戦国の少女の辛辣さ、ここに極まれり、剣聖を斬る剣鬼
剣聖レキ。
彼女が剣聖と言われる所以が剣なんて時代劇くらいしか知らない俺でもよく分かった。
あの小狐さんが斬り負けた。抜刀術のような撃ち合いに力負けしたのだ。
よく見ると、剣聖レキの瞳、何やらオーラーを感じる。あれは固有スキルかなんかなんだろう。方や強いといっても小狐さんはそう言うのはない。
撃ち負け、傷を負った小狐さんは……嗤った
あぁ、これが戦国乱世を生きた日本人、ご先祖様の姿なのだろう。
強さを追い求める本当の姿。
「なんという剣士か……あれを凌いだ?」
ほら、だって剣聖レキに結構評価されてますもん……。
俺の見立てでしかないが、剣聖レキに対して小狐さんは随分余裕がないように見受ける……大丈夫か?
「やるじゃねぇか! 二つ、外すか」
そう、小狐さんは修行の為自らに枷をかしている。
剣聖レキの剣を何とか凌いでいる小狐さんを見てララさんが俺に尋ねた。
「マオマオさん、あの小狐さんという方は何者なんですか? キザン衆を軽々と瞬殺して見せたり、我が国の兵を物ともせず……さらには今目にしている事。剣を極めし者。剣聖レキとどうしてあんなに普通に戦えているのでしょうか? 相手は剣聖ですよ? いかに剣豪レベルであったとしてもあんなにも……小狐さんとはまさか四剣王の一人なのでしょうか? そうであれば今目の前で起きている事も頷けます……しかし彼らは四人で行動していると聞きましたが……何故一人で?」
ララさんは一人で納得しながら疑問に感じている。
というか四剣王って……先生とこの前報告連絡をした際に聞いた誰かと秒殺した奴等では……
不思議なのは小狐さんが善戦している事に驚きはしても喜んでいないララさんが俺は気になった。
小狐さんの剣技に剣聖レキはカトラスを下げる。
そして真っ直ぐに小狐さんを見て尋ねた。
「……ココと言ったか? 見事な剣士。お前、いや。君のその剣、悪しき者とはどうも思えない。そこにいるライル一味は実の弟の命を奪おうとした極悪人、君が傭兵だというのならば致し方なしだが……その剣悪に染めては欲しくない。私には剣を交わせばその者が良い者か悪しき者か分かるのだ。うむ、名乗ろう。私は人より剣聖と呼ばれし者。レキ=アーデルハイド、剣に関しては人より精通している自負はある」
胸に手を当てて剣聖レキは清々しく小狐さんにそう言って微笑んだ。
俺には分からない領域だが、一芸磨いて極めた剣聖レキにはわかる領域の話なのだろうか? もう小狐さんに対する敵意は感じない。
そんな剣聖レキを見て、小狐さんは刀を中段に構える。
小狐さんも何か剣聖レキと刃を交えて何か感じた事があったのだろうか?
口を開いた。
「お前馬鹿か? 剣の技で人となりが分かるわけねーだろ? 見事な剣を使う悪人もおれば、ド下手な心清らかな剣士もおるだろ? お前、自分の世界に囚われている“べこのかぁ“だな? だが一つ正しいぜ、己はお前より……強ぇぜ?」
そう小狐さんは全くブレず辛辣だった。
まぁ、確かに剣を打ち合わせただけで相手のことが分かったらエスパーだよという話なのだが、完全否定された事に剣聖レキは苦笑している。
「ははっ、ココ。君は中々面白いな。私には分かるのだよ。だが、上には上がいるという事、少し感じてもらうのもいいだろう。君はここで命を落とす剣士ではない!」
再びカトラスを抜いた剣聖レキ、こいつは多分、ちょっと馬鹿だという事は分かったが、超強い。
小狐さん大丈夫かな?
俺がユニオンスキルを使おうとすると俺を見てないのに小狐さんは俺に手を向けた。
要するに邪魔をするなと言いたいのだろう。
剣聖レキの剣戟を最初こそ受けて弾かれていた小狐さんだった。
されど、小狐さんは剣聖レキの剣を読み始めていた。
防戦一方が攻防に変わった瞬間。
「強ぇえ」と小狐さんが正直に声を出した。
「君こそ強い。そして一体その剣技は何という立派なんだい?」
剣聖レキに評価された小狐さん、小狐さんは類まれな体の使い方とそこから繰り出される技には俺も息を呑んだ。
「これは己の我流だ。己には憧れ、近づきたい剣がある。それが天の剣だ。お前が剣聖か何か知らんが、その剣は、そのお方はお前より遥かに強い。約定に従いライルを弟の元へ、そしてこの元凶大臣とかいう奴を斬る。お前に恨みはないが、己の剣が高みに登るため、押し通る!」
小狐さんは、鍔迫り合いをしている最中、剣聖レキのプレートアーマーに蹴りを繰り出し、怯んだ剣聖レキに剣術と体術で優位に立った。
「暗殺者のように変幻自在の攻撃、されど完成したかのようなその剣技……ココ。すまない。私は君を心のどこかで下に見ていたようだ。私もまだまだ修行が足りないな。いいだろう。私も四剣王。そして中央の勇者に誅を与えんが為、霊山より降り立った我が剣、奥義をつくそう」
「ようやく本気か、いいぜ! 己も見せてやんよ! 己の己すらも知らない限界。狛犬剣術変形、妖狐剣術、参る!」
小狐さんはおそらくユニークスキルを使った剣聖レキを相手に互角に渡り合った。どちらが勝つのか分からない。
アステマにガルンですら黙ってその様子を伺っている。
多分だが、剣聖レキ、押され始めている。
要するに我らが小狐さんが剣聖レキを追い詰めた……
剣聖レキは小狐さんを見て叫ぶ。
「ココ、悪に手を染めるな! 君はそいつらに力を貸してはならない! これを撃てば、君を……いやしかし! 必殺剣技・ファイナルバルムンク!」
なんか、凄い技を繰り出しそうなのに……
小狐さんはそんな剣聖レキの話を無視する。そして打ちこむ、打ち込む。打ち込み、弾いた!
最初にやられた一撃をお返ししたかのように小狐さんはへっ、と笑った。
「レキだったか? お前も薄々分かってんだろ? どっちが悪ぃのか? お前風に言えば……そうだな! 剣が迷ってんぞ?」
小狐さんにそう言われた剣聖レキはあからさまに動揺を見せる。そしてそんな隙を小狐さんは見逃さなかった。
「妖狐剣術最速の剣! 夜狐」
恐るべき連撃だった。
剣聖レキのカトラスを蹴り止めて、肘で剣聖レキの胸を打つ……そして刀を返して、小狐さんは剣聖レキに上段から一振り。
「小狐さん、殺しちゃダメだ!」
咄嗟に叫んだ俺。小狐さんは刀をさらに返して、峰で剣聖レキの首を打った。
ゆっくりと目を瞑り意識を失う剣聖レキ。
そしてすぐに覚醒すると言った。
「私の負けた……見事だココ。そして情けをかけてくれた事。そちらの子供にも感謝する」
「命の代わりにその刀をよこせ! 使いやすそうだ」
小狐さんがそう言って剣聖レキの刀を指差すが、剣聖レキは笑ってこれを否定した。
「この剣は、私しか使えないように作られている。神剣なんだ。代わりに私でも抜けなかった、魔神器の片割れ、ドュラポーン・スレイヤーを差し上げよう。使えるかは分からないが、大臣が賜ったものだ」
聞いたことある名前だなぁ、小狐さんがそれを受け取ると俺のアプリが反応。
“魔神器のドュラポーン・キラーとドュラポーン・スレイヤーが揃いました。融合し、真の姿を表します“
「何勝手にくっつこうとしてんだヨォ! 刀は二本腰に刺すのがかっこいいんだぜ!」
小狐さんはその魔神器の都合なんて無視して無理やり引き剥がすと腰に二本とも収めた。
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落ち着いたレキに俺たちは事情を説明した。
「まさか、小狐殿とそちらのマオマオ君が魔神器の使い手とは思わなかった。やはり、四剣王を?」
「だから誰だそれは? 己たちはこのライルが困っているから手を貸したにすぎん。イスパ大臣という奴が全ての黒幕だから斬りにきた」
あまりにも雑な小狐さんの説明、それにガルンもアステマも何故か納得しているから
俺が細かく補足し、ララさんがさらに何があったか説明をすると剣聖レキは少し考える。
まだにわかには信じられないのだろう。俺からすればこの子馬鹿なのかな?
としか思えないが……
俺たちが正しいか見定めたいらしい。
そして嬉しそうに小狐さんやドラクルさん、アステマ、ガルン、ララさんに話しかける。
というか少しばかり息が荒いですけど?
剣聖レキさん。
物凄く嫌な予感しかしないので、俺はそのことを考えないようにしていた。異様なくらいにスキンシップが多い。そして俺の予想は当たっていた。
「よく見ると五人ともとっても美しいな? 我が剣を学び鍛えるところは皆女性ばかりで、かくいう私もよく姉弟子たちに可愛がられた物だ。そうする内に男よりも女の子の方が正解に近いという事を知った。是非、皆にも知って……」
「おい、レキ。お前ぇ、なんか気持ち悪ぃ奴だなぁ! あんまり触るな! 己はそういうのには興味がないぞ変人め!」
戦国の女剣士小狐さん。
皆が思っていても絶対言わないことをさらっと辛辣に言ってのける。そこに痺れるなんとやらだ。
「スケール国の皆さん、弟のラハルト様はこちらで?」
俺がそう聞くと頷くララさん、そして剣聖レキも指をさすので間違いないのだろう。ようやくこのお家騒動も終わりだろう。
そして俺が大人になる方法を考えられる。
「マオマオ。そしてその仲間達、ここまで本当に苦労をかけた。なんと礼を言っていいやら言葉がない。国が落ち着いた暁には、来賓として呼ばせてもらいたい」
ライル様は感極まっているが、まだ俺たちはラハルト様に会っていない。
要するに油断はするなと言いたいが、子供に小言を言う歳でもない。
何かあっても小狐さんにドラクルさん、そして剣聖レキも捕虜だし、まぁ大丈夫だろう。
豪勢な扉。そこを開こうとした俺に代わってララさんが開いた。
そこには、アンデットを一瞬にして灰にされ、目を白黒させていたイスパ大臣。そして幼い少年。ラハルト様か。
イスパ大臣はこの状況で余裕の表情だ。
「……おや? ライル様。お戻りでしたか? まさかまさか、剣聖レキが敗れるとは思いませんでしたよ。さて困った……困りましたね? ララ。もう私とお前しかラハルト様を守れる者がいない」
「何を言っているイスパ! ララはこの私とビーグと共に!」
あぁ、そういうパターンか、ララさんがねぇ……ちょいちょいそういう節あったかもね。
そんな事より俺が驚いた事。
ライル様はもとより、小狐さんに剣聖レキ、そしてモン娘達も“まさか! そんな!“ という顔をしている。
そっか、俺の世界では大体身内に裏切り者がいるのって定番なんだけどな。でも普通に考えれば身内の裏切りって結構精神にくるよな。
…………さて、このなんとも言えない空気。
大体こういう時に最初に狙われるのは……ライル様なんだよな。
ほらね。
「ライル様。お許しくださいとは申しません。私の父親は、元々スケール国の将軍でした。中央との小競り合い、そこに現れた勇者という者に連れて行った3000の兵を一瞬にして滅ぼされ、その罪を背負い、左遷。最後までここに戻れず。私の一族は、兵殺しの一族と言われ続け肩身の狭い思いをしてきました」
なるほどね。村八分にされて、その恨みや怒りをイスパ大臣に利用されたか。
「そう、ララは可哀想な子だった。私はね。彼女の父とは同期だったんですよ。世話になった。その娘が、謂れのない事を周りから言われ、私は陰ながら助力していたのだよ。そして今は王族の世話役にまで出世。ララは私に最大の信頼を寄せている」
はいはいはいはい! そういう系のね。情にね。
さて、これはどうしたものかな……
最悪なルートだとララさん死ぬぞ。結局、ライル様を守って矢に撃たれる的な? とか、イスパ大臣が発狂してナイフだかを持って突っ込んできたのを庇って刺されるとかね。
まぁそのテンプレート。俺がぶち壊す! 的な感じで危険回避をしないとな。
しかし、異世界の人達。素直だなぁ。
「さぁ、ララ。ライル様。いや、ライルを捕まえてこちらへ。弟のラハルト様もお待ちだ。いずれは王族を全員根絶やしにして、スケール国はこの私、イスパが王となり、国を正しき方向に導こうじゃないか」
イスパは自分の手を汚す気がない。最悪、王族を殺した罪をララさんに負わせてノーリスクで王になるつもりか?
まぁ、政治家って俺の国でもこんなもんかもな。
まぁ、そうは問屋が卸しませんわ。商人的にね。
ユニオンスキル・以心伝心発動。
(アステマ、ガルン。聞こえるな? これから起こる可能性の話をする。そして俺はその未来に納得が行かない。ちゃんと仕事をこなしたらご褒美だ)
任せてとポーズにウィンクをするアステマとぴょんぴょん飛び跳ねるガルン。
まぁ、どうせ俺の思った通りには行かねーんだろうけど。
しかし俺は諦めない!
大根役者を際立たせるのは、プロデューサであったり、監督である。要するに経営者である俺だ。最初に東インド会社作ったやつほんとすげぇよな。
「剣聖レキをも倒す用心棒。確かに凄いですな。しかし、私が魔物を使える事。お忘れか? 南の使者と取引し、ダークネスナイトを十体程。このように!」
イスパ大臣の前に十体の黒い鎧を着た剣士が突如現れた。
“危険度★31 ダークネスナイトです。特級魔族。それが十体。特殊な魔族故、危険性不明。すぐにそこから退避してください“
命の危険性がある魔物、アステマとガルンは抱き合って震えていると。
うん、やばい系のモンスターだわ。頼みの綱である、小狐さんとドラクルさんに剣聖レキは?
ワクワクしてますな。とりあえず一安心か?
「私はね! こんな小さなスケール国の国王程度に収まるつもりはないのだよ! 南と手を組み、この東を手に入れる。南は北とも手を組んでいると聞く、南北東の同盟であれば他国侵略も容易かろう? やれぇいダークネスナイト達!」
ダークネスナイトは俺たちを処刑する為に動き出した。
笑う大臣イスパ。
震えるガルンとアステマ、口を開けるドラクルさん。刀を抜く小狐さんと剣聖レキ。
このスケール国クーデターの最後の大一番、流石に厳しいかと思われた。俺の思考時間は大体5分くらいだろうか?
考えが纏まった時、バタバタと斬り捨てられ、倒れていくダークネスナイト。
……まぁさ、予想していたけどさ。
「そんなばかなぁああああ!」
ばかなぁあああ
ばかなああああ
と広い部屋で木霊するイスパ大臣の悲鳴。
自暴自棄になった奴が起こす行動。それはわかりやすい。
「くそぉおお! せめて、ライルの命を奪う。ララ、やりなさい! こんなところで私は終わらない。そうだ! あの南の魔王の左腕。ルシフェン殿。ルシフェン殿はどこに?」
「…………も、もうイスパ様。やめましょう」
フラグが立った。ララさん死亡フラグである。
しかし、そうはさせん。
(おい、ガルン。アステマ。ライル様を、ララさんを守れ! いいな!)
俺の以心伝心スキルに頷き、行動。たまにはこいつらも役に立つな。
こいつら馬鹿だけど、一緒に行動した連中は仲間って認識はあるらしい。スペンスさんとかもそうだもんな。
「何を言っているララ! お前をここまで育ててやったのは誰だ? 援助をしてやったのは誰だ? そう、このスケール国の元大臣であり、この国の国王になる私だ! そうだろう!」
「……ですが、もう私は……もう終わりですイスパ様」
ここで大体もう使えないと思ったイスパはララさんを殺害するのだ。
ほらほら、隠し持っていたナイフですよ。
(ガルン。手筈通りイスパ大臣をぶん殴れ、アステマ。動揺しているララさんんを気絶する程度の魔法。そしてライル様を安全な所……小狐さん達のところに連れて行け)
そう。
世の中というものはものすごい不条理だと俺は思うんです。
ガルンとアステマがいい顔で俺にウィンク、俺もうなづいた。
何故かって? せっかく珍しくもん娘の二人と俺がうまく意思疎通できたんですよ。
(ご、ご主人っ! すまんのだぁ……。うぇええん! ボクはノロマなのだぁ……ノロマだからボクじゃあの太っちょの人間を殴れなかったのだぁあ)
「ガルン、いや。お前は悪くない! いいんだ。うん。お前はよく頑張った。ご褒美はちゃんとやる!」
俺の指示通り動いたハズのガルンだった。
しかし、俺の命令は遂行できなかった。
(ちょっとぉ! 主ぃ! 聞いてないわヨォ! あんなのズルいじゃない!)
「あぁ、うん。うん。そうだな! 俺やお前達みたいな一般人からしたら完全にチートだよな? うんよくわかる。帰って砂糖買ってやろうな?」
そう、結果として悲しい結末は回避された。ガルンとアステマではなく。
超反応でそれらを対処した小狐さんと剣聖レキ。
二人の剣聖によってイスパ大臣のクーデターは失敗に終わった。
そしてその剣聖の一人、小狐さんは言った。
「ライル。お前が一応。この国で今一番えらい奴なんだろ? じゃあ選べ、このイスパとかいう男。どうする? 首をはねるか?」
いやぁ、持ってないなぁ……ガルンもアステマも、もちろん俺も……主役級の運というか、センスというか、持ってないなぁ。




