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小さな田舎のマジな感じの最終戦争・後編

 さて、どうしたものか、超常現象、異常災害クラスの攻防の後、ウルスラの移動要塞は大穴を開けて沈黙。プレアデスと連絡が取れなくなり、エメス達がいた地上の神殿からは煙が上がっている。

 

 皆、今の状況が掴めないでいた。

 勝ったのか? 護衛のゴーレム達は消し飛んだようだが、エメスとプレアデスはどうなった?

 

 ノビスの街、十キロのところで、魔法防御を張り、爆風の影響ででた怪我人などをスラちゃん達スライム、ホブさんとこのゴブリンマジシャンが救護していた。薄々ではあるが、皆。危機が去ったのではないかとそう思い始めた。

 

「勝ったのか? もしかして……魔王種を俺たちで退けたんじゃないか? やった! 助かった!」


 ……本当にそうなのだろうか?

 いやしかし、確かにあれらの攻防は魔王種クラスの力があったに違いない。そして俺たちの前にズタボロのエメスが戻ってくる。

 

「マスター……列車砲は消滅。手伝っていた連中は我の全力魔法防御にて命は繋ぎ止めたり……」


 所々、皮膚が破れ骨が見えている。ゴーレムといっても人間と寸分狂いないな。そんな状況で皆を救ってきたエメスに街の冒険者達は涙し、回復魔法を使える者は率先して治療にあたる。

 

「マスター……ショタを、ショタ力が我を付き動かせとそう叫びけり、まだかぶっている皮を我が優しく……ノイズ。どこかに故障が発生しけり、我が死すともおねショタは死せず……」

「よし、ノイズも問題なく走るし、お前さんも無事でよかった。とりあえず修復できるまで横になってろ」


 俺がそうねぎらいの言葉をかけて、エメスを運ばせようとするとエメスは叫ぶ。


「マスター! ショタに、ショタになる約束を! マスター、すぐに今すぐに!」

「いやマジか……お前さん状況を少しは考えたまえよ。ウルスラは沈黙しているけどまだ予断を許す状況じゃねーだろうさ。まだプレアデスも大丈夫かわからねーし、おい起きるなって」

 

 エメスは辛そうに体を引き上げて、立ち上がろうとするのでそのままベットに寝かせようとするが、エメスの自己修復は先ほどまでの大怪我を大分完治させていた。

 不思議に思う俺にエメスはとある万能薬を見せる。そう、オロナインである。

 日本の万能薬はいずれこの異世界でも万能薬として名前が知れ渡りそうだ。

 

 ふとウルスラの移動要塞を見ると、あれも巨大なゴーレム。修復が始まりつつあった。

 そしてあれが完全に修復しきったら列車砲がない今、あれを止める戦力はこの街には存在しない。考えている暇はないだろう。

 あの中でウルスラがどうなっているのか早々に確認しなければならない。


 せめて現状最強戦力であるプレアデスが無事に戻ってきてくれればなと思った時、こいつらはこういう期待だけは裏切らない。小さな脱出用ポットのような物がゆらゆらとノビスの街の前に墜落してくる。

 そこから降り立つは至る所が焦げ、これまたボロボロのプレアデス。

 なんとか俺達のいるギルドまで歩いて戻ってきた。

 

「ははっ、マスターくん。ウルスラの比類なき破壊兵器の力は凄まじかったよ。古代級の魔法防御を突き破り、空中神殿への修復困難になるまでの徹底的な破壊の一撃。流石の唯の装甲もここまでの破損……さて次はどうする?」

「……プレアデス。よく生きて戻ってきた。とりあえずエメスにオロナイン分けてもらえ……ウルスラは沈黙しているから今の内に作戦を考える」


 プレアデスは不敵な笑みを俺に見せて、「多分そろそろ声明が入るね」と。

 ……当然の如くフラグを立てる。

 俺はプレアデスの頑張りにツッコむのはやめた。

 

「……皆さん! お静かに、ウルスラ・ジ・エンドから申し出のようです」


 何かのスイッチが綺麗に入ったように、プレアデスの言った通りだ。

 これを俺の世界の言葉でフラグという。慌てて静粛にというギルドの受付の女の子と違い何故かは俺は冷静になっていく。

 

 巨大マンタ型の移動要塞には拡声器でも付いているのだろうか?

 あるいは魔法の力か?

 

“身共の兵を焼き払い、身共の魂を慰安するこの神殿に大穴を開けた事。シズネの生み出した兵器を使ったのであろう。身共は機械王。神殿の修復が終わるまでは動かずを宣言。数時間の時を持ち、完全修復するまでに降伏を勧める。もし降伏せずにまだ抗うというのであれば……“


 ウルスラの声は姿は分からないが特徴的な可愛らしい声である。

 が機械的。



「抗うというのであれば、跡形もなく周囲一帯を消し去るらしいが、あと数時間……って実際どのくらいよ?」

 

 俺の質問にエメスは分からないジェスチャー、プレアデスが苦笑。

 

「見たところ、あの兵器は唯達の神殿や遺産とはそもそもの出来が違うようだね。四時間と行ったところじゃないかい?」


 ウルスラ・ジ・エンドの声明は定期的に機械的に何度か繰り返されている。段々と皆に焦りが見える。

 

「大魔法はどうしたんだ? 今の内に完膚なきままに破壊してしまえばいいんじゃないか?」

 

 焦りは人の判断を狂わせる。

 その大魔法はウルスラの神殿には通らない。

 それを全員見ていたはずなのに、大魔法に縋る。

 

「みんな待てって、まだ時間は少しだけ残ってるだろ。むしろウルスラが舐めプしている今、作戦の立て直しだって」

 

 俺がそう言う。じゃあどうしろという表情をする連中もいるが。

 少しずつ冷静さを取り戻していく冒険者達。そりゃそうだろう。

 この前きた魔王はギャグみたいな奴だったが、実際の侵略者はウルスラのような話を聞かない奴なのだ。

 さっさとこの街を放棄して王都やらに逃げるか、全滅必死で来るかも分からないファナリル聖教会を待つか……


「ファナリル聖教会の方々はまだ来ないのでしょうか? あるいは……私が乗り込んで機械王なる愚か者に誅を」


 こんな状態の中、一人だけやる気満々のミントさん。

 このぶっ飛んだ回復魔法の使えないプリーストの瞳には絶望の色はない。

 それは……

 

“愚かな北の民に繰り返す。神殿の修復が終わるまでは動かずを宣言。数時間の時を持ち、完全修復するまでに降伏を勧める。もし降伏せずにまだ抗うというのであれば……“


 ウルスラの定期的に寸分くるない声明を聴き心が折れ始めていた冒険者達はミントさんの無謀すぎる言葉を聞いて何故か士気が戻った。


「……どうせやられるならそれもアリだな」


 ぽつりと誰かが言った。アリというのは降伏ではなく、乗り込むという。


「……そういえばマオマオ、お前。ウルスラに直接やりあう切り札があるとか言っていたよな?」

 

 ……グラトニーか……

 俺も今まで忘れていたわ。


「なぁ……マオマオ。勝算はどのくらいあるんだそれ? いや、お前でも一杯一杯だってわかってるけどさ」

 

 ………………。

 さて、どうしたものか。

 はっきり言ってない。

 

 されど、定期的に心を折にくるウルスラの降伏要請を聞いているとやるしかあるまいな。


 俺は群れのボススキルの一つである声かけを発動をする。


「要するにファナリル聖教会が来るまでだろ? 持ち堪えてやろーぜ!」

 

 腕を上げてそういう俺。こういう体育会系のノリは慣れていないし若干恥ずかしいくらいあるな。


「全員、オーダーを伝える。よく聞け!」

 

 さて、作戦と呼べるほどの物ではない。ウルスラの要塞に突入。そして内部からできる限りの破壊工作。

 

 ウルスラのいる場所が見つかった場合は、俺がそこに移動。そして全てのユニオンの権限を一時的に俺に譲渡。そして全員に対してグラトニーをかける。

 できる限りそこでウルスラの足止めをするというものなんだが……

 俺は対面でウルスラと交渉の余地がないかと考えていた。


 突入班は戦士系十数人、魔法使い系十数人。そして俺、エメスにプレアデス。何気にミントさんまでついてくる気らしい。もう止めるかそういう事をしている暇がないので承認した。

 

 他の魔法を使える連中は常時要塞の下から能力向上系の魔法を行う。それを俺のユニオンスキルやら精霊王様の加護で強化する。一応、上級冒険者クラスには能力を向上させられるハズ。スペンスさん達のような冒険者はより強化されるだろう。


 浮遊系の魔法とローブを用いて、大穴を開けた場所から突入部隊がウルスラの神殿へと乗り込んでいく。


「壮観と述べる! マスター。ウルスラの鉄の子宮の中に入り込んでいく人間達。これを一つのアンサーと答える。我らゴーレムと人間達とでは、受精は成り立たない。マスター、成り立たない!」

 

 いや。うん。でしょうね? この状況を見てエメスが何を言い出すのかといえば、当然しょーもない事だった。

 腕を組んでうんうんと頷いているプレアデスの心には何か響いたのだろう。


「お前達、ゴーレムにしか分からないカルチャーの話をされても俺は人間だから全然分からないわ。そんな事より、俺たちも突入。そしてお前達の長姉であるウルスラに一泡吹かせるぞ!」


 俺がエメスとプレアデスにそう言うと二人は案外素直に頷いた。

 エメスに抱えられ、プレアデスと共にウルスラの移動要塞に飛び上がる。

 

 そして他の連中にも魔法通信にてオーダー。

 

「ガルン、ホブさん。ガチで逃げないといけない時は全てのスキルを身体強化にしてアステマやスラちゃん、女性や若い人をメインで退避を率先してくれよ。とりあえずできる事はゴーレム姉妹とやってみる」

「ガルン、アステマ。我は友という物を持てて良かったと宣言したり……」


 いや、いきなり縁起の悪い事をさらっと言うエメスさん。こういう時こそ下ネタを言いなさいよ……

 

 ちなみに俺の知らないところで、ウチの最強戦力ドラクルさんが散歩がてら近くに来ていた。


 当然そんなことは知らない俺達が移動要塞の中に入る。


「回復、回復魔法を頼む……」

「俺の事は置いていけ……マオマオが来たぞ! あいつを守れ!」

「寒い……私は……死ぬの?」


 中に入って俺は軽く絶望的な状況を目の当たりにした。

 

 この中は、侵入者に対して防衛システムどころか、絶対侵入者殺すマンシステムが稼働していた。魔法なのか? レーザーのような雨嵐。

 

 これはやばい、ガチでダメなやつだ……本気でウルスラというゴーレムが冗談を通じない事を物語っている。

 俺たちは負傷者達を集めては回復し、明らかにヤバい状況の人にはオロナインを塗ったら治った。

 どうなってるんだ? 


 ……とりあえず。侵入した部分は安全そうなので、突入班はここで待機してもらうことにした。

 

「マオマオ、すまない。突入して、状況を探ろうとしたらこのざまだ。この移動神殿……伝説級冒険者でも骨が折れるだろう」

「目にも止まらない光に……我らもろともに……魔法防御も意味をなさない」


 ここでついてこられる人は……多分いないだろう。何故かミントさんだけが、無傷で、今から策を考えて俺たちについてこようとしている表情を全力で無視する俺。

 ここはウルスラのところまでいけてから、冒険者達が殲滅されるとか思っていたけど、リアルに考えたら王手をされる前に排除するわな。


 さてと……

 

「ミントさん、ここを重要拠点とします。俺とエメス、プレアデスで少し探索しますので、ここにいる皆さんをお守りください。未来の聖女様」


 有無を言わさすについてこれない状況を作った俺天才。


 ミントさんは聖女と呼ばれ、恥ずかしいやら嬉しいやらでここにいる人たちを守るという程で待機を了承した。

 

 ここからは使える手はエメスの怪力とプレアデスの高速演算。つまらない事を言い出さなければ十分な武器だが……

 

 このど変態ゴーレム姉妹にそういう俺の都合は通じまい。


「ふむ。この狂いなき迎撃システム、当たる面積を減らすことができれば……例えば子供程の大きさになれれば……ちらり」


 心の声までダダ漏れのエメスは要するにショタ化を所望らしい。


 確かに子供になれば当たる面積は減るか?

 いや、あんまり関係ないだろう。

 プレアデスがスキルで攻撃を逸らしながら、それでも当たりそうなのをエメスに身体強化をかけて回避する。


 これはいつまで続くのだろうか? 言うなれば弾幕ゲーである。

 ミリ単位のプレアデスの修正とコンマレベルでのそれに対応するエメスがいなければ即座に俺はミンチになっている。


「ウルスラの攻撃アルゴリズムが変わった……こういう時、熟練の唯を整備するおじ様がいれば……」

「誤差修正はマスターがショタ化すれば全てよし」

 

 本当にウルスラの攻撃アルゴリズムが変わったのだろうか? 実にあやしい会話である。

 

 エメスとプレアデスは阿吽の呼吸、エメスというハードとプレアデスというソフトによるシステムのようにこの要塞神殿を進んでいく。

 

 これは俺の想像を上回る効率性だ。

 

 俺のすべきことはこいつらの能力向上バフを常時かけ続ける事くらいなのだが、もしかすると俺いらなくね? とか考えるのは悲しくなるのでやめておこう。二人はさ……こうして見てれば、頭脳明晰、文武両道なお嬢様って感じなのに……


「可哀想に……頭の方は俺が必ず直してやるからな」

 

 俺の心の声が漏れたところで、プレアデスが俺を見て、不敵に頷いた。どういう反応? なんか全てを分かっているみたいな顔をしているが、多分何も分かっていないだろう。


「マスター、我の頭を無理やり改変し、常時マスターをショタと誤認させる改変とはさすがはマスター、恐れ入った」


 認識を変える魔法的な物でもあるのだろうか? 君のそういう都合のいい解釈には俺こそ恐れ入ったよ。


「プレアデス、妹になんとか言ってやれよ」

「マスター君。唯は、困ってしまうよ。マスター君がナイスミドルに見えるような魔法システムを組もうなんてさ、応援するよ!」


 やっぱりな、お前もか……


「マスター!」

「マスター君!」


 二人の表情が険しくなる。明らかに豪勢な扉を前に二人は止まる。

 そこからは明らかに異常値を示す魔力反応。

 ここの奥におそらく、いるのだろう。機械王ウルスラ・ジ・エンド。

 

 ウルスラが待ち構えているであろう扉、そこが白い煙のような物と共に開かれていく。

 前はまだ見えない。

 エメスとプレアデスが俺を守ように前にたった。そして奥に人影が見えてきた。


 ……こいつらが性癖とかを無視してこういう態度に出るということは先にいる奴が洒落にならないという事だろう。

 

“無礼な来訪者よ。謁見を許可す“


 移動神殿に響くその声はウルスラのそれだった。

 とりあえず礼儀をわきまえずに勝手にこの移動神殿に侵入してきた俺たちにウルスラは入室を許可してくれた。

 ありがたいことだ。


「マスター君、覚悟はいいかい? この先には原初のゴーレムがいるよ」


 プレアデスがいちいち言わなくてもわかる事を言う。

 それは真顔で先を見つめているエメスの代わりに、引き返すなら今しかないと俺に警告しているのかもしれない。

 

 ……中に入るとドイツみたいな軍服ジャケットに、紺のセーラー服調の衣装を着た女性、もといエメス達と同じゴーレム。


 北の魔王が生み出した最初にして唯一の完成形ゴーレム。玉座に座り瞬きもせずに俺たちを見つめている。

 

 見た目の年齢はどのくらいだろう。

 エメスが二十代前半プレアデスが十代前半くらいとして、二人の間くらい見えるか? 十八歳前後くらいに感じる造形だ。


「お前が、北の魔王。シズネ・クロガネが作り出した最初のゴーレム。ウルスラ・ジ・エンドか?」

 

 …………動いた。

 頬杖をつき、俺を見つめる。何も喋らないので俺は続けた。


「いますぐこの意味不明な侵略行為をやめろ! お前は話を聞けば、ここにいるド変態二人と違ってもう少し良識のあるゴーレムだろう?」

 

 俺の言葉に、エメスは何故か喜び、プレアデスは異議申し立てをしているが無視。俺はウルスラが話し出すのを待った。

 

 ウルスラは北の魔王が本当に心底本気で作ったのだろう。

 後継のエメスや、プレアデスよりも恐らく高位の素材をふんだんに使われている。その振る舞い、気高さには、俺が固まりそうになる。


 帽子から伸びるような触れてみたくなるような輝きを放つ黒い髪。

 端正に作り込まれた黒い軍服なのか、制服はこの世界の水準を遥かに超えている。

 そして、ウルスラは玉座に腰掛けたまま詩でも読み上げるように話し出した。


「……。そうか、お前がシズネの後継。犬神猫々。異世界より来れり身共の怨敵か、取るに足らない。身共はシズネを観察し、人間という者の行く末に絶望した。強制平和維持装置などと身共を祭り上げ、シズネは歪みきった。生命としてあるまじき生産性の皆無な同性種による営みを喜び身共に語るに至った。ヤマナシ? オチ無し? 意味なし? 人類は滅びの道を辿るといく通りの演算を持ちても救いはない」


 …………実にやばいなぁ、初めて出会った人間が創造主であり、腐った女子である北の魔王だったわけで、真面目なウルスラはそれを間に受けたと……


「お前を作った奴は本当にポンコツだ! この二人のゴーレムが物語っている! それは間違いない!」

「マスター、あまり褒めるものではない」

「マスター君! 唯は最高頭脳を持った」

「うるせぇ黙れ! きけ、ウルスラ、そんな中。お前さんはどうもそうじゃない。俺たちと一緒に商店街を作らないか?」

 

 どうだ? 一番平和的な解決策だ!

 

 

「身共は海底に沈み、もう二度と人間と関わる事をやめた。シズネが消え、一時的とはいえ、世界の滅びは停止したとアンサーしたが、シズネの考えを継承する新しい北の魔王が生まれた今。身共は人類救済の為にこの身共の陵墓を使う事とした。目的は貴様。犬神猫々の抹殺。世界の滅びを止める事は、身共をしても不可能だが、その時間を遅らせる事くらいはできよう。有象無象たる身共以外のゴーレムをいか程用意したところで無駄である事を知るがいい」


 …………おいちょっと待て!

 

 なんか、ウルスラの認識おかしくないだろうか?


「ウルスラ、いやウルスラさーん! 俺、シズネ・クロガネとは面識もないし、関係ないし、さらに言えばあんなど変態の意思は継いでないですよ?」

 

「機械王の陵墓、聖櫃の間において、対魔王戦用術式展開。対象、ゴーレム二機、及び、犬神猫々。魂すらも残らぬ程に魔素分解。タブー・ザ・ディストラクション、ロック。自動にて照射!」


 …………天井より、無数の銃口のような物に狙われる我々、これは終わった奴じゃないかと思ったが……

 

「力場展開! できる限りジャミングを行う。失敗作、マスター君を、彼が死ぬとオジ様バーテンダーの夢が潰えるからね」

「我に命令するな。枯れ専と宣言す! マスターは我が守る。ショタ化してくれれば、守りやすいと呟く」

「お前らクソだけど、ヒーローっぽいな」


 …………ウルスラは俺たちのなんらかの言葉に反応したのか、攻撃を一瞬停止した。なんだ? 一体何が起きた?

 

「犬神猫々。身共ではない。その二機の下位互換型ゴーレムを英雄と言うのか? それはいかに? 発言を許す。身共の納得のいく回答を答える事を許可する。その後に、現・北の魔王たる犬神猫々及び。二機の下位互換型ゴーレムの処刑および処分を執行する。……いつの日だったか? シズネ・クロガネと英雄について語らった。英雄とはその存在を目視しただけで、人類に希望を与え、そしてその比類なき力は……狂いなく……身共は何を話している?」

 

 …………なんだ? ウルスラ、バグり始めたぞ。


「身共はシズネと袂を別つに至ったのは……他地域の魔王種討伐の時に至る。南の魔王アズリエル。全ての地域の雌種が子を身篭りたいと思わせるその容姿にあろうことか……北の魔王であるはずのシズネ・クロガネはアズリエルの行くところ、行くところに向かい。迎撃するわけでもなく、アズリエルの顔を印字した服を着て、団扇を振り……英雄たらんとある身共の声を聞かず」


 当時の南の魔王はアズリたんではないのか? 名前が似てるし関係者だろうか? しかし、アズリエルさんはかなりのイケメンで、北の魔王はその追っかけをしていたわけか。

 

「そうだ。あの日も、身共の言葉を聞かずに、シズネは南の魔王アズリエルが、精霊王ティターンと戦い、お互いが汗、血を流し闘争している姿を涎に鼻血を流し、当時は身共の主と思っていたが、心底不快極まりないと感じた物だった。毎回のようにシズネがアズリエルの元に向かう故、顔をついには覚えられ、近づいてくるアズリエルに身共は相打ち覚悟で全ての兵装を解除したにもかかわらず……身共は、犬神猫々を抹殺せんがために……地上へと来迎」


 

 いかんいかん、ウルスラの意識がこっちに戻ってきている。


「で? 何があったんだ? その南の魔王をお前さんが倒して英雄にでもなったのか? 北の魔王は?」


「……英雄か、英雄には程遠い。アズリエルはシズネに話しかけ、童女はどんな服が可愛いのかと尋ねた。シズネは、どもりながら、不気味な笑みを浮かべながら、スケッチブックに身共のこの服の色違いを描いてみせ、それを渡した。アズリエルに握手を求め、もう死んでもいいなどと意味不明な事を叫び。こともあろうに、アズリエルの娘、次期魔王の衣装とも知らず……」

 

 あっ、全てを理解した。よく見ると、アズリたんの服と、ウルスラの服。そっくりだわ……


「シズネは、北の魔王。錬金術師王として、最高の男性型ゴーレムのクリエイトを始めた。自らが王種であるという事も、身共を英雄として世界を救うという事も捨て、幾度も幾度も身共とは比べ物にもならない失敗作を量産し……人間である自分の時間が限られている事に気づき、自分のその願望を引き継ぐことができるゴーレム作成に入る。そう、シズネは本来の目的と目標を完全に忘れ、迷走する事となる…………そうだ。身共はそんなシズネを全力で叱咤し、シズネと身共は道を別かつたのだ……そう、そして……身共を構成している物の修復を開始、身共に異物を探知」


 …………ウルスラは目を瞑り、何をぶつぶつと語り出した。


「……再起動を要求。セキュアブート開始。魔法術式確認……神域宝玉による反応、解読及び解除を開始……犬神猫々。現・北の魔王。否、CEOの殺害命令。犬神猫々単独の危険度は★2相当。各地域の魔王種との交友関係から導かれる脅威を演算しても殺害するほどの悪意も被害も確認できず……アンサー。身共を使い、破壊工作を行った者。記憶をサルベージ開始……確認。身共を操った者の名は……」

 

 大体どういう状況かわかった時。

 ウルスラは玉座から立ち上がり俺たちの前で手を出しなんらかの魔法を使った。


 ズキューン! 

 と俺たちのいるところを何かが打ち抜いた。

 この移動神殿を軽々と撃ち抜いた何か。


「怪我はないか? 北のCEO」

「ウルスラ……お前、大丈夫かよ?」

 

 体の一部が削り取られ、それでもウルスラは俺とエメス、プレアデスを守ったらしい。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……なんだこれ……何が起きた?」

 

 明らかに重症のウルスラは直立すると遠くを見る。


 エメスとプレアデスに何かウルスラは指示をして、二人は物凄い真面目に頷いた。

 この移動神殿の魔法防御は並じゃない。同じ北の魔王が作ったエメスのところの列車砲を強化してようやく穴が空いたくらいだ。

 

 そんな移動神殿を軽々を破壊したそれ、もしかするとアズリたん?

 

 そう思ったが、アズリたんなら多分ここまでやってくるだろう。

 どう考えてもウルスラの口封じのようなそれ、薄々誰かは俺も気づいてはいるのだけれど、この威力は一体なんだ?


「シズネが身共よりも最初に錬金術で生み出した物。成長する英雄・カタストロフ……流石の破壊力。身共の構成物質を瞬時に3割ほど消滅させた」


 第三勢力、いや……ウルスラを用済みと判断したんだろう。

 

「CEO、犬神猫々。身共はもう時期この存在を消失させる。英雄として生み出された身共が……すまない。せめてここからの脱出をと演算した」

「まぁ、マスター君を生かすためなら仕方がない」

「右に同じと宣言せり」

 

 おいおい、クールじゃないな。こいつら、その演算とやらで何を割り出した? 俺一人生かす為に女の子3人死ぬってか? カタストロフとやらがどんな物か知らんけど……

 

 馬鹿にしてるのか?


「くっだらねー作戦を勝手にたててんじゃねぇよ」

「と、言ってもだね。マスター君。ウルスラの演算機能は唯達とは比べ物にもならない」

「ウルスラのフィードバックにより、プレアデスの高速演算と我の高速移動にてマスターを安全なところまで運ぶ事を決定したり! 虚の森まではマスターをなんとしても我、責任を持ち」


 ほら、くだらねぇオーダーだ。所詮はゴーレム共だ。

 

 とはいえ、どこから狙ってきているのか、謎の攻撃はウルスラ曰く、十五分後には再度放たれるらしい。俺がまずやるべき事。この移動神殿にいる冒険者達への退避連絡。


 ユニオンスキル・群れのボス。からの精霊王様のスキルを併用してユニオンとしてつながっているみんなに報告。


「全員につぐ、敵首魁ウルスラの無効化に成功しました。ただし何者かにこの移動神殿が狙われています。できる限り早く迅速に、退避してください!」

 

 俺の報告を聞いて神殿の奥から歓声が上がる。この戦いの終わりを告げるそれと共に脱出も開始されただろう。

 俺たちが他の冒険者と合流すればみんなが危険になる。

 

 狙撃してきた相手はそういう心理を読んでいるのだろう。

 もう間違いない。これは多分、セリュー・アナスタシア。地球のテロリストの仕業だろう。

 ここで一番強かろうウルスラは瀕死の状態で、プレアデスとエメスもここで果てる覚悟をしてやがる。

 雇用主としては、従業員の安全の保証は俺がするもんだ。


「エメス。それにプレアデス。今からオーダーを伝える。ウルスラを連れて虚の森まで逃げるぞ!」

「猫々。それはできない命令だ。シズネの管理下から外れたとはいえ、身共は命令系統を決定できる。そして二機ともそれに承諾した」


 クッソ。エメスやプレアデスなら、こいつらの性癖をくすぐれば大体言う事聞かせられるのに、こいつはどうしてこうも完璧に機械なんだ……。

 

「……なら、シズネ。北の魔王の後継者である俺は、唯一お前に命令できる存在だろうが! 言う事を聞け、ウルスラ!」


 俺の言ってた言葉を機械的に拒否するか、了承するか?


「……お前はいい子だな。だが、もう次の攻撃がくる」


 どうして……そんな困ったような。人間みたいな反応をここでするんだよ。


「宇宙のプレアデス。演算開始、地上のエメス。猫々を」

「「了解」」


 3人はかっこよかった。

 もう俺はこいつらを助けられないのか?

 赤い光が遠くから見える。これはもう俺も助からないんじゃないか?

 

「くっ……予想よりも早かったか……なんだ? この魔素量……」


 そんなウルスラの言葉を聞いたような気がした。

 凄まじい音なのか……振動なのかで…………段々と。

 俺の意識は……保っていられなくなっていた……

 

「まさか……ドラゴン種までお前達は傘下に入れていたのか……この猫々なら、或いは……な」



 俺が目を覚ました時、半壊した移動神殿の中。

 ホブさんとスラちゃんがこの戦いに参戦した事で、世話役の二人がいない為、ドラクルさんが散歩がてらやってきた。

 

「目覚めたか、主上。お前が死ねば巫女が泣く。故、邪魔をした」


 ドラクルさんは、どうやらドラゴン化してカタストロフの砲撃に対抗したらしい。

 そのドラクルさんのドラゴンブレス的な一撃は砲撃に勝った。

 今現在、カタストロフの反応は無く、破壊或いは沈黙したとの事。

 ゆっくりと意識が戻ってきた俺の前にはエメスとプレアデス、ドラクルさん。


 俺は見上げるとそこには俺たちが止めに来たウルスラの顔が見えた。


「まだ起き上がらない方がいい。間近で瘴気にも近い魔素を受けたのだ」


 ウルスラの膝枕は柔らかく、そして驚く事に暖かかった。


「……ウルスラ。お前の方こそどうなんだよ?」


 こいつ、こんなことをしていられる状態じゃないハズだ。


「ふむ。カタストロフは素晴らしい破壊力だった。身共の修復機構を完全に削り取り、反撃の手段を一瞬にして封じてみせた。が、この竜王種の出現により、これ以上の被害を抑える事ができた。礼を言うぞ」

「礼を言われる筋合いはない。その顔から、主上に話す事があろう?」


 ドラクルさんの言葉に、ウルスラは優しい微笑みを見せた。

 

「少し語らうことを許せ。現・北のCEO犬神猫々。身共はシズネがなれない英雄。ヒーローなる物を目指して生み出された。が、シズネは熱しやすく冷めやすい。そこが良いところであり、悪いところでもある」

「……いや、お前さんの後のを見ていると悪いところしか見えないけどな」


 俺のその反論にもウルスラは、微笑んでみせる。

 あっ、ちょっと俺くらっと来そう。今までまともな女がいなかったからかな?

 ウルスラはヒーローになりたかったのだと教えてくれた。


 それなりに良い歳である俺から言わせてもらってもウルスラはメインヒロインじゃねぇか……


 彼女は、今までずっとシズネ・クロガネ。北の魔王のことを気にかけていたのだと語った。

 様々な事に首を突っ込み、そして失敗して泣き喚くシズネ・クロガネといた頃が心から楽しかったと。


 希少金属を錬金術で増やして市場を混乱させた時の夜逃げ。

 武器商人をして戦争をしている二つの国にそれぞれを伝説級の武器を法外な値段で売りつけた事。

 いや、シズネ・クロガネ。ろくな事してないな……


「猫々。お前もシズネも魔物にも優しい子だ。身共の力程度でよければ貸してやりたくもあったが、もうそろそろ別れの時が近づいている。代わりに出来の悪い妹達のことをよろしく頼む。そして身共を止めてくれてありがとう」


 ……こりゃいかん。この世界で、誰よりも助けたい。

 

 ……そうだ。オロナイン


「エメス、プレアデス。オロナイン」


 虎の子の万能薬であるオロナインをウルスラのダメージを受けたところにヌルが……


「……なんで、治らない」


 俺よりも見た目年下なのに、ウルスラは俺の頭を撫でる。

 

 ちくしょう。泣きそうだ。もう良いってことなんだろう?


「身共を構成している物は並大抵の素材ではない。もう良いんだ」

「でも……」


 俺は自分の声が裏返っているのがわかる。それにウルスラの瞳がゆっくりと閉じられていく。


「これを最後に渡しておこう。シズネの記憶が記録されている物だ。お前達のこれからに何か役に立つこともあるかもしれない。持っていけ」


 俺はそれを受け取り、それを渡したウルスラは役目を終えたかのように動かなくなった。

 彼女は、シズネ・クロガネのところに行ったのかもしれない。

 

「これ、北の魔王の記憶って言われてたな……」

「マスター、地面に叩きつけて閲覧をする物なり!」

 

 そうエメスが言うので俺は防犯用のカラーボールよろしく地面に叩きつけた。するともわもわと煙。

 そこには歌劇団にでもいそうな男装のどえらい美人がタキシード姿で現れた。これが……シズネ・クロガネ。

 

 …………

 …………

 とは俺は絶対思わない。


“これを見る者がいたという事はウルスラ壊れちゃったようだネ? ふふっ、かわいそうにウルスラぁ〜! キミは キミは 姑のよぅに!(エコー)。いつも(いつも)。僕を(に)いーけーん。するぅー!♪“


 一度歌って礼をしたシズネ(仮)。この時、歌劇にハマっていたんだろう。


“ちなみにこの姿に憧れと性癖を剥き出しにしている子猫ちゃん。この僕の姿は仮の姿なんだ。ハハッ! すまなかったね! 話を戻そう。多分、これを見ているということはウルスラが機能停止をしたんだろう。再起動させる事は可能だよ。彼女の心臓部であるブラックダイアモンド、これは偽物さ、彼女のボディに本物を載せ替えをすればいいのさ……本物のブラックダイヤモンドの場所は……おっと、開演のようだ! これにてごめん“

 

 一番必要なことを言わずに、シズネ・クロガネはクソみたいな歌を歌いながら消えていった。


「とりあえず。エメス。プレアデス。お前達の姉ちゃん。ウルスラに関しては再起動を最重要事項にして、商店街作りをしながら情報を集めていく事にする。あとほとぼりが冷めるまで、この件は俺たちだけの秘密だ。プレアデスの研究室にとりあえずウルスラの体は保管しておいてくれよ」


 流石に二人にとっても恐るべきなのか、尊敬すべきなのか、最初のゴーレムウルスラの事になると静かに頷いた。

 

 ………………しかしだ。

 

「ふむふむ。マスターの趣味嗜好性癖は、原初のウルスラにあると我、しったり。今度、同じ服を服屋に仕立てる依頼を希望」

 

 エメスの言葉を聞いて、プレアデスもウルスラが動かないのを良いことに調子を取り戻した。

 

「さて……マスターくん。約束は守ってもらうからね? 件の」

「あーうん。オッサンのバーテンだろ? うん、あてがあるから、とりあえず二人ともウルスラ運んで」



 果たして、ウルスラを再起動させることが彼女にとって幸せなのかは分からないけど、俺は少しばかり……彼女にもう一度会いたかったのだ。

 

 だって、ようやく出会えたまともなヒロインだったから……

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