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ショタだから誘拐されたのか? ショタを誘拐されたのか? いずれにしても魔法学校に入学

「ギャハハハハハ! おいおいおい! あの北の魔王の後継者。本当にマオマオなのかぁ? こりゃああ、お上品なおっ坊ちゃんになりまちたねぇ?」

 

 無視だ無視! マントを羽織り、モン娘の三人を引き連れる俺を冷やかす連中。

 鏡に映った俺の姿は確かにこの世界で言うところの貴族の子供みたいな感じなのだ。

 一番の問題は……暴走したエメスさんです。俺に眼帯をつけて、ステッキを持たせ。

 そして異常にキビキビと歩く。

 エメスは変なスイッチが入ったのか。こいつは執事型で、あくまでゴーレムである。

 俺がギルドの依頼書を見ようと上を見上げるとどこから持ってきたのか台を用意してくれる。

 これがまともな執事の反応ならいいのだが……

 

 息が荒い、目が大きく舐めるように俺を見る。

 

 まぁ、こいつはイエス・ショタコン。ノータッチ? らしい。

 なんでそこだけ紳士っぽいのか、いや淑女か?

 ダンジョン攻略……都合よくはないな。

 この姿になったからと言って商店街を作るということに遅れは出せない。同時進行で俺も元に戻る。

 金の鎖の聖女様襲撃からようやく復興した俺たちの拠点。今、ジャガイモみたいな芋を栽培中なのだ。それで特産物を作る目的がある。

 依頼書と睨めっこしている俺にギルドの受付嬢が話しかけてきた。


「マオマオさん、その……大変でしたね。あの、こんな時に申し訳ないのですが、今のマオマオさんにしか頼めない事がありまして」

「……伺いましょう」

 

 奥に通された俺は何故か枢木さんのところから俺が卸してもらっているミルクを出された。舐めてんのか?

 まぁいいや、普段の依頼書とは違う質の良い紙でできたそれ……


 子供の行方不明事件が多発しているらしい、成る程ね。今、俺は子供の姿だから囮になれと……

 しかし、さらにビスケットまで出されるのはご好意と受け取っておこう。


 殺すぞ!


 アステマとガルンがミルクとビスケットに飛び付き、ショタな俺がドストライクらしいエメスは俺を抱きしめて離さない。

 若干受付嬢。カリナさんに引かれながらも手元の資料に俺は目を通す。

 どうやら、魔法などの才能がある子供ばかりいなくなっているらしい。貴族の子等が多い中で、何人か平民出の子もいた。

 この事件は誘拐か? だとしたら身代金、悪戯目的……最悪なのは人身売買ってところだろうか? 

 ともあれ、商人ではあるが、俺も大人である。未来有望な子供達を取り返すのに人肌ぬごうじゃないか。


「わかりました。この事件、できることは協力しましょう。サポートにこいつらもいますしね」

「ありがとうございます! 報奨金は子供達の親御さんたちから」


 その額を見ると結構な金額だった。いや、自分の子供の価値をお金で計算はできないから、冒険者が動く金額なのだろう。

 正直、この金額はかなりありがたい……ありがたいのだが……。

 俺はその報奨金の書かれた紙をそっと受付嬢に返した。


「こりゃ、野暮でしょ」


 この時、受付嬢が俺を見る目が潤んで頬を染めていたとか、そんな事は知らない。

 人間の誘拐ばかりを考えていたが、魔物に攫われたという可能性。誰もいないところで三人に人間の子供を魔物が攫う理由を聞いて絶望した。


「食べる為なのだ(でしょ)」「調教して……我好みの」

「エメスはもういいわ。お前は是非とも俺の世界の刑法で罰してやりたい」


 一番最悪なのは、人身売買より、捕食対象になったという事だ……異世界怖ぇな。


「オーケー、一旦商店街の件はホブさんとスラちゃんに任せて俺たちはこの件を請け負う。人間だろうと魔物だろうと子供を攫う奴は許さねぇ! まぁ、単純に迷子かもしれねーけど、いずれにせよ。第三者がいた場合は容赦しなくていいぜ。作戦は子供たちが攫われた場所に俺……そうだなガルンとウロウロして囮になる。そこで俺たちをさらおうとした奴らをアステマとエメスで迎撃」



 俺たちは子供たちが行方不明になったというノビスの街から少し離れた郊外へ向かう。

 きっと俺の一般的な正義感という物を養ってくれたのは、とある先生のおかげだろう。

 子供の頃の夏休み、フリースクールというか、自然体験学習という物をどこかの企業が行っていた。


 その時の出会った先生。

 見た目は二十代くらいに思えたが、後々知ったがずっと年齢が上だったらしい。今考えても信じられない。

 その先生は終始、真顔で淡々と子供たちに危ないことや危ない場所への注意、そしてウォークラリーの先導。

 やんちゃをした子供が高い崖から落ちそうになった時、人間離れした身体能力で彼を救い、そしてゲンコツした。

 女の子達は先生にメロメロで、男の子達もその格好良さに憧れた。他の先生達と違って一人だけ着物を着ていたのが印象的だ。

 俺の密かな目標ともなっている先生。

 大人になれば、あんな風になれると信じていた…………

 現実はこうだ。対価に見合わぬ労働、楽しみは寝る前の一杯、気がつけば異世界に飛ばされ、問題児達の保護者か……控えめに言って最悪だ!


「ご主人! ここ、匂いがするのだ! モンスターの匂いなのだ! これは……ボク達よりも上位の魔物の匂いなのだ……一刻も早くここから逃げるのだ! 危ないのだ!」

 

 さて、弱い相手には滅法強く、強い相手には恐ろしく弱いガルンがそう言うのだ。

 まず誘拐犯はモンスターらしい。


「ガルン、どんなモンスターの匂いかわかるか? それが分かれば対策も立てられるってもんだが?」


 …………フルフルフル。

 明らかにビビってどんなモンスターかは分からないという。アステマはガルンの言葉を聞いて焦りながら強力な魔法を練り始めた。


「おい、アステマ! まだだって! そんなの使おうとしたらバレるだろうが、このバカタレ!」


 泣きそうな顔をするアステマ。


「主、バカって言わないで!」


 もう作戦滅茶苦茶だわ。まぁ、上手くいくとも思ってなかったけども。


「ちょ、とりあえず一時退散だ! 一旦ノビスの街に戻ってから次の作戦考えるぞ! だから魔法どっかにぽいしとけよ。エメスさん! 熱心に何か絵を描いているところ悪いけど、もう帰るよ。いいね?」

 

 呆れた俺だったが、突然辺りが暗くなる。これはやべー奴だなぁと思ったが、女の声が後から聞こえてきた。


「魔法の素質がある可愛い男の子ね。そっちの女の子も……魔物? あなたはいらないわ! 私の素敵な学校であなたも魔法のお勉強をしましょー!」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「良い子のみなさん、新しいお友達ですよ! とっても魔法の力が強い男の子。マオマオ君です! 仲良くしてあげてくださいね!」

 

 ええっと……誘拐されました。


「さぁ、マオマオくんも今日から一緒に生活をする学校のお友達にご挨拶をしてくれますか? みんな良い子達なんですよ! 先生も元気いっぱいご挨拶してくれる子が大好きです」


 亞人系の女の魔物はそう言って俺の肩に手を乗せる。


「は、初めまして! マオマオです。魔法はまだまだ勉強中ですが、みなさん仲良くしてください。右も左も分からないことだらけですが、一生懸命頑張りたいと思います! ここでしっかりお勉強をして先生のような立派な魔法使いになりたいです」


 まぁ、こんなところだろう。

 教師って連中は基本ヴァッカだから

 綺麗事並べておけば大抵いい気分になるものだ。

 まぁ、俺の経験則ではあるが……

 ゆっくりと、亞人の女モンスターがどんな態度を取るのか、あるいは何が目的なのかを見定める必要はあるわな。

 うん、魔物も人間も教師って連中はやっぱり、どこかネジがぶっ飛んでる。


「あらぁ! とてもやる気満々ですね! 先生感激しちゃいました! マオマオくんに負けないようにみなさん頑張ってください」


 パチパチパチパチと拍手する子供達。笑顔だが、引き攣っている。


「では、マオマオ君は学級委員のミサちゃんの隣の席です」

 

 ……会釈する俺にこれまた作った笑顔で微笑むミサちゃん

 

「よろしく。私がこのクレパスクラフト魔法学園の学級員。ミサです。初めまして、マオマオ君。分からないことがあったらなんでも聞いて」


 ふむ、子供達をざっと見渡したが、洗脳されているわけではない。

 

 が、身体的な虐待を受けているわけでもなさそうだ。ただし、怯えている事はほぼ間違いない。


 このクレパスクラフト魔法学園。

 この亞人の魔物の名前が学園長のクレパス。何系のモンスターなのか、同じ魔法を得意とするグレーターデーモンのアステマより上位種という事。

 ただし、アークデーモンというわけでもなさそうだ。

 スマホの電源は切っておいた。流石に俺が大人であるということはまだバレてはいないが、スマホを見つかるとややこしそうだ。

 このクレパス。何が目的なのか……子供達には衣食住を保障しているように思えるが……というか、ウチの三人娘は何してるんだ?

 

 クレパス……クラフト、クレパスさんの工房という事か?

 工房を持つのは名のある魔法使いや魔女って相場が決まってる。このクレパスさん、魔女か? 魔女って一応悪魔とかに位置付けされるんだっけか?


「ミサさん、この学校はクレパス先生以外の教師はいるんですか? というか、魔法学校なんですね」


 俺のこの言葉に泣きそうな顔を見せるミサさん。


「クレパス先生は偉大なウィッチロードだから、クレパス先生が一人いらっしゃれば私たちの授業は事足りるのよ。これから、いろんな魔法を教えてもらえると思うけど、疲れたでしょ? お部屋に案内するわ」


 ウィッチロード。どうやら魔女の総大将的な魔物らしい。


 目的が分からない内は模範生として立ち回る。

 子供達は暗い顔もするが、クレパスの魔法の授業はわかりやすく、時には笑顔も漏れる。

 俺が誘拐されて二日が経った。食事はこの世界水準の物で個人的にはまずい。が食べれない程でもない。むしろ物の質は随分良さそうだ。

 俺たちに魔法を教え、反撃されることはなんら心配ないのだろう。推定だが、クレパスはアステマの何倍も魔法の力がある。

 となると同胞を増やす為なのだろうか? 魔物は人間を忌み嫌い、人間は魔物を忌み嫌うというあの関係からこの学園は少しばかりずれているようにも思える。

 

「さて、それでは今日は良い子の皆さんの魔法の杖を作りましょう」


 明らかに高品質な魔法素材であろうなんらかの木々を浮かせて運ぶクレパス。

 それらを前にクレパスは続けた。

 

「道具という物は主人を選びます。これ! という木を皆さんも選んでみてください」

「……この杖の材料、なんだか私に選んで欲しそう! これかな?」


 そう言って各々に木を掴む。

 が、俺はどれもただの大きな太い枝にしか見えない。

 俺は基本的に工場大量生産品しか信用しないからワンオフとかピーキーな物は嫌う。


 だが、怪しまれるのもアレなので適当に選んだ。


 クレパスが用意した魔法が封じられているナイフで木を削っていく。怪我をしないように配慮されているらしい。

 さて、ここまでくるとクレパスは悪人ではないかもしれない。

 しかし誘拐は大罪だ。どこかのタイミングで俺の身分を明かして、クレパスを説得出来はしないかと考えていた。

 しかし、クレパスは語る。

 歌でも歌うように、とがった耳をピクピクと動かし、少し紅の濃い唇を動かして……


「良い子の皆さん、真の魔法使いとは、生みの親をその力で灰にしてこそです」


 要するに卒業試験として、元の家に戻りクレパスに学んだ力で親族兄弟などを殺めることで卒業の導となるらしい。

 実に素晴らしい宗教である。

 一ミリでもクレパスを善人と考えた俺が浅はかだった。


「クレパス先生」

「どうしましたマオマオ君」


 俺が手を挙げて、クレパスに質問すると優しく俺に耳を傾ける。


「僕は両親がいないのですが、そういう場合は誰を灰にすれば一人前の魔法使いになれるのでしょうか?」

 

 さぁ、なんという? あえてサイコな少年を演じてみる。


「それは……とても悲しいですね。マオマオくんは我が校でも随一の魔法の素質を持っている優秀な生徒です。そんなあなたが卒業の導を得られないなんて先生は我慢できません! であれば、マオマオ君が育った街を炎で彩ましょう! さすればマオマオ君は立派な魔法使いとなるでしょう! 先生の後継者になれるかもしれませんよ? マオマオ君、安心してくださいね! 先生は信じていますよ!」

 


 まぁどこまで行っても考え方は化け物だな。


「なるほど、先生のおかげで安心できました。その気持ちで頑張りたいと思います! でも街を燃やすとなると凄い魔法力が必要になると思います。だから、先生少し手伝ってもらってもいいでしょうか? 先生の魔法の力と一緒なら僕も安心できますし、頑張れると思うのです! それともやっぱりダメですか?」


 クレパスは俺の申し出に優しくうなづいた。

 

 …………俺たちの卒業課題としてボルカニクスという特殊な炎魔法習得が始まる。

 魔女専用の魔法、本来習得不可能なのだ。

 しかし、師匠としてクレパスがいることで理論習得が可能になる。


 中級相当の魔法習得は俺としては棚ぼたラッキーとしか言いようがない、

 


 他の子供達はかなり大変そうだ。そして分かった。

 この子供達はボルカニクスを習得するにまだ達していない。要するにクレパスは刷り込みをしているのだ。


「早くおうちに帰りたいよう!」「魔法を覚えたら帰れるよ!」

「でも、魔法を覚えたら家族や兄弟に園魔法を使わなきゃいけない事わかっているの?」

「分かってるわよ! お父様もお母様もいないマオマオ君は分からないと思うけど、でもそうしないと家に帰れないじゃない! だから魔法を覚えたら、手加減をしてみんな無事になるように魔法を使うんだから! 邪魔しないで!」

「そうだよ! 先生に贔屓されて、家族じゃなくて街を燃やすことで卒業できるマオマオ君は僕らとは違うんだ! ずるいよ! 僕だってパパやママじゃなくて街を燃やしたい!」

 

 かるーく子供の心が壊れ始めているという事は分かる。

 本来卒業できる年というのは随分魔法力も高くなる頃なのだろう。そして精神年齢は今のままであると……

 

 クレパスの思い通りのろくでなし魔法使いの出来上がりである。



「みんなさ、ここから逃げ出そうとかは思わないのかな? そんなにここにいるのが嫌なら逃げちゃえば?」



 みんな俺の言葉に一様に暗い顔を見せる。

 あぁ、家族兄弟は燃やせてもクレパスには逆らえないか。

 これはいじめられっ子の心理に似ている。やり返すことはできないけれど、楽になるのに自殺することはできるみたいなアレである。


 君たちを助けにきた。

 とこの姿で行っても信用されることもないし、もうしばらく子供のままでいるか……

 俺はみんなの反応に頷きながらクレパスが出してくれたおやつのパイとミルクを口につける。

 これは美味い。クレパスは一体普段何をしているんだ? そして一つ発破をかけてみるか…………


「みんなさ、僕の生まれ育った街の事知らないよね? 魔物達の巣窟、闇魔界のアズリたんが住んでる場所だよ」

 

 ガシャン! 遠くでガラスが割れる音が聞こえた。クレパスが俺の話を聞いて動揺したのだろう。

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