ウチの村の前に居座るドラゴン、見にいく? みたいなノリで誘われたけど絶対地雷
「うめぇ……ベコポンのシャーベット超うめぇ」
俺は絶賛やる気が絶望的になくなっていた。
俺が持ち帰ったオリハルコンは王都にて武器やらに加工されているらしい、北は魔王がいなくなり……俺がCEOになったんですけどね。
それでも北の魔王がいない事は国力の低下を意味し、各国から一番狙われやすい状況にある事をそれなりに賢い国王とその参謀連中は考えていた。そこで冒険者がオリハルコンを大量に見つけてきた。
売られてどこに流れるか分からないので回収してしまおう。
いや、だったら俺から買い占めろよ……
「ご主人……元気を出すのだ」
「そ、そうよ主。確かにあのオリハルコンを横取りされた事はあり得ないと思うわ……でもガルンの言う通りよ主は次の作戦をいつも考えてたじゃない」
あれか?
おかんや学校の先生がやる気をなくすと突然子供が焦り出すあれか……こいつらなりに俺を気遣ってるのか。
「仕方ないな。とりあえず飯食って考えるか……と言ってもまたダンジョン潜るのは先生いないから厳しいし……」
「マスター我は閃いたり、北の魔王関連のダンジョンを狙う事が目的と知り」
エメスの言っている事は分かる。圧倒的に手にはいる素材のレア度が違う。
が、だがだ。お前さん一人とっても俺たちがどうこう出来る相手ではなく、この前は先生がいたからイージーモードだったわけだ。
俺たちは正直冒険者としては大した事はない。
「……まぁ、あれだ。建築はホブさんスラちゃん班に任せてとりあえずクエスト見にいくか」
情報収集という意味合いもあるが、この前の先生みたいに誰か助っ人をという期待を込めているのも事実だ。
そしてフラグは立つ。
「マオマオさん! マオマオさん! ヘカトンケイルを持っているマオマオさんにお客さんです! すぐに来てください!」
凄いな異世界。
「はい期待してましたけどどうしたんですか? できれば誰かの手伝いとかそういう系が超助かるんですけどっ!」
受付の女の子に案内された客間では静かに座っている老男性。
子供である俺を見て驚く、そりゃ俺も驚くだろうな。これ特別依頼じゃん? 依頼主子供じゃん。
明らかにがっかりしているようなそんな空気を死ぬ程感じる。まぁ無理もない……俺でも子供相手の交渉なんてキツいわ。
「理由あってマオマオさんは子供の姿ですけど、このノビスの街において将来有望な商人でありながら様々なクエストを完了させているトップクラスの冒険者でもあります。きっとラムジーさんの依頼も完了してくれると言えるでしょう。とりあえずお話をされてみては?」
受付の女の子はラムジーというらしい老男性にお茶を、俺にミルクを出す。舐めてんのか?
「……流石に子供に依頼するような内容では……いや、この世界はワシの孫よりも若く、そしてワシの息子よりも強い者が出てくるのが必然……であれば恥を忍んでこのラムジー、マオマオ殿に依頼をしたい。知っていると思うが、ここより三程離れた山に我らカリムの民と呼ばれし傭兵業を主な生業としている有名な集落がある。そんな我らの住む集落の近くに……ドラゴンが住みついた事はご存知だと思う」
「そのカリムの民も知りませんし、ドラゴンのくだりも今知りました」
俺がそう言うとラムジーさんは眼光を光らせる。今、それをする必要があるかは分からないが、これは要するにあれだ。田舎者特有の自分達は田舎者ではないという予防線を張ろうとしたんだろう。
察してやれなかったのは大人気なかったか? でも今俺子供か……
「並大抵の魔物相手では恐るるに足らないが……ドラゴンは流石に我々でも無理なのである」
俺のツッコミを無視してNPCのように話を続けるラムジーさん。そしてラムジーさんはポンと何かを俺の前に置いた。
「これは二刀で一つの魔神器が一つドュポーンキラー、我が集落の秘宝であり、ドラゴンに唯一効果的なダメージを与える事ができる数少ない武器の一つだが、これは所有者を選ぶ。もう一振りのドュポーンスレイヤーは盗難されたがこちらも使用者をまだ選んではいないのだろう。これを鞘から抜ける者がいればあのドラゴンを斬れるハズ」
大体分かった。今回の依頼は、対ドラゴン用の武器を使ってドラゴン倒せと。
いや、お断りだろう。ドラゴンの逸話はこの異世界でも大分ヤバい事になっている。この異世界においても単独において最強生物であると、魔王アズリたんや秀貴先生クラスならまだしも俺たちの手に負える相手じゃない。
これは流石にお断り事案である。だってこの人、一応戦闘を生業にしている集落の人でしょ? それがどうしょうもない相手なんとかなるわけないだろ。
「せっかくですが」
「このドュポーンキラーに選ばれる者か試すといい」
全く話聞かない爺さんだなこの人。
まぁでも俺がこれを抜けなければ諦めてくれるだろうし、ラムジーさんからその鞘に封じられた剣を受け取った。これは、あれだ……ヘカトンケイルと同じ感じがする。よく言えば伝説級の武器であり、悪く言えば呪いのアイテム。
万が一抜けたら凄く面倒そうだ。
抜けないふりをして返そう。
少しだけ抜けないか試してみると、なんか抜けそうなので俺は凄い力を入れている振りをしてやっぱり抜けなかったという疲れた顔を見せてラムジーさんにドュポーン・キラーを返した。
「いやぁ……やっぱり伝説の武器だけあって俺には抜けないみたいです……残念」
「やはりか、よもや集落全員で玉砕覚悟の戦いをせねばならぬか……オリハルコンで出来た武器をいくつか王都より賜っている……それであのドラゴンにどこまで対抗できるかは分からないが、それしかあるまいな……いずれ他の地と戦になると話を聞いている。その時に命を使うか、今ドラゴンによって命を散らすかの違いという事……邪魔をしたな。幼き有能なユニオンマスターの少年よ……もう会う事もないだろう」
こいつらの元に王都かr送られたオリハルコンってこの前の俺のやつじゃねぇのか?
「ラムジーさん、ちょい待ち、そのドラゴンどうにかしたら俺にオリハルコンの武器一つ譲ってくれるかい? どうしてもオリハルコンが必要なんだ」
「そりゃ、あのドラゴンをどうにかできるならオリハルコンの武器くらいくれてやっても構わないが、ドラゴンを退治できる武器や魔法は限られおる。そしてお主はドュポーン・キラーを抜けなんだ」
そうかもしれないが、世界は広い。俺はユニオンスキル交渉術を発動した。
要するに俺はドラゴンを倒せるか、あるいはドュポーン・キラーを抜ける人物を探す。それができればドラゴン退治の依頼受注は可能だ。
ラムジーさんはしばらく俺の話す内容を夢物語のように聞いてはいたが、お俺にドュポーン・キラーを手渡した。
要するに交渉成立という事なんだろう……実に面倒だが、オリハルコンを手に入れる最後のチャンスだ。
「マオマオ……殿。しかと頼みましたぞ、我々にはこの依頼。集落の今後が左右される。万が一ドュポーン・キラーを売りにでも出したら、地の果てまで探してマオマオ殿とその関係者達はどれだけ疎遠であったとしても皆殺しとなる事をお忘れなく……我ら、王都からの依頼があれば要人暗殺も行なっておりますから、夢夢忘れてる事なきように」
「それに関しては大丈夫ですよ。俺も似たような無限売却できる武器があるから」
俺がそう言うと、反応したかのように元は巨大だった斧。そして俺のサイズに合わせた大きさになったヘカトンケイルが現れる。
それを見せるとラムジーさんは同格の武器である事に瞬時に気づいた。
「それは……誠に北の魔王の魔神器。マオマオ殿がドュポーン・キラーを抜けない理由はそれですな。魔神器は気難しい武器。二つを所有した者は今まで存在しない……もしヘカトンケイルをお持ちでなければあるいわ……」
勝手にそう納得するラムジーさん。
ガルンがドュポーン・キラーを持ちたがるので渡すもやはり抜けない。
ではお互い成果を待って! とかにはならないのである。
「では……一度ドラゴンを見に行ってみますか? 近づかなければ襲ってくる事は今の所ありません。それにヘカトンケイルがあればやられる事もないでしょう」
「いきなり?」
流石に準備というものがあるだろうと思ったが、ラムジーさんは行く気満々なので断れそうにない。
よっぽどそのドラゴンを退治したくて仕方がないんだろうが……最強の生物をウチの犬見にいく? みたいなノリで誘うやついる?
「しゃーねーな。エメス。今回は留守番というか、スラちゃんとホブさんに任せっきりだから食べ物とかの買い出しの為に残ってくれ、お前はガルンにアステマの二人と違って無駄遣いだけはしない事を俺は評価しているできるな?」
俺がそう言うと少しばかり嫌そうに敬礼するエメス、やっぱり一緒に行きたいのか? とか思った俺の気持ちを返して欲しい。
「……褒美はショタマスターを添い寝で請負けり」
そういうエメスにアステマが助け舟を出した。
「仕方がないわねぇ! 私が留守番してあげてもいいんだけど? 今回はドラゴンでしょ? 私の超強い魔法でドラゴンに効果的な物は一つもないし、いいわよ? 変わってあげても」
自分が凄いと言っているのか、ドラゴンが凄いと言っているのか、遠回しに後者か?
「いや、アステマ。お前には一番財布を預けられない。お前はドラゴン班だ。エメス、しっかり仕事をこなせばしっかり褒美は払うわかったか?」
何を勘違いしたかエメスはとても綺麗な姿勢で敬礼を返した。
「我、心よりショタマスターの帰りを楽しみに待ちにけり、戻った時の仕事の完了具合に感動と共に我が用意せり最高の寝室にて天国を迎える事約束す!」
「あぁ、ちょっと言っている意味は分からないけど、仕事頑張れ」
俺の言葉を聞いてエメスは虚の森へと戻っていく。
俺たちは俺たちでラムジーさんについていきドラゴン見学ですわ。正直、ドラゴンとなると、怖い反面ちょっと楽しみな俺がいる。
「マオマオ殿。ここより少しばかり遠いので、外にパイコを用意しております。それに乗ってむかいましょう? 騎乗経験はおありですかな?」
マジか! パイコがどちらさんか知らないけど、馬的な何かに乗れるか的な?
「一応、乗馬というか自転車やバイクの経験であればまぁ」
俺がそう言うと、ラムジーさんは優しく頷く。
きっと、何らかの動物への騎乗経験があると思っているんだろうか?
俺たちがノビスの街の外へ行くとそこには角を生やした牛みたいな生物。
「我が集落でも最高のパイコ達を用意してきました。そちらは三人。私の後ろに一名、マオマオ殿の後ろに一名でよろしいか?」
「じゃあ、アステマはラムジーさんの方で」
「仕方がないわねぇ! 人間、しっかり私を運ぶのよ!」
なんだかぐずるかと思ったアステマだったが、意外にも自分を運ばせるという事で一人テンションを上げている。
まぁ一番面倒な奴が満足ならそれでいいや。
俺もパイコに跨るとパイコの頭を撫でる。むぉ〜みたいな機嫌の良さそうな鳴き声をあげる。
ガルンが恐る恐る俺の後ろにしがみつく、後ろより前かとガルンを前に。
手綱を俺が補助する形で持たせてやると目を輝かせた。子供か!
……あぁ、子供だ。
……ちなみに俺も子供だった。
「じゃあ行きますぞ! 最初はゆっくり走りますが、徐々に速度を上げます故」
ラムジーさんは俺の乗り方から素人だと気づいたのか、並んで手綱さばきをレクチャーしてくれる。わりと言う事を聞いてくれる素直な動物らしくパイコの乗り心地は中々いい。
よく考えれば俺、電動自転車持ってたよな。
あれを使う機会が中々ないけど、移動手段は今後必要になってくる。このパイコはそういう意味ではありだ。
モン娘より役に立つ。
商人である以上は速さは重要だ。
この一件が終わったらこういう生物について仕入れ先などを調べよう。
ぱからぱからと楽しく放牧中だったが、ラムジーさんが速度をあげる。
すると俺の乗るパイコもそれにつられて走り出した。
集団で行動する動物なんだろう、本能でついて行ってしまうのだろうと思う。しかし、想像以上に早いぞパイコ。
確か牛も実は速かったっけ?
そんな事を考えていると山に入り、パイコを見た魔物が!
ヤバい! 襲われる。
「ちぇええい!」とか何とか言ってラムジーさんが巨大な猿みたいなモンスターを斬り伏せた。ラムジーさん強ぇええ!
この人で倒せないというドラゴンは要するに……
俺たちじゃ全滅級ということじゃんか!
「お怪我はありませんかな? マオマオ殿とその従者のお二人、この辺りは魔物も中々に強いですからな、できる限りは斬り捨てますが、討ちもらした物はお願いしますぞ!」
ハハッ、俺たちの手を煩わせるわけには行かない。みたいな事を仰っているのは本心からでしょうか……あんなん襲われたら詰むわ!
「そっち、三匹行きましたぞ! お願いする」
「えぇ! …………えぇ!」
アステマの魔法、俺の魔法、ガルンの攻撃、命からがらラムジーさんの集落近くにやってきた。
何度死ぬかと思った事か…………そうフラグを立ててしまった。
俺たちの目の前に剣を持った髑髏のモンスター!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「おりゃああああ! なんだここは? この辺りまでくるとシャレコウベまで刀を持って戦うのかよ流石に驚きを通り越すな。この異世界ってやつはよ!」
俺たちのパイコを襲った髑髏のモンスター、スカルナイトを蹴り飛ばして、スカルナイトが持っていたボロボロの剣を拾ったのは美少女だった。
というか、着物みたいな服を着ている。
日本人なんだろうか? いや、どこか違うような気もする。
腰に二本、背中にも二本。モンスターから奪ったであろう剣をぶら下げている。
ラムジーさんの口が空いたまま塞がらないので、多分この美少女かなり強いんだろう。そして同時にこの世界の人間でもなさそうだ。
かと言って、俺のように異世界生活特措法にてやってきた感じでもない。これはどういう事だろうか? どうあれ恩人であるこの少女にお礼を言った。
「すみません、助かりました!」
ギロリと俺を見る武装少女。ゆっくりと俺、ラムジーさん、ガルンにアステマを見る。
そして近づいてくる。剣を明らかにこの世界の剣術とは違う構えで警戒している。
正直威圧感が凄い。何この子?
「お前ら人間か? それとも化け物か? 正直見分けがつかねーぞ」
人間、人間、獣人系の魔物、亞人系の魔物。確かに俺も見分けがつかない。
「に、人間です。助かりました!」
俺たちはさらに山の向こうに、巨大なドラゴンがいる事を説明。
すると少女は腕を組んでうーん、うーんと考える。背中くらいまでの長い黒髪。魔物であるアステマ達に引けを取らないくらいの美少女。
そしてかなり腕が立つときた。俺と違って主役級なんだろう。
先生にしてもそうだったが、この世界にくるイケメンや美少女はとにかく強いというルールとかあるんだろうか?
……理不尽だ。
少女は俺の後ろ、すなわちパイコに跨ると案内しろ! そう言った。
手綱を持つガルンがややびびっている。やっぱりこの美少女も規格外系の強さを誇るんだろう。
悪い子ではなさそうなので若干の安心感を感じる。
そして、戦の民と言っているラムジーさんよりも殺気を感じるのが早い。
またしてもイージーモードである。襲いくる魔物は全てこの美少女の剣の錆に変えられる。
結構いい剣を使っているラムジーさんよりも鈍の剣でモンスタを両断していく。
素人目に見てもそうなのだが、もしかすると剣の上ではラムジーさんより……
ラムジーさんは美少女を見て必殺技のような剣技を披露した。
モンスターが三つに切り落とされる。それを見て、美少女も同じ剣技を放った。
なんか置いてきぼりだなぁ……ほら、アステマもこの美少女がやばいからちびりそうな顔してる。
「なんという功夫……その年で、そして女でありながら、名前を聞いてもよろしいか? 女剣士殿? それに見たこともない剣技」
俺の後ろから、綺麗な声で美少女は話した。
「俺か? 聞いて驚くな! あの将軍・足利義輝様にかつて仕えた羅志亞忍軍、副忍頭。そして侍でもある。天の剣に挑もうとする己の名は! 小さい狐と書いて、小狐よ! よく分からないけど、俺に再び別世界で生きろとか変な女に言われて目覚めたらよくわからない場所。トカゲや犬やらが武器持って襲ってきやがる」
まさか……まさかまさか……
「い……い……、異世界転生、いや、この場合は異世界転移者か! 本当に実在するんだ! すげぇ、しかも室町時代の人?」
この時の俺の興奮に関して、意味が分かる人がいない。
ラムジーさんにも小狐さんにもアステマ、ガルンにも引かれた。
「マオマオと言ったか? 貴様、上様を知っておるのか? ならば話が早いのだが、己は死んだと思ったが、ここはどこの国だ? 大陸か?」
小狐さんと名乗った美少女に俺はここは日本ではない。そして俺達の世界でもない事を教えた。
信じないかと思ったが、やはり同じ国のご先祖様である。
信心深いというべきか、妖怪やら神仙の類ですら信じている別世界に関してもすぐに受け入れた。
「ほぉ……なるほどな。ここは別世界という事か、そう言われるとしっくりくるな。この世界の剣弱すぎる」
小狐さんは率直にそう思ったのだろう。そりゃ飽きる事なく戦争ばかりしていた時代の人だ。
俺と同じ日本人なんだろうが時代が違うだけでこれほどの感覚が違う事には流石に閉口してしまう……だが、小狐さんの言葉が納得できない一人。
そう、戦闘を生業にしているラムジーさんである。
「小狐と言ったか? 剣士の娘よ」
眼光鋭いラムジーさんを見て小狐さんは俺の頭に顎を乗せて答えた。
「あぁ、オッサン。さっきからそこそこな殺気を飛ばしてきてやがるけど、己とやり合いたいのか? 受けるぜ?」
その言葉を聞いてパイコを止めるとラムジーさんは降りた。
「どこの剣術かは知らぬが……見定めてもらう」
何だろうこの置いてけぼり感。
ラムジーさんは下段に良い剣を構え、小狐さんはモンスターから奪った鈍な剣を中段に構える。
「我が一族に伝わる剣術は元々殺人剣から成り立つもの、されど北の地が魔物による進撃を受け時の王に助力を願われ初めて表舞台に立ってはや二百年。何処の騎士団の剣とも違う我らの剣を見切った物は未だなし、その剣を見てもまだ弱いと言えるものか……腕に自信がある事は良い事だが、上には上がいるという事、その若さで知るもよし!」
ラムジーさんは語る語る。よほど小狐さんの言葉に納得がいかなかったのだろう。
何らかのスキルでラムジーさんからオーラを感じる。
お互い合図は無かった。ラムジーさんと小狐さんは同時に動き、そして剣がぶつかった。
小狐さんの剣は根本からぽきりと折れ、ラムジーさんの剣は刃先は折れた。
「小狐殿と言ったか? いや、小狐様。貴女がもし同等の剣を持っていれば私はここにはいませんでした」
そうらしい、俺でもわかるが小狐さんは剣術という意味では最強クラスだろう。
小狐さんは剣をポイと捨てると。
「この剣もどうも悪いな。握りが悪い、そして両刃は無駄だな」
そりゃ日本刀を振り回していた時代の人だろうから、剣に不満があるんだろうな。
ラムジーさんは小狐さんと立ち会った後、性格が変わったように小狐さんに自分の集落に寄って欲しいとそう言った。
彼女の剣を見せてやってほしいと言っているが、やたら孫の話をする。
小狐さんは控えめに言って超美少女だ。そして強い。要するに孫の嫁にしたいのだろう。
「食い物と金、そして業物の剣が己には今必要だ。それをくれるならお前達の護衛をしてやってもいいぞ? これでも己は戦働きをしておったからな!」
全く小狐さんはラムジーさんの話を理解していない風だった。
「それにしても小狐さんはどういう経緯で……いえ、最後に覚えている事は何かありますか? 俺でよければ分かりそうな事はお伝えしますけど」
「マオマオ、面白い事を言うな。己はあれだ。上様の仇である松永秀久を討たんと信山城を攻めた際にどうやら討ち死にしたらしい、それ以上は覚えておらん……せめて松永がどうなったかをな」
「松永弾正秀久はあの戦で命を落とします。その後、織田信長は破竹の勢いで天下に王手をかけますが、残念ながら信長も天下人には慣れませんでした」
小狐さんは自分なりに考え何度か頷く。
俺と小狐さんの話す内容を他三人は知るよしもない。
同郷の者くらいで聞いているのだろう。
それにしてもガルンが小狐を見て目を輝かせている。
強い奴には頗るビビるガルンがだ。
多分、小狐さんの剣さばきを見てカッコいいと思ったんだろう。
ガルンは本当にいい意味でガキだからな。
それにしても小狐さん、俺が子供だからって体を密着させすぎである。
形の良い山二つが俺の頭に頭にパイコが走る度に当たり、嬉し、けしからん事になっているんですよ。まじで……
小狐さんはおいくつくらいだろう?
パッと見、十五、六。アステマ達と同い年くらいに見えるが、秀貴先生の件があるから正直年齢は不明である。それに俺は羅志亞忍軍なんて聞いた事ないぞ。
そんな事を考えていると、突如俺の前で座るガルンがブルブルと震え出した。何かがいる。
それもこの震え方はアズリたんや、聖女サマ、先生クラスだ。
そしてそれにはアステマも気づいたようで、さらに言えばラムジーさんの表情が険しくなる。
俺もすぐに目視することができた。
「マオマオ殿、あれがこの度依頼したいと思っていた。エンシェント・ドラゴン。単独最強の生物です。お分かりいただけるでしょう。あのプレッシャー」
“ドラゴン種。データベースに該当モンスターなし、危険度・測定不明です。すぐにそこから離れてください。一旦危険度を魔王アズリたん相当と仮定します“
アズリたんはドラゴン喰うらしいからアズリたん以下だろうけど、多分俺たちからすれば変わりはないか……
皆がビビる中、小狐さんは違った。
「ほぉ、おかしな場所だと思ったが、あんなデカいトカゲに羽まで生えてやがるのか! よし、今日の飯はあいつにしてみるか、ヤモリは意外とうまいからあいつは食いごたえありそうだしなっ!」
今、この人なんっつた? ドラゴン食うとか言わなかったか?
流石にその言葉にはラムジーさんが真剣に止めに入った。そりゃ嫁候補がこんなところで死なれたらたまらんだろうな。
「こ、小狐様。あれは我らの手には負えないドラゴンですぞ!」
うん、人間は猛獣に勝つためには銃がいる。ドラゴン倒そうと思うとミサイルくらいいるんじゃないか?
その言葉を聞いて小狐さんは目を燦々と輝かせる。あっ、これダメな奴だ。小狐さん多分、ドラゴン相手に武者修行する気だ。
背中の剣を二本抜くとパイコから飛び降りた。
というか、小狐さん、走るの速ぇ!
「いくぜ、トカゲの親玉! 己の妖狐剣術が通用するか試してやらぁ!」
うわぁ、絵になるなぁ……美少女剣士とドラゴンの図ですよ。
で、かたや、ウチの残念な美少女達はというと、ガルンはビビりながら小狐さんをガン見、アステマは手で顔を隠し、指の隙間から見てる。
何だろう。いや、強い奴と戦う必要なんてないし、臆病な事はいいことなんだけど、小狐さん人間で、こいつらモンスターだろ……何だかなぁ。
「す、すごいのだ! あの人間、スキルも使わずにドラゴンの炎を避けてるのだ」
「あ、主。アンタの知り合い、オロナイン先生と言い。あんなのばかりなのかしら? というか主。そういうヤバい種族なのかしら? ふふん、どぉってことないけど」
とか言う割には、アステマさん、かなりビビってらっしゃる。
「いや、俺は普通だけど俺の知り合いはあーいう人が多いらしい。まぁ、崇高なグレーターデーモン様であらせられるアステマさんからしたら、大したことないみたいですけど、まぁ、俺が危ない時は助けてくれるでしょうな? まぁワガママ言う子への折檻とかしてくれるでしょうな?」
アステマはあわあわと慌てる。おもしれぇ!
「ふ、ふん。私が主にワガママなんて言った事ないんだから、ないわよね? ね? 主」
どの口がそれを言えるんだろう。
絶対、自覚あるじゃん。
俺が何かを言おうとした時、ズザザザザザ! と地面を焦すような匂い。
そして目の前には小狐さん、剣は砕かれ、されど嬉しそう。
「マオマオ、爺さん、剣かりっぞ!」
俺の腰にあるタングステンキャンプ用ナイフと、ラムジーさんの業物の剣を抜くと再びドラゴンの元へと走り出す。
ドラゴンが炎を吐いた。横に避ける小狐さん。人間わざとは思えない足の運びでドラゴンの真下に来るとナイフと剣を向けた。
「喰らいやがれぇ! 妖狐剣術二の太刀・管狐ぇ! ぶっ飛びやがれ、トカゲのおお大将ぉ!」
何やら目に見える剣戟がドラゴンを襲うが、ドラゴンは目を大きく開くのみで、小狐さんのもつ俺のナイフとラムジーさんの剣が砕けた。
ヤバい! 小狐さんドラゴンの炎を回避できない。
「剣投げてくれぇ!」
小狐さんの声、剣なんて……ラムジーさんが俺に叫んだ。
「マオマオ殿、デュポーン・キラーを一かばちか!」
俺は思いっきり、小狐さんに目掛けて魔神器の一つ、デュポーン・キラーを放り投げた。




