素がアステマさん的にはあれか、
マタタビ的な……?
「あぁ、魔素ってそれぞれ持ってる雰囲気的なのが違うんだよな? で、ユニオンで繋がっているから、俺の近くにいると魔素酔いすると……」
俺のその質問は概ね正しいようで、俺の横を歩くアステマはポーッとしている。……これ大丈夫かな?
このままにしてると躓いて転びそうなので手を繋ぐ。
「……主? 何?」
「ほら、危ないだろ手握っとけ」
たまに、その辺のガラスの映る俺とアステマ、仲良し女の子のお出かけか?
道ゆく人たちがみんな俺たちを知っているので手を振ってくれるの振りかえし……アステマさんは魔素酔いで俯く。
魔素酔いは慣れればなくなるらしいが、俺は魔女っ子ではないので慣れられる前には元の姿に戻りたいものだ。
「魔素酔いってのは、解毒系の魔法で治らんもんかね……アンチポイズン!」
その効果や……
「主、ずいぶん楽になったわ! その姿の主、魔法力が私たちデーモンと同等かそれ以上じゃない。流石にオバキルさんやフリーゼさん程じゃないにしても魔女の特権ってところね。そんな主の魔素を浴びていると私もなんだか調子がいいわけだし、もう主。そのままの姿でも良くないかしら? 私ほどじゃないけど、バンデモニウムの男の子達から主、人気よ」
いや、知ってますよそんなん。
男か女、どっちが得かという事は恐らく永遠の議論だろう。
だが、美少女と美少年は超得な事だけは俺は知った。
「いや無理ですけどね。見えてきたぞ、あれだ!」
俺たちはデーモンという種の底知れぬ力を垣間見ることになるのだった。
「……いや、これさ。最初に俺が簡単に説明していたファッションショーのステージではあるんだけどさ……なんか色々と装飾やら仕掛けがどえらい事になってますわ……」
俺とアステマは圧巻されていた。
まず、魔法の力が込められているガラスの玉が装飾されたまさに電灯、いや電装というべきか?
「マオマオ様! 本日もご機嫌麗しゅう! ……ウチの息子の嫁に、失礼でしたな。息子を婿に出したい程です。どうでしょう? 元々の指示はその日中に終わってしまったので、我々崇高なるデーモン達をイメージした高貴な装飾や仕掛けを施して見たのですが」
仕掛け、そう会場が上下したり分かれたり、えらい舞台になってる。
……これ、そもそもファッションショー以外にも使えるんじゃないか? しかもこれが試作のステージだぞ。
現場監督のデーモン・ジェネラルの親方は俺たちに紅茶を振舞ってくれる。
そして信じられない事を口走る。
「……まぁ、これでもマオマオ様の納得のいく形とは行かないでしょうが、今回は突貫工事でしたのでお許しを……まぁ我々最上位種族のデーモンでも十分なのですが、本番用のステージを作る際は、ドワーフの連中を、呼び……参考程度には手伝わせる事もやぶさかではないですな!」
……。
ドワーフってもっとすげーんだ……。
「おや、そちらにはグレーターデーモンのアステマ嬢ですな。……パッとしか見ませんでしたが、さすがはデーモン種。素晴らしい服の数々、あれも本番用はより凄いのでしょうな!」
やめてあげて、あんなん全力やん!
アステマさん、絶対涙目になる奴やん!
「ふふん。分かっているじゃない! 私も、本当の私のデザイナー? いるんだから」
あー、これはデーモン同士の挨拶的な感じなのかな?
デーモンの親方がステージが動いたり、回転したりする仕掛けを見せてくれる。どうやら魔法のルーンが刻まれた道具を使っている。
「いやでもこれ相当凄いですよ……ちょっとこのステージの仕掛けも入れた上で、どうやってランナウェイをするか詰めていきましょうか?」
かっこいい事や可愛い事。
そういうのを考えさせるのはグレーターデーモンは好きらしい。
……これはデーモンという種の特徴らしい、面倒くせーな。
「……ここで、回る舞台をあげて、デーモンの美人の二人とフリーゼさんをメインにしていくのはどうかしら? ふふん、当然、主。主の見せ場だってあるんだから! ちょっと仕草も考えなきゃね!」
「そうですな。アステマ嬢、このスカートをひらりとするのはいかがで?」
盛り上がるデーモンの連中、皆集まってきて高笑いを繰り返す。
「はっはっは! はーっはっは! はっはっはー!」
「おーっほっほほ!」
「ふふん! いいじゃない! いいじゃない!」
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うっせー、うっせー、うっせーわ! コイツら頭悪そうにしか見えない事分からんのだろうか?
「さ、では……。マオマオ様最後はマオマオ様のチェックをいだだき、問題なければこの感じで練習をしていければいいと決まりました。完璧ではあると思いますがな! はっはっは!」
どれどれ。
おぉ、想像よりしっかりとプロットが組まれている。
しかし、めっちゃ気になる物が一つ見つかったのだが。
「この、俺が歩いて行って……風の魔法装置が発動して、下着が見えないように俺がスカートを抑えるとかいう痴女みたいな行為、これ入りますかね? というかファッションショーにそんな演出……」
いや、あるかもしれねー。
……だってファッションショーとかあんなん見た事ないもん。
大体あーいうの招待とかで見る方も参加するだろ。
……これは、デーモン達が皆、満場一致でやってほしい事らしい。一応、コイツらセンスはいいんだよな……。
「エ、エメスと違って性欲ではなく芸術としてお前達がエロスを取り入れようとしていている事は分かった……うん、それにまだなんとか許容できる範囲だとは思う……俺の心は多分死ぬだろうけど……」
みんな期待の眼差しを向ける。そんなにこの演出重要か?
「分かった、分かったよ。やるよ! やるから、やらなければステージを破壊しそうなその強力な魔法練り込むのやめて引っ込めろやー! デーモン共っ! 面倒くせーな!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ファッションショー、改めバンデモコレクションの試験開催の準備はどんどん進んでいく。
モデル達の仮設控え室もいつの間にか完成。
アステマが考えた衣装の類も搬入が開始されていた。というか何着服を作ったんだ?
そして、幕内として作られたフルーツサンドも住人分到着。
「マオマオよ。これに乗じて、串焼きや、甘味などの屋台も出してみるという事であのように用意させたがいかに?」
「オバキルさん……仕事早いですね」
バンデモニウムの目玉をバンデモコレクションにしたとして、そんな毎日ファッションショー開催なんてできない。
だからこのバンデモニウムに娯楽を増やすという提案を俺はした。
「人間の凛子に教わった。あんドーナツとやらの具合も中々である。小豆という物は結局何か見つからなかったが、スイートビーンズという甘い豆を潰して代用することになった。小麦の分厚い皮で餡を包み、それを油で揚げるだけであそこまでの脅威的な菓子が生まれるとは思わなかった……人間恐るべしと言っておこうか、フリーゼの奴も久々の新料理に心躍らせておったわ!」
「そりゃ、よかった……オバキルさんが言うと、あんドーナツ作ってるだけなのに、他国侵略してるみたいな空気になりますね」
「フハハハハハハ! それも良い! このバンデモニウムの名物と催しで他国の心を虜にもできよう!」
「は、ハハッ。そりゃいいや」
デーモン種。人間からすれば絶望を与える大物の魔物。
それがこんなにも平和的な連中だという事を誰が知ろうか? いや、実際ダンジョンで出会ったら逃げるか立ち向かうしかない。
当然、襲ってきたらデーモンも反撃するだろう。
魔物と人間の確執ってもしかして勘違いか?
「マオマオ様! 凛子様に教わったあんドーナツ……ふふっ、この上品な甘味と食感に香り、まさに至高の種族であるデーモンに相応しい、お一つどうぞ」
「あっ、はい。いただきます」
エプロン姿で試作スイーツを完成させたフリーゼさん。
一緒に凛子ちゃんとやってきて要するに味見だ。
粉砂糖までパラパラとかけてこれは美味そうだ。
しかし、この庶民のお菓子がデーモンに相応しいんだ……
「はむっ……はちあち……はふはふ……あっ! 甘くてすっごい美味しいですよ! これ! 凛子ちゃんナイスです」
「……いえいえ、私は作り方を教えてフリーゼさんと一緒に作っただけですから、代用品考えたり、二度揚げしたり工夫されたのはフリーゼさんや他のデーモンさん達なので、私も勉強になりました!」
デーモン女子達。
凛子ちゃんと見合って「ねー!」と仲良くなってしまう……。
男ってさ、他校の男子と出会ったら火花をバチバチ散らせるのに、女子はすぐに仲良くなるよな。
凄いなこの順応性……いや、これが日本のJKの力なのか……。
凛子ちゃんは結構大人しい系のjkだ。ギャル来たらどうなるのこれ。
「これ本当に美味いよ! ウチでも出したいな」
ガルンとアズリたん、そしてアステマが喜んで食べているので、子供達にも十分人気のお菓子になりうる。
チーズケーキやデコレーションドーナッツより腹が膨れて量捌けそうだし……
「いい感じで準備も進んでるし、そろそろ、ファッションショーに出るデーモンとサキュバス、インキュバスのモデルさんとフリーゼさん、それに俺たち商店街組とアズリたんに凛子ちゃん、控え室でメイクのサキュバスさん達に対応してもらってください!」
凛子ちゃんはメイクにはそんなに明るくはなかったのだが……友人のJKから回ってきたという雑誌にその全てが記載されていた……。
「最近流行りの中華系メイクから病みかわ系のメイクまで網羅している雑誌とは……これ今後のメイク会の黒聖書になりうるかも知れないな……できるだけメモしておこ」
「マオマオ様、その必要はございませんよ! 私たちサキュバスがじっくり数日かけて検証しましたので」
「そうですそうです! どれも私たちの知らない技法が記載されており、古代の術式よりも難解でしたが……マスターして見せました!」
淫夢を見せるというサキュバスさん達、化粧は化生というくらいシナジーがあったらしい。
サキュバスさんが一人一人、衣装に合わせたメイクを念入りに行っていく。そこには逆輸入で驚くJK。
凛子ちゃんがメイクアップで普段より大人びた表情になった姿に驚いていた。
凛子ちゃんはきっと同年代のJKより化粧っ気も少く、前に出るタイプの子じゃないんだろう。実に憂憂しくてイイ!
でもモンスターはいい意味で真っ直ぐだ。
……チークの位置が気に入らないとサキュバスさんに注文するアステマが、
「凛子、とっても可愛いじゃない! アンタ私のお店で働くか、服のモデルしなさいよ! ガッコーとかいう所に戻らなくていいじゃない」
「えぇ……ハハッ、考えとくね」
同年代の少年、少女が通う学校。高校が義務教育ではないといえ、凛子ちゃんはいずれ元の世界に戻り学校生活に帰っていくだろう。
できれば、この世界の思い出が……楽しい物である事を願いたいな……
「「「マオマオさまぁ! 可愛いお洋服に合わせてかわゆいお化粧しましょうね!」」」
さて……現実逃避もこれまでか……俺のメイクを誰がやるか、サキュバスさん達の中でジャンケンが始まった。
いよいよ、バンデモコレクション開演です!




