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戦争というものはいつも気がつけば始まるのである

 嘘だろ…………敵の数や、俺たち、いや北の王国が想定していた以上だった。

 

「騎士団長。マオマオ殿。何かおかしいです。見てください!」

 

 リコさんはアホだから、あの人数を見て、何がおかしい数か?

 と、的外れな事を言っていたが、この報告兵の言わんとしている事を俺は理解した。信じられない数の理由である。


 同じローブを身に纏っているが、よく見ると女子供に老人もいる。

 ファナリル聖教会は、本来の戦闘要員であるプリーストやモンクファイターだけでなく一般人までこの聖者の大行列に加えているのである。その数や恐らく百万近い。軍隊規模で言えば、この周辺国最大の人数を誇る。

 どういう理屈で非戦闘員まで戦争に参加させたのかはさておき、これは少々大問題である。

 

 俺たちの奇襲に一般人が巻き込まれてしまう事。

 そして、そんな事知ったことねーな! な人。

 カグヤさんが、随分前から闘志を燃やし始めているという事……

 


「なぁ? マオマオ。あいつら、全員叩き潰しちまったらダメなのか? あの象見てぇな生物の上であぐらかいてる奴が、お前のいう聖女王とかいう奴なんだろ? ある程度薙ぎ払わねぇと届かないぜ?」

「まぁまぁ、落ち着きなされカグヤどん。押してダメなら引いてみなって言うでしょ? カグヤさんの仕事はあくまで聖女王サマと対面してからですから」

 

 はい、今のところ策らしい策はありませんが、非戦闘員が怪我したりするのは目覚めが悪すぎる。というか……実はサンデーもとい、セリューが死んだ事を俺は重く受け止めていたりする……はぁ。

 

「よし、アステマ。俺とエメスと魔法にて連中を驚かせるぞ」


 魔法がまともに使えるのがこの3人というのが心許ないが、アステマはやる気満々でポーズをとる。

 

「ふふん。いいわ主。あれだけの有象無象。私の魔法を持ってその命散らせる事をありがたく思いながら死に行く光栄をその身に浴びて地獄に行きなさい。凍える凍土の魔獣よ……」

 

 さぁ、その魔法の詠唱ってそんなだったかな? という新しい文言をつけてお得意の氷の上級魔法を詠唱するアステマ。

 カッコつけているつもりなんだろうが、演歌歌手の語りのようだ……

 ……エメスと俺は共に中級、初級のド派手な見た目の魔法を練り込む。狙いは敵の撃滅じゃない。驚かせてその隙に王手だ。

 

「我の心も身体も蝕むマスターの比類なき、快楽の園へ……我永遠の服従を誓わん! 邪なる者を撃ち抜く為、今、我はマスターに全てを捧げん!」


 エメスさんも、なんかコイツ何いってんだ? な詠唱を開始した。

 邪な者は多分、エメス。お前だ!

 

「……雷よ。眼前の敵を撃て、サンダーアロー」

 

 大体魔法の詠唱なんてこんな地味な奴なんです。

 

 

 魔法という物は実はめちゃくちゃ特殊なのである。まず、その魔法の理論を理解する必要があり、その魔法を実行する為の詠唱。

 それらを組み合わせて、同じ魔法の理論でも初級のサンダーアロー、それに応用し構文や理論を追加して中級のサンダーブラスト。

 俺でも慣れるのに割と時間がかかったのに、この世界の連中は言葉を覚えるくらいの感覚で使ってやがる。

 

 俺たちの魔法。アステマの氷、俺の雷、そしてエメスの大気系の魔法がファナリル聖教会の大軍勢の最前列に放たれる。

 そして、その魔法に気付いたのか、大軍勢は魔法の詠唱。

 そして、障壁系の魔法を使って俺たちの魔法を弾いた。ユニオンスキルで強化されているとはいえ、アステマの魔法まで完全に打ち消した……ユニオンの力とは凄まじいな……

 俺の思ったよりも連中は驚きもしない。

 

「……まじか。みんな、とりあえず行くぞ! 少しは周囲に警戒してるはずだ」

 

 ……………。

 

 これじゃあリコさんの作戦と対して変わらねぇ。

 しかし、こういう時に限ってモン娘達が言う事を聞くのがなんだか腹たつな。

 カグヤさんという強力な味方がいる事で調子に乗っているだけなんだろうが、連中の足は軽やかだ。というかエメスさんは聖女王サマしかみていない。

 

 俺たちは一旦全員で連中の前に姿を現す。

 

「…………次のオーダー。ガルン。エメス。全力で走り回って砂煙を起こせ、俺とアステマも大気系の魔法で補佐する」

「よし! ようやくボクの出番なんだなっ! ご主人! 僕に任せていれば、簡単に砂煙なんて立つのだ! 大船というものに乗ったつもりでいればいいのだ! ご褒美はチョコレートでいいのだ!」

 

 この自信である。とりあえず俺は笑うことにした。

 

「オーケー。チョコレートの件は今度葛原さんに頼むか、誰か作り方を知っている人を探すとしよう。今回は敵を倒す事じゃない。だからお前らやる気が満々な事はいいことだ。しっかりやれよ!」

「主、誰に言っているのかしら? 私よ? 失敗したこと……ある?」

「失敗しかしてないよね?」

 

 俺は、調子に乗りすぎるアステマをバッサリと切り捨てる。

 涙目のアステマ。

 そうなるなら言わなければいいでしょうが……。

 



――――さて、状況を冷静に判断しよう。俺たちの魔法は意味はなかった。

 

 

 だが、俺たちが姿を現した事で、多少の動きがあった。

 前を進んでいた前衛はモンクファイター、彼らが一斉に構えた。


 

 この前衛、おそらく千人以上がおり、その先に先頭の象のような生物の背に揺られている聖女王様の図である。あそこにカグヤさんを放り込む為。

 

 それが今回の最終オーダーである。モンクファイターがどの程度の力を持っているのか分からないが、エメスを強化すればなんとかなるだろう。

 

 

“アプリ起動。南のアズリタンのユニオンスキルを発動します。対象を選ばなければガルン、アステマ、エメス、月帝に適用されます。

 

 アステマとガルンを対象にすると魔物である事がバレる。

 リコさん達にバレてもなんら支障はないが、作戦に従ってくれなくなるかもしれないので、ここは対象外。エメスと、カグヤさんを指定。


「魔王権限ウィルオーウィプス!」

 


 エメスと、カグヤさん、二人の能力を一段階上げる。それにアステマが、「私も! 主、私もぉ! ちょっと聞いている?」とか言っているのは無視だ。

 

 二人はガルン、そして俺とアステマが使った大気系魔法でできた砂嵐の中を突っ込んでいく。あとはカグヤさんが精霊王様に届けば離脱だ。



 多分、悲鳴が聞こえるので、カグヤさんは近くにいるモンクファイターをぶちのめしながら進んでいるのだろう。

 

「オラオラァ! カグヤ様のお通りだぁ! 道を開けねぇ奴はどこだぁ?」

「同じく、我参上! いずれ我が誠のマスターへの肉ど……これが、神域の魔法か、我の思考を止めるとは褒める!」

 

 いや、それは俺の18禁フィルターです。


 そしてエメスさん何やってんの?

 アンタの役目は連中の隙をついてカグヤさんをこの前衛の中にぶち込む事。

 お前さんが聖女王様の元に行っても悲しい未来しかあり得ないので、言う事を聞いて欲しいのだけれど……

 

「エメス、撤退だ! もう十分場を荒らして蹴散らしただろう? あとはカグヤさんが動きやすいように補佐に徹しろ! こんな事は言いたくないが、お前が少しくらい強くなったところで、あの聖女王様は別格だ。だから、さっさと戻ってこい!」


 俺はエメスの持つ連絡用の水晶にそう言う。

 

 おそらく俺の話は聞こえている筈なのだが……エメスは答えない。この場合下ネタの一発でも入れてくれた方が安心でいるのだが……

 

 しばらくして、エメスの方から通信が入った。


「マスター。ここより先、カグヤの助力は期待できないと知れ! 我の未来予測演算でも……こちらに感してのみ我より検知能力が少しばかり優れている枯れ専の未来予測演算でもカグヤが、正常位王と愛見える事はないとしれ……そう、カグヤは北の魔王シズネ・クロガネが待っていた……いや好んだ存在と類似点を感じた。さすればフラグは立つ」


 正常位王って……そしてコイツは何をいっているんだ……

 

「おい、エメス。もういいから、お前がそこにいてもカグヤさんの邪魔になるだけだろう。さっさと戻ってこーい!」

 

 俺の間の抜けた通信。

 

「マスター。マスターの方でもそろそろ感知できた頃合いと知った。魔力観測量。規格外。ポスト魔王種とよべる者を検知。我らが向かう先に聖女王はいないと知った。これはマスターのオーダーを著しく狂わせるものなり、言うなれば、10000万ガルドぽっきりと言われ席に着いたや否や、法外な料金を定時する飲食店のごとし」

「……ほんと何いってんだコイツ」



 俺が呆れ返っている時、大きな爆発音が起きた。そして前衛のモンクファイター達が次々に倒れる。

 その事態を起こしたのはカグヤさん。

 

 遠目から見ても分かる。喧嘩好きな顔をしているなぁ。

 そしてそんなカグヤさんからの不穏な通信。

 

「おい、マオマオ。コイツが聖女王……いや、違うな。コイツは俺が殺る。お前達は……先に行け」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 俺たちが物見台まで戻ったところ、そこにはカグヤさんと、高身長のローブを着た男。

 ここには聖女王がいないという信じられない事実。一体、聖女王はどこにいるのか?

 

「……おい、マオマオ。お前と話がしたいってよ! このオッサン」

「貴様が、北の死威王か、話には聞いているが、こんな物まで持っているとは……やはり貴様は生かしてはおけない。神の裁きを執行する」

 

 誰? えぇ? この人は誰だろう。そして聖女王どこよ?

 

 男の人は名前を名乗らない。

 が、ファナリル聖教会の意思について俺にありがたいお言葉を述べてくれた。俺により、汚染された北の地、奪われてしまった命の救済に入るらしい。

 そしてその男の人は名乗った。


「私の名前は教皇パフェ……かつて、聖人パフェ・フルーツと呼ばれた者と言えば分かるだろう。正義の為、貴様を聖ファナリルの元へ送る」

 

 ……誰ぇええええええ!

 

 俺が黙っているとパフェさんは、俺が知っていると勝手に思ったのだろう。

 最後通告をしてきた。

 

「……震えて声も出ないか? 悪を全て滅ぼし尽くす事はできないだろう。が、必ず悪事は討伐される事をお前は身をもって知る事になる。今すぐ武装解除し、投降すれば、減刑を考えてやろう……いかに? あの聖女王と聖人を相手にする事、どれだけ無謀だという事、さかしいお前には分かるであろう!」


 正直さ、あの二大ヒーロー夢の共演的な事を言っているのだろう。

 が、聖女王サマは分かるけど、あんた誰よ?


「おい、アンタ。聖人だか、教皇だか、知らないけどさ。政治に宗教を持ち込む奴を俺は信じない主義なんだよ。俺の育った世界でもそうだ。宗教は人の心を癒す価値はあるかもしれないけど、それが武力を行使しだしたらそれはもう暴徒だ。それを正義だと言って振おうとするアンタを……」

 

「マオマオは、お前をぶちのめせってさ! 交渉は決裂だ!」

 

 そうです。

 俺、割とかっこいい事を言おうとした筈です。

 

 突然、俺の通信がというか、俺の声がパフェに届かなくなった。

 というかパフェの声も遠い気がする。

 そして……まぁ結果は一緒なんですからいいんですけどね……

 

 なんか、全部カグヤさんに持っていかれてしまった俺のこの気持ちはどうしたらいいんでしょうか?

 

「見るからに邪悪な者よ……貴様がサンデーが危険と我々に残してくれた月帝か……残念であったな? 今は昼、月は顔を出さない」

「ははっ! お前は原始人か? 月はいつもお前達を睨んでいる。明るくて見えにくいだけだ。暗い月がお前を八つ裂きにしろと今も聞こえるぜ?」


 さぁ、どうやらカグヤさんはそのパフェさんと戦うつもりらしい。俺としてはこんな人物ではなく、聖女さまの元にカグヤさんを連れていきたいのだが、さっさとぶっ飛ばしてこっちに来てくれないだろうか?

 俺は、聖女王サマの事ばかり考えていたので、正直、このパフェという人物を随分舐めてかかっていた節があった。


 嘘だろ……という通知がアプリに届いた。

 規格外脅威……“聖人出現“……


 そう記載されていた。要するに、パフェの言った事は間違いなく、自分は聖女クラス……いや、目の前のカグヤさんと同等の存在であると言っていたのだ。

 

 こればかりは想定外だった。

 ジェノスザインは王種が二人とか……何それチート?

 控えめに言って最悪の極みじゃねぇかよ。

 年齢は遠すぎて分からない。

 声からはそんなに歳じゃないだろう。

 ……俺の知る限りの聖人って奴は。

 

 最上級クラスのモンクファイター。要するに、聖女様の男版みたいな者であり……

 

「マオマオ……悪ぃな……コイツは俺が喰う事にする。聖女とやらはお前がやれよ」

 

 という事なのだ。むしろ、カグヤさんも聖人を倒さずにそこから離脱は不可能なのだろう。

 

「分かりました。カグヤさん、気をつけて!」

 

 俺の言葉を聞いたカグヤさんはくくくと笑い始めた。

 ……なんかスイッチ入ったぽいな。

 

「マオマオ、命のやりとりはな? 生きようとした方が負ける。分かるか? このパフェって野郎もそのつもりだ。マオマオ、生きようとするなよ」

 

 ほう……何言ってんだこのひと。

 生き残る為なら俺はどんな汚い命乞いでもしますわ! お前らサイコパスと一緒にすんなボケぇ!

 

 俺は真顔で「はい!」と答えておいた。

 そして通信を静かに切った。


「うっさいわ! 死にたくねーよ!」

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