仕事が軌道に乗るとトラブルが同乗してくるCEO
俺は、合成魔素でできた液体に浸かるウルスラを見て聞いた。
「とりあえずこの中にいれば、ウルスラは劣化しないんだな?」
プレアデスが希望する素材を俺はいくつかの街で、値段に糸目をつけず購入を冒険者達に依頼し、今に至る。たまにプレアデスがくだらない物をリストに記載していたのでそれを消す手間が無ければもう少し早かったろう。
「マスターくん。これでも気休め程度だと思って欲しい。唯達の姐とはいえ、体組織の構成に使っている物が唯達のそれとは比べ物にならないんだよ。シズネの知識を完全にコンバートしているわけじゃない唯にできることはこれくらいになってしまうけれど、そもそもが至高のゴーレムさ。並大抵では消滅しないだろう」
プレアデスの言う通りなのであればそうなのだろう。
二人でウルスラを見つめていると、彼女の瞳が薄っすらと開いた。
「えっ! 何? プレアデス、どんな状態?」
「なるほどね……どういう状態だろうね? 彼女は機能を完全停止しているハズなななな……なんだけど」
プレアデスでも分からない状態らしい。エメス共々、ゴーレム姉妹の焦り方は似ているらしい。
ウルスラの瞳は俺たちを見ていない。虚な瞳はしばらくするとゆっくりと閉じた。
「マスター君。ウルスラは至高のゴーレム……だから唯にも」
「わかったわかった。お前は決して無能じゃない。きっとお前の素敵な対処が上手くいってるんだ!」
なんかレイプされた後の瞳になっていくプレアデスを落ち着かせる。
一応ウチのブレインとしているわけで。
知らないことなんてないキャラでいたかったんだろう。
が、流石にウルスラの事では嘘をつけないみたいだ。
「くっ……流石は原初のゴーレムだね……お手上げさ」
ふっきっれた態度もなんだか大二病臭いプレアデス。この感じがなければオッサン好きと言う事を差し引いても一番の常識人なのに勿体ない。
「あぁ、お前には感謝してるから、それより酒樽の運び込み行ってくるから後たのんますわ」
あぁ、気をつけてねと手を振るプレアデス。
ウルスラの入る大きな試験管のような物を丁寧に磨くプレアデス。エメスも毎日、様子を見にくることからあいつらにとって何か思うところがあるみたいだ
でも、お供物、オッサンの絵とか、ショタ化した俺の絵とか喜ばないからやめておけと思う。
さて、俺はガルン、エメス、ホブさんとゴブリン達と酒樽の運び込みだ。
みんなは事務所の横に併設した共同食堂で朝食をとっていた。
俺を見てホブさんとスラちゃんだけが食事を止めて立ち上がろうとするので俺は大丈夫と笑って手をあげる。
「おはようみんな。食事はそのまま続けて、ガルンとエメスとホブさんは、力仕事なんで残った物があったら行動食として持っていくのでしっかり食べておいてね」
「ご主人! かしこまりなのだ! ボクは朝からでもたくさん食べるのだ! お弁当はデコポンとベーコンなのだ! シェフのライスコロッケがあれば最高だったのだ!」
スラちゃんが教育した給仕係のスライムとアステマにビビってここに住み着いたヴァンパイアが弁当を詰めてくれていた。
俺とエメスの普通の弁当箱。
そして、ホブさんの巨大なドカベン、そしてそのドカベンが他四つ。
ガルンの弁当である。流石に喰いすぎだろ。
「お弁当! お弁当うまそうなのだ! 一つだけ! ご主人! ご主人、一つだけ今食べてもいいのか? 三つあれば僕は大丈夫なのだぁ!」
ただでさえ特大の弁当なのに、それを特別に四つも作られていて、今しがた朝食を食い終わったばかりなのに、俺たちの拠点を食い潰すつもりか?
ガルンの言う事は無視して俺は弁当を包んでもらうと、ホブさんのリュックにそれを入れて管理してもらう。
俺はここに残るメンツに指示、そしてスラちゃんに監督を依頼。
「じゃあスラちゃん、留守番よろしくお願いします。アステマのアホが変な事しないようにしっかり見張っててください」
「はい、マオマオ様行ってらっしゃいませ!」
スライムを最初の雑魚モンスターにした奴を俺はぶっ飛ばしてやりたい。
ゴブリンを無法者として表現した奴らを小一時間叱りたい。
ホブさんに肩車をされてガルンは楽しそうである。エメスは無言で何かを考えているので話しかけないようにしておこう。
どうせろくでもないことを考えているんだろう。
ホブさんの配下にいる我が商店街の素晴らしい労働者であるゴブリン達も隊列を組んで、酒樽運びについてくる。
俺たちの商店街で作っているミードビールもリッケルトさんにこの度もらうレシピでより美味しくなる。
「バーは形になったから、どうせなんでビアガーデンも作りたいな」
…………夏の暑い日に皆んなで飲み干すビールは一人の時間にゆっくり舐めるコニャックに引けを取らない。
きっとこれも商店街の目玉になりそうだ。寒い日はホットワインやホットラムなんかもいいな。
「……マスター。何か卑猥な事をお考えか?」
確かに一人でニヤニヤしていた俺に非はあろう。しかし、こいつにそれを言われるのが癪に触る。
横ではホブさんがガルンと俺が教えた“岳人の歌“をゴブリン達と歌い楽しそうだ。
……世は全てこともなし。
「ほしのふる、あーのこーる! ぐーりせーどでー! ご主人! こーる。ぐーりせーどとはなんなのだ? 美味しいものなのだろうか?」
「なんだったかな、コールは山の凹んでるところで、グリセードはお前さん、街のガキ共と坂を滑り落ちる遊びしてるだろ? あれの雪山版みたいな感じだな。美味しいものじゃないかもしれないけど、山登りしてたら見られたり、熟練の登山者の技術だったりするんじゃね? 俺もそんな詳しいわけじゃないけど、そういうの歌ってんだろ」
実際違うのかもしれないが、作者不詳の歌故、俺の見解が間違っているとも思えないし、まぁいいだろう。楽しそうにゴブリン達も歌ってるし、歌ってのは国境どころか、世界間まで超えちまうんだな。
「ご主人! お腹が空いたのだ! それにホブさんもボクを背負っているからきっとおなかペコペコなのだ! そろそろお昼ご飯にしたほうがいいって僕は思うのだ! 後ろのゴブリン達もきっとそう思っているのだご主人!」
お前がホブさんの背中から降りて歩けばいいんじゃないだろうか?
そして、自分の空腹を他の人も巻き込むのはどうだろう。
「ガルン。別に今食ってもいいが、みんなのランチタイム時、お前だけお預けだからな」
俺がそう言うと少し慌てるガルン。
「も、もし食べるものがなければ皆んなで何かを狩ればいいのだ! 獲れたての新鮮な食材は体に良いってこの前、ご主人が持ってきた本をスラちゃんに読んでもらったときに書いてあったのだ! だから、大丈夫なのだ! 魚や獣を捕まえて料理をするのだ!」
葛原さんが持たせた、異世界生活読本・著・葛原さん。モンスター達のバイブルになりつつある。
クソが!
「安心しろガルン。かつては旬の物を食べる事が寿命を伸ばす術だったらしいが、養殖物の方が天然物よりも安全で美味いのが今の流行りだ」
「そういう人もいるのだ! だけれども毒をくらわば皿まで、体にいいものばかりを食べては逆によくないのだ! ばーい、らぷんつぇる・くずはら! なのだ!
くそ、葛原さん、本当にラプンツェルって名前なのか? ペンネームだろ絶対。
くだらねぇ本出しやがって!
「お前さん、本当に毒食っても俺はヒーリングをかけないからな? この辺の獣も魚も根性ありまくりだろ? 毒の一つや二つは持ってるだろうし、そんな危険な事を俺の従業員にはさせません! 我慢しろ、帰ったらなんか買ってやるから」
「……お腹が空いたのだ……だけど、戻ったらチーズケーキ買ってもらうのだ……うん、僕は空腹になんか負けないのだ!」
こいつ我慢できるんじゃねーか、実際そうだよな? 一人でいた頃なんて食べるに困って数日飯抜きだってあったわけだし。
チーズケーキねぇ……
購入するとなるとアズリたん権限で並ばないとダメだし、街に住んでいない俺には数量限定は不利だ。
多分、作れるだろう。
枢木さんに今度作り方を尋ねて、食わせてやろう。
なんでも自家製できれば、コストを減らせるだろう。花見の時に子供が欲しがる食べ物を弁当であらかじめ用意する母親とか無敵だなって今更ながら、我が亡き母ちゃんを尊敬する。
「さてと……。今日は酒樽を回収してそれを運び込んでおわり、力仕事で疲れるけど、特にイレギュラーはないハズだったが、向こうから来られるとは恐れ入った」
あぁ、最悪だ。いや、不幸だ。
状況的にはこんな感じだ。聖職者的な集団、聖者の行進と呼ばれた白装束の連中が何者かに襲撃されて倒れている。回復職を募集しているらしく、人間に擬態できないゴブリンはホブさんと共に後方待機。
「しゃーない。俺は人助けを進んで行うような聖人君主ではないけど、見て見ぬふりをする程人間は落ちてない。困った時はお互い様ってな。スラちゃんがいればもう少しマシなんだけどちゃんとしたプリが来るまでの時間稼ぎくらいにはなるだろ。ガルン、少しお手伝いを頼む。川から水くんで運んで、あの白い服着た連中に水飲ましてやってくれ」
ガルンは頷いて水筒を取り出しかけていく。
「よし、いい子だガルン。じゃあ俺もユニオンスキルで魔法力向上。精霊王サマの加護付きでどうにかこうにか少しはマシなヒールになるだろう」
倒れてい聖職者の集団に回復系の魔法をかけていく。
「……どこの術者様かは存じませんが……かたじけない……私たちがファナリル聖教会であると知って襲ってきたあの者は……恐らく北の死威王の手の者」
そうやたらと不吉な事を言ってファナリル聖教会の信徒は気を失った。
さて、こいつら西の教国の人間なのに、またしても教会関係者という名目でややこし宗教勧誘に来ているんだろうか?
しかし、こいつらを襲った奴は一体誰?
完全に俺に迷惑が降りかかってますけど?
「くそ、あの男……見知らぬ奇術を使うとは……魔物の類だろう」
この辺りでは見た事もない青年。
魔法ではない不思議な力を持って総勢30人からいたファナリル聖教会のモンクファイター達を病院送りにした何者か……
俺に恨みでもある人がいるんだろうか? いや、結構いそうだけど……
こいつらは北の領地で何をしているのか……
回復ついでに聞いてみて分かった。
こいつらは、大分前から、このあたりにキャンプを張っていたらしい。ウルスラ・ジ・エンドと戦う為の先行部隊。
「三週間も前からここで待機していて、北の魔王のゴーレムではなく、北の死威王の手の者に襲われるとは……」
ウルスラが、北を襲った時の声明を出したのは二週間と三日前。
「北に進撃命令を出したウルスラから守ろうとしてくれた皆様には頭が上がりません、しかし大変迅速に動かれていたんですね?」
これは流石に露骨すぎただろうか? お前ら怪しくね? と言っているような物だ。
俺は回復魔法を必死で使って回る俺のその姿に、ファナリル聖教会の信徒達は手を合わせて、拝んでいく。こいつら聖職者であり、一応人々を導く存在なのでそれなりに礼儀は弁えているらしい。
そして、冒険者兼商人として偶然ここに出会しただけの俺を完全に信用してくれる。そして色々と話を教えてくれた。
ファナリル聖教会で、北の窮地を救う為、無償の愛を持ってして聖者の行進を実行したらしい。その編成はもっと早かったらしい。大体俺たちがプレアデスに出会った頃だろうか?
もう普通に考えて、あのウルスラ事変にファナリル聖教会は関わっている。
そしてこの事態をややこしくした人物について情報はこんな感じだ。
信徒A・B・Cの証言
「あれは闇夜と共に現れたんだ。亞人の子供を引き連れて……我々の神の奇跡である神聖魔法を使わせる間もなく襲ってきた凶悪な顔をした……男」
「そうだそうだ! 聖女様の奇跡の加護がある筈の私達を殴り倒し……」
「恐らく、死威王の家来の中でも幹部クラスの醜悪な大罪人なんだろう。きっとウルスラ・ジ・エンドも死威王が呼んだのかもしれない! そうに違いない!」
どうすんだこれ?
あらゆる状況が俺に返ってくる最高な状況が出来上がっているが、こいつら襲った奴は男だという事は分かった。
俺はとりあえず「それは災難でしたね」と自分に対してもその言葉で慰めると信徒達は涙を流した。
あらかた回復を終えると、ここの責任者が俺にお礼を言いたいとの事。
ガルンも水を飲ませて回っていたが終わったらしく俺の横にやってくる。
自然に手を繋いで、司祭の元へ向かうと、そこには顔を腫らした司祭の男。
「其方らが、仕事の最中だというのに、邪悪な牙に襲われた我ら聖者の行進に優しき手を差し伸べた物達か、ファナリル聖教会の精神を形にしたような物達だ。同じ神を崇めるものか?」
「あー、いえ。無宗教論者でしてね。特にどこの宗派にも属してはいないです」
さて、多分そう言うと勧誘されるだろうね。
「ははは! これはファナリルの神のお導き、これを機に」
「あぁ、いえ。それはまた今度。皆さんが無事なら先を急ぎたいんですが、一つ教えてくれませんか? あなた達を襲った人はどんな服きてました?」
司祭に俺がそう質問をすると、司祭は自分の頬に手を触れヒールを使う。
そして司祭は俺に聞いてもいないような事を話し出した。
「私は司祭であるが故に他よりも強化がされている」
再生者とか言う奴だろう。
あの聖女サマは不死身みたいに硬かったからな。
女性の信徒、目が少しイってそうな人が司祭のところにやってくる。
俺に軽く会釈、しかし焦点があっていないのか目は合わない。
「…………大司祭様よりご連絡にございます…………すぐにお戻りを」
「大司祭…………サンデー様が? 分かりました。すぐに戻ることをお伝えを」
状況が分かっているならしばらく休んで戻るべきではなかろうか?
「商人のお方、もうこの辺りにはいないと思われるがお気をつけを、あれは加護を無効化するユニークスキルを持っているのかもしれませんな……北はまだ本当の神を知らないのが嘆かわしい。死威王などという愚かな輩は、酒池肉林の悪魔の街を作っていると聞く。商人のお方、悪魔の囁きにはくれぐれも」
「悪魔の街ですか、それは恐ろしい限りですね。えぇ、そういう囁きには気をつけさせてもらいます。商人である以上そう言う危険な街にも向かう事があるかもしれませんからはい」
「ご主人……この人間の男。僕たちの…………むぐぐ! なんだご主人? 僕を抱きしめたいのか?」
「あぁ、そうだな。ほらほら」
一瞬にして俺が北のCEOであるとバラそうとしたガルンの頭を撫でて話を逸らす。
「はっはっは! 愛らしいお嬢さんだ。商人のお方、二人の仕事。そしてこの度の慈愛。ファナリルの神はきっとみ守ってくださっている!」
「それはそれはありがたい限りです。これ少ないですけど、お布施です。じゃあみなさんお元気で」
多すぎず、少なすぎないお布施、ちょっといい店でランチが食べられるくらいの金額、流石に司祭も俺たちが先を急いでいる事を察したらしい。
「これはこれは、お急ぎのところ、引き止めてしまって申し訳ない。この恩は決して忘れない故、手隙の時にでも西のジェノスザインへお越しいただきたい」
「あー、はい。まぁまた機械があれば是非! では」
……こいつらの総本山行ったら速攻強制的に入信させられそうだ。絶対行かねぇ……
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「……マオマオさん。それは災難でしたね。ですが、ファナリル聖教会の方々といえど、とてもいい事をされてきたじゃないですか! ワインは待ってくれるものですから、ゴブリンさん達が遠回りしている間に数の確認をお願いできますか? 瓶詰めしたワイン、千五百に、販売用のコニャック樽三つ。そして、マオマオさんの晩酌用の瓶詰めしたコニャックをとりあえず10本程ご用意いたしましたので!」
支払いを相互確認で終える。金額にして日本円で三百万相当の投資となったが、俺たちが適当に作ったミードビールのプロによるテイスティングに、新しいレシピの購入費用でもある。
リッケルトさんに従業員達がゆっくりミードビールを味わう。
全員の意見としては自家製としてはこれほどにないいい味をしている。
しかし、これを消費者に出すには味が弱いとのことだった。いくつか持参してもらったレシピを試し、味付けを変えてみる。
今の時点でフレーバーを足しただけでかなり味が整ったのだが……
「マオマオさん。もし、よろしければなのですが、ミードビールの生成は当方のワイナリーで行いましょうか? 労働力を買って頂き、卸価格に小売価格をつけてマオマオさんは地ビールとして販売されては?」
確かに、リッケルトさんのところの雇用も増えるし、業務委託で俺たちは他のことができる。お支払いについて少し詰める必要があったのでランチを食べながらビジネスの話を続けた。弁当を持参したがご馳走になってしまった。
日が暮れてきた頃。
「以上の件で、お支払いや納期などは問題なければこの件は決定という事で」
「そうですね! お互い利害も一致しますし、これは私たちとしては本当に助かります。一旦試作品を近日中に届けさせますので宜しくお願いします!」
「はい、こちらこそ! それではワインとコニャックの方は早速明日よりノビスの街でも試飲とお店で実際に取り扱ってもらうように進めますので!」
あぁ…………あぁ! 俺はなんだか本当の商売人になったらしい。なんだかこういうのいいなぁ……普通の会話だ。
「ご主人! ご主人! 遠くから……怖い匂いなのだ! 怖いのだ!」
「えっ? そのビビり方……久しく見てなかったけど、ガチの奴じゃん……」
そう、仕事のやり甲斐を感じた矢先、やっぱりトラブルが向こうからいらっしゃいました……




