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小さな田舎のマジな感じの最終戦争・中編

 刻限


 北の海岸より巨大な船、いや要塞は上陸を終え、数千の同じ姿をしたゴーレムと共に王都ではなく、何故かノビスの街に進軍を開始した。

 

 何故、こんなところに制圧に来るのか……それは多分……俺がいるからだろうか? にしてもおかしくね? なんでこのタイミングでやってきたのか検討がつかない。

 

「海岸より浮上したウルスラの移動要塞は周囲の魔物達を殲滅しながらこちらに向かってきています!」

 

 さて魔法使い達による水晶から映し出される映像は、巨大戦車と歩兵。

 ドイツっぽい軍服なのはきっと北の魔王の趣味なんだろう。

 

「青年型の同一個体ゴーレム、推定二千、危険度は★3相当と思われます」


 ★3相当であればここの冒険者でもなんとか戦えるレベルなのだが、それが二千体。流石に数の暴力には敵わない。

 かくいう俺たちも大王ミツバチで経験済みだ。


「この近隣に来るまでに少しでもウルスラの勢力を減らすためにタンクが可能な戦士と広域攻撃系魔法を使える魔法使いによる地上戦……いいえ、決死隊を募集したいと思います……おそらく生存は難しい役回りになるでしょう」


 誰もがそんな役回り進んでいくはずがないのに……


「まぁ、そう言うのはこの年寄り連中達じゃろうな」


 年配冒険者達は、当たり前のように出陣する準備を始める。それに俺が多分難色を示したのだろう。


「マオマオよ。ワシらはただやられにいくわけじゃない。長年冒険者をしてきたんじゃ。少しは奴らに痛い思いをさせるて、だから、この街の為に頼んだぞ!」

 

 ちょっと待てよ……そういう責任は重すぎてしんどいんですけど!

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 何か、何か少し考えますから! 早まらないで!」

 

 とはいうものの、★3相当と言えば、ガルン、アステマ、エメスに匹敵する魔物が二千体。ちなみにガルン達と違ってビビることもない。そんな魔物の軍勢をどうにかできるのはチート持ちくらいだろう。

 

 今のところ、広域魔法を放てる魔法士しか打つ手なし。

 さらに広域魔法といえど、この街にいる魔法使いの扱う魔法はアステマやフェイのエロ姉ちゃんでも一度に十から二十程度だ。

 

 多勢に無勢で、やられることを気にせずに突っ込んでこられた場合。決死隊が討伐できる数は百から百五十程度だろう。

 十分の一も討伐できないとか、ほとんど焼け石に水なのだ。

 というか、決死隊。無駄死ににしかならない。どうにかして止めないといけないのだが……

 俺の手持ちのスキルを色々組み合わせて想定してみるが無理だ。


 現在相談できる相手がいるとすれば……無理無理言うプレアデス、そして相談したところで、下ネタしか返してこないど変態ゴーレム姉妹しかいないわけだ。マジで役に立たないなこいつら……


 ドラクルさんに頼んで、空中から絨毯爆撃でもしてもらってはどうだろうか? 

 というか、これ名案じゃね?

 

 そんなことを考えていた俺の腕をツンツンと突く、エメス。どうせショタになれだの、くだらない下ネタをぶっ込んでくるに違いない。

 されど、エメスはしつこかった。

 ツンツン、ツンツン……なんだよほんとに。

 

「エメス、今は……」

 

 エメスはあらぬ方向に指をさす。何を意味しているのか? 意味なんてどうせないだろうと思っていたのだが……

 

「我の封じられた神殿。その列車砲の使用を提案す!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「そ、そうだ! 近所にスライムやら、ゴブリンやらがいっぱいイタナー! 相談してミヨウカナー」

 

 俺はそんな棒読みのセリフというフラグを立てて、スラちゃんとホブさんの助力要請をお願い。キロカさんに一走りお願いすることにした。そしてもう一つの準備。

 記憶の片隅すらからも消去していたけれど、エメスが眠っていた場所にありましたわ……


 列車砲。


 俺はそんな北の魔王の置き土産の話を皆にした。

 

「それは誠ですか?」

「北の魔王の兵器には同じく北の魔法の兵器か!」

「それでは、その北の魔王の古代兵器の持ち出し班を選出します」

「マオマオ、お前本当に北の魔王の後継者なんじゃねーか!」


 無闇に希望を持たせるのは不本意ではあるが……


 先ほどの無意味な特攻作戦で命を落とされるよりマシだ。

 エメスと共に封じられていた列車砲、まともに動くんだろうな?

 

「エメス、お前と一緒にあったあの列車砲ってメンテナンス的な部分とか大丈夫なのか? 持ってきたは良いけど使えない的な感じだと目も当てられないくらいには盛り上がっていますけど……」

 

 俺の言葉にエメスは腕を組んで頷いた。

 

「マスター、それは愚問であると回答す。我と共にあったあの強烈に太くて硬い代物は我らと同じゴーレム精製技術を作って生み出された破壊兵器なり。すなわち、あの太くて硬い代物が機能不全に陥る事は皆無と胸をはり回答す。あの太くて硬い代物から勢いよく放たれる瞬間を見ているとすくような気持ちになり、もれなくウルスラが用意した無数の兵を放射物まみれにし、その足を、戦力をそぐ事はこの上ない。きっとあの砲撃を見た時、マスターもまた無性に発射したくなると確信し、マスターの下半身の列車……思考にノイズが……」


 せっかく感心してたのに下ネタに走りやがって。


「要するに、なぜかその列車砲に詳しいエメス曰く、実践使用は可能ならしいので、とにかく早く運び出して、ウルスラに備えましょう。籠城戦をするにしても初動が大事です」

 

 とりあえず面倒な質問攻めに合う前にここにいる連中を動かす事に頭を使う。

 先ほどから滅茶苦茶いじけているプレアデスにも声をかける。

 

「おい、プレアデス。エメスのところにあった物が使えるんだから、お前の空中神殿にも何か使える物ないのか?」


 体育座りで、俯いていたプレアデス。なんだろう。捨てられた子猫のようなプレアデスは俺を見上げる。

 そして、自分が頼られている事をゆっくりと理解し、パァアアっと笑顔が広がる。面倒なゴーレムだなぁ。

 

「そうだね! マスターくん。唯の空中神殿にはそこの失敗作とは違い迎撃系の兵器は積んではいない。だけれど、元々唯は北の魔王の依代になるハズだった存在だよ。あそこは、北の魔王。シズネ・クロガネの小さな工房と言っても過言ではない。ウルスラの戦術計算に対して魔導電子戦を仕掛けて演算を遅らせるくらいは造作もない!」

 

 勝てる! とは言わないところがそういう相手なんだろう。


「……しかし、電子戦か、考えてもなかったな。お前たちを作った北の魔王はどうしょうもない腐った頭を持った奴だが、天才である事には違いない。エメスになんとかぶちこんだ制限フィルター、使えるかもしれないからお前の空中神殿にあるスパコンで使ってみてくれ」

 

 俺が小さな端末を投げるのでそれをキャッチするとプレアデスは頷く。

 俺の作ったプログラムなんてこいつらを構成する物からすれば玩具みたいなもんかもしれないが……

 

 一応、同じ製造者が作ったエメスには適用させれているし、まぁ時々突破してくるけど……

 コンマ一秒を争うときの気休め程度にはなってくれるかもしれない。そして、現地ではなく遠隔地から戦う方が俺もあってる。


 こうして、ノビスの街籠城戦は、先制攻撃の列車砲。そして、空中神殿からのジャミングによる妨害行動を起こし、進軍速度を落とすという計画に変わる。

 

 そしてファナリル聖教会の大軍勢がやってくるまでの時間稼ぎに、冒険者達の総戦力、そして俺達の拠点にいる。優秀なスライムとゴブリン達による地上戦。

 

 それらの準備が早々に進められ、ウルスラを迎え撃つ事になる。

 念には念を入れて、ノビスの街、ウルスラの進行方向側に、何重にも魔法障壁を張り巡らされる。


「相手は★3相当の魔物の軍勢、そしてその首魁は王種である。この戦いはどれだけノビスの街に被害を残さないかを念頭におき、ファナリル聖教会の聖女王に敵首魁を討ってもらう事にある。その為、魔法も武器も出し惜しみは不要。攻守魔と3人1組でチームを作り、これに当たって欲しい。この街の最上級魔法使い達はユニオンスキルで強化した大魔法の手伝いに、期待はできないが魔物達もこの戦いに参戦すると申し出くれたと吉報が入った。ゴブリンとスライムは敵にあらず! 繰り返す、ゴブリンとスライムは敵にあらず! 作戦は只今より開始する!」

 

 第二回ノビスの街、魔王襲来、長い三十六時間が始まった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 北の王都とやらは、この街の一般人の受け入れはしたものの、兵隊を出したりとそういう協力はしないらしい。

 小さな町とはいえ、自国の領土に侵入者がいるのに……とはいえない。北の魔王がいない今、北は武力という意味では最弱なのだ。

 俺がその後継である事は他の王種をみていると抑止力にすらなりえない。

 

 ウルスラ・ジ・エンドは俺たちの準備を察知したらしく、二度目の忠告をしてきた。


“愚かすぎる人間達よ。静かに従っていれば良いものを……あくまで抗うのであれば……死・ぬ・が・い・い!“


 空中神殿に戻ったプレアデスは魔法水晶なんかとは比べ物にならないスパコンで位置やら戦力演算に入った。

 それを俺のスマホにフィードバックする。

 

「みなさん! ウルスラ達の正確な位置をプレアデスが捉えました。列車砲への魔法力充填を開始してください。エメス、プレアデスから来た位置でウルスラ達へのロックオン開始だ! いつでも撃てるように準備をしておけよ。初撃は流石にウルスラでも読めないだろ」


 俺はノビスの街にある高台より双眼鏡で虚の森周辺を確認。10キロ程離れたところにしかけた魔法障壁、そしてその5キロ前で冒険者とホブゴブリン達による壁。

 その先にはファイター系の冒険者とゴブリン。

 彼らが守る後ろには魔法使いとゴブリンマジシャン、そしてスライム達による一斉魔法攻撃の準備が行われている。

 

 当然、スラちゃんとホブさんが各々の魔物を指揮して。


「……ご主人! ボクは何をしたら良いのだ? アステマはあっちで魔法の力を貯めているのだ。ボクは役回りがないのだっ!」

「ガルンは飯食って待機。必要な時の為に体力温存」

 

 そう言って俺はガルンにベコポンとパンにチーズを渡すと、ガルンは尻尾を振ってそれを受け取る。

 

「ご主人! 食べることもまた戦いなのだなっ! ボクは良い子なので、ご主人の言う事に従うのだぞっ! ご主人、あれ! 仕事前にお酒、飲んでいいのか?」

 

 戦闘前だというのに、すでにワインやビールを飲んでいる冒険者達。

 それは飲んでないとやってられないという空気ではなく、覚悟を決めた冒険者達の最後の一杯、ある種の儀式なんだろう。

 

 貴重な氷をふんだんに使って、焼きワインに舌鼓を打つ者もいる。


「ご主人、ボクにもわかるのだっ! あれはみんな、もう一度ここにいる人達で一緒に美味しいものを食べて、美味しいお酒を飲みたいから、その願掛けみたいなものなのだ! ここのギルドのご飯は美味しいのだ! それに、ここにいるみんなは人間なのに優しくて……ボクは好きなのだ! だから、僕もたくさん食べて準備をするのだっ!」

「ガルン、お前さんもそれなりに成長したんだな。じゃあ、俺も一杯何かもらってこようかな。とりあえずはここより美味い酒を作る事が目標だからな」


 俺も焼きワインをもらってきて、それをストレートで舐めるようにやる。


「……ご主人、美味しいのか?」

 

 こういう場所で飲む酒、昔は苦手だったな。

 基本的に俺は一人で仕事をしてきて、一人で酒を楽しんでたんだよな。気がつけば大世帯。

 部活の体育会系のノリが苦手だった。楽しくもないのに笑っている社畜をみていると、俺は団体行動は不可能だと確信した。

 強制的とはいえ異世界にやってきて、最初は嫌々関わったモン娘達やギルドだったけど、気がつけば顔馴染み、面倒臭い奴ばっかりだ。

 

 だけどさ……

 

「美味いよ。ここで飲む酒は本当に美味い。まぁ、ここの街の人たちにも俺たちが作るもっと美味い酒を飲んでもらわないとな」


 俺がそう言って焼きワインをぐっと飲み干すとガルンの頭を撫でる。


「……きゅう……頑張るのだぁ!」

 

 ガルンがめちゃくちゃやる気を出した。


「よし、じゃあガルン。少し昼寝しとけ、とりあえず少しでも休息は大事だ」


 ガルン以外も横になる冒険者達が多くいた。早めに食べて、早めに休む。戻ってきた他の冒険者と交代で休憩と監視をローテする。


「わかったのだ! 全力でお昼寝をするのだ! ご主人も一緒に寝るのだっ!」

「おいおい、まぁいいか。じゃあ少し昼寝するか、あとでアステマやスラちゃんやホブさん達と交代だな? ってもう寝てるし……すげぇなのび太君かよ」


 遠くでアステマの文句が聞こえる。


「ちょっと、これどれだけ魔法力を吸うつもりなのかしら? この私の魔法力なら余裕なんですけど……他の魔法使いが困ってるんじゃないの?」

「あらぁ、アステマちゃあん。私はまだまだ、問題ないけれど、もう疲れちゃったのかしらぁ? まだまだねぇ……ふふふ」

 

 大呪文構成の為の魔法力充填で、強力な魔法使い達が肩で息をしながら準備を進めていた。

 ホブさん達、スラちゃん達も戦闘準備が整った事を俺に伝令役の小さなスライムが報告にやってきた。


 同時にエメスとプレアデスからも広域先制攻撃の準備が整いつつある事を、魔法による通信で報告が入った。正直、現状での切り札といってもいい北の魔王。シズネ・クロガネの遺産である二人の兵器も順調だ。敵のゴーレムを五百体くらいにまで減らす事がミッションだ。


 ギルドのお姉さん達は拡声用の魔法アイテムを使って全体通信を入れる。

 

「前方、距離40キロのところに、ウルスラと思われる敵影、移動型の要塞とともに確認できました。皆さん。配置についてください。本格的に緊急クエスト開始となります! 繰り返します」



 俺たちの肉眼でも遠くにそれらは見えた。大きさからして中規模の街。

 

 隊列を乱す事なく、行進するゴーレム。

 そして、俺は強烈な視線とプレッシャーを感じた。


「あれと戦うのか?」


 誰もが思っている事を誰かが声に出した。


 そりゃそうだろう。

 エメスの神殿や、下手すればプレアデスの空中神殿より遥かにデカい移動要塞だ。

 アプリは今すぐにここからの退避を示唆している。

 もしかすると……だが、アズリたん達がいても厳しくないか?

 

「なぁ、あれ? どうやって止めるんだ? 作戦意味あるのか?」

 

 俺も、ここにいる全員がそう思っただろうな。


“マスターくん。失敗作に位置情報をコンバートしたので、一撃目いくよ!“

 

 俺たちの希望といっても過言ではない。列車砲の一撃が放たれた。

 列車砲の一撃は以前、アズリたんに放たれたギルドユニオンの魔法を遥かに超える威力だった。

 ウルスラの勢力、その最前列のゴーレム達を薙ぎ払った。

 続いて、この街の強い魔法使い達を集めてギルドユニオンにて作り出されたド級の魔法も完成する。

 そしてダメ押しの俺や他ユニオンリーダーの強化魔法を重ねていく。その魔法を等間隔に集められた魔法使いたちにバトンリレーをするようにさらに強化を重ね、スラちゃん達やより近い魔法士がいるところからそれは放たれる。

 

「「「プルトン・ジハード」」」


 これは凄いぞ。眩く、青い光を放つ稲妻なんだろうか? そんな見たこともない魔法。伝説級の威力を持つ魔法をこんな小さな街の冒険者達が放った。

 俺はユニオンという力の凄さを再認識する。人が集まれば、圧倒的な絶望的戦力差をひっくり返す事が可能なんだろう。

 じゃなきゃ、人類滅ぶだろうし……

 

「報告! 的戦力、半数以上を吹き飛ばしました」

 

 歓声が上がる。が、ウルスラの移動要塞は健在である。


 再び、エメス達の列車砲の発射準備が開始され、続いて、ユニオンの大魔法。

 実にコンビネーションは出来上がっている。並のクエストだと非の打ち所がない状況だろう。

 だが、あくまで止めなければならないのはウルスラとその移動要塞である。

 皆、俺のグラトニースキルに殆どの希望を託しているのだろう。

 

 というか、リアルにあれを見ると、考える事をやめるのかもしれない。

 あれは、俺がグラトニーであの時の金の鎖の聖女とやり合った姿でも無理じゃね?

 そもそも俺は勝利するとか、敵を完全に滅ぼすとか、そういうのではなく、両者痛み分けとか、臭いものには蓋をしてクローズしたいのだ。

 

 こういう時にこそ、アズリたん。遊びに来いよマジで……

 ウルスラ達が20キロ地点にまで到達した時、仕掛けていた罠が発動する。

 

 ウルスラの移動要塞の全貌が見えてきた。巨大なマンタの形をしているらしい。そしてそれは地面から少し浮き、宙を泳いでいるようだ。大陸で繋がっているからだろうが、周辺で海軍力は聞かない。

 

 地上砲台の列車砲と、空中からの妨害装置。

 

 現在、海軍対陸空の戦力で一戦交えているわけだが、ウルスラからの報復攻撃はまだ行われていない。いや、ゆっくりとだが、ウルスラ達に動きがある。


“マスターくん、ウルスラの移動要塞から凄まじい熱量だ。何か来るぞ!“

 

 プレアデスの言葉に対して俺は当然妨害行動を指示する。同時に、大魔法の二射目が放たれる。

 

「「「プルトン・ジハード」」」


 今回はアステマが発射役をしているのか、無意味な決めポーズが痛々しい。

 されど、この魔法の威力は折り紙付きだ。今回はウルスラの巨大要塞への直撃コースである。プレアデスの妨害も効いている。


 俺たちだってこの魔法で倒せるとは思ってはいない。足止め程度にもならないだろう……だが……しかし。

 

「嘘だろ……」


 ノビスの街、ギルドユニオンの最大火力はウルスラの要塞に確かに直撃した。そしてその魔法はそのままいとも簡単に散らされて消えた。散らされた魔法で周囲にいたゴーレム達を少しばかり倒した事くらいは救いだろうか?


 実は俺はこの状況はある程度想像していたりする。問題はそこよりも、想像以上にダメージが通らなかったことで心が折れた冒険者達だ。

 

 この状況でできる事は一つ。

 エメス達、列車砲班である。あの威力なら流石に傷くらいは入るだろう。

 俺は発射準備が整ったであろうエメスにプレアデスと通して指示。

 できる限り、簡潔にエメスを最速最強に動かせる魔法の言葉。

 

「エメス、あの兵器に穴を開けたら、一ヶ月子供の姿になってやる!」

 

 それだけじゃ、通信士であるジャミング担当の士気が上がらない。

 

「プレアデス。前に言っていた酒場のバーマスター。一人アテがあるんだ。酒造りをしているらしいところでその手伝いをしている人物がナイスミドルな年齢らしい。引き抜くぞ!」

 

“……マスターくん。唯もあの失敗作の妹もマスターの刃、いや牙だよ! その言葉を待っていた。ウルスラに一泡吹かせようじゃないか、ふひゃっ!“

 

 なんか声が裏返っているプレアデスは攻撃担当であるエメスに、俺の言葉を曲げる事なく伝えたのだろう。列車砲あたりの魔力値が跳ね上がった。


 

 ウルスラの巨大移動要塞であるマンタは大きな口を開ける。迎撃システムか何かだろうか?

 

 そのウルスラの巨大移動要塞、そしてゴーレム達の周囲に幾度も幾何学的な魔法陣が現れる。ウルスラの移動要塞のマンタが放とうとした強烈な光を屈折し、何重にもなって重なっている魔法陣の元へとそのエネルギーは集められた。


 それは俺でもわかる。巨大移動要塞とエメスの列車砲の射線上のど真ん中にある。これを列車砲で撃ち抜けばいいのだろう。

 

 そして列車砲から最強最大の一撃がそこに叩き込まれる。

 

“やはり、シズネのゴーレム兵器か……身共の軍門にくだらないとは、愚かの極み、土塊に戻るがいい。ジィ・エンドぉ!“

 

 巨大移動要塞であるマンタは超強化された列車砲の一撃で胴体に大きな穴を開けられながら、地上と、空中に眩い光線を二度吐いた。

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