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ゴーレムの酒癖は最低だったり、叱られたり

「おい、プレアデス。大丈夫か? 水飲むか? 飲めないのに調子乗るとアル中で死んじまうぞ。お前みたいな学生めっちゃ見てきたわ。とりあえず今日は水飲んでよく寝ろ」

「す、すまないねぇ……マスターくん……この天空神殿では最も酒の強い唯も所詮は空の高さを知らなかったらしい」

 

 そりゃそうだろ。ここお前しかいねーもんさ。

 プレアデスはかなりの馬鹿だけど、敵意がない事だけは分かった。

 北の魔王、シズネ・クロガネも大概頭の悪い奴なんだろうけど、争い事とかは嫌いみたいだ。

 

「じゃあ俺たちは装飾品を色々いただいてズラかるから、今後飲み過ぎんなよ」


 勝ち誇った顔で本物のザルはボイラー・メーカーを舐めている。

 ……こいつ、本当に酒強いんだな。飲み潰されないようにこいつにはあんまり酒は出さないことにしよう。付き合い以外では飲まない事が救いだな。

 

「我、まだ飲み足りぬと宣言す! マスター、我の酌に付き合う事を所望」

 

 ヤバいヤバい! 気づかれた? 俺を飲ませて昏睡プレイとかエメスに既成事実を作られた日にゃめもくれない。この怪物を討伐する方法は何かないのだろうか? このままではまずい。

 

 ……エメスは、悪い笑顔で、ジョッキに蜂蜜のビールをなみなみと注ぐ。そして、おもむろにショットグラスを落とした。


 推定度数十度はあろう化け物みたいなカクテルを俺に差し出してきた。これを一杯くらいならなんとか飲めるが何杯もなんて無理だ。

 

「ふぅ、マオマオ様。探索の方終わりました。ガルンちゃんとアステマちゃんがしっかり頑張ってくれたので、たくさんこんなに、あらお酒ですか?」

 

 スラちゃん、仕事中のお酒に反応している。これ怒られるやつかな? 

 

「スラちゃん、これはあのぉ。プレアデスをね。エメスが飲み潰したんですけど。エメスが悪酔いしたのか俺にも飲ませようとしてですね。そうだ! スラちゃんもどうです?」

 

 そう言って俺が差し出したジョッキ。

 スラちゃんは笑顔でそれを受け取り、クイッと飲み干す。

 透き通った青い肌が少し赤らむ。

 

 そしてそれをエメスに返した。

 

「エメスちゃん。お仕事中にマオマオ様にお酒を飲ませてそして遊ぶのはよくないと思いますよ? 私が代わりに付き合いましょう」


 驚く事を俺は知ってしまった。スラちゃんもお酒よく飲むなと思ってた。

 

 エメスとスラちゃんがジョッキを何度か往復して渡していたのだが、エメスに限界が来た。

 

 今更だけど、ゴーレムって酔い潰れるんだなぁ……スラちゃんはアルコールへの耐性でもあるのだろうか?

ばたりとエメスがぶっ倒れたのをみて、エメスの飲みかけのジョッキの中身も処理してしまった。

 いつも俺とエメスとスラちゃんとホブさんの四人で晩酌をしていたけれど、飲み足りなかったのだろうか?

 

 飲み終えたジョッキを軽くスラちゃんは布巾で拭いた。

 

「エメスちゃん、おいたがすぎるのは結構ですが、マオマオ様のお仕事の邪魔をするということは見過ごせません。もしかして、私たちが拠点にいる間。いつもこんな感じなのでしょうか?」

 

 泡を吐きながら、首を横に振るエメスさん。おい、嘘つくなよ! 毎回俺の邪魔してんじゃねーかよ。


「マオマオ様も、お優しい事は感謝以外ありませんが、主上である以上、もう少し厳しくされてはと進言させていただきます。もしかして、ガルンちゃんとアステマちゃんも?」

 

 はい、そうです。この二人も邪魔ばかりします。

 

「……ち、違うわよ! スラちゃん。私は主の為に魔法力を全て使ってあらゆる敵性勢力と戦って来たのよ!」

 

 ヤベェ……まじで殴りてぇ。

 お前だよお前! 一番俺に迷惑かけてるの多分お前。


「スラちゃん、このアステマは毎回毎回、簡単な仕事でも百倍は面倒な事にしてくれるんですよ。もう、ほんと困ってるんですよ。なんか、しかも絶対謝らないし、頭のネジがぶっ飛んでますよ。このアステマ程でもないですが、ガルンもまぁ酷い……食い物関係になると負債を増やしてくれるし、くだらねぇトラップにはよくハマるし……」


 この際だ。もうガツンと怒られるといい。俺がいくら言っても聞かないのが悪いんだからな。

 

「なるほど、今のマオマオ様の置かれている環境がどういうものか、ダンジョン探索に参加させていただいてよくわかりました。エメスちゃん、ガルンちゃん、アステマちゃんの粗暴が悪い件、お仕置きが必要ですね。そして、この状態にまで放っておいたマオマオ様にも責任がおありと、御言葉ですが申し上げます。三人はマオマオ様にとって最初の立ち上げの三人。最高幹部であり、マオマオ様に取っては娘も同然なのでは?」

「……いや、そんな感じじゃ」

 

 スラちゃんも一応、彼女の言うところの最高幹部ではあるが、ガルン達立ち上げメンバーより自分の方が下であると何度か酒の席で言っていた。

 しかし、今は心を鬼にして言っているのだろう。俺の言い訳も聞きそうにない。


「……ち、違うのだ! スラちゃん、僕達はご主人のために頑張って働いてきたのだ! 時々失敗もしてしまうのだ! でもアステマもエメスも頑張っているのだ! だからお仕置きは勘弁なのだ!」

「……ダメです」

 

 スラちゃん、めっちゃ怖い。これ、普段温厚な人程ってやつじゃんか

 泣きそうなガルン。

 これがモン娘3人にだけなら俺も腕を組んで高みの見物をさせてもらうところなのだが、俺も含まれているので仕方がない。

 

「……うん、スラちゃんの言う事は最もだ! 俺もお前達も反省が必要じゃね? 次から俺も頑張るし、お前らもちゃんとしろよ! あー、締まったわ! スラちゃんのおかげで締まったわ! な?」

「……マオマオ様、ダメです」

 

 嘘だろ……スラちゃん、何を言っても聞く耳を持ちそうに無い。

 これはなんだろう。今まで商店街設営を任せていて知らなかった。

 スラちゃんは違う意味でかなりややこしい系の女性、もとい魔物だ。

 

「スラちゃん、気持ちは分かるよ。うん。確かに俺もこいつらも本当にさ、反省してるから、スラちゃん、じゃあスラちゃん今後こいつらの生活指導任せるわ。なのでさ今回はこの通り、俺もこいつらも許してやってくれよ」

「……ダメです。そういう今回だけというのが弛みなのです」

 

 いやー! いやー! マジでスラちゃんのなんか地雷踏んでるじゃなねぇか。

 どうすんだよこれ、おい! 

 

「……分かりました。覚悟は決めましょう。スラちゃん的にはどういうお仕置きを所望なのでしょうか? そのなんだろう。できれば体罰的な奴は俺人間なので、あとモンスターといえどもこいつらも痛さとかには多分クソ弱いので勘弁してください」

 

 俺が死刑執行を待つように覚悟すると、ガルンとアステマはレイプ目になり始めて事の重大さを知った。エメスは酔い潰れて寝とる……

 

「では皆さん、皆さんは北のCEOマオマオ様の国の大幹部です。そしてマオマオ様はその主上です。皆さんは他の方々の見本に、マオマオ様は私たちや、三人の見本に、マオマオ様に頂いた書物に“親しき仲にも礼儀あり“なる素晴らしい格言がありました。ですから、以後気をつけてくださいね!」

 

 スラちゃんは、スライムじゃなくて天使なのかもしれない。

 

「はい……いやほんと、こいつらにはキツく指導しますので、はい」

 

 なんか、学校の先生なのか、いやこの場合は職場の責任者だろうか?

 そんなスラちゃんに謝罪する俺……

 

 スラちゃんとホブさん、できる子なので放置気味だが、成長しすぎじゃね?


「……うぅ……話は終わった……かい? マズダーぐぅん……少し、体調が悪い……ぎもぢわるい……お手洗いに……案内して……」

 

 青い顔をしているプレアデス。完全に急性アルコール中毒っぽい。


 人類において最古から存在する最強最悪の麻薬……。

 そう言われているアルコールだけど、多分。ほとんど飲み手側に問題がある。

 死んだらどうするんだ? と言うふうな学生のとんでもない飲み方、そしてこいつらみたいに競い合う。

 

 そもそも酒ってのは量を飲む物ではなく、一人で、あるいはみんなで楽しくやる物だと再認識した。


 正直、プレアデスをお手洗いに運んで、それで終わりでも良かったのだが、装飾品を頂いた恩もあるしな。

 

 俺は今回、殆どスキルも使っていないので、個人スキルの一回くらいはどって事もない。

 

「プレアデス、あんまり今後は飲みすぎるなよ……というかお前はもう飲むな。ポイズン・ヒール!」

「……ふぅ……だいぶ楽になったよ。マスターくん、君がおじ様になるまでしたがおう」


“アプリ起動。天空の魔導超兵 プレアデスがパーティーに加わりました“


 マジか……



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 とある男が異世界がヤベェ! 助けてくれとか言われて、話を聞く間もなくリュックを渡され気づけば廃村?

 農作物も全て掘り返され、建物らしきものはどれもズタボロ、目を覆いたくなるような状況、そこで泣いている一人の子供。

 

 男は泣いている子供達の前で無言で火を起こす。渡されたリュックの中にある食べ物を温めて子供に食べさせた。

 何が起きたのか聞いた。白い衣を着た集団が突如現れ、連中はファナリル聖教会に改宗しろと言い出し、それを村の大人達が断ったところ、村は崩壊し、半ば強制的に人々は改宗、連れて行かれたという。

 

 その話に男の瞳に炎が灯った。

 一人の子供は食べ物を食べ元気になったのか、拝み出した。

 

「なよ竹様がきてくれて、きっと飢えや渇き、辛さや痛み、悲しみを取り除いてくれるってお母さんやお婆ちゃんが言ってた。だから、御神木様だけはみんなで守ったの! 自分たちが飲む水も全部使って……」

 

 指差す先を見るとそこには巨大な竹。

 

 ここは地球ではない。それだけは男は気づいていた。

 男は元気が出た子供に話しかけて状況を確認する。


「おい、人間の子供。お前に聞きたいことがある。お前は俺から食い物を恵んでもらった。代わりにお前はここがどこで、その白い連中ってのがどこに行ったか、いやその前にこのお前達が命を無駄に使って後生大事に消火したこの巨大な竹について話してもらおうか?」


 この世界の空気も匂いも知らない。なのに、この燃え残った巨大な竹の木は妙に既視感を感じるのに十分だった。

 いや、知りすぎている物だと言ってもいいかもしれない。これは地球にも、おそらくこんな場所にも存在し得ない物。

 これはとある存在の残しカス。


「……お兄さんは、聖者様? 光の聖者様? この御神木様はお婆ちゃんが小さい頃に、ここになよ竹様がご顕現なされたとても大切な御神木様……」


 この子供の言う言葉の殆どを男は話を聞きながらあらゆる面からしてほぼほぼ予想通り、理解そして想像はほぼ間違いないだろうと確信を持っていた。

 

 男が与えた食べ物を食べていた子供が思い出したように男にパンのような物を差し出す。

 

「あの……僕ばっかり食べてごめんなさい。光の聖者様もどうぞ。これとっても美味しいですから……」

 

 まだ十も行かない子供が気を遣う。

 

「俺はいい。それはお前が食べろ。あとそんなに急いで食わなくてもいい。誰も取りゃしねーし、まだ沢山ある」

「……ありがとうございます」

「おい。礼を言うのは悪かねぇ。が、易々とひざまづくな、弱さを見せるな。お前達がどうしょうもねぇ状況で襲われた事はここを見りゃわかる。だけど、そのまま折れるな。心まで犯されるな。さて、まぁやる事は決まった。ここを焼き払った白い連中をとりあえずぶん殴る」

 

 男は目的を決めた。するとカバンの中にあるスマートフォンと呼ばれた機械がなる。

 それを見て、自分の目的が更新された事に閉口する。


「光の聖者様はあの白い人たちに天罰を与える為に、あの蒼い月から来て下さったなよ竹様を守る聖者様なんですか?」

 

 子供は手を胸の前で握りながらそう尋ねる。

 

「そんな徳の高いもんじゃねぇ」


 この世界の文化レベル、文明レベルはどうも随分低い。

 地球で言えば、中世程度の文化レベルだろうかと男は考える。農耕をメインとした生活をこの集落は行なっていたらしい。

 

 子供の服装は皮で縫われた靴に伝統工芸のような織物の服。

 きっと美しい模様が刺繍されていただろうに、泥やら焦げやらで見る影もない。間違いなく一つの文化がここで死んだ。

 この子供の織物ももう二度と再現されない物なんだろうと男は思った。


 リュックの中に紫色のパッケージのリトルシガーを見つけた男。

 その封を破ると、マッチで火をつけ、紫煙を鼻腔で香り、そして肺に煙を送り込んだ。


 そして一言。


「ふぅ、うまいな」


 どこで吸ってもこの味だけはたまらない。一吸いで三分の一程灰にすると、ゆっくり紫煙を吐き出す。


 子供が自分の集落で思い出を探し、瓦礫を見て回っている。そんな子供を見て、しばしの休息。少し口の中に煙をためて、吹き出すように肺を吹く。

 

 輪っかになった煙は思ったよりも重く消える。

 普段吸っているタバコよりも重い、葉巻に近いリトルシガー。

 

「初めて吸ったけど、こいつは美味いな。甘い。そしてどことなく。ボタニカルで……あの男。これが報酬だとでも言いたいんじゃねーだろうな」

「聖者様すごい!」

 

 いつしか子供は男が煙の輪を吐いているのに感嘆した。

 その様子がおかしくて、男は二度ほど子供の前で煙を吹いてみせた。それによろこぶ子供。

 子供はそれに興奮したのか、手から小さな炎を出して空に掲げた。

 

「おい、人間の子供! なんだそりゃ。手品じゃ……ないみたいだな」

「聖者様、これは魔法だけど?」

「魔法……魔法? なんだそりゃ、そんな物が使えてここにいる連中。いや、襲った連中がそれ以上の使い手だって事か」

 

 ……一瞬、魔法という概念に驚いた男だが、すぐに状況を理解した。

 

「聖者様、これからどうするんですか? 僕も連れていってください。なんでもできます! なよ竹様の光の聖者様であれば僕はお遣いしなければなりません! お願いします!」

「おい、人間の子供。簡単に誰かに自分の運命を委ねるな。あと俺はお前の言う光の聖者様じゃない。俺は……なよ竹の、カグヤ様だ」


 そこには自信に溢れた青年が蒼月を背にそう言って無邪気に笑った。少年はそこに、言い伝えで聞いていた世界を救済する為、月より出ると言われた月帝の姿をみた。

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