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今日はオフ! みーんな一斉に休暇なのだ!

 月沢凛子、ただの女子高生は異世界。

 魔王城にいた。


「ほぉ…………余にそっくりな服を着た人間がいると聞いたが、凛子。其方は何者だ? 答えよ! クハハハ!」


 豪華な玉座に座った愛らしい女の子は立ち上がる。彼女は魔王アズリタンと言うらしい。

 アズリタンの両隣には確かに魔物らしい数人の姿……。

 

「わ、私は異世界生活体験校外学習で……気がついたらここに」

 

 昨今可決された異世界への生活がどんなものか安全な添乗員と共に体験。

 夏休みを使った校外学習のハズだったのだが……

 

「ええい! アズリタン様。こんな人間殺してしまいましょう! 人間の分際でアズリタン様と同じ衣を身に纏う等、羨ま……いえ恥をしれ人間!」

「でも、これは制服で……なんか、とんでもないところに来ちゃったな……あのお願いですから殺さないでください」

 

 美人の白い羽をした魔物は不愉快な顔でそう言うが凛子は何とか命ごい。

 もしかしたら無理かもしれないと内心思いながら。

 

「よし許そう! 余と同じ服を着ておるとは、これも何かの縁であろう、凛子は余の客人である。丁重にもてなすと良い! クハハ! 愉快、愉快!」

「アズリタン様っ!」

「シレイヌスよ。余の決定に不服か?」

「いえ……仰せのままに……凛子……様を誰か案内せよ」


 物凄い睨まれていると思っていたら、ぴょんと玉座から飛び降りたアズリタンが凛子の手を握る。


「余が案内しよう!」

[491658456/1646280370.jpg]

 ……あっ、この手が多分、自分の命綱だと思いながら……凛子の異世界生活が人知れず始まった。

 


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 さて、商店街も出来上がってきた。

 

「マオマオ様、なぜガルンちゃんに能力低下の魔法をかけているのですか?」

 

 スラちゃんが、疑問に思うのも仕方がない。ガルンはまぁ子供である。

 遊びたい盛りなのだ。

 ここには年上しかおらず精神年齢だけは同じくらいのアホのアステマがいるが、アステマはその辺を走り回って遊ぶなんて事は絶対にしてくれない。結果として遊び相手はノビスの街の子供達となる

 

「素のガルンだと、身体能力高すぎて怪我させちまうかもしれないからな」

 

 成る程と、スラちゃんは頷きながらガルンの為のお弁当を用意していた。パンにハムやら野菜やらを挟んだサンドウィッチ。

 本日は全員、オフという事にした。お休み、何でも好きな事をしていいと俺は伝えた。というか仕事はするなと……いつかしか、休みもないブラック企業と化していた俺たちの拠点。皆気にしていないが、俺が死ぬほど気にしていたのだ。

 俺を含めて、スラちゃんもホブさんもプレアデスも自分の仕事が好きだ。そして残りのモン娘は仕事だろうが休みだろうが関係ない。そう言った環境が休みを有耶無耶にしていた。


 俺たちの作っている商店街という物は店々によって生み出される生き物のような物なのだ。

 俺たちは休みなくそれに命を吹き込む準備をした。そしてそれはもう完成しつつある。

 プレオープンを見て、実際のオープンまでの調整。

 

 あとは勝手に盛り上がっていく。俺がやる事は各店舗の品質チェック。

 近しい店の定休日をずらしていく事で人の入りを無くさないようにする。

 何なら商店街全体の大きな休みを作ったっていい…………。


「最初はこんなところで商売……なんて不可能だろうとすら思ってたんだけど、いざやってみたら不思議と同じ志で働いてくれるスラちゃんやホブさんのような人というか魔物が来てくれて、今に至るわけだな。これはこれで、完成すれば殆ど自動化して収益を計算するだけというつまらない仕事になりそうだ」

 

 そう、俺が一番驚いていた事がここである。なんだかんだ言って商店街作りは楽しかったのかもしれない。

 目標が達成されようとすると物悲しくもあった。


「マオマオ様、実に今も楽しそうですからね! 最初は人間なのになんて気を遣ってくれる方何だろうって思いました。でもそれは間違ってなかったようです。魔物も人間も差別しないマオマオ様と一緒でみんな楽しいんですよ! 当然、私もです……これは、皆さんには内緒ですよ? ふふっ……」

 

 わざわざ人間モードの姿でそういうスラちゃん。

 そんなんされたら惚れてまうやないかーい! というスラちゃんの言葉に笑いながら俺は俺の最終タスクを思い出した。

 

「こちらこそありがとう。でも、商店街の完成が終わりじゃなかったな。ここは魔物が働く街だって事を……みんなに教えなければならない。それでいて魔物も人間も普通に一緒に生活できるって事を教えるのがゴールだった」

 

 本当に自分でも思うけど、俺は絶対いい奴だ。欠伸をしながら話を聞いてたららしいプレアデスが話に入った。


「マスターくん。そのゴールを時短する為に君は机に置いた南の暗国ザナルガラン、魔王アズリたん殿の城にお呼ばれしにいくんだろう? 何でも、人間を一人預かっているだなんてパワーワードが記載されていたら、同じ人間である君はどういう状況か確認せざるには負えないだろうね。本来他の魔物や亞人ですら足を踏み入れるのを躊躇しているという無法者達の地域、南。そんな魔王と君が友人であるという事実が実に興味深いよ」


 …………。

 自分でコーヒーを淹れて飲もうとするプレアデス。

 砂糖をドバドバ入れるのは苦いのが苦手な子供舌だから。

 

 こいつ一応話はできるよな。

 

「そうだ。プレアデス。一応ガルン、アステマ、エメスがアズリたんの友達だから名指しで呼び出しされているけど、他連れてきてもいいみたいだから、お前さんも行くか? アズリたんはバカだけど悪い奴じゃないからお前も仲良くなれると思うぜ」


 そう聞いてみると手をパタパタと振った。


「それは遠慮しておくよ。何でも魔王アズリたんの見た目は童女らしいじゃないか、大きいお友達でもない限り喜ばないね。そもそも魔王って髭ズラの年配のナイスなおじ様であるべきだと思うのだよ」

「うん、行かないという事ねオーケー」


 そう言って休みという事で、プレアデスはいつもの白衣から珍しくランニングウェアなんかを着て散歩に行くらしい。

 

「さて、じゃあこの格好でおじ様ハントに行ってくるとするよ。普段散歩やランニングをしているコロニーに可憐すぎる唯がくる事でおじ様達は皆思うのだろうね? あのお嬢さんと誰が最初に話をできるのかってさ。でも唯は選り好みなんかしないのさ。誰にでも、どんなおじ様にでも可愛く笑いかける唯。いつしか娘ほど歳の離れた(※見た目が)ような唯に若かりし頃の情熱をおじ様達は

向けるのさぁ」

「オタサーの姫みたいに散歩仲間のサークルクラッシュするなよ!」

「何言っているんだい? 唯を取り合っておじ様達が戦う姿なんて燃えるじゃないかい。唯を取り合って揉めないで! ってね」

 

 だめだ。こいつを止めなければ俺は後々、見知らぬオッサンに後ろから刺されるかもしれない……散歩やランニングは許可する。

 

 ただし、ゴーレムであるプレアデスは話しかけられても、微笑で頷けと言った。

 プラトニックなところから攻めろと……

 

「全く。マスターくんは中々恋愛のやり取りについて詳しいじゃないか、これはきっとあれだね? シズネと同じで疑似恋愛を楽しむ架空の存在との恋愛をする乙女ゲーとやらばかりしていた口か」

「違いますけど。俺はギャルゲーですー! あー、だからお前達結構偏った性癖してんだな。いってらっしゃい」


 俺は半ば強引にプレアデスを散歩やらランニングやらに向かわせて、俺も何しようかなと拠点をうろうろしていた。

 

 

 最近は自分の店を持った事で割と真面目に取り組んでいるアステマと奴の店の前で鉢合わせになった。

 白いフリル付きのブラウスにコルセットスカート。

 こういうのはかなり可愛くないと似合わないファッションなんだが、こいつは素材だけはかなり可愛いので似合う。

 それがなんか腹立つ。

 所謂、童貞を殺す服とか検索すればいの一番に、アステマ付きでこの服装が検索されそうなそれ。


 俺を見るなり、簡単なポーズを取るアステマは可愛いねとか言って欲しいんだろうか? 絶対言わないよ? 調子に乗るし。

 

 どうやら、最近気に入ったこの服を作ってくれた仕立て屋のところに遊びに行くつもりらしい。

 手土産もなしで……

 

 流石に恥ずかしいので、お菓子くらいは持っていかそうと

 街まで俺は付き合う事になった。

 

「そういえば、エメスがショタハントするって言って街に行ったわね。あとで合流しましょう!」

 

 いやダメだろそれ! あとでじゃなくて、これこそ事案になる前にエメスのアホンダラを見つけて取り押さえないと……

 こいつらに自由を与えると俺の寿命が比例して減るな。


「まずエメス捕まえような?」

「ねぇ、主……。今の私を見ても何とも思わないのかしら? この服で街中歩くと人間の雄どもがこぞって貢いでくれるのよ! ふふん! 人間の雌達のあの嫉妬に狂った目、おかしくて仕方ない」

 

 ……そんなことして遊んでんの?

 オタサーの姫はプレアデスじゃなくてこいつだぁ!

 早くどうにかしないと、知らん女に俺が後ろから以下略。

 休日という名の地獄の始まりだった…………………


「アステマ、黙って何も喋らない方が可愛いよ」


 とりあえずもう口を開くな。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 …………。

 ノビスの街は今日も平和だ。

 子供達と追いかけっこ的なことをしているガルン、楽しそうだな。

 おっと……その少年を追いかけているよく知るゴーレムさん……

 早急に捕まえよう。

 いや、もうあの神殿に封印しよう。

 今日は確かに全員にお休みを与え好きな事をするといいと言った。

 ……だが、犯罪に手を染めていいとは一言も言ってない。

 嫌がるエメスを俺は子供達から引き剥がしてとりあえず捕まえた。

 

 

 俺に手を繋がれて、エメスはもじもじと恥ずかしそうにしている。こいつの照れるポイントはなんなのだ。あれだけ下ネタ吐き出しておいて、

 

 ………あぁああ、次から次へと


 子供達と遊んでいたガルンにトラブル発生である。どうやらいじめっ子みたいな奴と揉めている。止めないと、と思った俺をエメスが止める。


「……マスタ、少し様子見を所望す」


 今は弱体化させてるし、すぐに大人が出るのもな。

 ここはエメスに従うか、案外エメスも考えているのな! とかは俺は絶対に思わない。だって嬉しそうに眺めている。

 

「……オイ! エメス、お前。あっちの半ズボンの少年を少し様子見してるだろ?」

 

 俺の言葉を聞いて、エメスはいい笑顔で親指を上げた。


 

 違う。そうじゃない。なんか俺もショタが好きみたいになってるじゃないか。

 というか目を離していたら、ガルンがガキ大将に殴られた。

 頭を押さえて痛そうなガルン。

 

 魔物とはいえ女の子を殴るガキんちょはガツンと……

 おおっと、ガルンが殴り返した。そして馬乗りになって殴る殴る殴る!

 

 いかん、これは止めないと!

 俺がそうアイコンタクトを取るとエメスは顎で俺に合図。

 合図の先では、愛らしいショタ二人が相撲みたいな事をしている。

 いや、ほんとエメスはぱねぇな……完全に変質者じゃないか。

 そんな変質者を連れて俺たちはガルンを落ち着かせる。一体何があったのやら尋ねてみると。

 

「この人間のクソガキがボクたちが遊んでいる所は自分の領地だと言ったのだ」


 あぁ……はいはい、よくあるよね。公共の公園とかを何故か自分の所有物のように言い張るクソガキ。


 ……まぁね、クソガキの気持ちも分からなくはない。

 ガルンを殴ったのは百倍返しされたわけだし。

 ちょっと間を持ってやるか

 

「こらこら、女の子を殴っちゃいかんだろ。そしてガルン、男の子をボコボコにしちゃいかんよ。ここは皆んなの広場なんだかな」


 俺の言葉にクソガキは半泣きでこういった。

 

「こ、この広場はお父様の土地なんだぞぉ……だから俺の陣地だって言ってもいいじゃないか……なのに、このよそ者は一回殴っただけで、三十回も殴りやがって……ちくしょう……お父様に言いつけてやるからな!」

 

 おぉ……マジか、このクソガキの、父ちゃんの土地か……

 

 さてどうしたものかと思ったが。

 ガルンは腕を組んで笑う。


「人間のクソガキの父親が何者かは知らないけど、僕のご主人は北の魔王なんだぞっ! なら北はご主人の土地なのだ!」

「ふふっ、なるほど。ならばこの土地にいるショタ達もマスターの奴隷という事か、すなわち我の奴隷と言っても過言ではない……我は、心よりマスターの下僕でよかったと感謝す! さぁ、ショタ達よ我と……」

 

 どこぞの貴族のクソガキは泣きながら走り去っていく。

 

 ……………モンスターペアレンツ来るな、これ。


「おい、ガルン。今度あのクソガキに会ったらごめんなさいしろよ!」

「しないのだ! 僕を殴る方がいけないのだ! 他の小さい子をいじめる方がいけないのだっ!」

 

 ガルンはより幼い子供達に人気のようだった。多分、お姉ちゃん扱いを受けるのが気持ちいいんだろう。


「……さてこの子供達のいざこざでアステマがいなくなっている事に今更気づいたわけだが……確か仕立て屋のところに行くとか言ってたよな」

 

 ガルンとエメスを連れてノビスの街を歩く。

 まぁ、いろんな連中に声をかけられる。スペンスパーティに出会ったのでアステマに会わなかったか聞いてみた。


「アステマ? なんか今日はえらくめかしこんで、お菓子屋に行くとか言っていたぜ。とりあえず褒めるまで俺たちの前にいたわ」

 

 あいつ、毎回こんな事してたのか、世の中の読モになる女の子ってこんな感じなんだろうか? 最近オープンした枢木さんの直営ドーナツ店。


「……あー、あの可愛らしい少し変な子? 来たよ来た来た。そうそう。多分、お兄さんがきたら料金支払ってくれるからって、ここのジェントルドーナツを二十個程、砂糖マシマシで購入していったんだよね。一つでも割と高価なお菓子だから最初はもしかして騙し取られたかと思ったんだけど……当店のオーナーの関係のお嬢様でしたか」

 

 ゴマスリしながら料金支払えこの野郎という事か。

 確かにお菓子代くらい出してやると言ったが、際限なく高価な物購入しやがって……俺たち地球じゃ一個百円くらいなんだけど、ここだと材料の兼ね合いで一個千円くらいなんだよな。


「……というか、枢木さんの店の物、ミルクもそうだけどちょっと値段設定がえぐいな。それでも売れてしまうところが恐ろしい。ドーナッツもチーズケーキもたまに食べるから贅沢品として受け入れられるか」


 一部の特権階級にのみ行き渡らないように、これも現在ノビスの街を含めてティルナノと一般の街でしか売られておらず最大二十個を超える買い占めは不可になっている。

 

「アステマの野郎。お土産にこんな高価なドーナツを持っていくとか、もしかして騙されてんじゃないだろうな?」

 

 モデルになりますよ!

 と言われて、AVの撮影でした的な感じでさ……!

 アステマが向かってたその仕立て屋はすぐに見つかった。最近小さな店を出したらしい。

 そしてアステマの叫び声が聞こえる。

 

「ちょっと、メアリー・アン! アンタのセンスどうなってるのよ! ふふん、ただでさえ美しい私の魅力がとんでもない領域に引き上げられているじゃない! こんな服、他の店では見た事ないわよ! これ、その辺で売ってた。どーなつつとか言うお菓子なの。まぁ、大した値段じゃなかったんだけど、少し甘みが足りないと思ったから、とつぴんぐとかいう砂糖を少し増やしてまぶさせたわ! 喜んで食べなさい!」


 えらい調子こいてんなー、今度給料から差し引こう。 


「わー、アステマちゃん。これドーナッツ? えぇ! うれしー! すごく高いやつでしょ! ありがとー! こっちもアステマちゃんみたいな超美少女が服を来て宣伝してくれるから、最近少しずつオーダー入ってるんだよ! だからお礼をするのは私だよー」

 

 どうやら、アステマと仲がいいらしい。

 そして、恐らくだが、この仕立て屋さん、多分地球の人だろう。


「ふふん、当然よ! まぁメアリー・アンがどうしてもお礼をしたい。と言うのであれば私が仕方がなく受けてあげるけど?」

「アステマちゃんはスタイルもよくて小顔だから、あれだね! デニムパンツとシャツだけでも多分映えると思うの。この世界のファッションレベルを貴女となら爆上げできるわ!」


 






 意気投合しているようなので、俺達も顔を出した。

 

「あ、主。いつからここにいたのよ! もう! 紹介するわ。この人間。メアリー・アンが幾らかマシな服を仕立てるのよ」

「わわ…………! は、初めまして、メアリー・アンです。アステマちゃんは開店からのお客さんで、給料が入ると何か買ってくれるんです」

「初めまして、一応この失礼なアステマの雇用主の失礼じゃない犬神猫々です」



 アステマは当然じゃない! とかほざいているが、確かにこの世界の服って国によってやや違いはあるが、バリエーションは少ない。当然、この世界の文化らしい素晴らしい物もあるが、俺たちの国はファッションに関しては完全に先進している。


「確かに、アステマのアホが言う通り、素晴らしい出来の服ですね……しかもかなりお安い…………!」

「でしょでしょ! 主、私の提案なんだけど! メアリー・アンの服は私のお店で扱いたいんだけど、だめかしら? あんまり売れてないらしいのよ。何なら私が全部買ってもいいんだけど!」

 

 友達の前だから、超絶調子こいてやがる。ムカつくけど、今回はありだ。

 アステマの服屋の卸先はここに決まった。俺はこの世界の流儀に倣ってメアリー・アンさんより頭を低くして言った。


「メアリー・アンさん。俺からもお願いします。ウチのアステマと専属契約をお願いします。何なら商店街の出店も俺の方から出資させてもらいます」

「えっ! そんな……ほんとですか? 是非、お願いしたいです」

 

 お互いの信頼性の為に、ギルドに行き手数料をし払ってお互いが信用しているギルドマスターに間を持ってもらい契約を進める。

 現在のメアリー・アンさんの仕立て屋『ワンダー・ラビット』は一号店としてそのまま出店していただき、アステマの店を『ワンダー・ラビット』二号店として運営する事になった。

 

 大量生産が可能なズボンやスカート、シャツ。またリボン、タイの小物。

 オーダーメイドが必要な物はアステマが実際に着て販売。

 

「私よりも似合う奴なんていないと思うけど、ふふん! 少しでも私に近づきたいと同じ服を買いに愚民達が押し寄せてくるってわけね!」

 

 まぁ、そういう感じなんだが、こいつは接客をどうにかせんといかん。

 しかし、アステマはある意味同性に嫌われない。

 あざとさの欠片もなく常に自分が一番! という地雷系女。ふしぎな事に同性に可愛がられる。

 そして、このアホの容姿に騙された男は大抵地獄を見る。

 

「では、メアリー・アン……アンさんでいいですかね? 今後の服の仕立てに必要な材料費は俺に請求してください。新作や試作も含めて、アステマに降ろしてもらって結構ですので」

「ありがとうございます。マオマオCEO、なんとお礼を言っていいのか」


 俺はこの世界に来た地球の人集めれば大体事業成功すんじゃね?

 とか、そんな事を思いながらアンさんに手を振った。

 

「おい、アステマ。今回のアンさんの件は色々言いたい事もあるが、特にドーナッツとかな? まぁ、そこを差し引いても褒めてやる。お前、一応アンさんのブランドを使った取締役になるんだから、ちったあ空気読めよ」

「ふふん、何言ってるのかしら! 私はデーモンよ! 魔素を読むのは生まれた時から得意なんだから」


 そう言う空気じゃないから。

 今日は休みで、こいつらも俺も自由行動なんだが……

 不思議とこの三人なわけだ……


「……おい、お前達。特に予定なかったら、久しぶりにギルドで飯でも食って帰るか? 珍しくノビスの街でこの三人だしな」


 食い意地の張った三人が断る理由もない。

 ギルドの食事も俺たちのテコ入れやら、シェフのヘルプやらでかなりレベルが上がったとは聞いていた。

 

 前は食事といえばここだったのにな。 

 

「マオマオ、それにガルン、アステマ、エメス久しぶりだな。いつも錬金術の要件でしか連絡がこないから寂しかったぞ」

「あはは、すみませんクルシュナさん。とりあえず焼きワインとジュース二つにいつものおつまみを」


 基本こいつらの好きな物は脂っこくて味の濃い物。

 特に肉、そして時点で魚、揚げ物を与えておけばいい。


「そうだ。お前らさ、今度アズリたんのところにお呼ばれされてるだろ? 流石にあのアホの子とはいえ、魔王の城に行くわけだから、ちゃんとしたドレスとか用意しなきゃだな」

「主。それはフラグってやつじゃないのかしら? ふふん! それならメアリー・アンに任せればいいじゃない! メアリー・アンは人間にしておくのは勿体ないくらいよ! 私の専用の仕立て屋何だから!」

 

 いや、お前の専用の仕立て屋ではないから……。

 何ならお前の『ワンダーラ・ビット』二号店。

 メアリー・アンさんがいなかったら成り立たないわけで。

 お前さんは何なら看板でしかない。 


「お前達、お待たせさまだ! 今のところピッツアというウチのギルドでしか食べられない新料理だ」

「チーズとか、ハムとかをのせて焼いてあるパイ料理なのだぁ! うまそうなのダァ!」

 

 おぉ! ピザ、久しぶりだなぁ……一人で仕事してた時はよくMサイズを注文したもんだ。この料理を提案した人。

 まぁ、間違いなく俺たちの世界から来た人物だろうな。

 もしかしたらガチ料理人かもしれないので、今度アポ取りしよう。

 

「うみゃ……うみゃああああああい!」

「確かに美味しいじゃない! このピッツァって食べ物。ふふん! 気に入ったわ」

 

 そりゃそうだろう。お前達の子供舌を喜ばせる要素しかない食べ物だからな。そして何故かニートと組み合わされたり、肥満の比喩として使われる。

 イタリアの人は日本人に怒っていいと思う。

 にしても……これ、マジで美味いな……プロの味だ。


「ご主人、ご主人! もう一枚頼んでもいいのか? ボクはこのピッツアが気に入ったのだ! アズリたん様にも食べさせたいのだ!」

「あー、確かになんか手土産は持っていかんとな……手土産か……というか名物のお土産を俺たちの商店街で作ってみてもいいかもな。饅頭やら煎餅やら……クッキー、チョコレート……なんかインパクトにかけるな。これもおいおい考えるとするか、とりあえずアズリたんにはドーナッツを買って持って行ってやろう。滅茶苦茶好きそうだしな」


 魔物という連中はまともな料理とは疎遠だった為か食への感動がすごい。

 食文化という人間の古からの営みで魔王の侵略を止めてみせたくらいだ。

 さらに言えば俺たちの世界の食文化はこの世界の人間でも舌を巻く。

 それ故に大体、何を食わせても喜ぶのだが、ここは子供の好きなお菓子だ。

 

「ふふん! また、店員に言って砂糖マシマシを頼みに行こうかしあら?」

 








 陶器のデキャンタで出てきたリッケルトさんの所のブランデーを空にした頃、いい具合に酔いも回り、お腹も満たされた。休みだったという事で今日の消費はまぁ多目に見るとするか。

 

「……ふふん! ねぇ主! 私のお店、もっと大きい建物にして欲しいのだけれど! 大繁盛よ! 今のお店だと愚民達が入りきらないわ!」

 

 いるよねこーいう子。想定時から自分の構想は大成功するって感じ。

 昔、論文かなんかの公募に出した瞬間から受賞した際の金額で飲み屋を奢ってくれるとか言う頭悪い友人がいたわ。

 大概、飲み屋を奢ってくれるんじゃなかったかと話をしてみると少し困ったような笑顔を返されて終わるんだ。


 ……さて、こいつの場合は大失敗だったら喚きそうだ。


 

 

 最近来たらしい若い冒険者達がアステマを見て何か言っている。

 それにアステマは自分に興味があると素早く察知して実に機嫌がいい。

 出会った頃に比べて、食事のマナーも大分覚えさせたし、それなりに様にもなってきた。

 


 こんなギルドのレストランで行儀よくナイフやフォークを使って食べている俺たちは最初こそ浮いていたが、併設レストランの出す料理の質が上がるにつれて皆自然と気にしなくなった。

 何なら、最近はノビスの街のマダム達に簡単なテーブルマナーを教える小遣い稼ぎができるくらいだ。

 

 昼食代と貸切費用と、併設レストランとの共同事業であるが……


「……そういえばアステマ、お前、魔王になる夢はどうした?」

 

 アステマは、自分で考えた服を紙に書いてデザイナーの真似事みたいなことをしている中、俺の言葉を聞いて黙った。

 

 

「主……そ、そうね。私の目的は主の持つヘカトンケイルだし、こんな服屋なんてただの暇つぶしよ」

「まぁ、いいけど魔王へのクラスチェンジはアレかもしれんが、ファッションではてっぺん取れるかもな」

 

 冗談で言ったが、アステマは俺の言葉にしばし呆然としていた。

 

「魔王にならずに、頂点に……」


 アステマはミートボールにフォークを突き立てるとそれを少し見つめて口に運ぶ。

 飲み込むと八重歯を見せて俺にウィンク、「それいいじゃない主」とか言ってくる。


 うぜぇなw

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