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聖女とは一体なんだったのだろうか?

 さて、簡潔に説明しよう。

 

 聖女王サマのご降臨に涙を流す信徒達。

 彼らは祈り、聖女王サマに力を送る。そしてウチのアステマとガルンはあからさまにビビる。

 変な音をたてながら体から煙のような物が上がり、壊れかけているエメス。

 

「おいおいおいおい! トカゲの親玉……それも最上級の竜王ってか? いいぜ? いいぜ、いいぜ! ぶち殺してやんよ! 皮を剥いで、私らの言う神とか言う奴のところに送ってやるぜぇ! あぁ?」

「貴様程度人間にやられる我ではない」

 

 どうやら俺たちでは関わることが許されそうにないアルティメットバトル展開中です。

 

「おい、ガルン。とりあえずエメスを回収しろ。あのまんまじゃ完全にスクラップにされる。一矢報いるどころか相手にもされなかった。でも見てみろ! ドラクルさんが押してる!」

 

 そう、現在、聖女王サマは完全にドラクルさんによってお出玉である。

 かろうじて、チート級自己治癒力と回復魔法でなんとか耐えている。

 こういえば、聖女王サマに勝ち目はないと思えるのだが、聖女王サマは金色の鎖にまだ繋がれているのである……はい、フラグ……

 


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 聖女王サマのご登場に、信者達は後退を初め、そして涙を流して祈りを始めた。

 

 こんなど不良を信仰する連中と最初は思ったが……

 人間が圧倒的に弱いこの世界において、魔王やら精霊王やらと並び立つこの聖女王サマは人類の希望といえば希望なんだろう……

 

 一応、信者たちに被弾しないように障壁系の魔法を聖女王サマは信者に達にかけている。その表情が優しげなら誠の聖女様だったのだろうが、ドラクルさんを見て喧嘩する気満々の表情である。


 俺たちも聖女王サマが近づいてくる分ゆっくりと離れている。話が通じないという意味では人間であるにもかかわらず魔王アズリたん以上に厄介だ。

 さらに言えば、前回俺が手加減をしていたと勘違いしている。

 全力全開で俺を殺しにくるだろうし、どうしたものか……

 

 ドラクルさんに手加減という言葉が通じるのかいまいち分からない。ボコボコにしていいとは言ったものの不安である。本当に殺してしまったら目覚めは悪し……

 万が一、ドラクルさんを聖女王サマが突破でもしてこうようものなら完全にデットエンドが確定する。ドラクルさんは聖女王サマを見て大きく瞳を開いた。

 そして口を開けると、アンデット達6000匹を瞬時に灰にしたあのブレス。

 聖女王サマは何か魔法詠唱をしてそれに備えた…………

 

 もしかして……殺っちまったか? 流石にゼロ距離ドラゴンブレスはあかん!

 ドラゴンブレスの強烈な炎の光から目が慣れた時……真っ黒に焦げた腕であれを耐え切った聖女王サマ……痛覚がないのか? 

 笑ってやがる! こえぇええ!

 

 チート級回復魔法で腕をすぐに治すと構えた。

 聖女王サマはモンクファイターというか、どちらかといえば武闘派なのは俺も知っているが……

 こんな構えは俺には見せなかった。


セイクリッド・神殺拳(ゴットエンドアーツ)

 

 びっくりするくらい最低なネーミングの格闘術だ。まず聖職者の覚える技じゃねぇ……てゆーか表向きは宗教の人は神殺なんて言っちゃダメでしょ! 表向きは……むしろ清々しいのかもしれない聖女王サマ。

 

 聖女王サマは腕を後ろに下げると、生まれ持ったとかでは説明のつかない身体能力でドラクルさんに突撃した。

 目にも止まらなぬを体現した連続攻撃、ほとんど聖女百烈拳みたいなその技をドラクルさんは涼しい顔で捌いている。

 聖女王サマはカポエラーのように、地面に手をついて次は足技……パンツが見える事とか気にしない系。

 

 聖女王サマ……恐ろしい子。


 聖女と一応名乗っているのに、純白ではなく、まぁまぁ刺激的な下着をつけているのはこの世界では標準なんんだろうか?


 歳の頃はアステマと同じくらいか、いや。やや年上の十八程に見える聖女王サマ。もう少し慎みなさい!

 きっと俺が聖女王サマにそんなことを言える未来は永劫来ないだろう。


 …………アステマとガルンは安心してベコポンなんか齧りながらその様子を見て、今にも参戦しようとサーベルを向けるリコさん。

 それをどうにか止めようと考えている俺。

 リコさんの直属の部下のギフターさんは俺たちより遥か後方待機。

 そう、俺はドラクルさんという安心にばかり目がいき、忘れていたのである。たった一人のリベンジャー。

 

 …………エメス、空気読んでぇ! 

 

 お前さんじゃこの戦いに介入できないって。

 何故今日に限りこんなにお前さんはテンションが高いのか!

 

 自身に強化系のバフを何重にもかけて、エメスは地面を蹴った。

 

 こういう時に限って俺の隣で興奮して意味不明な下ネタを言ってくれる君が恋しいよ……。

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 エメスは、渾身の一撃をドラクルさんと戦っている聖女王サマに向けた。

 

「あ? なんだお前ぇ……あぁ! 死威王のところのデク人形か? もしかしてお前、私とこのトカゲ女との喧嘩の邪魔すんのか? あの時完全にぶっ壊しておけばよかったぜ……土塊人形如きの拳が私に届くと思うなよ? 死威王の夜の慰み物でもやっておきゃぁよかったんだヨォ! 死ねぇえ!」

 

 おっと、聖女王サマの下品な言葉に……

 エメスは嬉しそうだ。

 

 しかし、ブチギレ聖女王サマのヤバげな魔法力の篭った拳で殴られたらさすがにエメスさん、やばいだろうと思ったところドラクルさんが聖女王サマの一撃を止めた。そうなんです……なんでか知らないんですが、ウチの三人のもん娘、ドラクルさんに懐かれているんです。

 

 仕事を押し付けたり、下ネタを無意味に教えるとんでもないモン娘達なのに。

 

「その者に手を出すことを許さぬ。卑しき人間よ。今までどれほどの者と死合ったのか知らぬが……あまりにもか弱く、そしてあまりにも愚かである。竜王たる我が、其方を捻ればどうなるか、分からぬ事もないかろう?」

 

 そう、ドラクルさんは手加減してますよと公言した。それに、アステマ、ガルン、歓喜!


 そして、俺は嫌な予感しかしない。

 

 ガタガタガタガタと聖女王サマは震えたのだ。震えを抑えるように肩を抱いて。

 

「ふふっ、見よ死威王。力の差を思い知り、聖女王、震えているぞ!」


 リコさんが余計な事を言った。聖女王サマは恐怖に震えているんじゃない。

 手加減された事、自分が馬鹿にされていた事への震え。

 怒りに打ちひしがれて、体全体で憤怒しているのだ。聖女王サマは小石を拾うとそれをピンと飛ばした。

 

「あぅ……」


 聖女王サマをディスったリコさんを瞬時に気絶させ、背中を向けて逃亡しようとしたギフターさんも気絶させた。


「死……威……王。テメェ……また私を弄んだのか? 私のこの気持ちを踏み躙り……これは、私とは……遊びだったというのかぁ? あぁああ!」

 

 なんだろう。聖女王サマと俺は付き合っていて、俺は浮気現場でも目撃された状態なんだろうか? 

 要するに……言い方。

 

「聖女王サマ、落ち着いて……前回は、前回はね? あれはハッタリで手加減どころかもうあのまま続けてたら俺たち殺されてたわ! そう、聖女王サマすげぇ! 完敗」


 情けなくそう言ってみた。いけたかな? とチラりとみてみると……

 

「前回は? じゃあ今回は私を弄んだのか? ゴラぁあ!」

 

 うわぁ……もうダメだ。この女、地雷以外の何者でもないや。


 多分、この女の頭の中には……

 俺を殺すことしかないんだろうな。魔王も精霊王もイカれてたけど話は通じる分なんとかなるが……

 誰かが言った。オカルトよりもただの人間が一番恐ろしいと。

 

 俺は少しばかり考えて、いや割と中堅大学の受験勉強をした時くらい悩んで頑張って長考してみた。

 そして結論を出した。

 

 ドラクルさんと目が合う。


「ドラクルさん、とりあえず動けなくなる程度に本気でやっちゃってください!」


 俺のその言葉を聞くと、しばらく俺を見つめてからドラクルさんは親指を立てた。

 俺も親指を立てた。

 それからドラクルさんは大きく息を吸うと突撃した。

 大きく振りかぶり、野球選手の投球のように……

 

 がすこん! と聖女王様を地面に殴りつける。

 一瞬白目むく聖女王サマ……

 

「がほっ……息が……テメェ……トカゲぇ……私を殴りつけたな? 大いなる神よ! 哀れな私めに愚者を噛み潰す奇跡の光をぉ!」

 

 本当にそんな祈りの言葉なんだろうか? いや違うだろう。

 そして多分神へのリスペクトなんて聖女王サマには微塵もないな。

 

「神よ! 私たちの光、私たちの主、大いなる父であり母。悪魔を撃滅する螺旋の鉄槌を! ファーナン!」

 

 聖女王サマの両手が輝く。高速移動するドラクルさんの攻撃に!

 カウンターだ!

 殴られる事を気にせず一撃を入れる……男前すぎる聖女王サマ。

 

「人間の分際でよくやる。先ほどの一撃もほぼ回復に至ったか……」

「こいよ! トカゲぇ!」

 ドラクルさんは無表情のまま口元をやや強く閉じた。


 多分、ドラクルさんは怒ったのだろう。ドラゴンという最上位、最強生物であるプライドに障ったに違いない。



「主上はボコボコにしろと言った。貴様の頭以外、再生不能な状態にまで砕き切ってやろう……喜べ、か弱き人間」

 

 その言葉と同時にドラクルさんと聖女王サマは動いた。ドラクルさんの動きを封じる神聖魔法、それを歯牙にも掛けずドラゴンブレス。

 自らにプロテクションをかけて同時に回復魔法を常時使用して無理やり受け止める聖女王サマ。

 

「あちぃ……骨まで溶かされたの初めてだ! クソ、トカゲぇ!」

 

 アンデットか! という再生スピードを見せる聖女王サマ。

 

「おい死威おぉ! このトカゲ女をぐちゃぐちゃに殺したら次はお前の番だ! 楽に死ねると思うなよ? こんな奴用意しやがってよ! あぁ! こんな奴いるならあの時に出せよコラァ!」

 

「えっと……すみません! あの時はまだドラクルさんとは知り合っておらず……」

 

 


 俺の綺麗なお辞儀と謝罪を見て聖女王サマは「けっ」と一言。

 そして今現在倒すべき敵として認知しているドラクルさんに向かっていく。セイクリッド神殺拳とやらはドラクルさんを倒せる程ではないらしい。受け切り、捌くことはできてもダメージにはならない。

 

 方や聖女王サマは、まだまだ余力を残しているドラクルさんの攻撃を受けては大ダメージを受けて回復を繰り返す。

 

  

 この負けん気と自分への絶対的な自信と闘争心。今の日本人に一番足りていないものだろう。

 諦めるという事を彼女は知らない。

 

 夢は諦めなければ叶う! とかいう偽善者がいる。

 多分、違うのだ。諦めないだけでは届かない。この聖女王サマは夢を……いや、勝利を無理やり掠め取ろうとしている。

 恐ろしいどころか、この姿にはやや感動すら覚えてしまう俺がいる。

 

 まぁ、でも万が一ドラクルさんが聖女王サマに勝利されたら俺殺されるんですけどね……




「……心なしか……人間。貴様の力と速さが上がっているように思える。と、同時に我の攻撃が僅かに通り難く、回復の速度がそれを……上回ったか?」

 

 不穏! ドラクルさん不穏な事言うのやめて!

 

「ははっ! お前の攻撃……段々痛くなくなってんぜ?」

「痩せ我慢を」

「あと少しだ」

 

 そう言って聖女王サマは袖から緑色の液体が入った瓶をがぶ飲みして悦に入った。

 

「ポーションだ。お前との戦いの最中、四本キメた。大したもんだぜ? 今までこれを私にこんだけキメさせたのはお前が初めてだ」


 ポーションをキメるってなに? 使うとかにして欲しいな。なんか、ダメ! 絶対! みたいな物に思えるでしょ。

 


 ポーションを飲み干すと瓶を砕いて捨てる聖女王サマ。

 


「ほぉ……人工的に生み出した体力、魔力を回復させる秘薬か? さしずめ人間共が不老不死の霊薬でも生み出そうとして失敗した中で生まれた産物と言ったところか? そんな物で肉体の再生を強制し、魔素を無理やり取り込み続ければいずれ、その薬なくしては生きていけない身体になるぞ? 代償という物なしに、世の理を覆す事が人間風情にできる思うな?」


 うん、ポーション。完全にダメ絶対じゃん。


「そーでもねーんだぜ? 私は離れたところで祈る事しか出来ねぇくそ惰民共とは違う。私はポーションを副作用なしで使える身体だ。そして、一度受けた魔法や物理ダメージに備えて強く耐性を持って成長すんのさ……聖女だからな」

 

 いや、それ……聖女じゃなくてなんとか人っていう宇宙人ですわ。

 通りで聖女王サマ……。

 殴り飛ばされる回数が減ってきてる。


 

「お前は確かに私が戦ってきた中で死威王の次に強い。最強の一角だろうよ。だが、お前をぐちゃぐちゃに潰し、死威王も他の魔王種も皆殺しにできる程に強くなるだろうな?」

 

 聖女王サマの中で俺の評価は相当高いんダナァ……嬉しいな……

 ………………。

 まじでドラクルさんおねしゃす。

 

「……貴様。初めて見た時からおかしいと思っていた。……その人間離れした魔力量。身体の丈夫さ。昔々、覚えがある。天空より出る者に敗れた一人の人間の女が一人で深山に籠り、あらゆる魔法の研究をしていた。生まれながらに神々に愛される人間を生み出そうと様々な文献や魔法の知識を集めていた。我らドラゴンの元にも訪れて奴は我々の知識を欲した。ホムンクルではなく、人間として生み出す為にその女が取った行動は確か……」

 

 ドラクルさんがなんとも不穏な話をしている。

 ……そして、その確信に迫りそうな事を言って俺やガルン、アステマがゴクリと喉を鳴らした時。

 

 聖女王サマはドラクルさんに襲いかかった。金色の鎖を揺らしながら、今までよりも野蛮に。

 法衣の冠が飛ぶことも気にせずに、薄い青色の髪が聖女王サマの動きに遅れて靡く。

 かろうじてドラクルさんの方がまだ早く強いのだが……

 いくらなんでもこの短時間で聖女王サマ強くなりすぎだろ。

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 目のやり場に困る聖女王サマのふくよかな胸が上下する程度に聖女王サマの息は上がっている。されど、そんな事はお構いなしに攻撃を続ける聖女王サマ。


 そして最悪な事に、目で追いつけないようなドラクルさんと聖女王サマとの攻防の末、聖女王サマはついにドラクルさんに一発を返した……。


 ……ドラクルさんはその事が一瞬理解できず、そして初めて怒りを露わにした。

 

―――神よ、私たちの愛する神よ―――

―――聞こえているよな? だったらこれで幕だ。力をよこせ―――

―――お前が愛する私が言っているんだ。分かるな?―――

―――つべこべ言わずに私に抹殺の力を与えよ―――


 すげぇ……これ一応聖女とか言われている人の祝詞なんですよ?

 信じられますか?

 これを聞いて遠くて感動している信者たち。

 スッゲェ怖い。ファナリル聖教会まじヤベェ……

 



 神職者たちのユニークスキル。

 祝詞……詳しくは知らないが、魔法の力を借りるではなく信仰している神より代償の代わりに際限なく与えられるらしいチート。

 

「……トカゲ女ぁ! 私がポーションで代償無しで使えるようにな? 神とかいうクソ野郎は私にベタ惚れらしくてよ。神々の魔法力も代償なんて、ねーんだぜ?」

 

 おぉ……まさかとは思ったけど、聖女王サマ……さすがは王種。



 基本的に聖女王サマは自分の力だけで闘いたい。

 その聖女王サマが神の力に頼るという事はドラクルさんはそういう存在なのだろう。

 そして聖女王サマが本気になるという事。

 聖女王サマは今現在、自身の超成長でドラクルさんに並びつつある。

 それってどういう事かといえば……

 まぁ、神様とかいう存在の力を使って尚かつ無制限に聖女王サマが成長を続けたら……

 竜王というドラクルさんを人間でありながら超えてしまう可能性がある。

 普通に考えてそんな事ありえないんだろうが。

 聖女王サマなら超えかねない。

 違う違う! というか俺殺されちゃうし、それこそ他地域巻き込んでの戦争になっちゃうし……

 


 たださ……北の魔王の後継とか言われてるけど。

 商店街作ろうとしているだけのか弱い俺にどうしろと……


 俺は両手を前に、竜王というドラクルさんに聖女王サマをボコって気絶させてもらう事を祈るしかない。ユニオンスキルという助力を持って……

 ドラクルさんのクラスチェンジはできないが……。

 

 

 かなりの能力向上がドラクルさんには見られたはずだ。

 神様から魔力を代償なしで与えられている聖女王サマを殴り飛ばした。起き上がる聖女王サマを何発も。

 起き上がり突っ込んでくる聖女王サマ。

 

 無慈悲にもドラクルさんはハイパー化した聖女王サマの体力、魔法力、回復速度を遥かに上回った。

 要するに、遊びは終わりだという事だろう。

 

「……ゲホゲホ……もういいや、もう……全部ぶち壊す」

 

 負けを認めたとか一瞬思った俺だったが、聖女王サマは金色の鎖を無理やり引きちぎった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 聖女王サマは自らの力をセーブしているという金色の鎖を引きちぎり捨てた。

 これが実は厨二病の包帯みたいな物でした〜! というお話だったらどれだけ良かっただろうか?

 

「おい、祈っている惰民共。命張れよ? サンデーのクソ女の通りにするのは癪だが……使ってやんよ」

 

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

「聖女様! 聖女様! 聖女王様ぁあああ!」

「嗚呼、ようやく私たちは方舟に乗船できるのですね! 痛みも悲しみも飢えも貧富の差もない約束の地へ」

 

「うるせぇ! そんな事知るかぁ! サンデーのクソ女とパフェのクソ野郎が勝手に言っている事だろうが、大体あーいうのは嘘なんだよ。お前らの信仰心を煽るためのな!」

 

 辛辣にも宗教の本質を語る聖女王サマ。

 されど、聖女王サマの言葉を聞いても完全にトリップしている。

 

 おそらく、聖女王サマは、この信者達、また北の地にきている連中全てのユニオンの力を使うのだろう。

 

 

 信者たちの言葉を聞くに……これって死んじゃうんじゃ……


「もっとだ! もっと私にお前たちの極小の神の寵愛とやらをよこせ! このトカゲ女をぶち殺すのにもっと力が必要だ。滅ぼしてやんよ! 竜王だろうと魔王だろうと……こんなどうでもいい世界ごとなぁ!」

 

 聖女王サマは法衣の上着を脱ぎ捨てた。紫外線なんて当たった事がないんじゃないかというくらいに白い肌。

 あの細腕からいかにして強烈な打撃を繰り返しているのか……

 

「あらゆる物を神から守られているか……」

 

 まぁ、信じられないが、要するに聖女王サマは自身に降りかかるマイナス要素を全て神とやらが守っているのだろう。

 要するにポーションの場合も……

 体力と魔力の回復のみ行われて、副作用は全て遮断されると……


 多分、聖女王サマは毒を盛られても一切効果がないのだろう。

 まさにチートじゃねぇか……


「神の寵愛。ここまで強烈な者を初めて見た。かつて聖人ともてはやされた人間がいたが、それ以上の力だ。だが我には到底通じぬ」

 

 なんと安心できる言葉だろうか? ドラクルさんはこのハイパー化後のさらなる超進化した聖女王サマですら敵ではないと言った。

 

「そうこねぇとな! いくぜ?」

「神の寵愛ごと、貴様のその傲慢な自信を砕いてやろう」

 

 俺はどうやら判断を間違えた事に気づかなかった。

 先ほどから聖女王サマが危険だとアプリが知らせているのは知っている。

 しかし、そのチートを真っ向からねじ伏せるドラクルさん。

 ドラクルさんはまだまだ余裕があった。


「竜王……魔王種でありながら人間である死威王になんで従ってるかは知らねぇが死ね! 地上は人間の物であってお前たち人間じゃねぇ者の存在は私がゆるさねぇ」

「……神にでもなったつもりか? 人間」

 

 聖女王サマ率いるファナリル聖教会。

 考え方は至ってシンプルだ。亞人を含める人間以外を認めない。

 

「神? 神は私の言うことしか聞かねぇ……だったら私の言葉が神の意思で、私が神というのもあながち間違ってねぇだろ? クソドラゴン」

「そうか……主上。この者見るに耐えん、滅却する」

 

 ドラクルさんはそう言うと、本来の姿……みの丈十数メートルはあるドラゴンへと、本来の姿を見せた。

 

 その姿を見た精霊王サマは……

 

「いいじゃねぇか! その姿ぁ、醜悪でいかにも竜王じゃねぇか……人間の姿をわざわざとんじゃねぇよ! 私はお前たち人間以外が嫌いだ。大嫌いだ! あぁ、安心しろ、人間である死威王、テメェもぶち殺してやる」

 

 全く話がつながらない聖女王サマ。

 

 とはいえ、ドラゴンの姿を解放したドラクルさんの力は少女の姿をしている状態とは比べ物にならない。

 聖女王サマの障壁系の魔法を軽々と突破し、聖女王サマの強力な加護がついたローブが燃え落ちる。


 回復と再生が追いつかない中で聖女王サマはそれでも諦めるそぶりが一切ない。これで、心までまともだったならば、この世界の英雄王にでもなれたろうに。

 瞬間、ドラゴンブレスで殺されかけた時、嬉しそうに嗤う。

 

「エンシェントリザレクション!」

「ムダトシレェ!」

 

 理論を教わっても多分俺には生涯習得不可能であろう伝説級回復魔法を使う聖女王サマ。

 だが、ドラクルさんのドラゴンブレスはやはりと言うべきか、軽々とその回復スピードを上回った。

 

 これは、流石に聖女王サマ死ぬって!

 

「聖女王サマ、降参しろ! 死ぬぞ!」

 

 俺のこの言い方も悪かったのかもしれない。降参します。もうやめてください! といえばよかったか? いや、無理か……

 

「オメガ・ゴット・リザレクション! 神、休んでんじゃねぇよ!」

 

 聖女王サマは身体中に刻まれたルーンを輝かせてそう叫んだ。

 

「キサマ。イノチヲナントココロエル? ソレホド ノ ルーン モハヤ イノチヲモツモノニ アラズ …………ワガ イカリト シュウエンノ ホムラニ ヤカレテ キエテユケ」

 

「神よ……お前の愛する者はここだ」

 

 正直、今の聖女王サマは目のやり場に困る。何故なら、彼女はドラクルさんのブレスを受け止める度に肌を守る面積が減っていく。


「私たちは悲しみの夜を一つ越え、神に一歩近づいたであろう? だったか? なぁ神よ。お前は私が欲しいんだろ? いいぜ、このクソドラゴンを、死威王をぶち殺す為に貸してやるよ」


 祈りの仕草を見せる聖女王サマ。

 

 これだけ見ていると、聖女王サマと悪しきドラゴンの構図だ。

 民を守るためにたった一人で、ドラゴンに立ち向かっている聖女王サマ……だったらいいんだろうけど聖女王サマはドラクルさんを睨みつけた。

 ドラクルさんはドラクルさんで絶対聖女王サマを殺す気でいる。


 俺には理解できないルーンとかいうチート魔法でも多分。

 ドラクルさんのあのブレスを止め切れないだろう。

 

 なのに……なんだろうこの嫌な予感。

 

 聖女王サマの髪の色が変わる。

 

 中心部が茶色く、それ以外は金色に染まっていく。そして叫んだ。

 

「……レヴァティン(ドラゴン化)!」

 

 合わせるようにドラクルさんのブレス。

 目を開けていられないような閃光。

 そして……跡形もなく聖女王サマ死んだんじゃね? とか思って目が光に慣れてくると…………

 そこにはドラクルさんの数倍の大きさの黄金のドラゴン。

 

 その姿を見て、信者達は次々に倒れる。

 約束の地に誘う。


 聖龍 プリン・アラモード様と口々に叫び。

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