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デーモン達は厨二病? いいえ、貴族病です。お風呂回ですぞ紳士淑女

 バンデモニウム。

 南の地域でも鎖国状態にあり、唯我独尊、唯一無二の種族である事を誇りとしていたが、昨今若いデーモン達が外の世界に出て行きたがる。

 このままじゃマズイ! だそうだ。

 

「なるほど、それ故、聞いていた話よりもやたらと温厚な感じがよくわかりました。要するに、村おこしをしたいわけですね」

 

 デーモンが面倒くさい種族であることを俺は知っている。

 要するに、割と様々なステータスが突飛していることで元々他の種族と馴れ合う気なんかないわ!

 という運営でうまく行っていたのだけれど、昨今は外に出たがる若手のデーモン達が次々によそのダンジョンなんかに行ってしまった。

 少子高齢化がバンデモニウムでは最近問題視されていて、バンデモニウムが良いところであると知らしめたいらしい。

 だが、こいつらここが南という一番ややこしい地域にある場所で、そんな中でも鎖国していたここに部外者がやってくるなんて事ほぼほぼあるわけないだろう。

 

「マオマオ、アズリタンと魔王種が来るという事、それに……見たところ他の魔物も人間も皆、雌であるという事実。女性が来たい場所として我らのバンデモニウムは突飛しているという事だ」

「フフフ、当然でしょうオバキル」

 

 いやいや、ここには仕方なく逃げる場所がここしかなかったから立ち寄っただけだ。

 

「まぁ、一応……俺は男なんですけど……今は女性と言われても否定のしようがないのでそこは保留しておきます。話は分かりました。お力になりましょう」

 

 俺の言葉に、お酒らしき物が入った陶器の器を持ってくる召使いみたいなデーモン。

 俺たちの盃とオバキルさん、フリーゼさんと俺、そしてアズリタンの四人が乾杯。それをめっちゃ絵が上手なデーモンさん達が描くと号外として周辺域に巻いてくるらしい。

 

 内容は、消失の危機があるバンデモニウムに南の魔王と北の真威王が友情の慰問。

 

「めちゃめちゃ嘘ニュースに巻き込まれてるじゃん」

 

 まぁ、デーモンが交戦的じゃなかっただけマシか……

 

「時に、マオマオよ。どのようにして?」

「どのようにしてとは」

「ふふっ、勿体ぶらずとも良い。バンデモニウムを世界一の街にする事よ」

「えっ……そんなレベルを所望っすか」


 デーモン達の巣窟、バンデモニウム、ギルドの図鑑にも最凶に危険な場所だと記載があり、俺もその認識だった。これを覆すのは骨が折れる。

 ただ、一つだけここが世界一と言っても通るかもしれない強みにも俺は気づいていた。

 野次馬のデーモン、街にいるデーモン。そしてオバキルさんに、フリーゼさん、皆美形なのだ。

 

 アステマはこのバンデモニウムの中にいると、ほんとただの村娘Aだなってくらいにはこのデーモン軍団耽美的なのだ。

 なんかそれが無性に腹立たしいけど、これを使わずして何を使う?

 それに、お洒落に目覚めたデーモンがウチにはいるし。

 

 センスが微妙に良いのもデーモンの特権だったんか……

 俺は用意された果物とかパンみたいな食べ物とかに舌鼓を打っているアステマを手招きした。

 ……アステマさん、超嬉しそう。

 

「何? なになに? 主、私の力をかして欲しいんでしょう!」


 まぁ、そうなんですけど、こいつの承認欲求は本当にアレだな……俺の世界にいたらSNSでバズった後に炎上してえらいことになりそう。

 とんでもレベルのデーモン達の前にアークデーモン如きがという表情のオバキルさんとフリーゼさん。

 そんな二人に俺はアステマの肩を持って紹介した。

 

「今はアークデーモンですが、実際はグレーターデーモンのアステマです。こいつ、俺たちの商店街で服屋をする予定なんですが、このバンデモニウムをファッション最先端の街にしませんか? こいつ、センスいいんで」

 

 アステマは最初こそ、自信満々だったが、言われた意味を理解して……。

 

 当然……。

 

「ちょ、ちょっと主! こんな、神話級デーモン様相手に私が、そんな……服とかを……ねぇ? 主」

 

 何がねぇ? 主なのか俺には分からないが、とことんビビリだなこいつ。

 しかし、このおバカを乗せるのも雇用主である俺の仕事だ。

 

「アステマ、俺はお前に期待してんだぜ? お前のセンスは世界一だ」

 

 自分の声が聞き慣れない高い少女の声というのには閉口するが……。

 みるみる内にアステマは目を輝かせてオバキルさんにフリーゼさん、そして周囲のデーモン達を見渡す。


「ふふん! いいじゃない! 私のセンスを持ってすれば、ここにあらせられる上位デーモンの皆様をより美しくかっこよく演出するなんてわけないわ!」

 

 はい、言質貰いました。

 俺の思い描くバンデモニウムは、ファッション最先端の街であり、ゆくゆくは俺の商店街でも……

 バンデモニウムコレクションを開催する!

 

「オバキルさん、ここって何か催しができるような場所ってないですか? そこでファッションショーを開催するんです。アステマ同様センスの塊みたいなデーモンさん達が独自のコーデをゆくゆくは行えれば、周辺国の人は来ますよ」

「マオマオ様、一つ質問が……それは人間も来ると?」


 フリーゼさん、当然という部分に切り込んできた。そりゃそうだ。ファッションなんて人間が先に生み出した物だからな。

 

「えぇ、当然。人間も多くここに足を運びます」

 

 それを聞いたデーモン達。

 いきなり暗い表情になった。もしかして人間見下してるかな?

 オバキルさんがゆっくりと俺たちに話し出す。

 

「人間は魔物の中でも特にデーモンのことを恐ろしいと思っている。ましてやその巣窟ぞ? 考えでもあるのか?」

「オバキルさん、実はそれに関して俺の商店街も魔物ばかりで経営する形になります。それをゆくゆくは俺が公言する。それが認められれば、俺たちと同盟関係にあるバンデモニウムには問題なく人間の観光が訪れますよ!」


 一旦小休止に俺は酒を一口飲む。凄いな。果物を自然発酵させた猿酒だ。初めて飲んだ。

 

「それを信じろと? 我らにそれを待てというのか? マオマオよ」

 

 めちゃくちゃ怒りまくっている。こいつらどこに沸点があるのか正直分からないな。

 上手くいくかと思ったが、交渉決裂か?

 そう思った時である。アズリたんが口を開いた。

 

「クハハ! これは不味いな! ジュースに変えるがいい!」


 そう言ってアズリたんはジュースに変えてもらうと続きを話した。


「マオマオ達の小さな街。確かノビスと言ったか? あそこでは余を魔王としてされど普通に受け入れてくれる。安心せよデーモン種!」


 そうだった……今の今まで忘れてたけど、アズリたんは魔物の王なのに、普通にみんな接してる。偉そうな小さい子くらいの扱いで……。

 

「魔物の中でも、頂点に座する。闇魔界のアズリタン様が他の地で受け入れられているという事ですか……オバキル、これは僥倖では?」


 フリーゼさんにそう言われてオバキルさんは黙り考える。クソガキにしか見えないアズリたんだが、やはりその影響力はパネぇ……


「よかろう、そのファッションショーとやらに力を貸してもらおうか? 北の魔女王マオマオ」

「ま……、魔女王?」

「絶滅寸前の魔女の中で王種が現れる事ですら稀だが、我が魔女王を名乗る事を認めてやろう……真威王などと名乗りさぞ辛かったであろう」

 

 全く話が読めないが、そう言えば俺が少女の姿だけじゃなくて魔女だったわ。魔女王ねぇ……どっかに本物いそうだし丁重にお断りしよう。

 

「いやぁ、俺はCEOなので、大変ありがたいですが、CEOでお願いします。真威王でも、魔女王でもなく。しーいーおーで!」


 俺のその言葉に、オバキルさんとフリーゼさんは少し考えると不敵な表情を浮かべて盃を掲げた。


「「マオマオシーイー王に乾杯!」」


 なんか腹立つなこいつらも……

 

   







 善は急げである。オバキルさんとフリーゼさんを含み十人程デーモンを選ぶ。

 アステマが全員と似合いそうな服をスケッチする。

 メアリー・アンさんと知り合った事でこいつデザイナースキルが開花してるんじゃないか?

 

「ふふん! すごいわ! こんなデーモンの先達の方々に私が考える服を着てもらえるなんて、主。今回は試しよね? きっとここにメアリー・アンのお店を開いたら凄い事になるんじゃないかしら! 私、天才っ!」


 一応、自分のデザインよりメアリー・アンさんの方が優れていると認めてる。

 しかし、このバンデモニウムの服屋さんもアステマの話を興味深そうに聞いて実に楽しそうだ。

 まぁ、同じ種族だもんな。

 

 そんな盛り上がっている中、エメスとガルン、アズリたんは暇を持て余したのか凛子ちゃんと共にやってきた。

 

「あのぉ、マオマオちゃん、私たちもお手伝いできませんか?」


 マオマオちゃん……まぁいいや。本来お手伝いとか嫌がるガルンとエメスが大人しくついてきているのはアズリたんだろう。

 アズリたんは何にでも興味津々だ。子供か! いや、子供か……


「そうだね。どうせなら、みんなもお試しファッションショーに参加する? あーあと幕内だ!」

「「「「「マクノウチ?」」」」」


 みんながはてな? という顔をしている中。

 俺はまぁまぁ妙案じゃないかとみんなにバンデモニウム名物のファッションショーを見ながら食べる幕内弁当を提案した。


「このバンデモニウム、果物の種類が多いだろう? これを使って何か名物のお弁当を売り出すというのはどうかな? パンケーキとか?」


 俺の妙案だと思ったが、意外と俺の料理のレパートリーは少ない。

 そんな中、現役JKである凛子ちゃんが、素晴らしいフォローをしてくれるのである。

 このバンデモニウムは多くの果物があり、そして主食はパンのような物。それらを組み合わせて凛子ちゃんが提案した料理。

 

「生クリームをなんとかできれば、フルーツサンドなんてどうでしょう?」


 あー、小洒落てるわ。

 俺は食べた事ないけど、ファッションショーにはなんかあってそう。内容を聞くと貴族気質なデーモン達は大賛成。

 

「今後は枢木さんの牧場のミルクを輸入して乳製品は作ればいいとして、今回はバナナを潰してクリーム代わりにして、他のフルーツ挟んで氷の魔法で少々冷やして作ろうか!」

 凛子ちゃんが簡単なフルーツサンドの作り方を知っていたので、俺は今手持ちでできる事を指示した。

 

 ガルンと凛子ちゃんがフルーツサンド作り。

 アズリたんはエメスと一緒にバンデモニウム内慰問。

 そしてアステマは服とファッションコーデを考える。

 

 俺は、オバキルさんと一緒にファッションショーのステージ作りである。

 

 俺、イベント屋とかが向いているのかもしれない。ただ、これは俺が男に戻る事と、クーデター阻止の為デーモンの力を借りる為でもある。

 

「オバキルさん。こういう条件を出すのはなんとも嫌なんですが、今回のこの村おこしのお手伝いの代わりにデーモンさん達の力を、ザナルガラン奪還に貸していただけませんか? もちろん、お礼はこの催し以外にも」

 

 俺の言葉にオバキルさんは突然真顔になる。流石に一戦交えるのは……

 とか考えているとは俺は思わない! ソースはウチのアホデーモン。

 

「我ら、真なるデーモンの力、必要な時……か」


 何を一人で分かった気になっているか、わからないが、こいつらデーモンは頼りにされるのがどうも好きらしい。実際、アステマの数千倍頼りになりそうなのではあるが……

 オバキルさんは腕をあげマントを翻す。

 そして、他のデーモン達を全員見渡す。

 すると他のデーモン達は腕を胸の前に軽く触れて片膝をつく。なんだろうな? この俺たちカッコイイ事をしています感満載な感じ。

 

 こういうの本当にこのデーモン達、昔からやってたのかな? いやぁーやってたんだろうなー……痛いなぁ。

 

 

「デーモンの力を世界に示すとき!」

 

 いや、そもそもデーモンは世界規模で言えば相当やばい系の魔物であると示されているんですよー、あー鎖国してたからそういうのもわからないのかなー、なんか色々痛いなデーモン。

 

「ふふふ、ふはははは! いつか行おうと練習していた号令! 決まったな! 皆の者!」

 

 あぁ、やっぱりこの謎のポーズとか後づけで、しかも割と直近考えたやつだったんだ。すごいなデーモン。

 なのに、バンデモニウムのデーモンさんの盛り上がりやパリピか?

 

 

 そのテンションで、ウォークする為のステージ作りも捗った。







 俺の持ち場であるファッションショーのステージが出来上がる頃、あたりは暗く、夜になった。

 バンデモニウムに来て驚いた事がある。デーモンは夜になるとその力を発揮するのだが、みんな寝るのである。信じられない事実ではあったが、確かにアステマも夜になったらいの一番に寝ているような気がする。

 デーモンは夜が真の力を発揮し、一時的には上位種並みの力を叩き出すが、その分疲労も半端ないらしい。

 よほどの緊急事態しか夜には活動しないんだとか……

 人間の持つ情報ちょいちょい間違ってるよな。

 

「お食事の前に、お風呂の準備ができましたので、お客陣達はお先に!」

 

 宴の準備もしてくれているという事なので、労働の後のお酒をキューっと楽しむもいいかな。なんて思っていた俺。

 先導されて一緒にウチのもん娘やら、アズリたん。凛子ちゃんもぞろぞろついてくる。

 いやぁ、俺、一応二十代の男なわけで、流石に一緒にお風呂をというわけにはいかんでしょう……

 

「それでは衣の方は我々給仕のサキュバス・ジェネラルたちにお任せください。いやーん! 北の魔女王様のお肌、とーぉっても綺麗! どうやってお手入れなさっているんですかぁ? あらぁ! 闇魔界のアズリタン様も、向きたてのヒュドラのゆで卵みたいにツルンツルン! やっぱりー、外の世界はそういうスキンケアの魔道具とかも揃っていたりするんですかぁー?」

 

 原宿とかにいそうな店員みたいなサキュバス。

 いや、というか服を勝手に脱がさないでほしい。



「ここのぉ、お風呂わぁ……とぉーってもキモチイイんですよぅ……ねぇ? マオマオ様ぁ……女の子同士イイコトしましょ……」

「いやぁ……淫魔にもレズっ子っているんですねぇ……まぁ今は俺も魔女っ子なんですけど……男なんですけど……一応」

 

 俺の言葉にサキュバス・ジェネラルさん達に激震が走る。

 何この反応?

 

「何言ってるんですかー! 変身系の魔法でもそこまで見事に女の子になれる人なんていないんですからー! それに私たちサキュバスは本当の性別が分かるんですから……ん?」

 

 凄いスキルだなサキュバスさん。

 きっと俺とは違う意味でエメスが感銘を受けている。まぁ、俺が男であると言う事が分かった途端。

 

「ふ、不潔よ! 北の真威王は女の子の姿で女湯に入る性癖の持ち主ですー! きゃー! けだものぉ!」


 とかなんとか言って駆けていく。ちょ待てよ! 寝込みを襲って操を奪う魔物はケダモノではないんでしょうか?


 俺のよからぬ噂を流されそうなので俺は出ようと思う。

 ……というか、ハナからそのつもりだし、俺は服を着て外に……と思ったが。

 

 

 アズリたんが「クハハハハ! マオマオいくぞ! 広い風呂だ! 余の城の風呂程ではないがなっ! さぁ泳ごうぞ!」


 とかなんとか言って俺を引っ張っていく。俺たちの為だけに準備された浴室内はとても綺麗だった。

 石鹸文化はないらしいが、俺たちはお泊まりセットも持ってきているので問題はない……ないのだが、違うだろう。


 俺は男で成人男性である。


 なのに、エメスはなぜかハァハァと興奮してダメだコイツは……ガルンはお湯を頭から被って犬みたいに水気をブルブルと飛ばす。


 アステマは馬鹿だから、岩に腰掛けて謎のポーズを始めた……。

 

 いや、お前達。恥らいを知ろうよ! そんな中、タオルを巻いてJ K凛子ちゃんまで入ってくる。だめよダメダメ! 嫁入り前の娘が男と浴室に同室とかトラウマ残すだろうさ。

 バシャバシャとバタ足をしているアズリたん。

 

 …………。

 

「えー、皆さん。えー。俺も男である以上、嬉しくない。といえば嘘になります」


 俺の話が始まると皆が俺に集中する。

 

「アズリたん。お前は魔王だ。もう少し礼儀をな。お風呂で泳いではいけません。あと、女の子なので前を隠しなさい!」

「……なんと、余は今まで風呂で泳がなかった事がなかったぞ! 皆手を叩いて喜んでおった!」


 うん、アズリたんの事が好きなのはいいけど、腹心の連中、必要最低限のマナーくらい教えろよ。

 アズリたんがよそで恥ずかしい目にあった時どうするんだよ。

 

 アズリたんが俺の横に来て湯に浸かるので、俺は絞ったタオルをアズリたんの頭に乗せた。

 俺も自分のタオルを絞って頭に乗せる。それを見るとアズリたんは「おぉ! 冠か!」とご機嫌になったので、指で水鉄砲をアズリたんに披露した。

 

 

 さて、なぜかみんな俺の周りで風呂に浸かって顔がふやける。

 この風呂ってのは、地球でも異世界でもたまらんな。

 じゃあ続きだ。ガルンの髪の毛を上げてタオルで結ぶ。

 

「ガルン。お風呂では髪がつくとおゆが汚れやすくなるからこう!」

「ご主人! なんか耳がふわふわするのだぁ! 外したいのだぁ!」


 ダメ! とガルンの頭を撫でて、俺はエメスを見る。

 こいつ、潜ってお湯の中から……ど変態の極みだな。

 

 こいつはもう手遅れなので、後にしよう。アステマさん……モデル気分なんだろうか? 成金の女の人がやりそう。


 岩盤浴というわけでもない。

 単純に自分に酔いしれているアホだから、アステマは比較的扱いやすい。セクシーポーズで自分にうっとりするアステマに俺は言う。

 風呂場でそういう事する奴って「一番、恥ずかしい奴だからな? こっちか見るとかなり痛いぞ」

 

 ………………アステマさん、赤面。やっぱアホだな。


 ざぶんと湯船に浸かり口元まで沈む。

 

「違うの……さっきのはあれよ! 運動、体を柔らかくしてたのっ!」


 どう考えても無理すぎる言い訳だったが、追求しすぎると泣くのでこのくらいでいいや……なんか気持ちいいし。

 

「そうそう、凛子ちゃん。高校生でさ……なんだっけ、そうだ。異世界に課外学習とか最近の学校、相当頭ぶっ飛んでるねぇ……ところで凛子ちゃんは大学受験とか考えているの? ここ最近だと、もしやりたい事があるなら大学より専門学校の方がいいかもしれない場合もあるんだってさ」

 

 俺がそう湯船の気持ちよさに身を任せながら話す。

 すると凛子ちゃん、

 

「あはは……マオマオちゃんはなんかおかーさんみたいですね。実は自分の進路について大学になんとなく行くべきか迷ってるんです」

「そっか、でもさ。そうやって悩んだり迷ったりするのもいいんじゃない? 回り道しないと人生なんて楽しくないよ……」

 

 じゃない! 


 なんで俺、保護者みたいになってるん? 俺はとりあえず我に帰ると浴室からいの一番に飛び出した。





 風呂が終わると食事の準備が終わっていた。

 あのこの館で一番狭いらし部屋。

 そこにこれまた見事な……俺と凛子ちゃんが簡単に料理の説明をしただけで、サキュバスさんとフリーゼさんは料理まで完璧に作ってしまった。

 そして周りを見ると……やはり、野次馬のデーモンさん達がわんさか集まっている。昔、芸人を透けている部屋に入れて生活する様子を見物させる番組やってたなぁ……

 

 見せ物になる居心地の悪さよ。


「あのぉー、オバキルさん、フリーゼさん。あの人たちに帰ってもらえたりできませんかね? 落ち着かないんですけど」


 俺のその質問にオバキルさんとフリーゼさんが顔を見合わせ、

 そして二人して笑い出した。なんだなんだ?


「これは面白いことを言う。このバンデモニウムは鎖国しているから新しい情報が入ってこない。それ故、貴殿らを見物しておるのではないか! 今回は珍しいその国の食べ物も並んでいるしな。我々は連中に分かりやすいようにたべ、語らってやる事が嗜みよ!」

「そうですよ。マオマオ様、これは王種の宿命」

「えっ? えぇええ!」

 

 なんか中世ヨーロッパであったよな。

 貴族の食事見に来る市民。

 

「オバキル様、そのスープという食べ物を食べてみてください! なんとも芳しい香り、是非感想を」


 あぁ、確かそんな感じで茹で卵食いまくった王様がいたなぁ。


「……いや、たくさんあるんでみんなでお祭り的に食べますか?」


 俺の提案。それに一瞬皆沈黙する。

 あれ? 俺は何か間違った事でも言ってしまったのだろうかとそう思ったのだが、我らがアズリたん様が立ち上がった。

 

 …………一体どうした?

 皿を持ち上げてスープを掻っ込む。

 アズリたんは鳥のもも肉みたいな物に手を伸ばした。

 

 牙みたいなギザギザのアズリたんの歯は肉を食うのに適してそうだ。

 そして皆の想像通りそれにかぶりつく。そしてその肉を美味しそうに食べるとアズリたんは言った。

 

「クハハハ! 実に美味い! 何をしておる! 貴様らも食わぬか! 余が許す!」

 

 生粋のパリピ。魔物の王様。アズリたんがそう誘うのだ。野次馬に来ていたデーモンさん達も巻き込んで立食パーティーが始まる。

 気高いというより、やたらと見栄っ張りなデーモンさん達だったが、割と気さくだった。

 

 というか、俺とアズリたんを褒める褒める。

 

 千の言葉を持って、俺やアズリたんの事を美しい、美しいと言うわけだ。アズリたんはまぁ女の子なのとチヤホヤされるのが好きなので喜ぶ。


 俺は……ねぇ? 見た目は魔女っ子。

 中身はできる限り面倒ごとには首を突っ込みたくない成人男性。

 その名は、虚の森跡に商店街を作ろうとしているCEO、犬神猫々。

 

 そう、マオマオ。この名前がまたしてもバンデモニウムでも可愛いだのなんだの好き勝手行ってくれるわけだ。

 ……世の中のお父さん、お母さんに言いたい。

 きらきらネームは子供の心を殺しますよ!


「私は、デーモン・ロードの中でも貴族の出でして、マオマオ様……」

 

 なんかさ、縁談の話とか始まったんですけどー、俺と結婚して、家は小さな家でいい。子供は男の子と女の子を三人ずつ。

 おぉ、えらく俺頑張らないとダメじゃん……

 

 アズリたんの方にも是みよがしに縁談の話をしている。

 ……その場のテンションだけでアズリたんはオーケーしそうだ。

 

「クハハハハ! 愚か者どもめ! 余の婚約相手はそこにいるマオマオだ!」

 

 おっと……そういえばそんな話を初めて会った時に言ってたけど、覚えてましたかぁ……

 てっきり忘れてたと思ってましたよ。

 

 アズリたんのまぁまぁ爆弾発言、北のCEOと南のアズリたんが婚約。

 これは各地域のパワーバランスと勢力図が大きく変わるような事件である。


「フハハハハ! 皆の衆! 我らがバンデモニウムがどこよりも早くこの報告を受けたぞ! それは……バンデモニウムが特別な場所だからだ!」

 

 オバキルさんが勝手に都合の良いようにそう叫んだ。

 すると、デーモンさんに給仕のサキュバスさん達はグラスをかちんかちんと合わせて大興奮である。

 よく考えたらこのバンデモニウム、鎖国していたわけで情報が相当古いのか、いやこいつらパリピだから政治的な話より酒飲めるような話の方が好きなんだろう。

 

 ファッションショーだけじゃなくてこいつらミュージカルでもやらせたら金取れるかもな。

 

「まぁ、皆さん。俺とアズリたんが婚約しているというのはアズリたんが勝手に言ってる事なんで、あんまり……期待せずに」

 

 まぁ、俺の声が小さいからなのか、全然聴こえていないようだ。女の子同士でどうやって後継を授かるのか? とか聞かれてますけど。

 

 …………もう面倒臭いわ。

 

 今、唯一の救いはこのバンデモニウムの甘い植物から作られるお酒が美味しい事くらいか……なんだろこれ? ラム?

 

「マオマオぉ! 踊ろうではないかぁ! クハハ! ここは良い! 今までなぜこのバンデモニウムに遊びに行かなかったのか!」

 

 おおよそ予測がつくのだが……このパリピ気質。

 多分、ザナルガランの連中は知っていたのだろう。


 アズリたんの事が好きすぎるあの国の魔物連中だ。アズリたんにここを教えると入り浸って帰って来なくなる。

 ソースはあれだ。ノビスの街で料理の味を知ったアズリたんがしょっちゅう遊びに来た事。

 

 で、ザナルガランとバンデモニウムが国交断絶してるので、周辺国家はバンデモニウム相当ヤバいところだ! みたいな噂がたったか……


「これはとんでもない大事件ですわ! 愛らしいアズリたん様と、お美しいマオマオ様のダンスが見れるなんて、ふふ、やはりバンデモニウムは素晴らしい」

 

 貴婦人みたいなデーモンの女性がそう言った。さも、バンデモニウムだから俺たちが踊るかのように……

 ダンスなんて学生時代の創作ダンスか、キャンプファイアーのマイムマイムくらいしか知らんがな。

 

「……まぁいいや。踊るかアズリたん!」

 

 よく考えたらこんな大人数での飲み会なんて大学生の頃以来だな。会社組織が無理すぎてフリーランサーだったコミュ障の俺がダンスだ。


「おぉ! 魔王と魔女王のダンス……なんという美しさ! 世界の滅びのようだ」

「これを絶望と言わずしてなんと言うのか! 両手をあげて魔王アズリタン様は愛らしい、それに合わせて差し上げる魔女王のマオマオ様、まさに夜の女王」

 

 なんだろう。

 デーモンのセンス日本語でおけだな。

 アステマさんもうんうんと頷いていて腹立たしい。

 

「クハハハハ! マオマオ、楽しいな! 余は機嫌がとても良い。シレイヌスの奴もここに連れてきてやれば考えも変わろう! なぁマオマオよ!」

 

 絶対無理! あの地雷魔物女シレイヌスさん、今の状況見たら尚嫉妬の炎を燃え上がらせてどえらい事になる。


「あらぁ? アズリたん様の腹心の方でしたか? 私たちのこの気高きバンデモニウムは来るものは拒まず、去る者はどうにかして戻って来てもらう為にこのように宴を開いています。フフフ、歓迎いたしますよ」

 

 フリーゼさん、なんかもの凄い面白いセリフになっているけど、フリーゼさん呼びましょう的なのほんとやめて!

 

 バンデモニウムとザナルガランの大戦争勃発待ったなしですから……しかも今のシレイヌスさんアズリたんより強いとか……

 

「いやぁ……ハハッ。それはまたの機会で、今はこの場所の村おこしが大事でしょう! デーモンたる者、小事より大事を見据え気高く目の前の事にあたりましょう」


 もう俺の言葉も面白いセリフになってるわ。

 うん、これが日本なら日本語でおけ! と言われて詰みなんだろうが、

 

 ……ほらほら、デーモンさん達。凄い嬉しそうですわ。こいつら気高いという言葉好きすぎだな。

 厨二病と言うよりは貴族病だな。

 

 アズリたんの両手を持ってのダンスは終わったが、なんかスッゲー疲れた。またアズリたんが踊り足りないと喚くが……


「アズリタンちゃん、私と踊ろっか? ガルンちゃんも!」と凛子ちゃんがガキどもの相手をしてくれる。

 エメスはサキュバスやインキュバス達に下ネタを披露し……やめろ!

 

 アステマは空の月を眺めながら、果物のジュースを酒に見立てて一口。

 そして遠い目をする。

 時折、何かを考えたように表情をするが、考えている事。


 今の私かっこいい。


 そして目を瞑り少し深酒したような雰囲気を出すが、これは果物のジュースだ。

 こいつ安定的に頭おかしいな。

 知ってるけど。

 

 もしかすると、アークデーモンでありながらデーモンジェネラル以上しかいないバンデモニウムでファッションショーのデザイナー件コーディネートをしている自分に酔っている……実は若いデーモンは嫌気がさして外に出ていっただけなんだけどな。


 しかし、アステマ今回はよく働いている。

 ちょっと褒めてやろうかと俺はお酒を貰ってからアステマが調子こいてる窓際に向かった。

 

「アステマさんよ。デーモンさん達の服作りやら、コーデに関しての進捗はどんな感じかね? 俺たちのステージ側は割と進んでますわ」


 俺がラム酒みたいなお酒を飲みながら尋ねてみると。

 

 絶対、俺が近づいているのを気づいてた筈なのに、いたの主、みたいな顔をする。仕事ができる女のセブンルールのつもりだろうか?

 俺をイラつかせる選手権があれば殿堂入り間違いない。

 

 アステマは、少しだけ残っていたジュースを飲み干す。

 

「主、完璧よ! 今の私は魔王種も魅了するかも。ふふん」


 ちょっと何を言っているのか分からないけど、順調で自信もあるんだろう。


 遠くでガルンとアズリたん、凛子ちゃんがフリーゼさんとダンスをしている姿を遠い目をして眺めている。

 

 お子様は気が楽でいいわね。ふふん、とか思ってんだろう。


「アステマぁ! 貴様も余と踊らぬかぁ! そのようなところでけそけそと飲み食いしておったら病気になるぞ! さぁ来い!」

「……アズリたん様。今の私はこのバンデモニウムでの大役を賜ったのです……ですから」

「いや、めちゃくちゃソワソワしてんじゃんかよ。行ってこいよ。デーモンのみなさんも踊ってるだろ!」

 

 俺の言葉を聞いて、アステマは少し考えると腰に手をやりいつものふふん。

 

「仕方ないわねぇ……みんな子供なんだから、アズリたん様、凛子、今行くわよ!」

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