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第3章最終話 実際住んでみると想像していた異世界生活ではなったけど、住めば都だった

 西の北に対する侵略失敗からもう十日。

 

 

「おっ、アズリたんが魔王城に遊びに来いってさ!」



 俺たちはまた普通の日常が戻ってきていた。

 戦争を止めた事をリコさんとギフターさんは北の王都へ報告に戻った。

 正直、少し褒められてもいいんじゃないかと思ったが……

 王都からは何も連絡はなかった。

 

「……オリハルコン没収といい、なんかアレだな」


 北の地はチートな王種はいない。なのに、中立を保ち続けている政治手腕は大したものなんだろう。しかし、俺はこの北を治める王様の事を何も知らない、そしてノビスの街で聞いても皆ほとんど首を横に振る。


 とりあえず俺たちに対して黙認はしてくれているみたいなので詮索はしない。

 俺たちの商店街のプレオープンがもうすぐなのだ。ちなみにこの戦争を止めた後の俺たちも割と仕事が大変だった。商店街に店を出したいというお店もいくつかあり、その打ち合わせで、嬉しい悲鳴だった。


「スラちゃん、お店なんですけど。基本のシェフとガルンのフードコート、アステマのブテイック、俺の銭湯。エメスとプレアデスのカジノとサブレさんのバー、出店希望の方のお店の配置どれがいいですか? ちなみにスラちゃんとホブさんの雑貨屋はほぼ全ての商品を陳列するのでこちらの区域を取らせてもらったのでここを中心に他の方々の店を展開します」


「ここって……マオマオ様。本当によろしいのでしょうか? 私とホブさんの魔物印良品店。一番大きな店舗を頂いているのですが……」

 

 道具や魔道具、それに少しばかり武器、保存食とそこに行けば冒険に必要な物が一通り手に入る。

 ホブさんとスラちゃんの魔物印良品店。

 

「二人のいつもの働きに対してこのお店の広さは妥当ですよ。なんなら二人がいないと、多分ここまできませんでしたからね。ちなみに、お二人はゼネラルマネージャーとして、今回のプレオープンからあのモン娘三人よりも役職をあげますので、これからもお願いしますね!」


 スラちゃんは驚きと嬉しさでちょっと泣いた。今度二人はちゃんと辞令と昇進会しようと思う。

 小さいけれど教会もあるし、全ての店舗に店が出たらこの地域を小さな街として認められるらしい。

 

「そう、街である場合。そこに名前をつけないと行けないんだよな。こういうの何かちょっと恥ずかしいな……」

 

 一応、俺なりにここの街の名前は考えている。

 でもそれをお披露目するのはまだ先になるし黙っておこう。

 

「マオマオ様がお考えになった名前ならきっと素晴らしいお名前なんでしょうね! 私も自分のお店の壁紙などを用意し、万全を備えます!」

 

 スラちゃんも自分の店を持つ事嬉しいんだなぁ。

 ホブさんなんて、看板を作るのに徹夜して、何度も作り直してますもの。

 

 さて、俺も後何人かの出店希望の人と会って話を進めたら、秘蔵のブランデーを飲みながらゆっくりしよう。


 そういえば、そろそろ葛原さんとの懇談会の時期か。

 今度はお土産の中身をしっかり吟味しよう。

 正直、今回戦争になりかけて、聖女王率いるジェノスザインを追い返したが、賠償問題とかはどうなっているんだろう?

 北の地域は他地域に勝てる程の武力がないから黙認?

 それはないか、なぜなら今まで中立であった北の地だった理由はそこだ。今回それぞれ理由があったとしても南も東。俺の同盟からの助力も得られなかった。北は何らかの対策を練らないと簡単に潰される。

 

 それが俺の心配だったのだが……

 今回、俺の商店街に出店を希望の方の話で色々と分かった。この人は西に近いところで回復士という魔法を使うマッサージ師のような事をしたいらしい。珍しいので俺もすぐに了承。

 実演してくれた魔法はポカポカと温かく、銭湯に入った後など最高かもしれない。

 肌は真っ白、西に近い人は寒いからか肌が綺麗だ。

 

 その人が、ミルクを飲みながら俺に教えてくれた。北の国王は西のジェノスザインに一つの取り決めを提示した。

 

 それは賠償金不要

 謝罪も不要。

 今回の件は国家間の問題ではないと。

 それはあまりにもジェノスザインにとって有利な取り決め。

 だが、北の国王は一つ、条件を提示した。

 もし、次、北が他国勢力に襲われた時、西は全軍を持って北を守備し守り抜くという取り決め。

 

 北の国王はどうやらやり手だった。自国の兵力及び物資を一切消費する事なく今回の件高みの見物。

 多分、パッと出の俺に関してもアラモードに敗れればそれはそれで問題なかったのだろう。しかし、俺たちは奇跡的にアラモードを追い返した。それは北の国王的には最高の一手だった。

 なんの手を汚すこともなく手に入れたのは、最強兵器とも言えるアラモードの力。

 あれを何の代償もなくアテにできるのである。

 もしかすると、俺が負けても何か策があったのかもしれない。

 俺ですら、アズリたんも精霊王サマも助けてにきてもらえなかったなのに、北の国王何者だ?

 いや、一国の王なんだから頭良くて然りなんだろうけど、その姿も殆ど誰も知らない。

 これは……何かありそうだ。

 

「では、マオマオさん。最初は私を含めて二人の弟子と経営させていただきます。プレオープンまで何度かお店に通わせていただき、店づくりも進めますのでどうかよろしくお願いします。ここは世界一安全な場所ですからね」

 

 俺は、回復士の方の話を詳しく聞く事とした。

 

「えっと、一級回復士のマリオさん、ここが世界一安全とは?」

 

 俺の言葉にまたまたと笑う。

 ……俺がアラモードに勝ったから?

 そうではなかった。俺も今更思い出したのだが……

 俺は個人的に魔王アズリたん、精霊王ツィタニアサマ、そして聖女王アラモードと同盟関係にある。

 確かに、ここはそういう場所になるんだな。


「……いやぁ、私たちも南の暗国と同盟を組んだ人間って正直どんな人物だ?って警戒していたんですが、まさか対局にある東のティルナノとまで同盟。それで興味を持ったんですよ。そして、あの他国との交流が殆どない武力集団であるジェスザインとも……これは早めに出店希望出さないとまずい! そう思いましたね」

 

 なるほど、俺が思っている以上にその効果は絶大らしい。最初は身内だけだったのに遠方からも出店希望者が後をたたない。

 ちなみに、西ってそんな風に言われてたんだなぁ、怖っ。

 

「確かに、西やら東の人も結構な割合で来てますからね。基本まともな店なら出店は歓迎しますし、盛り上げていきましょう!」

 

 商店街は、個人の店じゃない。

 全ての店で盛り上げていかなければならない。

 次の商談相手は……マジか……


「こうして顔を合わせて話をするのは、これが初めてになるな。北の死威王。いや、商業の王。シーイー王なる者だったか? まさか、聖女王アラモードが下されるとは思わなかった……が、この度の出来事に関して我々は謝罪する気はない。だがしかしけじめとして参った」

 

 聖人だか、教皇だかの人、パフェさんだ。

 

「えっと、カグヤさんにやられたんでしたっけ?」

「あぁ、それはもう完全敗北したな。あのカグヤという男は、子供をここに置いてサンデーを追うらしい。我々はサンデー大司祭の死を持ってこの聖戦を始めたが……生きているのであれば話は別だ」

 

 パフェさんはサンデー、もといセリューに好意を持っているのだろうか?


「あの人は……すごい大罪人だってりするんですよ?」

「らしいな。私や、アラモードを宝玉で操ろうとしていた事も知っている。神の寵愛を受けた我らには通用しない事を知らずにな……されど、それができなくとも、我々の国益になる事を多く残してくれた事も事実。彼女に必要なものもまた救いだ」

 

 マジか! ウルスラでも洗脳できたのに、アラモードとこの人だいぶんヤベェ奴だな。

 

 ……一応聞いてみるか。


「あなたの呼ぶサンデーは救う事ができないような領域に足を突っ込んでいるのかもしれませんよ?」


 酷な話だが、あの人は俺たちと同じ世界を生きてはいない。

 どうすればあんなにも人が沢山死ぬかもしれない騒乱を起こせるのか……

 今のところ、何が目的なのか、俺のような一般人には全く分からないが、地球中から腕利きエージェントを派遣しているくらいには大事なんだろう。

 

 そして、パフェさんの言う救いでは、きっとセリューは救えない。


「私は教皇であり、かつては聖人と呼ばれた男ぞ? もし、私が救えないと決めてしまったら、救いを求めている者達はどうなる? 私はこの身滅ぶまで我らが聖ファナリルを信仰する民草達と共に、約束の地を求め、歩み続ける必要があるのだ。この私の姿、そしてアラモードの圧倒的な力こそが救いだ」

「……なるほど、貴方はこのイカれ宗教集団の中でもまともな方だ。でも力が足りなかった。だから、アラモードが頂点なんだ」

 

 

 外に信徒達を待たせていることから長居するつもりはなかったのだろう。だが、俺が陶器でできた灰皿を渡すと懐から煙草を取り出した。

 パフェさん、歳の頃はいくつくらいだろうか? 俺より十くらい上のようにも見えるし、貫禄も中々えげつない。

 先生と一緒にいたら、すげぇ大人の男達みたいな感じになりそうだなぁ……この人もイケメンだし、プレアデスが多分盗撮しているのが分かるよ。

 炎の魔法でタバコに火をつけるパフェ、いつ見ても便利だぁ……そしてこの人タバコ吸う姿様になるなぁ。

 自分の力では足りない、だからアラモードに首輪をつけていたのか、彼は何を考えているのだろうか?

 

 俺は、後で飲もうと思っていたブランデーをドンと置いた。

 

「ファナリル聖教会は飲酒がご法度ってことはないですよね? そうやってモクをふかせるくらいなんだから」

 

 俺はロックグラスを二つ用意する。

 

 そして、氷の魔法で拳大の氷を作るとグラスに入れ、秘蔵のブランデーを注いだ。

 

 そして、それをパフェの手元にトンと置く。

 ジジっと短くなったタバコの灰を落としてパフェはグラスを握った。

 クイッと一度で半分ほどブランデーを煽る。そしてカランと氷を鳴らした。すかさずタバコに火をつけて紫煙を吐く。

 

 何だろう? 俺が誘ったハズなんだが……

 どう考えても大人のお酒の飲み方をしているパフェに俺も自分のグラスに口をつける。

 

 美味い。さすがはちゃんとした蒸留所のブランデーだ。

 この異世界でリッケルトさんが作ったブランデーは、ドエルニャックと名付けられている。

 

「ふぅ……美味いな。酒を飲んだのはいつ以来だったか……甘い竹、シュガンブーという物から焼いて作られた酒だったがよく飲んだものだ。各地域の民草を集めた商業の街づくりか……お前のような救いの作り方もあるのかもしれないな」

 

 シュガンブーについて詳しくと思った俺、もしかするとラム酒が作れるかもしれない。

 飲むだけじゃなくてお菓子作りにも一躍買うぞ。

 

「商店ばかりの街を作りたいだけでアンタ等が攻めてきたんだろうが、一応アラモードはしばらくちょっかいはかけてこないだろうから安心だけどさ」


 まぁ、あの感じのアラモードならいつ約束を無かった事にされるか分からないけどね。

 それを聞いて、パフェは鼻で笑うともう一口酒を飲む。

 もしかするとだけど、俺はこの人とは仲良くなれるかもしれない。

 

「パフェさん、正直俺はアンタ等が、特にアラモードは物凄く苦手だ。だけど、客としてくるなら歓迎はするぜ?」


 ガルン達が一生懸命作った招待状だ。

 それを俺はパフェに渡した。

 一応、形はどうあれ聖女王としてのアラモードと俺は同盟関係になってしまったのに、渡さないのもどうかなと思っていた。

 絶対に暴れさせるなよ!

 絶対にアンタが責任を持てよ!

 俺の表情を読んだように……。

 

「ははっ……あいつは聖女王プリン・アラモードだぞ。本気になれば私でも止められない……それができるのは唯一あいつを負かした男くらいだろうな」

 

 そう言ってパフェは二枚の招待状を懐に入れた。

 要するにアラモードと一緒に来る気だろう。

 そしてめっちゃかっこいい事を言っているが……

 それは流石に育児放棄じゃないだろうか?



 パフェは飲み終えたグラスを俺の方に戻すと、立ち上がった。聖人サマのおかえりかと俺も見送るために立ち上がる。

 そこには聖人パフェを一眼見ようとやってきていたミントさん。

 

「シーイー王。あの者は? どうやら、我らファナリル聖教会のローブとクロスを持っているようだが、この地に立てる教会の大司祭か何かかな? ジェノスザインでは見た事がない者のようだが、実に勤勉そうな者ではないか、差し支えなければ紹介をしてもらえるか?」


 パフェさんは教皇としては本当にできた人なのかもしれない。

 ちょいちょいと俺の手招き。

 それにミントさんは驚く、一応この人の信仰している宗教のトップだもんな。

 恐る恐るミントさんは聖人パフェの元で傅く。


「偉大なる聖ファナリルの教皇様とお見受けします。聖女様の横に立ち、いつも世界をお守りいただきありがとうございます。私はミント、ノビスの街を拠点として冒険者を行いながら、マオマオさんのお誘いで恐れ多くも教会責任者を務めさせていただくことになっています。私がない一プリーストです」

「そうか……この私のクロスをあげよう。司祭の任を……と考えたが、まだ冒険をしたいような綺麗な瞳だ。いつかジェノスザインの神殿に来なさい。正式に、儀を執り行おう。君に聖ファナリル、フルーツ・パラダイスの幸が届かんことを!」


 豪華な……というか特級クラスの魔法道具のような十字架。

 そして食べ放題みたいな名前の人がこいつらの神様なんだな。


「ここここ、こんな……伝説の装飾品を私になんて……恐れ多いですぅ!」


 パフェは何も言わずにお供の信者達とズンズンと俺たちの拠点から離れていく。


「マオマオさん! 見ましたでしょうか? ファナリル聖教会における三大賢人の長にして聖女王サマの神力を唯一受ける事ができると言われている教皇パフェ様が、私に……これをグラン・クロス。並大抵の魔物であれば瞬時に息の根を止める事ができるプリーストの中では伝説の宝具です。あぁ、教皇パフェ様。私も、少しでも聖女様に近づけるように勤勉さを忘れずに、回復魔法が使えない私の為にくださった単独最強プリースト装備を無駄に致しません! マオマオさん! 是非クエストに行きましょうよ!」

 

 えっと、この十字架は武器なのか?

 パフェの野郎は何故パワー系のプリーストにパワー系アイテムを渡したのか。

 もしかして、ミントさんは回復をメインとしたプリだと思ったか?

 その為に攻撃力を補う為のグラン・クロスとか? 物理に全振りされすぎてるんですよ。

 

 あー、なるほど……これでアラモードみたいな奴が量産されるんだ! 

 

 

「ミントさん、クエストを行って冒険的な事をしたいのは山々なんですが……今は俺たちの拠点である商店街を完成させる事が大事ですので、もちろんミントさんの教会運営もちゃんとしてくださいよ! パフェさんもがっかりしますよ!」


 これはミントさんに強力な抑止力になった。

 尊敬してやまない頭のおかしな邪教徒の幹部に恥ずかしくないようにと教会のチェックに向かってくれた。

 さて……今日の俺の仕事はもう終わりなんだが……飲み直すか?

 

 魔法で氷を作るのも面倒だな。

 先ほどパフェと飲んでいたグラスを軽く洗うとそこにストレートで注いだドエルニャック……実にいい香りだ。

 こうしていると昔、一人で仕事を請け負って生活していた頃を思い出すな。


 ……アステマとガルンは招待状作り。

 エメスはプレアデスと買い出しを任せている。

 モン娘の相手をしないでいい日って最近だと……めちゃくちゃ珍しいな。

 

 あぁ……これは少しダメな酒かもしれない……眠たくなってきた。


「いかんいかん。こんな夕方から酒飲んで寝落ちとか落伍者みたいじゃないか……一応俺はこの商店街の最高責任者だし、みんなが頑張ってるのに俺のせいで怠け者の集まりだと思われるとみんなに悪いしな……なんか手伝うか」

 

 ……なんか俺って仕事がないとやる事なくなるタイプだな。


「マオマオ様……今日のお勤めは終わりでは?」

「ホブさん、いやぁ……なんか手伝える事ないかなって……うわぁ! 二人ともセンスいいですね! 商品の配置も考えられてますね……こりゃ人気出そうだななぁ……違う違う。お手伝いを」

 

 俺がそうホブさんに聞くと、


「いえいえ、マオマオ様。この魔物印良品店はこの自分とスラちゃんが任されている店になります! ゴブリン達もスライムの皆さんも全身全霊で取り組ませていただきますので! お手を煩わせるわけにはいきません!」

 

 そう言って、ホブさんは物凄い丁寧なお辞儀をして、俺の助力を断った。俺は笑顔で手を振って二人の店をを後にする。

 

 確かになぁ……俺が手伝う事はなさそうだ。

 もうあの二人、魔物にしておくの勿体無いわ。

 地球でもあの人たち普通にやっていけそうだよなぁ……

 

「まぁそうだな……二人は幹部だからな! はっはっは! 俺の助力なんてよく考えればいらないか……完全に俺の世界にあっても恥ずかしくない雑貨屋みたいな店が出来上がりつつあるし、あの二人ほんと何者だよ。そういえば、俺って文化祭の準備とかも手伝おうとして空回りしたような……そういう星の元に生まれたんだろうか……と思うのは相手が完璧な連中だからなわけだ……こういう時はウチの問題児のところに言って上を見ずに下を見て落ち着くとしよう。どうせそろそろ飽きてサボってる頃だろう」


 人間って最悪だと思う。

 でも、自分より下を見て安心できる生き物なんです。

 

「おーい! ガルンにアステマ、どうせそろそろ飽きてきたんだろ? 息抜きにビスケットとミルクでも飲みながら頭をリセットしないか?」

 

 俺はできる限り物おじせずにそう言って俺たちの事務所の扉を開いた。

 お菓子とミルクを持っている俺を見たらまずガルンが飛びつくだろう、そしてアステマが仕方がないから休憩にするわ! 

 とか言ってティータイムが始まると思っていた。

 

 

 だが現実はどうだろうか?

 俺は今が現実なのか、それとも夢なのか理解が追いつかなくなった。

 甘い物に目がないアステマと食べ物に目がないガルンがビスケットとミルクに目もくれずに招待状を書いているのである。

 

 いや……仕事をしっかりするのは喜ばしいことなんだろうが……


「あっ、主。いたの? それに手に持っているのオヤツか何か? ふふん。今アズリタン様と精霊王への招待状を書いているから、それ、そこに置いておいて」

 

 ……いや、間違ってないんだけどさ……こいつらが仕事しっかりしてるのを邪魔するのアレ何だが……ほんと腹立つな。


「ご主人! ご主人! 見て、アステマが書いたのだ!」


 アステマが描いた俺たちのイラスト……

 

 こういう奴が描くのはガキの落書きがお約束のハズ。

 しかし、めっちゃ上手いぞ……何というかちょっと絵が上手いじゃない。

 ちなみに……俺は死ぬ程絵心というものがない。犬を描いたつもりで馬だと思われてコンクルールで大賞を取るくらいには……

 そしてガルンの奴もめっちゃ字が綺麗。



 ……モンスターってさ。


 ……なんかずるくない? 一芸以上持てる生まれか何かなん?



 ということで俺の役目はまさかのここでも不要だった。

 

「…………まぁ、あんま今詰めんなよ。軽食ここに置いとくからな」

 

 なんというか、俺がいなくてもこいつらはやっていけるところまで来ているのかもしれないな。

 

「よし! 次はミントさん手伝いに教会行ってみるか!」

 

 

 ミントさんは冒険者でない時は比較的完璧なのである。

 床に埃、塵一つないくらい完璧な掃除。

 聖ファナリルなるアラモード激似の像にお祈り。

 そして、ノビスの街で請け負っている占いの結果をまとめている。食事まで本を読んだり神具の手入れをしたり……普通のシスターのようだ。


「聖女様、あぁ! 聖女様、どうすれば世の中の悪を全て滅する事ができるのでしょうか?」

 

 おっと、突然黒ミサを始めましたよこのプリースト。


「潰しても潰しても害虫のように湧いてくるのは私の祈りが足りないからでしょうか?」

 

 ミントさんはあのイカれ宗教に属しているんだった。


 何か手伝うことはないだろうかとか思ったけど、俺はどうかしている。

 こいつに手伝ってくれとか言われる事はろくなことじゃないだろう。

 

 イッる間にズラかろう。


「ははっ……もう自分の部屋に戻ってコーヒーでも飲んで昼寝しようかな……それともみんなの為にシチューでも作ってやるか? あぁ、今日はシェフが試作のお弁当運んできてくれるんだったっけか? もう、俺いらなくね?」

 

 あまりにも悲観的になるのもアレかと思ったが、なんか俺ってそもそもこの異世界で何もしてないよな。

 大体、行き当たりばったりで何とかなり。

 ユニオンスキルのおかげで生き残れた。

 何ならもん娘達より俺って……

 

「主上。浮かない顔をしている。普段は日々の忙しさに気づかなかった世界の一面に気づいたような顔だ。一体何があったのか、我は聞こうとは思わない。主上は我でも食い止めるがやっとのあの聖龍を相手に、人の身でありながら立ち向かい、そして打ち勝った事には感銘すら覚えた。そんな主上に話すのはドラゴンに咆哮と言ったところかもしれないが、我は思う。主上が気づいたように、我もガルンにエメス、アステマも様々な世界の表情を日々より気づき、驚ろいている。そしてそこにはかならず主上がいて、皆がいる。恐らく誰一人として欠けてはならぬのだろうと我は思う」

「…………ど、ドラクルさん! あ、ありがとう」

 

 本当に悪い酒を飲んでしまっていたようだった。

 俺は人間、そしてみんなはモンスター……ミントさんは人間だけど。

 

「なんか、最初は面倒だなとか思ってたんですけど、いざ魔物達と生活すると自分のダメな部分が見てブルーになってました」

「主上……我も少し皆を見て何かをしたいと思う。ガルンが料理とやらに目を輝かせ、アステマが装飾品や季節ごとの衣に目を輝かせ、エメスが幼い男の童子に目を輝かせているのを見て、少し羨ましく思う。小狐が来たとき、我も何か驚かせてやりたいと思った」

 

 ドラクルさんは手遊びをしながら申し訳なさそうに言った。

 そりゃそうか、みんな何か悩んでますわな。

 でもエメスさんのは犯罪一歩手前だからダメな奴ですよ。

 

「……それは求めすぎか?」

「そんな事ないですよ! ドラクルさんが出来そうな事やお店ってでも何だろうな? ちょっと皆んなで一度一緒に考えてみましょうか? ……お客さん扱いしてたんですけど、ドラクルさんも俺たちの家族みたいなもんですしね。すみません寂しい思いをさせて」

 

 それを聞いてドラクルさんはぎこちなく笑った。俺は何だが心のもやみたいな物がとれたように、プレアデスの研究等に行った。

 そこで、再起動を待っているウルスラの様子を見に。

 

 

「ウルスラ、気分はどうだい? ……って言っても完全に機能停止してるんだったよな? お前の事も俺が必ずもう一度目覚めて動けるようにしてやるからさ……あんまり会いに来てやれなくてごめんな。もし、目覚めた時は一杯付き合えよ? お前の妹二人も一緒にさ」

 

 俺はそう言って返事があるわけでもないウルスラを見つめていた。唯一、まともなゴーレム。

 大事な事なので、もう一度言いたい。

 唯一、まともなゴーレムなのである。

 そして、異常なゴーレム達に多分尊敬され畏怖もされている彼女。

 

 ゴーレムと言っても人間と変わらない。

 むしろ人間と違って造形だけなら完全に黄金比。

 そして、俺はこのウルスラという女性型ゴーレムに多分だが…………。

 

 いや、やめておこう。

 それは多分、俺の気の迷いだ。

 異常な二人を見ていて、ただ正常なだけの彼女を見て吊橋効果を生んだにすぎない。


「最初は南の魔王アズリたんがやってきて、次は精霊王サマのところで子供にされ、今回は両親から口酸っぱく関わってはならないと言われてきた宗教関係者たちといざこざがあって何故かまだ生きてる。俺のイメージとして持っていた異世界生活とは大きく外れているけど、不思議な事にある意味ハーレム環境は出来上がった。ただし、ライオンみたいに雌が餌を持って生きてくれんじゃなくて俺が餌を集めている……これはハーレムじゃなくてタカリだ」


 自分で言って何だか悲しくなってきた。

 椅子に座りながら……自分のこういうところがよくない部分だなと猛省。

 

 もう一度。

 ウルスラを見ようとした時、俺の身体がぐわんぐわんと揺れる。

 

「マスターくん! マスターくん! 早く起きないと、エメスの奴が君の大変な物を奪ってしまうよ! 強いていえば貞操……いや……()()()()で言えば処女!」

 

 気がつかないうちに寝ていたらしい。

 そして最悪な起こされ方だ。

 目を覚ますとそこには服を脱ごうとしているエメスとパソコンを叩いているプレアデス。


「おぉ、お前ら帰ってたのか、おかえり。あとエメスは服をちゃんと着ろ。あとそのそり曲がった棒で何をしようとしていた? 聞こうじゃないか! というかいつの間に寝てたんだ俺。というかさ……お前ら、いつからここにいた? ちょっと酒の影響であんまり覚えてないんだよな。正直に、何か俺の独り言とか聞いた?」

 

 その言葉にエメスは目を大きくし、

 そしてプレアデスは椅子をくるりと回して俺の方を見ると言った。

 

「そうだねぇ……唯達が頼まれていた通り資材やら食材やらを買い込んで一息、ビリヤード台を作る計算をしようとここに戻ると、マスターくん! 原初のゴーレムに向かって独り言だったかな? 確か、“目覚めた時は一杯付き合えよ! お前の二人の妹も一緒にさ“ とね。唯は知っての通り下戸だよ」


 いやぁああああああ!

 いやぁああああああああああ! マジか、よりにもよってゴーレムに。

 言っててちょっとナルシストだなとか思ってました。

 

「我、心の奥底に記憶したり」


「あっ、できる限り一瞬で、何ならここ数日間の記憶を消すくらいの勢いで忘れてください。……お前達がなんかまともに仕事しているのをみてさちょっとおセンチになってたり、そんな自分に少し酔ってたりしてましたよ! 実際酒に酔ってましたけどぉ!」


 まさに謎の言い訳をしている俺は頭が沸騰しそうだよぉ! というやつだ。


「マスターくん、そうやって恥を上塗りしていき、君は素晴らしいおじ様に進化して行くのさ。そうそう、何ならもっと恥をかけばいい。そしていつかマスターくんは葉巻とブランデーが似合うおじ様になった頃に唯を熱い眼差しで見つめてこういうのさ。昔は、坊やだったからなって……ね」

 

 おじ様になる頃は過去の失態なんて忘れていたい。


「マスター、一層のこと、ショタになりて、夜におねしょをする事を所望する。そして我が、マスターのズボンを脱がし、おねショタしたマスターをおねショタしたり」

 

 おねしょをするショタをおねショタとは言わない。

 この二人の守備範囲を足して二で割ると……

 プレアデス(正常)になるんじゃ……

 

「うん、まぁとりあえず忘れて」

 

 エメスが不敵に笑いながら、ウルスラを見てついでという感じで一枚の紙を俺に渡した。

 

「マスター、アズリたん様からの手紙らしい。後で見ることを所望。そして、マスター……我はウルスラが目覚めた時、ウルスラと我と、そこの枯れ専。そしてマスターと()()()()たいと切に願う」

 

 どっちの意味だろう? まぁ、今回は普通の意味と捉えておこうか




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 どうやら街の離れに商店街を作るという稀有な考えの地球人が大道芸の募集をしているらしい、俺はコソ泥とし生活をしていたが、まさか異世界送りに合うとは都合がいい。


「いやに人が少ないのに、気配を感じるな」

 

 この商店街となる予定の場所だが、見た感じでは五、六人くらいしか人がいない。

 日本人か中国人の男、そしてカジノ責任者らしいいい女。

 服屋をするとか言っているこれまた年頃のいい女。

 そして食堂で働く予定らしい何がずっと食べている愛らしい女の子。



 教会にも中々可愛い女の子がいるし、ここは商店街とは名ばかり。

 恐らく売春街を作ろうとしているんじゃないか? おっと! あのカジノの良い女が何か俺を見て頷いてやがる。


「……すみません。ノッキオさん。手品ができるんでしたっけ?」

 

 俺の目の前にいるこのアジア系の男が話しかけてきた。

 ……見せてやるよ。

 俺は一枚のトランプのカードをこの男に見せるとパッと消してみせた。

 

「……まぁこんな感じで、カードマジックは得意としています。他にもいくつか……」

 

 ハハッ、こんな小手先のマジックで男は手を叩いている。

 ……おや?

 俺を情熱的な目で見ている可憐な美女……確かカジノの美女と姉妹だったか?

 

「マスターくん。あれが手品かい? 多分、インパクトにかけるね。あんな物唯でもできてしまうよ! まずカードを錬成。そしてこのカードを手に隠し焼却。消滅した事を見せて手を合わせて再度錬成。ほらね!」

 

 は? はぁ?

 そもそもどうやってカードを出した?

 

「……ご主人! この人間の男、さっきの紙切れを隠し持っているのだ! イカサマなのだ! 手を見せて、そこにみんなが見ている隙に、隠したのだ! この男は信用ならんのだ!」

 

 いや、手品だから!

 まぁ、俺が信用できないのは正しいがねお嬢さん。


「……いやぁ、これ手品だからなぁ。でもそうか、この世界魔法があるから確かに凄くは感じないのかも」


 魔法……あぁ! あれか、実は俺は魔法の才能がなかったから忘れていた。

 しかし、魔法とやらよりも俺が元の世界で磨いてきた盗みのテクニック。

 こんな原始的な世界においては絶対的に役に立つ。この元地球人の犬神とかいう男も魔法に慣れて弛んでいるだろう。

 

「ハハッ! そうですか! では、もっと面白いショーをお見せします。ですが……準備が必要ですのでまた明日でよろしいでしょうか?」


 俺のこの言葉を鵜呑みにした連中は実にバカだな……確かにショーは行うさ。

 明日の朝、俺の姿はなく、そしてお前達が溜め込んだ金品も消える。

 

「へぇ、マスターくん、この男。魔法の才覚がないらしいね。君、一体何をする気だい?」

 

 確か、プレアデスと言ったこの美女は……何故それを……まぁいい。


「実は、そうなんですよ! ですが、そうですね。魔法を使える皆々様もあっと驚く程の……大脱走とでも言いましょうか? 先ほどの魔法見事でした。ですが、魔法でも出来る事や出来ない事がおありかと思います。その魔法で出来ない事を……お披露目しましょう」

「へぇ……それは楽しみだね」

「プレアデス、ガルン。プロの手品師は凄いんだぜ! ノッキオさん。今日は食事をしてゆっくり準備してくださいね!」

 

 この地球人の頭がお花畑でよかったよ! 大脱走! お楽しみに!


 

「……いやはや、準備があるので、流石にもう大丈夫です! 飲みすぎてしまいましたよ。ここにいらっしゃる方はお酒がお強い……」

 

 おかしいだろ! この犬神とかいう地球人も、美人の二人もいかつい男も……一人ブランデーの酒瓶一本ってどんだけ強いんだ……

 

「すみません。欧米系のノッキオさんは俺より洋酒に詳しいかと、ご意見が欲しかったので無理に誘ってしまって……」

 

 違うから! そういうところじゃなくて、お前ら飲み過ぎ! 肝臓死ぬぞ!

 

「マオマオ様。瓶が空になっています。倉庫からお持ちしますね? あと、ノッキオさんがお休みになられるお部屋の準備も致しますので、こちらでノッキオさんお待ちください。マオマオ様と同郷のお話もあるでしょう」

「そうですね。ノッキオさん。もう地球からこっちに来て半年は経ったんですけど、向こうでは何か大きな事件とかニュースとかってありましたか? 慣れればこっちの生活もまぁまぁ問題ないんですけどね。元々、最新機器に囲まれて生活していたので、ゲーム機とかそういうの懐かしいんですよね。ノッキオさんはそういうご趣味は?」

 

 俺が何かを答えようとしたところ、あのプレアデスがやってきた。なんでこの女はジュースをロックグラスに入れて飲んでいるんだ?


「マスターくん。連れない事を言うねぇ! 唯に言ってくれればそんな物くらいは錬成して見せるさ! 一応、錬金術師王たる北の魔王の後継者である唯が、作ってあげようじゃないか……確か、ファミ○ンだったかな? 配管工のイカした赤と緑のオジサマを操作してキノコを食べたら大きくなるというとんでもない卑猥なゲームらしいよ? ツナギを着ているから多分、決め台詞は“ヤラナイカ?“なんじゃないかな?」

 

 この美女、日本のゲームメーカーに謝れ!

 

「……プレアデスさんよぉ! あれは日本におけるゲーム界のレジェンドですよ? 日本のゲームメーカーに謝って死ね!」

 

 ほら言わんこっちゃない。


「で、でわ、俺は明日の準備がありますので、ここいらで失敬させていただきます。いやぁ、楽しみだなぁ……」

 

 そう、楽しみだなぁ! どんな金目の物があるのか。

 この事務所は諦め、プレアデスと名乗った美女の古屋から狙うか!

 

“侵入者くん。君の年齢を教えてほしい。四十歳以上か否か? “


 なんだ……警報か? 「三十一歳……」


“なるほど……なるほどなるほど……それでおじ様を名乗る気か? ウルスラ・ジ・エンドに変って唯が言おう。死・ぬ・が・い・い!“


 は! 何言ってるんだこの警報機……というかヤバい! 奴らにバレる。とはいえ、何も盗まないで逃げるというのもプロの窃盗としては引けぬところがある。

 魔法だなんてふざけた力、この俺の窃盗術でぶち壊す!


 無理やり中に入ったはいいが……

 

「……あっぶねぇ……マジで死ぬかと思った」


 西洋の剣みたいな物が飛んできた。

 というか本気で殺しにきてやがる……!

 

 ブブブブブ。

 ……何だこの音は?

 音が近づいてきやがる。玄関の先は外から見たよりも明らかに広い。そして目が慣れたとき。

 拳大のハチのような生き物が大群で俺の元に飛んできやがった……。

 

 “侵入者くん、ドアを開くとは恐れ入った。君の年齢は……“

 

「よ、40以上です! そう、40以上なんですよ! 参ったな。最近腰が痛くて」


“おじ様だったのかい? 言ってくれれば、嫁と娘を捨ててでも唯といたくなるような薬を飲ませてあげたのに、さぁ、上がって上がって“


「ハハッ、ハチ達の前に壁が落ちてきて、代わりに俺の前に階段が落ちてきた。あぁ……帰りてぇ、とんでもないところに来ちまった」

 

 しかし退路は断たれた。俺は登るという選択肢しか許されないように……

 

「よく考えたらおかしくないか? 魔法とかいう謎の力はある癖に、どうしてこんな全自動システムみたいな警備システムが存在してやがる……まさか、あの犬神とかいう人間。俺の正体に既に気づいていて、俺を笑う為に……いや、それならいい。処刑を楽しんで食事をしているんじゃ……今にして思えば、なんか邪悪な顔つきをしていたような気がする」


 今にして考えると、一番偉いハズの犬神が俺には腰低く、他の連中はそうでもなかった。

 俺はもしかして、ここに来る事まで何らかの力で誘導されていたってことか? こんなことならスマホを捨てなければよかった。

 俺の位置情報を知られるとまずいと思って、向こうにいた時に渡された電子機器の類は全て処分したのだ。

 …………悪い事し放題だぜぇ! ヒャッホーとか言っていた俺、死ね!


「何だ? みょうに明るいな? 何かの研究室なのか?」


 俺は地球から持ってきていたペンライトを照らして秒で後悔する事になる。ここはヤバい、とんでもない集落だ。

 ……あの犬神ってやつは……悪魔だ。

 

「……攫われたのか、それとも殺されてこんな風にされているのかは知らないが」

 

 ウルスラと書かれた巨大なカプセルの中に閉じ込めされた少女。

 きっと腐敗しないように何らかの薬品を使っているのだろう。

 いや、もしや!

 あの集落に異様に可愛いどころの女の子が多い理由。

 あの子達もゆくゆくはこうなるのでは……

 一刻も早くここから逃げないと危ない。

 

 この少女の事は、見て見ぬふりをして逃げよう。

 

「……それでいいのか? それでいいのかノッキオ? 俺は悪い事は沢山してきた。そんな俺だから言える……これはダメだろう!」

 

 とはいえ、犬神とプレアデス。

 少なくともこの両名はサイコパスである。

 いや、もしかしたらプレアデスの方は従わざるえない状況なのかもしれない……だが、それでもこれは許せねぇ!

 何か武器はないのか?

 

 そんな中、俺は棺桶を見つけた。


“おや、ここまで来れたという事は君はおじ様の中のおじ様だね! その棺桶はさ、おじ様を永遠に保存しておく為に作ったんだ“

 

「そ、そうなんですね。随分、特殊な趣味をお持ちのようで、ところでこの古屋から抜け出す方法を教えて欲しいのですが? 少し酔ってしまったようで、間違えてしまったらしく」

 

 

 ……どうだ? やっぱりダメか?


 その時、不思議な事が起こったのだ。棺桶が勝手に開くと、そこからマシーンアームのような物。

 俺は何が何やらと思っている内に棺桶にしまわれた。

 

 ……言っている意味が分からないが俺も状況が分からない。


“ふふっ、全く悪い子猫ちゃんだ! なんて思っても言わないでくれ、照れるじゃないか……。ここには唯とおじ様……ん? おかしいな。肌の質や、体型、見た目に至るまで……君。いや、貴様ぁ! おじ様でないな?」

 

「すみません。嘘つきました許してぇ」

 

 何? 俺はこのままどうなるの?

 近くでキュイーンという音が聞こえる。チェーンソーだ。

 

 

 







「ダメダメダメ! さっき大脱走をするとか言ったけど、縄抜けくらいしかできないので、こんなのされたら下半身が上半身に別れを告げちゃうぅうう!」


 命あっての、今だ! 俺は包み隠さず嘘をついていたこと、窃盗目的で近づいた事をこの音声相手に頭を深く、ふかーく下げて謝罪した。

 これで、大丈夫か?

 

“大丈夫、このまま二、三十年も放っておけば君は素敵なおじ様になれる事を唯知ってるから!“

 

 いや、そりゃオッサンにその内なるさ!

 誰でも知ってるよ。

 この会話型音声を作ったやつの頭が知りたい……

 いや、これも犬神の罠であえて侵入者が理解できない事を言って混乱させているのか?

 


 と、そんな事を考えていると、棺桶が動いている。

 いやいやいやいや 今俺どういう状態? なんか落下している感じなんですけどぉ! これ死ぬんじゃ。


 …………ドンドンと叩いても。

 思いっきり棺桶を上に蹴り上げてみてもびくともしない。


 硬すぎる。どう考えても今肌に触れている感触の物質が俺の蹴り上げを受け止められる程の棺桶だとは思えない。

 

 初めからここに閉じ込めるつもり? いや、処刑するつもりの方が濃厚だ。


「……あの? どうすればここから出してもらえるようでしょうか? 私には病弱な妹がいましてね……今日も妹の薬を買う為に出稼ぎしており、一刻も早くここを断たねばならないのです」

 

 情に訴えかける方法ならどうだろうか?


「人間増えすぎているからね。いいんじゃない? 少しくらい……死んでもさ?」



 何だこの考え方は、悪魔か? この地域で設備を作っている奴は悪魔なのか?

 いや、いずれにしても出せ!


“残念ながら、解除コードは二十年後に設定されているんだよね。でも安心して、ここは栄養の補給もバッチリだし……おじ様になる頃には君も晴れてショバの空気を吸えるって物だろう?


 ダメだ……出してもらえる状況にない。

 せめて、ドンドンと叩いて、誰かに気づいてもらえれば……

 

「おーい! 俺だー! ノッキオだぁ! 助けてくれぇ! 棺桶の中に閉じ込められてしまったー」

 

 俺は小一時間ほど喚いてみたが、誰も来やしない。

 

 

 あれからどのくらい経っただろう? 

 もしかしたら時代が変わったくらい時間が経ったかもしれない。

 あのアナウンスに話しかけても返事は返ってこない。

 

 もし、生まれ変わったら次は真っ当な人生を歩もう。


「こんなところにゴミ捨てやがって、誰だ?」


 ギシギシ、ガシャ!

 

「あ……ノッキオさん……もしかして大道芸の練習中でしたか?」

 

 すみませんと蓋をしようとする犬神に俺は百回以上すみませんを押し付けてそのまま逃げた。俺の今まで磨いてきた窃盗スキル役に立たなかったなぁ……畑仕事でも……探そう。

 

 絶対に虚の森跡には近づかないように、皆に言い回りながら、少しずつ罪を償おう……

 

 

「あれ? ノッキオさん帰ったのかな?」

 

 プレオープンまであと僅か!

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