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東京百合(?)物語

「ここがマスターの生まれし場所……」

「エメス、頼むから黙って俺の言う事を聞いて、静かにしててくれよ。いいな?」

「了か……マスター緊急事態と我、認識せり」

「なんだなんだ? あー、小学生の集団下校じゃねぇか……」


 そう、説明すると非常に面倒くさい事なのだが、俺は異世界に行って九ヶ月が経過したのである。まぁ、俺の名声というべきか、恥というべきか、いろんな事件に巻き込まれた事は同じ異世界にいる地球から島流しにあった人たちにも有名な話題で、是非とも国際異世界移住機関、通称IOWMより俺と俺に近い異世界の住人の話を聞きたいという事で、東京に戻ってきたわけだ。

 エメスを選んだ理由であるが、これは単純明快なのだ。ガルンは獣人である事、どんな病原菌や寄生虫がいるのか、調べるのに時間がかかるという事。

 アステマは、デイウォーカーになったとはいえ、日光には弱い、地球の紫外線がアステマの身体にどんな影響を及ぼすか不明という事。

 そこで白羽の矢が立ったのは、ゴーレム。地球の言語で言えばガイノロイド、メイドロイド、ちなみにセクサロイドという名目も資料にはあった……

 機械である以上、病原菌や寄生虫などの検査は高熱による消毒と簡単な検査で済むという事……

 なんだが……実際はジャンケンにエメスが勝ったのが全ての結果である。どうしても地球のおじさんの情報が欲しいというプレアデスがエメスと結託し、勝利を物したわけだ。

 

 そして今、俺とエメスはロールスロイスの後部座席にいるのだ。そこから街並みを見てはエメスは感嘆していたが、小学生の集団下校、それも半ズボンの男の子を見て身を乗り出していた……という事だ。

 日本人の筈の俺が、なぜか日本国の来賓扱いという事になり、馬車がいいか? ロールスロイスがいいか? というあの海外の大統領の選択を迫られ、俺個人としては白馬の馬車に乗ってみたいと思ったが、自動車を知らないエメスの為に泣く泣くロールスロイスに乗ったのだが、異世界に行くことがなければこんな車に乗る事はなかっただろうな……最高の乗り心地だわ。

 

 

 世界的に有名なロボット工学の学者達、世界中の識者や国のお偉いさんの待つ何処かのホールに連れられた俺たち。

 控室で葛原さんが俺たちを待っていた。

 

「犬神さん、お久しぶりですね! そして、お話に伺っていたエメス様ですね! 初めまして、書籍をお渡ししているからもしかするとご存知かもしれません。葛原と申します」


 最初こそエメスは睨みつけていたが、葛原という名前を聞いた瞬間、男性芸能人アイドルに出会った女子高生のように手を口に当てて感動した。

 

「あのクズハラ女史で間違いないと聞けり?」

「えぇ、犬神さん曰く。()()ハラです。お会いできて光栄ですエメス様」

「……我、感動し言葉がでずと正直に答えり、クズハラ女史……後で何かサインを所望す! 我と、ガルンとアステマとスラちゃん、ホブさん、ドラクルさん」

「えぇ! 構いませんよ!」


 1日目は、質疑応答。俺の話とエメスの話を各国の首脳陣や識者達は大変興味深く伺っていた。そして、ロボット工学の学者達は人間とほぼ寸分狂いないエメスとのコミュニケーションを待ちに待っていたかのように様々な検証を行った。エメスの皮膚組織が一体何でできているのか、エメスを構成するシステムやプログラムの一部はこの地球でも使われているコンピュータ言語を使われている事。このエメスを生み出した者は天才だと皆語っていたが、ほぼ全員が年配の学者であり、若くとも30代である事にエメスの瞳からは段々と正気が失われていく。

 

 そう! そして一番の問題というか、地球の学者達はアンチ・北の変態ゴーレムかもしれないという事。

 

「我はマスターの朝昼晩全てにおける性ど……玩具であり!」

「なるほど! それは素晴らしい!」

「性的な発言を好むエメスさんは、実に生物への興味が絶えないという事ですね」

「これは、今後の人工知能において、素晴らしいアンサーと言えますね」

 

 1日目が終わった後、俺は見たこともないエメスの姿を見た。ポフっと用意されたベットにダイブして下ネタを言うわけでもなく、ただ一言。

 

「我、疲れたり」

「お……お疲れ様、飯までゆっくりしてなよ」

 

 エメスは手をあげて俺に挨拶をするので俺はそっとしておく事にした。

 しかし……エメスは食事の時間になっても俺たちの前に現れる事はなく、姿を消したのだ。

 

 ここまでくるとお分かりだろうが、今回俺は始末書的な物を書く羽目になる。いやいやいや! お前らが呼んだんだろうがと! 声を大にして言いたいのだ!

 この東京という地で俺たちは色々と話を受けたり、検査を受けたりすることがメインではないのだ。


 エメスという淫獣はいかにして東京を満喫したのかというそんな物語である。

 

 


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

  

「我、あのようなところにいると様々な機能がバグると結論付けたり!」

 

 エメスは本来脱出不可能と思われるこの建物のセキュリティをプレアデスが作ったハックシステムで無効化し、さらにエメスを監視する映像に対しては別のフェイク映像が流れるように改ざんし、施設を飛び出したのである。

 

 地球でのエメスの服装は葛原さんが用意した物。ショートパンツに長いソックス、派手なインナーにブランド物のダウンジャケット。

 ギャルを意識したであろうそんな格好、エメスは普通に美女である。そんな女が東京の夜、一人で歩いていると……当然……

 

「ねぇ、君かわぁいいねぇ! 一人? 飯行かね? 奢るよ」

「我に触れるな……」

「暇じゃないの? 何してんの? 教えてよ! 俺たちも暇しててさ」

「暇じゃない、我は貴様らのような老害に用はなし、去ねと申す!」


 そんなエメスにチャラ男君は肩に手を回そうとしてエメスにぶん殴られた。その腕のありえない変形具合と激痛に泣き叫ぶ。

 

「痛ってええええ!」

「ふふ、我に触れる事を許されるのは、マスターとショタのみと肝に銘じておくがいい!」

 

 エメスは、あてもなく街中を彷徨き、夜の帳が下りる時、子供の姿が見えない事はノビスの街と変わりない事を理解し、仕方がなく俺たちのいる施設に戻ろうとした時だった。

 

「や、やめてよ! だ、誰かぁ!」

 

 一人の少女が、先ほどのよう男たちに無理やり車に連れ込まれそうになっている状況だった。助ける義理はないが、エメスは何かの気まぐれでワンボックスカーを蹴り飛ばし、チャラ男達に鼻ピンをして鼻の骨を砕くと少女の手を引いた。

 

「人間のメスガキ。こっちにくるといい」

「ちょっと……お、お姉さん」

 

 エメスは少女の手を引いて走るとなると限界があると理解し、お姫様抱っこで走り去る。そして適当なビルの屋上に降り立った。

 

「シズネ・クロガネの作った神殿のような物で作られた建物ばかり、そして信じられない高さと知り」

「うわぁあああ! すごい綺麗! お姉さん、ありがと! 変な奴らに連れ込まれそうになってさ! 最近助けてって言っても誰も助けてくれないんだよね! それに綺麗でかっこいいだけじゃなくて、ヒーローみたいな動き、誰なの?」


  エメスは俺に、あまり目立つような事はするなと言われていた事を、全く聞いていなかった。

  

「我は北の魔王に生み出されし、ゴーレム。そして今はマスターの性……くっ、ジャミング。エメスと名付けられり!」

「エメスさんかぁ! いいなぁ、かっこいいなぁ! 彼氏はいるの?」

「ふっ、そんな物はおらず!」

「えぇ! じゃあ、立候補しちゃおっかなぁ! 僕はかなめって言うの!」

 

 ぶりっ子を演じるようにそう言うかなめにエメスは生ゴミでも見るような顔でこういった。


「興味なしと答えり」

「ヘヘッ、じゃあさ僕とデートしてよォ!」

 

 デートという意味をいまいち理解せずにエメスはこの謎の少女かなめと東京の街をぶらぶらする。

 

「かなめ、腕を組む事を許してはおらず! くっつきすぎと申す! 我はユリには興味なしという」

「えー、エメスの言ってる事わかーんなーい! あっ、ハンバーガー食べようよ! ね? そうしよ!」

 

 エメスは生まれて初めて日本中どころか、世界中大体のところで出店しているハンバーガーショップにかなめと入店すると、普通のハンバーガーセットを注文し、それに口をつけ、エメスは開眼する。

 

「これは、驚くほどに旨いと言えり、ガルンに食べさせてやたし、さらにシェフにどうにか教えてやる為、味の記憶を開始」

「ププッ! そんなふうにハンバーガー食べる人見た事ないよ! エメスってモデル? それとも不思議系の地下アイドルか何か?」

「偶像? 我が? ありえなし、我は処理される道具といいけり」

「え?……そっか、エメスは自分を道具だと思って割り切ってるんだ……すごいな」

「ふふっ、我からすれば、ご褒美以外の何者でもなし!」

「仕事が? すごいな……ちょっと自己嫌悪……なんかアクセでも見に行かない?」

 

 かなめに連れられて、ピアスやネックレスを見にいくと、エメスはそれを見渡してこう呟く。

 

「アステマにこの光景、どうにか伝えてやりたいものと正直に言えり」

 

 かなめに言われるがままに連れられ、赤煉瓦、東京駅の前でかなめはもう一度、エメスに告白した。

 

「エメス、僕。生まれて初めて、女の人を好きになったんだ。僕と付き合ってください!」

 

 そう言って下を向き手を出したかなめ、しかしその手が握られる事はなかった。顔を上げた際、そこにはどこにもエメスの姿はなかったのだ。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「エメス! 今日の最終日はもうどこにもいくなよ! 街で大暴れしたのは、国のお偉いさんのお陰でもみ消してくれるみたいだけど、流石に次はないからな!」

 

 俺はエメスの手をずっと握っていた。どこにも逃げないようにである。

 だが、エメスからすればそれは……

 

「我、幸せ者といいけり! マスターに無理やり拘束される我の図」

「ウルセェ! テレビでも見とけ!」

 

 エメスはテレビを見て固まる。

 

「ま、マスターあれは?」

「あ? えーっと、なんか天才子役の男の子みたいだよ。大道寺かなめ君。まー、最近の男の子っって女の子みたいな顔してんのなぁ! ちなみに、芸能人は高嶺の花だから、お近づきにはなれねーからな! 残念だったな! あのショタはテレビの中だけの人って事だ! ……ん? どしたエメス」

「わ、我……心が折れる音を聞きけり……」

 

 ポロポロと涙を流すエメスに流石の俺も驚いて気休め程度にこういった。


「俺たちの拠点に帰る前に、芸能人のグッズ売ってるところで写真かなんか買ってやるから……泣くなよ」

 

 俺は、今後東京に俺の拠点の連中を連れてくる事は頼まれてもやめようと思った。エメスでこれだ……ガルンとアステマとか、何が起こるか想像すらできねーわ。


 故郷であるハズの日本にいるのに、早く商店街予定地に戻りたいと思う俺だった。

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