泥舟出港前の宴、BBQは心の距離が縮まる魔法の食べ物だよね。
さて、バーキューです。
「ほう、肉や魚や野菜を、火にかけて食べる。山賊達の食事のようなこんな野蛮な物を最後の宴に出すとはやはり魔王だなマオマオ」
「……いや、これは焼肉とか、BBQとか言われる一部のリア充の勝負食でしてね」
大きな獣と魚を捕まえてきたホブさん達、俺が前々からBBQを行おうと思っていたので、ちょうどよかった。均等に分配してリコさんとギフターさんの視界に入らないところで、ゴブリンとスライムも宴である。
ただ焼いて食べるだけなのだが、外でやるとやっぱりテンションも上がり、シェフに作ってもらった試作型焼肉のタレも中々美味い。
ココナツさんは特設カウンターでビールとジュースを次々にジョッキに注いでいる。
「全く、見た目が子供でなければ唯としては、最高だったのに、まぁ目を瞑って渋い声を聞くだけでもコアが震えるね」
「喋らなければ天使ゆえに、声を聞き世界を呪う我」
エメスとプレアデスは一応、カジノ組なので、ココナツさんに肉を食べさせる係である。本人達もBBQをそれなりに楽しんでいるようだ。
セラヴィくんにカグヤさんも腰掛けてゆっくりと焼き肉に焼き野菜を食べて美味しそうな顔をする。
ウチの拠点でも最も肉が大好きなガルンはクルシュナさんに作ってもらった巨大鉄板の前を離れようとしない。
ガルンが腹一杯になってもまだまだ足りるくらいあるあろう。
「とりあえず皆さん、今日は沢山飲み食いしてください。そしてお腹が一杯になったらゆっくりと休み、明日。夜明けと共に出発しますから」
最後の晩餐というには賑やかだ。
「マスター、あの聖女王なる小娘へのリベンジを所望する。前回の敗北、そしてこの前の原初のウルスラに対するリベンジ。そしてマスターへの性奴……むっ、なんらかのジャミングがまたしても」
「エメス。気持ちは分からなくないが、今回聖女王サマとガチンコができるのはカグヤさんだけだって、俺たちはいつも通りバックアップだ。いいな? あと、聖女王サマとか俺は養わないからな」
カグヤさんは黙るエメスに一声かけた。
「エメス。お前の分まで連中の首魁はぶちのめしてやる。安心しろよ」
そう言ってエメスの頭をポンポンと軽く叩いたカグヤさんに、エメスは目を閉じ、静かに頷いた。
「カグヤ。任せたと我願いけり、しかしあの小娘。侮ることなかし……我々の全戦力を一瞬にして壊滅させた超暴力と知り」
「ははっ、そりゃ楽しみだなオイ!」
そう言ってカグヤさんは血の滴る獣の肉に八重歯を入れた。
「全く、エメス。あの凶暴な人間に一矢報いたいの? 命知らずなんだから! 機会があれば私が最高の魔法で手助けしてあげてもいいんだけれど! ふふん」
一心不乱に焼きマシュマロを食べていたアステマがそう言う。
「……ふむ。アステマ。我は心より感謝せり。が、アステマを危険な目に合わせる事を我はよしとせず……小娘の撃滅は我の悲願なり」
しかし、何故エメスはここまで聖女王様に拘るのか?
「……なぁ、エメスさんよ? お前、なんでそんなに聖女王様と喧嘩したいの?」
なんだか崇高な理由じゃないと確信してきたんだけど。
…………………。
「……あの金の鎖を巻きつけて生活をする特殊プレイ、我への挑戦とみたり」
あぁ……あぁ。なるほどな。こいつの中では聖女王様は、SMの女王様的な。
……意味不明な対抗意識を持っていたと。
…………あれは聖女王サマの力を制御する系のアイテムだったハズ。
勝手に変態にカテゴライズされている聖女様、不憫だな。
「オーケー! 少しだけ、俺はお前さんを見直しかけていたが、やっぱり俺の考えに間違いはなかった事に安心だ。お前が聖女王サマの何に張り合おうとしているのかはさておき、お前じゃまずどうしょうもできないからここはカグヤさんにおまかせでいいな? 多分、エメスの持つ全スキルと俺の持つ全スキルを掛け合わせても一瞬で叩き潰されるだろうから、言う事を聞け! 今度クルシュナさんに頼んで金属加工でなんか作ってもらうからそれで我慢しろ。いいな? 絶対聖女王サマを刺激するなよ!」
エメスは「リョウカイシタ」と何故か機械っぽく返す。
絶対何かしでかすだろうから要注意だ。
「…………。時に死威王マオマオ。一度ここに聖女王が来たというが、それほどの被害を受けたとは見受けられないが、本当にここに来たのが西はジェスザインの聖女王だったのか? それを名乗る偽物だったという線はないのだろうか? お前達が本当に聖女王を止めれたというのがいまだに信じられない」
獣の骨つき肉にかぶりつきながら、ミードビールで一杯。
そして、「くぅ! これだ!」とオッサンみたいな飲み方をしているリコさんは至極当然の事を俺に尋ねた。でもまぁ来たものは来たのだから仕方がない。俺はそれに頷くとガルンが興奮気味に吠えた。
「あの時のご主人は凄かったのだ! ボク達が束になってかかってもびくともしないあの怖い人間の女を真っ向から叩きのめしたのだ! そしてさしもの怖い人間の女もご主人に恐れをなして、尻尾を丸めて逃げていったのだ! ご主人は強いんだぞ!」
ガルン。やめて! ガルンの目にはそう見えていたんでしょうな。
あの時の聖女王様はまだ力を隠しているという嘘を間に受けてブチ切れ本気モードになろうとしていたでしょ……
さて、その誇大化した聖女王襲来事件に目を輝かせるリコさん。
さぁ、真実を打ち明けておこう。
「リコさん。ガルンはそう言っているが、聖女王サマは何か用を思い出したらしく帰っていっただけで、あのまま居座られたら完全にここは壊滅していた事だろうよ」
「死威王。貴様という奴は、真の力をいたずらに行使できない何かがあるのだろう? 後の英雄である私には分かる。十分承知した」
うひゃー、この人も自分の考え以外に答えがない人だったなぁ……
俺はそれならばそう乗せてしまおうと考えを改める。
「さすがはリコさん。気づかれましたか、正直あらゆる条件が揃わないと俺の真の力は発揮できません。ですから先ほどオーダーを俺に委ねて欲しいと言ったわけです。俺の想像通りにみんなが言う事を聞いて指示通りに動いてくれれば俺のこのオーダーは最高の成果をもたらして、今回のこの激務を遂行する事でしょう!」
俺が一番厄介な3人のモン娘にお前達の事だぞ! と見渡すが、肉を食べるのに必死なガルン、甘いお菓子を食べることに必死なアステマ、際どい角度からサブレさんの太ももをじっと見つめるエメス。
「……そうかそうか、なるほどな。…………安心するといい。この全体の総指揮は当然私に権限があるが、戦術担当として死威王マオマオに今回はそれらを一任しているのだ。貴様が失敗しようとも後の英雄たる私がうまくカバーしてやる! 大船に乗ったつもりで操船をすればいい。困れば本当のキャプテンが舵取りをするだけだからな! はーっはっはっは!」
ただでさえ泥舟だ。
舵まで任せられるわけないだろうが、バカタレめ!
「……ま、まぁその時はリコさんに助けを求めますので、俺が困ったと相談をするまではどしっと構えておいてくださいよ。リコさんに絶対、舵取りをしてもらうなんて恐れ多い事にはならないように誠心誠意勤めさせていただきますので! 俺の故郷にこういう詩があるんです。お前の手で漕いでいけ、お前のオールを任せるなと!」
「ほう、何を言っているのか分からんが、なかなか良い詩だな。その内、その詩も全ての調べを聞かせてもらおうとしよう」
さて、とりあえず泥舟の舵取りは俺のままだ。
バーベキューもそろそろ後半戦。この地で取れたサツマイモモドキと俺が命名した芋を火の中に放り込む。
やっぱりバーベキューの終わりはこれに限るよな!
焼き芋。
「……そうだ。一応聞いておこうと思ってたんですけど、リコさんとギフターさんの使えるスキルについて教えてもらえますか? それも分かって入れば戦略幅も広がると思いますし、今回は戦闘ではなくいかにして聖女王の元へ近づくかですので、斥候系スキルが望ましいのですけど……教えてもらってもよろしいですか?」
秘密だと押し通られそうだったが、リコさんは焼き芋を頬張りながら。
「フン! 私の能力か、私はチャージ系スキルで攻撃力を限界まで高め、突進をかける速度向上系スキルを限界まで伸ばしている。それをリーダースキルを行使して使った時、それはそれは荘厳だぞ! 全員が、後退のネジを外したバーバリアンのごとく討ち取られる事も気にせず恐れを知らぬ戦士のように戦い続けるのだ! 我が国の中でも私の部隊はゴーストと呼ばれているからな!」
そんな軍隊絶対入りたくないなぁ……誰かクビにしろよこの人。
ギフターさんは熱い焼き芋をぱかりとわる。
「自分は不器用ですから……戦闘系スキルはほとんど初級のまま更新していませんね。代わりに、山菜採取や、食べられる虫などについての鑑定スキルを今現在あげられるとろこまで引き上げています。北の騎士団が精鋭揃いといえども、私ほど、食べられる動植物に詳しい兵はいないでしょうな………我が国の格言にこういうものがあるのです。腹が減っては戦はできぬ……と」
うん、でしょうね。
「まぁ、ギフターさんの言う事は、ある意味真理ですよね。食べられる時に食べておいてください。明日からは、しばらく食べる時間も不規則になるでしょうし、みんな無理しない程度には思いっきり飲み食いしてくださいね」
「……もう、主ったら、畏っちゃって……私がいるんだから今回も余裕に決まっているじゃない! 私たちの勝利の為に、ふふん! 乾杯!」
隙を見てワインをグラスに注いだアステマ、そのアステマのグラスを素早く奪い、代わりにブドウジュースの入ったグラスを渡すスラちゃん。
「……アステマちゃん。それはマオマオ様に禁止されていますよね? このワインは私がいただきますので、代わりにリッケルトさんの奥方がお造りになられたブドウジュースで我慢してください!」
「も、もう! スラちゃん! ちょっとくらいいいじゃない! デーモンの私とワインと言えば切っても切れないのよ! だって……その……」
……………………。
「……ちょっと、冗談よ! スラちゃん。そんな目で見ないで」
「あらあら、あんまりマオマオ様を困らせてはいけませんよ? 明日はマオマオ様をしっかり守らなければならないんですからね!」
「スラちゃん、まぁ……そのくらいにして……食事を楽しもう!」
「マオマオ様、マオマオ様にも責任がおありかと思いますが?」
ほらアステマ、お前のせいで俺まで怒られるやつじゃんか!
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『かつて、東西南北と中央は協力関係にあった。異世界の魔物という共通の敵が出現した時。どこからともなく現れた超魔導士と呼ばれる者を筆頭に、南の魔王も東の精霊王、西の聖女王、北の錬金術師王、そして中央の勇者王。皆全ての力を出して異世界の魔物を追い返した。その時、格地域はお互いの力を知り、隣の地域を警戒するようになる。共通の敵と共闘した事が返ってお互いを脅威と認識し、現在各地域の王はまともに交流はなくなった』
いつ戦争になってもいい状態だったが、不思議と戦争には発展しなかった。
が、俺とセリュー、いずれも別世界から来た存在においてその拮抗は崩れた。
俺はこの世界の歴史書を見ながら夜明けがくるのを待っていた。
西と北と交戦状態に入ったが、本土決戦になる事を止めねばならない。
北を現在統治している王様はこの状況にどう備えようとしているのか全く持って不明である。リコさんからはうっすい情報しか入ってこないので、彼女は国の意思とかとは遠いところにいるのだろう。
ご自慢の高価なレリーフがあしらわれた剣を磨きながら俺と目が合うと。
何かを悟ったように頷くリコさん。
……何を理解したんだろう……
俺たちは外がゆっくりと明るくなる事を確認する。
アステマは化粧にアクセサリーを選び、出発だというのにまだ準備がかかりそうだ。ガルンは当たり前の如くぐーぐーといびきをかいて夢の中にいる。可愛い寝顔だ……エメスに背負ってもらおうと…………。
エメスは何故か、浣腸の練習をしている。まさか……それを聖女王サマに食らわせるつもりか? 無理だろ、スクラップにされるぞ!
とりあえずスラちゃんにお願いし、全員無理やり準備万端。
カグヤさんはセラヴィくんを少し心配そうに見ていたが、スラちゃんやホブさんがいるし、ショタには興味のない面倒臭いが面倒見のいいプレアデス。そして同じエルフのサブレさんもいるので安心だろう。
随分、ウチのメンツには心を開いてくれたみたいだし。
「よし、みんな準備はできたみたいだな。それでは、北に侵攻をしようとしている西のファナリル聖教会のイカれた連中を止めに行きます!」
「主! ねぇねぇ! 私の制服にこのブローチとネックレス。どっちがいいかしら? 外の連中に……それも神の加護を持った不愉快な連中とはいえ、私の美しい姿を見せてあげるんだから、妥協はしたくないのよね! ふふん」
なんだこいつ……アステマ。旅行にでもいくつもりか? カグヤさんがいるから舐めプできるとか勘違いしているのだろうか? ガルンを背負いながらエメスはアステマの髪を撫でる。
「アステマ、寝癖がついており。そんなお前も美しいが、我は常に完璧な気高さを誇るお前をより美しいと確定を持って宣言したり」
「もう! エメスったら正直者なんだから……でもありがとうと私が言ってあげるわ!」
モン娘の3人は仲が異常にいいことだけは褒められるが、なんかイラっとするな。
「仲が良い姉妹のようだな。死威王マオマオ。お前はこの可憐な少女達の親代わりというわけなのか? それとも……」
「こいつらは従業員ですよ。俺の商店街を作る従業員!」
結婚もしてないのに、厚生不可能な娘ができるとか洒落にならんだろう。
何故かホッとするリコさんに俺はまぁまぁ殺意を覚えた。
「ご主人! 朝なのか? 朝ご飯の時間なのだ! 腹が減ったのだぁ!」
「……おぉ、最高最悪のタイミングでご起床ですねガルン姫。今から聖女王サマ達が侵攻してくるところに奇襲かけにいくから、食事は何か保存食をお食べなさい。あと、食いすぎるなよ? そのまま戦闘もあり得るからな」
「……僕はビショクカなのだっ! 火を通してしっかりと調理したものでないと食べたくないのだ! ご主人! かれぇとか、ライスころっけとか食べたいのだ! でざぁとにはクルルギのところのチーズケーキをミルクと一緒に食べたいのだ!」
おや、ガルン姫はいつから本当の姫みたいな生活を夢見るように?
喚き散らすガルンの口元に干し肉を近づける。
これは昨日の獣で作った即席ジャーキーであるが中々の出来だと思う。
火を通した物しか食べないと豪語した割に、ガルンはくちゃくちゃと何度か噛んで、美味しそうに目を瞑り頬を染める。
やっぱり元々犬だな。最近人間の子供ばりにワガママを言うようになったが、肉を食べさせれば静かになる。
北の国王の権限がなければ使えない非常用のポータルを使い、数珠繋ぎのようにそれを使って俺たちは北の領土の最果てへと向かう。この技術も恐らく元北の魔王シズネ・クロガネの技術だろう。
ここが一体どこなのか? そのくらい見える景色が変わったここが北の領土の最果てらしい。
古びた洋館にはかつての営みも見えず、そこに取り残されたかのようでなんだか少し物悲しい。そんな洋館に見惚れているとリコさんに先を急かされる。俺達がやってきた場所。
北の最果ての物見台。そこにはこの国境警備を任された騎士団達。俺たちに敬礼する。
「…………リコ騎士団長殿……そちらが……」
彼らは俺が連れてこさせられる事を知っている。
そして、ここは激戦地になるであろうに……
どうやら、リコの直属の部下になるらしい。要するに彼らは……
リコさんもろとも今回の件で…………というのは考えすぎだろうか?
物見台の騎士達は戦闘部隊ではない。彼らに俺はプレアデスから渡された魔道具を渡した。離れていても会話できる水晶。
「ここから、西のファナリル聖教会の連中が見えたらこの水晶を使って俺たちに知らせてほしい。相手の動きが分かれば作戦が取りやすいから」
最初こそ、この道具の使い道に関して頭に疑問符を並べていた騎士達も段々とその有用性を理解する。
…………よし、思わぬ好条件だ。
こいつらの的確な指示があれば聖女王サマに近づくのがグッと楽になる。
この場所で交代で敵の動きがないかを待つ俺たち。
大きな地図を広げて部下達に何やら指示を出すリコさん。
どうせ、戦略立てているように見せかけて、全軍突撃だろうから、無意味な会議だ。
俺たちがこの物見台に腰掛けてからしばらく時間が経った。
物見台の騎士は鐘を鳴らして全員に共有する。
西の大軍勢!
西の大軍勢!
俺が双眼鏡で確認すると、象のような巨大な生物が前に2頭。そこに、聖女王様は腕を組んでたっていた。




