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おねショタと触手攻めとどこ中? の話

 あまりにもめそめそするので、スケール国で行水し機嫌を戻したアステマ。

 

 ついでにライル様の家来が色々保存食くれたり、パイコ貸してくれた。

 これで大幅にショートカットをしてティルナノにもう一度向かう事ができる。

 今回のタスクにあまり時間はかけてられないのである。

 

 パカラパカラとパイコを走らせる。この前と同じく俺はガルンを前に乗せる。俺達の前のパイコはエメスが手綱を持ち、後ろにアステマ。

 黙っていればこいつら、姫騎士に姫なんだがな。たまにすれ違う人たちはその耽美な姿に見惚れているようだった。

 きっと俺もこいつらのことを知らなければ、同じように夢を見れたのかもしれないが……

 考えるのはよそう。涙が出ちゃう。


「よし、お前ら、思ったより早めに進んだから、この辺りでお昼ご飯にしようぜ! パンをお湯で戻して焼いたチーズ塗って食おうぜ! あと、何の肉か考えては行けない燻製とかも炙ってさ」


 食い意地のはっている三人でそれを拒否する事は当然ない。魔法で火を起こして、チーズを溶かすのを眺めている。

 

「まぁ無意味だと思っているが、今回の作戦をお前達に伝える。お前達は俺をティルナノに安全に連れて行くだけでいい。到着したら外で待っとけ。以上」


 俺のその言葉に、たっぷりとチーズを塗ったパンを齧りエメスが笑った。


「マスター、それは命知らずと指摘す! 今のマスターを見て、ショタ萌えの精霊共にお姉ちゃんプレイ、ママプレイを強要され、マスターは性に溺れ何も考えられなくなる。それは我の役目であり、クソ精霊共にはさせぬと誓いけり」


 実にくだらない妄想のストーリーがエメスの中では完成しているらしい。


「あ、うん。エメスはうん、ティルナノに行く道中まで俺の護衛頼むな」

「マスター、我というお姉ちゃんに素直になれず、赤面は耳の後ろにまで至り、ゆくゆくは素直になると我知り、深く感銘す」

 

 エメスの性癖が北の魔王様由来のものだとしたら、北の魔王様の守備範囲の広さに流石の俺もちょっと引いてきたよ。そう思うと、エメスはある意味被害者なんだろうか? とか思わないとやってられねー。


 お腹が満たされるとガルンは丸くなり寝息を立てる。赤ちゃんか、そんなガルンの頭を撫でながらアステマもうとうとしている。

 エメスは目を瞑り頷く、寝てもいいという事なんだろう。

まぁ、お前が何をしてくるか分からないので、気が気でないですがね。


「エメス、少し昼寝する。ユニオンスキル魔王権限にて命ず、周囲の巡回をまかす」

 

 チッ! とエメスの舌打ちが聞こえた。あいつは本当に北の魔王に作られたゴーレムなんだろうか?

 どちらかと言えばアンドロイド的な存在のハズなのに自由すぎるだろう……


 …………これも北の魔法の趣味だな。本来は男で、ツンデレさせたかったか?


「そこの一行!」


 なんだよと片目を開けた俺の前にどこかの騎馬隊。

 やばいと思ったが、ここまで囲まれたら対処のしようがない。

 というか、パトロールしているハズのエメスさんは何をしているんだろうか、若干の怒りを抑えながら俺は体を起こす。

 

 どうも敵意のような物は感じられない。

 

「……我々は五大国よりも遥か遠くにある大陸、大連(ダーリャン)は武王の使者、少し話を良いか?」


 見るからに中華系の人たちだ。この世界に中華系があるのか、あるいは特措法で送られた人が中華系の人なのか……

 礼儀があるので俺は話を聞く。

 どうやら、戦乱状態になっているこの五大国、そうなの? まぁ各種王を名乗る連中がいるもんな。

 

 そして、彼らはそんな五大国を平定にしやってきたらしい。要するに大連なる国と同盟もとい傘下に入らないかと……

 悪くはない話だ。他の国の連中よりまだ話ができそうだ。


「マオマオと言ったか? その年でその知識と礼儀、我が国のハオユー様のようだな。異世界人というものか?」


 ハオユー様はどうやら特措法の被害者らしい。大連はそのあたりは理解されているようだ。

 話を聞くと幼い王の側近になっているらしい。

 

 この人は大連の三大将の一人。

 ……グレン大将との事。

 

 俺のアプリが先ほどから結構やばい奴認定しているのは知っている。

 何気に、ガルンとアステマが目を強く閉じて寝たふりを決め込んでいるのが理由である。落書きしてやろうか?


 グレン大将曰く、南も西も東も全く持って耳を持たない愚か者どもの集まりだと言った。

 多分、グレン大将の言う事は正しい。

 

「北の人間は物分かりがいいようだ。お前は死に別れた弟のようだ。悪い扱いはしない。我が国の傘下には入るよう大人達に風潮して回ってくれ! 私は中央に少し用があるからな」

「グレン大将。中央ってあのヴェスタリアでしたっけ? あの勇者がいるとかいう中央ですか? 鎖国しているとかなんとかって聞きましたけど?」

 

 俺のその話はどうやら地雷だったとすぐに気づいた。

 みるみる内にグレン大将の表情が険しくなる。

 背中に担いであるありえない形状の槍? いや、矛っていうんだったか? それを握りしめると、グレン大将は言った。

 

「……あのような者が勇者なものか! 俺は最初、三千人からなる数でこの地に来た。我が国の武の力、技の進み、そして心の育て方。それらを見せるべく海を渡った先に奴はいた」

「物凄く聞きたくないですが、誰がいらっしゃったのでしょうか? 是非、後学の為にこの矮小な子にお教えください」

 

 俺のその言葉を聞いて、グレン大将は頭が冷めたのか笑った。

 大鉾を背中に戻すと、腰に下げている瓢箪なのか? 水筒のような物で水、もしかしたら酒を煽って話した。

 

「トウドウ・アルモニカと名乗った。マオマオよりも少し年長の少年。息を飲む程に美しく、そして直視できない程に残忍。中央の勇者王と奴は名乗った」


 そしてグレン大将は何やら腕輪のような物を俺に見せる。

 そして歯を食いしばり叫ぶように言った。


「あやつは、我が家来達を物の数分で何処かに消し去った。命を知らぬのかと問うたら、奴は笑って堂々と我らの中を突っ切って帰った。我らは何もできなんだ」

 

 なるほどわかった。

 中央の勇者王はとにかくヤベェ奴だという事。そして絶対に関わらないでおこうと心に決めた。

 

 ……しかしグレン大将、中央にって?

 

「グレン大将、もしかして敵討ち的な何かですか? 流石にやめておいた方がいいですよ! まじで」


 この人、真面目そうだから聞かなさそうだけど……


「マオマオよ。お前には分からぬかもしれぬが、男には通さねばならない我という物がある。そしてそれが今よ」


 めちゃくちゃかっこいいんだけどさ……

 

 俺は考えた。

 

「やっぱりやめておいた方がいいです。多分ここにいる人たち」

「全滅するとでも言いたいか? マオマオよ。大連にはお前達も知らぬ魔道具が数々存在する」

「…………いやぁ、でもねぇ」

 

 俺の頭をガシガシと撫でて、優しい子だとか言ってグレン大将はその場からいなくなった。

 願わくば、死なない事くらいしか俺には祈れない。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 グレン大将が去ってしばらくしてエメスが戻ってきた。

 絶対、遠くからどうなるか様子見していたに違いない。

 それも性的な視線で……

 

「お前ら、腹も満たされたし、昼寝もしっかりしただろ? ティルナノまで急ぐぞ! とりあえずユニオンスキルで加速かけといたから」

 

 パイコ達も水と餌を食べ、俺のユニオンスキルで強化されているの足取りも軽い。そして希望に溢れた表情で野山を駆ける俺たちは一端の冒険者に見えただろう。

 

 もん娘のテンションが高い内にできる限り歩を進めたい。


 ちょっかいをかけてくる獣系のモンスターにはガルンが吠える。

 魔族系のモンスターはアステマを見て平伏し。

 北の魔王が生み出したエメスは戦々恐々とした視線をこの地域のモンスター達に向けられている。

 中上級の魔物の威厳はこういう時非常に助かる。

 無駄な戦闘をしなくて済むしな。もしかするとこの辺の野生の魔物の方がウチの三人より強いくらいあるかもだしな

 

 流石にドラゴンライダーを使って空を飛んできた一回目に比べて下を行くのは時間がかかる。

 だが、デメリットばかりでもない。


 見知らぬダンジョンがあったり、見知らぬ果物が生っていたりする。


「とりあえずパイコが疲れるまで突き進むぞ! 多分その頃は野宿だ」


 冒険時のキャンプはスペンス達と何度も経験をしてきた。


「主、私は柔らかいベットで寝たいのだけれど? それに野宿だと食べ物の味付けが単調になるじゃない! ふふん! 私くらいのグレーターデーモンになるとそういうところうるさいわよ!」

 

 うん、普段からクソうざいのに迷惑でしかないよ。

 俺は思うのだけれど、この世界の一部モンスター。

 俺の生まれた日本にきたら高確率でヒキニートになるだろう。

 この世界でも豊かな衣食住になれただけでこうなるのだ。元々アンタ、裸みたいな格好で木の上で生活してたろうに……

 

 上手くいけば、このペースを維持して邪魔もされなければ、俺たちは明後日の朝にはティルナノの近くに到着できるハズだ。あとはそこから考える。


 しかしこいつらと旅をするのなんか久しぶりな気もするな。泣き笑い、食べ戦い、逃げて俺が呆れる。いつまで続くかな?

 これは俺の悪い癖だ。楽しい時がいつか終わる事をいつも心の何処かで考える。真面目な話、俺は商人として商店街なんて作って本当にその後どうするのかをよく考える。

 

 最初は人気が出るかもしれないが、付け焼き刃の経営はいずれ破綻する。その時は従業員の一斉解雇か?

 いや、こいつらだけでなんとかやっていける仕組みまで作るのが俺の責任かな。


 がしかし、路頭に迷うこいつらを想像して少し笑けた。

 

「ショタマスター、何か面白い事が?」

「いや、思い出し笑いみたいなものだ。将来お前らどうするのかなって思ってさ? 今の内に考えとけよ」

 

 俺ですら俺の将来の事なんてわからない。

 少しばかり偉そうなことを言いすぎたかもしれないなと言ってちょっとばかし後悔と反省をしてしまった。

 こいつらには内緒だが……

 

「ボクはご主人と一緒に魔王城をもっと大きくするのだ!」


 とか、ガルンが目をキラッキラと輝かせて言う。

 そしてまぁ……将来を考えた結果、姫みたいな座り方でパイコに乗っているアステマも同じく俺に商店街の事を語る。


「当然、あそこに私専用の宝石店と服屋を作って楽しむに決まっているじゃない! 人間達の羨ましがる目が今から楽しみなんだから!」

 

 そう嬉しそうに夢を語るアステマ。

 さらにエメスが何か語ろうとするので俺は話を割った。


「エメスさんはいいよ。どうせ風俗街作りたいとかそういう感じでしょ? まぁ、一定数そういう仕事が必要な事は俺も分かるけど君は少し自重しろ。せめて異性とお酒が飲めるお店くらいに留めない限り、その夢は叶わないからな」

 

 言ってて思ったが、ホストクラブやコンセプトカフェはありだな。

 これは今後考えていこうかな、飲食系はこの世界強いからな。


「……異性とお酒が飲めるお店? マスターは天才とみたり! 美少年カフェを開拓せよと申すか? これは参った。了解せり!」


 頭に手を当てて一本取られちまったぜ的なポーズを取るエメス。

 なんか古臭いな。そして俺は一言もそんな事は言った覚えはない。

 

 まぁね。夢を見る事も見せられる事も自由っちゃ自由なんだけどね……

 

 

 ストン! と立ち上がる俺たち。


 ティルナノへはまだまだ先が長い。俺たちは余計な戦闘に巻き込まれる事もなくスムーズに進む。

 しかし、見るからにどえらい光景を前に俺の嫌な予感は全力全開で警鐘を鳴らしていた。何故なら……


「なんなのよこれ! きもいんですけどぉ!」


 アステマさんのいう通りである。目の前にうねる植物。


“アプリ起動。精霊の国、ティルナノ。精霊王が制御し、加護の力の根源としているエルミラシルと思われます。そして今現在、精霊達の制御下から外れ、自立増殖しています。危険度想定外、犬神猫々様、今すぐこの場からお逃げください“


 はいはい……あれね。

 ティルナノで何かあったんでしょうな……

 まぁ、精霊王があのスイーツ(笑)なんで何かしらやらかしたのだろうか。

 いずれにしても、戻るという選択肢は俺にはないわけです。

 決死隊というものはこういう気分なんだろうか? 俺は全体強化のユニオンスキル三人にかける。

 

 さぁ! 突き進もうぜ! とかのテンションで言えればどんなに楽だろうか?

 ほんとこの世界クソだなっ……



「燃えなさい! 慎ましくそして激しく! デモン・バーナー!」


 どっちだよ! という口上と共に魔法でヤバい草を駆逐するアステマさんはチラチラと俺を見る。

 自分の魔法自慢と、俺に褒めてもらいたいのだろう。

 

 どういう状況か分からないので、とりあえずこのドラクルシルを暴走エルミラシルと仮名。


“エルミラシルに名付けを実行……失敗しました“


 うん、そういうのはいいわ、しかし何がどうなっているのか俺たちが切り裂い、燃やしてもすぐに元に戻っていく。

 ちゃんとした意識がないが、このエルミラシルは間違いなく、魔王やら精霊王やらクラスのチート級の生物だ。

 

「……もう袋小路にされてる。お前達、全力で前に前に進め! 魔法も物理も俺ができる限り能力跳ね上げてやるから! 死にたくなければ突き進め! いいな! ここにもう退路はない。どうやら絶対に精霊王サマに会わないと行けなくなったらしい」


 ティルナノの半径100キロ圏内に入っているはずだ。

 だが周りはエルミラシルの森。増殖を繰り返す増えるワカメちゃん状態だ。

 

 アステマの強力な魔法とエメスの中度の魔法ととんでも物理攻撃、そしてガルンの二刀流による領域確保。

 俺は強化バフのクールタイム中に初級魔法で牽制程度にしか役に立たない。

 ここはモン娘達頼みだ。

 多分明らかに格上の相手であるエルミラシルだが、物言わないのが助かった。

 三人は持てる力を出し切って突き進む。なんかネトゲやってる気分だな。

 

 ガルンが吠える。


「ご主人! ヘトヘトになってきたのだぁ! 斬っても斬っても全然減らないのだぁ……お腹も空いてきて力が出なくなってきたのだぁ……」


 そりゃあ生物であり、一番動いているガルンがそうなるも仕方ない。

 

 俺は出し惜しみせずにパンに干し肉とチーズを挟んでそれをガルンに投げる。ガルンはそれを上手くキャッチしてもぐもぐと食べる。その隙に俺はガルンの体力回復を魔法で行う。

 やばい。俺のユニオンスキル使用回数。残り七回。

 そして、俺の個別使用スキル回数残り九回。

 これ以上、この籠城に近い進軍を続ける余力がない。


 決断、俺の判断でこのパーティは全滅する。クラスチェンジをすべきか否か。

 大幅にこいつらの能力を向上させるクラスチェンジだが、あまり継続できない。

 

 そしてティルナノまでまだまだ距離があり、ティルナノが安全とも言い切れない。

 今はこの手は打つべきじゃない。

 ギリギリまで今の状態で進むか。


 遠くで眩い光が放たれる。精霊系の魔法だった。

 

「誰か交戦中か? なかなかの魔力を感じる! 応えよ!」


 甲高い声でそう言う恐らくは女性。見るからに向こうも凄い魔法をなはっている。

 助力を願えるんじゃないかと俺は声を出して応えた。

 

「北からティルナノに用があってきました! できれば助けていただきたい。何が起きているんですか?」

 

 俺の返答に対して、回答をする前にいくつか光が放つ。

 おそらくこの精霊魔法を放っている人もなかなか一杯一杯の状態なんだろう。

 

 そして、再び彼女は連続で精霊魔法を放つ。

 かなりの使い手だ。多分アステマ以上の魔法力を持っているんだろう。

 

「私はトリエラ。偉大なる精霊王ツィタニア様の右の参謀にして裁きの精霊。軍団長でもある。かなりの使い手である冒険者か? こちらからも助力願う」


 俺は一番会ってはならない系の精霊にあろうことかモンスターを連れてエルミラシルの壁を挟んで彼女の話を聞いた。


 今、ティルナノはとんでもない事が起きていると言う事。

 まぁ、見りゃ分かるよ。精霊王ツィタニアの持つ宝玉を同じく左の参謀に奪われた結果、エルミラシルが暴走した。

 エルミラシルは最古の精霊の一種で、命を吸い続け永遠に成長を遂げるアロエ的なツルらしい。殆どモンスターじゃねぇか……

 そんなエルミラシルを制御し、鎮めたツィタニアを制御から外れたこのタイミングで取り込もうとしている。

 今はツィタニアの魔力でなんとかこの程度で済んでいる。

 いや……これもまぁまぁ災害級だけど? この程度ですまないとどうなるの?

 

 ツィタニアは魔王、アズリたんを呼べと言った。

 アズリたんの魔法で灰にするしか方法がない。

 アズリたんの魔法力ならこのエルミラシルに致命の一撃を与えられる。

 

 そしてツィタニアは言った。

 自分を縛る力がなくなれば、エルミラシルを封じる事は可能だと。


 それに賭けてトリエラさんはここに至るが、思ったように進めないと……



「なるほど、助力はしてほしいし、助力もします。ですが、一つ懸念事項といいますか……」

 

 俺のこの言葉を濁した感じに、トリエラさんはピンときたらしい。

 そして話し出した。


「全く、人間という連中はいやらしいな。が、分かった。褒美だろう? これに関しては私が約束しよう。ティルナノのナンバー2であるトリエラ、口約束と言っても絶対に破る事はない。だが、精霊王様を失えばその約束守事はできないから覚悟をしておけよ? まぁ、この状況で褒美を所望するなら腕に自信もあろう」


 微妙に違うんだよなぁ……微妙にね。そもそも俺達と共闘できるの?


「いやぁ……ちょっと色々ありましてね。そちらさんの国で俺たちよく思われていないかもしれないんですよ。そのあたりも免除してもらえて、かつなんか呪い? 的な物をかけられているんですが、それも解除の約束してもらえるとすごく嬉しいなとか思うんですよ。どうでしょう? 褒美とかいらないので」

 

 俺の申し出にトリエラさんは少し考えたようだ。流石にバレたか? しかしトリエラさん的にもこの申し出は悪くないはず。

 

 …………さぁ、どうする?

 

 しばらくの長考の後に、トリエラさんの笑い声が響いた。もうはっはっは! くらいのバカ笑いだ。

 そして、光の精霊魔法を連発しながらトリエラさんは言った。


「中々面白い奴らだな! 我が国でコソ泥でも働いたか? どんな大罪人でも今は助力を願う! 同時にこの壁を焼くぞ!」


 という事なので、アステマとエメスに指示。


「精霊魔法! 光の騎士団!」

「「デビルズ・バーナー」」


 お互いの魔法で壁に大穴が空いた。トリエラさん、ショートボブの綺麗な精霊だ。

 笑顔だったのだが……突然険しい表情に……

 

「き、貴様ぁ! あの時の不逞の輩ではないか! それに……ま、魔物? ここで皆殺しにしてくれる!」

 

 そう、約束は守る! とか言ったトリエラさんの手のひら返し、わずか十秒。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 やる気満々のトリエラさんに、喧嘩を買う気満々のモン娘。

 俺は間に割って入って、とにかく今はここで争っている事よりも精霊王を救いにいくことを提案した。

  

 どうにも納得がいかないらしいが、冷静にここで殺し合うよりも大事な精霊王様を助けることに心が動いたらしい。

 トリエラさんは機嫌が悪く、ウチのもん娘共もまたトリエラさんを睨みつけ、なんだろう? 修学旅行で出会ってしまった他校生徒の不良の相関図を見ているようだ。 

 モンスターや精霊が獣に近ければ、獣に近い不良もまたしかりか?

 

 とはいえ、精霊達のナンバー2であるトリエラさんは見るからに強い。魔法のレベルが上級以上、中にはユニークと思われる物も使っている。

 

 とはいえ、そんなトリエラさんですら一人でどうにかできないらしい。

 俺の精霊のイメージが精霊王様や人間をやたらと卑下する連中ばかりだった故、トリエラさんは異様にまともに見えてしまう。


 時折、合わせているわけではないが、アステマとコンビネーションが生まれつつある。二人は少し目を合わせ、すぐにそらす。

 思春期の男女か……


「ふん、噂には聞いていたが、デーモンとは中級種で多彩な魔法を使い分けるのだな……やはり脅威であると認識する。正直扱える技量に関しては我が国の兵よりも器用だ……認めたくないが、凄まじいものだな魔物達よ」

 

 おや? なんかトリエラさんがモン娘、特にアステマを褒めた?

 

 やめておいた方がいいですよ……そいつすぐに調子に乗るので。

 俺が何か補足をしておこうかと考えたが、そんな余裕はない。

 しかし、不思議な事が起こった。

 なんか、アステマが遠い目をしながら魔法を放ちついでという感じでぶっきらぼうに答えた。

 

「はぁ? そんなの私だからに決まっているじゃない。全てのデーモンがこんなに優秀なわけないでしょ? それよりも……アンタの魔法、凄すぎて、さっきからちょっと勉強になるって思わせてくれて、どうするよの? クールタイムの行動も魔法から魔法の連携も、悔しいけど私よりも上位の魔法を使うから私たちに合わせた立ち回り、精霊ってこんなに凄い連中なの?」

 

 ちょっと待て! お前は誰だ!

 俺はあまりの事に、アステマが実はアステマじゃないんじゃないか真剣に疑い始めていた。


「くるぞデーモン」

「分かってるわよ! 精霊」

 

 二人は、やるな! お前もな! 的ないい顔で魔法を放った。

 ようやくティルナノが目視できる距離に近づいた。目の前まで行かずともやばい事になっているのが目にとれる。うねるエルミラシル。

 俺は残り半分以下となったスキル使用回数を不安にそれを見渡す。

 

 エメスが俺に真顔で言う。

 

「マスター、触手責め」


 無視しよう。

 どうにかこうにかエルミラシルを切り分けて、俺たちはようやく終わりが見えてきた事に少しばかりの安堵を感じていた。

 

「トリエラさん、精霊王サマは今どこに?」

「ツィタニア様は、今も祈りの間にてエルミラシルをなんとか抑えているだろう」


 痛々しい表情を見せるトリエラさん、あのスイーツ人(笑)望はあるんだな。

 祈りの間ってのは要するに神殿の最深部。



「ここからのオーダーを伝えるぜ。トリエラさんもできれば従ってください。できればここからは無駄に体力や魔法力を削りたくない。流石に精霊王様のお膝元。エルミラシルの動きも活発じゃない。一気に走り抜けます」


 俺の申し出にトリエラさんは何かを言おうとして……提案に乗った。


「……分かった。マオマオ、お前の強化バフにさらに精霊の加護を乗せてやる」


 トリエラさんはそう言うと俺たち全員に精霊の加護をのせる。

 …………

 俺のユニオンスキルが、ありえないレベルで強化されている。それはモン娘達も感じたらしい。


「……ふふん! いいじゃない! これならいけるわ!」


 何が行けるのか聞いて、追い込むと泣くのでやめてこう。


「力がみなぎるのだっ!」


 ガルンが両腕を前にガッツポーズ。

 

「じゃあ、お前ら準備はいいか? アステマとトリエラさんで前方左右に大型魔法、エルミラシルが怯んでいる隙にガルンとエメスで二人を引っ張れ、俺は群れのボススキルでルートに寄生する」

 

「何を言っている?」


 魔法やらスキルやらの本来の使用以外に使える動作を俺はいくつか知っている。

 群れのボススキルは群を集めるスキルなのだが、一定数がまとまって遠くにいた場合。俺の方がそこに高速召集される。 


「俺一人ぶんを引っ張らなくていいぶん、加速が伸びる。俺は楽して神殿入りだ」


 まぁ、ある種の裏技というやつである。


「……さすがは闇魔界のアズリタンの同盟主か」

 

 何が、流石。なのかは今後詳しく問いただすとして。

 この案にも乗ってくれるのであれば話は早い。

 

「ご主人、ちゃんと一緒に行けるのか? 僕がおぶって走ろうか? このうねうねは一人で戦うのは難しいのだっ! ボクの魔剣コポルト丸を持ってしても難しいのだ! こんなところにご主人を一人残していくのが心配なのだっ! ご主人がいなくなると今後美味しいご飯が食べられなくなるかもしれないのだっ!」


 おっと、俺の感動を返してくれぇ。 俺への忠誠より、食い意地が勝るらしい。

 ガルンは既に小狐さんに影響されて中古の魔剣に名前をつけている。

 

 そんなガルンを見てエメスは頭を優しく撫でて俺に。

 

「マスター、好みの性具を手に入れたという高揚感。我には理解したり、そしてそれをたった一人で使い弄ばれる快感を独り占めしたい事もわかりけり、我としても快楽に身を委ね。トロ顔のマスターをみれない事、この上なく残念ではある。が、我はマスターが快楽であってくれればそれで構わぬと結論す。ご存分にショタすけべをお楽しみあれ! 行くぞ、ガルン、アステマ、精霊っ!」

 

 なんだろう……

 姫騎士のように俺に背を向けるエメスさんがかっこよく見える。

 だけど、物凄い妄想とレッテルを俺に貼ってくれた事は必ず仕返しする。

 黙って聞いてりゃ好き放題いいくさりやがってからに……

 

 

「……あぁ、いけいけ」


 俺はいつものことだと、気にしないようにしていたが、いつもを知らぬ人。

 もとい、精霊トリエラさん。

 

「ま、マオマオ。言いにくいのだが……エルミラシルは……そのだな? そういう行為には向かないと思うぞ。そして、お前のしようとしていることを試さない方が身のためだ……一応、私は言ったからな?」

 

 あーあ、どちゃくそ変態のレッテルを貼られ散ったよ。

 エメス、お前の頭、絶対に改変してやる。

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