表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/95

なんてったって精霊王サマはティルナノのアイドル

「さて……ギリギリだ。ギリギリまでエルミラシルを寄せてから一気に逃げ切りの群れのボススキル発動だ。言ってあいつらも心配だしな」

 

 俺の作戦を半分も理解しない連中である。期待通りに進んでいるなんて俺は一ミリも思ってはいない。 


 しかし、そろそろ俺もやばい。群れのボススキルを持ってしてみんなのところに行こうと思った。

 思ったわけだが……

 俺の目の前に勢揃いだ。天才かこいつら?

 

「なぁ、お前達。俺の話聞いてたよな? お前達は纏まって真っ直ぐいく。そこで俺がスキル発動。かーらーの。全員で精霊王様を救おうな? って作戦だったわけだよ。うん、正直この未来は想像していたけど、流石にこの状況は笑えずに少しイラッとしたわ。流石に一杯一杯でお前ら運んでたわけだからな? 何やってんのお前ら、まぁいいや……お前らに期待した俺が間違ってたわ。というかトリエラさん、あんたもこの無能の中に入ってるからな?」

「なっ! 貴様」

 

 そう、我関せずな顔をしているトリエラさん。

 アンタの大事な精霊王サマ助けに行ってるんだろうが……

 

「なっ! 貴様! じゃないですからね? おたくの精霊王サマ助けたくないんですか? もうすぎた事をごちゃごちゃ言うつもりはないですけど、ここから次のプランはっきり言って俺のユニオンスキルも固有スキルもほとんど使い切ります。あとはなんとなれという感じです。最大火力の魔法をアステマとトリエラさんは放ってください。魔王権限で最大強化します。これで突破できなければ静かにエルミラシルに取り込まれて栄養にでもなりましょう」

 

 俺の諦めにもとれる言葉にトリエラさんが下唇を噛む。

 いや、なんか俺が悪い事言っているみたいな態度取ってますけど元はといえばあんたらが協調性なさすぎた事に問題があるんですからね? 実際はボス戦前で体力魔力温存で進むところをだからね?

 

「ふ、ふん! 私が! 誇り高き精霊のナンバー2である私が魔物達と仲良く密集しておけという方が間違っているのだ。だが、ツィタニア様をお救いしたいのは嘘じゃない……その、ごめんなさい」


 よし、百点だ。うちのモン娘、特にアステマと違って謝罪すると言う事を知っている一点については評価しよう。下々の人間相手に頭を下げたのだ。見上げた心持ちじゃないか、そして俺は視線をアステマに向ける。


「おい! アステマさんよぉ、なんかニヤニヤしてるけど、お前も同罪だからな? お前は謝らないので今度のオヤツをお前だけ抜きだ」

 

 その言葉にはアステマは大きく口を開けて、瞳には涙が溜まりつつあった。泣くくらい嫌ならいいかげん謝れよ。 

 このオーダーが失敗したら本当にお陀仏だ。アステマとトリエラさんの最大魔法、炎と氷の上級魔法をぶつけて起こす対消滅。

 

「トリエラさん、アステマの魔法力に合わせて力を加減してください」

「主ぃ! 私はトリエラになんか負けてないんだからっ! 私が本気出した至高の魔法なら……」

「うるせぇ黙れ!」


 俺に怒鳴られて再びベソをかきそうになるアステマだが、これ以上怒られるのは勘弁と魔法力をねる。

 

 魔法と化学が融合した破壊力。これは一度試してみたいと思っていたんだが、忙しすぎて忘れてた。あと俺が強力な魔法使えないことも理由だ。

 さて、二人に任せてガルンとエメスは退避誘導班である。速度上昇と魔法耐性を残りのユニオンスキルでガンかけする。


「トリエラさん、アステマの限界レベルで魔法を調整してください! あとは俺の指示に従いそれを放ってください。あとは、ガルンとエメスに全員を引っ張らせて精霊王サマのいるであろう神殿に向けて全力ダッシュです。できるだけ寄せて、アステマ、我慢しろ! ……今だ! 二人とも魔法を放てぇ!」

 

 二人の炎の魔法と氷の魔法は同出力で放たれた。魔法を放った当の本人達はすでにガルンとエメスに引っ張られている。

 当然俺もそうなのだが、想像以上に凄まじい威力だ。

 

 爆風が向こうから押し寄せてきている。それに逃げるように走り抜けるガルンにエメス。

 パワー脳筋系は使いようだな……

 これ威力にして、アズリたんとかあの聖女王サマとかとやりあえるくらいの威力じゃないか?

 

 通じる。通じないは別として……

 

「……凄まじい威力だな。今の魔法は二つの魔法を掛け合わせた事でできたのか? 見てみろ! 一帯のエルミラシルを殆ど駆逐しているぞ」

「ふふん! これがグレーターデーモンである私の実力よ! 主は最初から私に頼っていればよかったにに、本当に馬鹿な子。今の主がお子様じゃなかったら文句の一つでも言ってあげるところだけど、今回は許してあげるわ。精霊のトリエラの魔法も中々だったけれど今後の私の魔王種への第一歩になったわね」

 

 俺はアステマにスマホを近づける。

 彼女のクラスチェンジ分岐に魔王という転職先はない。

 魔物にとって魔王に仕える事や魔王そのものになる事は特別な意味があるという事を俺は知っている。

 ……しかし、悲しいかなアステマには魔王になれる素質はミリも存在していない。


 まぁ、現実を知るのはもう少し成長してからでもいいかとそっとスマホの電源を落とした。


「主? もしかして子供目線で私を見て人間らしく欲情でもしたのかしら? ふふん、主も可愛いところあるじゃない! それとも、魔王になると聞いた途端、私に仕えるべきじゃないかと模索しているのかしら? さかしいわ! さかしいけれど……主、それ! せ・い・か・い!」

 

 ウィンクしながらそういうアステマ、普段ならかなりイラつく事を言われているハズなんだが、彼女が不憫になって俺は優しく苦笑するしかなかった。

 

 そんなくだらない事よりもエルミラシルを大幅に駆逐した事で進みやすくなった。

 だからこそ分かる。精霊王サマがどれだけとんでもない精霊か。

 神殿の最深部にて、エルミラシルに縛りつけられながら、魔法力を吸収されながらこの怪物みたいな植物を抑えている彼女の姿はまさに精霊王だった。

 その姿を見るや否や、トリエラさんは走り出した。

 

 もはや涙ぐんでもいる。

 精霊王様の頭はだいぶスイーツ(笑)だが、家来にここまで慕われていればいい方だろう。


 俺たちも精霊王様の元へと同じく続いた。この状況、ひっくり返せるのはもうスーパーチートの精霊王様しかいない。


「トリエラ、戻ってきてくれましたか? おや? 魔王は?」

「……その、精霊王様……誠に申し訳ございません」


 トリエラさんが状況の説明を片膝をつきながら話す。

 それに、エルミラシルの蔓に自由を奪われながらうんうんと話を聞く。

 シュールな光景だなぁ……


「なるほど! よくわかりました! 魔王には会えなかった、代わりに国外追放のマオマオ君を連れてきたんですね!」


 なんもわかってない感じなんだけど大丈夫だろうか?

 そしてアンタとアンタの国の一大事なんですよ?

 

「マオマオ君、説明をします! このエルミラシルは精霊の中でも古代種、大変危険です! ここまでは分かりますか?」


 笑顔で俺に質問する精霊王様。

 あぁ……うん、これはきついわ。

 悪意がない女ぶん殴りたくなったのは生まれて初めてかもしれない。


「精霊王サマ、大体わかります。手短にいいます。助けにきました。というか、貴女をここからなんとか助けますので、このエルミラシル本体は精霊王様でなんとかしてください。あと元の姿に戻してください」


 俺の言葉を聞いた精霊王様は少し困った顔をする。


「マオマオ君、世の中、叶えてもらえるお願いは一つって相場が決まっているんですよ? もう少し、お勉強しましょうか? 大丈夫です! 私がついてますよ!」

 

 ……あっ、殴りたい通り越して殺してぇ


 こいつ、今大ピンチの状態のハズなんだけどな。

 薄い本だとエロい事になるような触手に雁字搦めの動けない状態じゃん?

 普通そこは助けてにきてくれてありがとう的な事言わない?

 

「いやぁ、なんかお楽しみ中ですか? 精霊王サマ。というか助けに来たんですけどその必要ない感じです? もう帰るので元の姿に戻してもらえます?」

 

 俺の発言を聞いて精霊王様は少し考える。

 そうだ! 悔い改めて謝罪しろやくそアマがぁ!


「ふふふ! マオマオくん。今の私をみてどう思うかな? 両手が塞がれていてさらにエルミラに魔法力を吸われています。私をここから助け出してくれないと無理ですよ! おっちょこちょいですね!」

 

 うん。

 俺は今究極の選択を迫られていた。

 もう子供のままでもいいんじゃないだろうか? こいつ助けたくねぇ! 大人に戻る事より、こいつを懲らしめたい!

 しかし俺はトリエラさんとこのスイーツ(笑)を救う約束をしている。

 

 俺は泣く泣く精霊王サマを助けるという事を選択せざるおえない。使えるスキル回数も魔法力も殆どないのだが……

 

 せめてこの愚か者に一矢報いたい。

 

「よし! アステマさん。トリエラさん全力全開の最大魔法をこの精霊王様に向かって放ちなさい! 先ほどの対消滅魔法で汚い花火を散らしてやりなさい」


 俺がどこぞの悪の帝王の気分にさせられる程度ムカつきながら指示を出す。

 

 俺のその命令に威力を知っているトリエラさん、そしてアステマも驚いた表情で俺を見る。


「おい! マオマオ。あんな威力の魔法をツィタニア様に放ったらツィタニア様といえどただじゃ済まないだろう! 何を考えているんだお前は!」

「トリエラさん。エルミラシルは精霊王サマクラスの精霊なんでしょ? だったらさっきの魔法で吹き飛ばすしかないでしょ。それにアズリたんと互角なら死なんでしょ。それともアンタらのツィタニア様はその程度でやられるんです?」


 俺の挑発。精霊は目の前のスイーツ(笑)を除いてそもそも気位が高い。人間に煽られて黙ってはいない。トリエラさんは俺を睨みつけながら魔法力を高めていく。

 それをみて、アステマも慌てながら魔法の詠唱を始めた。ガルンとエメスに速度上昇のバフをかける。

 

 これで精霊王サマがガチで死んだらどうしよ。

 まぁ、その時はその時だな。多分こいつら死んでも生き返るだろう。


 トリエラさんとアステマの合体魔法を見て精霊王サマは楽しそうにしている。

 

「ふふっ! トリエラとそっちはデーモンかな? 普段はいがみ合っているのに仲良く魔法を使うんですか? さっきの大きな音も二人かしら? 元気なのはいいですが、ここは精霊神殿です。あんまり騒動はダメですよぅ!」


 精霊王サマ自分の状況を理解していないのだろうか? もう通り越して凄いわ。この人おもしれーわ。


「アステマ、トリエラさん。やれ!」


 俺の慈悲なき号令、それにトリエラさんは物申そうとしたが、


「やれ! 安心しろ! ガルンとエメスには強化バフをかけ終わっている。ここを跡形もなく吹き飛ばしても俺たちは逃げられる算段だ」


 当然その中にオツムの弱い精霊王サマの頭数は入っていない。

 トリエラは小さく「わかった」と俺を信じきって頷いた。


「ツィタニア様、今すぐにそこからお助けいたします故お待ちください!」

「えぇ! あの真面目で精霊一魔物嫌いなトリエラがこうして魔物と協力している姿を見るのは私としても嬉しいものですよ! 是非、あなた達の協力魔法見せてくださいね!」


 この人さ……悪い人じゃないんだろうね……ちょっと罪悪感が……

 

「安心なさい精霊の王種。この私の至高の魔法の前に跡形もなく消滅させてあげるわ! ……来れ氷結の咆哮!」

 

 アステマさんは殺る気満々で持てる最強魔法を練り込んでいる。

 

 少し腑に落ちない様子ではあったが、トリエラさんも炎の強烈な魔法を今組み上げたらしい。

 ……アステマの魔法力に合わせて力を修正。

 そう、このエルミラシルですら一撃で蒸発させられる合体魔法が完成した。

 

「……マオマオ……悪いな。魔物達の首魁である貴様に我が王を救う手助けをしてもらう事になるとは……この礼は必ず」


 いや……今感謝されるとかなり俺としては気まずいというか……ねぇ?


「トリエラ。これが終われば、お茶会にお呼びすればどうですか? 私も張り切ってスコーンでも焼きますよ!」

「えぇ、そうですね! ティルナノ最高のお茶でこの者達をもてなしましょう。魔物とはいえ……礼には礼を返さなければなりません。行きます!」

 

 アステマとトリエラさんの対消滅魔法はとてつもない爆音を響かせて精霊王サマを中心に大爆発を起こした。


 俺たちが脱出をしたのは精霊神殿から数キロ離れた場所であった。精霊神殿は……無傷で健在だ……どうなってんだあの建物。

 

「ふっ、さすが私たちの城。あの魔王アズリたんが暴れても壊れないだけの事はある。早速ツィタニア様の元へいくぞ」


 これで行って、精霊王サマがグロい姿で死んでたらどうしよ……

 まぁ、ウキウキしているトリエラさんに処されますわな? うん、多分ね……きっとね……

 

「ふぅ! 中々どうして? お二人で使った魔法は上級程度でしたが、魔王の一撃に匹敵する火力でしたね! 凄いですよ! 二人とも!」

 

 お母さんかお姉さんが娘か妹を愛でるように精霊王サマは優しく微笑んだ。

 

 嘘だろ……彼女の発言から察するに、アズリたんの一撃はあの対消滅と同格で、そして精霊王サマには傷一つつかないらしい。

 

 こんな連中が各国の王様で政治能力は皆無でもそりゃ安心できるだろうな。周りは大変だろうが、みんな陶酔してるし、やっぱこの世界無理だわ……


 俺が再び、ホームシックというか日本に帰りたいと思っている中精霊王サマは言った。

 

「ではみなさん! お茶会の前においたがすぎたエルミラシルにお仕置きをしましょうか?」


 そう、どれだけオツムが弱かろうと、彼女は精霊王ツィタニア。あのアズリたんとガチンコで喧嘩できる存在なのだ。

 数日間にわたり魔法力を吸われ続けていたらしいが……

 

“アプリ起動。想定外の魔法力が集中しています。対象精霊王ツィタニア。神話級の魔法が発動されると思われます。できる限り早くそこから逃げてください“


 だそうだが……一気に消滅させられたエルミラシルは本能的に怒っているのだろう。増殖スピードが増す。

 

「残りの俺の魔法はユニオンスキルが一回、個人スキルが一回。三人のクラスチェンジを行える程の魔法力は残っていない……いや、変だな? なんかもう少し使えるような感じだぞこれ?」

 

 俺の反応はガルンやエメス、アステマたちもそうらしい。

 その驚きをトリエラは苦笑した感じで見つめる。

 

 それは、魔法を練り込んでいる精霊王サマの説明によって俺も納得することができた。


「お利口さんの皆さんに、私。精霊王ツィタニアの最大加護をかけさせていただきました! スキルはフルで使えますよ!」

「マジか……」


 すごい、ゆるい感じで精霊の国、最終戦闘が開始された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ