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恥ずかしがらないで、空の星を数えている間に終わるから

 笑う奴が強い。

 誰が言ったセリフだろう? 追い詰めているカグヤさん、追い詰められているセリュー。どちらも笑っている。

 

「……さて、困りましたね。神の子らはこの通り、私のことを意識なくとも守り大怪我です。貴方達はふふっ……ははははは! 拘束し、身動きの取れない者をなぶる無法者。そして、私は今その牙に討ち取られようとしている」

 

 喋るセリューに対して黙るカグヤさん。

 俺とは違いセリューに惑わされな為だろう。


「……カグヤさん。ホブさん。そしてガルン。俺の言うことを聞いて欲しい。これから伝えるオーダーは俺たちの拠点、そしてセラヴィくんの敵討ちどころか、多分この世界の為だと思う。ガルンとホブさんは能力強化バフ、カグヤさんはセリューのみに集中してください。ユニオンスキルで補助します」

 

 何が恐ろしいか……異世界生活アプリがどういう理屈で反応しているのか不明だが、俺みたいな能力の低い人間やカグヤさんのような異常能力者ですら反応するのに……セリューは、アプリが反応しない。

 そこに存在しないかのように。

 

「マオマオ。言われなくてもこいつ以外に興味はない。俺と頭上の月はこの女を逃しはしねーよ。夜は狩の時間だ。いかなる者もその夜は月の光からは逃れ羅れない。覚悟しろ」

 

 アプリを見る必要もない。カグヤさんのなんらかのユニークスキルが発動しているらしい。

 

「月の光程度が届くところに私がいるとでもぉ?」


 セリューはそう言って嗤った。

 まぁ何か策があるんだろう。だけど、前とは違って俺は準備させてもらってるんですよ。

 

「……セリュー。いや、今は大司祭サンデー。このテントの周辺に精霊王サマの特殊結界を貼らせてもらった。もう逃げられないですよ」

「魔王の力、精霊王の力。ユニオンなる細々とした力の寄せ集め。本当に踏み潰したくなる世界ですね。ここは。私は、アフガンで、南米で、東南アジアで私を世界の敵とする軍隊相手に、十分の1、時には百分の一の戦力で戦い、時には圧勝すらしてみせました。数は戦力差にはなり得ないというのに、この世界はその道理が通じない。ならば、私もそうしましょうか?」

 

 何がしたいんだこの人は……


「では、来なさい。月帝に北のCEO。この世界における絶対支配者達。王を冠する者達。私は理屈や、常識の遥か先にいる者。私達のこのファナリル聖教会最高聖職者。あの聖女アラモード様ならきっとこの世界を平等にお導きいただけるでしょう! 神の奇跡により、ファナリルの巨神よあれ!」

 

 テントの地面を突き破り、それは現れた。身の丈十五メートル程だろうか? 

 そこには俺が子供の頃に見たようなスーパーロボットが出現した。

 

「……なんだこりゃ……まぁ関係ねーわ。こいつもろともぶっ潰してやる!」

 

 これ多分、巨神とか言っているけど……ゴーレムだろう。それも北の魔王が作った物じゃないだろうか?


「さぁ、ファナリル聖教会の精神と教えを形にしたようなこの巨神は裁きの巨兵となり、北の死威王。並びに、その助力をする暴徒を葬らん! さぁ、私の物つ宝玉の導きにて奇跡を持って邪を討たんが為、立ち上がりなさい!」

 

 ゴーレム、もとい巨神は俺たちに襲いかかる。図体がでかいのに、動きもありえないくらい速い。

 ホブさんと、ビビりながらもガルンガゴーレムの一撃を受け止めようとして吹き飛ばされる。

 

「我が家族なる信徒達を、聖女王様の優しき光で御守りを! “セイクリッド・リフレクター“!」


 サンデーは先ほど人間の盾にした信者を次は魔法で守った。


 そして巨神は俺たちの方に向くと胸部が開く、黒い宝石のような何かが光り……その瞬間視界が揺らめく。

 そう、カグヤさんが、俺とガルンにホブさんも引っ張って今いる場所から二十メートル程離れる。

 

 けたたましい音と共に、巨神は光線を放った。大地を溶かし、間違いなくウルスラを一撃で機能停止にさせたあれだ……

 

 これが直撃していたら……

 俺たち完全にオワタだ……というか、これまじでどうすんだ?


 

 サンデーは宝玉を持ってこの巨神を操作しているのだろう。あの宝玉を奪えれば……なんて考えはしない方がいい。

 飛び込んだカグヤさん、巨神はその指一本一本から先ほどより威力の低いが、俺たち人間なら瞬殺するような光線を放ち、そこに飛び込んだカグヤさんは……

 

「ぐぅあ……ぬかった……マオマオっ、セラヴィを連れて……逃げろっ……こいつは俺がっ……」

 

 体を八つ裂きに、いや焼き切られたカグヤさん。俺は再生スキルなんて持ち合わせてはいない……助けられない。

 

「おや? おかしいですね。その再生速度。私達の信徒である再生者とも違う。聖女王様、程ではないにしても、聖人クラスの超回復……」

 

 サンデーが言う通り、俺は信じられない物を目の当たりにした。彼は致命傷どころか即死級の重症から、体を殆ど蘇生させた。そして俺はすぐさまカグヤさんに駆け寄り回復を……


「ヒール! ヒール! ヒール! 俺のありったけの使用回数を行使します。カグヤさん、どういう体か知りませんけど、とりあえず走れるなら逃げますよ! あれはダメだ。俺たちに手に負える代物じゃありません! あれは、この世界に来た頭がだいぶやばいけど、とんでもない知識と科学力を持った地球人。元北の魔王が作ったゴーレムだと思います」

「だから? なぁ、マオマオ。寝言は寝て言えよ。それに俺の身体見ただろ? 気持ち悪いか? 俺はお前達地球人じゃない。お空の月から来た。宇宙人だよ。だから捨てて行けよ」

 

 月に人なんて住んでるわけないでしょ? とか素面の俺なら言ったかもしれない、こんな規格外だから宇宙人ありえるわとも思ったかもしれない。

 

「それこそだから? ですよ。カグヤさんが宇宙人だって言うなら、この世界からすりゃ俺だって宇宙人なんですよ。そんな事より逃げますよ! もうアンタと俺は酒を飲み交わした友人だ。見捨てれるわけないだろ! あんまり吹かすとぶん殴るぞ!」

「マオマオ、お前。おもしれぇやつだな。だけど、逃げる? それはお断りだ。あのクソ女に目に物くれてやるよ。あいつはダメだ。あの目は、あのクソみたいな目をした奴はここで息の根を止めなければ生かした後が面倒だ。あーいうろくでなしの目をした奴を俺はたくさん見てきたんだよ」

 

 全く、俺の周りには聞かん坊しかいないのだろうか? まぁ、これに関してはモン娘達で耐性がある。


 俺はカグヤさんの背中に触れてこう聞いた。

 

「俺に出来るカグヤさんの能力向上はあと数回が限度です。それで仕留められますか?」

「上等。あの巨人は俺がやる。お前達はあのクソ女が逃げないようにしっかり見張っとけ」


 頷く俺、そしてカグヤさんに精霊王の加護を三重でかける。そしてダメおしの魔王権限ウィルオーウィプス!


「おいおい……なんだこりゃ、体が軽い……月の欠片を集められそうだ」


 カグヤさんのポテンシャルを俺は知らない。

 魔王種だという事だけ、そのカグヤさんにその他魔王種の力を叩き込んだのだ。

 

 今のカグヤさんはこの世界最強クラスだろう。

 カグヤさんにあの光線を放とうと向けた手をカグヤさんは……。

 

「芸が雑なんだよ! デク!」

 

 思いっきりである。思いっきりぶん殴り右手で叩き壊した。

 

 おそらく北の魔王が生み出したゴーレムだ。よほどのレア素材で作られていたのだろう。

 流石にそれが破壊されたとなってはサンデーも驚きを隠せない。


「…………大司祭サンデーここは貴女の理解が及ばない世界だ。もう降参してください」

「面白いことを言いますね? CEO。お断りです」

 

 流石に虎の子ですらカグヤさんには通じなかった。

 

 それでも貴女はまだ何か策が残されているのか……それとも虚勢なのか、恐らくは身体能力は俺とさして変わらない。絶対にカグヤさん達チート持ちには勝てないハズなのに……なぜ諦めないんだろうか。


「おい、クソ女! お前のご自慢のスクラップ。もうぶっ壊れる寸前だぞ?」

「ファナリルの巨神が敗れるなんて有り得ません!」

 

 これは信仰心から来る物なのだろうか? もう勝負は明らかだ。

 

 ……おかしいぞ。

 

 カグヤさんがゴーレムを破壊の為に大司祭サンデーに襲い掛かれないとはいえ、ホブさんとガルンの攻撃を紙一重で先ほどから回避し続けている。



「死ねよ! デカブツ!」

 

 カグヤさんは飛んだ。そしてゴーレムに向けて渾身のソバット。

 

 もう壊れた玩具みたいな動きを始めるゴーレム。


 さらに追撃の蹴りにゴーレムの装甲は砕け散り、中の宝石が露わになった。

 おそらくこれを破壊すれば完全にこのゴーレムは停止するのだろう。あのウルスラのように……


「素晴らしい破壊力です月帝。ですが、まだ巨神兵には裁きの光があることをお忘れですか? あなたの再生力といえど、一撃で全てを原始分解すればどうでしょう?」


 カグヤさんが人間じゃないとして亞人、宇宙人だとしても炭素生命である以上大司祭サンデーの言う事は正しいかもしれないが、何を根拠にこの人はこんなにも自分に自信があるのだろうか、もう完全敗北じゃねーか。






「マオマオ様……この敵首魁。攻撃が当たりません。何か固有スキルをお持ちかと」

 

「おかしいのだ! おそっこいのに、捕まらないのだっ!」



 カグヤさんが宝石を破壊しようとした。

 するとあの光が宝石より放たれる。

 当然回避するカグヤさん、されどこんな攻撃が今更カグヤさんに当たるとは思えない。

 ガルンとホブさんを翻弄しながら、時には速度アップ系のスキルなどを使っているのだろう。しかし、俺ですらお粗末だと思う種類のスキル数。

 一体何を考えているのか? それとも何も考えていないのか、俺たちはこの騒乱の元凶、大司祭サンデーを完全に追い詰めた。



「すごいすごい! ガルン様、ホブ様。あなた達が私に触れる事ができない理由わかりますか? 猫に小判だからですよ! あなた達は、月帝もCEOも、恵まれた肉体に恵まれた力、なのにその有用性を何も分かってはいません。そんな連中が私に届くと思いますか?」

 

 確かに、超初級スキルのみを持って俺たちから逃げ切る彼女は見事だ。

 それでも俺だから分かる事がある。

 

 この世界には、頭脳だけではどうしょうもない超えられない壁がある。


「お前、結局何がいいてぇんだ? これで王手だ。お前をガルンとホブさんが捕まえられなくてもいいんだよ。何故なら俺がお前を捕まえりゃそれでいい。頭上の星でも数えとけよ。すぐ楽にしてやるからよぉ!」

 

 そう、ゴーレムを完全に自走できないようにしたカグヤさん。誰しもが気づかない隙を狙って大司祭サンデーを捕まえた。

 

 それも捕まえた瞬間、大司祭サンデーの腹部を思いっきり殴る容赦のなさ。

 

「……ぐふっ……そこ折れてるんですよ? 月帝。あなたは女性の扱い方をもう少し学んだ方がいいですね? それとも、男性も女性もそうやって壊してしまう方が得意なんでしょうか? ねぇ? どうなんですかぁ? なんの事はない。ここで貴方に捕まる為に待ってましたから」

 

 そう喋る大司祭サンデーをカグヤさんはもう一発殴る。流石に辛そうな大司祭さんで、彼女は何かのスキルを使った。

 

 瞬間、二人が消える。

 

「テレポート」

 

 大司祭サンデーとカグヤさんはゴーレムの宝石の前。

 

 要するにゴーレムのあの光を自分もろともカグヤさんと浴びようと言うのだろう。

 

 そんなに上手くいくのだろうか? というか、こんな雑な方法多分、いや絶対成功しない。

 

「クソ女。確かにあれが直撃すれば俺も危ないかもしれない。こういう賭けは正直嫌いじゃない。が、お前みたいなクソ女と心中するつもりもないし、ベットする必要もない。勝手に死ねよ」

「……そんな、この距離を……回避出来るのですね? 月帝とは、いいでしょう。一人寂しくイクとします」

 

 眩い光は大司祭サンデー、いや、地球のエージェントが追うセリュ・アナスタシアを一瞬にして骨まで火葬した。

 

 そして、この大司祭サンデーの死とそれを目の当たりにした信者達。最悪の事態に歩を進めることは火を見るよりも明らかだったのに、俺はセリューを倒したという安堵感に判断力が著しく低下していた。

 


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……まさか、そんな事が……ファナリル聖教会の信徒を光の速させ増やし、様々な策略を担当していたあの大司祭サンデーが、殉職しただと? それは誠の出来事か? これだけの屈強なモンクにプリーストをつけて……いや、彼女の事だ。其方達では太刀打ちできぬ相手に単身で、其方らを守ったか」

 

 信者達は、北への聖戦を行うかどうかの準備と指示を待っていた矢先、死威王自ら無防備なファナリル聖教会の信徒を襲った事。

 そして、狙いは大司祭サンデーの命であった事。虚な瞳で信者達は教皇パフェに見てきた物を語った。切り札であった巨神を使っても死威王には及ばず。最後の道連れも失敗。

 ……それでも尚、自分たちを救い、教皇パフェに伝言を残したと言うのだ。

 

“一刻の猶予もない。聖女王様を鎖から断ち切らん“

 

 ……と。

 

 

「おぉ! おぉ! なんということか! 最も方舟に乗らなければならない大司祭サンデーが最後の時まで我々に残したものは何か? 彼女は南に東、北、そして中央の危険視を元より指摘し、その為の力も人材も財をたった一人で集めてきた。その彼女が方舟への乗船券を失った。これは、大司祭サンデーとは! 聖ファナリル教会の神の使いであったのではないか!」


 西の教国ゼノスザインにて、大司祭サンデーの訃報、そして教皇パフェによる演説が開始された。

 

 教皇パフェはいかに北の死威王が危険で、愚かな存在であるか。

 今討たなければ、周囲の国々と共謀し、悪魔の大帝国が生まれつつある事。

 

「ならば? どうする? 神の子らよ! 沈黙は心の死だ。忍耐は、国の寿命を縮める。神は……お許しにならない!」

 

 そして誰かが口を開いた。

 聖戦であると、聖戦を持って北の死威王を消滅しなければならないと。

 

「さよう! 神の子らよ! 聖戦である! 我々は百万の槍は、たった一本のか弱き槍に過ぎない……ならば臆して隠れるか?」

 

 否!

 否!

 否ぁあああああ!

 ジェスザイン領土全土に響き渡る信者達の叫ぶ。

 

「そう! 否である! ……我々は宿命を果たさずして方舟に乗ることを許されはしない。我々がやるべき事は、諸悪の根源、北の死威王。その撃破と、心惑わされた北の民を改心させることにある!」

 

 

 オォオオオオオ! と響き渡る声に教皇パフェの声は負けない。




 我がファナリルの意思である。其がファナリルの意思であると。

 

 そして……教皇パフェは異常な盛り上がりを見せるその状況で宣言した。

 

「我も其方も力なき槍か? 心なき槍か? 無力なり力か? 無意味なり意思か? ならば我らは我が謳う者。神の化身、神の意思たる者にその体も、骨も血も、心もたくそうではないか! 我らには聖女がついている。数々の奇跡を体現し、唯一無二の聖女は誰か? 聖女王は誰かぁあ!」


「聖女王アラモード様、万歳! 聖女王アラモード様。万歳! 神の化身、神に続く道をお導きいただける。我が最高指導者。聖女王・アラモード様」


 西の教国ジェノスザイン。ファナリル聖教会。ジェスターレス大聖堂。

 

 やや光がかった聖女のみが着る事を許された薄い黄色の法衣に、薄い茶がかった法冠。薄く蒼い髪色は奇跡の証である。

 虚な瞳で信徒達を見つめ、どこかの貴族、あるいは姫君を思わせる絶対美。


 彼女が現れると、あれだけやまかしかった信徒達が、静まり返る。それほどまでに息を呑むプレッシャーを彼女はまとっていた。


 いや、彼女にはもう人間の意識のような物を感じないのである。ブランと金色の鎖にをぶら下げる両の手……誰とも目が合わない視線の先。

 

 少し前、大司祭サンデーに浄めの儀式に入るといわれ、それ以降。教皇パフェですらアラモードには面会していなかった。

 

「はは……そういう事ですか、大司祭サンデー。あのじゃじゃ馬をここまで神の領域に近づけたという事ですか……彼女のもつ邪悪さが消え、今やまさに神の巫女に相応しい……見よ! 神の子らよ! 我らが聖女王・アラモードが今、神より生まれ、第二の生誕を遂げたぁああ!」

 

 動かない聖女王・アラモード。が、彼女が一瞬笑ったように皆見えた。

 それは、ここにいるファナリル聖教会の信徒たちの興奮を最高潮にするには申し分ない破壊力を持っていた。

 

「……聖女王・アラモード。我らか弱き神の子らを率い、悪魔の軍を退け、死威王を滅し、そして永劫に続く、迷いなき、争いなき、飢えなき、死すら超越した世界にお導きいただけるのですね?」


 フラフラとしている聖女王アラモード。それは興奮している皆は頭を縦に振ったのだと思った。


「ならば我ら、神の子らとして、恥ずべくこともなく、神の意思を受け取ろう。汝ら、我ら、神の子として、神の意思その者となった聖女王・アラモードと並び歩かん! それは絶望の川を越える旅になろう? 恐怖の谷を越える戦いとなろう。そして終焉の海を渡る無謀な聖戦となるだろう。されど、我らが神は誰一人として見捨てず。我ら、汝らを約束の地へと誘わん!」


 教皇パフェはそう宣言すると、自らの法衣を捨てて、別の法衣を持ってこさせた。

 それはかつてこの国で英雄と呼ばれた者が纏ったモンクの最上級法衣。

 それを信徒達の前で着替える教皇パフェ。

 

 隆々とした肉体は、ジェスザインで政治と神の教えをしている男とは思えない。

 その力強さには男ですら息を呑む。

 

「……あれは……まさか教皇パフェ様とは……西の教国の伝説的人物。聖人・パフェ・フルーツその人じゃないのか?」

 

 人々が、パフェ・フルーツ・パフェ・フルーツと口々に呟き、それは確信となった。

 教皇パフェに渡された先がギザギザになった大きなスコップ。

 

「あれは……魔神器……聖人パフェ・フルーツ様がかつての魔王に大きな傷を負わせたという。究極最高法具ユミル。あらゆる力を掬い……いいや、救い取り、この西の教国に巨大な竜巻が襲来した時、そのお力でお救いなされた」

「本物だ! あそこにいる教皇パフェ様は、我らが英雄。聖人パフェ・フルーツ様に違いない!」


 教皇パフェは、少し静かに頷いた。そしてそのユミルを持って話し出す。

 

「神の子らよ。私が聖人とかつて呼ばれた力なき者であったこと、隠していてすまなかった。ファナリルの神の御前で嘘や隠し事をしたこと、苦痛の日々であった。されど、私では、聖人程度では皆を導くことはできない。そう理解した。世界は汚れすぎている。それを正せるのはただ一人」

 

 教皇パフェは寄り添うように聖女王アラモードを皆の前に連れてくる。

 

「……北の地では、聖女王アラモード様は、今まで金の鎖の聖女と呼ばれていたこの鎖を外す事になる。この鎖を外す事は終焉の笛を吹くのに等しいことが起きる。外せば聖女王アラモード様は、ファナリルの神に仕える裁きの神獣となり、あらゆる者に救いをお与えになるだろう。だか、恐る事はない! 必ずや聖女王・アラモード様は我らを復活させ約束の地で再び会える事をお約束してくれる」

 

 喉が血が出るほど叫ぶ信徒達と共に、北の地へ宣戦布告と共に、大軍勢が進軍を開始した。

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