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魔王城のパーティーにお呼ばれした

 魔王城、謁見の間・ブラックハート。

 

 禍々しくこれぞ魔王! が座る椅子にあぐらをかくように座っているアズリたん。 

 俺たちを見て満面の笑顔になる。

 パンツが見えそうだぞ! 誰かしつけしろよ!

 

「久しいな! マオマオ! 少し会わぬ内に随分姿が変わったな! そしてお前達! 話は聞いておるぞ! あの精霊王をたらしこみ、そして聖女王とやらと痛み分けたとな! クハハ! よきにはからえ!」

「アズリたんも元気そうで何よりだ。この姿はお前さんところのシレイヌスさんにされたんだよ。あっ、そうそう最近、人気のドーナッツってお菓子を持ってきたから後で皆さんと食べてくれ、あと、シェフがアズリたんにカレー粉をってカレーのレシピもあるから作ってもらって」

 

 俺はそう言うと、近くにいたカイザー・デビルという脅威レベルの魔物の子供、どうやらアズリたんの給仕にそれを渡した。

 

 さて、この謁見の間であるが……まぁヤバい。

 アズリたんの玉座の下に並んで二列に立つ魔物。腕を組み目を瞑っているシレイヌスさん、そして、俺をずっと目で追っている……何系の魔物? 鎧みたいな体をしたディダロスさん、そして興味なさそうにしている蛇の鱗みたいな肌のウラボロスさん。

 どっちも、イケメンだ。ちくしょう!


 さて、脅威級の魔物が給仕をしている。

 そして、一つの国くらい滅ぼしかねない魔王種が三柱、アズリたんの下にいる。確かに単純な火力はこのザナルガランが最強国家かもしれない。


「……アズリたんちゃん、マオマオさんはアズリたんちゃんの言う通り同じ国の人だったよ!」

「くはははは! そうであろう、そうであろう! 余の言う事はいつも正しいのだ。凛子よ。貴様も余の客人、今宵の宴は存分に楽しむと良いっ!」

「アズリタン様、今宵はアズリタン様のお客人を楽しませる為に、魔軍鼓笛隊を急遽戻らせました。連中もアズリタン様の前で演奏ができると嬉しさのあまりに涙を流しておられました……僭越ながら、私めも歌など披露をと」

 

 シレイヌスさんは、なんか無理やり話に入ってきた。

 

 ……多分、嫉妬だな。

 

 ルシフェンさんは手を叩き、シレイヌスさんの提案に賛成しているらしいので、とりあえず俺も拍手する事にした。

 俺を見て、仕方なしという感じでディダロスさんとウラボロスさんも拍手する。それにウチのもん娘達も慌てて拍手。


 アズリたんは腕を組んだまま玉座から飛び降りた。

 そして目を瞑る。何だろう、俺たちはこのお子様のお誕生日会に呼び出されたんだったか? 

 主役は余だと言わんばかりに皆の注目を集める。

 



「……シレイヌスの準備に滞りはない。そして歌も中々のものである。マオマオ達よ。楽しんでいくが良いぞ! シレイヌス、頼んだぞ!」


 アズリたんからも絶対的な信頼感を寄せられているらしく、シレイヌスさんは嬉しそうに傅いた。 

 

 

 ルシフェンさんはやはり笑顔で拍手。

 なーんか、この人、嘘くさいんだよな。

 いやしかし、アステマより下位のレッサーデーモンだから自分の身の振り方を考えた結果かもしれないな。


 

「くははは! それでは宴の席に移動しようではないか! 皆の者、無礼講である! 今日も飲み、喰らい! 踊り、歌い。楽しむがいい! マオマオよ。余達、南の暗国と北の国との友好の証であるぞっ! 余達の力を合わせれば長らく勝手に頂点を語っている中央に勝る事も容易であろう!」

「どうどぅ。アズリたん。まぁ、ここと仲良くなる事は俺も大賛成だ。だけど、どこか他の国との喧嘩だ戦争だってのは色々ややこしいからできる限りやめておこうな?戦うより、宴の方が楽しいだろ?」

 

 俺の言葉に他腹心達が反応した。特にシレイヌスさんの顔が怖い。


「……確かにマオマオの言う事も理があるなっ! 確かに戦うのも楽しいが、宴はもっと楽しいものなっ! クハハハハ! 実に愉快である! 余の三柱達は何かと戦を欲するからなぁ! 聞いたか其方ら、戦より宴であるっ!」

 

 それに腹心達は皆頭を下げる。ディダロスさんに至っては娘を見るような顔だ。

 アズリたんであるが、突然俺の前に立ち……俺の乳をむぎゅっと掴んだ。


「ほぉ、マオマオ……見ぬうちに肉付きが良くなったなっ!」

 

 揉むな揉むな……どう考えても別人だろうがよ。節穴を通り越して名前でしか認識してないのか?



 そしてこの戯れにウラボロスさんは目を逸らす、割とウブな魔物なんだな。ウラさんと心の中で呼ぼう。

 俺は昔アオダイショウを飼っていたので犬や猫等、畜生共より爬虫類の方が好きなのである。

 さて……シレイヌスさんは手から血が出る程握りしめて俺を睨みつける。

 

 

「……アズリたん、飯にしようぜ」


 アズリたんは自分の胸に触れて少しばかり不機嫌が顔をするが、飯という言葉を聞いて俺の手を引いて宴の間に案内してくれた。

 そこは数々のご馳走が並び、メイド姿のカイザー・デビルの皆さんが給仕してくれるのだろう。


「ふふん! 凄いじゃない! これこそ、私に相応しい夜の宴ね! アズリたん様の素晴らしいセンスにも脱帽よ!」

「美味そうなのだっ! ご馳走! ご馳走が山程並んでいるのだっ! 僕、こんなにご馳走がたくさんあるの見た事ないのだ! 凄いのだっ!」

 

 うん、確かに凄い。料理のレパートリーはほぼなかったハズの南、俺たちの北で料理の味を知ったアズリたんと凛子ちゃんのおかげだろうか?

 

「さぁ! メイド隊よ! 皆に食前酒を! くはは! 余は酒は好かんからジュースだ! きっとアステマにガルン、凛子もそうであろう。他にはシレイヌス達が好んで呑むシュワシュワの果実酒を! そしてメイド隊よ! 貴様らも呑め呑めぇい!」

「「アズリタン様! 万歳!」」

 

 一人につき一人のカイザー・デビル……さんが給仕。アステマは超上級の魔物にジュースを注がれめっちゃ敬語になりキャラ崩壊している。

 

「……あああ、りがとうございます! とっても美味しいわ! ふふん、さすがはアズリタン様とメイド隊さん達ですこと!」



「クハハハハハハ! いつもの宴も、マオマオが達がおるとまた違って楽しい物よな! これからは余達が北の地に行くという事もよくはないか? のぉ? シレイヌス! ディダロスとウラボラスも隅っこにおらずこちらに来るが良い! ルシフェン! 貴様は給仕ではなかろうが! クハハハハ!」

「我らもアズリタン様同様楽しませてもらっている。確かに今宵の食事は実に美味い。客人達も喜ばれるだろう」

「そうそう。アズリタン様のやる事に間違いはないです。はい」


 二人の言葉を聞いて満足そうなアズリたん。この二人はお父さんとお兄ちゃんだな、娘や妹に激甘の......

 ルシフェンさんもアズリたんに言われてようやくテーブルの料理に手をつけて美味しそうな顔をする。

 

 この中で一人、スパークリングワインみたいな酒をガブ飲みしているシレイヌスさん。俺やもん娘達とアズリたんが仲良く話すのが相当気に入らないらしい。目が合った時の殺意がぱねぇ。

 

「アズリタン様、私は反対でございます! 我ら超魔族にとっての喜びは闘争にあります……中央打破の為に磨いていてきたとはいえ、同盟などと!」


 シレイヌスさん、酒は飲んでも飲まれるな!

 完全に本音が出てしまったシレイヌスさん。


「シレイヌス、貴様。余の言葉に反するか?」


 おっと、売り言葉に買い言葉で喧嘩が始まりそうだ。

 

「まぁまぁ、アズリたん。今日は無礼講なんだろ? お酒に酔って愚痴りたくなる時が大人にはあるんだって! な? そう言うのをしっかりと聞いて判断、時にはアズリたんが折れる事だって必要だと俺は思うぜ。喧嘩せずに楽しくパーティーを続けようぜ! ね! シレイヌスさんも!」


 ほら! 見てみ! ウラボラスさんとディダロスさんの会釈。

 この二人とはまともな仕事をやっていけるような気がするのは俺だけじゃないと思う。


 だが……………。

 

 

 シレイヌスさんとアズリたんはモン娘力が強すぎた。

 自分で言った事だが、

 モン娘力ってなんだ? 

 

「わ、私は嫌なんですぅ! アズリタン様のバカー!」

「貴様ぁ! 余に! この賢い余にば、馬鹿と申したかぁ!」



 走り去っていくシレイヌスさん。

 それに追いかけて鉄拳制裁をしそうなアズリたんを俺は止める。暴れようとするアズリたんに声をかけたのは凛子ちゃん。


「アズリタンちゃん。ちょっと冷静になろっか? シレイヌスさんはアズリタンちゃんが嫌いで馬鹿って言ったんじゃないんだよ」


 めちゃくちゃキレているアズリたんだったが、凛子ちゃんの言葉を聞いて表情が変わる。

 

 スカート握りしめて苦悶の表情を浮かべるのはなんかお母さんに怒られる前の子供みたいだ。


「あやつは! シレイヌスの奴は! 昔から共におって! 余の事を賢いと! 強いと! 素敵であると! 可愛いと! 全ての世界における魔王の中の魔王であると、そう言っておったのだっ! そのシレイヌスが、余を! 余の事を馬鹿と……馬鹿と言ったのだぞ! 余は馬鹿ではない! アズリエルが言っておった。馬鹿と言ったやつが馬鹿なのだと、ならば奴は馬鹿ではないか! それに今日は何かにかけてあやつは馬鹿な行動が多かった! むっ、余は相手を馬鹿と言っても馬鹿ではない!」


 褒めすぎ! 甘やかしすぎ!

 何これ? 女子? 女子小学生の喧嘩か?

 

「それはね? 嫉妬って言うんだよ! 私が来たときもシレイヌスさん、同じ感じだったからわかるよ」

 

 経験者は語るか……あからさまだからな。


「嫉妬だと? 凛子よ。余にわかりやすく説明せよ! 余は難しい言葉を好まぬ! 知らぬわけではないぞ!」

「ふふふ、アズリタンちゃんの事が大好きだから、私やマオマオさん達にアズリタンちゃんが取られるのが嫌だったの」


 

 ……解決かな?

 

 

「くはは! そうで合ったか! 憂い奴め」


 アズリたん様復活。

 あとは、この状態でアズリたんにシレイヌスさんを迎えに行かせれば完了。

 モンスターにも地雷系の女の人っているんだな……気をつけよ。

 

 

「では、余があの余の事を好きすぎて馬鹿になってしまったシレイヌスの奴を連れてくる事にする。貴様達は宴を楽しんでいると良い! 貴様らは“げすと“というやつだからの!」

「私も一緒に行こうか? アズリタンちゃん」

 

 凛子ちゃんがそう言うがアズリたんは断った。


「これ以上は友の手を煩わせる余ではない! 凛子もここにいるといい」


 あれだな。初めてのお使いに付いてくるなと言う子供だ。

 凛子ちゃんまじ天使だな。


 とてとてとてと走ってシレイヌスさんを追いかけるアズリたん。言われた通り俺たちはここで待とう。

 この騒動に演奏なども一旦は止まったが、ディダロスさんが指示し再開。

 ウラボラスさんはウチのモン娘に名物なんかをお勧めしてる。

 この二人、なんか気苦労が耐えなさそうだな。ルシフェンさんは……この人食事楽しんでるわ。

 

「アズリたん大丈夫かな?」


 俺の心の声が出てしまった。


 給仕係のカイザー・デーモン。そして腹心のニ柱も同じ心配をしていたようだった。アズリたんは魔王かもしれないが、かなりのガキんちょだからまだツンツンしてるシレイヌスさんにブチギレそう。

 

「大丈夫ですよマオマオちゃん。まだまだ小さい子みたいに見えて、アズリタンちゃんはここの王様としてしっかり頑張っている姿を私もここにいる皆さんも見てきてるんですから!」


 凛子ちゃんの言葉に魔物達は皆共感し、隣にいる相手と乾杯した。

 なんの乾杯だろう?


 俺、年なのかな? 分からないわーこのノリ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「おい! シレイヌスはおるか? どこだ姿を見せよ!」


 アズリたんは魔王城の中を探す。

 時折声をあげて、他の魔物に出会えばシレイヌスさんの行方を聞く。


「全くあやつは、余と違ってガキだからの! 同じ時に生まれ余の為に生きていく誉れ以上に何を求めると言うのか……てんで分からぬな。まぁ、そこがあやつの可愛げとも言えるが、今回はビシッと余が言ってやらねばな! 甘やかしすぎたわっ! クハハ!」

「アズリタン様……私はここです」

「そこにおったかシレイヌスよ! 貴様、余が好きで周りにあんな態度をとっているのであれば先に言わぬか!」

 

 それが言えないから今こういう状態になっていると言う事。


「アズリタン様……私の為にわざわざここまでおいでくださったのですか?」

 

 アズリたんはうむと頷く。


「貴様と余の仲ではないか! さぁ、宴に戻り皆に謝るといい!」


 アズリたんはそう言ってシレイヌスさんに手を差し出す。

 

 そんなアズリたんの手をシレイヌスさんは握ると微笑む。

 かつて、こうしてアズリたんとよく手を繋いで歩んだ物だと思い出した。

 

 シレイヌスさんはアズリたんに尋ねた。


「アズリタン様……お尋ねしてもよろしいでしょうか?」


 アズリたんは楽しそうに歩きながらもちろんそれに頷いた。

 シレイヌスさんは魔王軍の大将軍として自らのやるべき事について語った。魔王軍は他国制圧の為に力をつけている。

 アズリたんにはその気持ちはもう無くなってしまったのか? かつて協力した事もあった他国かもしれない。

 だが魔王とは……魔物達の王であり、魔族の頂点。アズリたんを筆頭に超魔族の責務は滅びではないのか?


 闇魔界と謳われた魔王。

 アズリたんは一部始終シレイヌスさんの言葉を聞いた。

 

 そして、アズリたんはそれに自らの考えを語った。

 破壊、闘争、魔族の本質について大いに構わない。自分自身も戦いより滾ることはない。

 だが、滅びはない。滅びの先に何があるか?

 


 北のCEOマオマオと出会い。美味しい物を食べて知った。

 そして凛子に色々な事を教わり、余は人間という物の底の深さを知り、もっと学ぶに足ると確信した。

 そして、それは南にも大きな憂いを与えるであろうと笑った。

 

 

 その言葉を聞いてシレイヌスさんは微笑む。

 

 

 

 そして、ゆっくりとアズリたんが握る手を離して、宴の間へと戻った。

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