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とんでもねぇケモーナーが営む追放先輩ブリーダーの異世界牧場物語その④

「震える氷柱に撃ち抜かれなさい! ダイヤモンド・ハープーン!」

「我、マスターの貞操の危機感じたり。マスターの貞操を奪うのは我と……ゴーレム道とは性的にマスターを愛でる事とみつけたり! 故にケダモノは死ネ!」


 なんだか妙なテンションで現れたアステマの氷の魔法を横っ腹に喰らうキリングタイガー。

 それだけではなく、逃げようとしたキリングタイガーにエメスの鉄槌みたいなパンチが叩き込まれた。


 そう、暇すぎてついてきた二人。

 要するに与えていた仕事をほっぽり出してきたのだが、今回に限り許すこととしよう。やばかったし……

 エメスのサーチに引っかかった事でマーシャルタイガースらも逃亡を許さない。いや、帰してやれよ……

 完全にマーシャルタイガーは戦意を喪失している。

 キリングタイガーは今なお、距離をとり反撃の隙を探している。


 キリングタイガーは周囲の状況を確認しながら、咆哮した。

 それはもう、生存を捨て誇りに生きる気高い野生を見た気がした。


 相手はモンスターである。時には同族を殺し、人も殺すのだろう。

 だが……三馬鹿とはいえ、コポルト・ガール、デーモン、魔導機人。

 この三人相手に一歩も引かないその姿を見て……俺は、いやクルルギさんも思ったろう。

 

「も、もう許してやらないか? ここには襲いに来ないだろう」


 なんだろう。同じモンスターのハズなのに、三馬鹿と違ってキリングタイガーはなんか……その……嫌いじゃない。


「……アステマとエメスが来てくれたボクは最強だぞっ! でっかいキリングタイガーといえどもここがベコポンの収穫どきなのだっ! 覚悟するのだっ! キリングタイガー!」

 

 きっと、年貢の納め時的な格言なんだろう……


「当然よ! 主は私がいないと何もできないんだからっ! ふふん。こっそりついてきたけど、何故かいつもより魔法に磨きがかかっているの! アークデーモンもすぐそこね……」


 調子に乗るアステマとガルン。本当にこいつら……まぁいいや。

 

「我、あのケダモノの皮を剥ぎ、毛皮のコートを作りたしと願う! 全裸でコートを羽織るその姿にマスターの息子もウェイクアップ」


 うん、世界一意味不明で無意味なポエムを語りながら、一撃の元にキリングタイガーを屠ろうと無意味な力を溜め込むエメス。


「い、犬神さん……あの子たちを止めて」

 

 クルルギさん、無理です……だってあのもん娘共言葉が話せるだけで疎通ができない魔物ですもの


「いくわよ二人とも、消し炭にするわ!」


 もう睨みつけることしか抵抗ができないキリングタイガー、なんという気高さか……


 俺の思う。いや、日本に住む皆が想像する異世界におけるモンスターのあり方はこうではないだろうか?

 いつ何時命を奪われ、奪うのか……しかし、その一瞬の煌めきの中に人生の美しさを垣間見る。

 俺は思う。こんな三馬鹿どもにキリングタイガーは討伐されてはならないのだ。

 信頼し合った冒険者パーティー達により、ギリギリの命のやり取りの後、ゆっくりとその体躯を倒し、生命を全うする。


「ぜぇいん、気をつけぇいい!」


 俺は大声で叫んだ。ユニーク・スキル。群れのボスを発動。するとマーシャルタイガーもピシッと座る。

 

 ……キリングタイガーは俺を見つめている。

 こいつはもしかすると、俺たち人間から施しを受けるということより、死を選ぶ魔物なのかもしれない。

 されど……クルルギさんはこのキリングタイガーを仲間にするつもりだ。


 ユニオンスキル、ネゴシエートを開始した。

 やはりキリングタイガーは人間の僕になるつもりはない。

 それでも粘り強くクルルギさんはキリングタイガーを諭す。

 僕ではない……仲間に、友達になりたいとそう語った。


 一体何時間経ったのだろうか? 俺はクルルギさんとキリングタイガーに集中できないでいた。

 何故なら、もうこのネゴシエートに飽きて、なんならキリングタイガーを討伐する事も忘れた三馬鹿がチーズとミルクに舌鼓を打って宴会を始めた。

 モースのミルクで作ったパン。それが硬い事にミルクにつけて戻してから食べる事を発見したアステマ。

 それにエメスは世紀の大発見でも見るような表情をする。

 ガルンはそれを見ながら硬いパンにそのまま牙を入れていた。

 

 いやー。すごいわ。目の前でシリアスやってる真横で、びっくりするくらい空気読まない宴会。


 クルルギさんはついにキリングタイガーの首元に触れた。


「あなたに名前をあげます。大牙」


 当然、仲間になった事でキリングタイガーは上級種ジェノサイドタイガーにクラスチェンジ、そして名付けされた事により、超級種虎王にクラスチェンジ。

 巨大な獣は、十七、八の少年。背中に大きな槍を担いでいる。


「クルルギ、これから宜しく頼む。何ぶん人間の常識には疎い、失礼も働くだろう。遠慮なく言ってくれ」

「いいんですよ! 大牙さんが用心棒になってくれれば並の魔物も悪い人も寄り付かないですよ」

「善処する」


 そう言ってクルルギさんは、ケモ耳をしたとても……とてーも礼儀正しい魔物、キリングタイガーもといクラスチェンジした大牙といちゃついていた。


「それに比べて……」

「「「ん?」」」


 食い意地に全振りしているような二人と性欲と食欲しかない一人。


 俺は魔物は変な奴が多いんじゃないという事を知った。まともな奴もいるんだ。そして……俺のところには変な奴ばかり集まってくるんだ……

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