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日本はお風呂大国で僕は365日お風呂に入ってきた。だから僕は銭湯を作る事にした

 自室でコーヒーを飲む。窓の外の天気に一喜一憂できる。これほど幸せな事はない。

 商店街開店まであと僅か、異世界生活どクソ法で飛ばされてもう三ヶ月。

 

 とりあえず事務所兼住処を手に入れた事は大きい。宿代がかからない。

 スラちゃんとホブさんの統率の取れた農作部隊によって、穀物や野菜の栽培。

 下水設備まで完成した。ゴブリンとスライムにはもう足を向けて眠れない。

 個人的なスキルの使用回数は十五回に増え、攻撃を三種類、補助を五種類増やした。ユニオンスキルのおかげで随分スキルは強化されている。

 仕入れ先、卸先、利害関係の合致した冒険者達。


 案外異世界でも俺はまともにやっていけているという事に自分自身驚いているところがある。わずかばかりだが貯金も少し始めた。

 そう、少ししか貯金できない理由は商店街創設メンバーの三馬鹿だ。


 トラブルメイカーという言葉を最初に使った人を尊敬したい。


 果物農家との取引にガルンを連れて行けば、害獣用トラップに引っかかり暴れて収穫物をダメにしてくれた。当然弁償費用を出すハメになる。

 

 香水の試作品を作る為にお花屋さんを雇い、工場を借りて試験運用をした時、アステマが苦手な匂いがすると魔法をぶっ放してくれた事で以下略。

 エメスは悉く、取引先の相手に無礼な物言い……そして話せないよ! な内容で……もう嫌になるね!

 

 

「輸送部隊が来るまでに俺たちはサンドワームを追い出すぞ!」


 そして本日、念願の風呂、もとい大衆浴場。

 銭湯を作る為の材質、鉱物や木材を考えていたのだが……大理石があるんですわ。

 ただ魔物の住処なんですけど……


「巨大なミミズ如き、私の魔法にかかれば一撃よ!」


 そう、アステマさん。その一撃で君はどれだけの経営損失を出してくれたのか考えた事はあるだろうか?


「アステマ、住処の石は壊すなよ!」

 

 この大衆浴場を作る計画は収益はもちろんの事。個人的に重大タスクなのだ。狭い浴槽にぬるいお湯。今使用している簡易風呂じゃ疲れが取れない。


「マスター! 大きな浴槽でソーププレイをご所望か! 我、奮闘せり!」


 エメスの言う事は無視しよう。でも大理石を壊さずに奮闘してくれる事は期待する。


「あの芋虫。ご主人の欲しい石を寝ぐらにしているんだな! ボクに任せるのだ! あんな芋虫如き、ボクの敵じゃないのだぁ! わーはっはっは!」

 

 止めても無駄だろうガルンが巨大なワームに喧嘩を売る。

 レベルという概念で能力を測れるのは元々開発にいた俺にはありがたい。

 平均レベル18 ※エメスはゴーレムの為、常にレベル1の為数には入れていない

 

「じゃあこれからオーダーだ。アステマは氷系の魔法でサンドワームを萎縮、或いは追い払え。全滅させる必要はないぞ! 俺たちの目的はあくまで大理石を回収する事。元々はサンドワームの住処だから話し合いができればいいんだが、こいつら喋れる程の知性はないから致し方なしだ。あらかた追い払ったら輸送部隊の到着を待つ。そして輸送部隊がきたらそいつらの護衛業務に変更。ゴブリン達に手伝ってもらうのが一番なんだが、大型の馬車や牛車を持っている輸送会社に手伝ってもらうのがベストだろう。くれぐれも粗相のないようにな!」


 さてと、枢木さんと同盟になって手に入れたユニオンスキル、群れのボスを発動する。

 ワラワラ群れを生す系の魔物や動物、昆虫系にある程度の抑止力を見せる。

 何故なら……今回のサンドワーム、危険度は★4。普通に戦えばかなりキツいモンスターなのだ。


「なんというか、ゲームにおける裏技使っている気持ちだ。と言っても危険な魔物だ。できる限り固まって対処に当たるぞ!」


 サンドワームというくらいだ。

 本来は砂漠のような場所に住まう魔物なのだが、鉱物発掘で奴等の住む砂が大分減ったらしい。そして岩場の中で生きていけるように独自進化を遂げた種だとか……もうそれはストーンワームなのでは?


 このサンドワーム、物理攻撃や炎の魔法などへの耐性が強い。一方、水や氷なのど属性への耐性は弱い。アステマはあらかたの属性が使えるので、これはクリアだ。

 物理勢の二人も俺の強化バフがある。

 

 エメスがサンドワームを殴った。

 サンドワーム達は住処に餌兼、脅威が来たと集まってくる。

 ガルンの頭に手を置いて全体強化のユニオンスキル。


 そう、ここまでは普段に比べていい感じじゃね? とか思っていた俺がいた。こういう状況を見て一人無意味にテンションを上げるデーモンを忘れていたのだ。

 ウチのパーティーは決して強くない。というか弱い。特に強い相手には頗る弱く。勝てそうな相手には異常なくらいに調子に乗るのである。

 アステマは使うな! と言っているような超特大の全体攻撃魔法を詠唱し始めている。俺のユニオンスキルで強化されているというのに、つい最近覚えた上級氷結魔法を試したくて、試したくて仕方がいのだろう……。

 

 サンドワームを恐らくは倒せるだけの破壊力のある呪文なんだろう。しかし、今回のミッションはサンドワーム討伐ではない。

 何度も言うようだが、大理石を持ち帰る事である。

 出鱈目みたいな魔法で粉々にされたら目も当てられない。


 俺は完全に自分の世界に入り、それでいて限界ギリギリまで魔法力を高め冷や汗を流しているアテスマにゆっくりと近づく。

 そして、アステマに優しく微笑んだ。

 そう、アステマ、それは違うよ! 今必要なのはお前さんの広域の氷結魔法だよ! と。

 アステマは俺のその反応を見て目を丸くすると、何かを理解したかのように俺に応えるように魔法力をさらに高める。

 以心伝心って言葉は嘘だなって俺は思った。


「おいアステマ、もし、その魔法ぶっ放して大理石が壊れたら、お前、パティーどころかユニオンから追い出すからな?」


 今までの粗相は全て水に流してやってもいいだろう。だが、快適な風呂を邪魔されたらそうは行かない。

 

 俺は温泉施設や銭湯などが大好きなのだ。元々一人暮らしでも部屋の風呂は使わずに近くの温泉施設に通うくらいには……

 

 人工物ではない、天然自然の大理石で作った浴槽だ。

 どれだけ気持ちいいのか想像すらつかない。異世界に来て贅沢なんてしたことがない唯一の俺の望みと言っても過言ではない。

 俺の風呂の恨みは怖いぞ! という警告に下唇を噛むアステマ。

 

「主! そんなつんけんしないでよ! 私の至高の魔法を見たらそうも言わなくなるわよ! これからも私がいないとダメなんだからっ! って主に思わせてあげる! ふふん! 主は幸せ者よ! こんな美少女グレーターデーモンがいつでも上級魔法を使ってくれるなんて中々ないんだからっ!」 


 知らねーよ! こいつの自分至上主義はいつもの事だが、俺がワーイ! 可愛いアステマちんにすごい魔法使ってもらっちゃったよぉ! とか言って喜ぶと本気で思ってるのか?


「やめろ」

「主、一回だけ! 見たらすごいから! ここいら一体が……」

「や・め・ろ!」

「うぅ……主ぃ! そんな顔で睨まないで! 私だって使いたいんだもん! コキュートス・アルゴン!」

 

 やりやがった。やんなって言ったのに……やりやがった。

 エメスがやれやれ! と言う顔でガルンを抱えてその場から緊急高速回避、物凄い硬度の氷の塊が空よりサンドワーム達を貫く。


 酷い事をしやがる。アメリカ空軍の兵器にこう言うのがあった気がするけど、無差別系の攻撃は非人道的過ぎるのを目の当たりにした。

 

 そう、サンドワーム達は逃げることも叶わず貫かれ、生命力は強いが、その冷たさに次々に絶命を余儀なくされていく。


「どう? 主みた? どう!」

「……お前っ……」

 

 もし、サンドワームだけ丁寧に全滅させていたら俺は声も出なかったろう

 当然の如く、予想通りにアステマの超強化された魔法はサンドワームごと、大理石を粉々に砕いていった。

 それを目の当たりにしているのに、アステマは腰に手を当てて高笑い。


「お前もしかして馬鹿なの? いや、馬鹿だもんな。そんな事分からないよね? 俺言ったよね? 大理石を壊したら、お前には出ていってもらうって? うん、まぁいいや。もう出ていってくれるなら今回の件はもういいわ。さようならアステマ。またどこかで」

「ちょっと、主……冗談よね? いつもの冗談なのよね? 主が私に骨抜きにされた主が私を捨てるなんて冗談でしょ? なんか言ってよ……ねぇ! あーるーじ! もう、ちょっと石を粉々にしただけじゃない! そんなんで追い出すなんて、私……うっ……うっ」


 あっ、泣き出した。腹立つわ。こいつ自分が泣いたら俺が許すという事を学習したんだな……まぁいいや。


「うん、そういうのいいから、もうお前とか泣いても許さないから、じゃあ達者でな。グレーターデーモンさん」


 俺はもうアステマを相手にしないスタンスでそっぽを向いているとアステマは地団駄を踏んで憤慨する。

 もう今回ばかりは俺も堪忍袋の緒が切れた。ちょっとアステマは我慢する事を覚えさせよう。

 なんというか、怒られて襖に放り込まれる子供とその親の関係のようだ。アステマはどうしたらいいのか分からないと言ったところか。


 まずはごめんなさい一つも言えない十七歳くらいの女の子とかどうなん? 

 最悪じゃねぇか……


「ガルン、エメス。はよウチ帰って飯にでもしようぜ、今日はシェフに教えたシュウマイ弁当だ。うんまいぞ!」


 俺がわざとらしくそういうとアステマはへの字に口を尖らせる。


「あーるーじ! わーたーしーも! どうしてそんなに意地悪するのぉ? もしかして主、私の事好きなんでしょ! だからでしょ!」

「お前凄いね! どうしてそんなプラス思考なん?」

「だって、主が私にだけ意地悪じゃない……人間の雄は好きな女の子に嫌がらせをするんでしょ」

「悪戯な……嫌がらせしたら嫌われるだろ……だが、俺はお前に好意を持ってるわけじゃない。ごめんな」

 

 とりあえず遠回しに拒否してみる。

 アステマは地団駄を踏んでなんとか俺に許しをもらおうとするが、どうしてごめんなさいできないんでしょうねこの娘。

 

 無駄に魔法を使えるようになったらすぐに使いたがる。ナイフを持ったら刺したくなるみたいなもんか……学校教育って割と正しいのな。



「も、もういいもん! 主のわからずや! 雷の上級魔法を使ってやるんだから! もうやめろって言ってもやめないんだから!」


 アステマはそう言うと自暴自棄になって、滅びの雷なる魔法を解き放った。それは粉々になった大理石をさらに撃ち抜いた。

 ちなみに、さっきの氷の呪文の時も俺はやめろと二回言ったハズだがやめなかった事は忘れているんだろうか?


「マスター、我アステマの放った魔法の付近から高純度の鉱物確認したり」



 そう、これを奇跡と言わずしてなんと言うのだろう? アステマが破壊し尽くしたさらに下の層に綺麗な大理石の塊である。

 未だちゃんと理解していないアステマは半泣きでペタンと座り込んできるが、段々と状況を掴み始めたらしい。


 アステマお得意の腰に手を当ててふふんである。俺が必要としている大理石を当初予定していた量よりも多く持ち帰ることができるのだ。丁度輸送部隊も到着し、大理石を切り出して運び始める。


 こういう、偶然のラッキーのと言うものは本来笑い合えるものなんだと俺は思うが、今回に限り正直迷惑なラッキーであると思う。アステマを反省させれない。が、だがだ! 大きな浴槽が作れることでよしとしよう。

 

 アステマはお咎めなしになったという事をいち早く理解したようだが、俺は彼女の給料のお金とご褒美であるアステマの好物砂糖を配給を大幅に減らしてやろうと思った。

 

 まぁなんにせよ今回の仕事。

 大理石を虚の森跡に持ち帰るは成功を見せた。

 虚の森後に戻ったら大理石の加工という力仕事が待っている。


 うん、そうだ。アステマには力仕事を思いっきりやらせよう。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 大理石採取から五日、俺たちは街には行かずにせっせと大理石の加工を行なった。もちろんアステマには無意味に力仕事をさせる。

 

 グレーターデーモンになったとはいえ、アステマは非力だ。

 ゼェゼェ、はぁはぁとくたびれながら、文句を垂れながらなんとか仕事を終えたことで今回の件は水に流してやろう。

 エメスとガルンは流石にケロっとしている。脳筋系モンスターとロボ系モンスターはすげぇな。

 

「もう主、つーかーれーたぁ! 私の美しい手がパンパンよ! 足も、ほら!」


 喚いて疲れたと言っている間は大丈夫だとどこかの居酒屋の社長が言ってたなぁ。

 まぁ後々問題になったけどな。


「お疲れさん! まぁ今回はよく頑張ったな。エメスとガルンもな! という事でお前達に一番風呂を譲ってやろう!」

「何? こんな石で作った巨大な棺桶にお湯を入れて浸かるの? 何その黒ミサみたいな儀式……主、私達でダシを取る気?」

 

 エメスがニヤニヤしているので、またいらん事を考えているのだろう。

 まぁ、美少女の浸かったお湯を販売し一攫千金を稼ぐ事を考えたり! とかくだらん事だろう。

 しかし、一部のマニアには売れそうだから困ったものだ。一番風呂の有り難みを知らんとはモン娘共め……


「今回は魔法で温めたお湯にベコポンの皮を浮かべただけのゆず湯もどきだけど、疲れが取れるから入ってみ。俺は飯の準備してるよ」

 

 俺の言葉にアステマはじとっと俺を見つめ、そして昭和的な事を言ってきた。

 

「ふ、服を脱いで全裸で匂いをつけたお湯に浸かるなんて……そんな無防備な、あ、主。ご飯作るとか言って覗くつもりじゃないでしょうね!」


 うん、俺がさ、十代のなんも考えていないアホガキ転移者とかだったらそういう選択肢もあったかもしれないが、俺は毒の入った果実はつまみ食いしない慎重な大人だ。


「……あぁ、そのつもりじゃねぇから安心しろ。今後この大衆浴場も俺らの売り上げにするからその試作利用だな」


 25メートルプールみたいな広さの大理石の浴場。結構頑張った木で囲まれた建物の中に設営した。

 時間帯によって男湯、女湯を変える。


「とか言って、主。私たちが可愛いからってここでこの前パーティーになった変な人間の男とかに接待とかさせるつもりなんでしょう!」

「エメスが超嬉しそうだからやめろ! いいから入って感想言えよ」


 俺にそう言われ、渋々アステマは風呂に入る。

 振り向き様に「覗かないでよ!」

 覗くかバカタレ! 懐かしいヒロイン像だなお前さんは……

 よくさ、可愛い女の子とキャッハウフフなハーレムものってあるけど、全員地雷だった際疲れしか溜まらない事を俺はレポートに残そうと思う

 

 聞き耳を立てると三人はどうやら大きな浴槽の風呂が気に入ったようだ。ばしゃばしゃと音を立てて楽しんでいる。少し、風呂のマナーも教えないとな。


「よし! 商店街の目玉、巨大大衆浴場も完成したな。あとは……フードコートがいるっしょ! シンガポールの屋台街みたいなんがいいな!」

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