聖龍プリン・アラモード降臨、異世界ファンタジーはクソ面倒である事に気づく。
「えっ……聖女王サマ……。え? どういう事? これが聖女王サマの本来の姿……いやいやおかしいだろ……」
六十メートル級のドラゴンとなった聖女王サマ、そしてそのクラスは……“神“とアプリに記載されている。百万の……ジェスノスザイン全国民の力を使ってファナリルの信仰する神の化身に上り詰めた聖女王サマ。
ガルンとアステマは抱き合って泣きそうだ。
あのなんにでも噛み付いてくる面影はなく。
俺たち人間を取るに足らない物を見るようにただ見下ろしている。
そしてゆっくりと目の前のドラクルさんを見る。
ドラクルさんは再び魔法力をかき集めてのドラゴンブレス。
「ニンゲンゴトキガ カミニ ナルナド ハジヲ シレ! ワレガ ソノ ウツセミゴト ホウムル!」
あれだ! ウルスラの移動要塞で放った咆哮。それもドラゴン状態だ。
「アステマ、魔法防御! 俺がありったけの加護を重ねるから魔法力は出し惜しみするな!」
頼みの綱であるドラクルさん、俺たちへの被害を考えなしに咆哮した。
……要するに今の聖女王サマはそういう存在なんだろう。
「ガルン、聞こえるか? 気絶しているリコさんとギフターさんを連れてここから退避。二人を引きずってもいい。少々の大怪我より命の方が大事だ。アステマは俺と防御系の魔法を貼りながら殿。エメス……はまだ動けそうにないな。ここはドラクルさんに任せて俺たちはできる限り逃げるぞ!」
殿を努めた俺とアステマは残酷な情景を目の当たりにした。
ドラクルさんの咆哮に合わせるように聖女王サマ、いや聖龍もドラゴンブレスで迎え撃つ。
「……ねぇ主! あれ! ドラクルさんのブレス攻撃。あの人間のブレスに押し曲げられてない? これって……ドラクルさんの方が力負けしてんじゃないの?…… ねぇ、あーるじぃー!」
そう、全力のドラクルさんの咆哮。
それは聖龍の咆哮によって上空に押し上げられていた。誰がどう見ても、ドラクルさんの攻撃は通ってない。
「……アステマ。変な事考えるな。ドラクルさんはお前が目標にしている王種なんだぞ……そんなドラクルさんが負けるなんてありえないだろうが……」
俺はなんの根拠もない慰めをアステマにかける。
何故なら、今アステマが全てを諦めたら俺たちも完全にデットエンドである。なんとか安全な領域まで……そこでアステマは口を開いた。
「主……それ、フラグって言うのよ……主が持って帰ってきたスラちゃんがよく読んでいる本に書いてあったわ……大体そのフラグっていうのが立つと……事実になるんだから……!」
「クッソ! 葛原さんめ! なんでそういうどうでもいいことを記載した本を出版しやがったんだよ! アステマも影響されんな!」
あの人、今もどこかでこの状況楽しんでいるんじゃないだろうな。
違うと思いたい……あの人ならあり得ると思う反面、流石にないだろう。
地球の人間が異世界で死ぬ事をあの人は良しとしていない。となるとあのクソ書籍は素なんだろうか……
しかし、今の状況を冷静に判断すると、多分ドラクルさんはもう持たない。竜王という超常レベルの存在なので死ぬ事はないだろうが、ドラクルさんが負けた後……
「マスター……我はまだあの性女王に一矢報いてなし……ドラクルさんと共にここに残り、あの者に痛みという名の快楽を与える事、使命と見つけたり、それ即ちゴーレム道と我は説く」
すげぇ、何言っているのか一ミリも分からない。
でもエメスはここに残って足止めをするという。
なんか関節がえらい曲がり方しているし……
これは却下だな。
「エメス、お前が何故そこまであの聖女王サマに張り合おうとしているのかはもう聞くまい。が、今の聖女王サマは冗談抜きで超常現象のレベルだ。俺たちには逆立ちしたって敵わない。従業員であるお前をむざむざ死にには行かせられんよ。我慢せい!」
「……お預けプレイをマスターは所望か? この状況でその選択とはマスターの趣味嗜好には脱帽を隠せず!」
無視だ無視!
「エメスさん。お前が自分の性癖に正直な事は呆れるを通り越して、最近では俺も関心すらしているんだよ。お前さん、だけど今回の聖女王サマに関してはストーカーばりのしつこさ、お前の性癖とちょっとズレてんだよな」
エメスは初めて聖女王サマと戦った時に完膚なきままにやられた。
しかし、あの時はここまでの聖女王サマに拘りはしなかった。
プレアデスが妙に協力的な事も含めて俺はアンサーを出した。
「……お前さ、照れ隠しじゃないんだろうけど……というか半分以上は性癖に正直なんだろうけどさ……いや、8割くらいかもしれない……が、エメスお前、今回はウルスラの敵討ちが本心なんじゃねぇのか? エメスとプレアデス、お前達のウルスラへのリスペクトの態度を見ていれば分かる。そうなんだろ?」
……ゴーレムは自分の欲望に忠実である……北の魔王製はという意味であるが……
「……マスター。最古のゴーレムを我が……リスペクト? そそそそそそんな事はなし……あんな古いゴーレムに学ぶことなんかないんだからね」
「完全にキャラ崩壊する程に図星と」
ウルスラに指示される二人は嬉しそうだった。
……北の魔王と対等だったウルスラ。
袂を分ったとはいえ、ウルスラもプレアデスも姉妹である。
その姉妹が誰かにやらたらそりゃムカつくだろう。
けどさぁ……
「お前、あれは流石にダメだろうよ……いくらなんでも勝てる未来がない」
……チラ見するエメス。
ふらっと聖龍の元に向かおうとする。
さながらなんとなくで電車のホームに飛び込む女子高生のように
「おいおいおい! エメス、ダメだって! ドラクルさんの言葉忘れたのか! とりあえず時間稼いでくれてんだよ! 頭冷やせ!」
俺がしがみついてエメスを止める。
するとエメスは俺を見下すように見て言った。
「こういうプレイもやぶさかではない」
その時、ドラクルさんに動きがあった。段々と人間の姿に戻るドラクルさん。
「シュジョウ……ナントカ……目覚めの咆哮までは止めた。が、次にこの神となった人間が覚醒した時。本当の終わりである。我の力を持ってしてもこの程度の時間稼ぎしかできぬ事。恥に思う。この世界において、この神たる人間と渡り合える者……南の魔王、東の精霊王。あれらを呼ぶしかあるまい。このままでは巫女の世界が死ぬる……そうさせぬ為、命を燃やそう……」
ドラクルさんの両腕は炭化している。
今すぐに回復が必要だろう。
エメスにアステマ、ガルンがドラクルさんの元にかけ寄ってくる。
「……そして、我は貴様達を好んでいる。我はドラゴン故、求められる、与える事を本質としている。お前達は我に臆せず、我と対等にあってくれた。幾千年と生きてきたが、巫女以外にそのような者達はいなかった。これは我の独断である。主上、世話になった」
何かをしようというのだろう。
ドラクルさんは一つ間違っている。
このもん娘達はドラクルさんをアテにしていただけなのだ……いや、それを分かっていて、それでも嬉しかったのだろう。
「ドラクルさん。なんか面倒な事を考えているみたいですが、今はまだ聖女王サマは寝ているんですよね?」
「我は時間を後回しにしただけだ。目覚めと共にこの者は救済という名の下に全てを消し去るぞ」
俺がアズリたんやら精霊王サマを集めるまでの時間稼ぎをしようと?
「精霊王サマはお茶会だかなんだかで、通信には出てくれません。アズリたんは精霊王サマ経由で連絡を取れたもののシレイヌスさんという人が人間や精霊とウチのアズリタン様は関わらせない死ね! とか言われてガチャぎりされました。という事でドラクルさんのその時間稼ぎその2は意味がありません」
俺を睨みつけるドラクルさん。しかし、相当ダメージが酷いのか倒れそうになるところエメスが肩を貸した。
「マスター、マスターが持ってきた本の中に男は狼であるという記載を見て我は大きく興奮を覚えた事をここで告白す。デートに誘った男が女の酒に薬を盛ってそのままデート……むっ! 我の脳裏にノイズか……まぁいい。端的に述べる。この者が目覚めた先、この者をもう一度薬を盛って昏睡させてしまえば良いと我は発言す! 無抵抗なこの者を主が……作戦!」
「おい、その作戦名と俺への誹謗中傷は今回大目に見てやる。だけど、忘れたのか? 聖女王サマはそもそも神の寵愛とやらでマイナス状態へのチートを盛ってやがんだって……その作戦は100億ぱー成功しないだろ」
しまった! という顔をしているが、絶対覚えてただろ!
多分言いたかっただけか……
俺たちはとりあえず拠点まで逃げ帰ることにした。いつ聖龍が目覚めるか分からないが、ここにいるより何か考えがまとまるかもしれない。
エメスがガルンからリコさんとギフターさんを預かり、ガルンがドラクルさんを背負う。
「ご、ご主人ん……アズリたん様はきてくれないのか? あと精霊王も……ドラクルさんもこうなのだ……」
ガルンは最後まで言わないが、流石に詰みである事に気づいたのだろう。フンとか鼻を鳴らしているアステマは足がガクガクだ。
「ふん、ドラクルさんに悪いと思って対、ドラゴン用の魔法が使えなかった事を感謝しなさいよ! 私がもし対龍種用の魔法を使えたら、ねぇ? 主。ねぇ?」
何が、ねぇ? なんだろう。多分それを使えてもあの聖龍はおろかドラクルさんにも対したダメージにならんだろう。
所詮は★3つ程度のグレーターデーモンなんだから、相手は★の数? 見上げた空の星々の数よ! みたいな危険度の相手だ。
生物といしてではなく、存在自体が俺たちとは遠くかけ離れたところに位置しているのだ。
こればかりはどうしょうもない。
「俺たちはノーマルガチャの人生なんだよ。向こうは極レア確定チケット付きの人生歩んでるんだ。見栄張らなくてもいいだろうよ」
アステマの夢は一応、魔王種になる事である。が、彼女のクラスチェンジ先にその転職先の名前は存在しなかった。
こいつもまた人生ガチャには恵まれなかった側なんだろう。頬を膨らまして顔を真っ赤にして怒るアステマ。
なーんか腹立つんだよなコイツ。
「ドラクルさんとエメス、そしてついでにリコさんとギフターさんの治療が先だ。あの聖龍……いや、聖女王サマは俺がなんとかして見せるからとりあえず今は走れ!」
俺の特技……とりあえず仕事を引き受けてできますと言ってみる。するとモン娘達の表情が明るくなる。
そう、昔からこうやって仕事を一つずつこなしてきたんだ……はぁ。
「さすがご主人なのだぁ! またおーだーとかいうので解決するのだ! ご主人はやっぱり最強なのダァー!」
お願いします。ガルンさん、持ち上げないでください。アステマも落ち着きを取り戻して調子に乗り……
エメスさんに至っては腕を組んで「さすが我を性具として扱う唯一無二の所有者」とか言ってらっしゃる。
「……しかしカグヤさんはどうしたんだろー。聖人も来ないからまだ戦ってんのかな? それともダブルノックアウトかな……」
現状、最強戦力として数えていたカグヤさんの安否は不明。
多分、死ぬことはないし、大丈夫だろうけど、戻ってこないという事は今回の戦力として数える事はかなり厳しいのかもしれないと俺は覚悟する。
「……お前ら頑張れ あと二つポータル進んだ先が虚の森の近くだからな! まず四人をベットに寝かしたら、風呂入って飯食って考えるぞ!」
「……マスタ、我を寝かすとは……いかに」
お前は少し黙っていろ! 軽く動ける程度にしか回復してないんだからな!
夜はいつの間にか明け、ガルンもアステマもうとうとしていた。
ようやく俺たちの拠点に辿り着いた時、何やら瓶詰めされた液体が入った木製の箱が運び込まれていた。
「マオマオ様、おかえりなさいませ! こちらですが、ポーションだそうです。とりあえず百人が半年使える分をとの事です」
“敬愛なるマオマオ、ライルである。小狐、レキのおかげで国もようやく安定してきた。ララも元気になった。約束のというわけではないが、これは友好の印に送る“
「マジか! うわー、ライル様、義理堅いなぁ。とりあえず販売するか、プレオープンで配るか考えるか……今は聖女王サマをどうにかしないとな……」
スラちゃん達が食事を用意してくれているので、俺たちはそれを食べる。
コンソメみたいなスープに浮いているワカメみたいな何か……
「エルミラシルの破片です。小量で大きく増えて、栄養価も高く、魔法力も大幅に回復してくれますから非常食としては極めて優秀ですね!」
確かに味も悪くないし……完全に海藻系なんだよな。
増えるわかめちゃんよろしくお腹も膨れる。
皆の回復を待って話を進めるべく考えをまとめていた。
が……まとまるわけがない。どう考えてもチートレベルのドラクルさんが時間稼ぎしかできない相手である。
聖女王サマは現在、王種ではなく、それすらも飛び越えた“神“とかいう存在になってしまっている。
神様という者はいないからこそ、人々は拝め祈るわけであり、存在してしまったら扱いに困るだろう。
それが、救済目的で人類滅ぼそうとしているなら尚悪い……多分セリューの目的は達成しているんだろう。
「ご主人! さっぱりなのだっ! ご主人もお風呂に行くといいのだ! ボク達はご飯を食べて待ってるのだっ!」
お風呂上がりのアステマとガルン。髪の毛をスラちゃんにわしゃわしゃ乾かされ、犬みたいびブルブル震えて水気を飛ばすガルン。
腹も満たされた。風呂に入って考えを切り替えれば何か妙案が思い浮かぶかもしれない……這ってでも一緒に風呂に入ろうとするエメスをスラちゃんに任せて俺も入る。
風呂は心の洗濯だと、昔アニメのキャラクターが言っていた。
身体の、ではなく心の……か、当時は意味不明だったけど。
大人になると風呂とか食事とか当然ある物が楽しみに変わるんだなと知った。
「確か子供達にやる気を出させる為にステーキを奢ろうとして子供に空気を読まれてラーメン食べるんだったっけ? ウチのモン娘達は多分気を遣えないので俺が散財する未来しか見えてこないな……」
大浴場の風呂で顔を洗う。たまにホブさんやゴブリンの雄達と一緒に風呂に入る事もあるけど今日は俺を一人で風呂に入れさせるように空気を読まれているみたいだ。
怒れる……いやイカれた聖女様が変身したドラゴン退治、ガチンコの戦力では到底敵わない……退路もない。
今、俺……異世界ファンタジーしてるんだなぁと他人事のように思いながら、こう思うんですよ。
「面倒い! クソ、面倒い! 俺にはなんのメリットもないのに神の領域のドラゴン? は? 何それ死ねよリアル!」
誰もいない浴室で俺の声が虚しく木霊する。ドラゴンの倒し方……姫を攫ったドラゴンを騎士が剣でやっけました。
多分、クソチート武器なんだろう。人身御供をドラゴンに与えて諌めました……多分聖女王サマは一人どころか世界全ての命を捧げても止まりそうにない。
お酒を飲ませて酔っ払わせてってのが日本にもあったが……
聖女王サマ、神の寵愛とやらであらゆる状態異常に対して耐性を持っている。
「そもそも神ってなんだよ。神ってさ……俺はCEO! とか言っているけど普通の人間だからな。この北の地域の王様も王様だ……バカなんじゃないか!」
俺はなんだか独り言の愚痴が楽しくなってきた。
「このわけわかんねー異世界で、労働に見合わぬ収入に泣きながら、無駄に金食い虫のもん娘たちの世話を見る? んだよ慈善事業かよ……というか葛原さん、もう少しマシな情報よこせや!」
愚痴ってのは誰かに聞かせると不愉快な気持ちが蔓延する。
「あームカつく! カグヤさん戻ってこいよ!」
だから、俺は人には基本的に愚痴らない。聞こえるのは反響する俺の声だけだ。
「聖女王サマ、可愛い顔しているのにヤンキーって、どうなん? ちょっと悪い事している自分カッケェとか思ってるイキリ中高生かよ。くっそー、エロい体しやがってなんなんだアイツ」
俺の愚痴はまだ続く。
「……可愛いと言えばアステマだ……」
アステマは何処に出しても恥ずかしくない美少女だろう。
「だが、しかし騙されてはいけない! あいつの可愛さなんてあいつのムカつく行動と言動からしたらマイナスでしかない……死ね!」
…………なんか面白くなってきたぞ。
石鹸から試作を繰り返して作ったシャンプーで頭を洗う。ちょっと果物の香りづけがミソである。
「ガルンには絶食のラマダン月を作らせるか? 食いすぎなんだよホント」
ガルンも年の離れた妹か、親戚の子供くらいには可愛げがある。が、ウチの赤字の大半は奴の際限のないガルンの食欲と言っても過言ではない。
最後にどうしょうもない、人工生命体。ゴーレムのエメス。今の俺の技量でできることは18禁フィルターをかける程度。
「……いつか、必ず奴のあのイカれた性癖は書き換えてやる!」
俺は桶を持つとお湯を頭からザブンとかけた。歯磨きを取り出すとそれで鏡を見ながら歯を磨く。
本来、簡単な雑務をしてあとは寝るだけ……。
しかし、これからあの化け物聖龍退治の対策会議だ。
「ガルンちゃん! 大丈夫? 我慢せずにぺっ! しなさいよ! ぺっ!」
「苦しい! 苦しいのダァ! うぅ……お腹が痛いのだぁ!」
「はぁ……もう問題発生か」
…………風呂から上がる。
が、この食事中に俺は最大最後のヒントを得る事になるのだった!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
うーん! うーんと苦しそうなガルン。
食いすぎらしい。
山盛りだったであろうスープ。
比例して山盛りのエルミラシルの破片。Q.E.D……状況確認終了。
「ガルン、お前。まだ完全に元の大きさに戻っていないエルミラシルの破片たらふく食ったろう? 腹の中で何倍も大きくなってるんだからそりゃ苦しいわな……我慢せずにトイレ行ってこい」
「うぐぐ……ボクは食べたものは絶対にださないのだっ! 我慢なのだっ!」
今から会議だっつーのにガルンは増えるエルミラシルを消化する事に一杯一杯である。
埒があかないのでガルンはエメス達が横になっているところで休ませる。会議の席は俺、アステマ、スラちゃん、ホブさん、そしてプレアデスの五人だ。
ライル様から送られたポーションを頂きながら話す。
皆、一口飲んでその質の良さに驚きを隠せない。
北の地域ではこれをハイポーションだとか言うような代物である。飲みやすくてそして美味しい……疲れもより取れる気がする。
まさにエナジードリンクと言っても過言ではなさそうだ。
会議は中々進みが悪かった。エメスとガルン。
普段なら会議の邪魔か無駄な発言しかしない二人がいないにも関わらずである。プレアデスの演算では聖女王サマのご起床はおそらくあと一日。
次の日の朝と共に終焉の産声を上げるだろうと厨二臭いことを言っていたが、多分そうなんだろう。
一かばちかのプレアデスが持つ空中要塞の修復した部分だけで攻撃ができないか?
否! 敵基地攻撃能力は有していない。
使えないゴーレムだ。
「マスターくん! 今、とても不敬な電波を感じたよ! 人にはそれぞれ役目があるんだよ。唯は戦闘向きじゃない!」
…………確かに。
「マオマオ様、御言葉ですが、ドラクルさんにエメスもあの状態。ここにいる戦力ではどう足掻いても……マオマオ様がいらっしゃるのは存じておりますが」
ホブさんいいよ。俺を立てなくても。戦闘能力なんて俺ないし。
この集落で一番障子紙くらい弱いからな。
「と言っても、このままでは私たちのこの商店街予定地が無くなってしまいます。玉砕覚悟といえば言葉が悪いですが、守るためにはもはやそれしかないのも事実かもしれませんね……いかがなさいますマオマオ様?」
「スラちゃん、ホブさん……そうだなぁ」
ふとアステマを見る。こいつ……ポーションの入っていた瓶に水入れて、そこに細かくちぎったエルミラシルの破片沈めて遊んでる。
ポップコーンを牛乳に沈める農場の少年か……てかどれだけ暇を持て余してんだこいつ……
「聖女王サマの攻撃を跳ね返せたりできないだろうか? なんというか、聖女王サマを倒せるのは聖女王サマの力だけな気がしてきたんだよ。俺が子供の頃に見聞きしてきた物って大体大きな力を持った奴は自らの力に溺れるか、制御できずに自滅するってのがオチでさ……聖女王サマのブレスをなんとかして聖女王サマにぶつけれればワンチャン! とか覆っている俺がいたりするんだけど……ウチの戦術もろもろ計算担当のプレアデス的にはどうだろうか? 何か方法とかあるだろうか?」
頬杖をついてクスリとプレアデスは笑った。
「マスターくん、そんな子供騙しの物語みたいな事できるわけないじゃないか! もう、君は……実に馬鹿だなぁ! くすくす」
くそっ! 腹たつなぁ! アニメや漫画の見過ぎだぞ! ってか?
あーそうですよ! 俺の異世界系知識なんてそんなもんですわ。
その時である……
パリン! とアステマの手元の瓶が破裂した。
「……あわわ! ち、違うのよ! 主、それにみんな……これは……そう! 魔法の研究よ!」
いや、クソくだらない遊びをしていただけですよ。
瓶の中に質量以上の大きさになったエルミラシルによって中から破裂。
そう……中から破裂したのである。
それに、俺、スラちゃん、ホブさん、そしてプレアデスはポーションを一口。
きっと、多分だが俺たちは同じことを考えたに違いない。しかし、誰もそれを口に出そうとしないのだ。
きっと、ちょっと馬鹿らしいというか……この作戦同意されなかったら少しばかり痛々しい……
まぁ、でもそういうのは雇用主の役目ですわな?
「えぇ……皆さんお気づきかと思いますが……もしかしたらなんですが、大量に精霊王サマに押し付けられたエルミラシルをですね?」
俺の話をアステマを除く皆は真剣に聞いてくれる感じだった。
「聖女王サマに思いっきり食わせて……ライル様からもらったこのポーションをがぶ飲みさせてですね……聖女王サマのお腹にダイレクトアタックしてしまうって方法とか……俺考えちゃったんですけど……やっぱあれですかね? ガキの考えそうなクソオーダーですかね?」
保険をかけてそう言った俺。
開口一番はアステマ。
「ふふん、そんな作戦! 主、あれよ! プレアデスの言葉を借りると、」
「唯は大いにマスターくんに賛成だね。はっきり言ってあの聖龍は無敵、或いは最強だよ。あらゆる状態異常を受け付けない。でもさ! エルミラシルの増殖は状態異常じゃないよ。だから回避不可能だ。そうなるとどうなると思う? リバースしかないね! 話によればあの聖龍は信者達の力で神の化身として顕現しているだけだよ。増殖したエルミラシルと一緒に、聖龍にその神格性も吐かせちゃえば元の聖女王に戻るかもしれない! そこが勝機だ!」
ガッツポーズを作りながら言うプレアデス。
アステマだけは馬鹿だから俺を笑おうとしていたが、他のメンバーを見て「そうよね! 私もそう思ったわ! ふふん」とか言ってる。目が泳いでいる事を俺は見逃していないからな!
うん、いや確かに聖龍より聖女王サマの方がマシな事は間違いないのだが、俺たちはあの聖女王サマと真っ向からやり合って勝てる自信もない。
「超最悪が、最悪くらいには落ち着くわけだ。とりあえず聖女王サマ対策は後にして、聖龍攻略戦に関してはみんな、俺の意見に賛成という事でいいな? 時間がない、オーダーを説明する。そして今回くだらない遊びをしていたアステマはでかした。罰は無しだありがたく思え」
アステマは、最初こそ怒られなかったが、自分の遊びから作戦が思いついたことにいきなり態度がでかくなる。小さい羽をパタパタさせながら……
ふふんと余裕綽々で俺たちを見渡していく、ほんとこういうところな!
スライムとゴブリンを集結させる。
……只今より、聖龍の口元にエルミラシルの破片を撒き、増えるワカメのごとくポーションで増やして腹を壊す作戦
俺たちの……聖龍攻略戦がここに開始された。
ポーションをなみなみと入れる巨大樽も急造でクリエイトする。
物理攻撃も魔法攻撃も多分聖龍には届かない。
されど、その神を名乗るドラゴンの鼻っ柱を叩き割れそうな唯一の方法、八岐大蛇作戦。
ポータルを使って、次々にスライムとゴブリンに必要な資材を運んでもらう。
……スラちゃんとホブさんの的確な指示で作戦の進みもいい。
足手まといがいないだけで、仕事って言うものはスムーズに進んでいくんだなと俺が思った矢先。
エメスと、ガルンが元気そうな顔で俺たちに合流を果たした……あーあ、こいつらきたら失敗すんじゃねーか?
…………こいういう時、どんな顔をすればいい?
スカした少年は確かこう言ったんだ。
“笑えばいいと思うよ“ ってな……うん、笑うことにしよう……うん。
流石に聖龍の近くに来ると皆モンスター達は震える。
「よし! みんなよく頑張った! スライムとゴブリンは拠点に戻っていいよ。ホブさんはスライムとゴブリンの引率。アステマとスラちゃんいつでもここから逃げられるように自身に運動能力倍増系のスキルを! プレアデスは聖龍に動きがないか逐一報告を!」
聖龍は、翌朝、ゆっくりと目を覚ました。




