表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/95

異世界だって見た目が8割……要するにイケメンに限る。まぁ、知ってた。

 さて、俺は驚きのあまり声を上げた。


「先生! 秀貴先生? でも若っ……転生してきたとか?」

 

 俺はやや興奮した感じで秀貴先生と読んだ。成山秀貴先生。もう十何年も前にキャンプで指導してもらった指導員の先生だ。

 誘拐事件から一週間が経とうとした頃、先生は突然やってきた。

 俺はとりあえず今もてなせる食べ物を用意させる。ベコポンをジャムにして作ったベコポン茶にクルルギさんのところから卸してもらっているクッキー。


「そのなんだ……随分若づくりだな犬神」

「違いますぅ! この世界の不思議パワーで子供にされたんですぅ! てゆーか先生にだけは言われたくないです! あの時のまんまじゃないですか! もしかして?」

「いや、今年で四十を少し超えた」


 ば、化け物じゃねぇか! いわゆる美魔男か? 先生だから美魔王か……

 俺は憧れの先生を前にしてやや興奮気味だったが、いつもの三人が警戒している。

 ガルンは毛を逆立て、アステマはいつでも魔法を撃てるように……

 そしてエメスは考えるのを辞めている。俺はアプリをチラ見すると……


“犬神猫々様のいる地点が現在世界一安全な場所と認定できます“

 

「えっ? どういうこと? 先生ぱねぇけど、ここ異世界だし、流石に普通の人間じゃどうしょうもない事とか色々とお寿司……ですし」


 俺は頭がおかしくなったように思考が定まらない。

 冷静になれば、先生は異世界生活特措法によってここにやってきたのであるという事だと理解した。

 先生は「これ美味いな」と一言言いながらベコポン茶を飲んでいる。

 俺は警戒している三人に先生は安全だと教えると席に座らせる。


「とある仕事の依頼でこの異世界くんだりまで来たんだが、誘拐事件があると聞いてそれを解決したらまさか犬神がいたからついでに力を借りにきた」

 

 先生から語られる話は驚きしかなかった。詳しくは話すのは面倒らしいが、先生は世界を股にかけるエージェントらしい、そして今回異世界生活特措法で送られるハズの人間のフリをして別人がこの世界に潜り込んでいるという。

「その人がなんかやばいんですか?」

「セリュー・アナスタシアと言えばわかるか?」


 知らない人はいないだろう。

 一時期は連日、ニュースで見ない日はなかった。

 世界的指名手配、通称・不死のセイタン(悪魔)。世界最大のテロリスト組織の首魁だ。

 

 目的は不明。こちらの世界の魔法は俺たちの世界では発現しない。

 逃亡の為に異世界に来たとは思えない事。


「奴は人の心を操るスペシャリストらしいからな。この世界の連中を使ってテロを起こすのかもしれない。俺以外にも様々な機関や国から奴をデッドオアアライブで捕まえる依頼が来ているらしい」

 

 アメリカに至っては機甲師団の投入を検討に入れているらしい。しかし魔法や魔物がいる世界でたった一人の人間のテロリストが何かできるんだろうか?

 

「まぁ、それに関してはこの前俺もモンスターという存在と会敵したが、あのくらいを狩れる奴であれば地球にはゴロゴロ存在するからな。そしてセリューはそんな連中から今まで狩られずに生存してきている。例えるなら俺たち地球の人間が害虫なら、あいつは特定外来種だな」


 パキンとクッキーを齧りながら先生はそう言った。

 

「お話はわかりました。他でもない先生の頼みなのでできる限りは俺も協力します。ですが、俺も元の姿に戻らないといけないのでダンジョン潜ったりするんですけど大丈夫ですか? 精霊って人たちが好きな鉱物探すんです」


 大体把握したらしい先生は、何やらこの世界に駐在している地球の人に報告やらが必要らしくてこういった。


「そうか、ならばこの世界を知るのに丁度いいな。俺もついて行くからその“だんぢょん“というところに行く時はスマホで連絡をしろ。俺の連絡先を教えておく。じゃあまたな犬神」


 俺はこのスマホが異世界でもスマホ同士で通信できるルートという機能がある事を今初めて知ったよ……

 先生がノビスの街へと戻っていく姿をただただじっと見ていた。


「…………いやぁ……カッケェ! あんなん卑怯だろ」

「ご、ご主人っ! なんなのだ? あの人間!」


 今にも泣きそうな顔でブルブル、ブルブルと震えるガルン。


「ちょっと、主。あれ主の知り合いなんでしょ? 私たち魔王耐性持っているのよ? なのに、そんなもの関係なく心の底から危険を感じたんだけど……」

「ふっ、マスター。あの御仁は行かれたと見た。我、マスターの知り合いにあれほどの性的に強烈なカリスマを放つ人間を見たことなし、あれは魔王種の一角、あるいは王を与する者と仮定したがこれいかに? 我の希望としてはマスターとあの御仁のショタビー……むっ、我の思考にまたしてもノイズ」

 

 この三人の反応からして秀貴先生は只者じゃないという事だけは分かった。

 いや知ってたけど、想像以上だったというべきか……


「ま、マオマオ様っ! あの人間の男は何者だったのでしょうか? 私の同胞のスライム達も怯え、一箇所に固まって結合してしまっています」

「こちらの土木作業を命じたゴブリン達も全く帰ってきません。我らが元々仕えていた北の魔王。シズネ・クロガネ様に勝らずとも劣らない覇気……あれはもしや、勇者という存在なのでは?」

 

 スラちゃんとホブさんが言う程なので、秀貴先生はどうやら、東西南北で王という存在に冠するレベルに匹敵するらしい。

 地球人やべぇ。

 

「…………あのぉ、お話終わりましたか?」

「あっ、ミントさん。来られてたんですか? そういえばダンジョン一緒に行く事になってましたね」

 

 スライムやゴブリン達が遠くに行ったり、固まったりしていたので目撃はされていないらしい。ミントさんは秀貴先生と俺が楽しそうに話をしているので邪魔しないように待っていたらしい。気にせずに顔を出してくれれば良かったのに、もしかしたらガルン達みたいに警戒していたのかな?

 彼女にもお茶を出して、秀貴先生がダンジョン攻略に参加する旨を伝え納得してくれた。


「あの方は、モンクファイターか、戦士なのでしょうか?」

「いやどうだろ?」


 俺がそう返すと、ミントさんは頭に疑問符を並べていた。


「この前の子供の誘拐事件。あれに関してたった一人でウィッチロードを捕まえたので腕は確かだと思いますよ」

「……正義の人ですね! 男性ですが私が聖女になる為の第一歩になる刺激を与えてもらえそうです」


 向上心一杯で、今の日本人に聞かせてやりたい。

 俺たちはミントさんにも準備ができたら連絡する事を伝える。

 その間、ダンジョン攻略の再準備とこの拠点についても少し進めておく。


「よし、今日は以前より話していた下水システムに関してスラちゃんを筆頭に試作を進めていくよ」

「お任せください! マオマオ様。我がスライム達に地中の掘削作業と配管を通す作業は順調です」

 

 そこに生活排水を流すのだが、普通に流したら環境汚染の懸念があるので、ここは精霊の加護が欲しい。


 そして虚の森の商店街区画の地面はコンクリート舗装をと思ったが、ゴブリン達が焼き物を作れる事を知ったので陶器のプレートで装飾する事にした。

 スライム班とゴブリン班の仕事ははっきり言って完璧に近い代物だった。

 

 精霊の加護とやらをなんとか締結できれば、この商店街への物流と下水関係はクリアできる。


「凄いな。俺の指示した仕事は完璧にこなして、今後導入店舗の仮設も開始してくれているのか……ゴブリン達にはより多くの果物を、スライム達にはより多くの純度のいいオイルを支給するな」


 スラちゃんとホブさんは現金支給を断ったので、必要な物を逐一聞いて渡すようにしていた。

 これが本来の主従関係なのかもしれないが……

 なんだかタダ働きさせていて辛いので、スラちゃんとホブさんのお金は貯金している。

 それに比べて、一応は二人と同じ幹部の筈の三人が恐ろしく使えない。

 

「主、ダンジョンに行くなら、もっと強い杖が欲しいわ!」


 アステマ、給料制なのでそれなりにお小遣いは渡しているハズだが、もう尽きたのだろう。


「自分で稼いで欲しい杖を買え! それに今使っている杖だってグレーターデーモンになってからなんだからまだ新しいだろ!」


 俺の言葉を聞いて、アステマは頬を膨らませる。


「何よ主のケチ! スラちゃんの持っている宝玉の杖や、あの人間のフェイが持っているアークワンドなんかに比べたら私のこの杖はほら、可愛くないじゃない! なんでドクロとかついてるのよ!」


 あんたがデーモンだからじゃないでしょうか? とツッコミたいが、要するに宝石のついた杖が欲しいらしい。

 自分で買え!

 

「マスター、我はショタマスターに授にゅ……いや、安眠してもらう為の新しい寝巻きを所望す」


 なんだ? 完全に赤ちゃんプレイをしようと考えているのかこの馬鹿ゴーレムは……

 悪いが俺の性癖ではない。

 そしてガラス加工技術で哺乳瓶まで作りやがった。

 

 もう無視しようかと思ったが、この哺乳瓶は売れるかもしれないとそれだけ評価するとエメスは親指を立ててウィンク。


「マスターのすけべ!」


 しゃらくせぇ……腹たつなぁ。


“ぶるる ぶるる ぶるる 着信です! 秀貴先生より着信です! ぶるる ぶるる ぶるる 着信です……“

 

 ぶるるって自分で言うんだなと思いながら電話にでた。

 便利だなぁ。


「もしもし、俺です。はい、あぁ。じゃあ明日のお昼には」


 秀貴先生の用事が終わったらしい。そして明日のお昼に落ち合う事となった。


「そうか、もう一人来るんだったな? あぁ、俺は大丈夫だが、セリューの目撃情報があるらしい。気をつけろよ」


 噂のテロリストか……

 正直関わり合いになりたくはないけど、今はそんなことよりも大人に戻る事を第一にしないといけない。

 背に腹は変えられぬし、先生もいるしな。


「ご主人! あいつなのか? こ、怖いのだ! あんな人間今まで見た事ないのだ。この前きた鎖じゃらじゃらのやつとは違った怖さなのだ! あんな奴と一緒にダンジョン攻略なんて怖いのだ! 嫌なのだぁ! ご主人、追い払って欲しいのだ! お願いなのだぁ!」


 獣であるガルンは何故か先生に恐ろしく怯えている。多分野生の本能的な何かなんだろう。


「先生は優しいから大丈夫だって」


 そう言って俺はなんの根拠もないが、ガルンの頭を撫でて首元に触れて安心させる。

 

 今日もノビスの街から届けてくれたお弁当をみんなで食べて、食休をしたところで、もうひと働き。

 フードフェス会場作りにスペースを見に行くとホブさん達のゴブリン達が誇らしげに完成させてしまっていたので、俺は彼らに敬意を評して街で一番良い道具をプレゼントした。

 

“マオマオ様より、ホブさんの僕であるホブゴブリン達にギフトが贈られました。特性を生かし、ゴブリンアーチャー、ゴブリンマジシャン、ゴブリンスミスの三種へのクラスチェンジが実行されます。またクラスチェンジの実行に伴いユニオンの強化も同時実行となります“


 ゴブリン達一人一人にねぎらいの言葉をかけて俺たちは翌日のダンジョン攻略に備えた。


「しかし、ノビスの街も俺がきた頃に比べて随分。開けた感じになったよなぁ。冷凍ベコポンの類似品売ってんじゃん!」

「ふん、主。分かっていないわねぇ。あの偽物冷凍ベコポン。凍らせる温度が足りないのよ。私ならもっとシャリシャリにできるけど、あれじゃあ硬いだけね。ほら、人気はやっぱり私の方じゃない!」

「アステマの作る冷凍ベコポンは最高なのだ!」


 そう言って褒めるガルンに気分をよくするアステマ。こいつら、仲だけは良いよな。魔物間の差別的な物はないんだろうか?

 いやあるだろ。こいつら馬鹿だから仲間意識だけは強いんだろう。ヤンキーみたいに……強い奴にはめっぽう弱いし。

 ギルドの掲示板の前で異様なオーラを纏って他の冒険者達に警戒されている先生は俺を見つけて話しかけた


「いたいた。ミントさんに……秀貴先生だ」


 俺が目を細めながら手を振るとミントさんは手を振り、先生は頷いた。

 そして、ぐるるるると、恐怖で威嚇の喉を鳴らすガルンの姿。

 

 どんだけ怖いんだ。


 先生は俺たち全員を見ると、いざ出発かと思ったが…………


「腹減ってないか? この前の報酬があるから何か腹に入れていくか?」


 大人の余裕なのか、とりあえず座るところを探そうくらいの勢いでギルドの食堂へ入る。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ギルドの食堂に入ると、ものすごいジロジロと見られるわけだ。中には俺の姿を見て笑っている冒険者達。死ね!

 だが、そんな事じゃないのだ。


「いら、いら、いらっしゃ」


 顔を赤らめてはめちゃくちゃ動揺している獣人のクルシュナさん。

 そしてエミリさんもう普段より高い声で接客にくる。


「はぁい! お客様ぁ! いらっしゃいませぇ! 本日はどうなさいますかぁ?」


 うん、狙いは先生だ。本来は冒険に行っているハズのウェイトレスバイトの冒険者女子が皆勢揃いである。

 なんなら、ギルドの受付の女性、そして女性冒険者達もいる。


「あぁ、なんだ。俺には茶と何かつまめる物を、あとこいつら食べ盛りだろうから、これで用意できるだけ頼む。お前達、好きな物を頼んでいい。思いの外メニューは多いみたいだしな」

 

 ただ、奢るよ! って先生は言っただけなのに、周りの女性陣は何やら大興奮だ。不思議なことにウチのモン娘とミントさんはそうじゃないらしい。ガキ三人と変態一人だからだろう。

 というか、先生昔から思ってたけど、やっぱイケメンに限るなのか……なんか腹立ってきた。


「……犬神、なんだ? お前から殺意を感じた」

「ちーがーいーまーすぅ! 嫉妬ですぅ! というか何でそんなの感じれるんですか」


 俺を異世界に送った葛原女史も確か……いや考えるのはよそう。先生の話を聞きながら先生が安全だと知った途端にアステマがベラベラと話し出した。


「秀貴だったかしら? 貴方、幸せ者よ! なんたって私がダンジョンについていってあげるんだから! 私の至高の魔法を見て、私と一緒にダンジョン攻略できた事を感謝しなさい! あと、ここの食事を私に献上するなんて見上げた心ね。もし私がこの世界を統べる時には右腕にしてあげてもいいんだからね! あと……なんでも頼んでいいって言ったわよね? ちょっと! そこの人間の給仕、あの麦で作られた金色の炭酸の飲み物っ」

「お前未成年だろ? それはダメだ」

「なんでよぅ!」

「ダメだ!」


 もう少し喚くと思っていたアステマだったが、少しブルってそのまま「仕方ないわねぇ」

 と完全敗北していた。おもしれぇ! 

 なんつーかさ。無理やり異世界に飛ばされた俺と、やれやれみたいな余裕を持って仕事として異世界に来ている先生。

 完全に主役級じゃねぇか……まぁ要するにイケメンに限るという事なんだろう。

 いまだにめちゃくちゃ警戒しているガルンは目が合うと慌てるが食欲には勝てない。

 先生は持参しているらしい漆の塗られた質のいい箸でたまに何かをつつく。

 その先生の間は、異世界の荒くれ者が集うギルドの酒場兼食堂なのに、隠れ家的小料理屋を俺に見せた。

 

 これから俺たちがダンジョン攻略に行くと言うとお店の女性陣や女冒険者がこぞって参加表明。これだけいれば楽勝だろうな。


「いや、ありがたいが、今回は犬神の成長も見たいしな。また次回頼む」


 これ、普通ですよね? 普通のお断りですよね?

 先生にそう言われただけで気絶している冒険者の女性もいますよ! というか、先生からすれば俺はまだ子供なんだな。

 あぁ、俺、今子供だったわ。


「ほぅ、弁当まで作ってくれるのか、ギルドってところは親切だな」


 頼んでもないのに、ウェイトレスの女性陣はランチボックスに食材を詰めて渡してくれた。

 オーナー、泣いてたよ。


「いやぁ……多分。そんなサービスしてないハズなんですけどねぇ……先生ってモテるでしょ?」


 いや、そんなことはないが、と返すんですわ! ラノベ主人公か!

 やれやれ……


「しかしあれですよ。まさかこんな形で先生と会えるとは思わなかったです」

「あぁ、俺もまさか犬神が子供になっていることには驚きを隠せないな。それとあの娘大丈夫か?」

「ガルンですか? あいつ犬系の魔物だから、先生の覇気に超びびってるんですよ」


 先生は何を考えたのか、ガルンの前に立つ。するとガルンは蛇に睨まれたカエルのよう、そんなガルンを先生は抱えた。

 そして頭を撫でる。というかポンポンしている。きっとギルドの女性陣からしたらご褒美だろう。ガルンは脅えから安心に変わる。


“ガルンに、覇王耐性が付与されました“


 このアプリの反応でわかりました。ユニークスキルというか、レジェンドクラスの称号・覇王。

 要するに先生は魔王やら精霊王やら聖女王やらと同格の何かという事なんですか……まじチートじゃんかよ。

 

「……ま、全くボクを勝手に抱き上げて撫でるなんてご主人以外には許してないのだ……あぁ! やめなくていいのだ! 特別にもっとなでる事を許すのだ! よくよく考えるとここは世界一安全な場所なのだ! これはいいことを知ったのだ! なんだか秀貴の近くは安心すら感じてきたのだっ!」


 多分、耐性を持ったからだろう。先生がガルンを下ろすと物足りなそうに先生を見つめるガルン。

 先生は子供、というか動物の慣らし方も熟知しているらしい。


「……手触りが子供の頃、空き地で飼っていた野良犬に似ている事を思い出した。人間に犬の耳と尻尾か、どうなってんだこいつの身体? この世界は二足歩行する武器を持ったトカゲとか、どうやって動いているのか魔法を使うシャレコウベとか、観光には困らない世界だな。じゃあそろそろ本格的にいくか」


 秀貴先生がそういうと早足でスタスタと進む。走るわけでもないのに、速ぇ!

 

 そんな先生を見て張り合うようにエメスは駆ける。一応ゴーレム、人外のハズのエメスが追いかける形だ。


「御仁、我。御仁に大きな期待と尊敬の念を隠せず。人間というとるに足らないはずの存在に我は全く劣らず、上には上がいると知ったり、そこにて御仁が味方として現れ、これは兆しと知ったり!」


 相変わらず人間という存在へのディスりは凄いものの。

 エメスはこの前の聖女様襲撃事件において思うところがあったらしい。そこでパーフェクト超人たる先生が現れれば教えを請いたくもなるか。

 

「まぁ、なんだ。お前達の犬神への忠義のようなものはよく分かるが、まずは落ち着け。お前達にとって脅威があったみたいだが、それを俺が何か教える程度で軽減できたり回避できるものか? 多分違うだろ? それに俺はそんな責任持てねぇしな……ってそんなもんメモっても意味ねぇだろ?」


 あれあれ?

 おかしいな……あの下ネタしか言えないポンコツが真面目にメモしてらぁ。

 もういっそ、エメスは先生の元に丁稚奉公にでも出して戻ってきたらそれなりに更生して帰ってくるんじゃないだろうか?

 というか、アステマも先生に何か聞きたくてうずうずしている。これさ、こいつら教育を受けたことがないから、教わることに飢えてて、丁度なんでも教えてくれそうな先生にテンション上げてるのか?

 いやぁ……俺も色々教えてやろうとしたと思うけど?……クソが!

 

 若干闇落ちしそうな俺を見てミントさんが言う。


「マオマオさん、マオマオさんの先生は何処で何をされていた方なんでしょうか?」


 いや、知りませんけど……そもそも夏休みの数日間の内にだけしか関わりないですもん……

 

 とはいえミントさんの質問に俺はクールに大人に返すぜ!

 

「いやぁ、実は先生とは子供の頃に……今じゃなくてリアルな子供の頃ね。その時に子供達が自然に触れ合ったり、キャンプとかをする催しがあったんだよ。そこで引率の先生をしてくれていたのが成山秀貴先生。そもそも、当時はかっこいいなくらいだったんだけど、今は俺も何がなんやら分からないな。なんかすげぇチートだし、とりあえず俺の世か……いや住んでいたところの極悪人を探してこのあたりにやってきたらしいよ」


 俺の返しにミントは静かに何度も頷いた。彼女なりに何か理解できた事もあったんだろう。そして羨望の目を向ける。


「ということは、悪を断罪されるのですね! これは男性版の聖女様。勇者様ですね!」

 

 う〜ん、どうやら先生は覇王様らしいんだけどね。


 まぁ、その先生がいるおかげで今回はなんとなくだけどかなり安心できる。モンスターの三人とミントさんとダンジョン攻略とかかなりの罰ゲーム感すごかったけど、先生のおかげで帳消しだろう。

 

「洞窟が見えてきたが、あれがお前達が向かおうとしている“だんぢょん“というところか? 何か気配を感じるが、まぁ行ってみるか、アステマ。悪いが火をつけてくれ」

 

 先生の言葉を聞いて、アステマは「仕方ないわねぇ」とフィアを使う。俺と先生のスマホが同時に起動した。


“アプリを起動します。名伏せし者が祀られた大穴です。危険度★10以上の魔物がごろごろしていると言われ、単独では70以上。パーティーでも平均40のレベルは必要となります。今回平均レベルは40に足りている為、気をつけていってらっしゃい!“

 

「俺のレベルが10とかだ。アステマが14、がルンが12。エメスはレベル1。確かミントさんが16。全員足して53レベル。そして先生のレベルがX、平均レベルが40ということは少なくとも先生のレベルは187以上という事になるな。先生、一体レベルいくつあるんですか? というかレベルの上限って……」


 先生はアステマの炎でダンジョンの中を覗き込みながらついでくらいに答えた。


「知らん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ