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暴走精霊エルミラシルと被害者の俺と頭がスイーツな精霊王サマと

 俺たちがティルナノで死にかけている時。

 西の聖国ジェノスザインでは大勢の信徒を引き連れて中央ヴェステリアに近い国境の山脈にて何らかの土木作業を行っていた。

 過酷な作業に倒れていく信徒達。

 

 その総指揮をとっている大司祭サンデーは疲れて倒れる信徒達に優しい声をかける。


「全てをお救いになる主の化身、その発掘に携わる皆様の魂は上位の世界に昇華される事でしょう! ですが、まだ皆様のこの世界における役目は終わっておりません! さぁ、お立ちなさい! 主の光! オメガリザレクション!」

 

 手に持つ二つの宝玉を使い、最上級回復魔法により、見渡す限りの信徒達を回復させる。

 その大司祭サンデーの魔法に信徒達は奇跡を垣間見たという。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「さて、エルミラシルがここまで肥大化したことは、私と精霊王の座をかけて敗れた時でもなかったですねぇ! 全く短気な子何ですから! 知っていますか皆さん。短樹は損樹と言ってですね! 何事も……」


 そうくだらねぇ事を語る精霊王サマ。

 俺達の世界の格言に近い言葉を語るそれ、

 トリエラさんはその一言一句を聞き漏らさないようにメモをとっている。

 バカが感染るからやめた方がいいよ。


「精霊王サマ、それはまた今度じっくりとお話を聞きます。かなりエルミラシルは気が立っているようですけど、何か勝算はありますか? スキルをフルで使えても俺たちはその場凌ぎ程度でしかないです。精霊王サマのスーパースキル的な物で退治してくれると非常にありがたいのですけど……どうでしょうか? 後さっさと俺の姿を元に戻してください」

「ふふ、慌てない!」


 俺の鼻の頭に指を当てて精霊王サマは微笑む。

 余裕を持ってそう言うので、さすがは精霊王なのだろう。

 この状況を覆せるのだろう。

 

「かつて、エルミラシルと私は精霊達の王を決める儀式としてお互いの持てる力を出し合いました。まさに一進一退。どちらが勝ってもおかしくはないものです。ですが、私が勝ちました。お互い生命を司る精霊でありましたが、生命力という一点では私に一日の長があったんです。今回も負けないでしょう!」


 これはダメだ……絶対にダメなやつだ。

 生命に溢れているエルミラシル。そりゃそうだ。精霊王サマの力を長々と吸っていたのだ。方や、精霊王サマは力を吸われている。

 

「精霊王サマ、今とその時と体調的な万全度はどっちがよかったですか?」

「マオマオくん! 今の今まで私はエルミラシルに囚われ、力を奪われていたんですよ? 今とあの頃とでは比べるまでもなくあの頃の私の方が優れていたでしょうね! でもまぁ、相手はエルミラシルです。私が負けるという道理はないでしょう! さぁ! 本家本元の精霊魔法をご覧に入れますよ! 衝撃のジィ・イグナジオン!」

 

 ダンスでも踊るかのように精霊王サマは魔法を放った。

 エルミラシルの蔦を手当たり次第に消滅させていく。

 凄まじい威力だ。

 アステマとトリエラさんの対消滅に匹敵する。

 一撃でエルミラシルを多く吹き飛ばす。確かにこれを連射することができれば、何の問題もなくクリアだ。

 髪をかき分ける彼女が凛々しく見えた。

 

 これこそが精霊王サマの力の片鱗なのだろう。

 

 俺は見た目で判断していたが、この人、魔王アズリたんが認めるライバルだった。

 弱いわけがない。


 衝撃の精霊魔法。それがどういう理屈でどういう魔法なのかこの際俺はどうでも良かった。

 

 俺たちの目的は精霊王サマの自由を取り戻したことで完結したのだ。

 完全勝利だ!

 精霊王サマは再生し、再び迫り来るセルミラシル相手に再び魔法を詠唱。

 

 先ほどよりも魔法力がさらに高まっているのだがわかる。決めるつもりだ!

 

「エルミラシル。貴女とは生まれた時から共にありました。いえ、そもそも私と貴女は表裏の存在。場合によっては私と貴女の立場が逆だったかもしれません。ですが、やりすぎました。悔いなさい。精霊消失フェ・ダウト!」


 かっこいいぞ精霊王サマ!

 煙がたった先、そこには増殖しさらに増えているエルミラシルの姿。


「う〜ん、どうやらこれは、今の私の魔法ではエルミラシルを止めきれませんね! うふふ!」


 終わった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 気の抜ける絶望の宣告をされたことで、俺たちは精霊王サマを連れて、最深部の中でも宝物庫の中に隠れ、何重にも魔法障壁を張った。

 精霊王サマの力が万全でようやく止め切れるかどうかな怪物相手。

 割と、詰み。俺たちは処刑台に登る自分の足音を想像する事態である。

 精霊王サマの体力と魔法力を全快させた状態しか攻略手段はないと思うが、ここにいる連中の魔法力でどうにかはできない。

 しかし、この状況でニコニコしている精霊王サマに苛立ちを覚える。

 

 ここからは精霊王サマ頼みではなく、再び俺が考えなければならない。よく考えればこんなスイーツ(笑)に運命託すとかどうかしてたわ。

 俺の手持ちのスキルを組み合わせてもできることは高が知れている。

 俺にはチートもなければご都合主義も味方してくれない。


 宝物庫で何やらがさごそと片付けでもしているかのような精霊王サマはこの際無視だ。

 まだ話が通じるトリエラさんに何かいい方法がないかを尋ねる。

 彼女は少し考えると……俺たちに現在の最適解を返した。

 

「究極精霊魔法であれば……あるいは」


 うん、それっぽい魔法の名前が出てきたわけだが、俺が子供ならその魔法に期待もしたかもしれない。

 しかしだ……その魔法が効果的であればいくらなんでも精霊王サマが使用したのではないだろうか? 

 いやしかし、精霊王サマ、頭が大分、スイーツ(笑)なのでその考えに至らなかっただけかもしれない。


 その究極精霊魔法とやらの名称を聞いても精霊王サマはピクりとも反応せずにガルンの耳と尻尾に触れている。

 気持ちは分かる。確かに触りたくなるケモミミにケモ尻尾かもしれないが、今じゃない。

 この空気の読めなさは大したものだ。

                                   

 ガルンも精霊王サマの撫で方が上手いので目を細めて気持ち良さそうな顔をするのやめろ……そんな事を思っていると精霊王サマが呟いた。


「あの魔法ですか……どうでしょうね」


 一応聞いてたのか、

 意味深すぎるだろうがオイ!

 なんで、独り言なんだよお前さんはよ……そこは、「じゃあ、やってみましょう!」とアホ面で言ってくれよ……不安になるだろうがよ。


「ツィタニア様、お力をお貸しください! 究極術式でエルミラシルを封じます!」


 トリエラさんの決意に少し考える。

 そして、ガルンを撫でるのをやめて、トリエラさんの頭を撫でた。


「そう……ですね! やってみましょうか! ですが、トリエラ。その魔法時間がかかる上に、このままのエルミラシル相手には効果はそこまで望めませんよ! その時はその時ですね!」


 ちょっと待て! そこくあしく!                    

 精霊王サマは明らかにトリエラさんが使おうと思っている魔法に関して効果が薄いと判断している。そういうところだよ!

 それがなんでなのか教えてくれればあるいは…………


「精霊王サマ、どういうことですか? 詳しく」 

 

 究極精霊魔法とやらは、精霊の王であるツィタニア、そしてその力の片鱗であるエルミラシルから力を借りて放つ、一般的に使用できる精霊魔法の最終形態らしい……要するに、お前を殺すのにお前の力を貸してくれよという有名な奴だ……

 

「ですので、私とエルミラシルの序列を明確にしなければ効果は薄いでしょうね!」


 精霊王サマの力の片鱗のようなエルミラシル。

 現在、精霊界最大の力を保有しているエルミラシルに究極精霊魔法は通じない。


「私はエルミラシルに勝利こそしましたが、エルミラシルは私より下であるとは認めていません。今現在は私を取り込もうとしているくらいですし、絶対認めないでしょうね。その状態でエルミラシルに明確に私よりも下であると思わせる方法。きっとそれは奇跡ですよ! 信じましょうか! 奇跡を!」

 

 嘘だろオイ!

 精霊王サマがそれ言っちゃいかんでしょ……

 とはいえ、その奇跡を必然的に攻略しないとお陀仏だ。

 言葉も通じない相手を精霊王サマより下と思わせる。

 そんな方法はあるのだろうか? というか、今までよくこの国無事だったな。

 

「……エルミラシルが精霊王サマよりも下と認めるって具体的にはどういう?」

「そうですねぇ……私に他の精霊よりもよくしてもらおうと、持っている加護などを私に分け与えたり、私の代わりにあらゆる事を行使したりですかね?」

「それ無理じゃないですか?」

「マオマオくん正解! 無理だと思いますよ! えらいえらい!」

 

 元気よく、可愛くそう返してくれる精霊王サマ。

 俺はその度に殺意が湧く自分をなんとかどうにか律していた。

 

「……ツィタニア様。祈りに入ります! どうかそのお力を私にお与えください!」

「はい! トリエラ、頑張ってくださいね!」

「はい!」

 

 そんなやりとりを始める精霊王とトリエラさん。

 究極精霊魔法は時間がかかるらしい。

 要するに無防備なトリエラさんは俺達で守らねばならないようだ。

 

「……さて、マオマオくん。ここの防御障壁もそろそろエルミラシルに砕かれるでしょう。頑張ってトリエラを守る道具を見つけました。じゃーん!」

「でっかい……剪定鋏?」

 まさにガーデニングの剪定鋏の巨大なやつを精霊王サマは俺に見せる。

 これはもしかしてあれか?

「それって、もしかして俺の持つヘカトンケイルと同じ?」

「正解です! 宝物庫にしまって忘れていました。魔神器・ウラノスです」

「それならエルミラシルを?」


 言って俺は無駄だと分かった。

 これら魔神器とやらは凄まじい武器である事には間違いない。

 

 しかし、チートの総大将であるなんとか王クラスには通じないとアズリたんで知っていた。

 どうするのそれで?

 

「直接的にはエルミラシルを止めれませんが、伸ばしてくる蔓や木々は伐採できるでしょう!」

 

 本当に気休めか。

 そうこう言っている内に、宝物庫の魔法防御が破られた。

 俺はそれに合わせて、ユニオンスキルを発動する。全員にクラスチェンジ、ウィルオーウィプスだ。

 

 ガルンとアステマ、エメスの姿が少し変わり驚く精霊王サマ。

 

「みなさん。見違えましたよ! 上級精霊クラスの魔物になられたんですね! 今日はお祝いですねぇ! でもほんの少しだけ、それらの力じゃたりません。良い魔物の皆さん、そーれ!」

 

 良い魔物ってなんだよ……

 が精霊王サマの加護。

 

“アルティメットスキル・フェアリー・オーバードライブを確認。犬神猫々様、パーティーの全員。ユニオン全員の能力が現在十倍に向上“


 嘘だろ…………すげぇな精霊王さま。要するに先生の能力は単独3000%だったけど、それにユニオン全体版みたいな効果か……

 

 これならやれる! とかフラグを立てまくるアステマの魔法が炸裂する。

 続いてガルンの短剣とナイフによる連続斬り。おまけはエメスの破壊力に物をいわした衝撃波。

 

 俺は思わず。やったか? とアステマくらいベタなフラグを立てた。


「やれてないですよマオマオくん。次が来ます!」

「マジかよ! 全員、固まって対処に当たるぞ! あつまれ」

 

「これは少し困りましたよマオマオくん。今までの攻防でエルミラシルは本来持つスキル。自己再生。自己増殖、自己進化に拍車がかかっています。私たちの魔法がほとんど効かない外骨格のような皮を精製していますね! さすがは命の精霊エルミラシルですね。どうしましょ!」


 てへっと舌ぺろする精霊王サマ。

 俺は殺意を感じる以前にエルミラシルの攻撃を捌くのに精一杯だった。小狐さんに壊されてから新調した3900円のキャンプナイフが壊れそうだ。咄嗟に叫んだ俺。

 

「や、やめろエルミ!」

 

“エルミラシルへの名付けを開始、失敗しました。成功確率は0%です“

 

「名付けなんてしてねーよ……ちょい待て、アプリ。名付けに成功したら俺より下の序列になるか?」

 

“犬神猫々様。名付けによる効果はパーティーやユニオンへの強制加入。そして主従関係や雇用関係が生まれます。結果として犬神猫々様が序列で上位に立ちます。あと私はアプリではなくエイプリルという固有名があります“


「よし! 勝機が見えた!」

 

 アプリの最後の言葉は無視だ。

 俺のエルミラシル攻略作戦、最終章である。エルミラシルを倒す事は不可能。

 無効化する事は精霊王サマより序列が下と認めさせる事。

 確率0%だが、俺より下の序列であると認めさせる方法が名付けという特殊スキルである。

 それを精霊王サマにも恩恵を受けさせる方法がある。



「精霊王サマ、整った! エルミラシルをあんたより下だと認めさせる方法が一つだけあったわ。しかし、これはもうアンタの一存で決めてくれないとならない。俺はアンタのユニオンの傘下には入れない事はこの前確認済みだ。だけど、俺のユニオンと精霊の国のユニオンの同盟なら可能だろ?」


 できるかどうかは分からないが原理は至って簡単だ。

 俺と精霊王サマが同盟関係になる。

 そして、俺がエルミラシルに名付けを行う。

 俺と精霊王サマは対等な関係である。

 俺よりも序列が下であるエルミラシルは俺と対等である精霊王サマよりも序列が下であると強制的に判断される。

 

「あらあら! 私達の精霊の国とマオマオくんのユニオンの同盟ですか? それは素敵ですね! 確かに私たちの精霊の加護があれば、エルミラシルへの名付け確率は飛躍的に上がるはずです」

「ですよね? 同盟組んでもらえます?」

 一つの賭けだ。俺は魔王アズリたんとも同盟を組んでいる。それ故に断られるかもしれない。

 また、同盟を組んだとしても必要最低限の環境が揃っただけで、エルミラシルへの名付けが成功したわけではない。

 

「もちろんですよ! こんなところまで遊びに来て、また私達の国を共に救ってくれようとするお友達と同盟になれるというのは素敵な事だと私は思います! じゃあ見せてあげましょう! 私たちの仲良しパワー!」

「なんか若干古いけど……助かります。では、同盟を!」

 

 俺と精霊王サマは手を触れる。そしてユニオン同盟の締結が簡易的に完了した。


“ユニオン精霊の国との同盟が行われました。犬神猫々様のユニオンレベルが飛躍的に上昇します。常時オートで各種加護が行われます。課題であった食材の保管と運輸がクリアされました“

 

 思いもよらない副産物だ。

 

「おや? 魔王のスキルも使えるんですね? 間接的に私と魔王が同盟関係にあるのでしょうか? それは、困りましたね!」

「まぁ……そうなんですかね」

「えぇ、アズリたんと仲良くすると皆さんに怒られてしまうんですよね! 何故かわかりませんが!」


 いや、魔物達の王様、魔王だからだろ。

 

 精霊王サマは巨大な剪定鋏を振り回しながら襲いかかるエルミラシルの触手を切り裂き笑う。

 なんだか少し嬉しそうに見えるのは俺の勘違いじゃなさそうだ。

 そして俺はある事にも同時に気づいた。


「精霊王サマ、自分で判断してね?」

 

 そう、俺が初めて彼女に謁見した時は、周りの神官やトリエラさん達の言う事をそのまま反復していた。

 蝶よ花よと甘やかされていたと思われる精霊王サマ。

 あるいは、周りに合わせて波風立たないようにしていたのだろうか?


 いずれにしても精霊王サマは自らの意思でエルミラシルに対峙。

 モン娘達も魔王権限と精霊王サマの加護ですこぶる強い。

 これはいけそうだ……なんというか勝つる!

 俺は精霊王サマと同盟になった事でオート加護プラス、運命力向上を持って再度エルミラシルを見る。


「アプリ起動。俺がエルミラシルへの名付けに成功できる確率を表示してくれ、できれば確率を上げる方法の提示も求む」


“アプリ起動。犬神猫々様が想定外脅威、暴走精霊エルミラシルを名付け、使役できる確率…………4%です。確率変動を起こす方法。精霊王ツィタニアの助力“

 

 よし! 0じゃなくなった! あとはこれをどれだけ上げられるかだ。

 というか、俺たちは今、暴走精霊などと言うものを相手にしているのか……モンスターとの違いはなんだろう……まぁここにいる誰も答えてくれないだろうが……

 そんな事より、精霊王サマの力を借りれば名付け確率は上げられるらしい。五十%、いや三十%でいい。

 あとはどうにかする。

 パワーアップしたとはいえ、ウチのモン娘達は正直そこまで強くない。持ってあと二十分ってとこだろ。

 

「エルミラシル。お前をエルミと名付ける!」

 

“アプリ起動。名付けに失敗しました“

 

 4%程度だ。そりゃ失敗するだろう。俺は強運の持ち主でもなければ、こういう局面で奇跡を起こすような持っている側の人間でもない。

 だが、リアリストである。基本的に勝てない喧嘩はしない、

 だったら確率を上げる!

 

 あと26%の上昇が最低ラインだ。三回に一回の確率であれば流石の俺でもその内あたりを引ける。

 俺の今現在使用できるユニオンスキルを全て叩き込む。まずは……群れのボススキル。

 

 個体なのか、群体なのか分からないがアプリを見る。


“名付け成功確率6%“

 

「よし、じゃあアルティメット系スキル。魔王の威嚇!」

 

 別名アズリたんの威を借りる俺!


 魔王アズリたんのプレッシャーを纏うことができる。

 これはスキルの消費魔法力が段違いに高い。が、精霊王サマの加護とこの地にいる事でそれが半減している。

 成功確率は?

 

“名付け成功確率17%“

 

「究極精霊魔法。完成した! いつでも使用可能だぞ!」

 

 トリエラさんの準備が整ったらしい。

 

 決め手としてこの究極精霊魔法をと考えていたが……流石に精霊王サマを除く三人が限界っぽい……

 

「……しゃーねぇー。トリエラさん! 俺の指示に合わせてその魔法使ってください。できればあの巨大な体躯を3分割できれば嬉しいのですが」

 

 俺の考えにトリエラさんは、はっ! と気づく、精霊王サマは笑ってるだけだ。

 エルミラシル全体じゃなく、一部名付けしてやろうと俺は閃いた。

 

「マオマオ……私もこの魔法を使う事は初めてでそんな器用な事はできないぞ。それも三分割だと? 放てばそれで終わりだ。貴様……だがその無茶を通せと言うのだろ? どこまでできるかわからんが……承知した」

 

 いや、もうアンタが精霊王でいいよ。


 できない、じゃなくてやってみる。ビジネスパートナーとして一番ありがたい。

 トリエラさんは祈りの姿のまま冷や汗を流している。相当すごい魔法なのだろう。というか、トリエラさんの魔法ってアステマに合わせて使っていたものばかり見てたから実際はもっとすごいのだろう。

 そんなトリエラさんに精霊王サマは魔神器、巨大剪定鋏ポチョムキンを投げた。

 

「トリエラ、何をするのか分かりませんが、それ使いなさい! 私の加護をありったけ込めました。この一回くらいはトリエラでも神々に匹敵する力を使用できるでしょう! さぁ、みんな! もうひと頑張りです!」

 

 ちくしょー、なんも考えてないハズなのに……

 全能力向上スキルをかけてきやがった……精霊王っぽい……いや、このひと精霊王なんだけども……

 てか、精霊王サマ、神々と喧嘩できるレベルなん?

 

「……これは……これがあればいけます! ツィタニア様。ありがとうございます!」

 

 精霊王サマは魔神器がない状態でも当然の如くと言うべきか……

 ガルンやエメスよりも強烈な打撃に、アステマを優に超える魔法迎撃。

 それでもやはり……またエルミラシルはさらに進化を遂げている。

 多分、この次の確率を上げる仕込みが最後のチャンスだ。


 もう一つくらい何かスキルを重ねかけしたいところではあるが、もう俺の手持ちのユニオンスキルに確率変動に効果的な物は残り一つ。

 そして使い所は今じゃない。

 それ故に頼みの綱はトリエラさんの魔法。

   

 ガルンが息を切らして、トリエラさんの前の蔓を切る。

 あのエメスが真面目な顔で俺と目が合うと口パクで卑猥な事を言ってくる。

 何してんだこいつ……

 気を取り直してアステマはなんか泣きそうな顔で魔法を連射。

 そんな三人に回復と能力向上バフをかけ続ける精霊王サマ。

 

 ゆっくりと深呼吸し俺は覚悟を決めた。

 

「みんなあと少し気張れ! トリエラさん、今こそその究極精霊魔法。使ってください! おねしゃす!」

 

 俺の号令に、トリエラさんは頷く。魔神器・ウラノスを持って魔法を唱えた。

 

 “精霊よ謳え! 門より出るは、全知の女神ダントリオン 一陣の風纏い、緑黄の羽広げ羽ばたけ 全能の女神カムイチセ 祖は命の源、余はそれらを崇める者。盟主精霊王ツィタニアに代わり、命ずる。理より外れいでる邪なる魂を禁ず“

 

 この世界にきて初めて魔法らしい魔法の詠唱を聞いた気がした。

 

「究・極・精・霊・魔。エンシェントフェダウト!」


 トリエラさんはウラノスで強化された古代術式の魔法を解き放った。それは見えない鋏にエルミラシルが刈り取られるように……

 次々に切り裂いていく、目算でしかないが、アステマとトリエラさんの合体魔法を遥かに超えた威力だ。

 爆発がない分、消滅していくのが見ていて恐ろしい。

 むしろこれなら名付けとかいらないんじゃね? とか思った俺は浅はかだった。

 

“アプリ起動。暴走精霊エルミラシル。急激な勢いで自己増殖と再生スキルを発動。それに伴い確率消滅への耐性進化を開始“


 エルミラシル、放っておくともう誰も止められないような怪物に変貌を遂げるだろう。

 俺はチラリとスマホを見て、名付け確率を確認。

 これだけ切り裂かれてさぞかし確率が上がったと思ったが20%だった。

 

 くそ、これじゃまだダメだ……ワンちゃん成功したとしても次がない。

 

 俺はどうすればいいか考えた。もう直魔法を放ち終える。

 そこに突っ立って、花火でもみるように感嘆の表情を浮かべている精霊王サマ。

 

 俺はこの精霊王サマを働かせる事を瞬時に思い浮かんだ。

 今は同盟関係、俺と精霊王サマは対等ゆえに、多分言うことを聞いてくれるだろう。

 

「精霊王サマ、トリエラさんに加勢! 今こそ勝鬨ですって! 早く!」


 俺が精霊王サマに命令をした。

 それにトリエラさんは頗る不愉快な表情をする。

 

 スイーツ(笑)精霊王サマ、みんながやることに賛同する精霊王サマ、俺が言ったことに少し止まって頷いた。彼女は両手に魔法力を込める。

 そして魔法力が空になりそうなトリエラの肩を抱く。

 

「ふふふ! では僭越ならが、私もエンシェント・フェダウトを、さらに対魔王用の魔法も放ちまーす! トリエラ、よく頑張りましたね! ではでは、もう少しだけ一緒にエルミラシルを懲らしめましょう! マオマオくんが勝鬨だと言っているので、そうなんでしょう! せーの!」

 

 すげぇ魔法力だ。さすがはあのアズリたんとガチンコで喧嘩ができると噂の精霊王サマ、エルミラシルの再生速度を上回った。

 さらに精霊王サマは本気を出したらしい、薔薇の花びらみたいな翼を広げ、そして先程の究極精霊魔法よりも上位の魔法を放った。

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「エルミラシル、少しおいたがすぎましたよ? ワンダーランド・ラストパレード!」

 

“名付け成功確率29……33%“

 

 決して高い成功確率とは言えない。それでもこれ以上はもう無理だろう。俺は今までの支援魔法の手を止めて、このエルミラシルとの決着をつけるべく、前にでた。

 

「このクソ巨木。俺の体をガキんちょにしやがって! 夜な夜な、エメスに襲われて寝不足気味なのはお前のせいだからな! お前を名付ける。エルミ!」


“名付けに失敗しました!“



「名付けるエルミ!」

“名付けに失敗しました!“


「名付けるエルミ!」

“名付けに失敗しました!“


「名付けるエルミ!」

“名付けに失敗しました!“


「名付けるエルミ!」

“名付けに失敗しました!“


「名付けるエルミ!」

“エルミラシル自己再生部にエルミの名付けに成功しました!“

「名付けるエルミ!」

“名付けが成功している為、不発に終わります“

 

 五回目で成功。実質成功確率20%。これだから実際の確率は嫌いだ。

 俺の目の前でふわふわと浮いているツノの生えた仔馬みたいな精霊。これがエルミラシルの自己再生部エルミなんだろう。


「よし、キマシタワ!! これで三分の一はこっちのもんだ! あと一つ名付けに成功すれば精霊王サマより実質下になる。もうエルミラシルは再生しない!」

 

 俺の意図をようやく皆が理解したところで、流石のモン娘達も最終攻撃に入る。もうスタミナ切れを無視でいい。

 

「トリエラさん、お疲れ様でした! 後ろで休んでてください。精霊王サマ、あとワンチャン。大きな魔法を使ってください。さらにエルミラシルを分断します。名付け確率、45%まで上昇。行ける!」

 

 勝負は最後までやってみないと分からない。

 俺は、完全に勝利を確信し、それ故に危機回避能力が下がっていたとしか言えない。自己再生を失ったエルミラシル。

 

 増える、そして異様なくらいに固く色も変わる。

 

“アプリ起動。暴走精霊の属性変更。強靭に同種を増やす為に進化を開始。急激に増殖しています。確率への耐性を付与しています“

 

「おいおい、自己再生を失ったからって、自身を最強の単生物に進化してさらに自己増殖するってか……それって進化じゃねーのかよ……なんなんだよこのチート植物は……それに俺の名付け確率がすごい勢いで下がってる。現在27%……これ以上を下がるとヤベェ……精霊王サマ。俺に運命とかの加護をありったけたのんます! 最後の切り札を使いますので!」

 

 クッソぉ……安定を望みすぎた。

 これで失敗したら本当に洒落にならないぞ。この地域を増殖で満たして他の地域にも侵食するだろう。

 

 俺は本当であれば、一回目が成功したさい。確実に二回目を成功させる為のスキルを選択する。

 このスキルを使ったとして、実際にどの程度成功確率をあげられるのか……

 しかしやむ得ない。もう精霊王サマの魔法しか通じない上に、それですら効果が薄い。

 

「ガルン、アステマ、エメス。下がれ、ユニオンスキルを使う」

 

 何をされるのか三人は理解、エメスだけが嬉しそうだった。


「魔王権限、ユニオンスキル。グラトニー! そしてついでに、精霊王加護。ファンタジー! さぁ、これで一時的にはあの聖女サマともガチンコで殴り合いができたんだ。少しは追いつくだろ!」

 

“アプリ起動。犬神猫々様が人王種反応をもっています“


 なんだか分からんがとてつもなくすごいのだろう。

 

“名付け確率……72%“

 

「エルミラシル。悪いようにはしない。だけどお前はやりすぎだ。精霊王サマの元でみんなの役にたつ精霊になれ! お前はラシルだ!」

 

 アプリから聞こえる。エルミラシル。自己進化機構の名付けに成功。

 死ぬ程眠たいけど、俺は最後の指示を出す。

 

「アステマ、トリエラさん。そして精霊王サマ、残りの増殖機構を氷の魔法で氷漬けにてください!」

 

 さらに増えようとしているエルミラシル。

 されど、三分の二をこちらに引き込んだ事で乾燥ワカメみたいに小さく固まった。

 

 精霊王サマの前で頭を下げる仔馬のユニコーンみたいなエルミとペガサスみたいなラシル。

 そして大量の冷凍乾燥されたエルミラシルノ自己増殖の残滓。

 

 疲れ果てている俺にガルンがやってくると、俺の口の中にその残滓を放り込んだ。

 吐き出そうとする前に水で流される。


「ガルン! 何してくれて……ん? なんか体中から力がみなぎるというか……なんか頗る調子がいいんですけど? 何これ? やばい系のハーブか何かですか?」


 と言うのは冗談で、生命の精霊の破片だ。

 一欠片でレアな宝石と交換しても安すぎるような伝説級ポーションの役割がある。

 

「こりゃすげぇわ……そりゃこんなの倒せないわな」

 

 今にして思えばよくまぁ、俺たちはこんな不死身に近い怪物に勝てたもんだ。

 神殿の破損は最低限で抑えれたみたいだが……

 復興に少し時間がかかるだろう。

 まぁ……同盟関係でもあるので、このあたりの手伝いをトリエラさんに申し出ると、感謝された。

 トリエラさんに促された精霊王サマは角笛みたいな物を取り出してそれを吹く。

 

「集合の笛です! 避難していた皆さん、お戻りくださいね!」

 

 後から知った事だが、その笛の音はノビスの街までも響き渡ったという。

 

 どうにかこうにかティルナノを救ったというか、間接的に世界を救った俺たちに精霊達はもてなしをしたいという。

 俺以外三人が魔物である事を尋ねたが、流石にその辺りの礼儀はもちわせていたらしい。というか、精霊王サマが仲良く話しかけている相手を邪険にできなかったのだろう。

 

 こうして、後にティルナノ事変と呼ばれた暴走精霊事件は幕を閉じた。

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