量産型は“せめ“も“うけ“もできるらしいよ。
「ガゥウウウウウウウ!」
ダンジョンに入るや否や、ワームビーストなる超危険モンスター★10が飛び出した。
それに死ぬほどビビる三人のモンスター娘たち。そしてそれと無謀にも戦おうとするミントさん。
俺は逃げる算段を考えている中、今回の俺たちのパーティーにいるチート。そう、先生である。
「すげぇな。このあたりまでくると芋虫も二足歩行をするのか、根性ありそうだな」
先生を見たワームビーストは近づいて何かを察したのか、離れていく。
「ふふん! 虫けらのモンスター、私たちにおそれをなして指を咥えてみているわよ! 情けないんだから!」
虎の威を借る狐という格言を残した人を俺は酷く尊敬した。
きっとアステマみたいな奴を見たんだろう。
まぁ先生といることが安全と分かったガルンは掌を返したように、先生と手を繋ぎダンジョンを進む。
遠足にきた父と娘の図にしか見えないのだが、ここは本来我々が足を踏み入れていい場所ではない…………
というか、ミントさん。なんの策もなしにこんなところ来ようとしたのかよ。○メック星で復活させてもらったピ○コロさんくらい考えなしだな。
「いやぁー! 先生がいるとマッピング捗るなぁ」
ダンジョンのマッピングは攻略されていないダンジョンであればあるほどにいい値段で売れる。
このダンジョンはかなり高ランクの冒険者向けになっているから、中々攻略も進んでないだろう。
俺たちの認識とは違い、好き好んで冒険者は危険なダンジョンには潜らないらしいから……
「すみません。そっちに火を向けてください」
俺がそう言うと先生は炎の魔法フィアをランタンのようにしている木の枝を向ける。ワームビーストがいるが奴らはすぐにそのばを離れる。
スマホの懐中電灯機能を使わない理由、先生はスマホを持っているのにも関わらず、電話以外の使い方を知らない。
ガラケー渡しとけよ……普通のスマホや携帯だと壊れるらしく普段持ちあるていないとか。
「ここ、人工物みてぇだな」
先生はこのダンジョンの作りを見て一言。俺も同じ事を考えていた。
明るくして気づいたがここはどう考えてもコンクリート作りなのだ。
作りかけのホテルや研究棟みたいな雑さだが……
「……なんだこれは? 日本語と絵、壁画か?」
先生が怪訝そうに見つめている物を他女子達が見えうとして俺は咄嗟に魔法を唱えた。
「ファイアーボール!」
貴重な魔法回数を一回消費。先生が目を凝らして読もうとしたそれを俺はイメージで理解した。耽美的な少年がウィンクし、何や卑猥なセリフを……もうここ完全に北の腐女子の関係施設ですね。
見れなかった事にぶーぶー言っているアステマ達は無視だ。万が一こいつらがハマったらより面倒になる。
そして、俺は案外先生が猛毒である事を知る。
先生はドンピシャで何故か、腐女子が残したであろう。美少年達のその“見せられないよ!“な壁画を見つけていく。
その度に俺は魔法を使用し、ついには個人的に使える回数を使い切った。
「犬神、顔色が悪いが大丈夫か?」
えぇ、魔法力を使い切った時ってプールで全力で泳いだあとくらいの脱力感があるんですよ。
アンタが変な物見つけてくれなければこうはならんかったですね。
「提案なんですけど、ここロクでもない物しかないと思うので引き返しません?」
「せっかく来たんだ。その“まっぴんぐ“とやらだけでも終わらせろよ」
先生が真顔でそう言う。そしてその他がそうだそうだと! 先生の肩を持つ。
そりゃ無敵モードのダンジョン探索楽しいでしょうね。
やばげなモンスターに何度か遭遇した。
毒の息を吐くバジリスク 危険度★12 岩石や鉱物の体を持ったギガンテス 危険度★ 14 などなど、本来であれば我々が瞬殺全滅するような生涯会いたくないモンスターのそれらが先生を見て道を開けるのである。俺は恨みを買わないように通る時、そんな魔物達に会釈だけはしておいた。
俺たちはそんな感じでダンジョンを二周ほどうろうろして、中心部に何か空洞があるんじゃないかと俺、ミントさん、先生で一致した。
モン娘の三人は座って弁当食ってるよ。
いいご身分ですね。
「……かなり広い空間がありそうだな」
こんこんと先生が壁を叩いてそう言うので、イカみたいな物を咥えたエメスが立ち上がった。「我の出番と理解したり」そう言ってエメスは腕と手に魔法力を込める。
エメスの特殊攻撃、破壊力には定評がある。
だが、ここはあの腐女子もとい、エメスを作った北の魔王が作った施設。
なんらかの魔法防御がかけてあるのか、傷一つつかない。まぁそんな力技で入れるようにはなってないだろうな。
エメス本人もここが元々自分を生み出した北の魔王が関係するダンジョンであると気づいたのだろう。
それに少しばかり、目の色を変えたエメス。ここ最近で一番エメスがイケメンな表情をしているかもしれない。最高の素材なのに、普段の言動が残念すぎる。
「主、少しばかり我。本気を出したり、よもやいつかは決別すべきと思い、願っていたり、我は北の魔法ではなくシーイー王たるマスターのにくどれ……やはり頭にノイズが走りけり、これが北の魔王による束縛というのであれば、我マスターへの強烈なプレイと思い壁をいざ破壊せん! フルパワーで撃ち抜く!」
お前さんの一定以上の発言にノイズが走るのは俺がつけた18禁フィルターだ。
しかし、エメスにも何か思うところがあるのかもしれない。巨木を一撃で粉砕するシルバー・ハンマーを最大威力で放った。
がしかし、壁にはやはり傷すら入らない。
「……! 信じられず……魔導機人である我の最大最強威力を持ってしてこれだと言う事実。この壁は南の魔王であるアズリタン様クラスでなければ粉砕不可能と知ったり!」
エメスがそう言うので、そうなんだろう。どう考えても入口もないし一旦帰るか?
「マッピングはかなり進みましたので、とりあえずこれ持ってノビスの街へ一回戻りましょうか? そしてもう少し人員を増やして侵入経路がないかを確認するのがベストプラクティスかと」
俺は先生に同意を求めたつもりだった。先生は壁をコンコン叩いて。
「まぁ、これくらいなら壊せそうだな。お前達、少し下がってろ」
いやいやいや……いくら先生でもこの壁は無理でしょ!
だって力しか取り柄のない下ネタ製造機が本気で殴って傷一つ入らないんですよ?
先生は瞬間中腰から構え、そしてエメスのように正拳ではなく、裏拳を壁に当てた。
壁は思った通り何も変わらない。変わらないはずなのに、ピシピシとパラパラ、そしてガシャン! と壁が崩れ始めた。
「おい、足元危ないから気をつけろよ? 中は少し明るいみたいだな。犬神! ぼーっとせずに引率しろ」
「は、はい!」
いや、バケモンだろこの人。
だって、あのエメスが考えるのをやめているんだもの。きっと北の魔王との因縁的な何かを奴も考えていたんだろう。
だが蓋を開けると物理法則とか超えすぎた何らかの力で砕かれた壁。
俺はもう何も考えまいと先生に言われた通りに皆をこのダンジョンの中心部に続く壁の穴を進ませる。
そしてガルンが石に躓いて転んだ、
「うわあぁ……痛いのだ! 痛いのだぁ!」
とらばさみよか痛くないだろう。
俺の回復を期待しているのかもしれないが、俺は腐女子の描いた壁画を破壊するのに魔法は使いすぎた。
すると、
「擦り傷か? しゃぁねぇな」
先生が袖の中に手を入れてゴソゴソ、これには俺も何か凄い物が出てくると思った。
先生が袖から出した物……、多分の日本の家庭に高確率であるアレである。
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「これだこれ、オロナインをよく塗っとけ」
マジか先生。オロナインを万能薬か何かだと思っている。
昭和か! ガルンはそれを受け取って傷口に塗り込んでいく。
すると、なんという事でしょう! オロナインを塗ったガルンの傷口は綺麗さっぱり治りました。
日本のオロナイン万能薬信仰は凄まじいが、これはどう考えても効きすぎだろう。
「おぅ、さすがオロナインは良く効くな。じゃあいくか?」
そして先生もまたオロナインへの強い信仰心を持つ人だった。俺はアプリが起動していた事に気づく。
“ユニオン同盟の成山秀貴様のユニークスキル・覇王。あらゆる効果を最大3000%にまで爆上げするアルティメットスキルが使用されました“
「なるほど、さっきのあの異常なまでの破壊力もあのスキルか」
俺が納得していると先生達は何かを見つけたらしい。あの北の魔王関係で何か見つけられるのが一番厄介ではあるのだけれど……
「何か宝石みたいな物があるわよ! ふふん! すごい魔石とかだったりして!」
ほらフラグを立てた。しかも今回は先生がいるからよりタチが悪い。
アステマが紅い大きな宝石的な物を見つけてそれを引っこ抜いた。
“ウー! 侵入者! 侵入者! 北の魔王シズネ・クロガネの眠る魔王墓に侵入者あり ガーディアン召集“
ほら、言わんこっちゃない。でも前のパターンだとそういうのいない的な感じ?
「誰か来るな……二人、お前達の知り合いか?」
先生がそう暢気に言うがどこからともなく、ウーバーイーツの鞄みたいな何かを背負った二人組がやってくる。そのウーバーイーツの鞄の中には鎧。
……すげぇコスモを感じなこいつら。
「我が唯一無二にして最愛たる北の魔王の陵墓を荒らす愚か者がいるとは恐れ入った。オリハルコン近衛闘士・特級ゴーレムのアベルが引導を渡してくれよう。ふっ、我が弟カインも来たか、憂い奴よ」
凄い美形の男がやってきたが、多分こいつは馬鹿だ。そして薔薇を咥えてもう一人、ウーバーイーツの鞄みたいな物を背負ったイケメン。
やっぱり中には鎧みたいな物が入っている。
「兄さん、一人で僕らの天上たる北の魔王にいいところを見せようなんて許さないんだからね! 同じくオリハルコン近衛闘志・特級ゴーレムのカインだよ! よろしくね!」
男のくせにぶりっ子キャラか、すげぇ殺意が湧くな。
しかし、こいつら。俺のスマホのアプリでは★27という狂気じみた危険度を叩き出していた。
そしてさすがに先生がいるとは言え、モン娘の三人もこいつらのヤバさに閉口していた。
そして特にエメスはフリーズするのではなく、同じ北の魔王に作られたゴーレム故、家族か兄弟なんだろうか?
俺は飛び出して行きそうなミントさんのローブを掴む。
そしてこの状況を回避する方法を考える。考えている間に鞄から取り出した鎧を装備する二体のゴーレム。手動で着替えるんだ。
ゴーレムの兄弟らしい二人は俺達の中でエメスを見つけると驚いた顔をする。
そして俺たちに聞こえないような小さな声で何かを言い合うと笑ってこう言った。
「おぉ、これはこれは失敗作の君とお見受けする。確か、廃棄処分されたはずだが? 新しい飼い主の元で尻尾を振ったか? この面汚しめ」
ゴーレム兄の挑発にエメスは飛び出した。案外喧嘩っぱやかった。だが、相手が悪すぎる。エメスの危険度はせいぜい★5か6程度だろう。その戦力差や5、6倍が二人だ。
エメスの狙いは悪くはなかった。
まっすぐ行ってぶん殴る。特殊攻撃シルバー・ハンマー。
それを鎧をきたカインが横から突き飛ばす。
続いて一足遅く鎧を装着したアベルがさらにエメスを地面に叩きつける。どこか壊れたんじゃなかろうかという音が聞こえる。
「……我、唯一無二のマスターを飼い主扱いした事に憤慨す! マスターは我という性具の所有者なり!」
ちょっと言っている意味が分からないけど、エメスの逆鱗に触れる何かだったのだろう。変態の考えは分からないな。
しかしその戦力差は一目瞭然だった。エメスではこの二人には絶対に叶わないだろう。
しかし、助太刀しようとも、早すぎて危険だ。かといってアステマと俺の魔法はあのゴーレム兄弟には通じないらしい。
あの鎧が弾いている。
いちかばちでユニオンスキルを思いっきり叩き込んだガルンを突っ込ませるか?
「友達か親戚か知らんがありゃやりすぎだろう」
いや、ちょっと期待はしていたんです。マジで結構真剣に。
我らが先生がゆっくりとスタスタとエメスが一方的になぶられているところに介入した。まぁ……先生。
たのんます!
「北の魔王様好みの人間だな愛しい弟よ」
「そうだね。魔王様好みの人間だね兄さん」
二人は手加減をして先生を捕まえようとした。
それをゆっくりと回避しながら先生はエメスの元へ。
あちこちぶん殴られボロボロのエメスを見た先生は……
まさか、出すのだろうか? またしてもあの万能薬を……いや流石に……
袖の中に手を入れてゴソゴソと何かを探している。いや、湿布とかかな?
そして先生はオロナインを取り出した。
やっぱりオロナインだった! 先生はどれだけオロナインに関して信仰しているんだろう。
先生はエメスの顔にオロナインを塗ってくれる。そしてオロナインを渡してあとは自分で塗るように言った。
そして先生はそんなエメスをぶちのめしていたカインとアベルなるゴーレムの元へと次は向かった。懐に手を入れて、侍みたいだ。主役級の先生の活躍を俺もちょっと楽しみだ。
ほら、ガルンとアステマはオヤツを食べながら、ミントさんはメモを取り出して勉強モードだ。
「お前ら、女の子相手に男二人で恥ずかしくないのか?」
男女差別がうるさい時代にはなったが、やっぱり先生の時代は女の子は守べき対象なんだろう。怒るわけでもなくそう聞いた先生。
カインとアベルと呼ばれたゴーレムは近づく先生に不適な笑みを漏らす。
捕獲するとかなんとか言ってたけど、なんというかそれは凄いフラグのようだ。俺は回復魔法は使えないが、ユニオンスキルでエメスを少しでも楽にしてやろうと手当てに向かうと、不思議な事にエメスは艶々の新品になっていた。
オロナイン凄すぎだろ……いや、覇王系スキルのおかげか……ん?
いやでも、オロナインの効果を3000%上げてもゴーレム修復はできないだろう……
なんか俺も……アプリで魔法使用回数を確認。
“犬神猫々様の本日使用可能魔法回数。残一回“
なんでだろう? 俺は確かに北の魔王が描いたくだらないB L壁画破壊に使い果たしたはずなんだけど……というか魔法使い切った気だるさも無くなってる。
……? これもまさか先生のユニークスキル体系なんだろうか?
先生は丸腰で、カインとアベルはサーベルを抜く。
「兄さん! 恨みっこなしですよ! 北の魔王様の陵墓にお供えするに申し分ないこの人間、凍らせるか、剥製にして永遠に北の魔王様にお楽しみいただくよ! そーれ!」
鋭いサーベルだ。きっとあれも魔剣の類だろう。スペンスが使っている物より明らかに物がいい。
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「お……オロナイン先生っ!」
「ガルン、我の読みではオロナイン先生はあの二人より遥かに強いとみたり」
ガルンとエメスが、人間相手に先生という敬称を初めて使った。だがその呼び方はないだろう。
「鋭い刃物だ。いい物なんだろうな。だが、それも使い方と使う者次第だって事だ。踏み込みが甘い、振り抜く角度が甘い、そして速さが足りない。落第だな」
先生の首を落とそうとした剣は先生の首に触れて止まる。
「馬鹿な……何故切れない? なんらかの魔法防御? いや、不可侵系のスキルか……一体何故? お前は何者だ!」
先生は剣を持つカインの腕を持って放り投げた。何が起こったのか分からない顔をする。
「弟よ。遊びがすぎる! がしかしこの人間がやり手であるという事は、今しがた更新した。北の魔王が生み出した精鋭であるこのアベルの剣にて永遠となれる事を喜びの内に死ぬがいい。お前のような武人と戦えた事を誇りに思う! このアベル最速の秘剣」
「だから遅いんだっつーの」
先生のその一言はカインとアベルを絶望させるに足る返答だった。きっと凄い斬撃だったんだろう。それ故先生も少し力を放ったらしい。
らしいというのは、俺のような凡人には何が起きたのか分からないからである。だって俺レベル9ですよ。先生は推定レベル200越えとかの規格外の連中の事分かるわけないだろ。
「……我が斬撃十二連撃をすべて回避しながら、真っ直ぐに歩み掌底一発か……カイン!」
アベルさんは何か一人で言っていると自分の体に手を突っ込み弟さんに渡した。
「兄さん……嘘だろ兄さん……僕にB L高炉を託すだなんて」
クソみたいな高炉で動いてるな……あ、エメスさんもか……確かブルーティシュ・リネージュ高炉だったか?
「人間め……そしてもう一人。そこでのうのうと見ているお前……北の魔王様が廃棄したとはいえ特殊ゴーレムを起動し、配下に加えるとは弱小とはいえ、魔王種としての条件を持っているのだろう。人間という連中はいつも汚らわしい。兄のB L回路を得た事で受けも攻めも可能となった攻守最強の僕が滅びを与えてやる」
言い方。
されど、危険度の★が十個程跳ね上がった。
「いざぁあ!」
「やべぇ! 来るぞ! 先生お願いします!」
完全に先生頼みだったのだが、エメスが先生の横に立つ。
「マスター、ここは我に任せて欲しいと心から懇願す! さすればどんなど変態プレイでも受ける所存っ!」
いや、普段から俺がなんかそういう命令しているみたいにキリっと言ってる。
YESかはいで言えみたいな事をエメスが言っているが、こいつボコボコにされてたじゃん。絶対無理じゃん……
そんな俺に気づいたのか先生がよっこらしょと俺の隣に並ぶ。
そして俺の肩をポンと叩いて言った。
「犬神、お前あいつの保護者だろ? なら自分の娘が頑張ろうとしているのを信じてやってもいいんじゃねぇか? あいつは筋はいいぞ」
「先生……」
「ん? なんだ?」
「娘じゃねーよ!」
“ユニオンスキル 覇王覇気発動。対象一名に対して最大能力を瞬間400%強化を行います。これは停止できません“
さぁ、いつから俺と先生はユニオン同盟になっていたのか……
多分スマホの連絡先登録した時だろうな。
ハハッ、怖いわ。セキュリティもクソもないな。
「我……開眼せり! 後継機を屠り北の魔王との因縁を完全に途絶える事をここに誓いけり、今の我はドラゴン種すら凌駕せり! いざ、イデアの彼方へ!」
最後何つった? にしてもエメス、凄い魔法力だ。
要するに旧型機であるエメスと、後継機であるカインとのガチンコバトルだ。
不敵な笑みを見せるカインと、なんか異様に殺気満々のエメスはゆっくり向かい合う。
本来であれば、ここはエメスとカインの戦いを見守るところなんだろうが、ウチのモン娘達に人間の道理は通用しない。
「エメス、ありがたく思いなさい! ダイアモンド・ハープん!」
めちゃくちゃ水をさすアステマ。
そして当然の如く、ガルンもそれにつづいた。おもいっきり手頃な礫を投げつけ、まさかのミントさんまでその礫の強化魔法をかける。
しかし、ガルンとアステマの抵抗なんてカインにはさして問題ではなかった。避けもせずにそのまま受けてエメスに攻撃を仕掛けた。
やばいな……アプリでの計測上は若干であるがエメスの方が強そうだ。
しかし、今の超絶強化した状態を上手く扱えてない。
「やはり、廃棄処分されたゴーレムが身の丈に合わない力を持ってもそんな物だよ! 僕らは以降の北の魔王のゴーレムベースになっているんだ! 量産型という素晴らしい称号をね!」
世界が変わると、量産型は褒め言葉らしい。
まぁ、量産型は安全性も可用性も高いとは言うけど……やはり俺は特別機や専用機推しだな! そう、エメスに一票だ!
「エメス! やっちまえ! ユニオンスキル魔王権限・ウィルオーウィプス! 力を制御しにくいなら使える体になれ!」
機巧魔神クラスチェンジしたエメスは腕を組み、目を瞑る。
なんとなく見た事があるような格好でカインを待つエメス。そんなエメスを見てカインは両手に魔法力を高めて最高速で、来た!
「僕よりも格下のゴーレムにクラスチェンジしたところでぇ!」
あっ、凄い小物感のあるセリフだった。カインの攻撃。
目を瞑ったままのエメスに回避され、エメスはただカインの攻撃を避け続ける。
要するに舐めプである。もう戦力差は歴然。
というかカインというゴーレムは引けないところがあるだろう。だから勘弁してやれよという気持ちに段々なってきた俺。
カインは魔法力を帯びた拳。
魔剣による斬撃に、エメスは目を瞑っての回避。なんか腹立つな。
そしてカインの魔法は手で受け止める。
完全に力の差を見せつけた上で、エメスはただまっすぐ歩いてぶん殴った。
ドンガラがっしゃんと、壁の一部を壊し、カインの一部も壊れる。
「な、なんという規格外の強化」
「……もう眠れ、失敗作。そう我は静かに言う! 我、かっこよすぎる」
自分でそれを言ってしまうのがエメスを作った奴の頭のヤバさを理解し、カインが段々不憫に思えてきた。
その為、俺は提案してみた。
「なぁ、カインだっけ? ちょっといいか?」
「……なんだ。敵首魁の人間よ」
ボロボロながらもカインはこの場所を守ろうとする仕事人としての動きを見せる。
それは俺の心を大きく打った。きっとこのカインはいい仕事をしてくれるだろうし、兄の方も修理できるかもしれない。
「俺たちのところに来るか?」
魔物の仲間が一人二人増えても大した問題じゃない。
その言葉にカインは驚き、そして笑った。うん、多分これは拒否する奴だな。敵ながらかっこいいじゃないか。
「戯言を、旧式のゴーレムを屠り、次はお前達の番である知れぇ!」
そう、カインは思いの外善戦した。超絶強化したエメスにかなりのダメージを与えた。
代わりにカインはもう回復不可能なくらいに破壊される。
もう誰がみてもカインには勝ち目はないと思われたが、カインは口を大きく開けてなんらかの魔法を詠唱。
きっと破れかぶれの最後の一撃だったのだろう。
とんでもない威力の魔法砲撃をエメスに放った。
目を開けていられない程の威力、先生が俺たちの前にいなければやばそうなそれ、ようやく目が慣れてきたなと思ったら、エメスが両手を前に少しだけやられちまったぜな顔をしている。
とても腹立たしい。
「……一つ教えて欲しい。なぜ僕らは敗れた?」
よく最後に聞くセリフをエメスに尋ねるカイン。
震えながら、エメスの最後の言葉を聞く為に体を、人工的な魂をとどまらせているようだ。
「知れたことを、貴様達と我とでは、マスターに行われてきた数々のプレイの強烈さが違う。敗因はそれだけと確信したり」
何言ってるのこの子。
ほんと、何?
カインも「そうか」とか言って安らかに眠りそうになるのやめてくれないかな……いや、マジで……
「僕達、受け型と責め型のゴーレムとしては最初期型……僕らを倒せたとしても、後継にいる爆裂兄弟レツマとゴウカイ……さらにミスリルの錬金術師と言われたエドガーとアルフォード……第二第三のガーディンがいると……知ればいいさ……北の魔王シズネ・クロガネを調べればこの合言葉、あるいは暗号にたどり着くだろう……ヤマナシ・オチナシ・イミナシ……」
まだいるのか、しかもややこしそうな名前だなぁ……北の魔王というか腐女子、どれだけゴーレム作ったんだよ。
そんな俺の思考を強制終了させるガルン達の声。
「あいつ等が守っていた北の魔王の陵墓なのだ! きっと凄いお宝が入っているのだ! ご主人も大喜びなのだ!」
うっ! なんだか嫌な思い出が……その墓を開けるな!
「ちょ待てよぉ! またエメスみたいな変なの出たらどうすんだよぉ!」
当然俺の声なんて余裕で無視してガルン達はそこを開いた。モクモクと煙が漏れ出す。これで老人になったらどうする?
あっ、俺子供だから元に戻れるかも。
『この、シズネ・クロガネの陵墓を荒らす者よ』
そこにはとてつもない美女が半目で俺たちを見下ろしている……どうも映像のようだ。
これが、シズネ・クロガネ? 想像とは違った美人だ。
『この我が姿はイメージである。我が陵墓の前で泣くのはよすといい、ここに我が骸はない。死んですらもおらぬ』
でしょうね……絶対こんな姿じゃないと思った。
千の風が流れそうなセリフをくっちゃべる北の魔王。もう帰りたい。でも彼女は続ける。
『一体どのような者かは知らぬが、褒美を与えよう。三大宝玉が一つ聖魔皇の宝玉、ちょっと引くくらい魔法力を貯められるから使用には気をつけよ!』
そういうと北の魔王の映像は消えて、紫色に輝く丸い水晶的な何かがコロンと転がってきた。
「なんだこれ? 見るからにやばそうなアイテムだけど……」
その刹那である。俺の手元から宝玉が消え、同時に秀貴先生が俺の横を物凄い速度で走り去っていく。そう、俺の手元から何者かが宝玉を奪い、それに先生は反応した。
「セリュー・アナスタシアか?」
「そういうお前は政府の犬か?」
ローブに包まれた何者か、声を変えているようだ。
先生は真面目な顔でセリューらしい人物に詰め寄る。というか瞬間移動みたいに動いたぞこの人。
俺たちの目の前で先生とテロリストのボスであるセリューは何度か打ち合ったらしい。
「かはっ……お前。成山秀貴か……見たことがある。さすがは人類最強と謳われただけはある……が、これはもらっていく」
「逃がすわけねーだろ」
先生からは逃げられないとそう思ったが、セリューはローブごと溶けていく。そして宝玉は消え、真っ赤な血の池ができていた。
先生の手には……骨、多分セリューの肋骨だろうか? 抜き取ったの? 怖っ!
「逃したか……面倒くせぇな。この世界予想がつかない力か道具を使って俺達への対策をしてたってわけか、今回はしてやられたな。まぁ暫くは動けないだろう」
目を輝かせながらもミントさんがこういった。
「先生、ですが回復魔法を使える者がいれば」
「あぁ、それな。なんでか分からねぇが俺に傷つけられたやつはすぐには治らねぇからな」
何それ呪い? 先生大分怖いんですけど……もうこの世界嫌だ。
あっ、でも先生は元の世界の住人な訳で……俺は考えることをやめた。
「クッソ、でもあの宝玉なら精霊王もこの姿直してくれたかも死んねーのにな」
俺がそう嘆く。かなりの良い宝石っぽい。元魔王が持っていた物で、テロリストが狙うくらいの代物だからな。
しかし盗られてしまった物は仕方がない。今回のクエストはマッピングの提出で終わりだ。
「おい、犬神。お前“おりはるこん“っての探しにきたんだろ?」
「えぇ、はい」
「あれ、その“おりはるこん“じゃねぇのか?」
先生が指差す方向を見る。先ほどエメスや先生が交戦していたカインとアベルが着ていた鎧だ。
俺は記憶をたどり、先生が言わんとしている事を思い出した。これ、オリハルコンでできているとか言ったわ。
「これ持って帰れば?」
「目的達成だろうな」
キマシタワ! これで元の姿に戻れるじゃんかよ!
「よっしゃ! お前ら、この鎧持って帰れるだけ持って帰るぞ! お宝だ!」
「……もう仕方ないわねぇ!」
「街に帰ってご馳走なのだ!」
「我、北の魔王の装備に興味あり、如何程マスターを喜ばせられる玩具か調べけり」
各々これらの価値をそこそこ理解して俺の指示通りに鎧を運ぶ。
異様に軽い、なのに異様に強度がある謎金属だな。
俺は異世界の頭のおかしさにばかり考えが行っていたが、秀貴先生をして捕まえることができなかったのが、地球から来たテロリストであるという事。
その事に気づかずに後々とんでもなくややこしい事になる事を俺は知るよしもなかった。だってどう考えても子供から元に戻る方がこの時は大事だったのだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
俺たちは街に戻ると、オリハルコンでできた鎧を二領持ち帰って来た事で驚くどころから若干引かれていた。そもそも一欠片ですらとんでも鉱物を最高純度で加工された物を持って帰って来たわけだ。
「マオマオ、お帰り、よく無事で帰ってきた」
「ただいま戻りましたクルシュナさん」
クルシュナさんがいの一番に俺たちの帰還を歓迎してくれた。
「……ところでなんだ? マオマオ。あの御仁。ヒデタカと言ったか? そうだ。切長のな……あの御仁はどこにいるのだ? まぁ特別というわけでもないのだが、少々材料を買いすぎてしまってな。新しい料理を考案してみたのだ。あぁ、もちろんお前達の物も作っているぞ」
うん、いや……うん。こりゃあれだわ。俺たちの帰還というか、先生の帰還を女性陣は歓迎している感じか、腹たつなぁ……まぁいいけど。
「……先生はですねぇ。なんだか説明が超難しいんですけど、どうやら俺たちのような商人であるとか、冒険者とかそういう人たちとは目的が違うっぽいんですよ。なんというか、アズリたんであるとか、精霊王であるとかあーいう連中とはまた違ったヤバい奴を追いかけている何処でもいける憲兵的なお仕事をされているようで、今回俺たちと行ったダンジョン攻略で討伐すべき対象を見つけたんですよ。で、それを追うという事で、オリハルコンの鎧を運んでくれたらその足で、その人物の足取りを追って街を出られました。あぁ、水場の仕事をしているみなさんにこれ、先生から」
俺がウェイトレスのみんなの分先生が残したオロナインを渡した。
っていうかどんだけオロナイン常備してたんだあの人……
「こ、これ……私にか?」
「いや、全員分ですからね」
クルシュナさんはケモミミをぴくぴくさせながらオロナインを受け取る。
そしてそれを抱きしめる。
「……御仁、どうかご無事で戻ってきて欲しい。我らはいつでも暖かく美味い食事を用意して待っている……」
オロナイン抱きしめてシリアスとかシュールだなぁ……
「マオマオ!」
「マオくん」
「だんなぁ!」
スペンス達が慌てた様子でやってきた。
俺達がとんでもない量のオリハルコンを持ってきた事に驚いているというよりこれを手土産にもう一度精霊王の元へ行こうとしている俺たちを止めにきたのだろう。まぁ、スペンス達と違ってもう一度あの国に行けばどうなるか分からない。
「マオマオ、悪ぃ事は言わねぇ……流石にこの前の件がもう少し落ち着いてな」
「そうすっよ! 相手は精霊王っすから……怒らせると色々ヤベェんすよ……一帯の加護はほぼ精霊王による物なのでそれが止められたら……」
「成程、前回のは注意で済んだけど、今回俺がやらかすとこのあたり、北がヤベェって事か」
とはいえ、向こうが喜びそうな手土産としてオリハルコンがあるわけだ。謝罪を込めてもお釣りが来るんじゃないだろうか?
まぁ、大人に戻ることも、精霊王の力を借りる事もどっちも必要だからな。
「喧嘩しにいくわけじゃないですから、腰低く謝罪してオリハルコンの鎧を加工したアクセサリーなんかを献上して、ベコポンの酒振る舞ってとりあえずなんとか交渉してみますよ」
それでもダメだとか言われればオリハルコンは競売にでもかける。
大人に戻る方法は別で調べるしかないという事になるけど、このとんでも世界。なるようになるだろう。それにガチで困った時は先生の連絡先もある事だし、多少のイレギュラーは……
「マオマオさん! 大変だ! 加工に出したオリハルコンが」
ほうら、そう言っている内に多分イレギュラーだ。オリハルコンが消えたか、盗まれたかどっちだ?
「オリハルコンが加工中に持っていかれました」
ドンピシャだな。もう何が起きても大体驚かなくなってきた。
「厳重に警備とか魔法による侵入拒否の術式とか。セキュリティは万全だったんじゃなかったでした?」
「王都からの使者が……五十年は出ていない強制令で……もしかすると東と一戦交えるかも知れないと持っていかれました」
半分は俺の責任故に怒れねぇな……
部屋に戻ってベットでふて寝して……少し泣こう。




