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第2章最終話 かくてぞ我ら、家路につかん

 精霊達の力ってのを俺は見せつけられていた。

 エルミラシルの暴走で破壊された建物や周囲の地域の復旧、日本の年末の道路工事とは雲泥のスピードで復旧させた。

 

 俺たちはというと、精霊の中でも妖精みたいな可愛らしい小さな子達のダンスを見ながら、精霊王サマのお茶会に付き合わされていた。

 早く元に戻してもらって帰ろうと思っていたが、宴会やらには参加してくれと他の精霊達に言われて今に至る。

 まぁ、こういう時間も大事なのかなと、頑張ってくれた小さな精霊達には俺の秘蔵の飴玉をチップ代わりに払うとそれを食べて嬉しそうに飛び跳ねていた。

 うん、かわいい。


 ダンスの披露が終わると、食べ物やら飲み物やらが運ばれてくる。その間、コミカルな精霊が何かしている。サーカスの道化的な感じか?

 

 この世界の道楽などはどうやら発展途上くさい。この国の歴史の芝居とか始まったが、ガルン達モン娘は集中して聞いているが……

 

 俺はこういうものの楽しみ方の水準を上げる方法を知っている。

 まぁ、機会があれば撮るか……映画。


「精霊王サマ、北のシーイー王様。お待たせしました」

 

 この前きた時は俺の事を田舎者的なディスりをした精霊。

 そんな事もう覚えていないかのように、俺たちを指定の席にエスコート。

 人間にも精霊にもこういうやつはいるんだな。知らないフリじゃなく、自分に都合の悪い事は一切覚えてないのである。

 まぁいいけどさ。

 

 魔物であるガルンにアステマにエメス相手でも精霊達は嫌な顔一つしない事は驚きだった。

 後で知ったが、俺が人間で三人を従えているかららしい。


「マオマオ、いやシーイー王。楽しんでいるか?」

 

 ……おや?

 

 正装、ドレスだろうか? そんなものを着飾ったトリエラさんが俺の盃にフルーティーな香りのする飲み物を注ぐ。


「安心しろ、酒じゃない。ジュースだ」

「いや、酒にしてくださいよ」

 

 俺の姿はまだ子供のままである。元に戻る為にはエルミラシルの力が必要らしく、そのエルミとラシルが目覚めるのに時間がかかるらしい。


「マオマオくん! お酒は大人になってから! と周りの皆さんも言ってましたし、今回はこれで我慢ですよ!」

「俺がガキなのはあんたのせいだろ!」

 

 俺を子供にした精霊王サマはなんの悪気もなく言うので俺はツッコまざる負えなかった。

 

 仕方がないので注いでもらったジュースを口につける。

 超うめぇ! 

 違う!

 

「それはそうとマオマオくん。今回のマオマオくん達の働きは、前回、南の魔王との関係がある事で大罪を執行されました。ですが! なんと! 今回、この国の皆様の満場一致で、エルミラシルの暴走を止めた功績を称えて、前回の罪は放免。そして、今回表彰があります! すごいですね!」


 いや、そもそもおたく等が勝手に俺を子供にして国外追放にしたんですけどね。

 精霊達は、精霊王サマのその言葉に拍手喝采、キレていいやつかな?

 そしてトリエラさんが続ける。


「そうだ! 魔物とはいえ、ガルンにアステマにエメスも同じく精霊の国。ティルナノから贈り物をさせてもらう。そして、本来、魔物の侵入や滞在は許可されないが、お前達三人は特別だ。何か一言もらえるか?」

「ふふん! 精霊って案外、物分かりがいいじゃない!」

「我の望みは一つ、マスターのショタ化の解除を行わない事なり!」

「僕へのご褒美か? それならば美味しいお肉か、甘い食べ物がいいのだ! 皿一杯で僕は満足するのだ!」

 

 約一名、呪いの言葉を吐いていなかっただろうか? 

 それなのに拍手をしている精霊達。頭沸いてるのかな?


 どうやら、精霊の国からの表彰というものは何かくれるらしい。

 もうそういうのいいから早く大人に戻してもらいたいのが俺の今の気持ちなのだが、厚意はありがたく受けておいた方が今後の関係も良好だろう。

 モン娘の三人には、ティルナノでも希少な魔法石のはまったお揃いのブレスレットだ。


 少なくともアステマは喜んでいる。

 これ、制服に合わせて仕事するときはつけさせるか、そんな事を考えていると俺の表彰の番がやってきた。

 どうやら物凄いレアな素材で作られたらしいマントを羽織らされた。


「北のシーイー王。マオマオ殿。ティルナノとの同盟、そして此度の助力感謝する。この大精霊の加護を受けたマントを精霊王ツィタニア様より送る」


“犬神猫々様のステータスが大幅に上昇します。魔神器に匹敵するレアアイテムです。精霊の加護をよりよく受けられます“



 

「良かったですね! お似合いですよマオマオくん! それがあれば、いつでもティルナノにいる私と遠距離連絡が取れます! 実はこの遠距離連絡ができるのはマオマオ君以外ではいません!」

 

 強制的にスマホ友達みたいになったけど、まぁいいか……着信拒否すれば。


「精霊王サマ、いい加減俺の姿を元に戻してくれはしませんかね? その為にここまでやってきたんですよ」

 

 俺の願い、今回は聞き入れてくれるだろうか?

 

「マ、マスター それに精霊共。そんなに焦って元に戻る必要はなしと我が頭脳と心が叫びたがっていると知れ!」

 

 必死だなぁ、エメスさん……。

 

「それに関してはエルミとラシルの目が醒めたのでマオマオ。その子供の刑。只今を持って解除できる」

 

 心底、エメスが嫌そうな顔をしている中、二人の精霊の少女が連れて来させられた。

 一人は白い髪にポニーテール、もう一人は栗毛にツインテール。 


「……こちらの白毛がエルミ。栗毛の方がラシル。二人はマオマオ殿の名付けの後、ツィタニア様の加護によりクラスチェンジの為、睡眠に入っていた」


 あの仔馬みたいな二人もクラスチェンジが行われると人間に近い姿になる。モンスターと変わらないな。

 

「北のシーイー王様。あなたに名前をいただいた! 生命三柱の再生の力をもって生まれ変わったエルミです!」


 スカートの端を持って礼儀よくお辞儀するエルミ。

 

「シーイー王様。同じく、名前をいただいた生命三柱の進化の力を持って生まれ変わったラシル。シーイー王様にかけた多大な迷惑数知れず。ウチ等を別々の生命として誕生させてくれた第二の母……父なんかな? その恩、義を持って返し、子供にした非礼を寛大な御心で許してんか」

 

 どういう言葉遣いなんだ……まぁ、そもそも意識がなかったから罪がないと言えばないよな。

 

 当然許すとしよう。


「いやまぁ、お前達は悪くないだろ。強いていうなら悪いのは、アズリたんと同盟関係にあるだけで話も聞かずに刑を執行したこの国の連中だ」

 

 俺の言葉に精霊達は全員目を逸らす。

 本当にあんたら都合よく生きてますな。

 

「その寛大な心にエルミもウチもただただ感動しかない。では戻すさかい目を閉じてつかぁさい」


 ほんと、どういう言葉なの? 

 そう聞きながらもエルミとラシルが俺に触れた。


「シーイー王様、目を開けて」


 俺がゆっくりと目を開ける。俺の視線が高い。少し酔いそうだ……あぁ、やっと、大人に戻れた。

 

「我、全ての希望を失ったと知る。精霊の国との全面戦争の開始を宣言せん」

 

 俺の晴れ晴れとした気持ちと裏腹に、エメスさんは何故か力を溜め始めた。しかも最終決戦用の術式だ。

 

 まぁ、これは放っておいていい奴じゃない。

 

「エメス。怒りを鞘に戻せ。というかこの状態が俺のノーマル状態だから、お前への褒美はできる限りなんでも叶えてやるから。な? とりあえず落ち着けって」

 

 俺の交渉の末、身体中から蒸気を吹き出してエメスは鉾を収めた。

 

 そしてエルミがいらん事をエメスに吹きこんだ。

 

「……マオマオ様の従者エメス。あの人間の幼体の姿が好みですか? 安心なさい。一度変身スキルを覚えたマオマオ様はいつでも幼体の姿に戻れる」


 え? なんて? まじで? 俺、エメスさんに結構すごい事言ったよ。

 

「我の望み。マスターのショタモードとともに夜、寝室を共にし、無抵抗なショタマスターに我のあの手この手で、最初は嫌がっているのに、気がつけば我の虜になっているショタすけべを所望す!」

 

 ほらきた、ショタすけべってなんだよ。

 

「……エメスさん、それ却下で、まぁなんだ。さーせん」

「マスター!」


 エメスさんには何か、すげぇ美味いバナナでも今度あげよう。


 ようやく大人の姿に戻れた俺を見て、ガルンが目を輝かせる。

 

「ご主人! やはりご主人はその姿であって初めて北の魔王と言えるのだ! あの小さいガキんちょのご主人も僕が運びやすかったけど、今のご主人はなんだか安心できるのだっ!」

「全く、手間かけさせるんだから主は、私たちがいなかったら今回、元の姿には戻れなかったんだから! まぁ、私が入ればあの強力な魔法でちょちょいのちょいなんだから! これで私の有用性が分かったでしょ! あと、エメスの機嫌が頗る悪いからたまにはあの子供の姿になってあげなさいよ!」

 

 善処しよう。

 というか、腹立つけど今回はこいつら無くしては難しかった。今回だけは黙っててやる。

 

 

「それにしても、あのニンフィという精霊。いつの間に消えたのか、次に見つけた時は子供の刑ではなく、完全消失の刑にてこの世界から消し去ってくれる。もしや、あれこそが南の……闇魔界のアズリタンの手の者だったか? いやしかし、魔物であったならば今回のようなケース以外では絶対に入れないし、入れたとしてもすぐに魔物であるとバレる。やはりあやつは精霊。だとしたらなぜ、自分の故郷であるティルナノが滅ぶかもしれないような事を……正直、今回は私たちの警備不足であった。今後は警備を強化すると共に、北との交流も前向きに検討していきたい」

 

 トリエラさんは一人で説明するかのように俺にそう言うので、とりあえず俺は差し出す手を握った。

 ……あと、一応聞いておくか……

 

「トリエラさん、ちょっと聞きたいんですけど、奪われた宝玉って一体どんなものだったんですか? あと、ニンフィさんでしたっけ? どんな人だったのか教えて欲しいんですけど……俺の嫌な予感が当たらなければいいんですけど、今ややこしい人がこの五大国をウロウロしている可能性が高くてですね。そういう意味でも東と北の協力は不可欠かと」

 

 絵が上手いという精霊の方がニンフィさんの絵を描いてくれた。それは俺の思っていた人物ではなく、確かに精霊の姿をしている

 思い過ごしだっただろうか? まぁ、一応エメスに記憶させる。

 

 宝玉はエルミラシルの制御、要するに生命の制御に使われた神が生み出した宝玉。

 エルミラシルを無効化した事で最重要なものではなくなったが、それを使えば生命を生み出す事すら可能だという。

 やべぇじゃん!

 

「まぁ、ニンフィに関しては、捜索部隊を編成して追いかける。あの宝玉は我が国の宝だしな。ツィタニア様にこそ相応しい」

 

 そうだろうか? まぁ内政干渉になるので言わんけど……


「……そろそろ宴もたけなわですが、マオマオ君達は本日は遅いので泊まって行くといいですよ! お部屋も準備させてもらっています! 今日はお風呂で体を癒して、明日は朝ごはんを皆さんで食べてお昼にはエルミとラシルに近くまで送らせますよ! お土産もご用意していますからねぇ! 楽しみにしていてくださいね!」

 

 呑気にそういう精霊王サマ、この人だからこの国を収められるのかもしれないなと思って俺は素直に頷いた。

 

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」

 

 まさか、翌日とんでもないお土産を渡されるとは思わなかったが……

 ゆっくりと精霊の国を滞在した翌日の昼前、

 エルミとラシルが、大きなユニコーンとペガサスの姿に変身。

 その背に乗りながら俺たちを北の領土まで送ってくれることになる。

 

「シーイー王。いつでも私たちを呼んでくれて構いません! ツィタニア様の僕である以前に、シーイー王の子供ですから」

「せやな! ウチ等に名前を与えて、姿も与えてくれたんやから、ツィタニア様は仕える相手かもしれへんけど、シーイー王は仕える相手やのーて、強いていうならウチとエルミのパパやな。パパの言う事を娘は聞くもんや! いつでも呼んでや」

 

 おっと、パパと来ましたか…………

 まだ彼女もいない俺が子供ができましたよ親父……


「……ははっ。素直で可愛い娘ができて俺も本望だよ……しかし、二人でエルミラシルをつけてしまったのは間違い無いけど、あれをワカメモドキと名付けたのは安易だったか……というか、あんな物をお土産をに渡すとかどうよ?」

「生命の増殖」


 そう、エルミとラシル以外の最後の能力。

 

 アステマと精霊王サマに氷漬けにされたエルミラシルの欠片である。

 

「フリーズドライみたいになって大きな瓶いっぱいくれたけどさ。水にふやかしたら数万倍に膨れて食糧難を回避って……」


 少しちぎって食べるとすごい回復するらしい。

 並の最上級薬草なんて目じゃない代物だ。

 しかし、あの無限増殖して世界を終焉させようとした生命の樹の断片だと思うと閉口してしまう。

 その一番の理由、ティルナノにある全ての欠片を集めた物が俺の手元にあるのだ。

 

 これ、お土産という名の厄介払いをされたんじゃないかと邪推する。

 これは……あれだ。

 スラちゃんやホブさんに慎重に管理させよう。

 まぁ、とりあえずは一仕事終わったことに安堵しよう。

 

「おい、みんな見てみろ! 遠くに北の王国が見えるぞ。山脈を超えたらノビスの街。そこまでいければあとは虚の森まですぐだな!」


 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 俺たちは久々に戻ってきた気分になる俺たちの拠点。

 風呂に入り、自分たちの耕した畑でとれた食材を料理、たまにはシェフに作ってもらって食べる。

 

 この世界にきて思ったわ。キャンプにハマって山買う奴の気持ちわかるわ。

 

 俺はある事を考えないようにしていた…………

 封を破いた一枚の手紙。

 









“異世界生活半年目、面談のお知らせ 葛原“

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