行きはよいよい帰りは怖いバンデモニウムはウザすぎた
俺たちは巨大な取調室。
バンデモニウムの長であるエンシェント・デーモンのオバキルを前にして固まっていた。
周囲にはデーモン達がうじゃうじゃと。
「洗いざらい語ってもらおうか……。北のシーイー王。イヌガミ・マオマオ。そして、この南の地を統べる闇魔界のアズリタンよ。二勢力が手を組みこのバンデモニウムにやってくるという事……さぁ、語れぃ」
オバキルは今にも巨大な剣を振り上げ襲ってきそうだ。
……かなり、興奮してやがる。
「……いや、ですから、アズリたんのところの城でクーデターを起こした怪鳥の魔物シレイヌスさんによって俺たちは命からがら鎖国をしているという噂のデーモンの皆さんがいるバンデモニウムに匿ってもらおうとやってきて、今に至ると多分、これで五回くらいはお答えしているハズなんですが……やはり信じては頂けない感じなんでしょうか? これ以上お答えできる事ないんですが」
俺がそう説明し、皆同意してくれるのだが、
このオバキルさん……
「……冗談にしては笑えないな。ここはデーモン・ロードとデーモン・ジェネシスの二種、そしてこのデーモン・レジェンたる我、一番下でも特級種のデーモン達しか住む事を許されない南において最高、最大、最強の魔族の集落であるぞ? そこに貴様。魔女たるシーイー王、闇魔界のアズリタンこの二種だけでなく、人間、コポルトガール、ゴーレム、そして……アークデーモン? いい度胸だ」
アステマさん、完全に俯いてますわ。
アークデーモンは人間世界ではかなり危険な魔物だけど、ここだとクソみたいなレベルらしい。
宿題忘れた生徒みたいだ……いい気味だ。いや可哀想に。
「……いや、だーかーらー! この三人は俺の従業員と言ってもわかりにくいだろうから、従者、腹心。好きに考えてもらっていいです。とりあえず俺の集落の魔物ですよ。そして、この人間の凛子ちゃんは、アズリたんの国で保護されてたところを俺が見受け人になったんです。いや、正直魔物の国で保護ってなんだよって俺も思ったけど、これは俺とアズリたんが仲良くなったことで生まれたミラクルなんですよ。いや、ほんとどうした信じてくれますかね?」
この取調室。どんだけ先にオバキルさんいるんだよというくらい長いテーブル、周囲には野次馬のデーモン達。
とって食われそうな感じだ。
シレイヌスさんから逃げる事はできた。
そして、ここにいるデーモン達の桁違いのヤバさは確かにシレイヌスさんも簡単には手を出せないだろう。
要するにそれだけヤバい魔物達だ。
「有象無象共よ……」
デーモン・レジェンドのオバキルの判断。
要するに俺たちの身柄に関してどういう処理がなされるかが今決まったらしい。俺たちは心音がわかるくらいに高鳴りその言葉を聞いた。
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俺たちはとにかく、とにかくダッシュで南に、南へと飛んだ。
アステマの空中浮遊魔法覚えさせて本当に良かった。
南の最南端、バンデモニウム……
「ここがバンデモニウムか……確かにかなり雰囲気あるな、さっきから俺のスマホアプリ起動しまくりでうぜぇから停止させてたけど、お前らがビビりまくっているの見れば十分ここがヤバい場所だって事は分かるわ。これ、ここに逃げ込んで大丈夫か? 速攻捕まって処刑とかされないだろうな」
ドクロと大釜で作られた巨大な門。
“ここより、バンデモニウム。命が惜しくなければ潜るがいい“
「マオマオちゃん、ここ本当に入って大丈夫でしょうか? 見るからにホラーというか……なんだかお化け屋敷みたいな作られた感ありますけど、ちょっと危なさそうだよね?」
凛子ちゃんが冷静に分析しそう言った。
「うん、俺もそう思う。デーモンってウチにも一人いるんで大分アホな種族じゃないかなとか思って、この門みてやっぱり大分アホかもしれないと思ったけど、万が一これがハッタリじゃなくてマジもんのヤベェ連中だったらと俺も思うわけだが、北に戻るにはアズリたんの城を経由しないといけない。退路は絶たれてるんだよ」
俺と凛子ちゃんは頷いてバンデモニウムに入ることを決意する。
「正直な話、俺のユニオンスキルもガルン達も殆ど役にはたたないと思う。凛子ちゃんは課外学習でこの世界に来ているだけだから当然スキルなんてないし、現在単純な戦闘力で言えば俺たちはアズリたん頼みだが……今は力も心も本調子じゃないんだよな。という事でだ! 実に不安要素だらけなんだが、同じデーモンであるアステマ、お前が今一番頼りだ。交渉役ができると思えないが敵じゃないアピールしろよ」
俺に頼られていることを知ったアステマは……
「ふふん! 当然じゃない! 物凄い力を感じるけど私に任せるといいわ!」
「うん。お前のなんの根拠もないそういう自信。普段は死ぬほどムカつくけどこういう時は不思議と勇気すら湧いてくる事には感謝を覚えるわ。ほいじゃあ、覚悟を決めてデーモン達の巣。バンデモニウムに入国するから。アズリたんなんかあったら迎撃頼むぜ。凛子ちゃんは一番後ろに」
……意を決して、俺たちはバンデモニウムの門を潜った。
そして空間が歪む……なんて魔法だ。
そこには…………デーモン達の街が現れた。
「なんだこりゃ! 普通の街みたいだな……普通に生活してる」
「マスター! よく見るといい! 普通の街ではない! 連中の持つ魔法力は測定不可能なレベルである事。……が、我はそこを問題とはしない。そんな事より連中の容姿を見てみるといい。いずれも、シズネ・クロガネの本に出てくるような耽美的な男女と見たり」
「わわ! 本当に美男美女ばっかりですね!」
凛子ちゃんも連れられて驚く。
俺達は、ウチのデーモンを見る。確かにこいつもみてくれはいい。
「……ふふん! 当然よ! 最も魔王種を生み出しているデーモンはその時点で他の魔物達よりも優れているのよ! だからその見た目も私を見れば分かるでしょ! そう! 最高に美しいのよ。神がその美しさに嫉妬して天界より追放した種族がデーモンなんだから!」
その話は本当かよ? とにかく自分達デーモンはいかに凄いのかと語るアステマに俺は言った。
「お前さん、魔王にはなれなかったよな?」
「違うの! 主、私が魔王になれないんじゃないの! 私は魔王にならないだけなんだから! そ、それにあの人間が作った転職表なんて私は信じないんだから! そうよ! 私は今、全てのデーモン達が憧れ、畏怖し話にしか聞いた事のないバンデモニウムにやってきたの! これって偶然だとは私は思えないわ! ふふん、主。ここで私は魔王種になるきっかけを手に入れるかもしれないじゃない! ね? そうに決まってるわ!」
なんか、あまりにも不憫で俺も凛子ちゃんも黙ってアステマを見つめる事しかできなかったのだが……
「魔王は余以外にありえない。アステマ、貴様。魔王になりたいと申すか? シレイヌスのように」
「あ、アズリたん様。違うの! 私は魔王になってアズリたん様達と揉めたいんじゃないの! 魔王種になって……そうよそう! 主の商店街とかいう国で私は服屋の店長なの! アークデーモンで収まる器じゃないでしょ! 魔王種になれば私のお店にもハクがつくじゃない!」
「ほう、アステマは余の友。故に協力してやりたいとも思うが、無理だなっ! アステマには魔王種のルートがないぞ。アークデーモンで止まっておる……が余にも見えぬクラスがある」
アズリたん何者? なんでアステマのクラスチェンジ先とか見えるん?
魔王種にはなれないと断言され泣きそうになるアステマだったが、希望の光が見えた。
アズリたんお墨付きで何か謎のクラスチェンジ先があるという。
「……ほら! アズリたん様が仰る通り、私には魔王種……いいえ、それに相当する何かすごいクラスチェンジ先があるに違いないわ! ふふん、まぁ私も分かっていたの。アークデーモンより上になれる気がしなかったのは何かクラスチェンジに条件が必要だったって事なのよ。一体何かしら? デーモン・ジェネシス、デーモン・ロード? 違うわね。きっと私のクラスチェンジは、デーモンの真祖かしら!」
両手を振ってバンデモニウムに入国するアステマさん
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バンデモニウム、デーモン達の街、普通に楽しそうに生活を営んでいる事がまず驚きだ。
俺のイメージとしてのバンデモニウムはヤバい儀式とか人間の死体とかそこら中に並んでいたりだったが……
紙袋をもって歩いている夫婦かカップルのデーモンがいたり、その辺で油絵? を楽しんでいるデーモン。
子供のデーモンはお花畑で花冠を作っていたり、お母さんデーモンの作ったお弁当を広げ、行儀良く食べ、勉強をしているデーモンもいるな。
なんだここ。
さらにはカフェテリアでコーヒーや紅茶的な物を楽しんだり、ワインらしいお酒をオープンテラスで楽しんでいる初老のデーモン。読書をしている文学少女みたいなデーモンまでいるぞ……
なんというか……平和的なんだが……なんというか、イラつくな。
デーモンは魔族の中でも貴族なんだろうか? アステマは庶民なんで違うか。
ただ、このバンデモニウムに来て分かった事はこいつらの生活がなんだか歯が浮くようなキザな感じであるという事。
そして、当然アステマが目を輝かせる。
こいつはこういう生活に興味があったのか、まぁ一言言える事。
身の丈にあった生活をするべきである。
お前も俺も庶民だ。
とにかく拍子抜けな俺たち。
デーモンと亞人の見分け方って小さい翼があるかどうかなんだよな。ヴァンパイアは使い魔で飛べる。
しかし、デーモンは自らの翼で飛ぶ事ができるのでヴァンパイアよりも上位種としてヴァンパイアから崇拝されていたりするらしい。
そういうところがこいつらを図に乗らせる事だろう。
とりあえず話しかけてみるか……、優しそうなデーモン夫婦だ。
「あのぉ……すみません! ここ、バンデモニウムで間違い無いですよね? 凄い平和そのものな文化的な生活をしていらっしゃるので間違っていたら大変失礼しましたんですけど……えっと、俺達は南の暗国ザナルガランから亡命的な感じで来ました」
こんにちは! ちょっと隣国から観光旅行でやってきました! くらいの軽い気持ちで話しかけてみた。
さぁ、どうなる。
「……えっ! ザナルガランから……」
不安そうな顔をする奥さんデーモン。
旦那デーモンは俺たちを見て、奥さんに何か指示をすると、奥さんは駆けていく。憲兵的なやつに突き出すんだろうか?
いや、この二人でもアズリたん以外は瞬殺されるヤベェ魔物だ。
旦那デーモンが俺を見て話だした。
「……まさか、確かにデーモン種じゃない魔物ばかり、そちらはまさか人間? デーモン種もいるけど、デーモンを名乗るには恥ずかしいアークデーモンだし」
ピキッ!
あっ、アステマさんのプライドがズタズタにされる音が聞こえた。
そして、チラリとみるとアステマはスカートを掴んで俯いて泣きそうだ。わははは! ざまーみろ! 違う違う。可哀想に。
この旦那デーモンはデーモン・ジェネラルという出会ったら俺たちじゃ即死級の魔物……多分奥さんも……。
「えっと……デーモンさん達がとんでもない魔物の種族で、同じ南でもザナルガランと共同歩調を取らないのも知ってます。少しの間だけでいいのでここで身を匿ってもらいたいのですが、そういう文化的な会話というのは可能な物でしょうか? 少ないながら代価も払いますので……」
俺はできる限り下手にでて話してみた。
しかしだ! もん娘という連中は死ぬほど空気を読まない。当然、ガルン、アステマ、エメスは自分より強いこのデーモン・ジェネラル相手に黙っているが、最強最悪のモン娘を俺は今連れている。
そう、魔王アズリたんである。
アズリたんは旦那デーモンに言った。
「貴様、余を誰と心得る? クハハ、南の魔王アズリタンであるぞ!」
「あず、あず……あの! 闇魔界のアズリタン! これは大変だ! 族長様に!」
おいおいおいおいおいおい!
これあかんやつだ! 何してくれてんだアズリたん!
奥さんゴーレムが走って行った先に同じ旦那ゴーレムも走っていく。そしてゾロゾロと集まってくるデーモン達。
「うそ! 本当によそ者……人間もいる」
「本当だぁ! 魔女だ! 魔女がいる!」
強烈な危険度を持つ魔物達が十や二十じゃない。想定百人くらいは集まってきたデーモン達。アズリたんの周囲に魔素が見える。臨戦態勢だ。
シレイヌスさんの件でアズリたんは気が立っている。
しかし、これだけの脅威的なデーモン相手に俺たちを守りながらは無理だろう。というか、アズリたんが俺たちを守るという考えを持っているかすら甚だ疑問なわけだ。
俺はアズリたんを急いで止めようとした時!
「アズリタン様、よくおいでくださいました! お付きの方もバンデモニウムにようこそ!」
えっ? どういう事?
ここ鎖国してたんじゃ?
それも南のザナルガランに従わない無法者デーモンの集落じゃ。
「へぇ、アンタ魔女で北の魔王やってるのかい? しかしその情報古っ! そういうワルがかっこいいのはアークデーモンまでだし!」
「ウケるー! 魔女さん古ーい!」
腹立つけど、まぁなんか歓迎ムードなのでよしとしよう。アークデーモンのアステマは完全に鬱に入っているので後で慰めよう。
「戦闘とか、そういうのカッコ悪いみたいな風潮になって、人間も行なっている芸術とかそういうの、デーモンの方が優れてるって皆さん行なってるんですね」
「あはは、まぁね! 人間ってさぁ絵とかももっさいじゃない? 音楽だってなんか辛気臭いの多いでしょ? それに対して見てよ我々デーモンの作品」
絵画一枚にしても確かに写真みたいに見事だ……だけどこの絵は多分。
「これ、人間の世界では多分評価されないですね」
俺は地雷を踏んだかと思った。
その瞬間、デーモン達から歓声が湧き上がる。
「魔女の人の評価がでたぞ! やはり我々の作品は甲乙つけがたく、人間程度の感性では評価できない程のできだそうだ!」
うわー。凄い都合の良い解釈だな。まぁ極めて凄い上手なんだけどどれもハンコ絵みたいにそっくり。
こいつら、表現するという文化がないから見た物をそのまま描いてんだな。
「いや、まぁでも俺は皆さんの描く絵とか好きですよ。なんなら家に飾りたいくらいです」
これは本音だ。こんな完璧な風景画中々手に入らない。
「ふははは! そうでしょう! そうでしょう! この色々な事に挑戦し、色々いな名物があれば、いつかこうして誰かが訪ねてきてくれると思っていたら、まさか、魔王アズリタン様がおいでくださるとは」
「ぜひ、うちのカフェでランチなど!」
俺は夢でも見ているんだろうか?
アズリたん超人気なんですけど!
そして元気のなかったアズリたんだったがちやほやされ。
「クハハハハ! 良い良い! 皆、全部まわってやろう! 凛子、マオマオ、そしてお前達行くぞぉ!」
まぁいいか。
「アズリたんが言うなら、お言葉に甘えるか!」
デーモン達に何故か人気のアズリたん、というか俺も割と人気が……
“南の魔王に北のシーイー王……ふっ、私のお店流石……魔王級ね“
“なんでも食べて行ってくれ! なぁに、全部無料さ! 代わりにどうおいしかったか全部感想を頂こうか! まぁ、俺の店の料理は全て魔王級だろうけどさ! さぁアズリタン様、マオマオ様! 注文を!“
とか!
“我、デーモン飯店は唯一無二、南の魔王アズリタン様に北の真威王イヌガミマオマオ様に認められし初の店! 魔王種達の舌をも唸らせた茶菓子セットに刮目せよ! その美味さの証明に壁に至るは二大魔王がその味に感心した証明まで残されている!“
“当店魔王様方、認め書き有り“
認め書きとは要するに芸能人のサイン的な奴みたいだ。
「クハハハハ! 良い良い! 喰らうてやろう! クハハ! 認め書き、書いてやろう描いてやろう! いずれも甲乙付け難い良い店である! ザナルガランの先にこのような国があったとは余も知らなんだぞ! 凛子貴様も書くといい!」
「わわわっ! アズリタンちゃん。私もなの? えっと……城東高校、課外学習で来ました。月沢凛子、これでいいかな?」
凛子ちゃんのサインもまたただの人間が初めてやってきたとか言ってたいそう喜ばれた。
バンデモニウムのデーモン達はいずれも自信過剰だが気さくな連中だ。
食事も寝床も用意してくれることになった俺たち、とりあえずザナルガラン奪還作戦を立てて、できればこのデーモン達の助力を願いたい。
お腹もいっぱいになり、宿を経営しているデーモンの好意で一番安い部屋だが空いていたと言われたその部屋は…………本当に一番安い部屋なんだろうかというくらいの室内だった。いや、違うな。一番高い部屋だろう。
明らかに俺とアズリたんを歓迎する準備がなされている料理満載のテーブル。
バスルームにはバラみたいなお花が散りばめられてあり、飲み物も選びたい放題だ。アステマ達はなんかお花の首輪をかけられている。
なんというか、昭和時代の海外旅行でハワイとか行った人たちの映像を昔テレビで見た事があるが、そんな感じだな。ただし、この料理も残り物だと言い張るデーモン。こんな残り物があるかーい!
ご好意に甘えている中。
「南の魔王アズリタン様ぁ! 北の真威王イヌガミマオマオ様ぁ! バンデモニウム首長、エンシェント・デーモンの……このバンデモニウムにて現・魔王種オバキル様がお呼びでございます! 首長の住うデーモン城へ、迎えのデーモンライダー達が来られています。お戻りの際は是非、我がホテルに!」
うまくいきすぎていると思ったが、このバンデモニウムの一番偉い人。
……魔王種が俺に挨拶もないとはいかに? 的なやつらしい。
「ちょマジか、アズリたん。とりあえず挨拶と事情を説明しに行こうか!」
アズリたんは両手をふっていく気満々らしい、街のデーモンと同じく歓迎してくれると思っているのだろう。
アズリたんは今までチヤホヤされてきた。しかも本人も類まれな力を持っている。それがこの前のクーデターで今までの自分の環境と変わった事へのショックを受けていたが……
ようやく元気になったのに、この街の魔王種がアズリたんに対して友好的じゃなかったら……
……アズリたんがまた凹むだけならいいが、アズリたん対最強デーモン。
戦争にでもなったら洒落にならんぞこれ。
俺たちはデーモンライダーの馬車にぱからぱからと揺られる。
凛子ちゃん達は馬車が珍しいのかすれ違うデーモン達に手を振っていた。修学旅行か……
いやぁ……辿り着いた先、これぞデーモンの屋敷と言えるドクロ的な物がぶら下がった禍々しい建物。
そしてゆっくりとそこが開く……アズリたんは笑っているが……そのプレッシャーのヤバさにウチのもん娘達はフリーズする。
“ハイッテコイ!“
声だけでもおそらくなんらかの効果があるように恐ろしさを感じる。
魔王耐性がある俺でもちょっとブルったのだ。この中にいる奴は話がまともに通じる相手なんだろうか?
進んだ先、どれも美形揃いの中で、その中でも絶世の美女といえるデーモンが現れた。
「其方らが、南の魔王……北の真威王……このバンデモニウムの首長オバキルに謁見するに相応しい……フフ、生きて帰られるかしら」
だいぶヤバげな挑発をされているが、それだけの力があるのも確かだ。
“フリーゼ……ヨケイナコトヲイウナ……アンナイセヨ“
フリーゼさんというらしい、この美女デーモン。
フリーゼさん見たらアステマなんて生娘だな……
「かしこまりましたオバキル。この城の最も狭い部屋に通して差し上げます。あなた達にはそれこそが相応しいでしょう……偉大なるエンシェント・デーモンであるオバキルをそこで待ちなさい」
なんか相当歓迎されていない感じなんだろうか?
「ここが、このオバキル城において、最も狭い部屋。会議の間よ。フフフ、狭いわ。とても狭い場所。そして、そのテーブルに並んでいる物はワタクシめからの情けだと思ってもらって構わないわ。このオバキル城で食される物としては下の下、動物ですらそんな物は飲み食いしないと思うけれど、なんたって最低ランクの食材ですから……フフフ」
一番狭い部屋とやらはこの部屋の奥は一体どこだよというくらい奥行きが広い。
動物ですら食べないらしい飲食は超絶ご馳走である。
そして、周りは鉄格子のようで、俺たちを見物しに来ていてるデーモン達がワラワラ集まってきた。
「フリーゼさん、ご案内ありがとうございます。いやぁ……デーモンさん達の住まうバンデモニウム街も凄かったですが、こちらも一番狭い部屋がこんなに広いなんて信じられませんよ! それに動物でも食べないくらいの食事? これが? 俺たちの国や周辺の街だとこんなのは記念日でもなければ食べられないようなご馳走ばかりです。すごく美味しそうな匂いだし、お腹がすいてきちゃいましたよ。いやー! 凄いなデーモンさん達、こりゃ俺たち生活水準で勝てそうにないなー!」
さぁどうだ? フリーゼさんとアステマ超嬉しそう。
薄々気づいていたけど、そう言うことか……
デーモンは見栄っ張りなんだな……絶対この料理とか超頑張ったな。
……しかし何故アステマも一緒に喜ぶ。
同じデーモンだからなのか? 気にしないでいよう。
めちゃめちゃプルプルしているフリーゼさん、尻尾を振る子犬のようだ。
「フフフ。いいのよ食べさない! そんな物でよければいくらでも出してあげますわ。さぁ、食べて感想を言いなさい!」
食べていいらしい。と言う事で年中腹ペコのガルンに頷くとガルンはご馳走に手を伸ばして食べる。
「う! うまいのだぁあ! これ、素朴でうまいのだ! 街で食べる料理とは違って、ご主人達と家で食べるご飯みたいなのだー!」
さて……フリーゼさん……メスイキしそうなくらい嬉しそうだ。
「あなたはコポルトガール。獣人系の魔物ね……全く、その程度の食べ物と言えないもので喜ぶなんて普段どんな物を食べさせられているのでしょう……存分に食べて、どう美味しいかいうといいですよ」
美味い美味いとガルンが言う度に。
ご満悦な表情に変わる。
「タノシソウダナ……ヤミマカイ。ソシテ、キタノ、シン・イオウ。ワレコソガ、エンシェント・デーモン。ジゴクノ、オバキル。ナリ」
来やがった……確かにこのオバキルの魔素量はアズリたん並だ。ヤバい、アズリたんにとりあえず口を開かせないが俺の作戦。
「楽しんでおるぞ! この国の長よ!」
はい、遅かった……アズリたんにそう言われオバキルさんは……
「ククク ソレハイイ……あぁ、この喋り方面倒だ。それより、何をしにバンデモニウムに来たか? クーデターとは見えすいた嘘を言う」
いや、普通に喋れる。というかキャラ付けかーい!
段々、アホらしくなってきた。
「オバキルさん、事実なんですよ。このアズリたんの腹心の一人が、パーティー中に突然クーデターを起こして今に至るんです」
「ククク、他は騙せても我は騙せえぬぞ……南の魔王と北の真威王が共にくるなど、我がよほど外の世界にて接触禁忌レベルの魔物とでも噂されているのだろう……ククク、これだからエンシェント・デーモンになるとこういうことがあるから困る。そうは思わないかフリーゼよ!」
話を振られたフリーゼさん、動物でも飲み食いしない筈のテーブルにあるワイングラス的な物をとって赤い液体を回す。
「バンデモニウムは選ばれしデーモンのみに住まう事を許された場所。強すぎるオバキルを倒そうと手を組んだのでしょう」
なんか凄いストーリーが二人の中では出来上がっているらしい。
それにオバキルは少し困った顔をする。
俺たちの事を有象無象と言ってみたり、多分使ってみたかったのだろう。とにかく、ここに来た理由に関して、なんとかエンシェント・デーモンである自分に用がある体で来た事にしたいらしい。芸能人にミーハーな金持ちみたいだ。一緒に写真撮っただけで友達とか言い出しちゃうんだよなこう言う人。
「まぁ……オバキルさんに用がないかあるかといえば、ちょっとあったり?」
「これが最強のデーモンとなりし我が罪か……よかろう。どうしても! どうしてもと言うのであればこのバンデモニウムの首長オバキル……同盟を結んでも構わぬ」
何言ってんだこの人! と今回は俺はならない!
ありがたく同盟に参加してもらう。
「いや、マジっすか? じゃあお願いしまっす!」
この中で多分、唯一の一般人凛子ちゃんは開いた口が塞がらない。
きっとデーモンってマジで頭悪いとか思ってるんだろう。そしてアステマさんよ、凛子ちゃんと同じ驚き方して自分も凛子ちゃん側ですアピールはよせ。
悲しくなるだろう……もう既にアズリたんはこの会談に飽きたらしく、凛子ちゃんの手を引いてご馳走を食べようとしている
凛子ちゃんもまんざらでもないようにアズリたんに手を引かれる。
あの子は成長したら小さい子を相手にした仕事でもすればいいんじゃないだろうか? 最近保育士少ないらしいし。
アズリたんやガルンで慣れていれば少々のクソガキですらまともに思えるだろうし、ある意味いい課外学習かもしれない。
「じゃあ、バンデモニウムとの同盟、お願いします。今、お支払いできそうな物ってこれくらいしかないですけど」
俺は砂糖を袋で取り出してオバキルさんに渡した。
ワタアメをアズリたんに作ってやろうと結晶にして持ってきた物だった、
「なんだこれは……小さな宝石……塩にしては粒が大きい。よもや毒とは言うまいな? 我には毒など全く持って効かぬぞ? どれぺろりと………フォオオオオオオオ! これは一体! 北の真威王、我に一体何を食べさせたぁああ! これはぁ!」
あんたが自分でぺろりと舐めたんでしょうに。
そしてアンタが食べたものは砂糖だよ!
「オバキル……一体いかがなさいました? この小さな宝石のような物を舐めてから……、毒耐性は私も持って……」
ペロリとフリーゼさんも舐める。
それに呆然と立ち尽くしてから、フリーゼさんはぶっ倒れた。
アステマもそうだったが、この砂糖という白い粉を食べるとデーモンはおかしくなってしまうのだろうか? フリーゼさん、完全にアヘ顔だ。
周りで、俺にも食わせろ! 私にもヨコセ! とデーモンさん達がゾンビ映画ばりに興奮。
「これは砂糖という物で、とてつもなく甘い調味料の一つです。俺は商人でもあるので、同盟の暁にはこちらを送らせてもらいます」
「それは誠かぁ!」
オバキルさんとフリーゼさんは指に砂糖をつけてぺろぺろ。
家でやったらお母さんにめっちゃ怒られる奴だ。
アステマもそうだったけど、デーモンは砂糖を与えたらみんなこんな感じになるんだろうか? 酔っ払ったような顔をして砂糖を舐めている。なんだろう、猫にマタタビみたいだ。
袋で渡した推定一キロの砂糖。
オバキルさんとフリーゼさんの二人で舐めきってしまった。血糖値的な物は大丈夫かね?
デーモンと言ってもパッと見人間みたいだし……。
それにこの食いつき方は異常だ。
今度、ウチのアステマで砂糖がどういう影響を及ぼすのかしっかり実験してみようかな。
アステマが何かを察知したのかブルブルと震えて俺を見つめる。
俺はそんなアステマに微笑んでみせた。何故なら、今の魔女っ子の俺はどうやらアステマの興味深い、或いは好意的な容姿をしているらしい。
そんな俺にオバキルさんが話しかけてきた。
「まさか、北の真威王が魔女だったという事は驚いた。昔はこの南の地にも魔女は生息していたらしいが、力足りず南の地より離れたと聞いていた」
そうだ。俺の一応俺を誘拐した魔法の先生だった魔女クレパスもそんな事言ってた。
魔女は魔物と亞人の中間くらいでどちらからの当たりも強かったらしい。
それ故、魔物も人間も憎んでしまったのかも……
かつてはかなり強力な魔女の集落があったらしいが、巨大隕石の墜落で滅びたとか伝わってるし、
「まぁ、俺は魔女っ子の姿をしているんですけど、実際は成人した大人の人間の男ですから! アズリたんのところの腹心の魔法といか、呪い的な物でこの姿にされただけですので…………あれ?」
オバキルさんもフリーゼさんも野次馬のデーモン達も高度なジョークと思ったらしく大爆笑された。
デーモンやっぱウザいな。




