表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/95

日本の会議は大体何も決まらない。異世界でその理由を知ったよ。バカばっかりだからだ

 カグヤさんとセラヴィくんを連れて拠点に戻った俺たちを待っていたのは北の王国兵達。

 

「貴様が、北の死威王。イヌガミ・魔王だな? とんでもない事をしてくれたな? この中立の北を戦禍に巻き込みおって」

 

 せっかくお越しいただいた北の王国兵を邪険にするのも悪いので事務所に通し、お茶とお茶菓子を出して話を聞いた。

 要するにこの前の大司祭サンデーの事件が発端で開戦しているらしい。

 

「……ウチのお茶とお菓子、どうですか?」

 

 使者として来た男女の王国兵。三つ編みの女性が騎士団長らしい。そのお供の堅物そうな男性と二人は、お茶とお菓子に舌鼓を打っていた。

 大丈夫かな? 北の王国騎士。


「これは、んまぃ! 話には聞いている。貴様は北の魔王の後継を名乗り、あらゆる方面との繋がりがあるらしい。そして特に食に関しては我が北の王国エリザベルトよりも進んでいるという信じられない事態を引き起こしている事。そしてここに何やら、新しい国を作ろうとしている事も我が国の諜報員によって全て筒抜けである事を、教えておいてやろう! 私、騎士団長リコ・ジュリエッタに監視されていると知れ!」

 

 ……ふむ、リコさん。この人あれだな。仕事に生きている器用貧乏キャラだ。

 

 だってさ、商店街作るの、俺は普通に公言してますもの。

 

「……えっと、リコさん? そんなお話をしに来たんですか? 戦争がどうとか?」

「くっ……貴様。いつの間にかお前のペースに乗せられていた……この巧みな空間と対話掌握術が貴様の強みという事か……残念だったな! 私はすぐに見抜いたぞ!」

 

 なんだろうこの人。すごく面倒くさそうだ。否定してもきっと自分の思った事しか正しいと思わなさそうだし、この世界の人、こういう人異様に多いよな。

 もうマジムリ……


 口元にクリームをつけているリコさん。

 この人は限りなくモン娘に近い空気感を醸し出しているぞ……


「……まぁいいや。で? 俺に何の用でこられました?」

「ふん、それを私に言わせたいのか……貴様のせいで北と西の大戦争が始まってしまう。当然、我が騎士団も戦争の準備はしているが、元々、西の大司祭を殺害した貴様に一番の問題があろう。だが、エリザベルトの我がマイロードは心優しきお方、遅かれ早かれ、魔王種が治めていない北は狙われる宿命である事を解いた。ならば、北の死威王を名乗る者にこの度の戦、任せてみようとな」

 

 要約するに、北と中央は唯一、魔王様とか精霊王様とかではなく、人の王様が治めているらしい。今までは北の魔王。シズネ・クロガネがいた為、容易に手出しできず、かつ現在中立国を宣言している北を襲うと他三国から袋叩きに合う為、牽制しあって不安定ながらやってきた。

 が、今回の大司祭サンデーの死は西が北に正当に戦争を起こせるきっかけとなった。そ

 して俺になんとかしろというわけだな。


 なんだこれ……商店街大きくしようとしたら、俺起因で戦争勃発しちゃったよ。


「まぁ……責任がないと言えなくもないですが、何をすれば?」

「数の戦争では我が北に勝ち目はない。お前は、西の象徴である聖女王を名乗るアラモード、奴を奴ら西の軍勢の前で打ち倒してみせよ! さすればあとは我が王が停戦協定まで進めてくださる」





 話は簡単だった。

 リコさん達、先遣隊と共に、聖女王アラモード達が進軍してくるところに先回り。

 お互いの軍勢の中でアラモードを敗北させる。

 これほどまでに言うが易し、行うは難しの説明に使えそうな事例はないんじゃないだろうか?

 こいつら、聖女王アラモードの恐ろしさを知らなさすぎるのだ。

 あれは、檻から出た猛獣だ。


 でも、やらないとダメなんでしょうな。

 多分ね……きっとね……


 一つありがたい事がある。ブルっているガルンやアステマと違いカグヤさんが殺る気満々なのである。

 聖女王アラモードとカグヤさん、どっちが強いんだろう。

 そう! 俺には妙案があるのだ。この際、猛獣には猛獣をぶつけてしまえばいいのだ。アラモードの相手はカグヤさんに任せよう。

 これが俺のゲスオーダーである。


「いいぜマオマオ。その聖女王とかいう奴はこの前のクソ女のところの元締めなんだろ? だったらそいつをぶっ潰して、俺のこの世界での役目は終わりだ。任せとけ、確実に殺してやるよ」

「まぁ、だいぶ話は通じない系ですけど、大司祭サンデーと違って悪い意味で裏表のないバトルマニアなので、殺さなくていいですよ。ただ、身動き取れなくなる程度にはぶっ飛ばさないと多分倒せないと思います」


 タフネスと破壊力という点においては大司祭サンデーや俺のような一般人と思ってかかると流石にまずい。

 彼女は聖女王と呼ばれている王種。

 

 カグヤさんと同等かそれ以上のバケモンなのだ。それを念を押して説明。

 

「マオマオ、一ついいか? そいつがこのカグヤ様より強いと言うなら、尚更生かして倒すなんて夢物語だろうが、お前。結構賢いのに時々ありえないくらいバカな事言うよな?」

 

 まぁ、言われてみればそうなのだが……辛辣だなぁ……。

 

「えぇっと……まぁとりあえずオーダーを伝えますよ。俺、エメス、ガルン、アステマ。そしてカグヤさん。この四人を先見部隊に加わって聖女王アラモードに強襲します。はっきり言って俺達の力は聖女王には通じません! 頼みの綱はカグヤさんだけです。ここにいるみんなは……ドラクルさんだけは未経験ですが、俺たちは聖女王アラモードの天災的なやばさは経験済みだから、カグヤさんのサポートに徹します!」

 

 ガルンとアステマの表情が段々と穏やかになっていく。二人は八重歯なんて見せて笑い合う。

 強い相手をしなくていい。表情を隠すつもりも毛頭ない。

 これがモンスターです。

 


「全く仕方がないわね! 私が補助してあげるなんて滅多にないんだからね!」

「カグヤなら殺ってくれるのだ! 安心なのだ!」


 イキリ出すアステマに、さらっと物騒な事を言うガルン、エメスだけは、先生に稽古をつけてもらったからか、聖女王様へのリベンジマッチに燃えている。


「あの、小娘のプリーストが我によって嬲られ、その後マスターの性奴……むっ思考にノイズが……」


 リベンジマッチに燃えている事に少し見直した俺がいたが、こいつは一体何を考えているんだ……しかも俺が巻き込まれている。

 

 3人はリュックにオヤツやらなんやらを入れている中、プレアデスがやってきた。

 

「皆の衆。唯が作った。小型通信用魔法水晶を持っていくといい。元々一つの水晶から作った物の為、連絡に魔法力を使う必要がない代物さ!」


 プレアデス。こいつはいつから発明キャラになったんだろう? 大二病だからかな……まぁ、役に立ちそうなアイテムの為ありがたく使わせてもらおう。


「マスターくん。噂によるとファナリル聖教会の教皇はかなりのイイおじさんらしい。生きてとらえてくれると嬉しいのだが」

 

 あー、うん。こいつもブレないな。動機はどうあれ、今後こいつはこっち方面で働かせよう……


「えー、リコさん。とりあえずこちらの人選は決まったので聖女王サマ、説得できないだろうな作戦はいつ頃出発すればいいですか? そちらの先遣隊と合流という形だと思いますけど」

「はっはっは! 決断の早さは褒めてやろう。奴らは今現在西の領土の最果てにまで向かっている。この北の領土。ノビスの街からであれば早パイコで四日。国境線で彼奴等をお前達四人と私達二人で迎え撃つ。それまでに優秀なるエリザベルト最強のノースロード騎士団が到着する手筈だ!」


 なんだろう。聞き間違いかな? 俺の想像では一個中隊と俺たちで先遣隊。みたいな物を想像していたのだが……

 リコさんは6人で数十万とも言われている大群に事を起こそうとしている。

 

 そんなヤバいやつはいないだろう。俺は、少しばかりの期待を込めて聞き直してみた。

 

「あ、あのリコさん。俺の聞き間違いですかね? この6人でいくんです?」

 

 リコさんはやれやれとか言いながらクリームパンを食べ終えて、紅茶を飲み干す。


「これは貴様に責任を負わせる事だけでなく、私が騎士団大将軍より、私にしかできない任務と仰せられたのだ。見事に遂行して見せる所存だ」


 さて、俺はどうやらいずれ騎士団大将軍様とやらに話をつける未来を予感した。

 

「えっと……失礼な事をお聞きしますが、リコさんは今までどのようなお仕事をされてきたのでしょうか? 中立国とはいえ、モンスター討伐やら騎士団のお仕事は多々あるでしょうし、少しばかり今までの経歴を教えていただけると非常に嬉しいのですが、はい」

「よくぞ聞いてくれた! それは私が騎士団に入った頃、戦はないと言われる中、オーク討伐に私の小隊は全員突撃、私以外は全員殉職、グリフォン襲来時、私は中隊長となり、当然いの一番に勇姿を見せる為、全員突撃。多くの犠牲を出したが、グリフォンを撤退、そしてこれが騎士団長になった時なのだが……」

 

 人呼んで、皆殺しのリコと王国騎士団の中でも恐れられているのが私だ!

 流石にこれには、ぶっ飛んでいるカグヤさんもツッコんだ。 


「おい、マオマオ。この女とんでもないぞ」

「……でしょうね」


 今まで寡黙を貫いていたカグヤさんですら思わず口を開かせたのだ。

 それに関しては大したモンだろう


「今回の相手は今までにない聖女王だ! 腕がなるな」

「少し落ち着けリコさん」


 この人、体良く殉職させられようとしているのではないだろうか? そして俺を差し出す形で停戦協定、あるいは俺たちが西を止めるか撃破できればそれはそれで棚ぼたラッキー。

 北の王国の王様はもしかしたらキレ物かもしれない。いずれにせよ今度改めて挨拶に行こう。


 リコさんはいくや否や、たった6人で数十万に突撃を決める事を、不意打ちの策略だとか考えている。

 病気だな。


「リコさんの今までの経歴は大したもんです。ですが、俺は南の魔王、撃退。東の精霊王とエルミラシル撃破、そして聖女王サマも撤退させてます。今回のオーダーは俺が行います」

「……ははははは! 何を言い出すかと思えば、お前が司令官になるだと? 片腹痛い。商人に毛が生えた程度の貴様がこの騎士団長である私たちに命令を? ふざけるな!」

「いや、全員突撃ぃ! とか、それこそふざけるな!」


 俺とリコさんはどうやら相容れない相関が出来上がっているが、どう考えてもリコさんが異常なだけで、俺は正論を言っているはずだ。

 




「ならば聞こうではないか、貴様のくだらない悪知恵がどうなのか、話してみろ。時間をくれてやる」


 俺の拠点の俺の事務所でふんぞり返りやがって……腹たつなぁ。

 昔から俺はこの手の女子とはそりが合わなかった。小学生の頃もグループ研究か何かの報告で聞き込みと作成班を分け効率性を重視する俺と、無意味にみんなでやりたがる私リーダーやってますよ系女子。

 大体最後はそいつが泣いてそいつのやりたいようになるのだ。

 

 マオマオくんの言う事、全然わからないよ! と……

 俺はお前の頭の中が分からないよと思ったが言わない俺は紳士だったと思う。

 

 腹立たしいリコさんは紅茶のおかわりをスラちゃんに所望して足を組み、仕方がなく俺の駄論を聞く姿勢。

 


「この人数で聖女王サマに考えもなしに特攻をかけても、聖女王サマの元に辿り着く前に試合終了は目に見えているだろ。普通に考えて聖女王サマ達の進路が分かっているなら、側面から近づくようにギリギリまで見つからないように歩を進める。そして、近づいたところで、俺たちは騒ぎを起こして四散する。聖女王サマとタイマン張る為にな! でこっちの秘密兵器を聖女王サマにぶつける。これが一番任務遂行における俺のオーダだ」

「そんな野盗や、盗賊の真似を騎士団長である私に行えと言うのか? 当然の如く却下だ! 却下! お日様に顔向けできないような生き方をするくらいなら潔く突撃にて散るが正しいだろう」

 

 そうやって、この人は何人の仲間を犠牲にしたんだろう。国も捕まえろよ。

 ただしよく分かった。こいつはのせやすい。

 

「潔く散るのもまたいいでしょう。ですが、これは北の地における存亡がかかったミッションとなりえます。俺たちの作戦は未来永劫、卑怯者だのなんだの言われるのかもしれません。が、北の王国や領土、そして世界を救った者は一体誰だったのか? 歴史の汚名を被ったとしてもそれを成し遂げた者達。いずれ、悠久の時を経て、英雄としてそこに名が残るかもしれませんね。勇者・リコと」

 

 さぁ、どうだ! チラリと見るとリコさんは満更でもない顔をしている。

 よし、続けよう。

 

「その為にはこの作戦は全員の協力が不可欠です。一応俺はユニオンマスターであるから、いくらか全体補助が使えます、お二人のスキルの確認。そしてこのオーダーを成功させるのに、規律正しい騎士団であるお二人、特にリコさんの行動は俺たちにとっても心の支えとなるでしょう。ただし、そんなリコさんが俺たちと歩幅を合わせて進めないと言うのであれば?」

 

 俺はスラちゃんに持ってきてもらった黒板にドクロマークを描いて見せた。

 

「この作戦は失敗。そして俺たちは全滅。そして国は失われ、北の地の民は敗戦国の民として……さらに世界は混沌の時代に突入し、いずれは誰の為の戦いだったか? なんの為の戦いだったのか? いく世代も過ぎゆく頃には戦争の意義も意味もわからずにたたただ憎み合い終わることなき地獄の時代に突入することでしょう。その時になって初めてわかるのです! 誰か、誰でもいいからこの戦を止めてくれ! そう。それが唯一できたであろうリコさんはもういない」

 

 俺の大袈裟すぎる芝居がった話にリコさんだけでなく、皆息をのむ。


「あなたはもう、本日の作戦を失敗し、すでにこの世にはいないのです。今一度問います。英雄亡き後の世界……それを貴女は責任取れますか?」

「……そ、それは……いやしかし……それでも私は野盗のような……」

「分かりました。じゃあ俺の作戦はなしで構いません。突撃しましょう。俺は英雄が失われる事を止められなかった……あぁ、俺の無力を世界は許してくれるだろうか……」

 

 ひどく肩を落とした俺に、リコは「お、おい」と声をかける。


「お前は……北の死威王。お前は本当に北の魔王の後継者なのかもしれないな。北の魔王は時に我らが王やその先祖達の相談役となり、世界を導いたという。お前もまたその助力をしようとしているのに、私をいかにして失わせないようにと考えていたのに……どうやら、騎士団長という位にあぐらをかいていたのは私だったようだ。英雄としてお前の案にのろう」

 

 よし、クソバカでよかった。

 こいつはこいつの輝かしい世界の中でしか生きていない。

 俺はこいつの好きそうなストーリーを組み上げる事に徹する。

 そしてその歯車があった時、こいつの攻略は完了と言える。

 もう一度言おう。

 馬鹿でよかった。

 

「リコさん……分かってくれてよかったよ。そう、リコさんがここに呼ばれたのももしかすればなんらかの宿命だったのかもしれないですね。俺のオーダーをしっかり聞いてくれれば必ずいい結果が出ますよ」


「あぁ、頼んだぞ北の死威王」

「こちらこそ、よろしくお願いします!」


 そんな風に話がまとまったところで、もう一人の騎士団の方、彼が手を挙げた。


「北の死威王殿、ひとつ宜しいか?」


 ……貫禄のある視線。

 

 こいつ、只者じゃない……もしかして俺がリコさんを乗せたのを気づかれたか……


「な、なんでしょうか? 俺の考えた作戦に何か不手際でもありましたかな? そのえっと……騎士さん」

「ギフターという」

 

 彼は古めかしいプレートアーマー、使い込まれた証だろう。

 腰に下げている剣の手入れも行き届いている。

 

「……ギフター、貴様。私が承諾したというのに、この北の死威王の作戦、不服を申し立てるつもりか? それは騎士団長である私への叛逆とみなされるぞ。その覚悟があるのならば話すといい」

 

 ギフターさんはリコさんをチラリと見ると、フンと鼻を鳴らした。

 

「難しい話は全く分かりもうせぬが、このくりぃむパンとやら、おかわりを所望する!」

 

 この一瞬で俺はこのギフターさんも騎士団の悩みの種だと瞬時に理解した。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ