一狩りいこうぜ!的な服の材料を集めたりする話
「主、服の材料を採りにいくらしいのだけれど、私はいいのだけれど、どうしてもと言うならアズリたん様と来ない?」
服の材料っ拾得クエストとか、マジであるんだな。
そして見栄を貼りたいアステマさん。
常時アークデーモンでいられないのが嫌なのだろう。
考えるに服の材料拾得クエストはきっと蚕的な物から糸を取ったりではなく、やばい感じの魔物を討伐してその皮やらを剥ぎ取るんだろう。
感覚としては一狩り行こうぜ!のゲーム的な感じなんだろうが、アズリたんがいればなんら怖くもない。
他の上位デーモン達に対してアズリたんの威を借りるアステマか。
正直、アステマの魔法でもバンデモニウムではカスみたいな物だろうから俺なんてチリだな。
気持ちは分からなくないが、アズリたんがついてきてくれるかは不明。
ただし俺は興味ありだ。
「まぁ、レア素材とかかもしれねーから俺は行くけど、アズリたんはわかんねーぞ」
聞いて来いよと言うと、モジモジと言い出せない。
仕方ないので、アズリたんを探す。若いデーモンの夫婦から生まれたリトルデーモンの子供を抱っこさせてもらい嬉しそうにしているアズリたん。
「クハハ! なんと憂い奴か! のぉ凛子」
アズリたんの次に凛子ちゃんが抱っこして頷く。
「うん! デーモンさんの赤ちゃん、とっても可愛いね。あっ、マオマオちゃんにアステマちゃん、おはようございます!」
平和だなぁ、俺もおはようを返すと一狩り行かない? と聞いてみる。
「……ほぉ! 服の材料を討伐すると言うのか! クハハハハ! 構わぬ! 余もついて行ってやろう! 凛子も共に来い」
アステマの表情がパッと明るくなる。
凛子ちゃんも了承するのでアズリたんも嬉しそうだ。
「フルーツサンドの方は試作も完成したみたいだから、ガルンにつまみ食いしないようにエメスに監視させるように言っておくよ。下ネタ以外は割ときっちり働くからな」
…………サキュバス、インキュバスに師匠呼ばわりされるゴーレム。
エメスの奴が何か自分も出し物をしたいと言うので、サキュバスやインキュバスを使った娼館等、性的サービスを行う物じゃなければいいと伝えている。
よって、そこまでヤベェ事にはならないだろう。
めっちゃ心配だけど……
「安心するといいマスター。我は、マスターとの約束を違える事はない。サキュバス種という連中がこうも話が合うとは思いもしなかった……僥倖」
「……いや、ほんとバンデモニウムの方々に迷惑かける事とか、俺の品位を疑われるような事はやめろよ。あと、ガルンがグズったらこの秘蔵のチョコレートで機嫌とってくれ、お前の分もあるから食っていいぞ」
それを受け取りエメスは俺を上から下まで舐めるように見る。ショタ好きのハズだが……どうした?
ふっと鼻で笑って目を瞑るエメス。
「その姿でツイいれば男の娘という種族になると、プロフェッサー・クズハラの聖書に書いてあったと覚えり、が今のマスターはただの魔女っ子。その幻想は打ち砕かれり」
……知らんがな。
俺も深くは知らないが、ショタ物とBLと男の娘物は似て非ざるジャンルらしいけど、エメスの中では複合してストライクゾーンなんだろう。
「じゃあ、何か困った事があったらオバキルさんかフリーゼさんに相談してな」
何故かエメスは俺の頭を撫でながら頷く。
……もし百合にまで目覚めたらこいつ本当に末期だな。
「マジか! 話には聞いていましたが、北の魔女王マオマオ様。めちゃくちゃ可愛いじゃないですか! 自分、今回の狩猟をエスコートします。デーモンジェネラルです」
「あぁ、ありがとうございます。やっぱり名前はないんですね。どうやって認識してるんです?」
「自分は狩猟のとか呼ばれてますねぇ」
あぁ……仕事で認識してるんだ。
超めんどいな、名前つけろよ……魔物の名付けルールが厄介らしいけど。
このデーモンは狩猟くんと名付けよう。
狩猟くんは俺とアステマの肩を抱く。
なんだろうな……チャラ男なんだろうか? デーモンなんでチャラデーモンか、そして凛子ちゃんのところにもすかさず向かってとりあえず口説く。
地球でも異世界でも若者の行動というのは変わらないらしい、とりあえず女の子であればワンチャンアタックだ。
そしてアズリたんを見る。
すかさず俺やアステマにどこの店の何が美味しいかの話をするところからして守備範囲外らしい。
完全に小学生くらいだもんなアズリたん……。
「「「でかっ!」」」
俺とアステマと凛子ちゃんがハモる。今回服の素材の一つであるアリゲーター・ドレイク……危険度★220
……アステマさんは安定の涙目、凛子ちゃんも俺も固まる。それに狩猟くんは「かなりの危険生物ですが……俺にかかれば」
とか言っている間に、好奇心と破壊神の塊が飛び出した。
「クハハハ! 長い口のトカゲではないかぁ! てやぁ!」
「「「えぇ!」」」
デーモン・ジェネラルの狩猟くんをして、かなりの危険生物。
アズリたんに猛毒のブレスを吐いたらしいが、シャワーでも浴びるように笑い。そして一撃で粉砕し、最初の材料をゲットした。
それに苦笑いの狩猟くん。
「いやぁ、さすがは南を統べる闇魔界のアズリタン様です。お見事です! でも、アズリタン様はお客人ですので、次は俺の狩をお楽しみください」
…………。
アズリたん、不満そうだ。だが、凛子ちゃんに狩を見てみようと言われ渋々了承……。
凛子ちゃん、アズリたんを手懐けてるけどほんとにタダの学生か?
狩猟くんは、俺とアステマに伝説の魔剣とやらを取り出して語る。
「自分も昔はダンジョンとか潜ってた口で、古の時代の魔人が鍛えた? この魔剣とか持ってるんですよねー」
それを見てアステマは興味がなさそうだ。いや、そういう時はきゃー、かっこいい! くらい言えんのかよ。
俺が、とりあえずフォローの為に黄色い声でもあげようとしたが、
「主なんて、魔神器持っているのよ! ゆくゆくは私がもらうのだけれど、それに小狐や精霊王、聖女王も魔神器を持ってるから、今更魔剣なんて見てもあんまりたぎらないわね。ふふん、もっと凄い武器はないのかしら?」
(おいやめろって! 狩猟くん、なんか悲しそうだろ)
俺がアイコンタクをするも理解せずにアステマはいつものふふんのポーズ。
…………おや、次の素材モンスターだ。
今回は、バーサーカー・ダーク・ナイト。
純度のいいレアメタルが取れるらしい。
危険度は出会えば俺たちとモン娘パーティーは一秒掛からず死亡レベルの凶悪なモンスターだ。
そんなモンスターを相手に狩猟くんが魔剣を抜いた。
デーモン・ジェネラルらしく魔法力も桁違いだ……凶悪な魔物同士が見つめあう。お互い制空権を計算しながらジリジリと近づく。
その駆け引きに飽きたアズリたんは凛子ちゃんとアステマに遠くを指さして何かを見つけたらしい。
……俺も、狩猟くんもバーサーカーなんとかさんもそちらを見る。
「クハハ! 巨大な花が大きな口を開けておる! きっと蜜があるぞ!」
「えー、アズリたんちゃん。あれ虫とかを食べる食虫植物の大きな奴じゃないかな? きっと蜜なんてないと思うよ?」
「ふふん! アズリたん様ったらガルンみたいに食いしん坊なんだからっ!」
女子三人集まれば箸がころんでもなんとやらで、命懸けの戦いの最中、ほのぼのとした空気が流れる。
ほら! 狩猟くん、今にも泣きそうじゃん! しゃーない!
「しゅ、狩猟くん! 頑張ってー! お、俺じゃなくて私は狩猟くんを応援してるよー! そんな狂戦士と化した闇の剣士なんてやっつけちゃえー! 狩猟くんのぉ! ちょっといいとこ、見てみたい! ほらほら、みんなもそんなやばそうなタイラント・マンイーターなんか見てないで、狩猟くんを応援してあげよーよー! きゃー! 狩猟くんが危ないよぅ! みんなで応援して狩猟くんの士気あげなきゃ!」
「マオマオ様ぁ……」
感動する狩猟くんに対して、三人娘は……
「主、キモいわ。何か変な物食べた?」
「クハハ、マオマオどうした頭がおかしくなったか?」
「……マオマオちゃん、ちょっと気持ち悪い」
やかましいわ! お前らが、男の子の純情踏み躙るからだろーが!
「……いや、うん。いや応援してあげろください!」
俺がそう言うとようやく凛子ちゃんが空気を読んだ。
狩猟くんさん、頑張ってくださーいと! パァっと嬉しそうな狩猟くん。アステマさんが、まぁ頑張りなさいよ! ともう自分より格上のデーモンだとは思っていない反応。
しかし、それでも狩猟くんは嬉しそうだが、アズリたんのトドメの一撃にて振り出しに戻る。
「あんな奴、余なら欠伸をしておる間に瞬殺だがな。頑張ってまで戦う程の相手でもなかろう。あやつは何故、あんな棒切れのような剣で戦おうとしておるのだ? のぉマオマオよ?」
「おいアズリたんやめろ!」
狩猟くんだけじゃない、バーサーカー・ダーク・ナイトも凹んでる。
「……ちょ、アズリたんを凛子ちゃん黙らせて、そしてアステマ、狩猟くん応援するぞ! お前の最高に可愛い感じで応援しろ!」
「はぁ? 主、私はいつだって可愛いのよ。ふふん、だって私は……」
「わかった! 今日のアステマさんちょー可愛い。でもさぁ、たまには男に媚びてるアステマさんってのも魅力的じゃね? とか思うわけよ俺……」
少し考えて、超嬉しそうなアステマさん。
「もう主ったら、狩猟くん、しっかりやんなさい! 褒めてあげるわ!」
俺ならアステマにこんなこと言われたら秒でゲンコツ叩き込むけどさ……。
嘘だろ、嬉しそうだよ狩猟くん。
「見ててくださいよ! これでも暗黒魔法の超上級魔法。ボルカニック・ザガード、消える事なき悪魔の炎を習得していますので、いかにバーサーカー・ダーク・ナイトと言えども」
そう言って狩猟くんは確かにヤベェ炎の魔法を魔剣に宿した。
アステマさんが固まっていることからまぁ、凄い魔法なんだろう。
「狩猟くーん、頑張ってー! バーサーカー・ダーク・ナイトなんかに負けないでー!」
「は、はい! マオマオ様ぁ! 見ててくださいー!」
なんで俺は今、推定10代後半くらいの男の子のデーモンに黄色い声援をあげているんだろう?
いや、ほんとなんでだろう。
「あの魔法……私のダイアモンドハープーンなんか一瞬で蒸発させるくらいの魔法ね……ふふん、さすがはデーモン・ジェネラルね」
あわあわしながら調子乗ってもカッコつきませんよ?
炎を纏った魔剣を振り下ろすが……
「あの黒い剣士の人も大きな剣に青い炎が出てませんか? 大丈夫かな?」
凛子ちゃんがフラグっぽい事を言う。
君たち、すぐそういう事言う……
「このバーサーカー・ダーク・ナイト……ありえねぇ! 俺の魔法よりも上位の闇魔界の炎を操れるだと……皆さん、逃げてください。こいつは並みのバーサーカー・ダーク・ナイトじゃないです!」
めちゃくちゃ焦る狩猟くん。
「「「アズリたん(様)(ちゃん)」」」
まぁ、そうでしょうね。アズリたんは引きません! 媚びへつらいません・謝りません! をモットーにした魔王ですもの。
腰に手を当てて王者のポーズ。
「クハハ! 其方、野良の魔物の割りに中々の魔法を使う。見せてみよ! 余が戯れてやろう! 余が気に入れば余の城に貴様も招待してやらなくもない! クハハ! 喜べ! 黒い者よ」
俺たち三人、いや、狩猟くんも合わせて四人。
きっとこう思ったろう。“す、すげぇ!“と
アズリたんはノーガードの丸腰。
「おぉ! 貴様。まだ上があるの? 余の腹心である連中と同じ、魔王種とやらの一角か……クハハハハ、何故力を隠しておる?」
アズリたんは不穏な事を言う。目の前の魔物はもっと強いと。
「う、嘘でしょアズリタン様……このバーサーカー・ダーク・ナイト。確かに凄い魔法を使いますが、流石に魔王種だなんて……」
それね? フラグっていうんだよ。狩猟くん。
そしてアズリたんがいよいよトドメを刺しにくる。
「クハハハ! さしづめ弱いフリをして、襲ってきた物を屠って自分の力を蓄えておるのだろう! 南の地域の魔物にはそういう連中が大勢おるからな! そこの雑魚デーモン・ジェネラルを屠りレベルでもあげようと思っておったか? なまちょこざいめ!」
やめてくれ、もう狩猟くんを励ます言葉がでねぇ……。
「う、嘘ですよね……アズリタン様は確かに南の魔王ですけど……このバーサーカー・ダーク・ナイトが魔王種だなんて……それに俺……デーモン・ジェネラルの中では結構上位だと思ってたんですけど、俺って雑魚なんですかね? アステマちゃん、凛子ちゃん、マオマオ様……俺って、生きている事すら恥ずかしいくらいの雑魚なんですかね?」
「「「えっと……」」」
地獄か……この規格外の魔物が雑魚だと言われた事。
間接的にアステマも自分の存在意義に関して遠い目をしている。
……凛子ちゃん助けて!
「アズリタンちゃーん! その黒い剣士の人。すごく強そうだけど、大丈夫なの? 怪我しない? 危ない事するの私が許さないよ! 狩猟くんさんがいじめられた仕返しをしたい気持ちは分かるけど、やりすぎてもダメだからね! アズリタンちゃん。いじめっ子をやっつけてもやりすぎたらそれはアズリたんちゃんもいじめっ子になっちゃうからね!」
「「「!」」」
マジか、凛子ちゃん、あんたも結構猛毒だねぇ……
「クハハハハ! 凛子、安心せよ! 余は魔王であるぞ! いじめっ子などというケソケソした事はせぬわ! これまでも魔王種などと名乗る連中を真っ向からねじ伏せてきたのだ! 所詮はこの黒い者も余からすれば雑魚だぁ!」
確かに、アズリたんからすれば狩猟くんは雑魚なんだろう。それでも人間からすれば災害級脅威のデーモン・ジェネラル。
それを恐怖させた魔王種のバーサーカー・ダーク・ナイトさんも雑魚ですか。
「「「「うわぁあ」」」」
闇魔界の炎とやらはアズリたんには全く通用しなかった。
「……貴様、それが精一杯か? 余の城で仕えておる給仕達でももう少しマシな魔法を使えるぞ」
あの城のお手伝いさんそんな強いん?
「あれが、魔王様の力?」
「ふふん! そうよ! アズリたん様は凄いんだから! 私はアズリたん様の友達なんですけど?」
それ、なんの自慢ですか? という事を涙目で語るアステマさん。デーモンの二人は心に大きな傷を負ったらしい。
アズリたんに力の差を見せつけられたバーサーカー某さん。
アズリたんの家来になるという事で、事なきをえた。
そして、必要だった素材である鎧を置いていった。
「アステマ、あと必要な素材は何があるんだ? アズリたんがいる安心感はハンパないけど、いいかげんここからお暇しないと、狩猟くんとお前さんのアイデンティティが失われそうで俺は心底心配だよ」
アステマははっと我に返る。
そして、メモを取っていたらしく前に貴族に飼わせたポシェットからそれを取り出した。
「そうね……最後はコカトリスの羽を回収すれば終わりね! かつてその羽を奪いに来た冒険者と周囲の魔物ごと街一つ石に変えたという事件は、デーモンである私でも夜眠れなくなるくらいには覚えていたわ。ふふん、今となっては子供騙しだけど」
コカトリスか……RPGゲームやMMOで定番のレイドボス。
そうそう、石化させる厄介な魔物。ドラゴンやワイバーン、グリフォン等と並び最上位の聖獣や魔獣だ。
まぁ……その前に世界滅ぼす級のドラゴン(アラモード)見てなければ感動もしたろうにな。
俺の想像と変わらず、アステマの言う感じではコカトリスは下位っぽい。
大体ドラゴンが最上位で、その下にグリフォンやリヴァイアサン、その下にワイバーン、スフィンクスときて最下位にコカトリスとかがいるんだよな。
石化って普通に考えると相当やばいんだけどな。
テクテクと狩猟くんについて俺たちはオヤツのベコポンなんかを齧る。
動物園への遠足気分でコカトリスの巣へと向かう。凛子ちゃんの作ったコンソメもクソうまいな!
俺はある事に結構前から気づいていた。狩猟くんの様子が相当緊張しているという事。どうやら、コカトリスは相当な危険な魔物という事なんだろう。まぁアズリたんがいるし大丈夫か。
「アズリタン様、マオマオ様ならご存知かと思いますが、コカトリスは幻獣種。魔物や精霊、神性の力を持つ者等とは一線を画す存在。唯一王種の天敵になりうる神の手下です」
「クハハハハ! 知っておるぞ! 前にクラーケンとかいう巨大なイカを食ろうてやろうとしたが、あれは中々面白かった! 余が唯一食うことが出来なんだ者だったな! クハハ、再び合間見えたいものよ!」
おっと、今日はフラグを立てる人が多いなぁ……
アズリたんが倒せなかったクラーケン。絶対に出会いたくないな。
「そういう事です。ただ、コカトリスはクラーケンよりは下位の幻獣種とはなりますが、あらゆる存在を石化させるその力は脅威です。自分もコカトリス討伐は初めてで……危険だと思えば即撤退しましょう。自分でも倒せなくはないんでしょうが……」
狩猟くん、そんなところで見栄を張らなくていいよ。
「そ、それ大丈夫なんですか?」
「ま、全くコカトリスごときで焦っちゃって……馬鹿なんだから……ねぇ主?」
流石に凛子ちゃんもアステマも不安がる。
これはちょっと、退避した方がいいやつだわ。
村おこしの為に命懸けとか洒落にならんだろ……。
しかし狩猟くんは自慢の魔剣を構え、再び炎を纏わせた……。
……いや、バレるだろう。ほらバレた! 大きな岩穴を巣にしていたコカトリスがけたたましい声をあげて威嚇する。
俺は凛子ちゃんだけはなんとしても守らないといけないのでユニオンスキルを使用する。余談ではあるが、スカートタイプのローブ。足元スースーしすぎだろう。JKって冬とか足寒くないん?
俺の思考が一瞬遠くへ行っていた時、狩猟くんが飛び出した。
デーモン・ジェネラル、災害級の魔物の彼。
おぉ、マジか! コカトリスの息吹を受けて瞬間石化する。
さぁ、逃げようと思うが予想通り。
「クハハハハ! 貴様ペットに欲しいぞ!」
我らがアズリたんが仁王立ちでコカトリスの前に出るとそう叫んだ。
「おい、アズリたん! そいつの息吹を食らうと石になるぞ、気をつけろ!」
俺の注意を聞いてアズリたんは何処で覚えたのか親指を立てて俺たちに見せる。
……大丈夫って事? 魔王だし、石化耐性あるんかな?
俺の安心に対してアズリたんはコカトリスの石化ブレスを受ける。そして俺の袖をちょいちょいと触れるアステマ。
「ねぇ、主。アズリたん様手加減しているのかしら? 石像みたいになっているのだけれど……大丈夫よね?」
いやぁ……知らんがな。
アズリたん。
狩猟くんと並び、見事な石像になって立派に聳え立つ。
そして、コカトリスは俺たちを見ると羽を広げ、コケコッコー的な鳴き声をあげる。
……当然、俺たちはクルリと背を向けて全力ダッシュ。アズリたんを心配する凛子ちゃんに。
「凛子ちゃん、アズリたんは多分魔王だから大丈夫! 今は逃げるよ」
俺は目眩しの初級魔法フラッシュを連射しながら走る。
「ねぇ、主。もしも、もしもの話よ? このままあのコカトリスに全員石化させられたらどうなるのかしら? ふふん……ま、まぁ! 私の必殺の魔法があればあの程度の幻獣種なんて大した事ないんだけれど、アズリたん様も石化しちゃっているし、幻獣種をどうにかする前に……ねぇ? 幻獣種はいつでもどうとでも出来ると思うの! でもその前にアズリたん様をお救いするのが私たちの仕事じゃないかしら? だってそう! 友達。友達じゃない!」
要するにアズリたん頼みなわけだ。
……わかるけどさ。
正直ミイラ取りがミイラになるだろそれ……
今にも泣き出しそうなアステマに俺が答える。
「いや、あんな化け物アズリたんくらいしかどうにもならんのは分かるけど、あいつの近くに行ったら石化どころか瞬間お陀仏だろうよ。俺は初級系の攻撃魔法と中級系の補助魔法しか使えない。上級以上相当はユニオンスキルだけど、全体補助が多数だし、グラトニースキルもこの人数だと大した事はない。かたやお前さんは上級魔法は使えるかもしれないけど、それを超える狩猟くんの魔法が通用しないわけでもう完全にお手上げでしょうが、友達であるアズリたんはあれだ……多分大丈夫だろうから一旦オバキルさん達にヘルプだろ」
俺の当然というべき判断を聞いて、凛子ちゃんもアステマも従い全力ダッシュ。何気に誰も狩猟くんの心配をしていない。
いや、ほんと異世界最悪だなマジで、凛子ちゃん体力あんなー
やっぱ現役学生は違うわぁ……それに比べてアステマさん。
「ねぇ! ちょっとぉ、待ってぇ……はぁはぁ、もう……走れない……」
「羽使ってとべ! なんの為の羽だよグレーターデーモンのアステマさんよぉ。とりあえず精霊の加護かけてやっからがんばれ」
「羽、そうね……あっ!」
アステマ、足元の小石に躓く。
……縞パンを見せながらすっ転ぶその姿もなんか腹たつ。
目の前にはコカトリスが大きな口を開けている。
「あわわわわわわ! た、助けて貰ってもいいのよ! 破滅の女神ダントリオン、闇魔界のアズリたんさまぁああああ!」
多分、魔物の中での神様仏様みたいなやつか? にしてもヤベェ!
「アステマ、前! 前! 早く逃げろ! 石にされちまうぞ。なんでもいいから魔法使って逃げろ!」
俺の悲痛な叫びが木霊する。
まぁ、アステマのどんな魔法を使ったところで、コカトリスには効かないし。
「いやぁああ! こんなところで……まだ死にたくないんですけど! コキュートス・スレイヤー!」
アステマが咄嗟に唱えた氷の魔法。ドリルみたいな氷柱を360度から打ち込むやばげな魔法。
「……あ、アステマ……今の魔法。コカトリスに効いてないか? というか、お前いつからそんなすげぇ魔法使えるようになった?」
俺の言葉とコカトリスが怯んでいる状況を理解し、余裕のポーズを取るアステマ。
「ふふん。主。いつから私が上級魔法程度までしか使えないと勘違いしていたのかしら? きっとデーモン達の故郷、バンデモニウムに来たからかしら? 魔法の力が漲るのよ! 私がアークデーモン、いいえデーモン・ジェネラル。果てはロードになる日も近いわね!」
……すぐ調子に乗る。
「で、でも倒せそうにないな……」
コカトリスにダメージを負わせる程ではないらしい。
とりあえずこの魔法連射させて逃げよう。
バンデモニウムにまで戻ればわんさか強力なデーモンさん達がいるわけでそこまでいければ助かる。
……が、
「とりあえずアステマ、その強力な魔法を使い続けて後退するぞ! 俺が加護をかけ続けるから、コカトリスにだけ集中しろいいな! お前だけが頼りだ!」
「あ……主。この魔法はそんな簡単には使ったりする物じゃないの! 馬鹿ね! まぁ私だけが頼りってのはわかるけど……ねぇ?」
あぁ、なるほどな、こいつ魔法力が枯渇してやがる。ユニオンスキルで加護やらつけても回復に時間がかかると……
ちらちらと俺を見ながら苦笑するアステマ、空気読めよ! みたいな顔か?
……なんというかいちいち俺をイラつかせる。
ただ、コカトリスは今のところ、アステマの魔法を警戒してある程度距離をとっている。こいつがもし縄張内から出たら追いかけてこないとか?
そんな感じの魔物だったらいいのになと俺は思ってスマホアプリを見る。
……うん、俺の読みは正しい。
ただし、コカトリスの縄張りはこの巨大な森全てらしいので、バンデモニウムまでは安全ではない……
デーモン達の巣窟が安全ってなによ?
……そんな時、凛子ちゃんが何かを見つけた。
「マオマオちゃん! あれ! アズリたんちゃんが!」
それは石化しているアズリたん。黒い瘴気のような魔素がだだ漏れし石にヒビが入っている。
ヒビが入るやいなや、あとは早かった。卵の殻でも破るように石が割れる。
そう、我らがアズリたんが石化という謎状態異常から自力回復。
背中から影みたいな大きな腕が伸びているので、あれで石化を破ったのだろうか?
…………そういえばこいつ魔王だ。
俺たちとは想像がつかない領域の存在だもんな。
ゲームでも、魔王って即死魔法とか各種状態異常って大体受け付けないもんな……
……アズリたん復活。
おそらくこの地域で俺たちのいるここが一番安全な場所に変わった。
しかしながら逃げるという選択肢はアズリたんにはない。
石化したハズのアズリたんに再びコカトリスは石化ブレス。
がしかし……。
石化しないアズリたん。
どうやらアズリたんは石化耐性をもったらしい。
それに咆哮するコカトリス、嗤うアズリたん。幻獣と魔王の戦い。それはあまりにも一方的だった。
……コカトリスに跨るアズリたん。
新たな家来を手に入れ、ついでに素材も手に入れ俺たちはバンデモニウムに帰る。誰か一人忘れているような気もするが、バカ笑いしているアズリたんにアステマ、一緒になって笑う凛子ちゃんの空気を壊すわけにもいかず、俺は忘れることにした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「お帰りなさい! 魔王様、魔女王様!」
俺たちが戻ってきたのは夜だった。
大勢で出迎えてくれるデーモンさん達。
さすがは魔王様だの魔女王様だのと言ってどさくさに紛れ、プロポーズをしてくる事を除けばデーモンさん達はいい魔物だ。
そして服を作っているデーモンに素材を渡す。
いちいちポーズをとってアステマと意気投合しているのが気になるが。
そんなお出迎えの中、一際目立つ奴がいた……。
デーモンではない。
まさかの、ウチのゴーレム。エメスさんである。女性デーモンさんやサンキュバスさん達の取り巻きが凄いぞ。パッと見イケメン女子だから女子にモテなくもないだろうが……何かおかしい。
……正直ショタ好きのど変態であるエメスが女子にモテてもうざがるだけだろうし、気分良くしているのがなんだが不安しかない。
「エメス先生! エメス先生! マオマオくんがお戻りになりましたよ!」
「……我のマスターのご帰還、心から喜びたり」
普通だ……いや、マオマオくん?
俺は男だからくんづけでもいいが、今はかわゆい魔女っ子だ。
「……エメスさん、なにを吹き込んだのか教えていただけますか? できれば、俺の精神的ダメージが少なめにしていただけると激しく嬉しいのですが」
エメスは一冊の冊子を俺に渡す。
「……さて……男の魔女っ娘の薄い本ね……あー、うん。この子がマオマオくん……やや今の俺に似てますわな? で、魔法実験の為にと捕まえていたオーガやらオークやらが脱走して……ほうほう……で、あーなるほどねぇ……このマオマオ君があーっ! な感じになると……没収と焼却だな」
……こいつ、人が命がけで素材採集中になに描いてくれてんの?
俺は魔物にも腐女子という種がいる事に感銘を受け。
彼女らにエメスが配った物を全て集めさせると、炎の魔法で無かった事にしようとした。
「……マスター、我が描き皆に配った物である事は間違いない。我であればあらゆるマスターの辱めを受ける所存! それ故に、それらは崇高なる共通意識を持ったデーモン及びサキュバスに返して欲しいと心から所望す。クズハラ女史の書物によれば、作者と作品は分けるべきである。どれだけ作者がゴミクズであろうと、作品に罪はなしと記載されり、我の持つ全ての魔素を使い妄想を現実に絵という形で来迎照臨させし罪は、女の子なのにツイているかもしれない! という夢いっぱいの……」
……俺はエメスに賛同する女性デーモンさんやサキュバスさん達がうんうんと頷いているのを見て、成る程としばし考えを巡らせる。
そして、俺はエメスと、彼女の同士達に微笑んで見せた。それにエメスと、他腐女子魔物も照れる。
「ぶっちゃけさ、個人の趣味を否定するつもりは俺は毛頭ありませんが、これは完全に俺を……その付け合わせにするつもりだろうと考えられる。最悪女性陣だけならまだしも特殊な性癖の男性を生み出しかねない危険創作物と認定します」
「ま、マスター! 待たれり! 我の話をもう少しばかり聞きにけり……! あぁ、そんな炎の魔法では……我らの情熱がぁ……」
俺はエメスの作り出した黒聖書を全て消し炭に変えた。
「……む……。無念……」
エメスさんは辞世の句を一人で読み始めたので放っておこう。
姿が見えないと思ったガルンが心配になった……あいつも何かしでかしてるような気がしてならない。エメスはフルーツサンド作りをしていた筈だが、そんなのとっくにできてるだろう。
「……ご主人……こ、これは違うのだ! 少し味見をしていただけなのだ! ……形が悪いものは廃棄するとシェフが言っていたので、僕はもったいないからそれらを食べたに過ぎないのだ!」
もうやだ……あらかた試作のフルーツサンドを食べて丸々としたお腹をしたガルンの前で俺はやる気がロストしていく事を感じていた。




