モンスターは宵越しの銭は持たない。倒してお金を落とすモンスターは貯蓄リテラシーが高い
「ご主人! レストランを作るのか? それはとても楽しみなのだ! ボクはそこを手伝いたいのだ! 美味しい物を沢山出すのだろう? そこを手伝ってボクは美味しいご馳走をご褒美にいただきたいのだ!」
「お前さんは手伝う事じゃなくて食うことしか考えてない事だけは分かった。とりあえず風呂上がったらちゃんと頭と身体拭けよ! 湯冷めするぞ。風呂入って風邪ひいたとか洒落にならん」
そう言ってガルンの頭にタオルを乗せる。この世界のタオルは魔法の加護がかかっているらしく水を吸う力が強い。
「マスター、水も滴るいい女。我、風呂上がりヴァージョン推参! このままもう一度マスターとあのいかがわしい広いお湯貯めに戻りマスターの情欲の限りを我にぶちまけたいというのであれば、再び戻る事もやぶさかではない。マスターの言う風俗屋台街とやらの構想もそこでじっくりとしっぽりと聞いて、我の超高性能な頭脳にて、最高の売り上げアンサーを答えたり!」
何を言っているの? 風俗屋台街って何? ツッコんだら負けだ。そして俺は真顔でエメスに返した。
「俺が作りたいのは、商店街の一部にフードフェスを開催できるようなフードコートだな。普段はシェフ達のお店の料理を安価に購入して食べ歩きできるような感じで、フードフェスの時は各国から出店料とかもらって自慢の料理を振る舞ってもらう。一番人気のお店には次回出店無料と殿堂入りとかさ」
俺が料理を片手間にそう言うと腸詰をつまみ食いしたアステマが言う。
「何? 主。次は料理人にでもなるつもりなの?」
「お前さんは本当に話を聞かないやつだな。俺はここに色んなお店が集合した商店街を設営するって言っただろ? 正直、こんな場所にまで買い物にくるという感覚がこの世界の人にはないと思う。だから付加価値だ。さっきまでお前らが楽しんでた銭湯もそうだ。ここにくればあの風呂に入れる。美味いものも安価に食べれる。休暇時の息抜きに誰しもが来れる」
「へぇ、遊び楽しむ為の街なのね」
微妙に物分かりがいいのがなんともイラつくな。
「マスターはここにマオマオ帝国を築きたいとお思いか」
「マオマオ帝国! 魔王の国なのだ!」
ミリも合ってないけどまぁいいや。むしろこの世界の人間でもわからない事をモンスターに理解させる方が難しいか。
「まぁ、俺たちで新しい経済圏を作るという意味では多分国だし、ここは俺たちの拠点、城にはなるな。まぁそんな感じで盛り上げていきたいわけよ」
なんか言ってて怪しいセミナーの主催者みたいになっちったな。
「やっぱし! ご主人! 魔王になる気なのだな! ボクはご主人のその言葉を待っていたのだ! この何もいない虚の森からご主人の魔王の栄光のロードが始まるのだ! 僕の願いが叶ったのだ! そしてこの虚の森を拠点に、各地を平定していくのだ! ……アズリたん様は……友達なので同盟のままでいいのだ! ボクはご主人の為ならなんでもするのだ!」
うん、気が早い子だなぁ……まぁ俺は魔王にはなりませんけどね。
「主……本当に魔王種になるつもり? な、なら……主が魔王になったらその影響でアークデーモン……いいえ、セイタンクラスに……主、私いいと思うわ!」
うん、ここにも話を聞かない子が一人。
「ふふ、我直感したり! マスターがこの一帯を治めたとき、そこは酒池肉林の欲望の具現化となりえたり、人間はその性に溺れ、マスターにのみ与えられし快楽に身を任せ滅びの道を歩むとその足音が聞こえたり、我はそんなマスターの崇高な理想に従うのみ」
「お前さんは本当に俺がそんな世界を作るとでも思っているのか? そろそろ妄想の世界から戻ってこい」
「妄想の世界では我、マスターに常時辱められたり」
誰か、この可哀想なゴーレムをどうにかしてください……
妄想を形にするという事は商売において強みでもある。
だが、このゴーレムの考える妄想を形にしたとすれば、もうそこは商店街ではない。異世界歌舞伎町の出来上がりだ。
きっと異世界にもそういう風俗街はあるだろう。だが、エメスの考えるそれが実現したらある意味でこの世界の一部レベルをぶち上げてしまう。
「お前さんの妄想は俺も想像すらできない世界が広がっているのだろう。まぁお前が別世界に転移でもしたらその夢叶えてくれや!」
「ふふっ、マスター。面白い事を言う。我を別世界に配置し、そこを我が野望にて制圧……流石マスター。その命が降る日楽しみにしている」
一人で何かに備えているエメスさんはそのまま放っておこう。きっと高性能な頭脳を世界一くだらないことに使う演算をしているのだろう。実に可哀想な子だ。
実はやる事は色々あるのだ。
教会を立てて、宗教関係者、困った事にカルト教団のファナリル聖教会と契約してしまったが、ミントさんに任せる交渉。
プレオープンに呼ぶ人々、その中には南の魔王アズリたんもいる。それらへの招待状作成。
さらに言えば、ここで販売する商品の運搬や製品の品質保証などなど……
しかしこいつらにそんな話をしても無駄であろう。
「ねぇ、主。それはそうと、ここでお店を開くなら、加護に関してはどうするのかしら? 私たちはアズリたん様の加護があるけど、あんなの人間には意味ないわよ」
「精霊の加護ってやつか、物が長期間腐らないとか、武器が能力以上の性能を発揮するとかってやつだな……そもそも精霊と魔物の違いって何?」
俺の質問に関して、三人が顔を見合わせる。そして俺に笑顔でサァとジェスチャーした。
段々わかってきたんだけど、この世界。なんとなくでお互いがお互いを嫌悪しているところがある。元をさぐれば、同じ種に行き着くんじゃないんだろうな。
「まぁいいや。スラちゃんとホブさんに買い出し頼んであるから戻ってきたら一旦俺らも街にいくぞ」
街に行くと聞いてガルンにアステマが嬉しそうな顔をする。デパートに行くくらいの感覚なんだろう。とりあえず釘を刺すか。
「お菓子とかは買わないからな」
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「ご主人! あっち! あっちに甘い瑞々しい果実があるのだ!」
「主、あの宝石綺麗よ! 私に似合うと思うの!」
モンスター達は貨幣経済に触れ、俺にたかるようになりました。
「お前達には、週に1000ガルド一月で4000ガルドの給料を支払っているだろ? それでやりくりしろって何度言ったらわかるんだ? 給料を与えるとその日の内に散財しやがって、江戸っ子か! 今日はギルドに行ってミントさんと教会の件の交渉。そしてクルシュナさんに金属加工依頼していた物の受け取りと支払いだ。あと、いいかげんまともな加護について調べないといけないからそれもついで調べて必要な事が終われば虚の森に戻って作業再開だ。スラちゃんとホブさんなんか衣食住があるから金はいらないって言うから全額二人分別々に貯金してるってのに……なんなん? どうしてこうモンスターなのに違うんだろう。俺にはモンスターの生態が分からないよっ!」
ダメな子程可愛いという格言があるが、俺には分からない。できる子の方がいいじゃないか……
「もう馬鹿ね主。私たちとスラちゃんにホブさんは違う魔物じゃない! 私達が同じなわけないでしょ? この前、街で歌っていた人間の娘が言ってたわよ。みんなちがってみんな良いってね! 良い言葉じゃない! 私はそう思うわ」
腰に手を当ててふふん。私良いこと言ったでしょ? 感を出しながら、アステマは手を後ろに回してスキップ。ギルドに入るとガルンが元気よく挨拶した。
「こんにちわなのだ! ご主人とボク達参上なのだぁ!」
ガルンの元気さはギルドの殺伐とした雰囲気を和ませる。
「おっ、ガルンの嬢ちゃん。今日も元気だな! 蜂蜜飲むか?」
強面な冒険者から蜂蜜をご馳走してもらうガルンとアステマ。
一応物を貰ったらお礼を言うように言っている。一応アステマもお高く止まりながらもお礼を言ったようだ。
さて、俺は仕事。
「ミントさん、この前の件なんですが、一応見積もりとって見たのでご確認いただけますか?」
「マオマオさん。一プリーストの私が教会の責任者……良いのでしょうか?」
本来あの教会で司祭をやりたがっていたモーリスの旦那は何故かあれから一切の連絡を取ってこない。その為、一旦教会の管理者にミントさんを推薦した。というか彼女を冒険に連れていきたくない俺や他冒険者達の意見は一致した。
要するに適材適所だ。ミントさんは教会で懺悔というか占いというかを行なってもらえばいい。
「もちろん、教会管理費を除いた収益はミントさんの稼ぎです」
「これは確かに今後の冒険費用を稼ぐのには良いのですが……私で大丈夫ですか?」
魔物相手でない時は異様な程に自信がないミントさん。
商店街が盛り上がってきたら教会の人員も増やしていく事。
まだオープン前なので今回はその意思確認であるという事。
ミントさんは少しばかりこの件を引き取ってまた返答したいという事。
「えぇ、じっくり考えてもらって結構ですよ。できれプレオープン前までにはお返事ください」
「は、はい! ありがとうございます! 私、聖女様になりたいので教会でのお仕事も経験しないといけないと思ってたんですが、いきなり責任者だなんて、驚いちゃって」
物腰は柔らかく、占いの実力は本物である。それ故教会で諭す側の方がこの前のような問題は起きないだろう。
適材適所であり、俺たちの商店街で揉め事が起きれば俺たちがすぐにフォローもできるしウィンウィンだ。
「では、マオマオさん。また後日こちらで、ご返答いたします……私は教会業務も覚えたいとは思うのですが、もう少し冒険者としての経験も積みたいと思っているのですが、中々パーティーに参加させてくれる方がいらっしゃなくて困っています。マオマオさんはギルドの依頼とかは?」
あわよくば俺たちの仕事についてきそうなミントさんにギルド依頼はないというジェスチャーを見せる。
さて、次はギルド内の食堂で働いているクルシュナさんの依頼なのだが……
俺を見るや否やクルシュナさんは動揺する。
ソワソワと、周りのウェイトレス達に背中を押され……
「……っま……マオマオ。早いな! も、もうそんな時間か? あと少しで仕事が終わるので何か頼んでまっていて……くれ……十分、いや十五分待て」
クルシュナさんはそう言って奥に下がっていく。
「マスター、あの獣人のシーフから巨大な雌の匂いを我感じたり、あれはマスターに対して欲情をしている表情とそしてフェロモンを分泌していると分析したり……獣人の分際で生意気であると宣言す」
エメスさんは何を言っているのかな……
「おい、流石にこういう場所で下品なジョークはやめろ。ただでさえお前さんの発言で俺は今まで大分被害を被っているんだからな! 少しは自重しろ! そして今回はクルシュナさんまで巻き込むな!」
最悪俺だけの風評なら……よくないけどね。
今回は仕事の依頼主であるクルシュナさんに謂れのない迷惑がかかりそうなので俺は注意した。
「おい、マオマオ。待たせたな……。その、新しく服を買ってな。まぁ安かったから……普段とは違う感じの服もたまには悪くないと思ってな。まぁ参考程度に聞きたいが……マオマオ的にはこういう服はどう思う?」
「とてもお似合いです。可愛いと言うと失礼かもしれませんが、とっても可愛いですよ」
大きなリボンに女の子女の子した令嬢のような格好。普段のクルシュナさんとは違い本当に可愛らしいと思う。
「そ、そうか……私としてはまぁ……気に入ってもいるからな……うん、マオマオが好きな服装の傾向なのか? いや、お前は商売人だからな……流行を知っておこうかとな……これなら店に出るのもやぶさかではあるまい」
うん、好意を持ってくれるという事は俺も男なので悪い気はしないんです。
ただ、酔っ払って業務に携わる部分の助力をお願いしたハズが……
押しかけ女房的な事をクルシュナさんはお考えのようだ。
「クルシュナさん、とても素敵な私服ですが、今回はこの前お話をしていた金属加工で作っていただきたい件についてなんです。今後も定期的にご依頼をさせていただきますので……できればシーフは続けて頂ければなと」
「あっ! そうだったな。少し、嫁ぐのは早すぎたか、マオマオ。望みの品は運送屋を経由で虚の森に送っている」
クルシュナさん、なんか嫁ぐとかなんとか言ってたけど、とりあえず聞こえなかったという事でスルーしよう。
もう一つ先輩冒険者でもあるクルシュナさんに聞いておきたいことがあったのだ。
「クルシュナさん、一つお聞きしたいのですが、クルシュナさんの作る金属細工の加護ってどのようにして付与しているんでしょうか?」
「あぁ、そんな事か。それは東の精霊王に謁見して、精霊の加護取り付けの依頼をして契約のルーンを貰えば良いんだ。当然、少しばかりの対価の支払いはあるが、基本的には融通を聞いてくれるハズだ。東の精霊王は話の分かる王だからな、ティルナノへの道筋を教えてやろう」
クルシュナさんに教えてもらい俺たちは精霊王の住まう土地を目指す事になる。
魔物であるガルンにアステマ、エメスを連れて精霊王の土地に入るわけにはいかないので、スペンス達に護衛を依頼した。
人間には寛容であるという精霊達。
俺は少しばかり商店街のプレオープンを前にして焦っていたのかもしれない。商品の加護とノビスの街との道路工事
それらを同時に解決できるのが精霊達による加護やらによるところであり、確かに欲しい。
俺はこの時、大きな選択間違いをしていた事を後になって気づく。
「スペンスさん、今回の護衛任務。うまく行けば倍払いますので確実にティルナノまで俺を無事に届けてくださいね。今回はモン娘の三人がいませんので強力な魔物と交戦する事になったらすぐに逃げましょう。まぁモン娘もミントさんもいないので大丈夫だと思いますけど」
俺たちは笑って山を登っては降った。
予定通りの時間でキャンプを張った。火の番も俺たちだけで回せば実に効率が良かった。魔物を検知したら遠回りし、ショートカットできそうなら行う。
速い馬車を借りて数日。空を飛ぶ魔物のライダーに乗せてもらい数日。
計片道二週間くらいの時間を費やして俺たちは東の領土に入る。
国境はどうなっているのか? それは魔法によって不法侵入を防いでいるらしい。俺たちはちゃんと入国許可を取ってあるので障壁魔法は俺たちを歓迎するように開いた。




