表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/95

百合の花が目の前で咲いた時、どうすればいいのか?

 どうした物か……俺は考え困り果てていた。

 

 プレアデスの神殿から色々パクってきた装飾品を並べてみると、カジノというか、なんかホストクラブ的な何かが出来上がった。

 

 そこで、給仕のロールプレイングをと。

 一旦休憩を入れ、俺は一人で店内の片付けをしようかと誰もいないハズのカジノになる予定の店内。


 ウチの従業員の二人が、見つめ合い抱き合っている。

 とても気まずい場面だ。いや、まぁね。仲良くするのはいい事だろうと思うし……

 顔を背ける相手にもう一人が顎クイ、空いている手は背中ら尻に伸び。

[491658456/1642113690.jpg]

「アステマだめなのだ……ご主人のがいいのだぁ……」

「ガルン、そんな抵抗無駄だってわかってるでしょ? 主にはあとで言っておくから、言う事を聞きなさい」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「今日はゴーレムのど変態姉妹が蜂蜜取りに出かけている。戻ってきたら俺たちは試作の蜂蜜ビールや蜂蜜ドリンクを作る準備をする」

 

 俺、ガルンはこの世界の大王ミツバチに大きなトラウマを持っている。かたや、痛覚の存在しないエメスとプレアデスには狩猟対象として相性がいい。


 ……街に行く。

 すると喜ぶのこの二人だ。

 

「全く、主は買い物に行くって言うならさっさと言いなさいよ! 新しい服新調したんだから! 少し待ってなさい! 準備してくるわ」

 

 今月の給料はとうに使い終わったアステマ。

 そして、涎を垂らして俺の横に鎮座するガルン。

 

「ご主人! シェフのシェフのお店に新しいメニューが増えたのだ! 後ギルドのレストランも! これは“しぢょうちょうさ“が必要なのだ!」


 俺が枢木さんにも手伝ってもらって伝えたレシピである。わざわざ調査する必要もない。

 ガルンも給料を使い果たしたのだ。

 

「ガルン。それは経費では落ちない奴だから、もうお前さんの給料はないんだろ? なら我慢してエルミラシルのカケラ、物凄い増えるワカメでも食べて腹を満たしなさい。この前スラちゃんに怒られた通り、俺は厳しく行くことにします! ちゃんと支払っている給料の内でやりくりできないと、今後大変になるぞ。世の中のお父さんはお前達より遥かに安いお小遣いで一ヶ月頑張ってんだ」

「世の中のお父さん可哀想なのだ! ……ひらいめていたのだ! ボクの給料を増やせばいいのだ! 世の中のお父さんもお小遣いも増えるのだ」

 

 小一時間その意味不明な理論について聞いてやっても構わないが、俺は中身の伴わない会話はしない。

 

 そんな話をしている中でもガルンはシェフが試作で作り、大いに売上げているチキンライスコロッケをパクパクと食べている。

 中のチーズがいい具合にとろけて俺も一つ食べたが、確かに美味い。シェフは作り方さえ教えれば独自の技術でどんどん料理を進化させていく。俺の収入の多くはシェフと言っても過言ではない。


 しかし育ち盛りなのかガルンはよく食べる。

 ぱくぱくもぐもぐと……

 太らないのは食べる事と同じくらいガルンは走り回るのが好きだ。休みの日はノビスの街の子供達とよく遊んでいる。

 五十個程あったライスコロッケをこいつほとんど一人で食っちまった。


「ご主人うまいのだ! これはこの商店街でのめだまショウヒンになるのだ! ボクが保証するのだ! 次はパンを食べるのだ!」

「……お前さん、まだ食うのか? フードファイターにでも転職したらどうだろう」

「それはなんなのだ? ボクはコポルトガールから早くウルフェンになりたいのだ!」


 個人的には食料を無駄に消費する大食いを生業にする連中には共感は持てないが、食費代わりに食べて稼いでくれたらなとか俺はくだらない事を考えていた。

 ガルンはバターとチーズをべったり塗ったパンを幸せそうにほうばる。

 

「そういえば、シャンプーを新しく作るようになってからお前さんの獣臭は日中殆ど消す事ができるようになったけど、お前。ちゃんと歯磨きはしてるのか? 最近忙しくて言いつけるの忘れてたけどさ……」

 

 ガルンはわりかし3人のモン娘の中では素直だが、こと人間習慣に関しては他2人よりサボりがちだ。

 

「ボクは今まで歯を磨いたことなんてなかったのだ! それでも何も起こらなかったのだ! ほら、ボクの歯はピカピカなのだ!」

「……いや、ちゃんと磨けよ。虫歯になるぞ」

 

 ガルン達モンスターは歯を磨く習慣なんてない。

 確かにそうだ。

 だが、俺と出会い、文明と人間文化に触れたことでその環境は変わった。

 人間が食べるものを好んで食べる動物は虫歯になりやすい。


「もし、虫歯になったら苦い薬と痛い治療だからな!」

 

 俺が脅すようにガルンに言うがガルンはパンをペロリと食べ終わり笑う。

 

「ご主人! 心配しすぎなのだ! ボクは絶対。ぜぇったい虫歯なんて物には負けないのだ!」

 

 絶対フラグを立てたと俺は思うのだけれど……

 ガルンがそう言うならそれ以上はもう何もいうまい。

 

「待たせたわね! 二人とも、行きましょう! 主、あのね? 私お願いがあるの!」

 

 謝罪することはできないくせに金の無心をする事だけを覚えたお前はパパ活でもしたらどうだろうか?

 

「……あぁ、却下な。どうせ服とか買う金を無期限で貸せとか言うだろ?」

「……主、スキルで私の心を読むのはずるいわよ!」

「そんなスキル持ってねーよ! そして使わなくてもわかるわ」

 

 ……二人のそれなりに可愛い女子に両手を引っ張られ、やれ甘い菓子を買え、やれ、あの服が欲しい。

 こういうハーレームってさ……経験してみるとな? ぶち殺したくなるぜ?



 アステマは俺の腕に自分の腕を組んで指差ししてはたかろうとする。

 ガルンは俺の指の骨が折れるんじゃないかってくらい握り新作スイーツについて意味不明な力説をしてたかろうとする。

 

「お前達、今日は水を買いに来たんだよ。スペンスさん達がグラン山脈に行くっていうから、その頂上付近で取れる湧水を採取してもらったんだ」

「主、馬鹿なの? 水なんてその辺の川とか井戸とかで普通に飲めるじゃない! 水を買うなんて世界一無駄よ!」

 

 いや、昔の日本人かよ……そんな日本人も今や金出して水買うんだよ。

 しかし、旅など以外で水を買うという文化はこの世界にはまだ浸透していない。

 だから、かなり安く仕入れることができる。

 

「俺も酒作りは初めてだけど、いい水の方が美味いってのが相場なんだよ。水だって材料だからな。お前ら、いい肉で作った干し肉とクズ肉で作った干し肉食った時違いを感じたろ? あれと同じ」

 

 それなりに分かりやすい例えをした筈だが……

 

 いまいち分かっていないような顔をする二人。こいつらもしかしたら、あんま変わらないとか思ってたんだろうか?

 

 ……子供舌?

 というか今回人選ミスったか。

 酒造りだったらスラちゃんとホブさん連れてくるべきだったわ。完全いこいつらお荷物じゃんか。

 あーやっちまった。マジでしくった。


 ……いつもの感じで街いくぞで連れてきちゃったんだ。

 俺が街に行くときは大概この二人で、スラちゃんとホブさんはしっかりしてるから、留守番と任せている仕事に取り組んでもらうというルーチン。

 

 俺が慣れで仕事をミスった。

 

「ねぇ、主? 何黙ってるのよ? あっちに素敵な魔石が出てるわよ!」

「ご主人! ご主人! けばぶという新しい肉の食べ物なのだ! あれ食べたいのだ!」

 

 このテンションの高い二人の声に俺は強く反論はできない。

 まぁ、俺がやらかしてるからな……

 

 アステマは自分を着飾るという事に喜びを覚え、若干クラスチェンジやらヘカトンケイルを手に入れる事は二の次になってる感はある。


 そしてガルン。俺と出会った頃から食欲優先というのは変わらなかったが、最近は味付けとか多岐に渡り好みが生まれている。

 

「……今日は買わないからな。見て、回るくらいはまぁいいや」

「何言ってるのよ主! 今日手に入れれなかったら次に来た時にはもう手に入らないかもしれないのよ! だから今とりあえずてに入れておいた方がいいじゃない! 私の言っている事はセンコウトウシって奴じゃない?」

 

 何に対しての先行投資なんだろう? 俺はしばらく最適解を求めてみた。

 

 うん、やっぱり俺にはなんの利益も生まない感じの先行投資というか、投資詐欺くらいありそうな話だ。

 

 アステマは意味を完全に取り違えて俺に話をしているのに、胸を張って私いい事言ったでしょう感を出している。

 それがまた思いっきり頭悪すぎて言葉が出ないよ。

 

「……アステマ。お前さ、気持ちは分かるよ。俺も子供の頃、次々に新しいプラモが出る度に小遣いが足りなくて悔しい思いはしてきたよ。でも、我慢は必要だろうよ。何でもかんでも手に入れたいとかお前は神にでもなるつもりか?」

「神? いいわねそれ! さしずめ邪神んかしら?」

 

 こいつダメだ。本気で神にでもなるつもりだ。


 何とか魔石屋から離れそうにないアステマを引っ張って冒険者ギルドへと向かう。スペンスさん達を見ると安堵して俺は手を振った。


「遅かったなマオマオ。ほれ、頼まれていた水。本当に買ってくれるのか?」

 

 俺は喜んで約束の1万ガルドをスペンスさん達に支払った。

 ファイのエロ姉ちゃんは実際のクエスト報酬も随分儲かったらしく、俺の依頼で小遣い稼ぎもできたからかちょっといい焼きワインを飲んでいた。

 

「マオマオくん。お酒作りにお水から選ぶって職人にでもなるつもりかしらぁ?」


 この感じからして職人が作る酒は水からも当然厳選しているらしい。


「えぇ、そうですね。酒も食事もお土産も、遊戯も提供するサービスは全て職人が作ったような断トツの物を提供できる商店街を作るつもりですよ。ファイさんが今飲んでるお酒よりも美味しいのを用意します」


 なんか変なテンションで言ってしまった。


 ファイのエロ姉ちゃんは、今ちびちびと大事に飲んでいる焼きワインよりもいい酒を俺が作ると聞いて少し驚く。

 いや、ちょっと言いすぎた。

 ギルドの酒場で飲める焼きワインは確かに美味い。

 よほどいい樽で作られているのか、素材がいいのか、俺でもいい仕事ができた時にご褒美で飲むくらいだ。


 水の品質は精霊王サマ達の加護、そして水を溜めておく物はエルミラシル幹で作った水筒。推定だが、1000L近くは溜め込める。

2Lペットボトルくらいの大きさなので持ち運びもしやすい。

 スペンスさんとしても楽な追加報酬だったろう。

 

「マオマオの。しばらくはこの街に滞在しながら細々としたクエストがあれば受けるつもりでいるが、何か依頼があれば優先できるぜ? そろそろお前達の商店街だっけ? 開店間近だろ?」

 

 スペンスさんの申し出はありがたいが、今のところ依頼はない。

 

 俺はこのまま3人と少し話をして虚の森跡に帰ろうと思っていた。

 ビールを注文し、アステマとガルンにも果実のジュースとクレープを与える。

 ギルドでお金を出しての食事や飲酒はまさに情報交換や収集に一躍買う。

 こればかりはゲームや漫画の知識とほとんど変わらないわけで、ネットとかが当然普及していない場合の情報収集は炉端会議がメインなのだ。

 


「はぁ? あんた何? 食べ物をくれたらお礼、それ以外何が欲しいのかしら?」


 マジか、秒でなんかアステマがトラブル起こしてやがる。

 しかし、俺が立とうとするとファイのエロ姉ちゃんが俺に動くなと手を握り首を振る。

 

「だから何? ……私とガルンが下げたくもない頭を下げてあげて“ありがとう“を言ってあげたのよ? それが人間のルールなんでしょ? だったらどうして私がアンタとノビスの街をまわらなければならないのかしら? はっきり分かるように言いなさい!」

「で、ですからその……先ほど偶然貴女を見かけて、そのどんな貴族の娘よりも大変花があり、僕に対してもその何というか……毅然な、ツンとした態度に……その胸を射抜かれたというか……」

 

 おや……どこぞのお貴族様のせがれかな?

 もじもじしているが誠実そうな少年だな。

 しかし、アステマさんはやめておいた方がいいと思うぞ、見てくれ以外は最悪だから、そいつ。


 まぁこの世界だから何だろうか?

 一目惚れをした相手となんとかつがいになろうとする。魔物もいるし、怪我や病気で普通に死ぬからな。

 ビビッと来た人に猛烈アタックして子孫を残そうとする遺伝子でもあるのだろう。

 

 アステマは本当によくモテる。

 が、絶対にオススメしない。

 

「いえ、その。そちらのお嬢さん、妹さん?」

「違うわガルンよ」

「はぁ、そのガルンさんもとても愛らしく、この辺りでは見たこともない二人に、僕は息を呑んでしまったのです。ノビスの街へはたまに買い出しで来るのですが、違う街に来たようです」

「何? アンタ。もしかしてどこか頭の病気なのかしら? いつきてもここはノビスの街よ」


 何だろう。アステマ、それ以上喋るな。

 お前の教養の無さと空気の読めなさが、綺麗に少年の心を抉っている。

 伝わらないもどかしさに拳を握りしめている少年。

 何というか文学とか音楽にも今後モン娘達触れさせよう。


「で、ですから僕はあなたとこうして話している間も胸が張り裂けそうなんです」

「何それあんた完全に病気じゃない! ふふん、でも安心なさい! 私の主は回復系の魔法が使えるのよ。紹介してあげるわ。ちゃんと、私に助けられたって言うのよ!」

 

 うん、めっちゃ聞こえてますし、俺の回復魔法では少年の胸の痛みは止められんですよ


 俺たちのテーブルを見てアステマが立ち上がる。

 

「ほら、あそこにいるのが私の主よ」

「主……君の旦那様ということかい? いや、君程美しければ……」

 

 俺がアステマの旦那だとか本気で思っているなら、ぶっ飛ばすぞクソガキ!

 そう身構えている俺の元にアステマとガルンが少年を連れてやってくる。


 スペンスさんとファイのエロ姉ちゃんは楽しそうに。

 キロカさんはちょっと苦笑しながら、俺はまた面倒毎かとビールを煽った。


「あなたが、こちらの可憐なアステマさんの主。マオマオ殿という事でお間違いないか? 僕は北は王都に住むとある子爵家の嫡男。クラークと申す」


 片足をついて俺の前で礼儀正しい挨拶をするクラーク。

 この感じ、デジャブ感あるなぁ……ちょっと嫉妬してる感じが痛々しい。

 というか、俺がアステマと……と思われるのが死ぬ程心外である。

 さぁ、お話を聞こうじゃないか、お坊ちゃん。


「これはこれは、ご丁寧に。今後、虚の森で商店街を作る予定の、北のCEOこと、犬神です」


 少しばかり大人気なかった。

 東西南北、中央と“王“を冠する者は一目置かれている。

 お貴族様と対等に渡り合うには過ぎた役職かもしれないが……言ってしまった。

 

「北の……魔王様がお亡くなりになり、噂には聞いていましたが、あのお話は眉唾だと伺っています。もしかして、イヌガミ様。貴方はもしやその肩書きを持ってここにいる人々や、アステマさんをたぶらかしているのでは?」

 

 あぁ……はいはい。そっち系ね。こういう奴は何を言っても俺が嘘をついていると言うあの感じですわ。

 

 まぁいいや。アステマをたぶらかして何の得があるのかお前さんが身をもって勉強すればいいや。


「なるほどな。君は要するにアステマに恋心を抱いているんだろう? いいよ。とりあえずアステマとデートなり何なりすればいいじゃないか、ただし、何があっても俺は知らんからな。アステマ、今日はもうお休みでいいよ。そいつと遊んであげなよ」


 俺の言葉を聞いて少し驚く。


 クラーク少年は、急遽特別休暇をもらって喜んでいるアステマに手を差し出した。

 アステマはテンションが上がっているのか。その手を取って笑った。

 色んな環境が最悪の形で揃ってしまった事で、一見するとクラーク少年にとって最高の状況が出来上がったかに見えた。

 

 クラーク少年とアステマが手を繋いでギルドの食堂から去っていく。

 その後ろをトテトテとついていくガルン。

 俺がその様子を眺めていると、スペンスさんとファイのエロ姉ちゃんは楽しそうに俺を見つめる。

 

「いいの? 二人ともお貴族様について行っちゃったわよぉ」


 とファイのエロア姉ちゃん。

 

「いや、ちょっと大丈夫かな…………あの貴族の少年……」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 あれから少し時間が経ったので俺は様子を伺いに街を見て回った。

 アステマとガルンが普段中々見せないくらいの笑顔でクラーク少年と歩いている。両手にたくさん貢物をもらったのだろう。


「ははっ、アステマ。君は他の女の子のように、いやそれ以上に自分を着飾る事が好きなんだな。それにガルンちゃん。君も同い年の子供よりもよく食べるんだね……普段、もしかして辛い日々を送っているのかい?」


 俺をディスって悪者パターンにしてプレゼントをくれるクラーク少年正義ですよってか?

 財力に物を言わせるのも才能だろうし俺は咎めはしない。

 

「ふふん。ちょうどお給料が無くなったところだったから助かったわ! ねぇ、次は魔石を見にいきましょう!」

 

 お水のお姉さんは、疑似恋愛を客に楽しませる。だから貢がせる金額も計算して何度も店に通わせる。

 しかし、アステマにはそんな器用な事はできないし、疑似恋愛をしているつもりもない。ただ程のいいATMがあるので引き出せるだけ引き出すのだ。

 

「そうねぇ……このブルーサファイア、いいわね!」


 いいわね! と言うのは買ってという事で、俺は無視するが、クラーク少年は財布を出して笑顔で購入。

 

 むしゃむしゃ。


 ……その隣でケバブを買ってもらって食べているガルン。果物やらお菓子やらも一杯買ってもらったなぁ……



「あれ! あれぇ! クルルギのチーズケーキ! あれ、美味しいのだぁ!」


 そうだ。クルルギさんにチーズケーキが限定二十個で毎日販売されているのだ。

 

「チーズケーキ?」


 クラーク少年も知らないだろう。

 

 まだ王都には進出していないからな。

 ノビスの街ではそれなりに手が出る値段で買えるけど、転売で価格がどえらいことになっていると最近聞いた。それ故に、開店前から購入目的で列をなしているので多分買えないだろうな。


 試作品を一度食べて、ガルンは虜になった。

 まぁ、俺もアステマにエメスもその美味さに驚いて舌鼓を打ったのは間違いなのだが……


「なんだこの列は……茶菓子の販売が指定の時間なのか……それ程までに美味しいと言うのかい? どうにしかして手に入れてみたいね」


 おや? もう並びの列は20人。

 これ買えないだろうな。


「貴族様? はぁ、でもねぇ……そう言われても並びに身分は関係ないですからね」


 そうそう、これはノビスの街でルールとした。

 王様でも並んで買えと!

 

「南の魔王様が決めた事だからねぇ」


 そう、アズリたんがね……えっ? そうなん?


 回想


『余が欲しいと言えば、全部買えてしまうではないか! それは実につまらん』

『じゃあアズリたんどうするの? お前さんに逆らえる奴いないよ』

『余も! 買いに行く喜びを楽しみたいぞ! と言う事で、必ず並ぶルールを余を含めて制定!』

 

“魔王権限発動。チーズケーキ購入ルールは必ず並ぶ事、これは王種以上の存在ですら抗えないルールになります“

 

 以上、回想終わり。

 

 あぁ、あれ……マジだったんだ。


 貴族のお坊ちゃんもまさかのルールに声が出ない。

 流石にこれでは金や権力に物を言わせても購入不可能だ。


「どうか、どうかお願いします! こちらのお嬢さん二人にどうしても食べていただきたいのです!」

 

 一般の平民に、クラーク少年は頭を下げてお願いする。


「でも、俺だって朝から並んでるんだぜ………あっ、お嬢さん二人ってガルンちゃんとアステマちゃんかい、そうならそうと言いなよ貴族様。この街でガルンちゃんやアステマちゃん、エメスちゃんにお願いされたら断れないよな。ほんと美味しそうに食べるもんな? この子達は、あれ? 今日はマオマオの旦那はいないのかい? そうか、苦労してるからなぁ旦那、骨休めだな」


 ……違いますけど?

 俺に骨休めというか、休みとかないですよ?


「ち、違うわよ! 今日はこの人間の男と遊ぶように主に言いつけられているの! 仕方がないからこうして私とガルンで付き合ってあげているの! ふふん! その見返りに仕方なくこういう物を受け取っているの! まぁ、それなりに楽しんでいるんじゃないかしら? この男も、私たちもね」

「そうなのだ! クラークは美味しいものを沢山、何でも買ってくれるのだ! ご主人は虫歯になるからって、一回にこんなに沢山は買ってくれないのだ! 僕もお給料を全部使い切ったので助かっているのだ!」


 そういう状況であると聞いた金物屋のおじさんは購入したチーズケーキを譲ってくれた。それにクラーク少年は再び頭を下げる。


「これ、確かにすごく美味しい! こんなお菓子がこんな田舎町に……」


 お店のカフェスペースで甘いお茶を飲みながらティータイム。

 財布を覗いて苦笑するクラーク少年。

 

「ところで、アステマさん」

 

 クラーク少年は少し真剣な顔をする。これは告白タイムなんだろう。使えるお金を随分使ってしまったが……

 掴みもタイミングも悪くないだろう……人間相手なら……


「ふふん。分かってるわよ。私もそろそろじゃないかと思っていたところよ。せっかちね」

 

 おや? アステマ以外と空気読める?

 とかは絶対に俺は思わない。そういう空気読めるわけないし。


「もう帰る時間なんでしょ? いいわよ! お貴族様とかいう上級国民なんでしょ? 行っていいわ。今日はまぁ、楽しかったんじゃない?」

 

 悪魔かこいつ……いや、悪魔だ。


「……違うんだ! アステマさん、僕はね」


 強引だなクラーク少年。

 

「何よ? アンタがくれた服や宝石や魔石を返せって言われても絶対に返さないわよ? あんたが勝手に買ってくれたんだから……ぷっ! 勝手に買っただって!……クスクス。私、笑いのセンスも天才」

 

 全然面白くない上に、何だろう。俺は今、アステマを思いっきりぶん殴りたい気分で一杯だ。

 

 がんばれクラーク少年。

 ……が、しかしクラーク少年は運命力を持っていなかった。

 

「痛いっ! 痛いのだぁああああ! 歯が痛いのだぁああ!」



 俺の予想というか、警告は当然の如く現実になる。

 ガルンは腫れ上がった頬っぺたに触れながら痛みに転げ回っていた。

 ……さて、どうなるのか面白いのでもうしばらく俺は影から高みの見物を楽しませてもらいましょうか。


「もう! なんでこういう時に主はいないのよ! アンタ回復魔法くらい使えないわけ? 薬買ってきなさいよ!」

 

 アステマへの告白はおあずけ。

 クラーク少年は薬師に虫歯に聞く薬を作ってもらっては戻ってきた。

 それを受け取るとアステマは手を振ってクラーク少年に言う。

 

「全く持ってくるの遅いんだから! でもまぁいいわ。とりあえずガルン。これ飲みなさい、あと主。虚の森に帰ったんじゃないかしら? 私たちも帰るわよ」

 

 アステマは呼び止めるクラーク少年を無視して薬を一粒飲んで苦い、苦いというガルンの手を引いて帰る。

 何だろう、今度のプレオープン、クラーク少年にも招待状を送ってやろう。

 

 このままだと貴族の少年なのに、パシリに使われただけで、あまりにも不憫すぎる。とりあえず俺も帰るか。

 

『皆様、ノビスの街にいる全ての冒険者の皆様、また攻撃魔法が使える方、武器が使える方、未知の敵性勢力からの侵略声明を受けました。接近は明朝。これを迎撃する緊急特別クエストを募集します!』

 

 ちょうど俺が帰ったあたり、えらい事が起きようとしていた。

 そして虚の森で俺はガルンが虫歯になった報告を知っているが、受け、魔法では治癒しない事を伝えると、カジノ作りと酒造りの指示を出す。

 その休憩時間、何とか薬で虫歯を散らそうと嫌がるガルンの顎を持って口を開けさせて薬を突っ込んでいた。

 そんな二人を見ていると、俺は魔法を使って治してやろうか……少し心が揺らぐ。


 心を鬼にして、俺は……今回だけだからなとヒールでガルンの虫歯を治した。

 

 

“北の人間、魔物、精霊、その他生命を持った者よ。これより十二時間後、機械王。ウルスラ・ジ・エンド率いるゴーレム軍が侵略を開始する。抵抗せずに平伏すれば捕虜として生かす。抵抗する場合は、躊躇なく撃滅する“

 

 そんな侵略声明が出された事を俺は知らない。









…………いや、知ってるんだけど、絶対これ面倒なやつじゃん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ