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聖女様来訪、男の人っていつもそうですよね? 

第一章 これにて完結

明日より第二章始まります。

「……な、なんじゃこりゃあ!」

 

 俺たちの商店街拠点。虚の森。

 そこでは蒸発されて、妙な匂いを漂わせているスライム達に怪我を負って倒れているゴブリン達。

 これが人間であれば1日中報道されていてもおかしくない程の大惨事である。とはいえ彼等は俺の従業員兼ユニオン団員である。

 キングスライムちゃんが焦るのもこれを見ればわかる。

 そして俺を見て安堵した表情でくる大柄のナイスガイ。

 誰だ? とは言わない。彼は多分、人間に擬態したホブゴブリン。いや、今はホブゴブリンリーダーさんかな?

 

「マオマオ様ぁ! よくぞお戻りいただいた! この通り、一大事ですぞマオマオ王様!」


 ホブゴブリンリーダーさんは俺のいない間にここを守ってくれていたのか、そしてキングスライムちゃんに報告を……

 こんな愛社精神を持った人、もといモンスター達をこんな目に合わせてくれたのは一体誰じゃい!

 俺は目を凝らす。スライムの壁。

 そして魔法障壁をかけてその何者かと対峙するゴブリンマジシャン達の姿。


「なんだあれ? 凄いキラキラしている。神々しいのか? なんか、真っ白なローブに、金色の鎖を揺らしながら踊るようにスライム達の壁になんらかの魔法を放っている……頭のやばそうな女の子?」


 俺は段々と思い出す。このあたりに金の鎖の聖女がやってきているという事。

 それってさ……南の魔王と同盟組んだ俺がいるからじゃね……でも話せば……


「おお、神よ。我になんという試練をお与えになるのか、ならばその試練、神愛として甘んじて受けましょう。さすれば我に僅かながらの慈悲と奇跡をお与えください。邪な者よ。神の代わりに命ずる。死ね」


 あぁ……ダメだ! すげぇケンカ好きな顔してる。

 黙っていればミステリアス系美少女かもしれない。

 が、今は異常な力を持った俺とは違う主人公級のバトルマニア美少女である。

 

「お、おい! あんた金の鎖の聖女様だろ? ちょっとやめろよ! ここ俺の土地で俺の商店街を作る場所なんですけど? そしてあんたが蹂躙してるのウチの可愛い従業員なんですけど!」


 まずは軽いジョブで、聖女様とやらがどんな反応を見せてくれるのかを探る。できれば話し合いがいい。

…………まぁ予想するに……

 

「お? おぉ! お前か? お前が北の魔王の後継者。死威王だったか? いいじゃねぇか! 殺してやるよ! 神の名の元にチリ一つ残さずにぐちゃぐちゃにしてやる! 神よ! 我に大いなる試練を与えてくれた事を感謝します……はははは! ようやく一匹目の魔王だ。どいつもこいつも私が殺してやる。さぁ神よ。小さき我に無辜の人々を守る退魔の加護を! ゴブリンにスライム。雑魚モンスター殺してもつまんねぇ! やっぱり上級種以上のバケモンじゃないと気がついたら死んでやがるからなぁ……神よ! あなた様の血を私にお分けください! あなたさまのその吐息を私に吹きかけてくださいませ。唯一王たるあなたに、唯一神たるあなたに、我に瞬きの願いと祈りを届けたもう……はははは! 簡単に死ぬなよ? さっさと力よこせよ神。いくぜ? 死威王ぉおおお!」

 

 あっ、この子。だいぶヤバい子だ。なんというか、似ている子を知っているなぁと思ったけど考えない事にしよう。確かその子は聖女になりたいとかなんとか言ってたけど……

 

「……マスター。あの人間。とんでもない魔法質量を検知。危険度はあの南の魔王に匹敵すると考えてよし……推定全滅確率75%。マスター、せめて我に子を宿して消滅したいと宣言す」

「……ふ、ふん。聖職者ね……中々の魔法力じゃない。私がちょっと負けてるくらいね」

「こ、怖いのだ……ご主人……」


 だめだこりゃ、ウチの若い衆は弱い者には強くて、強い者には心底ビビりやがる。

 

 えぇ……聖女様。

 恐らくはポーションと思われる回復アイテムを袋に入れて吸っております。

 不良がアンパン吸うように……そして、なんらかの薬草。回復アイテムと思われるものを紙に巻いて火の魔法を使って煙を吸っております。そう……世界によっては合法的な何かを吸うように……吸うたんびにけしからん胸が上下する。


 それより気になるのが一吸いする事にヤバい薬でもやっているかのような顔をして恍惚な表情を見せる聖女様。

 俺は念のために彼女のステータスを測ろうとスマホアプリを起動してみたのだが“測定不能です。犬神猫々様、今すぐに逃げてください“

 エメスの判断はほぼ間違いないらしい。まぁ、逆立ちしても勝てない系のチートDQN娘か。



 さてと、俺は手持ちの駒でこのDQN娘と戦う方法を考えた。まずはいつもの同じみ呪いのアイテム。ヘカトンケイルさん。

 

 ひゅぅ! ズドンと俺の前に回転しながらそれは落ちてきた。アズリたんはビビらなかったが……

 

 半目でどんな反応しているか確認してみると……ギラギラとした目で、新しいスイーツ見つけた頭悪そうな渋谷J Kみたいに嬉しそうだ。


「おいおいおいお! 魔神器じゃねぇか、いいね、いいねぇえええ!」


 あっ、吐き気がしてきた。

 おもしれーはこの子、そして怖ぇえ。

 

「おい、聖女様! この通りだ。お前もタダじゃすまないから帰ってください! お願いします! いや本当に帰って」


 こいつさ、神とか絶対信じてないと思うのね。呪文だから普通に神に願うとか言っているけど……故に慈悲とかないと思うの。

 でも、喧嘩ってのは同じレベルの相手でしか起きないわけだ。俺は紳士的に文化的にこういうDQNを対処する。


 まぁ、法治国家と世界体系があればそれでなんとかなったでしょう。

 聖女様は俺の腹部に思いっきり大砲みたいなパンチを繰り出した。

 

「ひゃっははは! ウルセェ!」

「うぅぁあああ……痛ってぇええ!! 死、死ぬぅ……ひ、ヒール」


 回復魔法を自分で使い俺は1日十回の魔法使用回数を消費する。

 ……ヤベェ、逃げろお前ら……こいつはアズリたんと違って話が通じない。


「我、決意す。マスターにあだ名す神の従僕たる人間と合間見えん! ガイスト機関全能力解放。敵勢力を超強力なモンクファイターと仮定。魔王アズリたん様より、ダークネースアーツインストール」

「お? 中級のゴーレム。悪しき力より生み出された魔導機人かよ……雑魚すぎて相手にならないけど、いいぜぇ! 粉々にしてやるよっ! 神よ。御身を返さずに生まれた哀れな魂に、永遠なる安らかな慈悲と眠りを与えたもう! 死ねぇ! 死ね! 死ねぇええ! クソゴーレムがぁああ!」

 

 エメスはきっと強いのだろう。

 相手が規格外でなければ……

 

「くっ、被弾45……構成素材の崩壊が開始……」

「よく持った方じゃねぇか? クソゴーレム。中級にしては悪くない素材で作られた玩具だなぁオイ? お前あれだろ? 北の魔王に作られたデク人形だ? 違うか? まぁどうでもいいけどなぁ! 化け物はみんな私に消滅させられる運命なんだからよぉ!」


 ヤバいヤバいヤバい! エメスが、壊れ始めてる。そう、もともと壊れている頭ではなくもちろん身体のほうだ。

 

「……ガルン。主を連れて逃げなさい。私の最大魔法をぶつけて時間を稼ぐわ」

「い、嫌なのだ! ボクもあいつをやっつけるのだ! 怖いけど、やっつけるのだぁ!」


 これは逃げるという選択肢を選ぶと、確実に一人ずつ殺られる。雇用主である俺が決断しないとならない。

 

「おい、お前ら。ユニオンスキルを使う。この一人テロリストをぶちのめすぞ! 気張れよ! モンスターだからとか関係なしにこいつはどうしょうもないやばい奴だ! 異世界とか関係ない。話し合いが通じないなら、致し方なしだな」

 

 そう、少しばかり俺はこの力を持ってしまった最強の人というクソ聖女にイラついたのだ。

 今もてる全てのユニオンスキルを持ってこの金の鎖の聖女をぶちのめしてやろうと思った

 

 結論、聖女という存在を俺は舐めていた。

 少しばかり、魔王の加護がある俺たちの方が数の暴力で強いとか勘違いしていた。

 相手は勇者とかと同じで特別な存在だったのだ。体感的にはアズリたんより弱いと思っていたけど……

 ……俺たちの敵う相手ではやはりなかった。

 アステマの結構強い魔法を歯牙にも掛けず、エメスやガルンよりも怪力ときた。



 白いフードから見える薄い青色の髪、そして陶器のような肌。

 目を瞑り手を組んで祈りのポーズ。

 これだけ見れば、まごう事なき聖女様だ。

 が、開眼した時の俺たちというか、ガルン達を絶対殺すマンな表情からはギャップ萌えとは言い難い悪意と殺意を感じる。


 時間はあまりない。

 考えろ! どうすればこのピンチ切り抜けられる?


 あぁ、ダメだ! 異世界きて現在最大の脅威が聖女様!

 そんな対処法、知りませんがな! 変な関西弁になる程焦る俺。

 とはいえ、ユニオンスキルだ! 全員に魔王の加護、全能力向上。そしてスライムとゴブリン達に回復。

 

「ホブさん、スラちゃん。みんなを今の内に!」

 

“ホブゴブリンリーダーに名付け、キンググスライムに名付けが成功しました。ホブゴブリンはゴブリンロード、キングスライムはスライムロードにクラスチェンジが実行されます“


 戦力増強。


 しかし、ホブさんとスラちゃんはガルン達と同じ中級種。

 残念ながら目の前にいる頭のおかしい聖女を名乗る最強の人への決定打になり得ない。

 だが、二人は違った。


 より、いかついガテン系になったホブさんと、より女性らしくなったスラちゃんは聖女に構える。


「……おいおい! お前っ! 化け物を進化させるのか? えぇ! おもしれぇ!」


 バトルマニア、聖女様は喜ぶ。

 今の俺たちでは運動にもならないのだろう。

 

 ガルン、エメス、アステマを下がらせ困ったように笑う二人。

 いや……これダメだろ。完全にホブさんとスラちゃん死ぬ気じゃん! そしてなんでこの二人はこんなにもまともなのか……

 考える必要もない。二人は失ってはならない人材である。

 群れのボススキル、交渉スキル、魔王体系スキル……どうすりゃいい?

 

 ホブさんは立派な剣を、スラちゃんは宝石のついた杖を向けて聖女様に対峙する。


「あはっ!」

 

 聖女様が笑った。

 

 ホブさんは大剣を振り被り、スラちゃんは何やら魔法を詠唱。

 これは……

 努力して頑張る二人に対してチートで無双するの図だ。

 二人はガルン達と同じレベルのモンスターになったわけだが、その三人が手も足も出ない相手。

 

 ドドーン!


 相手はイカれDQNの聖女様。

 ホブさんの大振りの一撃を避けもせずに……。

 新しい玩具を見つけた顔をする。どういう育てられ方をすればそうなるのか俺には皆目検討もつかないが、こいつは本格的にどうすればいい?

 

 ガシッ!

 バキっ!

 パン!


 それは一瞬にして勝負がついてしまった。ホブさんの頑丈そうな大剣を掴んで握り潰し、スラちゃんが放ったおそらく濃硫酸の魔法を手で受け止め、焼け爛れたのも束の間に瞬時に回復。


「はははははははははは! 死ねっ! 死ねぇ!」


 こんな聖女様は嫌だ! そのランキング一位にいそうな目の前のDQN。

 ……………………心から本気で俺は関わり合いになりたくないと思うのだが、このままホブさんとスラちゃんを見殺しにはできない。

 ……さぁ、俺の手持ちのスキルとユニオンスキルでどうしよう。

 俺は聖女様に今処刑されようとしているホブさんとスラちゃんを引っ張る。

 

 ……かーらーの! アズリたんの制圧スキル!


 ぴくっと、一瞬聖女様は止まり後ずさった。そしてその反応に気づいて。


「おい! クソ足、何逃げてんだよぉ! おぃ!」

 

 ヤバいヤバい! 自ら本能的に退いたのに自分の足を殴って怒る聖女様。

 俺を睨みつけ、そしてポーションを取り出すとそれを飲み、落ち着く。

 あれは本当にポーションなんだろうか……


 そして今までタバコにして吹かしていた薬草をそのままバリバリと食べて。


「やってくれるじゃねぇか、死威王ぉおお! 殺してやる! 私を下がらせた、殺してやるぅ!」

 

 自分から下がったのに、なんで俺が悪いみたいになってるんだろう。いや、DQNの思考を考えるのはよそう。


「能力向上スキル、そしてユニオンスキル。魔王の加護、ウィルオーウィプス!」


 そう、あのオーガとかいうモンスターを退治したアズリたんのスキル。

 ガルン、アステマ、エメスの一時的な上位クラスチェンジ。

 そして今回はホブさんとスラちゃんも。

 ゴブリン勇者、アルティメットスライムに。


 上位モンスター五人と司令塔である俺、とりあえずヘカトンケイルを構えてみる。

 恐る恐る見る聖女様は…………うわー! 完全に嬉しそうな顔をしていらっしゃる!

 

 ドン!

 

 地面を蹴って聖女様が突進する。

 それにエメスとガルンが反応した。六対一とか彼女にとっては問題ではないのだろう。


 アステマとスラちゃんは魔法を詠唱。

 そこにイケメンになったホブさんの剣に魔法を落とす。


「シーイー王の土地での無礼、断罪する! 魔法剣!」

「ははははは! ゴミクズみたいなモンスターが粋じゃねぇか! オイ!」


 そう、ダメだった。アークデーモンとかアルティメットスライムとかの魔法じゃ、このイカれ聖女様を止める事はおろか、抑止力にもなりゃしねぇ。なんだよこのクソゲーは……

 

 聖女様はホブさんの魔法剣を軽々と受け止めホブさんを殴り飛ばす。

 トドメは最後の楽しみとでも言うようにアステマとスラちゃんに迫る。

 そんな二人を助けようとエメスにガルン。


「お前達、もういい! 最高レベルの速度強化をかけるから逃げるぞ!」

「逃すかよ! 死威王。こいつらを神の身元に送ったら次はテメェーだ。楽に死ねると思うなよ? 神よ! 浅ましい者に救いの光を……あっはっは!」

 

 ガルンを殴ろうとした聖女様の攻撃をエメスが受け。


「ガルン、マスターを連れて…………我、明日のバナナは食えずと知ったり……マスターのバナナが食べたかった」


 こんなときでも下ネタが言えるエメスに俺は笑わない。

 

「オイ! お前、下手にでてりゃ、なんなんだよ! 聖女なんだろ? 人々を慈悲で救うんじゃねぇのかよ? バケモンじゃねぇか……こんなの」

「あ? バケモン殺してんだから、私も神の言葉に従い、バケモンの気持ちで慈悲を与えてやってんだろーが!」

 

 やっぱりダメだ。普通の話が通じない。こいつは人間でもなければモンスターでもない厄介さだ。


「見りゃわかるだろ! ここにいるモンスターは人に危害を加えない俺の大事な従業員なんだよ! どっか行けよお前っ!」

「モンスターはその存在自体が神に反した悪だ! そしてそれを統率しているお前も断罪対象だっつーの!」


 こいつはダメだ。神の名の下にという大義名分で全く話を聞こうとしない。そして力を振るうのが誰よりも好きだ。

 

 純粋に自分のみが正義だと信じてやまないこいつを説得する術はない。

 ユニオンスキルを目一杯使った俺の切り札も全く持って歯が立たない。どうすりゃいい? 俺のその疑問にアプリが答えた。


“アプリ起動。群の力で足りなければ個の力を解放しましょう。魔王権限ウィルオーウィプスが発動後ですので魔王権限・グラトニーにて収穫が使用可能です“

 

 グラトニーとは、魔物はみんなよく食べる。それで付加価値としてついたスキルなんだろうか?

 いや、収穫とか言ってるけど……


「まぁいいや。どうせやられるななんでも使ってみるか! 魔王権限。グラトニー!」

 

 そう、大食いスキルとはなんなのか?

 それは食事ではなかった。

 

 

 

 アズリたんはモンスターらしく大食らいではあったが、このグラトニースキルがそんな単純なスキルではなかった。

 なんだか俺の体が軽くなり、すこぶる調子がいい。これがグラトニースキルの能力?

 いや、一つ様子がおかしい。

 

「……ご、ご主人。力がへなへななのだぁ……立っていられないのだぁ……ボク達の仇をとってくれなのだぁ〜……」


 それはアステマもエメスも、ホブさんにスラちゃんも元のクラスに戻って物凄いしんどそうだ。

 俺はこの状況が飲み込めた。グラトニーは俺のユニオンの力を吸い上げるではなく食い尽くして俺の能力に変換するスキルらしい。

 要するに魔物達をの力を収穫する、マジカルハント能力。

 

「ははっ! 凄まじい魔法力だな死威王っ! 並の力じゃねぇ! いいぜいいぜ! ファイトしようぜぇ!」

「オイ、金の鎖の聖女様。もういい加減にしろや! こんなはた迷惑な事する奴が聖女でたまるかよ! 女を殴りたいと思ったのはアステマに続いて二人目だ!」

 

 アステマが「えっ?」とか言っているが気にしない。

 

「ようやく魔王級の力とやり合えんだ。恨みっこなしだぜ! 好きなだけ殴ってこいよ! 殺してやる!」

「ほんと話聞かない奴だな。今までどうやって生きてきたんだよ……あぁ、そうやって弱者をいたぶってきたのか……殴られる覚悟があるから尚タチが悪ぃ」


 もういいや、こいつは一発ガツンと教えてやらないと。

 

「ははははは! 聖なる力、聖なる命を清め暖めてきた我が祈り、神よ! 命よ! 生きとし生ける全ての小さき者に神の祝福を! セイクリッド・プロテクション! さぁ、殺す準備が整ったぁ」

「ギャグで言ってんのか? その祝詞の後の汚い言葉……俺も人の事は言えないけど、クソみたいな親に育てられてもまともに税金納めてそれなりに真人間やってきたんだよ。だからお前のは甘えだ! その根性叩き直してやる!」


 俺とDQN聖女はゆっくりと向かい合って進む。身長はアステマくらいか? スタイルが良すぎる、聖女様ってのはそういう面も神様の寵愛でも受けているんだろうか? 頭一個分小さい女の子を今から殴ると言うのに俺はなんだか躊躇する気持ちがない。

 こいつは本当に一回痛い目を見なきゃダメだ。

 

 アプリの計測では、俺は若干聖女様より弱いくらいまでは強化された。

 あとはユニオンスキルがどの程度頑張ってくれるかに限る。


「いくぜぇええええ! 死威王ぉおおお!」


 俺とDQN聖女様との制空権が重なった。聖女様は手癖が悪すぎる。

 速攻で手を出してきた。


「おいおい、なんのつもりだよ死威王! 避けもせずに殴られて……作戦か?」

「ちげーよ。お前に一つだけ教えてやらないといけない事があるからそれを教えてやろうと思ってな?」


 俺の左頬を殴ったDQN聖女様の腕を掴むとそれを引き離す。

 DQN聖女様は初めて自分と対等に渡り合える相手、俺が出てきて驚くかと思いきや。

 嬉々とした表情で目がキラキラと輝いていく。ダメだこりゃ……

 ここまできたら本当にプロのバトルマニアか何かだろう。


「……おい! 死威王っ、女は殴れないとか今更ダセェ事言うつもりじゃねぇだろうな? あぁ?」

「お前さ、間違ってんだよ。俺は北の魔王の後継者でもなければ、お前の言う暴走族のチームみたいな死威王なんて名前じゃねぇんだよ! CEOだっ!」


 俺は思いっきりグーでDQN聖女様を殴ろうとして、瞬間手をチョップに変えてガツンと叩きつけた。

 流石に女の子にグーパンはどうなん? という事と、ビンタはなんか違うだろ! と言う事で間を取ってチョップである。

 

「……かっ……てめぇ、手刀にして暗黒の魔法力を一点集中して聖なるオーラに守られている私に直接物理ダメージ与えやがったのか……そんな器用な事ができる……はん、おもしれぇ! おもしれぇゾォ!」

「えっ? そうなん……まぁいいや、とりあえずチョップはDQN聖女様にダメージ与えれるんだな? お前っ、覚悟しろよ? デコピン、鼻ピン、馬場チョップでKOしてやる!」

「おいおい、それが魔王クラスの力かよ。やるじゃねぇか……ようやく私の金の鎖を解放できる相手がでてきやがった……まだ上があんんだろ? とことんまで殺し合おうぜ!」


 えっ? えぇ……ちょまって……今の俺、多分異世界に来て最強に強い状態。

 当然もう一杯一杯で、なんとか痛み分けでDQN聖女様に帰ってもらおうと思ってたわけですわ……

 聖女様の付けている金の鎖。

 

 ……あれはこのDQN聖女の力を制御する何かだったぁああ!

 ヤベェ、あんなの外されて、まだ二回私は変身残してますとか言われたら俺泣くよ……

 

 ギチギチ……ギチギチ……パキッ……


 DQN聖女様は金色の鎖を無理やり引き剥がそうとしている。

 あぁ、ヤバい……DQN聖女様、そしてガルン達も俺にまだ先があると期待している。

 やめて! 期待しすぎは人を殺すんだよ!


 実はグラトニースキルは常時発動しているらしく俺のユニオンスキル発動はもう殆どできない。俺の固有スキル回数も吸われてあと二回。

 

「オイ! 死威王っ! その耳に付けてる能力封印アイテム外さなくていいのか?」

「これは安物のイヤーカフス……あぁ、そうだな。この前アズリたんと戦って力使い果たしたからなぁ……いやぁ残念っすわ。今でも2割くらいの力で戦ってんすよねぇ……」


 どうだろ? チラ見してみると、悔しがってるDQN聖女様。実は本調子じゃなかった作戦いけるか?

 

 なんかDQN聖女様泣きそうだ! 力の差にビビったのか?

 いや、違う。むしろそうならもっと喜ぶはずだ。

 なんだ? 逆に怖い。


「おいおい! 舐めやがってクソ死威王っ! 私相手に……手加減してただとぉ! ぶち殺してやる! 全力全開で叩き潰してやぅ!」


 うぉおおおお! 逆効果だったぁ! ガルン、アステマ、エメス! ごめん! 全滅だ!


「クソォ! 死なば諸共だぁ! 残りの全魔法力を込めたデコピン! 鼻ピン! ババチョップじゃい!」


 バチんとデコピン、つピンと鼻ピン。そして天地をゆるがる全力チョップでちょっと沈むDQN聖女。

 

 さぁ、あとは煮るなり焼くなり反撃して俺たちを滅ぼせよ!

 クッソ! 異世界に来てここでゲームオーバ。それなりに面白い事もあったかもな……ん?


 何やらDQN聖女様の様子がおかしい。そう、DQN聖女様の足元に転移魔法陣。

 

「オイやめろ! クソ教皇! パフェのクソやろう! これからだろ……クソォ!」

 

 えぇ! 何やらDQN聖女様側になんらかのトラブルが発生したようで、強制的に転移されていきました……た、助かった。小便ちびるかと思ったが、従業員たちがCEOコールしているので、俺は震える手を押さえてラノベ主人公みたいなことを言ってしめてみた。


「やれやれ、厄介な聖女様だったぜ! てか、あいつ誰だったんだ?」 


 2度と来てほしくない聖女様は名も名乗らず去って行った。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「てめっ! テメェ!! パフェ、いいところで何してくれてんだよぉ!」


 この時、DQN聖女様は自分が所属している教会組織に強制的に転移魔法で転移させられていたのだ。

 このDQN聖女様と対等に渡り合える男。

 同じような純白の神官服を着た眼光が異様に鋭い。


「君はファナリル聖教会における最大の広告塔。そして、西の教国であるこのジェノスザインにおける代表。聖女王であるという事。忘れたのかな? 聖女アラモードよ。私たちが信者を増やしている中。君と言うやつは」


 そう、このDQN聖女は、西の聖女王・アラモードだったのだ。


 曰く、人間以外の種族を絶対に認めないカルト教団。

 他宗教を邪教として教え、ファナリル聖教会以外の宗教を絶対に認めない。

 さらに攻撃に特化したプリースト、モンクファイターという名目の破戒僧をかき集め、一国の軍隊に匹敵する戦力を増強し周囲の国家から警戒されている。

 

 だが、当のファナリル聖教会の人間は、世界を救う為の行為として正当化しているとか……


 そのイカれ教会の最高聖職者である聖女王アラモード、そんな彼女と対等に渡り合う教皇パフェ。


「うるせーな! あと少しで北の死威王をぶっ殺せるところだったってのによぉ! 邪魔しやがって、てめーから死ぬか? パフェのクソやろう!」


 両手を上げて降参ポーズの教皇パフェ。


「アラモード。その黄金の神の鎖。引きちぎろうとしただろう? それを外す事はまだ認められない。君が暴走したらそれこそ世界の終わりだ。統率は私だ。策略はサンデー大司教。そしてファナリル聖教会の最終信仰として戦闘能力に君がいる事を忘れるな!」

 

 今すぐにでも噛みつこうとしているアラモードの方に触れる女性。


「おかえりなさいませ聖女様。あのまま北のCEOと戦っていれば聖女様もタダでは済まなかったのでは? これ、ポーションです」


 袋に入ったポーションに口を付けてスーハースーハーと吸うアラモード。


「チッ、サンデー。見てやがったのかよ! クソがっ」


 大司教。教皇、聖女に比べれば一段劣る筈の役職であるサンデーと呼ばれた女性の大司教。

 サンデーはニコニコと笑顔を絶やさない。そしてお茶の準備を始める。古今東西のお茶菓子も用意している。

 そして大きく長いテーブルにゴトンと大きな宝石をいくつも置いていく。それに教皇パフェは驚く。


「それはアモンサファイア。一つで小さな街一つ買えるという宝石をそんなに……サンデー大司教。一体、どこで何をしてきたのだ? いや……サンデーの事だ。素晴らしい策略で我がファナリル聖教会の信徒を増やし、各国との勢力図を変える働きをしていたのだろう」


 教皇パフェがそういうと、サンデー大司祭はにこりと笑う。

 聖女アラモードはポーションが空になると袋をポイと捨てた

 

「どうせ、適当なことを言って他宗教の連中を追い出し、屋敷やらなんやらかんやら奪い取ったんだろ? てめーのやる事なんざ大体わかるんだよ。こんなクソみたいな報告の為に私の戦いを中断させやがって、テメェ死にたいのか? いや、お前らぶち殺せば話は早ぇよな? 私は東南北、そして中央のカスをぶち殺せればそれでいいんだよ! 全員殺したら異世界の魔物とかいうやつを殺しにいく」


 聖女アラモードの言葉を聞いてサンデー大司祭はクスりと笑う。


 …………あ? とアラモードは反応。


「お言葉ですがそれは不可能……かと? 聖女様」


 アラモードは瞳孔を開いてサンデー大司祭に襲い掛かかる。

 

「テメェ、今何つった? いや、いいや殺そう」

「……私に怒りをぶつけ、殺すのは結構ですが……戦って聖女様は気づいたのではありませんか? 中央の勇者、南の魔王、東の精霊王。そして新しい北のCEO。それらと戦うのに聖女様の準備はまだ整ってはいない。金の鎖で縛られた今の聖女様では……のお話ではありますが…………まだ時ではありません」


 聖女アラモードはサンデー大司祭の胸ぐらを掴んでいたが、それを離して舌打ちした。


 そしてサンデー大司祭はアラモードを怒らせるだけではなかった。アラモードにお茶を入れ茶菓子を出して。

 ………そして頭を下げる。自分が下であるという事を示すように。

 その様子を怪訝そうにパフェは見つめる。


「……もうしばしお待ちください。聖女様は単独で北のCEOとそのユニオンと互角でした。もうじき集まる百万のファナリル聖教会の信徒達。それらをユニオンとすれば、聖女様は向かうところ敵なしかと?」

「チッ……私は私一人の力で十分だ」


 しかし、サンデー大司祭はそれにも頷いた。


「えぇ、一勢力であれば聖女様一人でも可能でしょう。ですが、あれらが同盟を組めば……どうでしょうか?」

「南の魔王と死威王かよ?」


 同盟関係にある北と南についてアラモードが尋ねるとサンデーは頷いた。


 今はまだ他の地域と事を荒立てるフェイズではないとサンデーは語る。その時は十分な準備期間をもって遂行されると言うのだ。


「聖女様、貴女は人間側の最後の希望なのです。魔王、精霊王、CEO、そしてあの異常者……勇者王。あんな者達に唯一渡り合えるのは聖女様を置いて他にはおりません」

 

 アラモードはイライラしながら、自分の前で傅く大司教サンデーを据わった目で睨みつける。

 どれだけ怒りをぶつけてもヘラヘラと笑顔を返してくる大司教サンデー。

 

 アラモードが折れた。

 

「チッ、お前を殺すのを少し待ってやるよ。私としてもこの金の鎖を外すのは気に入らねぇ。そのクソ信徒共を使えばこの金の鎖を外した時と同等レベルにまで戦えるんだろうな? 違ったぶち殺すぞ! あぁ?」

「えぇ、百万の信徒です。ユニオンとしては世界最大となります」


 サンデーの話を聞いて、アラモードはしばらくサンデーの目にガンを飛ばす。

 

「チッ…………いいぜ、そのくだらねぇ連中を待ってやる。事が終わったらお前を最初に殺してやるサンデー。そして必ず次は死威王をぶち殺してやる。私に手加減しやがった! ゆるさねぇ! ぶち殺して、何度でも蘇生魔法をかけて、何度でも殺してやる! 絶対に、絶対にゆるさねぇ! あのクソコポルトもクソデーモンもクソゴーレムもみんなぐちゃぐちゃにしてやる! この世界から全てのモンスターを滅ぼしてそんな世界をあのクソ死威王に見せてやる。永遠に、永遠に絶望させてやる……私を私との戦いを穢しやがった……クソが! 私の部屋にポーションありったけもってこい!」

 

 ガシャン!

 そう言ってティーカップを叩き割ってアラモードはそこから去っていく。

 

「西の聖女王様、貴女なら世界を統べれます」

 

 アラモードの背を見て頬を染めてサンデーはそう呟いた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 あのDQN聖女様が戻ってこないだろうなと俺たちはしばらく警戒した。

 

「……みんな、無事で良かった。怪我のある奴は回復班の元へ」


 作りかけの建物をいくらか破壊されたが、まぁまだマシだ。

 壊れたものは作り直せばいい。


「ご主人! ぼ、ボク達のバナナの木が折れているのだ! たくさんあの人間、壊して行ったのだ! ゴブリンもスライムも……ボク達は何もできなかったのだ……ぐすん」

「ガルン、泣くのはよしなさい! あんなの反則でしょ!」

「我、生存していることに驚きを隠せず」

 

「お前ら、クヨクヨすんな! 死者は実質ゼロ、思いの外被害は少ないし拠点は壊れてないだろ? 明日からまた頑張ろうや! 今日はとりあえず街で飯食おうぜ! ホブさんとスラちゃんもな」

 

 まぁ雇用主としてできる事、赤字覚悟の福利厚生発動。


 こうして俺の異世界に来ての一ヶ月は目まぐるしく過ぎていった。

 

 【第一章 完】

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