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異世界一ヶ月目のレポート

「お久しぶりです犬神さん」


 俺の前には無表情で何を考えているか分からない巨乳美女。

 だがこいつは性悪の国の職員。そう、俺を異世界送りにした俺の担当。

 クズ原さんである。


「お久しぶりですクズ原さん」

「なんだか、その悪意が篭った感じ心地いいですねぇ。それにしても一ヶ月問題なく異世界での生活に順応できているようですねぇ」

「順応はできているかも知れませんけど、問題だらけですけどね」


 まぁ生活基盤はようやくできて来たわけだけど、イレギュラーに関しては想定外すぎる事だらけだ。


「いえ、でも日本にいた頃は腐った魚の目をしていたのに今は生き生きしていますよ! 素晴らしい事です」


 死んだ魚の目だろそこは……いや、俺は案外日本での生活は満喫していた筈、というかクズ原さん何読んでんだ?


「ちょっとそれなんですか?」

「あぁ、これですか? どうぞ見ますか?」

「なになに? 異世界居住者達への面談マニュアル」


 ・第一にとりあえず異世界でも問題なく生活できていると褒めましょう。

 ・第ニにとりあえず異世界に行ってから顔つき変わりましたねと褒めましょう。

 ・第三にとりあえず地球のお土産を渡して機嫌をとりましょう

 

「犬神さん、これつまらない物ですが……まぁ、つまらないと言ってもかなり高価な物を見繕っていますので」

 

 クズ原さんのヤバさとムカつき具合に比べるとあのもん娘達ですらマシに見えてくるのほんとヤバいな。

 いやしかし、このマニュアルよ。


 ・第四にとりあえずレポートを受け取って何か褒めましょう。褒めるところがなければ苦労していますね? でもいい顔していますよ! とお茶を濁してください。

 

「犬神さん、そろそろ一ヶ月目のレポートいただけますか? この時代にあのクソアナログなレポート用紙渡してましたよね?」

「えぇ、はいはい。あのクソアナログなレポート用紙ですよね。日本の政治家って携帯一つ使えないからこんな非効率な物作るのにコスト使ってるんですかね?」

「いえ違います。その非効率な物を作らせる事で各種関係者に仕事を渡して回り回って自分の懐にお金を入れる為ですよ。実に賢しい連中ですねはい。まぁあの国では国民は奴隷ですから……まぁマオマオさんにはもう関係のない話ですけどね」


 アンタもその尖兵だろうが、というかこの人、国民の事そんな風に思ってたの? やっぱりクズ原じゃねぇか……

 俺はその無意味に税金を使って作ったであろうレポート用紙の束をクズ原さんに渡した。正直国民を奴隷だとか言う人がまともにこれを読むとは思えないが……


「なるほど、確かに報告の通り、未成年やまだ社会経験が少ない人への異世界居住は無謀とも思えますね! 実にしっかりとした報告書ですよ犬神さん、なるほどなるほど、魔王の襲撃を同盟を組む事で回避ですか……実に素晴らしい! 同じ、日本民族として誇らしい限りですよ!」


 全てが何かを読みながら言っている事が闇を感じるのだが、一応未成年の件に関しては善処してくれそうだ。クズ原さんは俺との会合の為に日時を指定してとある場所に俺を呼び出した。

 そこは仮設住宅が組まれてあり、周囲には銃を持った自衛隊の方だろう。そこで報告会。何かあれば、その場所には何も残さずに撤退できるかららしい。


「では続いては食事でもしながらお話ししましょうか! もしもし、料理の手配をお願いします」


 淡々と物事を進めるクズ原さん。この人、多分仕事だけはめちゃくちゃ効率良いんだろうな。人の気持ちを考えるという事ができないだけで……

 俺とクズ原さんの前に給食みたいなプレートが出され、そこに料理というかレーション的な物が用意された。


「全て持ち運び可能な物ですが味は中々ですよ! ワインも用意しましたので」


 ワインか……ブランデーに続いて俺が好んで飲む酒だ。よく分かってるなクズ原さん、何処かの班長と同じで、人の弱みにつけ込むやり方が実に巧みだ。

 ソムリエのような人が、しっかりと空気に触れさせてワインを注いでくれる。

 正直、ここまで開いたワインを飲むのは久しぶりだ。


「それでは犬神さん異世界生活一ヶ月目のお祝いに」

「俺はこのまま元の家に帰ってもいいんですけどね」

「それは無理です」

 

 乾杯!

 ボルドーかな? 中々美味しい。用意された料理もこのワインに合うような物を見繕ってくれたんだろう。グラスを置くとすぐに入れてくれるソムリエ。

 俺は今一緒に生活をしているもん娘達について少しクズ原さんに話した。頭は少しおかしいが、普通の人間と対して変わらない事。

 それに聞いておきたい事、多分地球人。元北の魔王。シズネ・クロガネについて、


「おや、そのような人物の情報は世界全てのデーターベース上にも見つからないですね……まぁ異世界自体開かれたのが奇跡みたいな物ですから、なんらかの条件が揃って向こうに行ってしまった人もいるでしょう。なんせ、昔行方不明として処理されたオーストラリアの男性が異世界にて生存確認された事例がありますから」

 

 あるんかい!

 シズネ・クロガネについては行方不明者かもしれないのでクズ原さんは調べてくれるとの事だ。中々美味しいディナーをご馳走になった後、クズ原さんは上品に口元を拭き、続いての話を始めた。


「犬神さん、この素晴らしい資料ありがとうございました。それでは続いて、写真撮影など行わせていただいてもよろしいでしょうか? 一ヶ月目の生存確認ですね。五年生存まで基本的に行わせていただいております」


 なんか、病気の生存率みたいな言い方やめてくれないかな。まぁ、どうとでもしてくれと思って俺は了承。

 すると、どこから連れてきたのか、凄い豪華なローブ的なものを着た爺さんが現れた。


「マリックさん、そこでその男性と握手をお願いします。マオマオさん、そのマリックさんと握手してください。凶悪な顔を少しでも笑顔でお願いしますね」


 凶悪は余計じゃい! 生まれつきこういう顔なんだよ! ほんとクズ原は人の気持ちを考えられないな。仕方なく俺は言われた通り爺さんと握手をする。そこで写真を撮られ、そしてなぜか爺さんと岩の上に座り遠くを見つめている写真。

 というかこの爺さん誰だよ? ほんと、今俺は何をやらされているんだろう? 気がつけば某沈没船の有名なポーズを見ず知らずのおっさんと行わされている。そしてその様子を見てクズ原さんはこれじゃない感を出すと撮影をしない。


 絶対これ意味なかったよな?


 おっさんはクズ原さんじゃない黒服に何やら食べ物やら渡されて手を振って去っていった。

 ちょ、待てよ!


「今のおっさんは一体誰なんです?」

「彼は、北の領土の凄い狭い村の村長さんですよ。こうして我々の協力に惜しみない徳の高い方ですね」

「いや、なんかお土産大量に渡してたじゃないですか!」

「あれは袖の下的なやつです」

「それこそオブラートに包めよマジで!」


 クズ原さんは何かの資料を見比べると頷いた。


「とりあえず第一回の面談はこんなところで終了でいいでしょう。本当に元気そうで良かったです。自分が異世界に送った人は気になる物ですよ」


 おや? 案外、クズ原さんにもまだ人の心が残っていたのかな? クズ原さんは俺にお土産を持たせてくれると、レポートを熟読して一緒にいるもん娘他へも何かお土産を後で送ってくれるらしい。


「本日はお時間を割いていただきありがとうございました。では次は三ヶ月後に!」

「えぇ、クズ原さん、また」

 

 俺は自分の拠点に戻り、異世界に来てからの普段の生活をしていたある日、クズ原からだという大量の荷物が届いた。

 それは、俺の好んで飲む銘柄のブランデーと、皮まで食べられるバナナ、そして高級牛肉缶詰に和三盆。そして、大量の野菜やらの種子、この異世界の土壌用に品種改良した物らしい。試験的に栽培をしてほしいとの事だ。モンスターを大量に雇っているので、食料の足しにしろという事。くれぐれもよそに出さない事だけが注意事項で書かれていた。

 

「まぁ、生態系の問題とか色々なんだろうな。というかウチのゴブリンとスライム達の食料事情も鑑みてくれてるのな……葛原さん、俺のレポートちゃんと読んでくれてるんだ」


 少しばかり、俺は葛原さんという人物を勘違いしていたようだった。

 あかん、少し泣きそうだ。

 んっ? なんだこれ? 俺は最後に一枚のデータが入ったデバイスを見つけた。

 それをパソコンで開いてみると。


『日本での生活では暗い影を落としていた犬神猫々さんがいかにして一ヶ月で巨万の土地と美少女達とハーレムになったのかを追っていきたい! 実録異世界ドキュメンタリー』

 

 は? これはなんだ?

 

『異世界課の職員と会食中に、異世界での成功の秘訣について語る猫々CEO』

 

 異世界に入ってくる地球の人は少ないですから、今が一番チャンスじゃないですかね! 今の僕なら立候補してでも行きたいですよ。

 とか、俺はテロップで話している。ねずみ講の幹部みたいな事を言ってる俺、ちょっと待てヨォ!

 

『異世界の王様とも知り合い、ビジネスに成功する瞬間を我々は捉えた』

 

 あー、あのどっかその辺のおっさん、そういうエキストラか……マジか、いつの間にか詐欺みたいな広告塔に使われている俺。

 

 俺は異様に長いこのクソやらせドキュメンタリーを見るのをやめた。やはり、葛原さんはまんごとないクズである。わざわざこのデータを入れてくるあたりが性格の悪さを醸し出している。

 三ヶ月後に会うのほんと嫌だな、一発くらいぶん殴っていいのだろうか?

 

 俺はどっと疲れたこともあったのだろう。もう一冊、葛原さんが残した葛原さんが出版した本について見落としていたのだ。

 これが、今後ウチのもん娘達に大きな影響を与える事なんて俺は知る由もない。というか、なんで読めるように書かれてるんだよ。

 

 兎にも角にも……

 

「今日も仕事の時間だ」

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