BLのカップリングが変わる時、人は大人になる
「おーい、みんな集まれ! ゴブリン班とスライム班は代表でホブさんとスラちゃんキリのいいところで」
「ご主人! お帰りなさいなのだ! その荷物はなんなのだ? 美味しそうな物もあるのだ!」
商品の搬入に関して、ティルナノとの同盟を組んだ事で加護はクリアした。
そして俺は、この異世界に来て半年がもう既に過ぎ去っていた。
そこで担当の葛原さんに呼ばれ、一度日本に帰還したのだ。
そしてみんなへのお土産を葛原さんが買ってくれた。
「マオマオ様、ご無事で何よりです!」
「こちらは何事もなく、問題ありません」
ホブさんとスラちゃん、俺泣きそうだよ。
方やガルンとアステマはお土産漁ってますわ……
「マスター、早い帰還に我は抱いて欲しいと心から望む」
エメスさん、今日も安定のテンションの高さだ。普段のパンツスタイルではなく、サマードレスのような物に身を包んでいる。
「あぁ、ただいま。ところでその服は? 似合ってるじゃないか」
またパンチの効いた返しがくると思っていたが……
俺の言葉に、エメスは自分の服装を見て少し恥ずかしそうに俯く。こいつの恥じらいの沸点はどこにあるんだ?
どうやら、プレオープンで開くアステマの服屋。
そのモデルに身長の高いエメスを使ってアステマがファッションコーディネーター的な事をしていたらしい。
ガルンも俺がいない間、つまみ食いを我慢してシェフが出店する店の手伝い。
なんだろう……案外俺がいない方がこいつらまともに働いているんじゃないだろうか?
「とりあえずみんなただいま。ちょっと相談したいこともあるしお茶でもしながら話さないか?」
スラちゃんに地球のお茶を渡し、淹れ方を教える。完璧な具合でお茶を淹れてくれる彼女。
東京バナナに東京ゴマたまごを全員に出してまずはお土産。
ガルンには高級缶詰とチョーカー、アステマには和三盆にイヤリング。エメスにはもんげーバナナに腕時計。スラちゃんにはハンドバックとスライム達にハーブ、ホブさんには工具セットとゴブリン達にチョコレート。
フルーツが好きなドラクルさんにはスイカをプレゼントした。
「まぁ、こんな感じだけどとりあえずここまでみんなありがとうな!」
どうやらスライムとゴブリンはクラスチェンジが実行され、ここにいる幹部クラスはそういうわけにはいかないらしい。
お茶とお茶菓子に舌鼓を打っている中、俺は話し出した。
「飯屋、服屋。教会。道具屋。ここまでの流れは街だな。その付加価値としてフードコートと銭湯。街にあってここにないものは酒場だ。当然地酒はこの世界でも俺の世界でも大人気なんだ」
俺の言葉にたまにお酒に付き合ってくれるホブさんとスラちゃん、エメスが頷く。
お酒に興味津々なアステマはその大人な会話に入れない事に心底納得がいかないような表情をした。
子供か! いや、子供だ。
「ということはマオマオ様。ここに酒場を設置するという事ですかい? お言葉ですがここで話す程の事で?」
「そう。ホブさん、酒場だけならここで話す内容じゃないですよね」
いやぁ、ホブさんとスラちゃんと話してると仕事してるわーって気分になる。
俺は疑問に思ってるみんなに提案した。
「ただ酒を飲めるところだったらどこでもあるから、この商店街にカジノ、いや遊技場かな? を作ろうと思ってさ。ここが大きくなればここで働くモンスターのこともゆくゆくはバレる。だったら、いっそのことモンスターを全面に出す」
いつかは決断しなければならない時がくると思っていた。
「ホブさん達の中で屈強なゴブリンを警備員にする。スラちゃん達の中で美形のスライムを案内係にする。優しい顔のゴブリンはバーテンやディーラ、小さいスライムは競馬。スライムレースに出てもらう」
そしてここにる幹部は各店舗の責任者。
「正直、ガルンやアステマ、エメスの三人が一番心配だけど、ここを俺たちの国にするならそれが出来なきゃ無理だからな」
俺は人間、こいつらはモンスター。寿命の差は分からないけど、いつか俺はいなくなる。その時にこいつらだけでやっていけないとダメだしな。
「まぁ、いきなりこいつらモンスターでした! って感じにはしないからタイミングは俺がまた知らせる。とりあえず。今はカジノ作りだ」
俺がそう言うと、建築の主任であるホブさんが質問した。
「マオマオ様。そのカジノという遊技場。何を用意すればいいんでしょうか? こちらで作れる物なら準備します」
カジノに必要な物。デッカいルーレットにカードゲームの台。
豪華なバーカウンター、その他細々とした装飾品。
必要な機材は確かに作ればいいが、装飾品とかは、ダンジョンでかき集めた方が楽そうだ。
なんせ、頭の中がお花畑の元北の魔王のダンジョンに行けば大抵そういう物は揃う。
形から入る腐女子だったんだろうな。
実はアズリたんに精霊王サマのところと同盟を組んだ事で、飛躍的にユニオンスキルの数が増え、そしてユニオンメンバーであるこいつらもあらゆる加護がついた事で並のダンジョンは散歩みたいな物に変わった。
今まではビビりまくっていたガルンにアステマも並大抵のモンスターの出現にはビビらなくなった。
今にして思えば、慣れこそ一番恐ろしい物だったのかもしれない。
「エメス、少し広めの北の魔王のダンジョン知らないか? 今回は明確に北の魔王の作った壁紙とか入手したいんだ。センスだけはいいからな」
エメスは少し目を瞑る。メモリーに記録されているダンジョンを調べているのだろう。下ネタ製造機に思えたエメスもこうしてみると完全にオーバーテクノロジーの産物だ。
というか、多分。日本人。あるいは地球人のハズなのだが、シズネ・クロガネなる人物を葛原さんも知らなかった。
死んでしまったらしいから会うことはできないが、一体何者だったんだろうな。
エメスは開眼し、そして静かに話し出した。
「我の奥底に刻まれた記憶に我がいた地上神殿。そして天空神殿、海底神殿の三つが検索され李、北の魔王の遺産が残ると知り!」
「天空に海底ってめっさ行けない場所じゃねーか、いや。魔法があればいけるのかな? どっちの方が近い?」
俺の質問にエメスは空に指差す。
空にある神殿の方が近いとおっしゃるエメスさん。ちなみに、ウチのユニオンで普通に空を飛べるのは、来賓として滞在しているドラクルさんだけである。あの人は唯一俺の言葉に従わない魔物……というかドラゴン。
欲しい物は確実にありそうだけど行く術がない。ここは諦めか……
「エメス。何かそこに行く方法とかあるのか? なかったら悪いけど、今回のダンジョンは見送りだな」
それにエメスは鼻で笑う。
「マスターが、我に忘れえぬほどの快楽を与え、そしてマスターもまた我の豊満な肉体に溺れるという構図を作るのであれば天空神殿に向かう方法を開示することもやぶさかでもないと理解している。マスターいかに?」
「いや、いいからさっさと教えろよ。お前はもう少し静かに黙っていた方が魅力的だ」
俺の発言にエメスは呆気に取られた表情を見せる。そして、うんうんと頷くとエメスは俺にこう言った。
「マスター、ショタ化をしてそれを優しく見守る我の構図」
なんなんだろう。面白くない上に意味不明すぎるエメスの思考回路。
「……ショタ化は……考えてやる。だからどうやっていくんだ?」
よほど、エメスは俺のガキの頃に興味があるらしいが、その辺の街の子供とか間違っても攫ってくるなよと言い聞かせたい。
こいつ魔物だからやりかねないよな……
仕方がないので、俺は精霊の国で覚えたメタモルフォーゼスキルを発動。
「ほれ、これでいいんだろ?」
任意で変身。
呪いではないので、大体一時間が限度ではあるが、子供に変身する事が俺はこの前のティルナノの一件からできるようになった。
じっと見つめるエメス。
……そして親指を上げる。
「いや、なんか言えよ。じゃない、どうやって天空神殿にいくんだ?」
「我がポータルの役割となす。そこまではすぐと知る」
こ、こいつふっかけやがった……簡単にいける場所をさも行けないかのように思わせて…………
…………。
「くっそ、まぁいいや。じゃあ弁当を持ったら、北の魔王のダンジョン攻略だ」
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エメスにユニオンスキルで能力を向上。
魔導機人へとクラスチェンジさせる。
虚の森の端、イベント会場を作ろうと切り開いていた場所へいく。
そこでエメスは手を掲げ、何かを検索しているようだった。
そして開眼した。何かを掴むように手を握る。
するとエメスを中心に見た事もない魔法陣が広がる。
おぉ! 異世界っぽい。
「マスター。マスターの下半身が反応しているところ無礼を許して欲しい。今より天空に参る。ショタになり我に掴まることをおすすめす」
ポータルでどこかでに飛ぶ事とショタは関係ないだろう。
エメスの話を無視して、俺とガルン、アステマと今回はスラちゃんも連れて行く。スライムは融合と分裂が楽なので、運び出す人員としては二重丸だ。
「マスター、頑なに我に申し出を断り、我は焦らしプレイも嫌いではないと今ここで告白したり!」
「知らねーよ。というか、高層エレベーターに乗っている気分だな。パッと移動するのかと思ったけど、結構時間かかっているし……あっ、到着か?」
俺たちは転送が終わると、とんでもない場所にいることを知った。
それは巨大な宇宙船のような……かなりの高度を飛んでいる神殿の上だった。
「マジかよ…………頭のおかしさを無視したら北の魔王ってやつはかなりの技術者なんじゃないか? クリエイトスキルでこれを作ろうとしたらやっぱり航空機とかの知識はある程度必要だろうし…………この世界にエメスみたいなゴーレム種がほとんどいない事から、当然疑似生命を生み出すという事が難しいんだろう。そういう意味でも頭のおかしい奴が力を持ってしまった事の危険性を俺はむざむざと見せつけられているという事に閉口するな」
俺の言っている事は目の前の銅像的な物に対して……
魔族のオッサンと青年が抱き合っているの図。
この頃、北の魔王はゴブリン✖️エルフからオジ萌えに流行が変わったのだろうか?
まぁ、ただでさえ頭おかしい奴というのが会った事もないのに分かるくらいの地雷だ。
俺も北の魔王についてはこれ以上知れないだろうし、知りたいとも思わない。
さっさと、装飾品をいただいてずらかろう。この宇宙船も欲しいが持ち帰る術はないし諦めよう。
スラちゃんが今日は一緒にいる事で少しばかり安心している俺もいる。
「マオマオ様、この格好は何というか……少し恥ずかしいですね」
俺は無言で親指を上げた。青い透き通った髪に透き通った肌。ガルン達と同じ制服に身を通し、アステマの服がきついらしく恥じらっている。
可愛い!
「スラちゃん。今日は謎の場所であるここにきたので、補助役が俺一人で足りないかもしれないから宜しくお願いしますね。あと似合ってますよ!」
家来というより、同僚に話しかけるように、俺は彼女をリラックスさせる。街へ行くときは肌を人間のそれに擬態するが、俺たちだけのときはスライムの透き通った肌のままでいる方が楽らしい。
完全にオーバーテクノロジーと言える天空神殿攻略が始まる。
ここは、この異世界どころか、俺たちの地球よりも科学力が進んでいる。材質とかそういうレベルではなく……
北の魔王という人物はもしかすると俺よりも遥かに未来の地球人なんじゃないだろうか?
まぁ、それを知る術ももうないのだけれど……
「ご主人! あっちに大きな扉があるのだぁ! こっちなのだぁ!」
ガルンがテンションを上げて俺を呼ぶ。子供ができたらこんな感じなのだろうか?
……そんな考えを秒で忘れさせてくれる扉。
“北の魔王。シズネ・クロガネ在中。御用の方はノックしてください“
おいおいおいおい…………もしかして北の魔王は世捨て人として存命?
俺の表情にエメスが不敵に笑った。もしかして、こいつ知っていて俺をここに呼び寄せたのか……
心臓の鼓動が速くなる。そして俺はノックをした。
「ん? こんなところに誰か来たのかい? 入っていいよ」
俺は汗で締める手でドアを開いた。
「お、お邪魔します……一応、今北の地域でCEOやらせてもらってます」
「君が犬神猫々マスターくんか」
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時を同じくして、ややこしい事が実は起きていた。西の聖国、ジェノスザインは多くの移民達に温かい食事を与え。
柔らかい毛布が配られ、人々は皆、無表情で無性の愛を与えてくれた聖女をたたえた。
大司祭サンデーによって集められた移民達。
大司祭という徳の高い役職なのに彼女は同じ立場で語ってくれる。
「皆様、さぞかしお辛い日々を過ごしたでしょう。ですが、安心してください。ここには微弱ながら私、そして教皇パフェ様。さらに、このジェノスザインをお導きくださる聖女王・アラモード様があらせられます! 皆様を、私たちを約束の地へと導いてくれるでしょう」
何も喋らない聖女の代わりにサンデーは語る。
これより、約束の地へと向かう為。
聖女アラモードは大きな船を作ろうとしている。
その船はきっとここにいる皆が乗れる大きさがあるだろう。だが。だが、全てを乗せられないかもしれない。
その方舟の礎となった者は、魂だけになったとしても必ず聖女様が導き、復活を遂げさせてくれる。
「皆様、これより行うのはただの戦争ではありません。北の死威王を討つ、聖戦でございます」
いつの間にか、俺は聖女のリベンジではなく……。
ファナリル聖教会全てから命を狙われる感じになっていた事なんてミリも知らなかった。
さらにもう一人、月夜と共に一人の青年が……




