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よくあるお家騒動に巻き込まれるやつ

「ほぉ、かれぃか。一度食ってみてーな。食い物も金もそして(おれ)の刀も手に入った事だし、マオマオの領地に向かうとするか? ばーちゃんの寝床もそこにいけばあんだろ?」

 

 小狐さんはカリムの里で色々と貰い惜しまれながも里をでた。

 戦国の剣士は竜王であるドラクルさんとガルンに懐かれた。

 俺個人としてはオリハルコンでできた武器を一つ回収できたので目的は果たした。しかしだ……もう既に厄介事が遠くに見える。

 

「ご主人、見てごらんなさい! 人間が人間に襲われているわ! 愚かね! 本当に愚かだわ! ふふん、見物していきましょう」


 ほら、大声でアステマさんがそんな事言うから、全員こっち見てるじゃないですか……

 

「冒険者達か! 助力を願いたい! 理由は言えぬが、命を狙われている。報酬は弾む、この無礼者達からどうか、殿下……いや、ライル様を」


 うーん分かりやすい。王族か貴族なんだろうなライル様。


「何をバカなことを言っているのかしら? どうして人間の命令で私たちが手を貸す必要があって? 雑魚が雑魚に襲われているだけじゃない! 言ってやりなさい主! 命の値段をいいなさ……痛っ! 何するのよ!」

 

 俺は生まれて初めて自然に女子の頭を殴った。いらん事いうから刺客の方も俺たちに敵意マシマシで見てるじゃん!

 刺客の一人が俺たちに叫んだ。

 

「……黙っていけば生かしてやろうと思ったが……この者達がスケール国の第二王子とその従者であることを知ってしまった以上は生かしてはおけない。第一王子が病床の今、第三王子である年端も行かぬラルクを擁立した方が大臣達が自由に国を支配できるというところまでは……予想済か? 冒険者達よ。ライルを助けた報酬という目先の金に目が眩みここでお前達の冒険は終わる事はあまりにも重い代償であったな? ただ死ぬというのもあまりにも不憫故、冥土の土産をくれてやろう。我々は、あのキザンだ!」

 

 誰ぇええ! そしてこの刺客のボスっぽい人、全部しゃべった……新手の逃げられなくする手法か?

 怖っ! 異世界怖っ!

 

 とはいえ、ライル様とやらの従者は眼鏡美女と若い剣士。方や刺客は屈強な四人。

 アステマ、ガルン、俺だとちょっときついかもしれない。

 ただし、今回は後ろにドラクルさんと、喧嘩好きそうな小狐さん。

 そんなことを俺が思っていると、風? いや小狐さんが走り、ガルンがそれにつづいた。


「小狐、ボクに剣技を教えて欲しいのだっ!」

「……しゃーねぇーな、がるん! 見て覚えろよ!」


 状況を確認する間もなく小狐さんが刀を返して峰打ち。真似してガルンが両刃の短剣で普通に斬った。



「貴様ら、我ら魔人剣のキザン衆と知って……ちょっと待てぇ! うわぁああ!」


 酷かった。小狐さんは抜かせる前に峰打ち。

 そして峰打ちされたやつをガルンが斬り伏せる。

 とりあえず死なれたら困るので縛ってから俺は日に十回しか使えない回復魔法でキザン衆とやらの止血をして回った。

 それを高みの見物しているアステマ「ふん、馬鹿ね」とか言って腹だ足しい。

 もう一発殴ってやろうかと思ったが、ライル様のお付きの女性が礼を言った。


「冒険者達、助かった。この不埒者達をビーグ、斬り捨てなさい!」


 ビーグと呼ばれたのは剣士のお兄さんだろう。言われた通りキザン衆の片方の首に剣を、キザン衆は運命に殉じ目を瞑る。

 ガキン!

 小狐さんの刀がそれを許さなかった。


「おい、お前ら、そりゃ少し粋じゃねーな? 身動き取れない奴を殺すなんざやってる事がこいつらと代わりねーだろ? こいつらは役人に突き出してさたを待たせろ」

 

 剣士のお兄さんビーグは流石に剣の腕で小狐さんに勝てないとわかり剣を下げた。

 眼鏡のお姉さんはかなり不満そうに睨み。


「こ、小狐ぉ! かっこいいのだ! 凄いのだぁああ!」


 目の前の剣客商売にガルンは人一倍テンションを張り上げる。

 まぁ、確かに小狐さんの言う通りだし、この人ブレないしなぁ。

 そして当然、小狐さんはあちらの方もブレない。


「おい、約束の金だ! さっさと出せ」


 このシーンだけ見たら完全にカツアゲである。

 

 

 小狐さんを見てメガネのお姉さんが俺の知らない通貨。

 いや、金貨だろうか? 確か一枚で十万ガルドくらいあったような?

 それを数枚小狐さんの手の中にのせた。小狐さんはヘッと笑うとそれを俺の方に放り投げた。

 突然の事だったが、俺はなんとかそれをキャッチする。一体何事だろうかと思ったら小狐さんが言った。

 

「おい、マオマオ。そればーちゃんの暫くの生活費。あと、こいつら困ってんだろ? こいつらの分も足りるか?」


 俺と、メガネのお姉さんはマジか! という顔を小狐さんに見せる。

 ……この人、いや戦国時代の日本人見てると恥ずかしくなるな。

 大体状況を把握したんだろう。今回助かったとしても、また同じ目に遭う

 次は助かるか分からない。なら一緒に行動した方が安全であると。

 それにメガネのプライドの高そうな女性は傅いた。

 

「……女剣士様。無礼な態度お許しください。そのような御心で助けていただいたというのに、私はライル様の魔法教育士ララと申します」

 

 話は大体わかった。ライル様の国の後継、長男が病気だ。

 そして次男、三男の跡目争い、国の大半の連中はまだ年端も行かない三男を傀儡にする為、次男殺害計画ってところらしい。

 いく当てもなくとりあえず逃げ、今は亡命国を探しているということだ。

 で、俺の虚の森に行こうか……マジかよ。

 

「別に礼はいい。ちゃんと金も貰ったしな。あとこのマオマオはガキだが、領地を持ってる。しばらく身を隠せんだろ? (おれ)達もいくところだ。ついてこい」

 

 小狐さんにめちゃくちゃ仕切られた。

 いや、いいんですけど……一応、遠い意味ではご先祖様なわけだし、しかし俺、多分小狐さんより年上なんですけどぉ! 今の見た目じゃ説得力ないですが……


 小狐さんを見つめるライル様。


「見事だ女剣士、名前はなんという? あの剣聖レキと同等の剣技と見受ける。どうだ? 私の従者にならないか? 国を取り返した暁には……ぼくの嫁に」


 モテるなー! 小狐さん異世界で逆ハーじゃんか……ライル様も大人になればイケメンですよこれ!

 

「調子に乗るなよクソガキ。(おれ)が仕えるのは後にも先にも上様。足利義輝様以外は存在しない。剣聖とは俺じゃなく、そのレキとかいう奴じゃなく、上様にこそ相応しい称号だ。生意気言う前に従者の二人に礼でも言え、お前を生かす為に少なからず犠牲が出たろ?」

 

 小狐さんは、こういうお家騒動や、戦乱を俺なんかよりもずっと肌で知っている。

 彼女の言葉はきっとララさん達にも重く感じたろう。そしてガルンはただただ目を輝かせている。

 

「ま、まぁこんなところで話すのもなんなので、とりあえずこいつら突き出して俺の虚の森に行きましょうか」


 そう提案する俺、もはや子供とは思っておらずララさんとビーグさんは静かに傅く。


「この礼いつか必ず」

 

 この状況、一番嬉しそうなのはアステマだった。


「全く仕方がないわねぇ! 助けてあげるわよ人間」


 ごめんなさい。このデーモンがアホの子でごめんなさい。


「……そちらは、マオマオの国の姫か何かか? その態度といい、その美しい容姿といい、美しいといえば小狐もそちらのガルンという娘も、お前も美しいな」


 ライル様、突然アステマ、小狐さん、ガルン。そして俺を口説き始めた。

 どしたどした? 思春期か?

 

 まぁ、俺は男なんですが、ガキの頃は少し中性的だったのかもしれない。

 知らんけど……


「アステマは俺の従業員で、姫どころか役立たずです」


 そう言われて高笑いを上げていたアステマは、涙目になる。いや、ほんとお前さんは礼儀というものをもう少し学ぼう。ほら、怒りの矛先を簀巻きになったキザン衆の人蹴って憂さ晴らししてる。

 そういうところな!

 

 国境警備か何かの人たちにキザン衆を引き渡す。その間にライル様達は隠れてもらう。この警備の人もグルかもしれんし……


「なるほど、ライル様を狙った連中はそのキザン衆だけじゃないと、黒幕は大臣イスパさんって人で、モンスターまで率いた何かを雇っている……」

 

 ダークナイトなる、危険なモンスターがライル様の近衛兵達を次々に倒したらしい。


「ぼくは……悔しい、弟を助ける事も叶わず、兄の病気の具合もきっとイスパの仕業に他ならない……そして剣聖レキまでもが僕の敵となった」


 いつの時代も後目争いってのはそんな感じなんだろうな。

 小狐さんは欠伸をしているドラクルさんをおぶりながら、ガルンに何かを教えている。

 俺はとりあえずララさん達の話を聞いてできる限りは協力する事を約束した。拠点はまだ店が入っていない店舗予定の場所にベットでも置こう。


 元々パイコで走ってきたわけだから虚の森に戻るまであと一週間くらいだろうか? 王族であるライル様を背に乗せて下にぃ、下に! とパイコはトコトコと歩む。


「さっきのライル様の話ですが、剣聖が敵に回ったとは?」

「……ライルで構わん。お前もお前の領地では王族なのであろう」


 案外、王族貴族の礼義的なものがあるらしい。王族ではないが……


「CEOではありますかね。で、その剣聖の件は?」

 

 剣聖というと、その素質を持つ小狐さんがいる。

 このレベルの剣士を敵に回したとなれば確かに普通の人間は詰みだ。そしてそんな奴に目を付けられたらたまったもんじゃない。俺はそんなチート連中とは違うので、厄介なことになりそうなら先手は打ちたいし、最悪ライル様たちの援助は打ち切らないとならない。

 俺個人ではなく、虚の森全員に関わる事だからな。

 

 ララさんが説明をしようとするの止めて、ライル様は話し出した。ライル様の弟が刺客に命を狙われた。偶然滞在していた剣聖レキが刺客を斬り伏せたと。刺客は取り押さえられ、ライル様の手の者だと語った。

 

 …………流石にアステマと小狐さんですら目が点になっている。

 そんなん嘘に決まってるじゃん! とでも言うように。


「で、その剣聖レキ様とやらは?」

「完全に我が手の者と信じている」

 

 馬鹿だなぁ、剣聖レキ様。



 本日は流石に野宿になる。魔法で火を起こすと、ビーグさんが火の番をしてくれるらしいので、カリムの里でもらった乾物とかを焼いて食べる。

 小狐さんがお手製のお箸でドラクルさんにそれらを食べさせているが、甘やかしすぎではなかろうか?

 アステマは小狐さんがもらった果実酒を隙あらば飲もうとしているが、ドラクルさんの目があり盗めない。ざまぁみろ!



「その剣聖とやらはまぁ馬鹿正直なのか、本当の馬鹿なのか知らんが、話し合ってなんとかならんような相手なのだろ? ならば(おれ)が斬ってやろうか? (おれ)は強者と死合いたいと思っておったしな。強いのだろ?」


 剣聖という規格外の人を軽々しく斬るという小狐さん。

 もう眠ってしまったライル様を膝枕しているララさん、火の番をしているビーグさんも驚いた顔を見せる。

 そりゃそうだろ。世界最強クラスの剣士、剣聖を斬ると言ったのだ。


「まぁまぁ、小狐さん。そりゃ焦りすぎですって、剣聖は言うなれば大将首じゃないですよ。大将首はライル様の弟、いやその代行をしている大臣ってところですかね。殺すのは俺は反対ですが、斬って話が終わるのはこの人物です。ただし、小狐さんが首を突っ込むと俺の領地と、その近くの国々も巻き込まれるかもしれないので超反対です」


 できる限り、小狐さんに分かり易すく説明。

 そして関わるなと指摘する。

 

「中立というやつか、北条とかがそんな感じだったな。逆に言うがマオマオ、お前もう首突っ込んでるからな? お前人がいいから今更になって気づいたかもしれんが、亡命しとるやつ引き受けてるからな?」

 

 いやぁ……怖いなぁ……本当に怖いな戦国の人。

 学がないとか、脳筋系キャラに見せかけておいて完全にどっかの国と喧嘩する状況に俺は引き摺り込まれてたって事か……

 嘘だろ……俺商人だよ? 喧嘩だってした事ないのに……


「マオマオ……様、その本当にご迷惑を……ですが、もう頼れるのはマオマオ様達、そして剣士小狐様しか私たちには……どうか力を貸してください。本当に北の魔王の勢力下であれば、しばらくは」


 出たなネームバリュー。

 残念ながら俺は北の魔王ではありません。


「勘違いされているようですが、俺は北のCEOです。魔王ではありません」


 俺のその言葉を聞き、ララさんは少し考えてから頷いた。この人頭良さそうなので分かってくれたか?

 

「北の死の王……どうりでその見た目、ご年齢でこれ程のパーティー。今までの無礼は本当どう謝罪をすればいいのか……その力があれば精霊王様の加護を持つ大臣のロイヤルガードを倒せるでしょう」

「死の王じゃねぇ! あとなんて? 精霊王の加護つき? 無理無理、あの人馬鹿そうだけど、すげぇ力持ってますもん。俺のこの姿はその精霊王サマの仕業ですから! あたっ!」

「おいおい、マオマオお前もガキだけど、そんな大声出したらガルンと、ライルの奴が起きチマうだろ? てか、お前も寝ろよ。早く寝ないとシャレコウベがやってくんぞ!」


 リアルにそういうモンスターがいるからちょっと洒落にならないんですけど、ドラクルさんは小狐さんの膝枕で寝息を立てて、アステマもうつらうつらと眠たそう。お言葉に甘えて俺も寝るか。

 


 

「小狐殿ぉ、それを本当に食べるのですか?」

 

 火の番をしていたビーグさんの声。

 あたりが明るくなっている。もう朝だろう。がしかし動けない。

 アステマとガルンが俺にしがみついているからだろう。ソースはガルンの消し切れていない獣臭。

 

「朝ですか? あと、何の騒ぎですか? あぁ、もう説明は大丈夫です。その巨大な魚? それを小狐さんが捕まえたと」

 

 小狐さんは、魔神器であるドュラポーン・キラーで魚を捌く。


「マオマオ、早起きだな! 泥吐かせてねぇから、こいつは燻製にすんぞ」

 

 小狐さん、羽織を脱いで乾かしている。水場にそのまま入ったのだろう。服が透けていて俺もビーグさんも目のやり場に困っている事を気づいて欲しい。

 

「小狐様、男がいる前でその格好はおやめください!」

「おっ? あぁ……お前ら見んな! マオマオ、ったくその年からそんなじゃろくな大人になんねーぞ!」


 まぁ、否定はしませんよ。

 

 会社組織には入れませんでしたし、一応俺も女の子好きか嫌いかと言われればまぁ、好きですよ? でもですね? 

 嫁入り前の乙女がその行動もどうかと思いますよ?

 こういう事言うとすぐに男女差別とか言う連中いますけど、女子は身を守るためにも慎みなさい! 男はオオカミなのよ!

 

「……朝か、朝? ララ、どこだ! ビーグも! ここはどこだ!」

 

 ライル様が目覚めて慌てる。

 アステマがそれにあくびをしながら、まだガルンは半分夢の中で目覚めた。

 

「っさいわね。人間の子供。この私がリトルデーモンの時は……ちょっと主。何するのよっ! もう人間の子供に世間の厳しさを……やん! 叩かないで!」

「アステマさん、君はなんとかデーモンとかじゃなくて、アークウィザードですよね? 俺はそういう中級の魔法使いを雇ってるんですよね? ね?」

 

 俺がアステマに引きつった笑顔でそう言う。

 アステマは納得がいかないらしいが、小狐さんとドラクルさんをちょいと見る。

 そうアステマは小物である。

 俺の脅し、アズリたんや小狐さん、先生など俺のバックに怯えるだろう。

 当然、俺の思う通りで、何度もアステマは頷いた。

 

 ガルンはぼーっと俺を見つめ。

 キョロキョロと俺を探す。寝ぼけてショタ俺が俺と認識できんのか……

 

 あぁ、なんか疲れたな炭酸飲料が飲みたい。ビールじゃなくてコーラみたいな気分だ。

 あと少しでとりあえず俺たちの拠点だ。戻ったらなんか考えてみるか。


 なんというか久々に日本に帰りたい。

 モン娘の三人に振り回される毎日にようやく慣れてきた。

 でもそれを凌駕する面倒な人や面倒事が起こりすぎる。

 深呼吸だ。一旦落ち着こう朝からブルーになるのは良くない。


「おいガキども! 顔洗ってこい! そしたら飯だ! 今日は朝からマオマオの領地に向かって進むぞ! 食って力入れとけ! この魚見てくれは酷いがうめぇぜ!」

「そうですよ! ライル様もお食事の準備が整っております! 謎の魚介類ではありますが、味は保証いたします。是非お腹に入れてくださいまし」

 

 どう説明すればいいだろうか? チョウチンアンコウみたいな姿をした紫色のヤバげな魚。小狐さんが捕まえて少し食べて毒がない事を判断したらしい。毒味とかすげぇな……


“アプリ起動。戦魚。モンスター 危険度★4。頭にある提灯状の突起物より相手を麻痺させ捕食します。現在死亡している模様“

 

「麻痺させるの……小狐さんは…毒も効かないので麻痺にもある程度耐性があるんだろうか?」

 

 とりあえず食うか。モンスターもやっぱり食べられる。

 危険なモンスターのようだが、とても香ばしい匂いがするし、そして実際口に入れると美味い。

 蒸して蒲焼にしたらこれあれだ……土用の丑の日に食べるやつだ。

 ガルンとライル様が一心不乱に食べている。

 そしてアステマもペロリと舌を出して喜んでいる。

 子供二人と子供舌の一人が美味いと思うならこれは名物になりうる。

 今後、この戦魚を捕獲か養殖できれば……鰻重食べ放題じゃね?

 

 お腹がいっぱいになるまでしばらく食事に舌鼓を打っていると小狐さん以外から順に様子がおかしくなる。


「か、体が痺れる……ライル様、この魚を食べるのをおやめくださ……」

 

 人間を麻痺させる力のある魚ですわ。そりゃ、その身を食ったら俺たちも麻痺しますわな?



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 

「マジか、検問が引かれている。あと少しで俺たちの虚の森なんだけど、北と東の国境、北に逃げられない様に先手を打たれたらしいですね」

「あぁ? あんな弱そうな連中、(おれ)がぶった斬ってやろうか?」

「小狐。それはまずい。僕らは助かるし、北に入れるだろうが、北と東の戦争が勃発する。それは北の死の王であるマオマオとしても時期尚早ではないか?」

 

 いやぁ……時期尚早どころか、戦争する気とかありませんから。


 剣士、ビーグさん。獣剣士、ガルン。魔法使いとデーモンにララさんとアステマ。俺、そしてライル様はユニオンマスター。

 そして剣聖の小狐さん、検問突破は楽勝だろう……

 楽勝なのだが、俺起因で北が戦禍に巻き込まれるのは嫌すぎる。


 となると、どうすればいいだろうか? 

 

 相談できる相手がいないと言うのはとても辛いものだ。アステマとガルン、小狐さんならきっと押し通ると言うだろう。ドラクルさんは小狐さんに従いそうだ。

 そして……スケール国の御三方。


「えっとぉ……一応、ライル様達にお聞きしたいのですが……この検問、力づくでぶち抜いてしまうと言うのはライル様の仰る通り避けた方がいいでしょう。別の国に亡命をしに行く事になります……その」


 これ以上は俺も貸せる力はないという事を察してくれた。


「ここまで苦労をかけた。マオマオ、もしこの窮地乗り越えたら、必ず礼をする!」

 

 ライル様がそう言うとララさんにビーグさんは俺に片膝をついて頭を垂れた。

 

 仕方がない事だと俺は片付けた。

 しかし、俺は思いっきりゲンコツをもらうことになる。


「ぐあぁあ!」

「痛ぇか? マオマオ。投げるな。最後まで面倒見てやれよ! 金は貰ってんだ」

「小狐、良いのだ! 僕もマオマオの立場であれば同じ判断をする」


 ライル様はさすが王族である。物分かりが良くて助かる。さすがに金貨数枚でなんの策もなく命を賭けるのは割りに合わない。

 しかし、小狐さんが言いたいのは割りに合う合わないの話ではないのだろう。


「黙れライル。これは筋を通すか通さないかの話だ。一応マオマオは(おれ)達の代表ということだからな」


 うん、その代表の判断に従うのがメンバーだと思うのですけどね。

 きっとそれを言ったらもう一発殴られるだろうし……

 小狐さん、力無駄に強いんだよな。

 

 いやぁ……俺だって出来る事なら助けたいんですけどね……子供とか弱い女性と、普通の技量の剣士。多分、ここで一番年上俺だろうし……


 どうしろと言うのか……


 俺が困り果てていると、ガルンが短剣を抜いた。そしてガルンがやる気になったらアステマが「仕方がないわねぇ」とか言う。

 ……最悪のパターンだなぁ。


「決まりだな。ライルの国に襲撃をかけるぞ。で、その大臣だかを斬ればいんだろ? 剣聖とかいう奴も気になるしな」

 

 この小国との戦争ルートを回避する方法があるのだろうか……いや、ないだろな。

 

「……いや、マジか……ガルンとアステマがやる気になっているのはまぁ、人間相手だからな……とはいえ小国と言ってもかなりの兵力だろ……」


 一応ね。一応、助けを呼ぼうと思えば、いるんですよ。とんでもない大軍勢。魔王軍とかいうアズリたん率いる魔物集団。

 ただしアズリたん呼んだら、北と南の連合対東という構図が出来上がる。

 それをしたとして、東に勝つと次に勃発するのは西と中央の戦力増強、世界大戦ですわ。

 

 やる気満々の俺のユニオンの連中達、そして期待しているライル様一行。

 これは……正直高くつくな。

 くそっ……もうわかってんだよ。やるしかないって……あとは動機付けだ。

 

「一つ質問です。スケール国の特産品は何かありますか?」

 

 ……あぁ、言っちまった。

 当然これが交渉だってわかりますわな? そりゃ言いますわな。


「わが国は、精霊王ツィタニア様の加護を受けたポーションの純度は他の追随を許さない。これは東の国にしか流通していない」


 なるほど、要するにスケール国は国の経営を支える中小企業ってか。

 

 ……なんか思い出した


 一度飲んだらやめられなくなる……ポーションとかなんとか。

 ポーションって俺の中では体力回復アイテム的なイメージがあるが……


「よければ一つ持っていますので、使ってみますか? この効果を感じてからでも構いません」

 

 青い液体。

 もう、想像通りのポーションが出てきた。


「じゃ、じゃあ少しだけ」


 俺は小瓶に入ったそれを一口飲んだ。


“アプリ起動、犬神猫々様の各種ステータスに変化を確認。バイタル全て正常値に、使用魔法回数が最大に回復、ハイポーションの摂取を確認“


「ちなみにハイポーションって、ポーションよりも上位のポーションという位置付けでいいんですよね?」

 

 俺の質問にララさん他、スケール国の二人は首を傾げる。

 アプリには登録があるわけで、ハイポーションは存在する。要するに、ハイポーションをポーションとして安く買い叩かれてるんじゃ……

 このポーションおよびハイポーションなら割りに合う……という事にしよう。

 俺は一口飲んだポーションの瓶を返して一呼吸。


「分かりました。俺はこれでも商人なんでギブアンドティクをモットーとします。俺の商店街にこのポーションを卸して頂く事を約束に、お助けします」


「……こんなポーションでか!」

「できる限りの金貨でお支払いを」

「マオマオ様、なんとお礼を申し上げて良いのか……」

 

 やはり、こいつらこのポーションの価値をいまいちわかってない。

 そりゃ国で精製されてていつでも手に入るんだろう。

 

「あと、もう一つ約束してもらいます。スケール国における国外へのポーションの新しい販売価格を俺が決めます」

「そ、それは内政干渉になり、私たちの独断では……」


 これに関して俺が突っ込もうかと思ったのだが、

 ウザさ金メダル級のアステマさんが口を出した。

 まぁ、確かにという……

 

「はぁ? 主に謀反者を殺して欲しいんでしょ? それも内政干渉って奴じゃないの? 今更何言ってるのよ! だよね? 主!」

「うん、まぁ……そうね」

 

 このアステマさんの態度と褒めて褒めて感、腹たつわぁ。

 しかし、アステマのいう通りなのだ。俺も随分危ない橋を渡る事になる。当然の見返り……というわけだ。

 他より俺だけが安く仕入れる事ができる。

 馬車やらの交通費をかけてでも俺の商店街で買った方が得みたいな。

 このポーションは間違いなく目玉商品になる。


「……わかりました。こちらに関してはライル様が王宮に戻り、その権力を取り戻した暁には私が約束します。スケール国は西と中央との国境近くにあり、中央の勇者親衛隊と接触を嫌がる我が国は警備が手薄になります。近づくならそこからが宜しいかと……微力ながら魔法教育士である私の力をお使いください」


 ララさんの言質をとった。そしてララさんの魔法にて俺達は認識から外れる。

 アステマの透過魔法みたいなものだろうか?


 中央という場所は話には聞くがどんなところか想像もつかない。

 

 認識から外れた状態で、ライル様は俺たちに転移魔法をかけた。

 

 どこへでも自由に行けるわけではないらしいが、一部の転送用ポータルへライル様の王子権限によるユニオンスキルで一気に飛ぶ。

 

 そこは地下にある寂しい場所へと通じていた。要するにめぼしいポータルは壊されているか、警備されているのでそこを使えない。



「ここは、兄上と、弟ラハルトと、三人で街に遊びに行く時に使っていた誰も知らないポータルだ……頼む、兄と、弟を、そしてこの国を救ってくれ」


 さて、俺も鬼じゃない。子供が助けてって言われたら、どうする? 

 やるしかないだろう。

 とりあえず作戦考えますか……

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