謀反或いはサークラときどきクレイジーサイコレズ
宴の間でシレイヌスさんが魔法を放ち、瞬間他ニ柱の二人が魔法障壁を張る。
「きゃあああ!」
俺とカイザー・デビルのメイド隊の皆さんも同じく魔法障壁を使う。凛子ちゃんの叫びが無常に響いた。
そしてだ……。
ウチの魔法番長アステマさんはガルンと抱き合ってビビってる。
エメスさんはフリーズ……。
魔法が使えないガルンはやむなしとしてアステマさんよぉ、使えないし恥ずかしいな。
しかし、突然シレイヌスさんが宴の間に魔法を放った事にアズリたんは怒鳴る。
「シレイヌス貴様! 何をしておる!」
「答えでございます」
完全にシレイヌスさんがヤンデレ拗らせたんだろう。
だが、一体アズリたんは何をこの地雷魔物に何を言ったんだ?
「答えだと? 宴を潰すのが答えか?」
「いいえ」
アズリたんが怒っている。
黒い何かが、バチバチと弾ける。魔族専用の暗黒魔法の魔素なんだろう。彼女がアホでも魔王であるという事を再認識させる程に強大な力。
怒っているのに、アズリたんの顔は笑ったままである。それがまたなんというか……やばい。
最上位の魔物だらけの南の頂点であるアズリたんを怒らせたとなればシレイヌスさんもタダでは済まないだろう。
それでも尚、アズリたんに抗うつもりなのか?
「アズリタン様。実に素晴らしい魔素量です。底がまるで見えない」
実際そうなんだろう。このガキんちょが魔王と言われる所以だ。
「これでもやるのか? いや、やるのだろうな? シレイヌスが余にそんな態度をとったのは初めてだ」
「そうですね。私でも驚いています。数日前の私であれば、今の私を殺害する程に憎く思った事でしょう」
シレイヌスさんも魔法力を高めているのだろう。この人も規格外の化け物だけど明らかにアズリたん程の魔法力は有していない。この謀反は失敗する。
「アズリタン様……目新しい物に触れすぎて少し舞い上がっているだけだと思います。アズリタン様には少しお休みが必要なのだと……全ての南の魔物達に平等に愛をくださる貴女様はいつしかおかしくなっている事に気づいておられないのです……ならば私が代わりに……魔王となりましょう」
「何を言っておる」
「言葉通りでございます。私は魔王種です。アズリたん様の代わりが務まりましょう」
あー、完全にダメな方にシレイヌスさんは入ってしまっている。にしても今までこの考えにならなかったんだろうか?
俺たちが来たことが起因だったとしても……
この宴の席でこうなると言うのもなんか話ができすぎているような気がするんだよな。
思えばこの突然の招待もなんか仕組まれてる気がする。
今までの経験上確定っぽいな。
「……貴様、シレイヌス……余は聞き間違えたのか? 貴様が余に代わって魔王になると……そう申したように聞こえたが……聞き間違いか?」
「いいえ、そう申したのです。アズリタン様」
その瞬間、アズリたんから黒い光線が放たれる。
「……あぁ! すごい……魔素をお怒りだけで放たれる。マナ・バーン。久しぶりに見られました」
「戯言は良い。撤回せよ。余の寛大な心にて一度だけは忘れてやろう」
アズリたんは尚笑顔を崩さない。がその笑顔が固まっているように見えるのは俺の気のせいではないのだろう。
「あ、主ぃ! アズリたん様。楽しんでいるのかしら? すごい笑顔なんですけど! 」
アステマが俺に確認するように言った。わかってるくせに……
「違うだろ、ブチギレてんだよ」
そして涙目になりガルンを抱きしめる。
「撤回ですか? いえ、撤回などしませぬよ! アズリタン様。我ら三柱。いずれも魔王種であると言うこと。貴女様が最強であると知っていたからこそ、仕えておりました……ですが、私がそれを超えたらどうなりますでしょう?」
「ありえぬ」
「それが……ありえるのですよ。アズリタン様。私は自身の魔王種を超えました」
「何を馬鹿な」
シレイヌスさんは純白の白い翼を広げるとそこから色とりどりのプレートが彼女の周りに浮遊する。
すごく。なんだかすごく嫌な予感がする…………。
「バーサーク・プレート。私が上位魔王種になる為の古代兵器にございます。体に馴染ませるのにまだ時間はかかりますが……今の時点でもアズリタン様を超えておりましょう! 精霊魔法……フェダウト!」
「……な……貴様……なぜ魔族でありながら、あの精霊王のところの魔法を扱える! 答えよ!」
ノーガードのアズリたんにダメージを与えた魔法……紛れもなく精霊王サマの魔法だ。魔族が使えるハズがない。
「えぇ、憎い憎い。精霊達の魔法です。貴女様に通すにはこの魔法……そしてもう一つ反吐の出る呪文。神よ! このいやしき私に力を与えたもう」
「あれ! アラモードの……」
「そうだ! 神聖魔法!」
俺が咄嗟に叫んだ。魔族であるはずのシレイヌスさんは同時に別種の魔法を使った。精霊魔法に神聖魔法。
そしてそれはどちらもアズリたんの体に穴を穿つ。あの最強無比なアズリたんも何が起こったのか理解できない。
そしてその理解できないという反応はすぐさま憤怒に変わった。アズリたんの両手、そして影から伸びる手が魔法を構成する。
「…………何をしたか知らぬが、シレイヌス。少しお仕置きが必要だ! 暗黒火炎魔法・メギド!」
いや、これ城吹き飛ぶだろう!
「神域第四魔法。セイクリッド・ルナ・エクリプス」
「余の至高の火炎魔法を消しよった……シレイヌス。余は戦いは好きだ。だが……貴様のその力は好きくない!」
「! ふふっ、アズリタン様。おいたわしや、自分の力を上回る魔王が出てくるとは思いもしなかったでしょう? ですが安心ください」
「貴様、舐めておるのか? 余の力がこの程度だと……この程度で余に勝ったつもりか? 笑わせる」
「貴女を打ち倒した暁には私の物として永遠にお守りいたしますゆえ。」
ギリギリと歯を鳴らすアズリたん。これは結構ヤバい事が起きているとすぐに腹心の二人は行動にでた。
そんな二人を見たシレイヌスさん。
「そこのお二人、もし私がアズリタン様を超えた後、どうなさいますか? 私としても優秀な腹心は二柱欲しいところですが」
「シレイヌス。あまり余を怒らせるな……」
アズリタンがそう呟いた。
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「翼がなくても飛べるなんて……アズリタン様は一体なんの種族なのでしょう?」
二人の戦いは上空にステージを移した。
俺たちや凛子ちゃん達がいる場所からシレイヌスさんを離したいと思ったのだろう。翼で飛ぶシレイヌスさんに対して。
アズリたんは魔素で電磁浮遊のように浮かぶ。
魔王種同士の戦いが始まった。東西南北と中央はお互いの王種同士のぶつかりを何処か禁忌としていた。
それを疑似的に俺たちは何故なのか知る事になる…………。
アズリたんとシレイヌスさんは高速で魔法を展開する。若干であるが、アズリたんの方が手数が多い。
ついにはシレイヌスさんの防御が追いつかない。
詰んだ! 勝ったのだとそう俺は思った。
「バーサークプレート……ディフェンスフォルム! アズリタン様。貴女の力もいただきます。これで私は三つの力を得れる」
アズリたんの強烈な破壊の魔法に謎の板で防御。それらは貫かれ、砕かれ、焼き尽くされる。
だがしかし……。
「……余の魔法を喰らっていると言うのか? 面白いっ!」
さらに力を上げたらしいアズリたん。髪の毛が逆立つ。
「…………いくぞ? シレイヌス」
「それが、本気なんですね?」
アズリたんは大量の黒いエネルギーを生み出した。
そしてその瞳には炎が灯る。
「余の至高の魔法。絶対破壊。シレイヌス。これを余は同じ仲間に使ったことは無い。クハハハハ! その邪魔くさい板ごと延々と貴様をバラバラにする。死ぬなよ?」
シレイヌスさんの表情は狂気的に歪む。それは待ってましたと言わんばかりに、シレイヌスさんは自ら突っ込んだ。
合わせるようにアズリたんも突っ込む、そしてぶつかり合った。
シレイヌスさんの白い翼から放たれる弾丸のような羽根。それはアズリたんにぶつかる前に燃え尽きる。
アズリたんは黒い稲妻、黒い炎を撒き散らしながらシレイヌスさんの防御を超えて追い詰める。さらにアズリたんの手元で組み立てられる魔法。
アズリたんは推定、絶対破壊と言ったその魔法をゼロ距離で叩き込むつもりなんだろう。
一応、自分の腹心で特別な一人のハズなのに、本当にぶち殺してしまうんじゃ無いかとちょっと心配だ。
アズリたんは手を出してシレイヌスさんにもう一度だけこういった。
「……シレイヌス。戯れはもうやめよ! こんな事をしても無駄であろう? 早く謝って元の貴様に戻るといい」
「アズリタン様……これは無駄な事ではありません。そして、戯れでも無い。もう私は元の……貴女の教育係であるシレイヌスには戻れそうにありません。貴女をお救いしなければならない」
シレイヌスさんは手を差し伸べるアズリたんの手を、パンと叩いて振り解いた。
それにアズリたんは初めて笑顔から悲しそうな表情を浮かべ、そして今にも泣きそうになり……そして笑った。
「……しょうがない奴だ。一度、シレイヌスは頭を少し冷やせ、殺しはせんが、どうなるかは余も知らんぞ……この大バカめがっ!」
アズリたんの魔法をシレイヌスさんは受けきれない。
綺麗だった翼もずいぶんボロボロに、プレートもほとんどアズリたんは破壊した。流石に今回はアズリたんが取った。
……トドメの一撃が入る。
「アズリタン様、どうぞ! その崇高で、一点の陰りもない暗黒の一撃、破壊そのもの……貴女が貴女様が魔王たる所以の一撃でございましょう? それを受けきれば私が真なる魔王となるに相応しい。さぁ! このシレイヌスめにそのゲヘナを」
「暗黒魔法……破壊線。シレイヌスよ。余の力の片鱗を見るという事。数多の苦しみの果てに反省するがいい! ゲヘナ!」
それは小さな黒い光。ただし強烈に輝く。
俺たちはそれを目視できず、アズリたんの腹心二人が前に出る。
相当ヤバい魔法だということだけは分かった。
瀕死のシレイヌスさん死んだんじゃ……
「苦しむがいい! それは余を悲しくさせた貴様への罪である。慟哭するがよい。余は貴様もディダロスもウラボラスも皆同じく大好きである! だからこそ貴様はその痛みを忘れるでない! 貴様が魔王になるなど不可能であろう! 後悔するがよい! 暗黒の魔法は余その者である! 闇魔界に触れるという意味を……踏み込む事の愚かさを知れっ! シレイヌスよ!」
……完全にオーバーキルじゃ無いだろうか?
もうシレイヌスさんの影も形も俺たちは認識できない。
「……シレイヌスよ。反省ができたか? 余に逆らうとこうなるのだっ!」
アズリたんは圧倒的な力を見せつけてシレイヌスさんを跡形もなく消し飛ばした。
それに、クハハハと腰に手を当てて笑う。
そんなアズリたんが吹っ飛んだ。シレイヌスさんがアズリたんの魔法の光の中からシレイヌスさんが......バチんと現れた。
「……凄い。凄い。凄い! これが魔王の力……危なかった! バーサークプレートの殆どを使って解析できました。その力を取り込むのに随分時間がかかりましたが、流石に魔王であらせられるアズリタン様の力を受け切るのは賭けでございました。ですが、このシレイヌス。その賭けに勝ち。貴女様の力、魔王の力も完全に取り込みました。もう、私にはアズリタン様の魔法は通じません。旧世代の魔王であるアズリタン様、ゆっくりとお休みください」
「余のあれを受けて、無傷だと? 精霊王相手に残しておったとっておきの一つであるぞ!」
アズリたんがそうシレイヌスさんに尋ねたのだが、
シレイヌスさんはアズリたんの質問を無視してアズリたんに近づくと再び吹っ飛ばした。
さらに、アズリたんが放った破壊の魔法の使用準備を始める。




