聖女王様と二度目の出会いと五人の問題児
「ねぇ、主。カグヤはあのままでいいわけ?」
「そうだな。カグヤさんにはあのヤベェ男を相手してもらって、オーダー変更。俺たちはヤベェ聖女様の方の相手をしなければいけなくなった」
きっとカグヤさんに聖人を任せた事で楽できると思ったのだろう。向かう先にはあのイカれ聖女様。
「ふっ、マオマオよ。我らで聖女王を討伐するという事か? 聖女王と戦えるのはこの私、英雄だけだと思っていたところだ! 私のこのサーベルも一層の輝きを見せている。安心するがいい! 私は数々の戦いにおいて、常に生き残り勝利を納めてきたのだからな! はーっはっはっは!」
「えぇ、リコさん。期待してます。期待してますので、くれぐれも俺の指示に従ってくださいね……クソが」
「あぁ! そして最後何か言ったか?」
今まで厄介な3人と色々厄介な事に巻き込まれたけど
今日、それがモン娘3人に人間2人の5人ですよ?
俺、何か悪い事しましたか?
とりあえず再オーダーを話す。
「あの大軍勢を囮にして、教皇パフェだか、聖人パフェだかが待っていた。要するにあれだけのユニオン人員を使って俺たちへの強力な壁役をやるつもりなんだろう。それはカグヤさんを配置してあの大軍勢を逆にここに引き止める事に成功したと思おう。結論を言うと、聖女王アラモードの行方は多分、俺たちの拠点に向かっていると思う。一回どんぱちやらかしてくれた奴は場所も知ってるしな」
「ちょ、ちょっと主。もしかしてまた……あの異常な人間と?」
頭がすこぶる異常なデーモンに異常な人間と言われる聖女様。
ただし、これに関しては俺もアステマに同意せざるおえない。あの聖女様には信念とかそういうものは持ち合わせていない。
気に入らない相手に喧嘩を売り、ぶちのめしてきた。きっとそれが数えきれない数になった頃、聖女王と呼ばれるようになったのだろう。
「……一人殺せば殺人鬼、百人殺せば英雄だってのはどこの世界でも成り立つ方程式なんだな……」
最悪のこの展開、一人だけヤル気満々の奴がいた。
そう、下ネタ製造機。エメスさんである。何故か、今回異様に聖女様へリターンマッチをしたがっていた。
「マスター。これを僥倖とみたり、我の手で直々に性女王などという、称号を我が奪い、誠の性女王になると心に近いけり、我のBL回路が叫びたがっている」
そうかぁ……そうかそうか、コイツはだいぶんオツムの方がイカれちまっていると知っていたけど……
まぁまぁ手遅れのレベルだったんだなぁ。
「……ふふっ、エメス女史。貴殿は佇まいもさることながら常にどっしりと構えていた事を私だけは気づいていたよ。……なるほど、君は聖女を目指していたのか……微力ながらこの英雄が強力しよう」
リコさんが何も分かっていないのに全てを分かったような顔をして手を差し出す。
それに、少し無言で見つめた後に、エメスはリコさんの手を握り返した。もうどうとでもなればいいやと俺はそれ以上突っ込もうとも思わなかった。だって、ガルンと、アステマがその光景を少しカッコよさそうに見ているんだもの。
「まぁやる気があるのはいいことだ。最初に来たルートを使って聖女様が俺たちの拠点に到着する前に会敵するぞ」
正直、今回は本気で殺りに来ている。
前回のような謎の撤退は考えられないだろう。
とはいえ、俺たちも拠点を放棄するわけにもいかない……。
考えても策らしい策もない……
実際、あれだけの軍勢をカグヤさんに引き止めてもらうというより、向こうがカグヤさんをあそこで食い止めたと考えると……
完全に俺たちは詰みの方向に向かっている。
こういう時、俺にだけ女神やらが与えてくれたチートがあればなと思うが、あるのは腹立たしい職員に入れられたスマホアプリと、詐欺にしか使えない巨大な斧。
「魔神器。一応、これスペシャルアイテムなんだよな。これで聖女王サマぶん殴って退治できないだろうか?」
とりあえず敵戦力も分からないので今は自分の拠点の事を考えよう。
遠くではどえらい爆音が聞こえる。聖人パフェとカグヤさんだろう。
「マオマオ。ポータルを使えば、聖女に追いつく事は容易いだろうが、拠点にまでたどりつかれたら、それは敗北のようなものではないのか?」
そうなんです。そんな事はもうさっきの時点で知ってるんですよ。
「……まぁ、そうなんですよ。ウチのメンツは非戦闘員は少ないんですが、色々ありまして、神聖魔法系には頗る弱いんです。あそこで聖女王サマが本気の魔法連射なんてされた日にゃ目もくれません。リコさんにお願いがあります。北の王さまに頼んで、正規の軍を出してもらうわけには行きませんかね? どう考えても、あの西の勢力は、北としても放置できるような武力と人数じゃないと思うんですよね……そこれこそ、何もしなくて制圧されたなんて事になったら……」
リコさんは腕を組みうんうんと頷く。
俺は即座にコイツはダメな反応だなと確信した。
ポータルを乗り継いで、俺たちは聖女様率いる本隊の軍勢に追いついた。総勢一万人はいそうだ。
そしてこちら側には一般人らしき人はいない。
屈強なモンクファイター、そして熟練のプリースト達。
その中心より、聖女王として魔法を行使し続けている。
できれば二度と会いたくない狂犬。
聖女王アラモードの姿がそこにはあった。表情は遠すぎて分からないが、聖女っぽく神々しい。
俺たちの拠点へはまだまだ距離がある。今から仕掛ければ確かに俺たちの拠点への実害はない。
……だろうが。
打つ手がナーンもありはしない。
まぁ、従業員を守るのは俺の仕事。
「アステマ、好き放題魔法をぶちかませ、そしてガルン。モンクファイターじゃなくてプリーストを剣の持ち手側でこずいて回れ、リコさんとギフターさんはその場で待機、俺が全員に加護をかけます」
さぁ、俺は小物だが、大物たちとの同盟で広く深く使えるユニオンスキルの数々の使いようが生死を分ける。
リコさんにギフターさんもかなりの能力向上に驚いている。一応これでも北の魔王もといCEOですから!
そして、アステマの魔法、ガルンによる場荒らしが始まった。
勝てるかどうかは別として、結局、聖女王様を引き摺り出さないとこの数相手にしてられない。
モンクファイター達が近づいてくれば、俺はビビらせる要因のヘカトンケイルを呼ぶ。案の定ビビって下がる。
そして、ここでリコさんとギフターさん。
「正義に反した、邪な西の集団よ! 北の無辜の民に刃を向けるというのか?」
「同じく聖騎士団。副長ギフター。隊長の正義の剣を抜くことを決定する! 隊長、そして北の魔王を恐れるのならばかかってこい!」
めちゃくちゃギフターさん他力本願だった。パッと見は歴戦の戦士なのに、なんだこの人。
今更嘆いても仕方がない。
北の王国騎士団的には程のいい出向、或いは窓際社員みたいな扱いなんだろう。
強いていうなら、おたくらで扱いきれなかったトラブルメーカーを勝手に引き受ける事になる側の事を少しは考えていただきたい。
リコさんはやる気満々にサーベルを向け。
ギフターさんは鞘を受け取って俺とリコさんの後ろに隠れる。
「聖女王! 正々堂々私と戦わないか!」
リコさんのこの態度に関しては英雄レベルだと思う。もん娘達は格上の相手に関して基本ビビる。
が、それがなさすぎるのも相当厄介なんだなと俺は勉強になった。
俺がのせた責任もあるのだが、リコさんは自分を英雄だと信じてやまない。
だが、だがな? 俺もリコさんも多分主役じゃないんだ。
奇跡もご都合主義も味方はしてくれないんだよ?
「……哀れな子等か」
遠くで聖女王サマがしゃべった。
どういう原理なのか知らないが、そこにいる誰もが聖女王サマの声を聞いた。信者に至っては跪き、涙を流しながら次の言葉を待ってやがる。流石に引くわ。
だが、聖女王サマってこんな感じだったか?
言っちゃ悪いが、シスターみたいなプリーストの格好をしたただのヤンキーというイメージしかなかったのだが……今の聖女王サマはなんだかそれっぽい空気感を感じるぞ。遠くにいる聖女王サマは巨大なゾウみたいな生物の玉座に腰掛けている。
これが本来の聖女王サマの姿なのだろうか? 或いは、信者の前なのでそれっぽく振る舞っている……いやぁ……あの類の人間はそういう空気は読まない。
ソースは、ウチのもん娘達。
となると……ベタだが、聖女王サマはウルスラのようにセリューに何かされて操られているというのが一番考えられるか……
てゆーかさ、操られてたとしてその目を醒したとする。すると俺を見てぶち殺そうとしてくるわけじゃん?
どちらにしても地獄ルートか……
「ねぇねぇ主! なんだかあの人間、襲ってこないわよ? 私の至高の魔法……使っちゃおっかな?」
フラグだ! フラグが立った! アステマは自分に都合がいい、聖女王サマ、調子悪いんじゃね? とか思っているんだろう。だが、どう出るか見て見るのも悪くない。
「いいぜ。アステマ。お前に魔王権限で加護を付与する! ウィルオーウィプス!」
アステマがアークデーモンにクラスチェンジするが、誰も気づいちゃいねぇ。魔物と亞人の差とは……
リコさんが少し驚いた。
「アステマは、あの年齢で相当な使い手だな」
「震えて、私に許しを乞いなさい! デス・コキュートス!」
アステマの広域殲滅魔法が放たれた。というか、これアカンやつや!
くそ硬そうな氷柱を大量に上空から落とす大量殺戮魔法だ。
流石にこの一万人を虐殺したら俺……処刑されるじゃん。
どうにか威力を落とそうと考えを巡らすが、ダメっぽい……
神様、仏様……助けて!
そう、俺の祈りは届いた。
「ファナリルの子らに、悪の牙は届かない。神は勤勉な子らをいつも見届けてくださる……セイクリッド・フルリフレクター」
上空に地上に、凄まじい大きさの魔法陣が浮かび上がる。そう、神様も仏様も助けてはくれなかったが……
聖女王サマはこの大惨事から同じ信徒を守った。
アステマの強力な魔法なんて最初からなかったように……消し去った。
「あ……あるじぃ……私の……私の最強まほう……なんで? あの人間、跡形もなく……あんなのずるいじゃない……人間の癖に……え? 私の……私って魔法の才能ないの?」
規格外の魔法に状況を理解できずアステマさんはデーモンのアイデンティティを失いつつあった。
「どうどう……アステマ。俺たちはお前さんの魔法にいつも助けられてますし、俺の生まれた国ではこういう言葉があるんですよ。上見て暮らすな、下見て暮らせてっな……今思えば日本って地獄だな」
俺に慰められてアステマは泣きながら俺にしがみつく。
きっと、俺が十代でコイツの事を何も知らなければ胸が少しくらいはときめいたかもしれないが……
なんだろうか? 可愛げより腹立たしさの方が際立つ。
とりあえず頭を撫でて、褒めて煽てておけば機嫌は元に戻るだろう。コイツにはもう少し魔法を使ってもらう必要があるしな。
一つ救いは、聖女王サマがあのゾウみたいな生き物から飛び降りて向かってこないことだ。
準備という程ではないが……今回は火急の事態故……ウチの最強戦力……というかドラゴンのドラクルさんを呼んでいるんです。
精霊王サマスキル。遠く離れたドラクルさんに助けを求める。
分かった行こう。と二つ返事で来てくれる。
「アステマ、ガルン。まぁ安心しろ。カグヤさんはいないが……最強の助っ人。ドラクルさんがこっちに向かってくれている。ドラクルさんがくればまぁなんとかなるだろう。なんなら聖女王サマでもドラクルさんには勝てないんじゃないか……とか思うわけよ」
俺の言葉を聞いたガルン、そしてアステマ。
………………。
「任せるのだご主人! 僕がコイツらをボコボコにしてやるっ!」
「もう、主驚かせてるんじゃないわよ! そういうことは早く言いなさいよ!」
二人のやる気が回復した。
そして、最初からやる気満々のエメスだけは、力をためている。
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俺はやる気を取り戻した二人にこう言った。
「ドラクルさんが来るのを待つのが、今回のオーダーだ! 分かるな? お前達はこのまま魔法、そして物理により適当に場を荒らし続けろ。不思議な事に聖女王サマは出てこない。今が勝機だ!」
俺の言葉に期待と、安心が約束され二人はオーダーに従った。
エメスは、ずっと聖女王サマを見つめて時折モンクファイターを蹴散らしている。
「……マオマオよ。ドラクルとは、お前達の拠点にいる娘っ子だろう? あんな娘が何ができるというのだ? いや……皆までいうな。アステマのあの魔法、ガルンのあの身のこなし、そして聖女になろうとするエメス。お前達が普通ではない事はお見通しだ。となるとあのドラクルもまた大いなる力を持っているのだろう。おそらく、私に導かれた者の一人だな」
リコさんの中では英雄というか勇者的なリコさんとそんなリコさんの周りに集まってきた七英雄的なストーリーが展開しているのだろう。
本当にこの人、人生楽しくて仕方ないだろうな? この人の中では俺はどういう扱いなんだろうか、気になるな。
リコさんはサーベルを聖女王サマに向けて威嚇をやめない。
聖女王サマは反応しない。
絶対あの時の聖女王サマなら秒で襲いかかってくる
「見てみろマオマオ! 私の覇気にあの聖女王アラモードも容易には仕掛けてこないだろう? 奴も分かっているのだ。この私と戦えば奴もタダでは済まない。当然、私も命懸けだ。戦えば間違いなく私か聖女王アラモードか、どちらかが倒れる……ふふっ、マオマオ。ここで私は死ぬかもしれない。が、私は甘んじてその宿命を受け入れよう。それだけの相手なのだ。聖女王という奴はな」
聖女王サマの何をこの人は知っているのだろう……
というか、この人ガチで聖女王サマとやりあうつもりか?
やりあうつもりなんだろうな。
絶対に阻止しよう。
……マジで思い込み強い人やばいな。
「そうですか、リコさん。聖女王サマが警戒している通り、リコさんもまだあちらの出方を伺っていてください。必ず俺が大きなチャンスを作りますので、くれぐれも! くれぐれも勝手に飛び出して行ったりはしないでくださいね。先ほどのアステマの強力な魔法を打ち消して見せた聖女王様の力は計り知れません。きっと、俺たち全員の力を合わせて、トドメは英雄であるリコさんの一撃にかかっています!」
自分の事を主役か何かだと勘違いしているリコさんは制しやすい。
それにしても聖女王サマ、不気味だ。
聖女王サマは、こうやって人を扱うような人間には見えない。その聖女王サマが座して高みの見物……キャラが違いすぎて気になって仕方がない。
そもそも、聖女さまってのはどんな人物なのか俺のアニメやラノベ、ゲーム知識程度なんだが、誰にでも慈悲の心を持っている絶世の美女的な?
聖女王サマは可愛い顔をしているが、慈悲やらとはかけ離れている。
しかしこちらは六人に対して推定1万人の精鋭の信徒達。その為、アステマをアークデーモンにしても強力な魔法に対して割と耐えてきやがる。
ガルンとエメスのクラスチェンジはまだ余裕を残しておき、遠くから魔法、ガルンとエメスにより近づいてきた者への牽制。
とにかく今は時間稼ぎだ。チートにはチート。
あと少しでドラクルさんがやってきてくれる筈。
そして、俺の表情が明るくなったのだろう。
リコさんは怪訝そうに、アステマ、ガルンは満面の笑み。
エメスは目を瞑り、格闘家ばりのポーズを取った。俺の異世界生活アプリがけたたましく反応したのである。
竜王接近中。
“ユニオンメンバーのドラクルと一致。現在の聖女王含めた軍勢を戦力で僅かに上回りました“
キタコレ! やっぱり、ドラクルさんは桁違いのチートだった。聖女王サマにこれなら勝つる! 少しの余裕が俺を冷静にさせ、聖女王サマの両腕につけられた金色の鎖が目に映った。
…………あっ……あれ、そういえば聖女王サマの力をセーブするやつぢゃん。
「マオマオ。敵はあの人間の娘か? 確かにそこしれぬ神の力を感じる」
そうなんですよ! やっちゃってください! 死なない程度にボコボコにしてくれていいので! とか言おうと思ったんだ。
スローモーションのように見えた。
ゾウのような生き物から聖女王サマが飛び降りた。口元は笑っている。
そして……走ってきたぁあああ!
金色の鎖をブンブンと振り回し、ローブの端、フリルが可愛く揺れる。
お転婆な彼女がデートの待ち合わせ場所で相手を見つけたように。
そして、喧嘩好きの瞳をギラギラさせて。
聖女サマはこういった。
「死威王。もう我慢はやめだ! おもしれぇ奴を連れてきたみてぇだな? まとめて噛み潰してやんヨォ!」
やだぁこの人……




